星乙女達の夢の跡   作:護人ベリアス

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風に娼婦は靡くか否か

「戻ったか。輝夜。ライラ。【ロキ・ファミリア】との交渉はどうだった?」

 

「簡単に説明すると、フィンが交渉を前向きに考えてくれると明言してくれたからには上々と言った所だな」

 

「よくやってくれた。二人とも。これで他のファミリアとの交渉も円滑に進みやすくなる」

 

「…(わたくし)はこの小人族(パルゥム)様に道案内だけさせられた挙句待ち惚けを食らいましたのでシャクティに称えられる資格はないように思いますがねぇ」

 

「そう。カッカすんなよ。輝夜。お前が席を外してくれたお陰でフィンとの話がこじれず上手く進んだんだからよ」

 

「それはまた粉飾ない率直な物言いで。…即刻張り倒すぞ。ライラ」

 

 …【ロキ・ファミリア】との交渉で一切の出番がなかった輝夜が苛立っていることはともかくとして。

 

 ライラの言葉通り【ロキ・ファミリア】との交渉は比較的上手く進み、特にライラは上機嫌で【ガネーシャ・ファミリア】本拠『アイアム・ガネーシャ』に帰還していた。

 

 そして二人を指揮所で出迎えたのはシャクティ。

 

 シャクティはどうやら輝夜とライラが不在だったために巡回と警護の指揮を執っているらしかった。

 

 すると自らの苛立ちを無意味だと悟り深呼吸をした輝夜は辺りを見渡し、ふと思い立ったようにシャクティに尋ねた。

 

「…そういえばリオンは?【ロキ・ファミリア】との交渉の結果は重大である以上、すぐさま報告しようと思っていたのだが…」

 

「…え?またリオンの奴いないのか?確かにシャクティしか出迎えなかったのは今となれば気になるが…今日は確か【イシュタル・ファミリア】との交渉に出向くんだったよな?でも連中は夜に娼館の営業とかで活発になるから云々って言って、今は指揮所にいると思ったが…まさかまた巡回に出てるのか?」

 

「そのまさかだ。今は歓楽街近くの南東の区画の巡回に参加しているはずだ」

 

「「…はぁ」」

 

 シャクティの答えに輝夜もライラも揃って溜息を吐く。

 

 もちろんリューの振る舞いに不満を覚えたからである。

 

「…ったく昨日の【ディオニュソス・ファミリア】との交渉の失敗で【ロキ・ファミリア】との交渉の動向が如何に重要か理解したんじゃなかったのかよ?団長の【白巫女(マイナデス)】に【ロキ・ファミリア】との協力体制がどうなってるか尋ねられて答えられずにけんもほろろに追い返されたんだったろ?」

 

「【ディオニュソス・ファミリア】が【ロキ・ファミリア】の動向にこだわったという点と『二十七階層の悪夢』で大きな犠牲を払ったとは言え共に協力してきたと思っていた彼女達に協力を断られるのが計算外だったという私達の落ち度を踏まえたが故に今日はきちんとリオンには報告を伝えようと思ったんだが…相変わらずの落ち着きのなさだな」

 

「まぁそう言ってやるな。輝夜。ライラ。リオンはリオンなりに努力している」

 

「…まさかシャクティがリオンを擁護するとは思わなかったぜ。シャクティはリオンには大人しく指揮所にいてもらおうという立場じゃなかったのか?」

 

 輝夜とライラが揃って表情を険しくしてリューに対して苦言を漏らしたのは昨日の【ディオニュソス・ファミリア】との交渉の失敗の影響。

 

 二人の指示で協力が得られる可能性が高いという目論見で送り出されたリューであったが、輝夜が告げた落ち度を以て交渉は失敗。

 

 そのため【ロキ・ファミリア】の動向を明確に輝夜とライラが掴んだ上で再交渉に臨もうというのが二人の魂胆であり、その動向の重要性を再認識する羽目になった二人はリューとも今日の【イシュタル・ファミリア】との交渉に向けて情報を共有する…はずであった。

 

 にもかかわらず当の本人であるリューが不在なのである。二人が愚痴を垂れるのも正直無理はない。

 

 だがシャクティがリューを擁護した。

 

 ライラの言う通りリューが指揮所を離れて積極的に交渉や巡回に関与することに当初反対したシャクティが、である。

 

 怪訝そうな表情を浮かべたライラがシャクティにその点を指摘すると、シャクティは小さく微笑みつつ言った。

 

「確かにそうだったな。だが昨日の巡回でリオンと行動を共にした団員達から話を聞いてな。その話を聞いていると、リオンはお前達が言った通り指揮所などに閉じ込めておくべきではないのかもしれないと思い至った」

 

「…【ガネーシャ・ファミリア】の団員達から?何を聞いたのだ?…まさか鬱憤の溜まってたリオンが暴れたとかそういう話か?」

 

「違う違う。そんな訳ないだろう?正反対だ。元々リオンは巡回に精力的に取組む姿を幾度も見ていたから私も知っていた。だがリオンはただ単に巡回の戦力という意味以上の働きをしてくれるのかもしれない…そんな期待を抱いた。そういう話だ」

 

「ん?シャクティの話をイマイチ把握できねぇんだが…」

 

「まぁいい。まだ今後のことは予測できない事柄である以上私からも何とも言えない。ともかく今はリオンに【ロキ・ファミリア】との交渉に関して報告を出せるように情報をまとめるぞ」

 

 シャクティはリューに関して意味深げなことを呟き、輝夜とライラの関心を引くも話を切り上げる。

 

 そうして三人の意識の向く先はこれより数時間後に執り行われるであろうリューによる【イシュタル・ファミリア】との交渉であった。

 

「【イシュタル・ファミリア】の交渉がそう簡単に上手くいくとは思えないが、何とか情報面で手助けをしなければな。リオンは巡回の交代の時間と共に直接【イシュタル・ファミリア】の本拠に向かうはずだ。それまでに報告をリオンに届けられるよう準備を整えよう」

 

「畏まりました。…そもそも(わたくし)的にはあの潔癖エルフが淫らなアマゾネスの楽園の如き歓楽街に足を踏み入れることができるか自体不安なのですがねぇ…」

 

「そこはリオンがあれだけやる気なんだから大丈夫だろ?…少なくともリオンは嘘は付けない性格だからな。やると言ったらやるだろうさ。…まぁ結果が不安なのは否定しないけどよ」

 

 シャクティはリューを裏から支えるべく意気込み、輝夜はリューのエルフらしい潔癖さに懸念を示し、ライラは輝夜の懸念にリューを擁護しつつも不安を隠せない。

 

 リューのいない裏側で様々な不安や期待が渦巻く中、リューはこの後歓楽街にある【イシュタル・ファミリア】本拠『女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)』へと向かう。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ゲゲゲゲゲッ!!アタイがどーしてあんたみたいな不細工に協力してやらなきゃいけないんだい!」

 

「なっ…」

 

【イシュタル・ファミリア】団長フリュネ・ジャミールは沈黙を破ったかと思えば嘲るようにリューにそう言ってのけ、リューはフリュネの豹変したかに見える態度に唖然とする。

 

 フリュネと向き合えていることから分かるようにリューは輝夜の懸念を物ともせず【イシュタル・ファミリア】との交渉の場を設けることに成功していた。

 

 …ただリューがあまりの歓楽街が漂わせる淫靡な雰囲気に耐えられなかった結果【イシュタル・ファミリア】本拠『女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)』には辿り着けず、歓楽街の入り口からかなり近くの娼館が交渉の場と相成ったのだが。

 

 それはともかくとしても今回はライラの助言で曲者とも言える主神イシュタルに直接交渉を持ちかけるのではなく団長のフリュネに交渉を依頼し、実際にフリュネは交渉の場に幸運にも姿を現してくれた。

 

 …が、リューが一通り迷宮都市(オラリオ)の団結と闇派閥(イヴィルス)の撃破という理想を語った結果がフリュネのこの回答である。

 

 ついでに言うとフリュネの嘲りはまだまだ終わらなかった。

 

迷宮都市(オラリオ)の団結ぅぅぅぅ?アタイらに何の利益があるって言うんだい!?歓楽街は見ての通り大繁盛さ!アタイも旨そうな男に不自由もない!イシュタル様もあんたの話になんか一切関心を持たないだろうねぇ!」

 

「…男?はっ…破廉恥なっ…って違う!迷宮都市(オラリオ)の団結は利益云々の問題ではなく私達が平和な暮らしを手に入れるため…」

 

「その暮らしをもうアタイらは持ってるんだよ!そんなことも分からないのかい!これだから不細工はよぉぉぉぉ!闇派閥(イヴィルス)だってあれだけ力を失った以上無理に潰す必要さえないじゃないかぁ!」

 

「だからっ…その不細工と言うのはっ!どうして対等に向き合おうとせず、蔑みを含む品性を欠いた言葉でっ…!ではなく…迷宮都市(オラリオ)の団結も闇派閥(イヴィルス)の撃破も…!」

 

「だぁかぁらぁぁ!アタイらはそんなことどうでもいいんだよ!ガタガタ不細工がオウムみたいに同じことを言うんじゃないよ!」

 

「ぐっ…ぐぅぅぅぅ…」

 

 リューは碌に反論の論陣を構築できない。

 

 男が云々というのは初心で潔癖なリューの心を確かに面倒な方向で揺さぶってはいるが、問題はそこではない。

 

 まして不細工云々などエルフの容姿の端麗さにこだわりを持たぬリューには愚弄され話に聞く耳が持たれていないという事実を証明する以上には役立たぬこと。

 

 リューが反論できなくなっている原因はフリュネが迷宮都市(オラリオ)の団結にも闇派閥(イヴィルス)の撃破にも何の関心も示していないことにあった。

 

 リューは誰もが迷宮都市(オラリオ)がかつての『大抗争』の頃のような団結を取り戻すことを願っている…そう思い込んでいた。

 

 リューは誰もが闇派閥(イヴィルス)が未だ残存していることを認めず倒すべき存在だと見なしている…そう思い込んでいた。

 

 そしてその思い込み通りに多くの場合リューの理想は交渉した相手に通じてきていたとも言える。

 

 だから派閥連合は結成され、【ロキ・ファミリア】との交渉も上々で、他のファミリアも比較的前向きな姿勢を見せてくれていた。

 

 

 だがフリュネには当然の如く通じていなかった。

 

 

 同時にフリュネの周りを囲む【イシュタル・ファミリア】の三人の団員達のリューに向ける視線も冷淡さを感じずにはいられず、彼女達の視線もまたリューの理想が届いていないという事実を徐実に示していた。

 

 確かにフリュネが不細工不細工と叫ぶと何だか同情らしき視線を向けてきはしても、リューが理想を語っている間の視線は無関心・冷笑…そんな感情が見え隠れしていることをリューは感じ取らずにはいられなかった。

 

 

 リューはその場で完全に孤立していたのである。

 

 

「あんたがエルフの良い男でもアタイに差し出すなら少しは考えてやってもいいんだけどねぇ!ゲゲゲゲゲ!!」

 

「そっ…そんなことできるものかっ!!そもそも話に色情を持ち込まず、真面目に交渉をっ…!」

 

「だぁかぁらぁ!アタイはその真面目な交渉に時間を潰されるのが嫌なんだよ!そもそも【アストレア・ファミリア】の不細工の相手をしろっていうのはイシュタル様の命令で仕方なくなんだ!アタイは男を美味しく頂く大切な時間をわざわざお前みたいな不細工のために割いてやってるんだよ!」

 

「あっ…あなたは迷宮都市(オラリオ)のことを何だと…」

 

「アタイは迷宮都市(オラリオ)のことなんてどうだっていいんだよぉ!アタイにとって一番大事なのは旨い男さ!もうこれくらいで話はイシュタル様も満足だろぉ?元々穏便に追い返せって話だったからねぇ!」

 

「なっ…何!?ちょ…お待ちを!まだ交渉はっ…!」

 

「この不細工はお前が追い出しときな!居座られたらイシュタル様がうるさくなるからねぇ!」

 

 その時ようやくリューは最初から交渉は破談すべく進められていたことに気付かされる。言うまでもなくリューが見抜けていなかっただけの話である。

 

 フリュネはリューが真剣に自らの理想を語っている間ずっと沈黙を保っていたのは単に笑いを堪えていただけの話だった訳だ。

 

 リューは交渉を成功させようという一心のあまりフリュネの表情の機微を完全に見落としていた。

 

 そうしてもう飽き飽きしたと言わんばかりに自らの事情を暴露したフリュネはそのままリューを放置して立ち上がると、リューは慌てて引き留めようとする。

 

 だがそんな引止めが意味を為すはずもなく。

 

 結局その場にはリューとリューを歓楽街から追い出すようフリュネに指示されたアマゾネス一人だけが残った。

 

「くっ…私はっ…無力だ…どうしてっ…どうして…」

 

 目の前に机に拳を振り下ろし、そう苦悶の声を漏らすリュー。

 

 交渉の場に臨んだのは今回で二度目。

 

 そして二度続けての失敗。

 

【ディオニュソス・ファミリア】との交渉では【ロキ・ファミリア】の動向という僅かながらの活路は存在したものの、今回は一切の活路も見えない。

 

 リューは自らが派閥連合の面々の前で大見得を切った割にほとんど成果を挙げられていないことに焦りを感じずにはいられなかった。

 

 だがここで挫けてはならない。

 

 アリーゼの希望を取り戻すためにはここでは立ち止まれない。

 

 そうすぐに考えが至ったリューは深呼吸をして退室しようとした時のことであった。

 

「あんたの説得は青すぎるんだよ。【疾風】」

 

「なっ…何ですって!?」

 

 唐突に声が響いたかと思えばリューの耳に届いたのは罵倒。

 

 その罵倒を発したのはまだ部屋に残っていたアマゾネスであった。

 

「だってそうだろう?迷宮都市(オラリオ)の団結に闇派閥(イヴィルス)の撃破…どっちもあまりに話が漠然としている上に現実味も必要性も薄い」

 

「げっ…現実性に関してはこれからの私達の努力が変えていくべき事柄です!そしてどちらも必要性がない訳…」

 

「フリュネの言った通り闇派閥(イヴィルス)は既に衰退してる。あたしら的には闇派閥(イヴィルス)がどうなろうと知ったことじゃないんだよ。正義を尊ぶあんた達【アストレア・ファミリア】や治安維持を担う【ガネーシャ・ファミリア】と違ってね。だから迷宮都市(オラリオ)を団結させてどうこうという話も興味が湧かないね。何せこの状況で実現不能なのは火を見るよりも明らかだ。無理して面倒ごとに首を突っ込む理由もない。だってあたしらはこうして繁盛して、既に平和は取り戻してるんだから」

 

「しっ…しかしっ!」

 

「堅物なエルフ様が大っ嫌いなアマゾネスだらけのここに一人で乗り込んできて、とことん初心な情けない顔晒してでも交渉に臨もうとしたその意気込みはあたしは認めようじゃないか。でもあんたの青臭い理想論はあたしらには響かないよ」

 

 そのアマゾネスは碌に会話をする気もなかったフリュネに代わってリューの甘い考えを論破する。

 

 闇派閥(イヴィルス)の弱体化は決定的で【イシュタル・ファミリア】のような大派閥が警戒にも値しないほどに凋落している。

 

 迷宮都市(オラリオ)の団結は【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の冷戦状態を筆頭に問題が山積みであり、実現不能であることは火を見るよりも明らか。

 

 闇派閥(イヴィルス)の弱体化が決定的となり、迷宮都市(オラリオ)の団結が実現不能である以上リューの理想は不要。

 

 そんな彼女の突き付ける論理もまた立派な今の迷宮都市(オラリオ)の情勢の捉え方であり、一番現実的な捉え方でもあった。

 

 だがそんな情勢に納得しないが故にリューは立ち上がり、派閥連合は結成されたのである。

 

 闇派閥(イヴィルス)は未だ壊滅した訳ではない。平和の脅威が消え去った訳ではない。

 

 迷宮都市(オラリオ)の団結の可能性が絶無という訳でもない。迷宮都市(オラリオ)の団結の必要性が消えた訳でもない。

 

 そこの点を彼女は見落としていた…そうも言えたのだ。

 

 

 何よりリューはまだ本当の意味では自らの理想をフリュネの前で言葉にはできていなかった。

 

 

「あなたにはっ…あなたには守りたい者はいないのですか…?大切な者はいないのですか…?」

 

「…は?いるに決まってるじゃないか。そんなの聞くまでもない普通のことじゃないのかい?」

 

「ならなぜそんな守りたい者がっ…大切な者が奪われる可能性を少しでも残すことを座視することができるっ!?あなたはみすみす大切な者を奪われることを許容すると言うのですか!?」

 

 胸に手を当ててそう叫ぶリューにアマゾネスは目を丸くする。

 

 リューはもはや先程までの冷静さを意識して交渉に臨むアマゾネスの毛嫌いする澄ました顔で理想を振りかざすエルフではなかった。

 

 まなじりを決したリューは仮面を脱ぎ捨てたった一人の大切な者(アリーゼ)を思いやる少女になっていた。

 

「私にはできないっ!私はっ…大切な者を失いたくないっ…絶望する姿を見たくないっ…だから希望を取り戻すために行動する。私は大切な者のために力を尽くす。ですがあなた方はその行動を放棄しているようにしか見えない!なぜならこの迷宮都市(オラリオ)には団結し手を取り合わない限り脅威は取り除くことができないのだから!」

 

「あっ…あんた…」

 

闇派閥(イヴィルス)だけではない!【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の抗争も!ダンジョンのモンスターもっ!脅威はいくらでもある!その脅威に立ち向かえるのは迷宮都市(オラリオ)を団結させることのみ!そのための努力を怠ることは大切な者をみすみす死地に追いやることと同義だ!私はあなた方と同じ愚行を犯すつもりは毛頭ない!!」

 

 リューの大切な者(アリーゼ)への思いが溢れ出したとしか言いようがない叫びにアマゾネスはポカーンと口を開けて呆けるもリューはもう周りなど見えていなかった。

 

 罵倒までして自らと彼女達を差別化したのは自己肯定に過ぎないし、努力を怠っているとみなすのもただのリューの主観。

 

 だとしてもこれが本当の意味でのリューの原動力。

 

 

 大切な者(アリーゼ)のため希望を取り戻し、力を尽くす。

 

 

 リュ―の中で今の行動はそれ以上もそれ以下もなかった。

 

 そんな理想という仮面を剥ぎ取ったリューの本当の意味で大切な者(アリーゼ)のことしか考えていない叫びに。

 

 

 アマゾネスは吹き出すように笑った。

 

 

「ぷっ…くっ…あはははは!!」

 

「なっ…何がおかしい!?あなた達に私を笑う資格がどこにある!?」

 

 アマゾネスの爆笑にリューは自らの大切な者(アリーゼ)への思いを愚弄されたと受け取り、今度は激昂して声を張り上げる。

 

 同じ愚弄でもリューは自らを不細工呼ばわりされても我慢できたが、大切な者(アリーゼ)への思いに関しては無意識だとしても我慢することは到底できなかった。

 

 ただし彼女の爆笑はリューへの愚弄という意味で為されたものではなかった。

 

 彼女は堪えるように笑うのをやめると、リューに遠慮もなく言った。

 

「なんだ…あんたがさっきまでフリュネに話してたのは建前かい!迷宮都市(オラリオ)の団結とか闇派閥(イヴィルス)の撃破とかは本当は【疾風】の中ではどうでもいい!実はそういうことなんだろう!?」

 

「ちっ…違います!迷宮都市(オラリオ)の団結が大切な者(アリーゼ)の希望である以上どうでもいい訳…!」

 

「だとしてもあんたにとっては迷宮都市(オラリオ)よりもその大切な者(アリーゼ)の方が大事なんだろう?何が違うのさ!?」

 

「うっうるさいっ!大切な者(アリーゼ)のために行動することの何が悪いのですか!」

 

 煽るようにリューの建前を引き剥がそうと言葉を重ねるアマゾネスにリューは顔を真っ赤にして逆ギレした挙句自らが大切な者(アリーゼ)のことしか考えていないという本音を見事に暴露する。

 

 そしてリューの暴露にアマゾネスはさらに煽りを重ねた。

 

 

「なんだい?その『大切な者』っていうのはオスかい?」

 

 

「ちっ…ちちちちちち違う!?!?!?」

 

 彼女が降りかけたリューに男がいるのでは疑惑にリューは思いっきり動揺を見せてしまう。

 

 それこそもう取り乱し始めたと言っても過言ではない雰囲気。

 

 いつもは険悪なエルフの弱点を見つけたアマゾネスが見逃すはずもなく、ここぞとばかりに揶揄うために畳みかける。

 

「どの慌てよう図星だろう?へぇ…あの澄まし顔でエルフ様である【疾風】が男の尻を追っかけていつもは見下すアマゾネスだらけの歓楽街に乗り込んでくるのかい。それはまた面白い話だねぇ。ゆくゆくはその男に派閥連合を貢ぐのかい?」

 

「ばっ…ばば馬鹿を言わないでください!私は男の尻など追いかけていないし、私のそばに親しい男性などいない!尻っ…貢ぐっ…そもそもそのような表現自体っ…けっ…汚らわしいっ!」

 

「そう言い訳しなくてもあたしは軽蔑しないよ?あたし達にとっては普通どころかどの種族だって本来変わらないのにあんた達エルフが勝手に軽蔑してるだけなんだからね。別にあんたが男の竿を守り男の種を得るために行動してても軽蔑なんて一切しないさ」

 

「さささささささ…竿!?たたた種!?一体何のことを言ってるのですか!?」

 

 リューはアマゾネスの次々持ち出してくる(軽めの)品のない話題に目を白黒させながら翻弄される。

 

 アマゾネスの方もリューの反応のあまりの面白さに調子に乗って揶揄っていたりいなかったり。

 

 そうして翻弄され自らが男の尻を追いかけ男の竿(?)を守るために行動する品性の欠片もないエルフ認定でもされればたまったものではないリュー。

 

 そんな認定を受ければ【イシュタル・ファミリア】との交渉に支障をきたすどころか輝夜にもライラにも…

 

 そしてアリーゼにも軽蔑される…

 

 そう判断し弁明を試みたリューは盛大に自爆することになった。

 

 

「私はっ!!男のためではなくアリーゼのために行動しているのです!!追いかけているのは男ではなく女性だ!!!」

 

 

「…へぇ。【疾風】と【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】はそういう関係だったのかい」

 

「そっ…そういう関係…?」

 

 自らの本心を暴露したリュー。

 

 リューはアリーゼの希望を取り戻すために動き、アリーゼの代理としてその『背中』を追いかけている。

 

 それはリューの本心。

 

 ただ彼女の話の流れから考えると、非常に残念なことにリューの本心通りには伝わる訳がなかった。

 

「つまりあんたは【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】の『尻』を追いかけていて、【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】とはレズってことだろ?」

 

「レッ…レズ!?それはまさか…ちちちち違う!?私とアリーゼはそのような関係ではなくっ…大切な仲間でっ…そっ…その!」

 

「ここで口を滑らせた挙句口ごもるってことは認めるも同然じゃないのかい?」

 

「あああああああ!?」

 

 今度ばかりはリューも反論できなかった。

 

 なぜならリューは『レズ』の意味を偶然にも理解してしまったからである。

 

 そしてリューはアリーゼと結婚の約束をしていたことも思い出される。

 

 リュ―の中では意識的にはアリーゼを『そういう目』で見ていなかったとはいえ、アマゾネスに直接指摘されこのタイミングで意識せざるを得ない状況に追い込まれてしまったのである。

 

 リューのアリーゼへの意識が変わったか否かはリュー自身にも分からぬことであるが故にひとまず置いておくとして。

 

 こうしてリューは【イシュタル・ファミリア】との交渉に失敗するどころか活路さえ見出すことも失敗するも妙なアマゾネスとの縁を獲得することになる。

 

 

 ちなみにそのアマゾネスの名はアイシャ・ベルカと言った。




フリュネさん初登場!
リューさんを不細工呼ばわりしたことに関してはまぁもうね?この蛙さんの行く末はリューさん至上主義者である作者とリューさん大好きアリーゼさんによって如何様に処理されるかは決まったようなものという訳ですよ。

そして最後に縦横無尽にリューさんを揶揄い尽くしたのは最後の説明がなくともアイシャさんだとお察しだったでしょうね。
原作よりも早い段階でアイシャさんとの知遇を得たリューさんですが、意外とこの価値は大きい。
なぜなら事実上【イシュタル・ファミリア】を掌握しているのはイシュタル様の存在は大きいとはいえフリュネではなくアイシャさんですからね。
そして今作の舞台である『五年前』は【イシュタル・ファミリア】にとっても重大な年らしいんですよね。
その点も踏まえて【イシュタル・ファミリア】との関係は進んでいくことになります。

そしてアイシャさんはリューさんにアリーゼさんへの想いを少しだけ気付かせてくれました。
アイシャさんは今作のキューピットの一人です☆
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