星乙女達の夢の跡   作:護人ベリアス

32 / 32
迷える正花は何処へ向かう

「つまりローヴェルさんがお探しだった同じ境遇の者…それが【ディオニュソス・ファミリア】団長フィルヴィス・シャリアであったと?」

 

「ええ。直接本人の反応を確認してはっきりしたわ」

 

 アリーゼとフィルヴィスの対談から翌日。

 

 フィルヴィスとの対談の中で一つの合意をまとめ上げたアリーゼの分身はその情報を【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院にてアミッドと共に共有していた。

 

 

 それは即ちアミッドもアリーゼの秘密を共有していたという事実を示していることと同義。

 

 

 この秘密の共有こそがアミッドがアリーゼに積極的に協力する由来だったのだ。

 

 それはともかくとして二人の話題はフィルヴィスの話へと進んでいく。

 

「…確かにローヴェルさんは迷宮都市(オラリオ)の希望を探すと同時に何処かに同じ境遇の者がいるから見つけ出すと仰っていた記憶はありましたが…たったの二週間足らずで本当に見つけ出してしまうとは。正直驚きです」

 

「話さなかったかしら?私の頭には時折変な声が響いてくるの。その声が同類が存在することを確かに告げていた。幻聴かどうかは私にだって分からなかったけど、その声に導かれてと言うべきかもしれないわね」

 

「…医学的にはそのような幻聴が生じる理由は全く分かりませんでした。そうなればローヴェルさんの…境遇が原因と捉えるローヴェルさんの判断は間違っていなかったのでしょう」

 

 アリーゼには声が聞こえていた。

 

 どこからともなく聞こえてくる薄気味悪い囁き声である。

 

 その原因を治療師であるアミッドは最後まで独力では解明できず、アリーゼの辿り着いた答えである『怪人(クリーチャー)』化したことが原因だと認めざるを得なくなっていた。

 

 アミッドは色々とアリーゼのために偽り事を口にする他なくなっていたのだが、治療師としての無力感だけは一切の偽りは含んでいなかった訳である。

 

 そしてアリーゼもアミッドも知る由もないがのだが、アリーゼの聞いた声の主は『穢れた精霊』。

 

 

 ―仲良クシアマショウ?

 

 ―空ガ見タイノ

 

 ―私ノ願イヲミンナデ叶エマショウ?

 

 

 アリーゼはそんな声に日々脳内を蝕まれていた。

 

 繰り返し繰り返しアリーゼの行動を規定しようかとするかのように脳内に響く声にアリーゼは必死に抗っていた。

 

 同時にその声の繰り返す『ミンナ』という言葉から同類がどこかに存在することとその同類との接触を望んでいるかのようだとアリーゼは理解したのである。

 

 よってアリーゼは自らの好奇心…そして自らの希望を見出すためにその声に従うことにした。

 

 その声の主が何を望んでいるのかは聞かされる声だけでは分からないアリーゼにとって唯一の手掛かりに思えたから。

 

 これもまた迷宮都市(オラリオ)中を歩き回っていた理由の一つだったのだ。

 

 これがリュー達と行動を別にし、身を隠さざるを得なくなった理由の一つでもある。

 

 アリーゼの境遇を軽々しく周知させる訳にはいかないことをアリーゼもアミッドも重々理解しているのだから。

 

 だからその声の主の目的を探り出すまではアリーゼは隠密行動に徹せざるを得ない。

 

 だがアリーゼが身を潜めている間にも形勢は静かに動き始めていたのだ。

 

 

 他でもないアリーゼとフィルヴィスの接触の影響を受けて。

 

 

「…それで彼女とはどのような話を?彼女達による派閥連合への協力はローヴェルさんの依頼の影響で?」

 

「…え?派閥連合…?まさか【ディオニュソス・ファミリア】が?」

 

「はい…先程ゴジョウノさんから連絡が。本日欠席した派閥連合の会合の議事録にそのようなことが記されていました。そして中立から協力に突如転じた理由が分からぬとライラさんが危惧なさっていたそうです。ローヴェルさんがご関係なさっているのではないので?」

 

「いいえ。私と派閥連合は一切無関係だとシャリアには伝えたはず。シャリアもあの後特に派閥連合に関しては言及しなかった…一体何を考えているのかしら…少なくとも私とシャリアの間の合意の中に派閥連合に関しては一切含まれてないわ」

 

「となると誰にも【ディオニュソス・ファミリア】の意図が掴めないのですか…」

 

 アミッドの派閥連合への言及にアリーゼは顔を顰めることでしか答えることしかできない。

 

 アリーゼと秘密を共有し、事前にアリーゼがフィルヴィスと接触することを聞かされていたアミッドはアリーゼが関係していると読んだ。

 

 だがそれはアリーゼからすれば見当違い。

 

 結果【ディオニュソス・ファミリア】の意図は謎に包まれたままということになっていしまったのである。

 

「…一応ライラと輝夜には【ディオニュソス・ファミリア】の動向には注意するように伝えておいて。私が直接依頼した訳ではなくとも私の接触が関係しているのは間違いない。リオンと今後も交渉を進めることになるんでしょうけど、リオンでは彼女達が悪意を抱いているか否かまでは流石に見抜けないと思うから」

 

「承知しました。お二人に警戒すべき旨をお伝えしておきます」

 

「ごめんなさい。その辺りの事情を把握しているのがアミッドしかいない以上アミッドを頼るしかない。色々迷惑ばかりかけて本当にごめんなさいね」

 

「いっ…いえ。お気になさらず」

 

【ディオニュソス・ファミリア】への警戒を怠らないようにアミッドに念を押した後、アリーゼはそう謝罪すると共に彼女らしくもない塩らしく力のない笑みを浮かべる。

 

 アリーゼの謝罪をアミッドは首を振って断るもアミッドの反応も芳しい…とは言い難くなっていた。

 

 それでもアミッドは話を途切れさせることだけは避けた。

 

「では…ローヴェルさんがお話になったのが派閥連合に関してではないのなら、一体どのようなお話を?」

 

「簡単な話よ。私の先輩とも言えるシャリアに全ての真実を教えてくれるように頼んだ。私が何者なのか。私はどういう存在なのか。その全てを」

 

「…っ!」

 

 アリーゼの言葉の意味が分からぬアミッドではない。

 

 フィルヴィスがアリーゼにとっての先輩であるというのは『怪人(クリーチャー)』としての先輩に当たるという意味。

 

 胸の中に魔石を埋め込まれた存在となったアリーゼは一体どういう存在なのか。

 

 アリーゼは人間なのかモンスターなのか。

 

 アリーゼの身に起きた全てをアリーゼは知ることを欲しているとアミッドは瞬時に理解した。

 

 そしてアリーゼがその全てを知った後に…どのような選択をするか一切読めないという薄ら寒ささえ覚える恐怖をアミッドは感じずにはいられない。

 

 結果その恐怖に動揺したアミッドはアリーゼに返す言葉を見失う。

 

 そんなアミッドの動揺に気付いてか気付かずかは分からない訳だが、アリーゼは淡々と続けて言った。

 

「そしてシャリアが言うにはその答えはダンジョンにある…そう言われた。そしてその答えを教えるためにシャリアはダンジョン探索の提案をしてきて、私はそれに乗った。これから治療院に残すこの分身以外は私自身含めてダンジョンへ向かうことにしたわ」

 

「シャリアさんと…ダンジョンへ…?宜しいので?」

 

「アミッドの心配はよく分かるわ。でもシャリアの説明に多分嘘はないわ。私自身の経緯を踏まえても答えはダンジョン以外に考えられない。とは言え派閥連合に関しては気になるわ。…リオンに近づいて一体どういうつもりなのかしら?情報収集か…それとも私に対する人質か…【ディオニュソス・ファミリア】の手札が見えない以上今の私にはどうとも言えない。その辺りが読めない以上警戒は怠れないわね」

 

 アリーゼはそう自らの分析と共にアミッドに今後の動向を伝える。

 

 ただアリーゼの説明にアミッドは動揺を未だに抑えられない様子で震えた声を発することしかできない。

 

 冷静沈着にアリーゼは振舞っているが、アミッドはアリーゼの振る舞いをそのままに受け取ることはできなかった。

 

 アリーゼの説明した動向には答えを手にいた後のことが一切含まれていない。

 

 確かにその答えがアリーゼ自身にとっても不明である以上その後のことなど考えられないのは当然のこと。

 

 だとしてもアリーゼが脅威になり得るか否かをアミッドには知る義務があると彼女は確信していた。

 

 なぜなら今のアミッドは迷宮都市(オラリオ)の希望を取り戻すために結成された派閥連合の一員。

 

 もしアリーゼが迷宮都市(オラリオ)の希望の脅威足り得るなら見逃すことは決してできない。

 

 アミッドはずっとその厳然たる事実から目を背けてきたと言っていい。

 

 アミッドがアリーゼの命を救い、自らの治療院に匿った時からずっと。

 

 前へ前へ進もうとし、リューの事を慈しむように語る目の前のアリーゼのことをずっと信じようとしていたと言うべきか。

 

 アミッドはアリーゼをどうしても迷宮都市(オラリオ)の脅威とみなしたくなかったのだ。

 

 派閥連合の主軸たるリュ―の心の支えであるという意味でも。

 

 アミッド自身の心情という意味でも。

 

 だがアリーゼはアミッドの予想を遥かに超える速さで答えへと近づいてしまった可能性が高いと明らかになった。

 

 もうアミッドは判断を遅らせることができない。

 

 目の前のアリーゼだけでなくアリーゼの全てと向き合わなければならない。

 

 その覚悟を決めることからアミッドはもはや許されず…だからアミッドはその覚悟をようやく決めた。

 

 アリーゼの説明中沈黙を保ったのはアミッドが覚悟を決めるために必要な時間であったのだ。

 

 そして…アミッドの動揺と心境の変化をアリーゼは説明の最中注意深く観察していて…見逃すことは決してなかった。

 

「そういえばアミッド…ずっとあなたに聞いてなかったことがあったわね」

 

「…何でしょう?」

 

 

「どうして私を助けたの?」

 

 

「っ!?!?」

 

 アリーゼは遠慮もなく核心を突いた。

 

 なぜそうまで自らに警戒しているのに助けたのか…いや、殺さなかったのかとアリーゼは暗に問いかけたのだ。

 

 アミッドの覚悟を…万が一の際はアリーゼの命を奪うという覚悟をアリーゼは見抜いていたのである。

 

 衝撃のあまり目を大きく見開き動揺を深めてしまったアミッドはアリーゼの問いに答えられなくなる。

 

 そのためかアリーゼは遠くを見るような目をして続けた。

 

「…目を覚ました時の最初のアミッドの表情…今でも忘れられないわ。あなたは明らかに私のことを怖がっていた。同時に敵か否か判断に迷っているようにも見えた。私が初めて突き付けられた視線だったと言ってもいい。仕方ないわよね。今の私は少なくとも人間ではない。最悪な捉え方では言葉を話すモンスターよ。その反応が当然だと言うべきなのかもしれない。もちろん私のような完璧美少女をモンスター呼ばわりだなんて絶対許せないけれどね」

 

「…」

 

「だとしても…あなたは私を信じようとしてくれた。私がどういう存在なのか全て理解した上で私を受け入れてくれた。正直嬉しかった。あれ以来最初に会ったのがあなただったという偶然のお陰だったとしても…私は少なからずアミッドの信頼に救われてる。どうして?どうして私を助け、そして信じ、私の力になってくれてるの?もしよければ…この機会に教えて欲しいと思う。あなたが私という存在にどのような感情を抱いているのかを」

 

 アミッドは言葉も出ずただただアリーゼを見つめるだけ。

 

 それでもアリーゼは語り続けた。

 

 その言葉にアリーゼの本心が全て詰め込まれていたからである。

 

 治療師であり全てを最初に知ってしまったアミッドにはアリーゼの命を奪う機会なら幾らでもあった。

 

 にもかかわらずアミッドはアリーゼを助けた。

 

 それだけではなくアリーゼを信じると伝え、アリーゼの行動を全面的に支え、アリーゼの思いが実現するように尽くしてくれていた。

 

 リューの派閥連合結成への努力とアリーゼの希望を探す旅への努力の双方を引き出した功労者はアミッドであることは疑いようもない事実だ。

 

 アリーゼの全てを知った上での行動とは思えないほどの貢献をアミッドはアリーゼに果たしていたのである。

 

 アミッドのそんな行動の数々の源泉をアリーゼが知りたいと思ったのはある意味当然と言うべきなのかもしれない。

 

 アリーゼはアミッドにそう尋ねた後彼女の反応を待つべく口を閉ざした。

 

 そうして続いたしばらくの静寂の後に。

 

 アミッドはゆっくりと自らの思いをゆっくりと吐露し始めた。

 

「…怖かったです。いえ、今でもローヴェルさんのことが…怖いです。あなたはモンスターなのかもしれない…今はこうして陽気に人間らしく振舞っていても…いつかは本性を露にして私に襲い掛かってくるのかもしれない…それどころか迷宮都市(オラリオ)を滅ぼすべく動き出すかもしれない…そうなれば迷宮都市(オラリオ)を滅ぼす大罪を犯したのは私ということになります。…私自身の判断が正しかったのか誤っていたのか…それを考えるだけで私は夜も眠れなくくらい…今でも怖いです。恐ろしいです」

 

「…だとしてもアミッドはずっと私のそばにいてくれた。私の話を他愛のない話でも真面目な話でも辛気臭い話でも全て聞いてくれた。どうして?私のことが怖いなら近づきたくもないはずよね?迷宮都市(オラリオ)のためを思うならすぐにでも殺すべきだったのかもしれないわよ?それだけの脅威とみなされることを…私は気付いている」

 

 アミッドが最初に吐露したのはアリーゼへの拭いきれない恐怖であった。

 

 その恐怖をアリーゼは真正面から受け止めつつも尋ねた。

 

 アリーゼの疑問も自覚も間違っていない。

 

 アリーゼは本来今生きているべき存在ではない。それをアミッド自身理解している。

 

 だからこそ恐怖を抱きつつもアリーゼと向き合い続け、アリーゼを信じ続けているアミッドの意図が読み取れないのである。

 

 アリーゼとアミッドに長い付き合いはない。この秘密を共有したことで急速に深まった関係であることは疑いようがない。

 

 もしかしたらリューであったら、迷宮都市(オラリオ)の脅威であろうとアリーゼを助けようとしてしまうかもしれない。そうアリーゼは思う。

 

 だがアリーゼの真実を知っているのはリューではなくアミッドである。アミッドがこのような行動を起こした動機がアリーゼには皆目見当がつかなかった。

 

 よってアミッドの動機は彼女自身の言葉によって語られることになる。

 

「…そうです。今のローヴェルさんは迷宮都市(オラリオ)にとっての脅威です。それはあなたを助けると決めた際…ディアンケヒト様にも厳しく指摘して頂きました」

 

「それでもアミッドは私を助けた。それもディアンケヒト様の協力まで引き出し、ギルドの介入を阻止して」

 

「その通りです。私は…ローヴェルさんを信じたかったのです。『大抗争』の時…いえ、これまでのローヴェルさんを遠目とは言え見ていたからこそ…私はローヴェルさんを信じ続けたいと思ったのです」

 

「これまでの…私…?」

 

 アミッドの告げたのは漠然とした答え。

 

 アリーゼへの信頼。

 

 その信頼が何によって生み出されているのかアミッドのこれだけの説明ではアリーゼは把握できない。

 

 そのためアリーゼは首を傾げつつもすぐに口を閉ざし、アミッドの説明の続きを待った。

 

「…ローヴェルさんとの以前のお話でもお話ししましたね?迷宮都市(オラリオ)には希望がないと。迷宮都市(オラリオ)には希望が必要だと」

 

「…確かに何度もそういう話をしたわね。それが私に関係があるの?」

 

「ローヴェルさんなら迷宮都市(オラリオ)に希望をもたらすことができるかもしれない。私は今でもそう信じてたいと思っている…いえ、私はローヴェルさんによって希望がもたらされると信じています」

 

「私が迷宮都市(オラリオ)に希望…?買い被り過ぎだわ。私自身の希望さえ見いだせない私が迷宮都市(オラリオ)に希望をもたらすなんて。アミッドはこの境遇も迷宮都市(オラリオ)の現状も全て乗り越えて、迷宮都市(オラリオ)に希望をもたらす…そう思っているの?」

 

 アミッドの信頼の由来はアリーゼが迷宮都市(オラリオ)に希望をもたらしてくれるのではという期待。

 

 アリーゼがその期待は過大過ぎると、自嘲するように切り捨てる。

 

 それでもアミッドは言葉を重ねた。

 

 彼女自身の言葉にあったようにアミッドは遠目とは言えアリーゼを見ていた。

 

 そしてアミッドはこの三週間アリーゼと秘密を共有し、遠目に見るだけでは分からぬことを数多知ることができたからである。

 

 だからこそアミッドの中のアリーゼへの期待は簡単に潰えることはなかった。

 

 アミッドは断固とした口調とアリーゼから背けることのない真摯な視線と共に言った。

 

「ええ。そう思っています。なぜなら私は『大抗争』の時にローヴェルさんが人々に希望をもたらし、私自身希望を賜った経験者であるからです」

 

「…『大抗争』?あの当時迷宮都市(オラリオ)をまとめていたのは【勇者(ブレイバー)】で…」

 

「確かに【勇者(ブレイバー)】が『大抗争』を勝利に導いたという評価は揺るがないでしょう。戦略でも戦術でも【勇者(ブレイバー)】は闇派閥(イヴィルス)を圧倒していました。ですがその評価は戦闘のみにおける評価です」

 

「あの当時の私も無我夢中で戦ってただけのつもりだったけど…私は違ったとでも言うの?」

 

「はい。私の目からは違うように見えました。ローヴェルさんは…そして【アストレア・ファミリア】は冒険者だけでなく迷宮都市(オラリオ)に住む全ての人々に希望をもたらしていました。リオンさんの言う迷宮都市(オラリオ)の団結がもし実際に『大抗争』の頃存在していたと捉えるなら、それを当時成し遂げたのは間違いなくローヴェルさんです」

 

「やっぱり…買い被りね。私にはそんなこと自覚ないもの」

 

「証拠はあると記憶しています。当時一部の難民キャンプが【勇者(ブレイバー)】の指示を拒否するなど迷宮都市(オラリオ)の民衆は【勇者(ブレイバー)】を希望たる存在とみなしてはいなかった。あの当時迷宮都市(オラリオ)は自壊寸前だったのは間違いのないこと」

 

「確かに…そんなこともあったわね。あの時の迷宮都市(オラリオ)も間違いなく希望を見失っていた」

 

「ですが民衆を守るために立ちあがった【アストレア・ファミリア】と闇派閥(イヴィルス)の戦闘を境に風向きは変わり…迷宮都市(オラリオ)は希望を取り戻すと共に『大抗争』での勝利を勝ち取りました」

 

「その経緯を踏まえれば…そうね。ええ。認めるしかないのかもしれない。私一人の力では当然ない。けれど…先に行動を起こしたリオンとそのリオンを追って動いた私が風向きを変えるきっかけつぃての役割を果たしたのかもしれない、と」

 

 アミッドは確固たる態度でアリーゼの『大抗争』での活躍を語る。

 

 そしてアミッドの熱のこもった語りにアリーゼは認めるしかなかった。

 

 自らで経緯を振り返ってもアリーゼ一人でという解釈は買い被りだとしてもリューとアリーゼ、そして【アストレア・ファミリア】が動いたことで風向きが変わったという事実は揺るがないと言うべきである、と。

 

 確かに戦闘では勝利に導いたのはフィンだ。フィンの戦術・戦略的判断なくして『大抗争』その勝利はあり得ない。

 

 

 だとしてもアリーゼの示した指導者としての力量は決してフィンの活躍に見劣りするものではなかった。

 

 

 アミッドはアリーゼの力量を自らの経験を以て見込み、期待していたのである。

 

 アリーゼはアミッドの期待を受け止め、そしてとうとう納得することになった。

 

「【勇者(ブレイバー)】よりも格上扱いなんて…ライラに聞かれたら罵倒されそう」

 

「少なくとも私にとっては迷宮都市(オラリオ)のために現在行動を起こそうとしない【勇者(ブレイバー)】よりも必死に【勇者(ブレイバー)】の希望を取りも戻すべく行動を起こしているローヴェルさんとリオンさんの方が当然格上ですよ」

 

 アミッドの遠慮のない賛辞にアリーゼはいつものように冗談のように受け流すこともできず、苦笑いで応じる。

 

 そしてアミッドはいつものように自信満々に振舞うことができていないアリーゼへの賛辞の言葉を彼女を激励するためにどんどん連ねた。

 

「言うなれば私にとっての今の希望はローヴェルさんとリオンさんです。今の迷宮都市(オラリオ)を団結へと導き、希望をもたらすことができるのはローヴェルさんとリオンさんに違いありません」

 

「そうね…今のリオンは…希望足りえるだけの力を発揮していると思う。派閥連合がリオンの力の証明ね。流石は私のリオン。本当に…本当に成長したわ。色々不安はあるけど…それでも私のリオンは本当に凄い」

 

「そしてそのリオンさんの心の支えであるローヴェルさんもまた希望足りえるということです。リオンさんにとっての希望はローヴェルさん…あなたですから」

 

「それもその通りだわ。だからこそ…リオンのためにも私は私自身の希望を見つけ出さなければならない」

 

 そうして辿り着いたのはリューに関して。

 

 今のアリーゼはいつものように自画自賛はできなくとも、リューに関しては感慨深く語ることできた。

 

 アミッドはそんなアリーゼの感慨にリュ―の中で如何にアリーゼの存在が大きいか付け加える。

 

 彼女の言葉にアリーゼは改めて自らが希望を見つけ出す意味を再確認させられ、真剣な表情を浮かべる。

 

 するとアミッドはアリーゼをじっと見つめたまま締めくくりとしてアリーゼへの率直な思いを言葉にした。

 

「『大抗争』の頃からずっと私にとっての希望で憧れは…ローヴェルさんでした。私の憧れの方なら…私含めて多くの方に希望をもたらしたローヴェルさんなら。人前では笑顔にし不安をもたらさないように天真爛漫に振舞う一方で陰では希望とは何かを悩むローヴェルさんなら。悩みながらも前へ前へ進んでいこうとお考えになるローヴェルさんなら。私は如何なることがあろうとローヴェルさんを信じ続けます。私がローヴェルさんをお助けしたのはその決意の現われです」

 

「…そう。大真面目な様子でアミッドにそう言われると照れるわね。ありがとう。」

 

「…なので…どうか私の希望と憧れを奪わないでください。大変身勝手な望みです。ローヴェルさんの希望に私などが口を挟めるはずもないことは分かっています。それでも…リオンさんのため…迷宮都市(オラリオ)のため…僭越ながら私のため…最良の希望を見出してください。これが私のローヴェルさんにお伝えできる精一杯の言葉です」

 

「…分かった。確約は正直できない。だとしても…アミッドの言葉をこの胸にしかと刻んでおくわ」

 

 アリーゼはアミッドにとって希望であり憧れ。

 

 アミッドとしても本人の目の前で口にするのはとても恥ずかしいものであったに違いない。

 

 だとしてもアミッドはアリーゼにきちんと伝えなければ後悔するかもしれないと考えた。

 

 一方の受け取るアリーゼは笑って受け流すことはできないため、頬を赤らめて照れつつもお礼を告げる。

 

 そしてアミッドの続けた彼女の精一杯の言葉を真剣な表情と重々しい頷きで受け取る。

 

 アミッドが恥も気にせず自らの正直なアリーゼへの想いを伝えたのはアリーゼが僅からながらでも最悪な選択を選ぶ抑止力になることを願ってである。

 

 アリーゼがリューとアミッド、そして迷宮都市(オラリオ)にとっての希望であり続けること。

 

 それがアミッドの願いであり、ここにはおらず今は巡回に励んでいるであろうリューの願い。

 

 恐らく二人だけではない。

 

 輝夜やライラも同じことを願っているはずとアリーゼは自覚している。

 

 アリーゼは彼女達の思いも受け止めた上で自らの希望を見つけ出さなければならない立場だ。

 

 アミッドを前に彼女に不安を与えることが分かっていてもアリーゼは確約はできなかった。

 

 なぜならアリーゼ自身この後自らに如何なる真実が晒され、自らが如何なる決断を下すか皆目見当がつかないからである。

 

 それでもアミッドの言葉を…そして彼女達の想いを胸に刻んで希望を探し続けるということだけは誓うことができた。

 

 

 アリーゼを待ち受ける真実が如何なるものか…

 

 アリーゼが如何なる決断を下すことになるのか…

 

 それは導き手たるフィルヴィスしか…いや、彼女さえ知らないのかもしれない。

 

 全てはこれよりアリーゼとフィルヴィスが赴くダンジョン探索において決することになる。




アリーゼさんはアミッドさんの憧れ。
これは三周年に一切登場していないアミッドさんに関してなので完全独自設定です。
言うなれば怪人化したアリーゼさんを助けた私が治療師としてアリーゼさんを助けたアミッドさんに感情移入しているとも言えるのでしょうね。

ただアリーゼさんに対する評価は揺らがぬと思います。
三周年でも明らかに【アストレア・ファミリア】は迷宮都市(オラリオ)の希望として描かれていました。
その希望が失われた原作はどれだけ迷宮都市(オラリオ)にとって悲惨な状況なのか…という点はともかく。

アリーゼさんは自らがどういう存在なのか全く理解していません。
なぜ魔石を埋め込まれたのか等々の外伝12巻で暴露された全ての事柄を。
だからアリーゼさんは一つ一つの突き付けられる真実と向き合いながら自らに希望があるのか否か、もしくは希望が如何なるものなのか見出していくことになります。

そして今作では初めてのフィルヴィスさんの登場にして重要人物化です。
フィルヴィスさん…そしてその裏にいるディオニュソス様の思惑が一切読めないのが怖い所。
【ディオニュソス・ファミリア】の動向も【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】、ギルド、リュー率いる派閥連合の動向と並んで重大な要素となることでしょう。
フィルヴィスさんは敵なのか味方なのか…それともそういう次元では捉えられない存在なのか。
その答えを導き出すのはアリーゼさんです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。