これは物語じゃない。ただの独白だ。

タイトルなんて大層な物は存在しない。

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no title

放課後の教室。夕暮れの窓際。

その言葉だけで、人は『青春』の二文字が頭をよぎるだろう。

そも青春とは、ただの季節でありその意は『春』を指す。同様に、夏は赤、秋は白、冬は黒の色を持っている。

何故人は『青春』だけを切り取ったのだろう。朱夏も白秋も玄冬も、それぞれ意味合いは変わっていないのに。

だから俺は『青春』を可哀そうに思った。一人だけ仲間外れにされ、意味を剥奪されたその『春』を。

 

話を戻そう。

 

放課後の教室。夕暮れの窓際。

俺はそこで一人、眠っている。

誰もいない。誰も来ない。誰も気づかない。

一人だけの世界で、小さな世界だ。だけれど、一人が手の届く範囲はこのくらいが丁度良いのだろう。

放課後の教室。夕暮れの窓際。

まるで、自分が赤ん坊になった様な、そんな気分になる。殻に包まれ、黄身に包まれ、隔絶した世界を生きる者など、子供くらいだろう。

そんな子供の世界では、異物は淘汰される。出る杭は打たれると言うか、雉も鳴かずは撃たれまいと言うか、とにかく目立つ者は攻撃対象にされやすい。小さいことから大きい事まで、攻撃方法は様々だ。

子供は大人よりも残酷で、残虐で、悪質だ。倫理観が備わっていないから、物事の善悪も分からない。謂わば、未完成の人間、と呼称するのが正しいだろう。

勧善懲悪を謳う訳ではないが、俺はそんな子供が悪魔のように思えて仕方が無い。

 

話を戻そう。

 

そんな、一人だけの世界に異物が混じったのだ。

揺蕩うように眠っていた俺に話しかける存在が。

そんな異物は俺にこう問うた。

 

「こんな所にずっと居て、苦しくはないの?」

 

苦しくない訳がない。出来るならば、俺も此処から早く出て楽になりたいのだ。

永遠とも錯覚する時間、俺は此処にいる。

己が己を殺したこの教室に。

 

これは物語じゃ無い。独白だ。ただの独白、独り言。

孤独の一人芝居と言っても良い。

そう芝居だ。未練など有るはずもないこの場所に縛りつけられているなど、ただの茶番劇でしかない。

だから、俺に少しの間付き合ってくれ。

 

暇なんだ。

 

 

~~

 

 

俺は何処にでもいる男の子だっただろう。漫画が好きで、友人もそこそこいて、好きな人がいて。

当たり前に過ごしていた。当り前に生きていた。

春だった。本物の悪魔に出会ったのは。

 

目の前に同じ学校の女の子が二人、並んで登校していた。名前も知らない女の子だ。

俺の目の前をトラックが通り過ぎた。その瞬間、一人の人間の命は終わりを迎えた。

後から聞いた話だが、そのトラックの運転手は居眠り運転をしていたらしく、前方不注意だったそうだ。

問題はそこでは無い。一人の女の子が死んだ、事でもない。

一瞬、もう一人の女の子は、その血を被りながら笑みを浮かべたのだ。楽しそうに、幸せそうに。

あの瞬間まで友達だったはずだ、笑い合って楽しそうに話していたはずなのに。

友達が死んでいるのを確認した後に、その女の子は悲鳴を上げた。

まるで、それが正解であるように。正しい事をしているかのような絶叫だった。

 

俺は走って学校まで逃げた。事故からでは無い、あの女の子からだ。

女の子から逃げる男などカッコ悪いにも程があるが、そうしなければ感情を、自分を制御できなかった。

初めて、本当の恐怖を知った。

それからその日は何事もなかったが、鳥肌と冷汗は止まることは無かった。

 

次の日、俺は起きたら見知らぬ教室にいた。

俺の通っていた学校では無い。何処か、別の知らない校舎だ。

時計もない、扉も開かない。窓は開くが此処は四階だった。飛び降りれる高さでは無い。

誰が何時どうやって俺を此処に運んだなんて知らない。分からない事は語れないさ。

だが、誰の仕業かは分かっている。あの女の子だ。

女の子の事を今後はAと呼ぼう。何故って?そう呼べって言われたからさ。

何でか聞いたら素直に教えてくれたよ。『アンラ・マンユ』のAだとさ。

『アンラ・マンユ』って云うのは、拝火教の悪神だ。絶対悪って聞いた事無いかな。拝火教は善悪二元論を信じる宗教だ。その中でも人の悪性、破壊や滅びと云った物を司るのが悪神『アンラ・マンユ』。

 

つまりAは、自分の悪性を、異常性を理解していた。理解していたからこそ、普通を演じていた。

そんなの時に事故が起こった。笑い合っていた友達が目の前で死んだ。その時Aは悦を感じていたらしい。一瞬気が抜けて嗤ってしまったと、Aは言っていた。

その一瞬を俺に見られたものだから、誰かに話される前に俺を此処に監禁したのさ。

 

そこから語る事はあまりない。ただ食事を持ってきてもらい、食事をしながら会話をするだけ。

会話の内容もAの事とか、世間話とか、その程度だ。

食事を出される時で朝と夜の時間は把握できた。Aは必ず『おはようございます』と『おやすみなさい』は言うのだ。

挨拶は必ずする。Aの決めごとらしい。

Aは、自分の異常性を直そうとしていたのだ。自らを悪魔だと語り、それでも日常を過ごそうと。

Aの日常はいずれ崩れる。綻びが必ず出る。だから、俺がバランスを取らなければいけないと思った。

だから俺は自分を殺した。それでAが悦に浸れるなら、それでも良いと思った。

 

その後の事はあまり知らない。気付いたら同じ場所にいて、何処にも行けなくなっていた。

 

 

~~

 

 

「そうなんだ。それはきっとAも喜んだんじゃないかな」

 

「そうだろうか。良かった。君は喜んでくれたんだね」

 

俺がそう言うと、彼女は笑って消えていった。

 

さてと、外の桜を見に行こう。

きっと綺麗な青色だ。


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