読まなくなった本、魔導書、不要なスクロール、買い取ります! 作:竜田竜朗
引越し初日!①
ここはどこにでもある剣と魔法の世界。
その中でもこの街「オールヴェール」は大きくもなく、小さくもない。王都から離れたド田舎という訳でもなく、かと言って発展した都市でもない。本当に何の変哲もないただの街。
もし特筆する事があるとすれば、規律に厳しい名家オールヴェールの領土であるために治安が良い点だろうか。
平原のど真ん中に石を積み重ねて作った砦の中の街なので、魔物に街を荒らされたという話も中々聞かない。それ故に、街中はいつも賑わいを見せている。しかしながら、王都は元より港町等の貿易が盛んな街に及ばないのもまた事実だ。
そんな街の門の入口に、一人の少女が立ち止まった。大きなバッグを背負った、深紅色をベースに、所々黒い毛が目立つ、セミロングの髪の女の子だった。
「おぉー……」
少女は門を見上げた。自分の住んでいた小国と比べるまでもなく大きい門に感動を覚えた。ここまでの道中に二つほど町を通ってきたが、これまでの物は無かった。ここは南門と呼ばれる門で、他の三つの門と比べ一番小さいのだが、それでも彼女にとっては今まで見てきた中で一番大きい。
「おーい、お嬢さん危ないよ!」
門番から声が掛けられた。はっと気付いてみれば、ここは後ろから馬車が迫ってきている。大して速度が出ているわけではなかったが、彼等の通行を妨げるのは彼女とて本意ではない。
「すいませんっ!」
一言入れてから脇の歩道へと避け、そのまま門番の元へと向かった。
「こんにちは。君一人かい?」
柔らかい顔立ちの門番が、近付いてきた少女に声を掛ける。オールヴェールの正規装備である軽量な鉄の装備はピカピカに磨かれていて、それが門番の表情と相まって親しみやすい雰囲気を出していた。
「こんにちは!はい、私一人です!それと……えーと、これが通行証です」
少女も明るく元気一杯に挨拶し、服の内側のポケットに仕舞っていた一枚の羊皮紙を取り出して門番へと差し出した。通行証には彼女の名前と出身。それとこの街に来た理由が記されている。
「はい、確かに。えーと……よし、大丈夫。通っていいよ。これはこちらで預からせてもらうね」
「はいっ!お仕事、がんばってくださいね」
「うん。ありがとう」
門番に手を振ってから門を潜って進んで行く。それから彼女が目にしたのは、門と同じく、これまで見たことのない景色だった。
「すごい……人と……お店だ……」
メインストリートを眺めてみれば、そこら中が露店と人で賑わっている。道の真ん中は馬車がゆっくりと通行しており、時折すれ違っている。それほどまでに馬車道は広く、綺麗に整備されているのだ。
昨日、ここへ来る前に宿泊した町も馬車の通行はあれど、すれ違いなんて見たことは無かった。
「っと、見てる場合じゃないや。えっと……」
これからお世話になる場所へ、早いところ向かわなければと気持ちを切り替え、胸のポケットに突っ込んでおいた、行き方を記した紙を取り出して読む。略図と箇条書きの文字列が分かりやすく道のりを教えてくれた。
「まず、南門を背にして外壁沿いを右側に進む……と」
メインストリートから外れはするが、それでも活気づいた町並みであることには変わりなかった。壁沿い、つまり右側に建物は無いものの、左側の通路にはやはり店が並んでいた。中からは「お嬢さん見ていかないか〜?」なんて声もするが、小さく会釈して離れていく。興味がないわけではないが、悠長に店に入っている場合ではない。
「……これだ」
しばらく進んでいくと、【4番通り】と記された大きな看板が目に入る。そこから左に曲がる道が続いており、略図と文字を照らし合わせて見れば、ここを曲がって進むとあった。
曲がってしまえば残る工程はあと一つ。
「ここから右側の八件目だから……向こう側に渡らなくちゃ」
馬車の通過が無いことを確認してから、小走りで突っ切り反対側の歩道へ。
それからゆっくりと辺りを眺めながら歩を進めて行く。目的地には直ぐに到着した。
「…………ここだ……」
【MAGIC ON】
と記された、特に装飾も何も無い無骨なデザインの看板の書店が目的地だ。
他の建物と違うところと言えば、ここだけ木造ではないコンクリートで作られていて、一回り高い……大体ワンフロア分高くなっているくらいだろうか。
「……よっし」
気合いを入れてから、コンコンコンと三回ノックし、ドアノブを回して中へと入る。
「こんにちは……」
気合いを入れたのは良いものの、一旦中に入ってしまうとおっかなビックリ。視界に飛び込んできたのは綺麗に整理整頓された本棚の数々。店の奥までしっかり本で埋め尽くされていた。
少し視界を左にやれば、本とは違う紙を纏めて並べたコーナーがある。
紙のいい匂いが鼻孔を突き、賑わう外とは違うまったりとした空気が流れているが、それでも初めて見るその空間に圧倒されていた。
「いらっしゃいませ」
と、その雰囲気を崩さない、落ち着いた女性の声がした。声のする方向は右側。そちらを向けばカウンターテーブルで仕切られたスペースがある。そこに立ってこちらに視線を向ける女性が、声の主だ。
「……おや、もしかして君はアルカちゃんかな?」
長い黒髪と自分より少し背の高い女性に訊ねられた。自分の名前を言って来るあたり、やはりこの店で間違いはなかった。
「は、はい!アルカです!えーと、アルカ・コノエです!」
ビシッと背を正してから、少女──アルカは名を名乗る。
「オーナーから話は聞いているよ。ボクはここの店長、ユノ・グレイスロータって言うんだ。ユノって呼んで欲しい、よろしくね」
小さく微笑んで、女性──ユノも名乗った。
「じゃあ、ユノさん!今日からお世話になります!!」
「うん、こちらこそよろしくね、アルカちゃん」
アルカから見たユノの第一印象は、優しそうなお姉さん。艶のある黒髪は同性であるアルカから見ても綺麗だ。後髪は背中の中心より少し上まで伸びていて、前髪は6:4ほどで分けられている。書店の従業員らしいエプロンはこれまた書店の店員らしいページュ色。
対して自分は結構人の目を引く特徴的な髪色で、服装も赤と黒を基調とした格好。会って間もないが、女性らしいユノに憧れの念を抱いた。
「門まで迎えに行けなくてごめんね。オーナーが今外せない用事に出ていてね。もう戻ってくるとは思うんだけど……」
「いえ、お店も大きくて門からも近かったので、すぐ分かりました」
「そうかい?けれど……」
と、ユノが言葉を続けようとしたその矢先。ドアノブが回され、ガチャリと音を立てて扉が開かれた。
「ただいま」
ユノと似たような、落ち着いた低い声が店内に響いた。そちらへ視線を移せば、知った顔がある。
「ちょうど良かった。彼がここのオーナーだ」
というユノの紹介があった事で、この前あった人と同一人物だという照明がなされた。なので。
「お久しぶりですオーナーさん」
と、アルカはぺこりと頭を下げて挨拶をする。
「ン、久しぶり」
その相手のオーナーは、小さく頷いて言葉を返した。
オーナーの格好は、アルカはあまり見たことの無い物だ。どういう縫い方をされているのかなんて検討もつかない、珍しい素材の藍色のズボンに、薄そうな素材の黒いシャツに、何かの魔物の革で作られてそうなジャケット。この前見た時とあまり変わらない格好だった。
「あぁそうか、二人は既に面識があったね」
「はい、学園の入学手続きの時にわざわざ来てもらいました!」
先月、彼が自分の住んでいた村にまで来てくれたことを思い出しつつ、伝えた。
「あの時かな。何にせよ良かったよ、オーナーって目付きが悪いから、最初はギクシャクしちゃうかなって思っていたんだ」
「そ、そんな!お母さんから事前に話は聞いていましたし」
「……アルカ、それフォローになってないぞ」
「はっ!?す、すいません」
「ふふっ、なんだかもう馴染んでいる様だね、アルカちゃん」
なんてユノが笑顔で言った。「そんな……」なんて謙遜してみせるが、別に馴染むのは悪いことではない。何せこれから、少なくとも三年間はここに住むことになっているのだから。
アルカはオールヴェール魔導学園に通う。オールヴェールの地にあるその学園で魔法について学ぶのだ。それが最短でも三年間はかかる。アルカのいた村には学園がなかったので、彼女の母親のツテを使って、ここに下宿し学園に通うことになったのだ。
そして、その代わり、アルカはここでアルバイトをする。アルカとしては願ったり叶ったりだった。通いたかった学園に通える上に、住居も確保してもらう。アルバイトとして雇われるため、きちんと給料だって出るのだから、本当にアルカはこのお店に感謝していた。その意を込めて、アルカはもう一度挨拶をする。
「オーナーさん、ユノさん、改めてよろしくお願いします!!」
「こちらこそよろしく頼む」
「うん、よろしくね」
これが最初の三人でのやり取り。一体これからどういう経験をするのか、アルカにはまったく想像はつかなかったけれど。それでも、この二人と共に送る新生活は明るく楽しい、掛け替えのない物になると、そんな予感がしていた。
〜キャラ紹介的なやつ①〜
アルカ・B・コノエ
本作の主人公。身長155cmのちっちゃい元気いっぱいな感じの女の子。深紅の髪の毛に所々黒毛が目立つ。もみあげとか黒い。超絶ド田舎から引越してきたため色々疎い。魔物と戦うのが大好き。ミドルネームは自分でもなんであるのか知らない。
まだまだ序盤ですが何か気に入ったとか、気になるとか、印象に残ったキャラクターが居れば投票おなしゃす!
-
アルカ・コノエ
-
ユノ・グレイスロータ
-
ローゼ・オールヴェール
-
ノヴァ・ブランク
-
オーナー