星乙女達の夢の跡   作:護人ベリアス

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ちなみにサブタイトルは正式には『網の目に風たまる』ということわざでした。
意味は『ありえないことのたとえ』
そして風は今作内ではただ一人の少女の比喩

つまりはリューさんは成し遂げた、ということです。


風は網の目にたまる

「てめぇら!?もっとスピード上げろ!!道案内に置いてかれるぞ!!とにかく走れ!!」

 

「どんだけ急げってんだよ!!ボールス!!あの女に追いつけなんて無茶言うな!!あの女は俺らと違って第二級冒険者だぞ!!

 

「あの女にもっとスピード落とさせろぉ!?追いつける気がしねぇぞ!?というか一切後ろ振り返らねぇしよ!!道案内する気あんのか!?」

 

 野太い怒号が回廊に響き渡る。その声は檄として後方に向かって飛ばされ、急かしに急かす。

 

 だがそれに応ずる後方を走る冒険者達は悲鳴混じりに泣き言を抜かし、スピードは一向に上がらない。

 

 この冒険者の一団は18階層にあるリヴィラの街の冒険者で急ごしらえで編成された二十人足らずのパーティ。

 

 その先頭を走るのがボールスと呼ばれたリヴィラの街の頭とも言える男であった。

 

 よってこの一団の中でも自動的に指揮官的立ち位置で指示を怒鳴り散らしている訳だが…

 

 生憎指揮官は指揮官でも行軍スピードを決める権限は持ち合わせていないのが問題であった。

 

 お陰で指揮官たるボールスでさえ維持することが厳しい行軍スピードを要求され、今のように怒鳴り散らしてでも仲間の脚を早めさせなければならないという事態に陥っていた。

 

 それもこれも道案内のはずの女…スピードにかけてはオラリオで5本の指に入りかねない暴走妖精(リュー)が滅茶苦茶なスピードで突っ走っているからで…

 

 さらに言うとこの一団の中で誰もその暴走妖精(リュー)にそのスピードを変えさせられない…というか第一前提として追いつけないという詰みの状況。

 

 結局指揮官たるボールスが面倒事を被って全員の欲求を擽ってでも走らせる以外に選択はなかった。

 

 ということでボールスは半分は手慣れたような謳い文句で仲間達を釣るべく怒鳴った。

 

「なこと言っていいのかお前ら!?場合によっては賞金首が転がってんだぞ!!【ルドラ・ファミリア】の幹部に掛けられた賞金お前らも知ってるだろうがぁ!!【疾風】が全部独り占めしてもいいのか!?あぁ!?」

 

「「ぐぅ…糞が!!賞金よこせぇぇぇ!!!」」

 

 …そしてその謳い文句は仲間達に絶大な効果をもたらした。それこそ限界突破したのではと疑うほどに。

 

 結果一応は少し責任を果たせたボールスは後方を走る仲間達から前方へと視線を移し…そして舌打ちをした。

 

「ちっ…俺は何やってんだか…女に絆され面倒事に首を突っ込んで…【疾風】めっ…くっそっ…」

 

 そう悪態を吐くボールスの視線の先に小さく見えるのは緑色の点。

 

 …距離が開きすぎてこれは道案内なのかという悪態は流石にボールスも控えた。

 

 なぜならボールスはその一応は道案内ということになっている暴走妖精(リュー)の事情を知り…半分はその言葉通り女に絆されて今全速力で走っているのだから。

 

 いつもは屑のボールスの意外な女性に優しいという一面が後々リヴィラの街で噂になる…そうも考えられたが…

 

「テメェら!!約束通り賞金は全部俺らで山分けだぁぁ!!!!遅れた奴の分は全部俺が頂く!!だから死ぬ気で付いてこい!!」

 

「「「おぉぉぉ!!」」

 

 …ただ残り半分は賞金目当てで協力したという事実は揺るがず。

 

 その汚さを敢えて示す屑発言はこれまでずっと屑を突き通してきたボールスには不可欠だった。

 

 結局この屑発言がボールスの協力した唯一無二の理由ということでリヴィラの街の中での結論は落ち着くことになるだろう。

 

 …それが別の理由(リューに絆されたから)を隠すためだったか否かはボールス本人にしか…いや、ボールスにさえも分かっていないかもしれない。

 

 そんな摩訶不思議な想いがこの短期間に暴走妖精(リュー)が生じさせたか否かは尋常ではないほどどうでもいいとして。

 

 この一団が今中層の回廊を駆け抜けているという事実。

 

 確固たるリューの手に入れた成果。

 

 

 なんとリューは本当にアリーゼの信頼に応えてしまったのである。

 

 

 …その経緯はともかく。

 

 あとはアリーゼがリューの期待に応えたか否か。

 

 それだけが問題であった。

 

 その答えがもうすぐリューの元に届けられる。

 

 

 

 ⭐︎

 

 

 

 22階層。

 

 23階層。

 

 24階層。

 

 立ち塞がるモンスターを両断する。

 

 階段を駆け下りる。

 

 回廊を走り抜ける。

 

 そんな行為の繰り返しを最速で進めても尚次の瞬間に辿り着けていないことがリューにはもどかしかった。

 

 だがリューはいつになく高揚もしていた。

 

 

 私はやり遂げた!

 

 私はアリーゼの信頼に応えた!

 

 

 リューは心の中でそう叫ぶ。

 

 今は姿を見つけられないアリーゼに向かってリューは何度も何度も心の中で叫んでいた。

 

 そしてそれは寸分たりとも偽りではなかった。

 

 リューは輝夜とライラをリヴィラの街に送り届け、リヴィラの街において二人に応急処置を施してもらうことができた。

 

 さらにリヴィラの街に【ヘルメス・ファミリア】団長アスフィ・アンドロメダが居合わせたのはもはや僥倖としか言いようがない。

 

 お陰でリューは安心して輝夜とライラをアスフィに任せ、地上にある【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院への移送を依頼することができた。

 

 そうして後顧の憂いを断ったリューの尽力はまだ終わらない。

 

 リューはボールスを説得し、急ごしらえとは言え二十人もの冒険者を集めてみせたのだ。

 

 その冒険者達がアリーゼの求めた熟練冒険者と言えるかはかなり怪しい所ではあったが…それでもそれは完全なる快挙だった。

 

 リューがそんなことを成し遂げられるなど仲間である輝夜とライラでさえ思いもしなかったこと。

 

 それだけの快挙をリューは成し遂げてしまっていたのだった。

 

 だがアリーゼの信頼に応えるために為すべきことをリューはまだ完遂した訳ではない。

 

 アリーゼは戦力を求めていた。

 

 …仲間達の生命を奪ったあの怪物と戦うための戦力を求めていた。

 

 だからリューは一刻も早くアリーゼの元にその戦力を、応援を連れて行かなければならなかった。

 

 一刻の猶予もない。

 

 その猶予はアリーゼの遅滞戦闘による時間稼ぎが作り出してくれる貴重な貴重な時間だから。少しも無駄にできない時間だから。

 

 だからリューは走り続けた。

 

 身体が疲労と怪我のせいで悲鳴を上げようとも。

 

 希望が失われないか…アリーゼがいなくなってしまわないか…そんな恐怖に襲われながらも。

 

 リューは前へ前へと必死に脚を進めた。

 

 そして…

 

 

 25階層。

 

 

 アリーゼと別れた階層。

 

 辿り着いた。リューは辿り着いた。

 

 走りながらアリーゼの姿を見つけようと目を凝らす。

 

 それと同時にあの怪物が彷徨いていないかにも警戒を払う。

 

 そうしてもうしばらく走り、アリーゼと別れた場所に辿り着くかという時に。

 

 リューは嗅ぎ取った。

 

 リューは何かが焼け焦げる臭いを嗅ぎ取った。

 

 …アリーゼ…かもしれない。

 

 そうリューは直感した。

 

 なぜならアリーゼは二つ名の【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】の謂れである炎の 付加魔法(エンチャント)を使いこなす第一級冒険者と並ぶ実力を誇る冒険者だから。

 

 アリーゼなら…戦力などなくともあの怪物を撃破してしまったのかもしれない。

 

 アリーゼなら…あの怪物を呆気なく焼き払ってしまったのかもしれない。

 

 そんな理想を心に抱きつつリューはさらに走るスピードを上げる。

 

 段々と強くなる焦げ臭い臭い。

 

 だがアリーゼの姿は見当たらない。

 

 壁面に残された焦げ付いた跡。

 

 …これがアリーゼとあの怪物の間で起こった激戦の跡であるのは疑いようもないこと。

 

 だが…アリーゼの姿は見当たらない。

 

 アリーゼと別れた場所にもそろそろ辿り着いたはず。

 

 だが…アリーゼの姿は…見当たらない。

 

 リューの中で焦燥感が漂い始める。

 

 リューの心を絶望が侵食し始める。

 

 リューの心から希望が消え始める。

 

 

 …違う。あり得ない…あり得ない!

 

 アリーゼが…裏切るはずはない!

 

 

 増していく焦燥感と絶望を追い払い、消えていく希望を引き止めるためリューは心の中で叫ぶ。

 

 だが進めどもアリーゼの姿もあの怪物の姿も見つけられない。

 

 リューは思わず叫んだ。

 

 絶望を追い払い、希望を失わないために叫んだ。

 

 意味があるはずもない叫びを。

 

 リューはその思いをアリーゼに届けるために叫んだ。

 

「お願いですっ!!アリーゼ!!私を…私達を見捨てないで!!」

 

 そして…

 

 その叫びは偶然か必然かアリーゼの元に届いた。

 

 

 リューは地に俯せに横たわるアリーゼの背を見つけることができたのである。

 

 

「…っ!?あっ…あぁ…アリーゼッ…アリーゼ!?」

 

 アリーゼの周囲には血溜まりができていた。

 

 アリーゼの足下には剣身が折れ、原型の半分以下の長さしか保っていないアリーゼの愛剣が捨て置かれていた。

 

 だがリューにはそんなものは目にも入らず。

 

 それこそ直前まで払い続けていた警戒心さえも忘れて、横たわるアリーゼにリューは駆け寄っていた。

 

 リューは自らの戦闘衣も手も血で染まることなど構うことなくアリーゼを抱き上げていた。

 

 そうして俯せから仰向けに態勢を変えられたことでリューの視界に映るアリーゼの顔。

 

 アリーゼの瞳は…閉じられていた。

 

「そんなっ…違うっ…違うっ…!アリーゼッ…目を開けてください!!アリーゼッッ!!」

 

 リューはアリーゼの名を声の出る限り叫ぶ。

 

 アリーゼの意識が…リューにとって一番大切な少女の意識を呼び戻すため必死に叫ぶ。

 

 だが…アリーゼは応えない。

 

「しっかりしてっ…アリーゼ!!私はっ…あなたを信じたのに!!私はあなたの信頼に応えたのに!!どうしてあなたはっ…ねぇ!?アリーゼ!!」

 

 何度も何度もリューはアリーゼに呼び掛ける。

 

 リューからはどんどんと滴が溢れる。

 

 その滴はアリーゼの顔に雨のように降りかかる。

 

 だが…アリーゼは応えない。

 

「おっ…おい…どうした【疾風】…何事だっ…ってそっ…そいつは… 【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】…か?」

 

「ねぇ!!ボールス!!アリーゼがぁ…アリーゼがぁ!?」

 

 リューが泣き叫ぶ中ようやく追いついてきたボールス達リヴィラの冒険者達の一団。

 

 リューに散々振り回された彼らはようやく立ち止まってくれた暴走妖精(リュー)に愚痴の一つも溢しそうになるが…

 

 目を閉じたままのアリーゼと彼女を抱くリューの姿に…誰もが言葉を失った。

 

 いや、正確にはボールスが間髪入れずに指示を飛ばし何も言わせなかった。

 

「…テメェら。せっかく【疾風】がくれた休息時間だ。無駄口叩いて休息を疎かにすんなよ。それで後で愚痴を垂れられても俺は一切責任は取らねぇ」

 

 そうとだけ言い残すと、ボールスは一団から離れアリーゼとリューの元に近寄り、二人を見下ろしつつ尋ねる。

 

「…呼吸がねぇのか?心臓が止まってんのか?おっ死んだのか?【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】は?」

 

「アリーゼが…!アリーゼが…」

 

「質問に答えろ!!【疾風】!!喚いてるだけじゃ【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】の状況が俺らに分かんねぇだろうが!!」

 

 ボールスの確認にアリーゼの名を呼び続けることしかしないリューにボールスは怒鳴る。

 

 それが単なる泣きじゃくる少女への苛立ちからか…

 

 それとも絶望に堕ちかける少女を少しでも前へ進ませるための喝だったか…

 

 それは誰にも分からない。

 

 ただ言えることはリューがそのボールスの怒鳴り声のお陰で僅かながらでも涙を抑え冷静さを取り戻すことができたということであった。

 

「わかり…ません…」

 

「ちっ…おい。【疾風】。【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】の腕を貸せ。脈を測る」

 

「なっ…あなたなどにアリーゼに触れさせ…」

 

 リューの回答にボールスは舌打ちをしつつ跪くと、リューに抱き抱えるアリーゼの腕を貸すように求める。

 

 そんな唐突で不躾で不埒な求めに潔癖なリューはアリーゼを誰にも触れさせないと拒絶しようとするが…

 

「じゃあ抱き抱えて泣き喚くだけのオメェに脈測れんのか?…俺にやらせろ。【疾風】。この意味…分かるだろ?」

 

「…っ…うっ…お願い…します…」

 

 リューは…その求めに応じ、ボールスがアリーゼの腕に触れることを頷きと共に許した。

 

 それはボールスが敢えてアリーゼの脈を測ることを買って出たか分かったから。

 

 …脈を測ったその結果は…アリーゼ・ローヴェルの生死判定に他ならなかったから。

 

 ボールスはリューにそれができるかと尋ねた。

 

 …自らの判断でアリーゼの死を認められるか…自らの判断でアリーゼを死なせることができるか…そう尋ねたのだ。

 

 明らかなボールスによるリューへの気遣いだった。

 

 リューも時は必要であったがすぐに察し、自らにはできない…そう結論を出したからこそリューはボールスを引き止めるのをやめた。

 

 リューはアリーゼに心の中で男性に触れさせてしまうことを心苦しく思いつつ、頷きと共にボールスに許したのだ。

 

「ちょっと静かにしてろよ。集中する」

 

 そう言うと、ボールスは目を閉じ本当にアリーゼの脈を測るために全集中を傾けた。

 

 それはいつも舐めた態度で悪事を働いたり、悪態を吐きまくるボールスらしくなくて。

 

 その誠実さまで若干感じさせるボールスの態度にリューは意外さを感じつつもボールスの導き出す診断を固唾を飲んで待つ。

 

 それからしばらくして。

 

 ボールスが目を見開いたその時。

 

 ボールスは静かにその診断を告げた。

 

 

「おい… 【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】…マジで生きてんぞ」

 

 

 それはリューにとっては天啓だった。

 

 アリーゼは生きている。

 

 アリーゼはリューを見捨てなかった。

 

 アリーゼはリューの信頼を裏切らなかった。

 

 それはリューにとって今すぐ歓喜してもいいくらいの喜ばしい事実。

 

 …ただボールスの言い方が少々不味かった。

 

「…何です?まさか…アリーゼが生きているのが問題かのような…そんな口調に聞こえましたが気のせいですか?」

 

「…いや…そうだろ?闇派閥(イヴィルス)の野郎どもだけでなくお前らまで皆殺しに近い方で殺った怪物相手に【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】一人で戦って生き残るとか…こいつが一番の怪物じゃねぇのか?」

 

「アリーゼは…怪物ではない…訂正しろ!!」

 

「というかこの出血量で普通に脈あるとか訳分かんねぇよ。ついでに言うと、これで意識が戻らん理由も分からん」

 

「では…試しますか?どれだけ血を流したら命を失うか…?」

 

「おい待て…その目マジじゃねぇよな!?俺を殺る気じゃねぇよな!?」

 

 …ボールスの不適切な発言はリューを泣きじゃくる少女から殺意を燃やす女殺人鬼へと変貌させてしまった…らしい。

 

 その変貌の理由がリューが本当にボールスに殺意を覚えたからか。

 

 それともボールスに泣き顔を見られてしまったという恥を覆い隠すために意地を張ったからか。

 

 それはともかくアリーゼの生死が判明したことはリューとボールス達に次の段階への道を拓いたことと同義だった。

 

「とっ…とっ…ともかくよ?【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】が生きてるのが分かった以上、こいつは他の仲間と同じく応急処置の上治療院に移送すればいいな?」

 

「…ええ。頼みます」

 

 ボールスの恐る恐るの確認とリューの不機嫌さを残したままの合意によってアリーゼの移送が決定される。

 

 ボールスは適当な女性冒険者を選び、分け前をきちんと払うことを条件にアリーゼの移送を強制した。

 

 その強制に加えリューが彼女に深々と頭を下げて頼んだことによりその女性冒険者は目を丸くしつつもアリーゼを抱え来た道を駆け戻って行った。

 

 だがリューとボールス達の役割はまだ終わりではない。

 

 なぜならアリーゼはきちんと最後にリューに為すべきことを言い残していたから。

 

「…ではこれより最初の件の怪物との交戦場所に向かいます。第一目標はその怪物の撃破。そのために気をつけるべきは…」

 

「分かってるよ。そいつの機動力は【疾風】以上だから奇襲を最大限警戒し、密集隊形は控えろ…だったか?【狡鼠(スライル)】が言うには?だからってお前だけあんなに先行する理由はないよなぁ?【疾風】さんよぉ?」

 

「…すみません。アリーゼのことが心配でつい…」

 

「まぁいいさ。ただしこっからはしっかり俺らの盾として働いてもらうから覚悟しとけよ?」

 

「…そういう取り決めなので当然です」

 

 リューとボールスはアリーゼが運ばれていくのを見届けると、ゆっくりと立ち上がり互いに確認を取り始めた。

 

 アリーゼは戦力を集めてあの怪物と対抗すると言い残した。

 

 確かにリューはアリーゼ救出を大きな目標として戦力を集めていたが、無論それだけではない。

 

 よって急ごしらえで集めたこの戦力をあの怪物との戦いに投入するのはボールス達とも織り込み済みであり、きちんとライラの授けた対処策を共有するという準備まで整えてあった。

 

 …ただその対処策に見事に暴走妖精(リュー)が従っていなかったという事実を白日の下に晒すための確認でもあって。

 

 ボールスは散々走らされたという意味でも嫌味を投じ、リューは平謝りする他なくなる。

 

 と言ってもリューの暴走の理由を知るボールスはそれ以上責めなかった。

 

 きっとこれもボールスによるリューへの気遣いだったのだろうが…

 

 後に続くリューを酷使する気満々の発言がせっかくの気遣いの心理的効果を見事にぶち壊す。

 

 それに複雑気味な表情でリューは応じつつ続けた。

 

「そして第二目標は念には念を入れての【ルドラ・ファミリア】の生き残りがいないかの捜索」

 

「おう!それが俺らの一番の楽しみよ!何個賞金首が転がってんだかワクワクするぜ!!」

 

「…死体が原型を保っていない可能性もありますが、大丈夫でしょうか?」

 

「…おい。それ聞いてねぇぞ。賞金首か判別付かなかったら無駄足じゃねぇか。…まぁゴリ押しで賞金は掻っ攫うか」

 

 次にリューが告げたのは【ルドラ・ファミリア】の残党の捜索。

 

 リュー達は結局命辛々の逃亡だったため、明確に全滅したのかは確認が取れていない。

 

 場合によっては何らかの事情で生き残っている者もいる可能性がある。そんな可能性を踏まえての第二目標。

 

 一方のボールス達は言うまでもなく【ルドラ・ファミリア】の幹部達に賭けられた賞金目当て。

 

 …少々リューとの間で認識の錯誤があったが、それは恐らく大丈夫であろう…ということにされる。

 

 そして最後にリューはボソリと告げた。

 

「…第三目標は…私の仲間に生存者がいないか確認すること」

 

「…先に言っておくが…期待はしない方がいいぜ。正直言ってあれは【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】の運が化け物じみてるだけだ」

 

「だからアリーゼは化け物ではないとっ…!まぁいいです。…分かっては…います。ですが…せめて…遺品…だけでも…」

 

「…おう。そうしろ」

 

 これも取り決め通りだった。

 

【ルドラ・ファミリア】の残党の捜索と同時に遂行できるが…第三目標の達成は絶望的なのは明白であった。

 

 それを敢えてボールスはリューに念を押すように告げるが、リューもそこに関しては意地を通すことはなく。

 

 二人の確認は静かに終わった。

 

 そうなれば次の行動は決まりきっていた。

 

「…行きましょう。私達は私達の為すべきことを為さねば」

 

「【疾風】の言う通りだ。テメェら!!休息は終わりだ!!こっからは今度こそ【疾風】の護衛付きで突っ走るぞ!!面倒なモンスターは全部【疾風】に押し付けてもいいとの【疾風】のお達しだ!!」

 

「…っ。ええ…約束通りきっちり引き受けましょう。これよりは課された役割を忠実に果たします」

 

 リューが決意の言葉を告げる。

 

 それに続くようにボールスが行動再開を宣言する。

 

 …その宣言にリューは少々の苛立ちを見せつつもボールスの言葉に箔を付ける。

 

 こうしてリューとボールス達は惨劇を引き起こした怪物に再び挑むべく行動を再開したのであった。




ボールスさんをどう説得したのリューさん!?
…は、次には状況まとめと共にその経緯はしっかりと説明するのでご都合主義とか思わないでくださいね?
リューさんのライラさんお姫様抱っこに始まる衝撃行動の数々の一つなので…それ自体ご都合主義というツッコミはアウトです。今作のリューさんは少しずつ変わってるんですから。原作の偏屈リューさんとは一味違うんです!…まぁ実際は意外と変わってない設定なんですけどね。

尚ジャガーノートに関して補足を。
13・14巻で一気に情報が出てしまったので気付きにくいかもしれませんが、現状リューさん達はジャガーノートに関しての情報をほとんど有していません。ついでに言うとウラノス達でさえこの時期ではまだ情報は欠如しているはず。
よって本来『ジャガーノート』なる呼称は現状存在していないと考えるのが適切かもと思ってます。
そのため一度は『ジャガーノート』という呼称を用いたものの、原則怪物・モンスターという曖昧な表現を通すように切り替えました。

ちなみに先に言うと今後のリューさんの行動に復讐という要素はあまり含まれません。
理由は原作でも触れられた通りリューさんの行動は正確にはただの八つ当たりだったから。本当の仇は闇派閥ではなくジャガーノートですからね。
今のリューさんは原作よりは少しマシな状況で一定の冷静さを保っています。
希望と絶望の配分は非常に微妙な所ですが、少なくとも復讐という概念を原動力に行動しないだけの冷静さは持っています。…と言っても暴走はリューさんには避けられないので原動力が変わるぐらいですがね。(=今後暴走することには変わりない)

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