読まなくなった本、魔導書、不要なスクロール、買い取ります!   作:竜田竜朗

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遅くなりましたorz


初出勤!

夢だと分かった。その瞬間から、今見ている夢がいつもの物だと理解する。

 

この夢で紅く輝く三日月が唯一の光源だった。だから目に映る物全てが紅く見える。

そこら中に散らばっている倒壊した木造の建物と、少し前まで動いていた魔物と人も、手についた液体も、紅く輝く三日月のせいで紅く見えてしまうのだ。

 

だが、ただ一つ、紅くない者が居る。紅い三日月を背にして歩いて近寄ってくるそれは影。この空間でその影だけが黒だった。その影が近付いてくるに従って、どこからか笑い声が聞こえてきた。笑い声は、ここが開けた外だと言うのに、部屋中に響くように至る所から聴こえてくる。

無邪気に、楽しく遊ぶ子供の笑い声に近いそれは、この空間においては異質だった。影が近付いてくれば、笑い声も近くなる。四方八方から聴こえてくる笑い声が、自分を囲み追い詰めるようにボリュームを上げる。

夢という曖昧な空間で、その影だけはハッキリとした実体を持っているかのように存在する。

 

だが、そんな影にも、笑い声にも、今更恐怖も湧いてこない。何度も何度もこの夢は見てきたのだから。

 

ピタリと、影が歩みを止め、笑い声も止まる。それを知っているのだ。これ以上、この紅い空間に立ち止まっていても意味は無い。時間だけが流れていく。自分が影を見つめ続け、影が自分を見つめ続ける。ただそれだけの無駄な時間。それが分かっていたから。

 

「……ふわぁ〜……」

 

と、大きな欠伸と共に体を伸ばして、アルカは目を覚ました。

 

「ん〜……よく寝たぁ……」

 

窓から射し込む陽射しがいい目覚ましになっていた。多くを語る必要のない、ただただ気持ちのいい朝だった。このままベッドの上に転がっていれば、甘美な悪魔と形容されてもいい二度寝への欲求が湧いてきてしまいそうで、非常に惜しくはあるが上体を起こす。

部屋に備え付けられた時計に目をやれば、7時を指していた。昨日言われた朝食の時間は7時なので、それはつまり。

 

「やっば!!」

 

急いで着替えを始める。遅れてしまうことには変わりないが、それでもゆっくりしている訳にはいかない。さっさと寝間着から私服へと着替えた。扉を開けて、早足で廊下を進み階段を下りていく。

 

「すみません遅れました!」

 

謝りながらアルカは二階のリビングに入った。リビングでは、オーナーとユノの二人が出来上がった朝食をテーブルの上に並べているところだった。

 

「おはよう」

 

気付いたオーナーが最初に挨拶して。

 

「おはようアルカちゃん。ちょうどいい所だったね」

 

それにユノが続く。

 

「おはようございます、すいません、もうちょっと早く起きる予定だったんですけど……」

「昨日来て、あんだけユノに連れ回されたんだからいいんだ。むしろ今日はよくこんな早く起きて来れたな」

 

と、オーナーがフォローする。

 

「確かに、アルカちゃんすごい体力だね」

「そうなんでしょうか?」

 

フォローをユノが補足して、それにアルカが首を傾げた。その頃には一通り食器も並べ終わっていて、アルカは一つも手伝えなかったことに罪悪感を残しつつも、席に着いた。

 

「「「いただきます」」」

 

その掛け声で朝食が始まる。今朝のメニューはバターロールが二つと目玉焼き、葉っぱ物の野菜にドレッシングをかけたものと、トマトのスープだった。

そこまで手間のかからないメニューではあるが、一つ一つがアルカにはとても美味しいものだった。

 

「そうだ。飯食べて身支度整えたら、一階に来てくれ」

 

料理を口に運び、咀嚼を終えるなりオーナーがアルカに切り出した。

 

「今日やってもらう仕事を説明する」

「了解です!あれ、でも午後からってお話じゃありませんでしたっけ?」

「その予定だったんだが、ちょっと俺の方で予定が入った。なんか出かける予定とかあったか?」

「いえいえ!むしろ午前中どうやって時間を潰そうか悩んでいたんです」

 

早いのも望むところだった。アルカとしては一秒でも早くこの店の戦力になりたいのだ。アルカの返事を聞いて、オーナーも「なら良かった」と頷く。

 

「オーナーの教えはね、厳しいよ?」

「えっ……い、いやそれでもがんばります!」

 

怒ってる様子なんか想像もつかないのだが、ユノがそう言うからには……と少し恐怖を覚えるも。

 

「厳しいのはお前の時だけだ」

「どういうことだい!?」

「……昔の自分を思い出せよ」

「うっ……」

 

なんて頭を抱えたユノ。アルカからすれば何がなんなのか全然分からない。

 

「別に難しい仕事を教えるわけじゃないから、変に気負わないでくれ」

「は、はい」

「……いやだってしょうがないじゃないか……あの頃は……ボクだって若かったんだし……」

 

アルカの返事が空返事なのは、食事を進めながらも何処か遠い目をしてブツブツと独り言を零すユノが怖かったからだ。なんだか負のオーラを纏っているように見えた。

 

「ブツブツ言ってないで早く食え」

「ぐぬっ……人の気も知らないで……」

 

昨晩も見た様なオーナーとユノのやり取りに、アルカは苦笑する。まだこの家に来てから24時間も経って居ないが、なんだか見慣れた光景になりつつあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから朝食をとり終わり、アルカとオーナーの二人は一階の書店のカウンター裏の、セパレートで外から見えないスペースに居た。そこで仕事で使う道具の支給を受けているのだ。メモ帳やペンなどの道具と、そしてなにより。

 

「……できました!」

 

そのスペースで、アルカは自分の背中の紐をきつく結び終えてから、オーナーに合図をした。それからオーナーと向かい合い、今着た物のシワを引っ張ることで少しだけ伸ばす。

 

「ン、これでいい」

 

粗方見栄えが良くなったところで、オーナーが小さく頷いた。

 

「……いいですね、このエプロン!」

 

着ているのは、ユノが付けていたページュのエプロンだ。【MAGIC ON】とプリントされただけで、質素なエプロンではあるが、これを着ているとなんだかここの一員にきちんとなったんだという気持ちが湧いてくる。

 

「なんてことない、ただのエプロンだと思うが、まぁ気に入ったなら良かった」

 

そう言いながら、オーナーは小さいテーブルの上に置かれた、一冊の冊子を手に取って、それをアルカに差し出した。

 

「こいつはマニュアルだ。店員としてやってく上で知っておかなきゃいけないことが粗方纏めてある」

「はいっ!」

 

アルカはそれを受け取り、手に取って冊子を開いた。中身は全部で15ページほど。絵や文章で分かりやすく解説されていた。

 

「まずアルカにはレジ──会計周りをやってもらう」

「……いきなりお金を扱う事をさせてもらっていいんですか?」

 

別にそんな気は毛頭ないが、お金を扱うことに関してはもっと信用を得られてからの方がいいんじゃないかと思った。

 

「構わない。一番簡単だし、それにうちは常連のお客様を相手にするのが殆どだ。だから、本の整理とか倉庫の整理とかしてもらう前に、レジに立ってお客様に顔を覚えてもらう方がいい」

「……そうですか」

 

イマイチその理由がアルカにはしっくり来なかった。

 

「……ンで、3ページ目を開いてくれ。……そう、そこだ」

 

アルカが冊子のページの下に下方隅に3と記されたページを開く。

 

「そこに書いてあるのはレジの使い方だ。そのページ開いたままこっちに来い」

 

言われるがままに、アルカはオーナーに従ってセパレートを抜け、カウンターの一番入口側に向かった。オーナーはアルカが今まで見た事のない物の前で足を止める。

 

「コイツの事をレジと呼ぶ。基本的に会計はこれでやってもらう。」

「レジ……ですか?」

「正式にはレジスターとかキャッシュレジスタとか色々あるらしいが。正直俺もよく分からないからレジだ」

「りょ、了解しました」

 

それでいいのかと心の中でツッコむ。

 

「これの使い方だが」

 

とそこで区切ってオーナーが辺り見渡す。何かを探しているようだったが、直ぐに諦め、何故か背中に右手を回した後に前に持ってくると、そこには一冊の本があった。

 

「商品がある」

「……はい」

 

一体その本はどこから出てきたのか。アルカには分からなかったが、オーナーはさも当たり前のように続けるので遮る気にはなれなかった。

 

「それでこれを、このレジの脇のゲートの下に通す」

 

言われて気がついたのが、レジと呼ばれるものの一番高いところ、頂点から銀色の棒状の物が伸びていた。オーナーはカウンターのテーブルとその棒の間の空間に本を滑らせる。そうすると、レジから「ピッ」という音がした。

 

「今の音が聞こえたら問題ない。レジの画面……こっちを見てみろ」

 

オーナーが指さした物、レジと呼ばれるものの平面の画面という部分に本のタイトルが記されていて、その脇に金額が出ていた。

 

「おぉ、すごい……」

「お客様に出された商品はこうやって通していく。次にこれを通して」

 

言いながら、またしてもどこから取り出したのか分からない別の本を潜らせた。先程と同じような音がして、画面にはさっき通した商品の下に別の商品が現れ、その値段も表示された。

 

「これで全部だとしたら、この画面の下に合計ってのがあるだろ」

「はい!」

 

オーナーに言われた画面の合計の文字を見つけ、アルカは返事をする。

 

「それ、押してみろ」

「えっ……ええと、こう、ですか?」

 

意味がわからなかったが、困惑しつつ画面の「合計」を押す。

 

「おおっ!?」

 

すると、画面の中に合計の金額と後は複数の何かが出た。何かと言うのも、「領収証発行」はまだ分かるが「ポイント利用」とか「クレジット」やらアルカの理解の及ばない単語が複数現れたからだ。

 

「そこの合計金額を伝えて、お金を受け取り、ここに投入口って書いてある穴があるだろ」

「これ、ですね」

 

レジの下の方に小さな穴が二つあるのを見付けた。片方は硬貨が入りそうだ。もう一つの穴はとても細長く、お金は入りそうにない。

 

「口の細い方は無視してくれ。この大きい方に硬貨を入れる」

 

言って、オーナーは懐から硬貨を取り出してその穴に放り込んだ。そうすると、画面の方で投入された硬貨の合計の金額が表示された。

今回の会計金額は500Z。オーナーが入れた金額は600Zだった。そこまでレジが読み取ると、画面に精算という文字が現れた。

 

「それでこの精算を押してくれ」

「はい!」

 

アルカは未知の道具ではあるが、とても便利というか、使いやすさが出ていて楽しくなってきた。ノリノリで画面の精算を押す。そうすると、余分に多く入れた100Z分のお釣りがレジの下の方から出てきた。

 

「それがお釣りだな。もちろんお釣りはお客様に返す。使い方は何となくわかったか?」

「はいっ!とっても便利ですね、このレジって言うの」

「……まぁそうだな」

 

一瞬口を詰まらせたオーナーだったが、頷いた。

 

「後はまぁ、そこに会話する上で言うことが書いてあるだろ」

「……いらっしゃいませ、ありがとうました……お預かりします……」

 

マニュアルに目を通せば、お会計の時に言う言葉が書いてあった。お客に失礼のない対応をする、そのための言葉遣いのマニュアルだ。

 

「別にまんまそれ通りにやれとは言わないし、よほど酷くなきゃ自分通りにやったっていい。ただもし、なんて言えばいいか分からなかったら、そこに書いてある言葉を使えばいい」

「なるほど……」

 

その辺は結構緩い。それこそ昨日歩いて回った店ではこれほどしっかりした言葉遣いの人なんか見なかった。絶対必要という訳では無いのだとアルカは理解する。

 

「……ンじゃまぁ取り敢えず実践するか」

「えええっ!?でもまだお店が──」

 

と、その時。ガチャっと音を立てて、店の前の扉が開いた。何事かと思ってアルカが扉に目をやると。

 

「本を買いに来たぞっ!」

 

なんか変な仮面を付けたユノが居た。

 

「ユ……ユノさん、何を……?」

「……ユノさんではないよ!お客様だよ!お客様が来たんだよ!」

「……えぇ……」

 

やたら鼻の長いおじさんの仮面を付けたユノが執拗にお客様をアピールしていた。仮面のせいで声が曇って聴こえづらい。恐らくだが、これが本当にお客様だった場合、接客ではなく人を呼んで憲兵に突き出すべきだろう。

 

「アルカ、気持ちは分かるが、これは練習だから……まぁ、がんばれ」

「……わ、わかりました」

 

オーナーもなんだか遠い目をしていたが、そういう事ならとアルカは気持ちを切り替えて。

 

「いらっしゃいませっ!」

 

と、元気よく放った。オーナーは小さく頷いた。

ユノの方も小さく頷くと、そのまま迷いのない足取りで店内の本の並んでいる所へ。そこで適当に三冊の本を手に取り、カウンターに来た。

 

「これください」

「あ、は、はいっ!お預かりします!」

 

と、アルカは本を受け取り、オーナーに言われた様に一冊ずつ、丁寧にレジの脇のゲートと呼ばれた所に本を潜らせていく。一つ一つ、画面に反映されていくのを確認しつつ、三冊全て通し終わったところで、画面下部の合計ボタンを押し、金額がを確かめてから。

 

「……と、三点でお会計が900Zになりますっ!」

「はい、それじゃあこれで」

 

言って、ユノは懐から1000Zの硬貨一枚をアルカへ渡した。

 

「1000Zお預かりします!」

 

丁寧に両手で硬貨を受け取り、レジの投入口へと1000Zを流す。レジは間違いなくお金を計算した。それを確認してから精算ボタンを押して、レジから排出されたお釣りの100Zを取り出す。

 

「こちらお釣りの100Zです!」

「うん、ありがとう」

 

お釣りを返してから、本二冊を両手でユノへ渡した。

 

「それじゃあね店員さん」

「はいっ!またのご来店お待ちしております!ありがとうございました!」

 

と一礼してお客様を見送る。ユノは扉を開けて一歩外に出て……それから仮面を外して店内に戻ってきた。

 

「うん、いいんじゃないかな?」

「……まあそうだな」

 

ユノとオーナーが顔を合わせてそんな風に確かめ合った。どうやら二人の合格基準を満たせていたらしい。

 

「アルカちゃん、基本的に感じがいいからね」

「どっかの誰かとは比べ物にならないな」

「そ、それまだ言うかい!?」

 

といったやり取りはアルカの耳には入ってこない。練習とは言え、慣れない接客のやり取りの緊張が抜けきらなかった。

 

「……なんにせよ良かった。ボクも外でスタンバイしていた甲斐があったというものだよ」

「お前まさかあの仮面付けたまま外にいたのか?」

「うん」

「うんじゃねえよ。変な噂立てられたらどうすんだよ」

「えっ、でも可愛いじゃないか、この仮面」

「マジで言ってんのか……」

 

そんなやり取りはまぁさておき、アルカが普通にお店に出ても大丈夫だと言うことは示された。

 

「……アルカ」

「は、はいっ!」

 

オーナーに呼ばれて、アルカは我に返る。

 

「悪いが、後はユノに教えて貰いながらやっていってくれ。俺はそろそろ用事があるから出る」

「了解しました!ユノさん、よろしくお願いします!」

「うん、よろしくね、アルカちゃん」

 

MAGIC ON、その開店まで残り一時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開店作業は大したことは無かった。店の扉の札をCLOSEからOPENに変える事と、後は軽く掃き掃除をするくらい。あまりにも簡単にお店は開店した。

 

「……お客さん、来ませんね……」

「まぁね」

 

とは言ったものの、開店早々に人が来ることはなかった。ユノとアルカの二人はカウンターで時間を持て余していた。

 

「基本的にうちのお客様はハンターの人がメインだ」

「……ハンターさん……ギルドを出入りしている人達ですね」

「あぁ、クエストを受注して、必要なスクロールを買う人とかだね。そういう人達が繰り返しこの店を利用してくれるのさ」

「……なるほど」

 

先程、オーナーが「常連のお客様を相手にする」と言っていた言葉の意味がなんとなく理解できた。ハンターの人の利用が多いから、カウンターでハンターの人と交流出来るようになるのが先だと言うことだろう。オーナーには、自分がハンターになりたいという事を伝えてある。それを汲み取った上での配慮だったのかもしれない。

 

「そして、うちのリピーターも来る日に散らばりはあれど、時間はあまり変わらない。もし今日が来る日だったとすると──うん、噂をすればだね」

 

小さく微笑んで、ユノが扉の入口を顎で指した。

釣られてアルカも扉の方に目をやれば、大きな影が扉の向こう側にある事に気が付く。次の瞬間、扉が開かれた。

 

「いらっしゃいませっ!!」

 

と、間髪入れずにアルカが元気よく迎えた。

 

「おぉ……おう!随分と元気のいい子が入ったな店長!」

 

フルプレートを身にまとった大男がアルカの挨拶に驚いた後に軽く返事をして、すぐユノにそう語りかける。

大男は如何にもという風貌だった。少しだけだらしのない髭と、ギラギラと輝く瞳。筋肉だってそんじょそこらとは鍛え方が違う。大木と間違えそうなほどに大きな腕だ。

 

「今日から働き出した、うちの看板娘さ。だからツバ付けようなんて考えてはダメだよ」

 

そんな男にもユノは怖気付く様子はない。冗談交じりのやり取りだった。

 

「おっと先手を取られちまった」

「……一応、あ・ら・た・め・て、釘をさしておこうかな。オーナーの方針により冷やかしと立ち読みは構わないが、万引きとナンパと悪質な値切りはボクの匙加減で最大半殺しまで良いと言われているんだ」

「わ、わかってるっつーの!!」

 

半殺しにされた経験があるのだと見た。そんなこと考えるあたりアルカにも余裕がありそうだ。

 

「それで、今日は何をご入用かな?」

「スクロールだスクロール。これからポイズンビッグスライムの討伐に行くことになってな」

 

やれやれと言ったように肩をすくめる大男。

 

「ふむ、また厄介な敵だね。なら解毒のスクロールは……わざわざ品の位置は教えるまでもなかったね」

「あたりめぇよ。何回ここで買ってると思ってんだ」

「ははっ、いつもご贔屓にありがとうございます。そんな常連なお客様に一つアドバイス。切断武器に防錆の魔法を付与した後に炎を付与すれば、ポイズンスライムは切れるよ。これは一般的な凍らせる手法より効率がいい」

「おっ、マジかよ。つーことは、不朽のスクロールと……」

 

と、大男は迷いのない足取りで店内のスクロール売り場の方へと向かって行った。傍から見ているとユノに上手いこと乗せられてしまった様にしか見えない。

 

「彼はうちの常連のハンターだから心配はいらないよ。アルカちゃんの初めてのお客様にピッタリだね」

 

ユノがこっそりとアルカに伝える。アルカ自身、人とのコミュニケーションに抵抗がある訳では無いというものの、やはり店員と客という関係でやりとりするとなると、勝手の違いで恐縮してしまっていたからだ。

 

「わ、私でも上手くできますかね……?」

「ボクもついている、心配はいらないよ」

 

と、ユノに励まされた。それでも不安を抱えてしまうのも仕方ない事だ。

体には出さず、内心でだけソワソワしていた。やはりユノを相手にしていた時とは勝手が違うのだ。

それから5分ほどで、さっきのお客が商品を持ってレジへとやってきた。彼が持っているのは五冊の冊子だった。

 

「お会計頼むぜ、嬢ちゃん」

「はいっ!お預かりします」

 

彼に渡された商品を受け取ってから、先程の練習通りにレジを動かしていく。

 

「(えっと……ここを潜らせて……よし、出た……それで、この後にここを押して……)」

 

頭の中で一つ一つ手順を確認しつつも、アルカは無事に商品の金額を出した。

 

「お客様、スクロールが5点でお会計は12000Zになります!」

「おうよ。ったく相変わらずたけえなぁ」

 

なんて文句を言いながらも、彼は肩にぶら下げたバッグからお金を取り出そうとゴソゴソとしている。対するアルカは「これはクレーム!?」と内心驚いたが。

 

「当店は品質重視ですので」

 

というユノのフォローが入る。

 

「わーってるよ。命を預けられる中古のスクロールなんてここにしかねえんだ。ほら嬢ちゃん、これで頼むぜ」

 

なんて意味深な言葉を残しつつも、彼はお金をアルカへ差し出した。

 

「はい……えと、ちょうどいただきます!商品をどうぞ」

 

受け取り金額を自分とレジで確かめてから、商品を大男へと手渡す。彼は満足そうに頷くいてから、扉の方へと向かった。

 

「また来るぜ、看板娘の嬢ちゃん!」

「あ、はい!またのご来店をお待ちしてます!ありがとうございましたっ!」

「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

 

二人で礼をしてお客を見送り、無事、アルカは最初の一人目のお客様を捌いたのだった。

それから顔を上げたあと、安堵より先に、アルカはユノへと疑問をぶつける。

 

「ユノさん、品質重視ってどういうことですか?」

「ふふっ、勉強熱心だね。そっちが先に気になったのかい」

 

丁寧にできたとか、そういう安心よりユノの先程の言葉の解説を求めたアルカ。ユノはそう言って微笑んでから解説を始める。

 

「アルカちゃんはスクロールを使ったことはあるかい?」

「はい。ファイヤーボールとヒールを数回……ってところですけど」

 

炎の球体を生み出し、飛ばす魔法と回復の魔法。どちらも有名且つ、扱いやすい魔法だ。

 

「回数が少ないなら経験はないか……うん、そうだね。学園での予習にもなるから少し話そう」

 

それから一呼吸空けて、ユノは真面目な顔つきで口を開いた。

 

「いいかい、スクロールに記された魔法陣の正確さで発動する魔法の効果は変わる」

「魔法陣の正確さ……?」

「そうさ。当然だけどスクロールは描かれた際は完全に、完璧な形で描かれていて、発動される魔法は予定されていた通りに発動する。けれどスクロールは羊皮紙──やはり紙で、魔法陣を描いている物はペン、インクだ。状態の悪い所で保管すれば紙はダメになるしインクは薄くなったり、掠れたりしてしまう。ここまではいいかい?」

「はいっ!つまり、スクロールは劣化するって事ですね!」

「その認識で問題ないよ。劣化したスクロールは想定されていた魔法の効果を正しく発揮できなくなる。だから攻撃魔法の威力が落ちてしまったり、回復魔法の効能が悪くなったりする。最悪、不発に終わってしまうことだってある」

 

言ってる意味はよく分かった。だからこそ、ユノの言う品質重視の意味もよく分かる。

 

「つまり、ここはスクロールの状態がいいから他のお店より少し割高ってことですか?」

「スクロールに限った話ではないけれど、そういうことだね。聡明なアルカちゃんの事だ、分かっているとは思うけれど、補足させてもらうよ」

 

また間を空けて、しっかりとアルカを見据えて口を開いた。

 

「ボク達は絶対にスクロールの不良品は売らない。中古商品の取り扱いが主で状態が悪くても買取はするけれど、それでも不良品の販売はしない。スクロールはね、魔法が使えない人でも唯一、魔法を扱える(すべ)なんだ。そしてそれは、魔物と戦う時に強力な剣となり、盾となり、薬となる」

 

とても便利で頼りになる道具だ。とても便利で頼りになるからこそ、その反動という物が存在する。

 

「もしここ一番の時、スクロールが不発に終わって魔物を倒し損ねたら?それならまだいい。命を落としそうな仲間が居て、回復のスクロールが使えたら延命できて、街で治療を受ける時間を稼げるのに、効果が発揮されなかったら?」

 

頼りになるが故に、それが使えなかった時の反動は尋常じゃない。

 

「だからボク達は不良品は売らない。常に効果を十分発揮できる商品だけを販売する。アルカちゃんも、この心を分かってくれると嬉しいな」

 

ユノの言葉は、アルカの心に深く刺し込まれた。強い説得力があった。実感の様な物が込められていた様な気がする。だから、アルカはただ力強く頷くしかなかった。

 

「まぁ、アルカちゃんもハンターになる事があれば、分かるよ」

「……そう、でしょうか」

「うん。きっとね」

 

と、そこまで話し終えたタイミングで、次のお客が来店した。話はそこで終わり、また仕事の時間が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、お客のいないMOの扉が開いた。

 

「いらっしゃ……あ、オーナー!おかえりなさい!」

「おかえりオーナー。今日は遅かったね」

 

時刻は15時。オーナーが店を出たのは朝9時だったので、6時間ほど彼は出ていたのだ。

 

「ただいま……ン、ちょっとな」

「それよりアルカ、調子はどうだ?」

「えっと、ユノさんに教えて貰いながらですけど、7名ほどお客様に商品の販売ができました!」

 

皆一様にリピーターの人ばかりで、買って行く商品もスクロールばかりではあった。

 

「そうか、よくやったな」

「はいっ!」

「元気のあるいい返事だ。慣れないことで大変だと思うが、その調子で頼むな。分からないことがあったらユノや俺に遠慮なく聞いてくれ」

「その時はお願いしますっ!」

 

そう言ったアルカにオーナーは微笑んでから、次はユノに向かった。

 

「ユノ、下で作業してるからなんかあったら呼んでくれ」

「了解したよオーナー」

 

それだけ聞くと、オーナーは本棚の中へと進んで行った。アルカとユノはカウンターからそれを見送る。そしてそれを見送った後、アルカはポツリと疑問を口にした。

 

「……オーナーさんは何をしていらっしゃるんですか?」

「さぁ?」

「……へっ?」

 

そんなアルカの問いにユノは首を傾げて返した。

 

「取引先とのやり取りとか、そういう時もあるだろうけど、ボクには何一つ教えてくれない用事もあるみたいなんだ」

「それって……いいんですか?」

「……まぁ、いいんだよ」

 

確かに、オーナーというものは店員というわけではない。それはアルカも知っているし、事前に聞いたこともある。

 

「別に後ろめたい事をしているわけでもなさそうなんだ。だからボクは気にはするけど何も言わない。ボクはそういう立場にないしね」

 

少し寂しそうに微笑むユノ。なんだか痛ましいとすら思えた。

 

「……あの」

 

そこでふと思い出す。

 

「……オーナーさんって、なんて名前なんですか?」

「さぁ?ボクも知らないよ」

 

とんでもない人がオーナーなんだと、アルカは噛み締めた。




なんかこう、スクロール系のアイテムが重宝されるゲームとかって少ないなぁと思って世界観を組み上げたました。スクロールで無茶苦茶したいなと思ってます。

後こう、知り合いに感想少ないんだって話をしたら、「お前感想くださいって言わんやろ。愛想ねえし」と言われてしまったので、感想お待ちしております!

まだまだ序盤ですが何か気に入ったとか、気になるとか、印象に残ったキャラクターが居れば投票おなしゃす!

  • アルカ・コノエ
  • ユノ・グレイスロータ
  • ローゼ・オールヴェール
  • ノヴァ・ブランク
  • オーナー
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