星乙女達の夢の跡   作:護人ベリアス

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正花の垣間見る美神事情

 ライラと輝夜が【フレイヤ・ファミリア】との交渉に臨む裏側で。

 

 アリーゼは引き続き分身達と共に迷宮都市(オラリオ)を見て回り、その目と耳で希望を見出そうと力を尽くしていた。

 

 そんな日々も九日続ける中でアリーゼはとある違和感に対処することに決めた。

 

 その違和感とは誰かの視線を度々感じるということ。

 

 目立つ行いをしている自覚は一応アリーゼにはないし、目立たぬように変装までしているのだから視線を集めることは本来考え難い。

 

 その上その視線は分身にではなくアリーゼ本人にのみ感じられるのである。

 

 …誰かに尾行されている。

 

 そう判断するのにはあまり時間を必要としなかったものの、アリーゼはしばらくその視線の主を放置していた。

 

 情報を集めていると言え当てもなく歩いていることがほとんどなので自らの動向を知られて問題な事柄もなく、直接危害を加える訳でもないため泳がせてもいいと最初は判断したからである。

 

 だがずっと誰かに見られているような感覚が何日も続くのは気分が悪いとしかアリーゼとしても言いようがなく、何か悪意を以て監視しているならば…と懸念も抱くことを視野に入れざるを得なくなれば放置したままにもできず。

 

 自称完璧美少女でむしろ周囲に見て欲しいと騒ぎ出しそうなアリーゼでも耐えかねる。

 

 もしかして完璧美少女だから悪質なファンがいつの間にやら付いてしまったのでは…と本来変装しているからにはアリーゼだとバレてるかも定かではないのに結論付けたアリーゼ。

 

 対処をするにも目立つのはまずいため、路地裏に入って隙らしきタイミングを作り、その視線の主をおびき出すことにした。

 

 そして…

 

 

 アリーゼの目論見通りその視線の主は釣れた。

 

 

「…誰?私を尾行して何かいいことでもあるの?サインならいくらでもあげるけど、他の物は話を聞いてからって感じね?あなたのしてることって神々の言う所の『すとーかー』って奴でしょ?」

 

「…やっぱり気付いてましたか?」

 

「そう言うあなたも私が隙を作ったと知ってて、付いてきたでしょ?違う?」

 

「さて?どうでしょうね?あなたこそ私が意図的に付いてくると気付いて隙を作ったんじゃないですか?」

 

「さぁ?あなたと同じようにはぐらかさせてもらうわ」

 

 アリーゼとその視線の主は目を合わせることなく意味深げな会話を交わす。

 

 二人は会話を成立させた時点でお互いの意図は既に読み切っていた。

 

 アリーゼは相手が意図的に釣られることを読んでいたし、その視線の主もアリーゼが意図的に釣り出しに動くことが分かっていた訳である。

 

 そうしてアリーゼが振り向いたことでようやく二人は視線を真正面から交わすことになった。

 

「初めまして。お嬢さん?私が完璧美少女で迷宮都市(オラリオ)でも人気者なのは知ってたけど、まさか女の子の熱烈なファンに出会うとは思ってなかったわ」

 

「そうでしたか?あなたは男女問わずに人気者だと思いますけど…それより私があなたの正体に気付いていることを前提に話を進めるんですね?アリーゼさん?」

 

「だってそうでしょ?こんなに目立たないように気を使った格好をした私を『すとーかー』して回るだなんて私の正体に気付いてるとしか思えない。それに私を尾行してるのはあなただけではない…正確にはあなたを尾行してるのかしら?たくさん視線を感じるけど、どうにも私に向いてるような気がしない。…あなた…いえ、あなた達は何者?」

 

「流石の洞察力です。アリーゼさん。あなたの正体に気付けたのはそうですね…あなたの雰囲気がとっても輝いているからでしょうか?」

 

「ふっ…それ冗談?」

 

「半分本当で半分冗談…といった所ですかね?少々その輝きがくすみかけているようにも見えますから」

 

「…本当に何者?あなた達?」

 

 互いに冗談と目が笑わぬままの表面上の笑みを織り交ぜて会話するアリーゼとその視線の主であった少女。

 

 だがその少女がアリーゼの心境を恐ろしいほど的確に見抜き、アリーゼの余裕を奪い去る。

 

 そのためアリーゼは目を細め二度目には表面上の笑みまで消してその少女の正体を尋ね直した。

 

 するとその少女は楽しそうに微笑むと自らの正体のヒントを言葉にした。

 

「実は私アリーゼさんと初対面じゃないんですよ?と言ってもこんな風に最後にお会いしたのはそう…『大抗争』の折でしたね。炊き出しで長い長ーい相談に付き合わせて頂きました」

 

「『大抗争』…相談…あっ…まさかあの時の薄鈍色の髪の…確か…そう…シルだったかしら?」

 

「思い出して頂きありがとうございます。そうです。シル・フローヴァです。お久しぶりですね。アリーゼさん」

 

 アリーゼはようやくその風貌と声が記憶と繋がり、少々の驚きで目を見開く。

 

 アリーゼに思い出してもらえたことに素直に喜びをクスリと笑みで表現した少女の名はシル・フローヴァ。

 

 

 実はアリーゼと旧知の仲の人物だったのである。

 

 

 とは言えアリーゼを尾行…それも集団で尾行する理由の説明には何もなっていなかった。

 

「なるほど…あなたがシルだということは思い出したわ。でも私をこのタイミングで尾行する理由が分からない。…さては完璧美少女の私が一人でいる隙に手下のファン達を使ってぼこぼこにして完璧美少女の座を私から奪おうっていうの?ふふーん!残念だけど、そう簡単には完璧美少女の座は渡せないのよね。…色んな意味でどんな相手だろうと、ね?」

 

 アリーゼはそう口にしつつ腰に差していた護身用の剣の柄に手を置く。

 

 その行為が警戒の意味のみを帯びている訳ではないのは言うまでもない。

 

 シルを誘い出す前から魔法も事前に解除してあったアリーゼは今や完全な臨戦態勢。

 

 最初からシル一人で尾行している訳ではないことを気付いていたアリーゼは既に『万が一』に既に備えていたのである。

 

 そして周囲のアリーゼを取り巻いていた視線もアリーゼの微動作に反応するように俄かに殺気を帯び始めるのをアリーゼは感じ取る。

 

 その僅かな動作に対してでも対応する反応の速さ…何よりアリーゼ自身がその存在を認知するのに数日かかったという事実はアリーゼの警戒をより高めさせる。

 

 アリーゼの瞳には既に戦意が映し出されていた。

 

 そんな殺気立ち始めるその場の雰囲気に変わりつつある中シルは微笑みを崩さず宥めるように言う。

 

「そんな警戒なさらないでください。『今は』私はアリーゼさんの完璧美少女の座を奪おうなんて思ってませんよ?もちろん気が変わって、完璧美少女を傷物美少女に変えるーなんてこともあり得ないとは言いませんが」

 

「…それどっちの意味か是非聞きたいんだけど」

 

「ふふっ。どっちでしょうね?アリーゼさんの御想像次第~…という冗談はともかく。私達にはアリーゼさんのことは一切口外するつもりもありませんし、アリーゼさんに危害を加える意志はありません。近くにいる私のちょっと過保護な方々はアリーゼさんが先手を打たない限り何もしないのでご心配なく。私がお約束します」

 

 シルは冗談を交えつつ宣言するようにアリーゼの身の安全を確約する。

 

 もちろんただ単に軽口を叩き合っている訳ではないアリーゼとシル。

 

 アリーゼはシルの言葉を完全に信じ切れず警戒を保ちながらもその言葉の真意を問い返す。

 

「…それで?あなた達は私にどんな目的で近づいてきた訳?」

 

「ちょっとお話をしたいと私が思いまして。そしてお話しして頂きたい方が幾人かいるんですよねーそれでアリーゼさんにも是非私に御同行頂きたいな、と」

 

「その提案に乗らなかったら?」

 

「アリーゼさんは傷物美少女として一生完璧美少女に戻れないかもですね」

 

「…そう。よくあなたの意見はよく分かったわ。ただ私物分かりが悪いから、ちょっと完璧美少女の私が傷物美少女になる未来が見えないのよねぇ。だから…」

 

 シルが婉曲的に何を言おうとしているのか分からぬアリーゼではない。

 

 シルは脅迫をしてでも自らの提案を受け入れさせようとしている。

 

 そしてそれだけのことをアリーゼ相手にする利益がシルにはある。

 

 アリーゼには意図の読めない提案に素直に応じる道理はなかった。

 

 シルの提案には乗り難いと判断したアリーゼは意を決し動こうとする。

 

 だがそんなアリーゼの動きを遮るようにシルは呟いた。

 

 

「【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の現状。団結の可能性。希望の在処」

 

 

「…っ!?」

 

「アリーゼさんは知りたいんじゃないですか?私ならその現状をお伝えするお手伝いができると思います。決してアリーゼさんにとっては損はないと思います。どうです?」

 

 シルの呟きにアリーゼは金縛りにあったように硬直せずにはいられない。

 

 

 シルはものの見事にアリーゼの望みを完全に言い当てたのだ。

 

 

【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の現状は今まさにアリーゼが知りたがっている事柄であるものの、アリー柄の認知度では探ろうにも探れぬ事柄。

 

 その上それらを探った先にある迷宮都市(オラリオ)の団結の可能性をアリーゼが探し求めていることも言い当てた。

 

 さらには自らの希望を見つけられるか否かアリーゼが模索しているということさえも言い当てた。

 

 

 まるで下界の住人の考えを見抜いてしまう神の如くアリーゼの考えは全て見抜かれてしまったのである。

 

 

 加えてその望みを叶えるための手伝いまでもするとシルは言う。

 

 もうアリーゼは寒気を覚えるとか戦慄するとかそんな表現では済ませられないような恐怖を感じずにはいられなかった。

 

 アリーゼは目の前の少女に底知れぬ恐ろしさを覚えずにはいられなかった。

 

 何よりここでシルに従わない利益よりも従う利益の方が大きい。そうアリーゼの直感は告げていた。

 

 そのためアリーゼは目の前の少女の形をした化け物とも言うべき存在に観念して白旗を上げる。

 

 ただ白旗を上げつつも尋ねるべき事柄を尋ねることをアリーゼは忘れない。

 

「…そうね。もう大人しくあなたの言う通りにするわ。確かに私には損がない。私が断る理由も確かにない。でもそれだけの手伝いをするメリットをあなたに感じない。…答えてもらえるとは思えないけど、なぜ私を手伝おうとするのか理由を聞いてもいいかしら?」

 

「理由はただのボランティアですよ?」

 

「ふふ…冗談でしょう?」

 

「いえ、これは本心です。アリーゼさんの魂を救う手伝いをしたい。私はこの点に関しては嘘はつきません」

 

「まっ…そういうことにしておこうかしら。それで?シルは私をどう手伝ってくれるのかしら?」

 

 引き続き冗談めかしく応じるかと思えば真剣そうにアリーゼの心情を慮るようなことを宣うシル。

 

 その読めない反応にこれ以上追及しても翻弄されるだけとアリーゼは話を切り上げる。

 

 そして代わってアリーゼが尋ねたのはシルがアリーゼに何をしてくれるのか。

 

 アリーゼの問いに待ってましたとばかりにほくそ笑みつつシルは言った。

 

 

「私が勤めている酒場『豊穣の女主人』へ。ミアお母さんにまずはお会い頂きたいです」

 

 

『豊穣の女主人』。

 

 ミアお母さん。

 

 その二つのキーワードを耳にしたアリーゼは瞬時にシルの意を察した。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「あんたもご苦労なことだねぇ…」

 

「ええ。同情されてる辺りあなたも大して変わらない立場なんだろうなぁと察しつつ…あっ…ご馳走様でした!リゾットとっても美味しかったわ!」

 

「…あんな状況の直後に平然とリゾットを平らげるあんたは根性があるのか底なしの馬鹿なのかどっちなのかねぇ…」

 

「腹が減っては戦はできぬ、って奴だわ!さっきまでものすごく緊張してシルと向き合ってたからお腹空いちゃったのよね~」

 

 お腹一杯になって満足そうに笑みを溢すアリーゼと空になった器を片付けつつ複雑な視線でアリーゼを見つめるミア。

 

 場所は変わって『豊穣の女主人』。

 

 シルによってアリーゼは『豊穣の女主人』の酒場の方ではなく離れらしき場所に案内された。

 

 そして到着早々にお腹が空いたとミアにリゾットを所望し、ミアを呆れ返らせた末にごくごく平然とリゾット一人前を平らげてしまったアリーゼ。

 

 ただもちろんアリーゼは単に『豊穣の女主人』にリゾットを御馳走になりに来たわけではない。

 

 気を使ってかシルはニコニコと魔女の如き笑みをアリーゼに見せたのを最後に席を外し、アリーゼとミア二人のみの空間を作り出すのに寄与していた。

 

 そのためミアがアリーゼの食べ終わった皿の片づけが済めば、アリーゼとミアだけが話す場が残されるという訳であった。

 

「で?うちの馬鹿娘が散々あんたに迷惑かけたようだけど、要件はなんだい?あたしは消息が掴めないと死亡説まで流れてる【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】がここにいるのかさっぱり分からないんだけど」

 

「死亡説って…私的には勝手に殺さないで欲しいんだけど、リオン達が動き回ってるのに私だけ姿が見えないとそうなるかぁ…それはともかくあなたが【小巨人(デミ・ユミル)】…【フレイヤ・ファミリア】元団長ミア・グラントさんということでいいのよね?」

 

「そうあの馬鹿娘から説明を受けてるだろ?じゃああんたはあたしを誰だと思って話してたんだい?」

 

「いや、ちょーっと私のイメージした可憐な美人っていう【小巨人(デミ・ユミル)】のイメージからは程遠いなーと…」

 

「…はぁん?」

 

「あ、何でもないです。可憐で美人な【小巨人(デミ・ユミル)】さんにお話をお聞きしたくてシルに案内してもらいました。そうです。そういうことです」

 

 見事に口を滑らしたアリーゼに突き立てられるミアから放たれた殺気にアリーゼは大慌てで前言を揉み消し、目的を早口に伝える。

 

 そんなアリーゼの態度に若干の苛立ちを見せつつもミアは話を脱線させることなく続けた。

 

「あたしに聞く話ってなんだい?あたしはただの酒場の店主だ…なんて文句は通じないんだろうね?」

 

「はい。申し訳ありませんが、【フレイヤ・ファミリア】の事情をお聞きしたいです。今のあなたの知る範囲だけでもいいので。私は少しでも情報が欲しいんです」

 

「…そんなことだろうと思ったさ。分かった。あんたの聞きたいことを話してあげるよ。ったくあたしを巻き込んで何をしたいって言うんだか…」

 

 普段とは完全に振る舞いを変えたアリーゼらしくないとも言える誠意のこもった口調にミアは何かを諦めたかのようにアリーゼの求めに応じる。

 

 ただ最後に漏れた呟きはアリーゼではない別の者に向けられたのでは…そうアリーゼは勘付いたが詮索せず自らの関心のある内容へと話を移した。

 

「単刀直入にお聞きしますけど…【フレイヤ・ファミリア】は今後どう動くと思いますか?【ロキ・ファミリア】とどう向き合うのか。迷宮都市(オラリオ)の中でどう振舞うのか。【フレイヤ・ファミリア】は…いえ、神フレイヤは迷宮都市(オラリオ)の希望にとって脅威なのか否か…それを私は知りたいです」

 

 アリーゼはありのままに自らの聞き出したいことをミアに伝えた。

 

 相手が【フレイヤ・ファミリア】の元団長だろうと構わなかった。

 

 アリーゼは婉曲になど話は進めず、一直線に自らの知りたい情報を聞き出すべく突き進んだ。

 

 中途半端な躊躇や遠慮は何の役にも立たないと考えたからである。

 

 そんなアリーゼの真っすぐな問いにミアはしばらく間を置いた後静かに告げた。

 

 

「…そんなのあたしが知る訳ないじゃないか」

 

 

「…へ?」

 

 アリーゼは思わず間の抜けた声を漏らす。

 

 まさかとぼける訳でも言葉を濁す訳でもなく本心から知らないとばかりに肩をすくめられるとはアリーゼも思わなかったのである。

 

 その驚きのあまりアリーゼは呆気なく取り繕った態度を脱ぎ捨てることになった。

 

「いやいやいや、あなた【フレイヤ・ファミリア】の元団長でしょう!?何か分かることないの?例えば何かしたいことがあるとか!」

 

「…あの色ボケ女神は伴侶(オーズ)…男とかをずっと探してるねぇ。そういう話が聞きたいのかい?」

 

「じゃあ男のために迷宮都市(オラリオ)は滅茶苦茶になってるってこと!?何その規格外なラブロマンス!巻き込まれる側としてはすっごく迷惑なんだけど!?もうちょっとマシなことは分からないの!もっと対策ができそうなことと言うか何と言うか…」

 

「まずあの女神の考えをあたしらなんかが読めると思ってるのかい?」

 

「それは…まぁ…そうかもだけど…」

 

 アリーゼは勢いでミアに食いつくもミアの指摘が正論過ぎて言葉を詰まらせる。

 

 女神であるフレイヤの考えを下界の住人が読めるはずがない。

 

 神はいつだって気紛れだ。だから読めるはずもない。

 

 その正論にアリーゼでさえも食い下がれなくなる。

 

 ただミアはほんの少しだけ不鮮明ながらもヒントは与えた。

 

「あえて言うとそうだねぇ…あの女神は退屈が嫌いだねぇ」

 

「退屈…刺激を求めて色々余計なことをやる愉快犯の神様と一緒の?」

 

「あんたの言う通りでもあるし、違うのかもしれない。少なくとも言えるのは今の自由を奪われた状況はあの女神にとっても退屈だってことだ」

 

「…っ!?つまり…退屈をなくすために動くこともある…そういうこと?」

 

「可能性がない訳ではない…ねぇ」

 

 渋い表情でそう呟くミアのヒントにアリーゼは背筋を凍りつかせる。

 

 ミアの『今の自由を奪われた状況』というのが【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】が冷戦状態に陥り、互いに行動を自制しあっていることにあるのは説明するに及ばぬこと。

 

 そもそもその冷戦状態に突入した原因がフレイヤの失踪にあったことを考えると、その失踪自体退屈を殺すためだったとも考えられる。

 

 にもかかわらずフレイヤの行動は退屈を殺すどころかさらに自由を奪うことに繋がった。

 

 …現状のフレイヤは相当に退屈でストレスが溜まっているというのは想像に難くない。

 

 そしてフレイヤの退屈を打開するために動く…その明確な方法はアリーゼには分からない。

 

 だがその方法の一つにアリーゼは即座に辿り着く。

 

 

【ロキ・ファミリア】との決戦による状況の打開という方法が。

 

 

 迷宮都市(オラリオ)から希望を完全に奪い去ることに繋がりかねない暴挙であった。

 

 アリーゼが最も守りたいと考えているリューの希望を打ち砕きかねない脅威であった。

 

 リューを傷つけかねない脅威は何としてでも取り除かなければならない。

 

 アリーゼは早急に対処すべきだと即断した。

 

 とは言えホイホイ対処法が思い浮かべば苦労はないし、原因もそれだけと断定するのは早計なことくらいアリーゼにも分かる。

 

「…神フレイヤの退屈のお陰で何が起こるか分からない。そしてその退屈の原因は【ロキ・ファミリア】との冷戦状態…いえ、それだけでもないのかもしれない。ただそれだけでも改善すれば何かが変わる?いやでもそんな簡単に改善できるの?んん~分からない!分からないわ!」

 

「さぁ?あたしにはあの女神の真意までは分かる訳ないさ。ただ【ロキ・ファミリア】の連中は関わってるようだねぇ」

 

「…まさか【ロキ・ファミリア】の誰かがここに?確かにシルは私に【ロキ・ファミリア】の状況も教えてくれると言ってたけど…」

 

 対処を即断するも対処法が見えず頭を抱え騒ぎ立てるアリーゼ。

 

 ミアはそれ以上は話せないとばかりに肩をすくめるも、道筋だけはアリーゼにきちんと示してくれた。

 

 

 やはり【ロキ・ファミリア】が鍵だった。

 

 

 シルとミアの言葉からアリーゼは何かしらの手配が既に成されているのではと推察する。

 

 アリーゼの推察にミアはすぐに答えを出してくれた。

 

「あぁ。今酒場の方にガレスがいる。きっとあんたに会わせるためにタイミングを合わせたのじゃないかい?」

 

「えっ…ガレスのおじ様が!?嘘っ…!事情云々置いといて久しぶりに会いたいわ!酒場の方ね!分かったわ!」

 

「はぁ…」

 

 シルが接触の場を設けてくれた相手はアリーゼと以前から親しい交流があった【ロキ・ファミリア】幹部ガレス・ランドロック。

 

 ガレスをおじ様と慕うアリーゼは喜色満面で飛び出すようにガレスがいるという酒場へと向かっていく。

 

 そんなアリーゼに取り残される形になったミアはやかましい馬鹿娘がいなくなって深々と溜息を吐いて見送った。


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