星乙女達の夢の跡   作:護人ベリアス

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荒ぶ風が辿り着くのは希望か否か

「…この治療院に入院しているアリーゼ・ローヴェルという女性との面会を希望します。お取次を」

 

「アリーゼ…ローヴェルさんですか?【アストレア・ファミリア】の団長様…ですよね?その方は当治療院には入院されていないですが…」

 

 やはりそう返答されるか。

 

 リューは納得しつつも心の中で深い深い溜息を吐く。

 

 リューが今いるのは【ディアンケヒト・ファミリア】が運営する治療院の受付。

 

 治療待ちの患者と同じように律儀に順番を待っていたリューはようやく受付に呼ばれると、開口一番にアリーゼとの面会を希望した。

 

 だが受付を担当していた【ディアンケヒト・ファミリア】の女性団員には以前アストレアが返された反応と変わらぬ反応を突きつけられる。

 

 アリーゼのことは知っていても、リューが何を言っているのか皆目検討がつかないと言わんばかりの困惑した表情。

 

 アストレアの推測通り末端の団員には情報さえも共有しない情報統制が敷かれているという事実をリュー自身の目と耳で確認する羽目になった。

 

 だがそもそもアミッドははっきりアリーゼを受け入れ治療したと言ったのだ。ならばこの治療院にいないはずがない。

 

 その確信がある以上リューはここで引く訳にはいかなかった。

 

 …どうやら穏便なやり方では話が通らないらしい。

 

 早々にやり方を変えるという結論を導き出したリューは…腰に手を掛けた。

 

「ひっ…いっ…一体何のつもりですか!?」

 

「…アリーゼに…いえ。【戦場の聖女(デア・セイント)】に会わせてください」

 

 リューは口調では丁寧に要求を述べる。

 

 だが口調以外では丁寧さなどもはや欠片も残っていなかった。

 

 腰に手を掛けたのは木刀を引き抜くため。

 

 受付の女性が悲鳴を上げたのはその木刀の矛先が彼女の首先に向けられたため。

 

 周囲の空気が一気に凍りつく。

 

 リューは本来越えてはいけない一線を本当に越えた。

 

 

 リューは武力を以てアリーゼの居場所を割り出すことに決したのだ。

 

 

「こっ…ここは治療院です!!人を癒すための場!そのような場所で武器を抜くとは何事ですか!?そのようなことをされても私達はその方の居場所などお答えできません!」

 

「…あなたは知らないかもしれません。ですが【戦場の聖女(デア・セイント)】は知っている」

 

「誰が武器を振りかざす無法者に団長を会わせるものですか!!あなたは【アストレア・ファミリア】所属の方ですよね?正義の眷族ですよね?にも関わらずのこの狼藉…恥を知りなさい!!」

 

「ぐっ…」

 

 だがいくらアリーゼの安否を知るためとは言え、リューには当然常識的な良心が残っている。

 

 そのため受付の女性の正論はリューの心に刃となってグサグサと突き刺さる。

 

 彼女の声は震えていたが、リューには木刀を突き付けられても尚怯まずにキッとリューを睨み付けている。リューの脅しになど屈しないとその態度で示していた。

 

 その精悍な態度に周囲も同調し始め、リューに冷たい視線を突き付ける。

 

 何が起きているか把握し難いとは言え、リューの行動の異常さは一目瞭然。

 

 隙を見てリューを取り押さえようと動こうとする者まで現れ始める。

 

 …この状況では逆にリューの方が根負けして木刀をそのまま振り下ろして、その場から尻尾を巻いて逃げ出しかねなかった。

 

 それだけでは済まずリューが取り押さえられて目的を果たせないどころかそのまま【ガネーシャ・ファミリア】に突き出されかねない。

 

 だがリューはリューで賽を投げてしまった以上引くことができないことは理解している。

 

 何よりリューがここまでしているのは全てアリーゼとファミリアのため。

 

 人一倍アリーゼとファミリアを愛するリューは良心と戦いつつも自らの態度を貫き通した。

 

「…そうです。私はアストレア様の眷族です。この狼藉…本来アストレア様の名を汚す行いでしょう。ですがこれもまた私にとっては正義です。大切な仲間の、大切な友人のことを思い行動することもまた正義です!だから私は引かない!御託はいい!!早く【戦場の聖女(デア・セイント)】に会わせなさい!!そしてアリーゼの居場所を早急に教えてください!!」

 

「だからそんなこと許せるわけっ…!!」

 

 自らの強硬な態度を貫き合い、言葉をぶつけ合うリューと受付の団員。

 

 二人の激突はすぐには収束する気配がない。そうかに見えたが…

 

 

「皆さん。それ以上はお控えください!!ここは治療院です!!騒ぎは許しません!!」

 

 

 その瞬間別の女性の声が受付の周辺に響き渡る。

 

 その声にリューも受付の女性のも周囲で二人の動静を見守っていた人々も一斉に視線を動かす。

 

 そこにいたのは、リューが面会を望んでいたアミッド・テアサナーレその人であった。

 

「リオンさん。ここまでされては致し方ありません。お話があるので私に付いてきてください」

 

「しかしっ!」

 

「ファミリアの皆には後ほど事情をお話しします。なので今は何も言わずリオンさんと二人で話させてください。決して不測の事態に繋がることはありませんから。そして治療をお待ちの方々には騒ぎに巻き込んでしまい、申し訳ありません。これはちょっとした私とリオンさんの私怨による問題でした。見苦しい場面をお見せしてしまったこと。謝罪致します」

 

 アミッドは姿を現した途端リューには面会を承諾し、反発するファミリアの仲間を宥めると共に周囲の人々には謝罪を以て一気に鎮火に持ち込み騒ぎを収束に導く。

 

 そして謝罪として深々と下げていた頭を上げると、リューに視線を向けて言った。

 

「では行きましょう」

 

「…ええ」

 

 アミッドは淡々とリューに同行を呼びかけてくる。

 

 アミッドの呼びかけにリューは不信感の宿った視線を返しつつも素直に従うことにした。

 

 

 

 ⭐︎

 

 

 

「それで?一体どういうおつもりで?彼女の言っていた通り正義を司る【アストレア・ファミリア】の眷族たるリオンさんによるあのような狼藉…可能な限り居合わせた方々には口止めを依頼しますが、評判の低落は避けられないかと」

 

「…私をそこまで追い込んだのはあなたです。【戦場の聖女(デア・セイント)】。彼らも口止めではなく口封じにするのではなくて?」

 

「…どうしてそのように敵意を含んだ視線で睨むのですか?リオンさん?私が何をしたと?」

 

 前にリューとアミッドが治療しながら同じようにアリーゼと輝夜とライラに関してを話した診察室。

 

 そこはアミッドが嫌でも気付くリューの敵意剥き出しな態度によって険悪な雰囲気に包まれていた。

 

 リューの敵意に応じるアミッドもリューの態度に理不尽だと言わんばかりの不快感を見せ、その態度が尚のことリューの敵意を駆り立てる。

 

「あなたが何をしたか…?とぼけないでください!?あなた方はアリーゼと輝夜とライラをどうするつもりなのです!?早く会わせてください!!」

 

「だから以前お話しした通り輝夜さんとライラさんはともかくアリーゼさんとの面会は不可能だと…」

 

「ならばアストレア様による輝夜とライラとの面会希望を断ったのですか!?それもこの治療院には入院していないと偽りまでして!!」

 

「そっ…それは…」

 

 そんなアミッドの態度もリューの一つ目の指摘によって僅かながらに崩された。

 

 リューの指摘がアミッドを動揺へと誘い込んだのである。

 

 それに手応えを感じたリューはさらに敵意の元になる証拠を並び立てて追い詰めようと言葉をぶつけ始める。

 

「アストレア様は三人と面会できないどころか入院したことさえ知らされなかったとお聞きしました!!アストレア様を前に偽るに留まらず情報を隠したのです!それがアストレア様は愚弄する行いであることは疑いようもないこと!あなた方【ディアンケヒト・ファミリア】こそ医療系ファミリアという立場を利用した狼藉に他ならないのでは!?」

 

「ちっ…違います!決してそのようなつもりはっ!」

 

「それだけに留まらず輝夜とライラには退院を拒否し、隔離に程近いやり方で入院場所を隠蔽している!!その上自らのファミリアの団員にも情報を共有しない隠蔽の徹底様…アリーゼに至っては私に会わせもせず自らの目で安否を確かめることさえできない!!私を騙すために一度会わせてくださったのでしょうが、もう騙されません!!輝夜とライラに…そしてアリーゼに何をするつもりなのですか!!教えなさい!!」

 

 リューは勢いのままに証拠を突き付けていく。どれもリューとアストレアの間で疑惑として生じていた内容だ。

 

 一方の証拠を聞かされるアミッドはまるで見に覚えがあるかのように反応に窮しリューに適切な反論ができていない。

 

 その様子にリューはよりアミッドへの敵意を強め勢いづき、遂には胸倉を掴んでアミッドに真実を話すように要求する。

 

 …そのやり口はそれこそ狼藉だったが、真実を知ろうと逸るリューには気付く余裕もなかった。

 

 そうしてアミッドはリューの激しい敵意と怒りの込もった要求を飲む。

 

 アミッドはリューのせいで息苦しさに苦しめられながらも言葉を何とか紡ぎ出した。

 

「…分かりました。…お話し…します。お話し…しますから。なのでその手をお離しください…リオンさんのお怒りの原因は把握したのでどうか…」

 

「あぁ…すっ…すみません」

 

 アミッドの承諾と懇願にリューはようやく落ち着きを取り戻し、やり過ぎたことへの後悔を表情に滲ませながらアミッドの胸倉から手を離す。

 

 お陰でアミッドは咽せながらも呼吸を整え、その様子にお申し訳なさを覚えたリューは直前までの怒りを脇に置きつつ謝罪した。

 

「…すみません。度が過ぎました」

 

「いっ…いえ。全て私の責任だと自覚しましたので、お気になさらず。リオンさんのお怒りの多くはごもっともかと。私にリオンさんの謝罪を受け取る資格はございません。私達の間で誤解が生じていたことをようやく理解しました。…申し訳ありません」

 

「…それはどういう意味なのですか?【戦場の聖女(デア・セイント)】…?」

 

 リューの後悔を含んだ謝罪を自らの責任だと言い受け取らなかったアミッドは目の前に置かれた机に額を擦り付けんばかりに頭を下げてくる。

 

 その唐突な慇懃な態度にリューは理解が追いつかず困惑させられ問い返す。

 

 リューの問いに、リューの暴走の原因の一部にアミッドはようやく答えた。

 

「まず…神アストレアに情報の一切を伏せてしまった形になったのは、彼女達の入院していることを知っているのが治療に直接関わった私とディアンケヒト様しかいないからです。あくまで私の意図は団員達に情報を伏せることであって、神アストレアを愚弄するつもりは一切ありませんでした。その点はどうか信じて頂きたいです」

 

「…そもそもなぜアリーゼ達の情報を伏せる必要があるのですか?そこにギルドが関与してる訳では…」

 

「なるほど…リオンさんはギルドの関与をお疑いで…ええ。確かにギルドからは彼女達を隔離するように指示を受けました」

 

「なっ…ならば!?」

 

「ですが治療師の誇りに賭けてリオンさんがお疑いのような危害を彼女達に加えるなどあり得ません。命を救うことを天職とする私達治療師がなぜそのような真似をするでしょうか?そのような疑いを抱かれたことは治療師として甚だ不愉快です」

 

「うっ…すみません」

 

 アミッドはリューに弁明をしつつも自らの誇りに関わる部分は躊躇なくリューを責める。

 

 それだけアミッドの治療師としての誇りをリューの疑いは傷つけた。そういうことであった。

 

 その言葉にリューは自らが言ってはならないことを口走ってしまったことを悟らされ、言葉を詰まらせるだけでなくついつい謝罪までしてしまう。

 

 同時にそのアミッドの決然たる表情にリューは察した。

 

 アミッドはアリーゼ達に危害を加えようという意図はない。リューには想像がつかなかった別の意図が存在するのだ、と。

 

「…ただリオンさんや神アストレアにそのような不安を与えてしまったのは私の責任です。それは認めざるを得ません。彼女達を隔離に程近い形で入院して頂き入院場所の情報を伏せたのは、ギルドがそれ以上介入してくるのを阻止するためでした。団員にも情報を伏せたのはギルドに情報が流れるのを可能な限り阻止するためです」

 

「…ギルドがどのような介入を?」

 

「事情を聴取するために治療が終わり次第早急に身柄を引き渡すように、と。正直言って思わずギルドに不信感を覚えてしまいました。ローヴェルさんは意識が戻らず、輝夜さんは義手が完成してもいない。治療師として治療の完遂を待たずに退院して頂くなど悪化の可能性を考えば論外です。にも関わらず身柄を引き渡すことはできないと伝えれば、隔離の必要があるとまで言い出し引き渡しを強いてくる始末。ディアンケヒト様とギルドの間では治療院での隔離という形で何とか手を打って頂きましたが…ギルドがあれほど躍起になっているのは彼女達の誰かが相当に深刻な情報を握っているから…ですか?」

 

「…ええ。恐らくギルドはアリーゼ達を傷つけ、大切な仲間達の命を奪ったモンスターの情報を掴みたいと同時にその存在を隠蔽したいのかと。そしてその情報の核心をアリーゼが握っている可能性がある」

 

「…その辺りのご事情は私達もギルドからの指示では把握できませんでした。お話し頂きありがとうございます。その辺りのご事情も踏まえて、ギルドには対応していきます。…ではさらなる話は場所を変えましょうか」

 

 アミッドの話で明確になったのはギルドの関与。

 

 …皆の予想通りギルドが裏で『ジャガーノート』の存在を巡って暗躍していたことがはっきりとした。

 

 同時にアミッドが隠すこともなくその裏事情を話したことの意味は大きい。

 

 そして輝夜とライラの退院の許可が下りなかったのは、治療師としての立場からであったことも分かり、リューの誤解も解ける。

 

 お陰でリューはアミッドへの信頼を少しずつ取り戻し始め、アミッドへ向ける態度が敵意から信頼へと少しずつ塗り変わる中アミッドは唐突に立ち上がっていた。

 

「えっ…一体どこへ?」

 

「決まっています。ローヴェルさんのお姿をリオンさんに確認して頂きます。そうすればリオンさんの誤解も完全に解けることでしょう。ちなみに輝夜さんとライラさんのお部屋は変えていません。なので後ほどお訪ね頂ければよろしいかと」

 

「ほっ…本当に案内してくださるのですね?」

 

「…致し方ないでしょう?そうしなければ、リオンさんには納得して頂けないようなので」

 

「…すみません。お願いします」

 

 アミッドは不快感を示しつつもリューにそう語りながら、そばに備えられた本棚に近付く。

 

 なぜ本棚に近付く必要があるかと思えば、アミッドは本棚の横板に両手を置いたかと思えば本棚を横から押し始める。

 

 

 現れたのは隠し部屋であった。

 

 

 医薬品や書物が並べられた棚とデスクと簡易ベッドしかない簡素な部屋。

 

 アミッドの診察室にあることからアミッドの隠し書斎なのだろうと想像される。

 

 だがそんな憶測を働かせる余裕さえリューにはなかった。

 

 なぜならその瞬間リューの視界に映ったのは…

 

 

 ベッドで眠っているアリーゼの姿だったからである。

 

 

「ァ…ァァ…アリ…アリーゼ…アリーゼ!!」

 

 リューの声が震える。

 

 リューの瞳には涙まで溜まってしまう。

 

 全てリューの心に溢れ返るアリーゼの姿を見れたことによる安堵と喜びのせいだった。

 

 ようやくアリーゼに会えたのだ。リューが感極まるのも無理はない。

 

 リューは思わずアリーゼの元に駆け寄ろうとする。

 

 だがアミッドは腕を伸ばし、リューの進路を遮りつつ告げた。

 

「リオンさん。ローヴェルさんの体調を慮るなら、それ以上お近づきになってはなりません」

 

「どうしてですか!?こんなにも距離があったら、アリーゼが本当に生きているか…」

 

「カルテなどお見せできるものは全てお見せします。なのでどうかご自重を。…私はリオンさんが後に後悔するのを見たくないのです」

 

 アミッドは唇を固く結び何としてでもリューがアリーゼに近付くのを阻止しようという強い意志を見せる。

 

 その意志からリューが汲み取れるのは…一つの不安だった。

 

「まさか…アリーゼの体調は芳しくないのですか…?」

 

「…まずはカルテをご覧になってください」

 

 アミッドはリューの不安に明確な答えで応えなかった。

 

 自分の目で確かめろとばかりに本棚にあったカルテをリューに渡し、リューを元の座っていた場所に戻らせる。

 

 カルテに目を通すリュー。

 

 気付いたのはある事実であった。

 

「…これはつまり…アリーゼは健康…ということですか?」

 

「ええ。…傷は完治し、体調には全く問題がありません。…にも関わらずローヴェルさんの意識が戻らないのです」

 

 カルテをザッと見たリューにも分かった。アミッドの記した診察の結果のどこを見ても問題点が見当たらないのだ。

 

 …にも関わらずアリーゼの意識が戻らない。

 

 その事実への戸惑いが…カルテの一文一文に現れているのがリューにも分かってしまった。

 

「…正直治療師としてこれほど口惜しいことはありません。私はいつどうすればローヴェルさんが意識を取り戻してくださるのか分からなかったのです…それだけでなく不用意な刺激がローヴェルさんの体調に異変をもたらすのでは、と危惧してもいました。なので私は一切の面会をお断りし、申し訳なさを感じつつも私の書斎を病室として使わせて頂いています。ここなら何の心配もなくローヴェルさんの治療に専念できますから」

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】…」

 

 アリーゼの意識を取り戻させることができないことへの悔しさを滲ませるアミッドにリューは掛けるべき言葉を見つけられない。

 

 自らの書斎で付きっきりで看病してくれていたと思われるアミッドをつい先程までリューは散々に責めて疑っていたのだ。リューは自らの浅慮を恥じることしかできなかった。

 

「…ただ輝夜さんとライラさんの治療を進める中で…私はようやく一つの答えに辿り着いた…そんな気がしました」

 

「二人の治療…何か関係があるのですか?」

 

 アミッドの言葉にリューは首を傾げる。

 

 アリーゼは意識がない一方輝夜とライラは怪我を負っているのであって意識がない訳ではない。

 

 治療法に関係性がないことをアミッドにリューが指摘するなどただの釈迦に説法だ。

 

 よってアミッドの辿り着いた答えは単なる治療法の話ではなかった。

 

「…リオンさん。お二人とお話になって、何をお感じになりましたか?踏み込んで申し上げるならば、どうして私が面会を止めたかお分かりになりましたか?」

 

「…二人は…絶望に飲み込まれ希望を見失っていました。それも私のせいで…」

 

「…事情は細かくは私には把握できませんでしたが、お二人が生きる気力を失っている…それは治療する私にも分かりました。輝夜さんは片腕を失われ義手を用意できようともかつてのような剣捌きは不可能です。そしてライラさんの失明は私でも治療の施しようがないのです。お二人とも冒険者として今後ご活躍することは…できません。お二人ともご様子から察するにご理解なさっている」

 

「それは…」

 

 アミッドが告げた残酷な現実はリューも気付いてはいた。

 

 リューにとっては二人が生きていてくれるだけでも嬉しいこと。

 

 だが輝夜とライラにとっては冒険者として戦えぬ生など絶望しかない。

 

 そこの意識の乖離が他者であるリューと当事者である輝夜とライラに横たわっているのは、リューも二人との面会で気付かされてしまったこと。

 

 だがアミッドの告げた事実はリューの知る事実よりもさらに残酷だった。

 

「…リオンさんはお気付きにならなかったかもしれませんが、あの部屋に凶器となりうる物は一切置いてありませんでした。…花瓶を用いるのは流石に予想外で冷や汗をかきましたが、今は本当に凶器となりうる物はあの部屋に残されていないはずです。…つまりはそういうことです。隔離をしている理由にはそんな側面もあります」

 

「そん…な…」

 

 リューは言葉を失い愕然とさせられた。

 

 アミッドは言葉をぼかしたが、そのぼかされた言葉の意味は嫌でも分かる。

 

 

 …つまり輝夜とライラはアミッドによって凶器を取り上げられなければ、命を断ちかねないとみなされていたのだ。

 

 

 それならば隔離しようという意図も納得せざるを得ない。

 

 輝夜とライラが命を断つのを防ぐためなら隔離も致し方ないとリューには思えてしまう。

 

 …逆に退院を望んだ輝夜とライラが死に急いでいただけなのではという疑いにまで辿り着く。

 

 

 二人をそんな心境に至らせたのは他ならぬリュー。

 

 

 リューは自らの判断が輝夜とライラをそこまで追い込んでしまったことを改めて自覚させられる。

 

 自らの判断が輝夜とライラを苦しめているという事実だけでも錯乱しそうになる。

 

 だがアミッドの指摘はこれだけでは終わらなかった。

 

「そして…私はローヴェルさんも同じなのではないかと考えました。体調に一切の問題がないにも関わらず、意識が戻らない…これは間違いなく精神的問題です」

 

「つっ…つまり…?アリーゼも…希望を見失っているの…ですか?」

 

「…」

 

 リューの恐怖の混じった確認にアミッドは無言で頷いて答える。

 

 …それはあってはならないことだった。

 

 希望をいつも【アストレア・ファミリア】に、そして迷宮都市(オラリオ)にもたらしていたアリーゼが希望を見失い、意識を取り戻さず現世から離れたがっている。

 

 これはリューにとって最悪な事実だった。

 

 なぜリューがアリーゼを助けようと思ったか?

 

 アリーゼを取り戻すことで希望を取り戻すためである。

 

 そうすれば輝夜もライラもリュー自身も希望を取り戻せる…そう思っていたのに。

 

 アリーゼの意識が戻らない。

 

 そのアリーゼが希望を失っているかもしれない。

 

 即ち詰みであった。

 

 輝夜とライラは希望を取り戻せない。

 

 リュー自身も希望を失う。

 

 

 【アストレア・ファミリア】は本当の意味で終わる。

 

 

 リューの中の希望が霞のように消えていく。

 

 アリーゼが目を覚さなければ…アリーゼが希望を取り戻せなければ本当に終わりだ。

 

 アリーゼが約束を果たしてくれるとリューは信じていた。だがアリーゼは目を覚まそうとしない。

 

 希望は…消えた。

 

 そう絶望の沼にリューが沈みかけた時。

 

 

 アミッドはある一言を口にした。

 

 

 ある意味この状況から考えれば当然のことで。

 

 アストレアが暗にリューに伝えていたことだった。

 

 それをアミッドが改めてリューに伝える。

 

 そしてリューに決断を求めようとした。

 

 全ては彼女達【アストレア・ファミリア】の希望を、そして迷宮都市(オラリオ)の希望を取り戻すために。

 

 

「ならばリオンさん。リオンさんが希望を取り戻すことこそ…彼女達の心の傷を治癒する唯一無二の治療法。…アリーゼさんと輝夜さんとライラさんの希望のため…そして迷宮都市(オラリオ)のためにどうかお立ち頂けませんか?」




妙に肝っ玉の凄い【ディアンケヒト・ファミリア】のモブ受付団員が誕生してしまった瞬間(笑)
この娘が後にアミッドさんだったと発覚するだと面白かったんでしょうけど、今回アミッドさんには色々と重要な役割を引き受けてもらう必要があったのでアミッドさんを配薬できず。
結果凄いモブが誕生することになりました。実際の所5年前の時点でアミッドさんが【ディアンケヒト・ファミリア】にいても団長かどうかは微妙な線ですからね〜団長と設定をするのには若干の躊躇はありました。(まぁ代役はオリキャラになるのも微妙なのですが)
ちなみにリューさんは原作では我を忘れてギルドの関係者にも手を下す徹底した暴走を行いましたが、今作では冷静さを保っているせいで原作ほどの容赦の無さは失い若干暴走も抑え気味になってます。

そしてアリーゼさんと輝夜さんとライラさんの絶望。
輝夜さんとライラさんの絶望は以前の回で説明した通り。
アリーゼさんの絶望はあくまでアミッドさんの推測ですね。ただ体調に問題ないなら、精神的なもの…という解釈が取れなくもない。まぁただの植物状態かもですけど。

ともかくアリーゼさんが命を落とすという事態は輝夜さん、ライラさん、そしてリューさんにとって最悪な事態です。それこそ希望が潰えたと思えるほどに。
ですがアリーゼさんを殴っても叩いても目が覚めるわけではない。

ならどうするか?という答えをアストレア様もアミッドさんも指摘してくれている訳です。
若干の迷走を挟みつつもリューさんは本格的に動き始めます。
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