いつかは終わるヒーローたちのアカデミア 作:Agateram
話が進むのは次回の戦闘訓練からになります。
なお月末につき、すこし更新スピードが落ちます。
申し訳ございません。
「あーーー。ようやく初日が終わったな」
入学式、と思い込んでいたら最下位は除籍のテストを受け、更にそれが俺たちのやる気を出すための合理的虚偽だった、なんて濃ゆいにもほどがある初日であった。
「そうだね。流石に初日からこんなことになるとは思ってなかった」
「見積もりが甘かったってことかな。入学で浮かれてたからちょうどいい引き締めにはなったかもしれないけどさ」
放課後になり、出久と二人で話していると相澤先生が去った教壇の上に金髪に黒いメッシュが入った男子と身長が低く、頭に大きなブドウの実が何個もくっついているような特徴的な髪形をした男子二人が立った。
その二人曰く、まだ互いの自己紹介もしていないから、最後に自己紹介くらいしていこうとのことらしい。特に後者のブドウの少年……たしか峰田 実とか言われていた彼は個性把握テストで最下位であったがそれを乗り切ったテンションで気分が高揚しているらしい。
「確かに、これから3年一緒に過ごすんだ。挨拶くらいしといて損はないかもな」
ほとんど反対意見がでなかったので、放課後30分ほど皆時間をとって互いの自己紹介をすることになった。ほとんど、といったのは爆豪だけはさっさと帰ってしまったからだ。
まぁこれまで下に見ていた出久が蓋を開けてみれば自分よりも上位で合格し、個性把握テストでも負けたときたからには、そうとう鬱憤がたまっているだろう。今は何を言っても逆効果かと俺も特に止めはせず、他のクラスメイトも空気を読んだのか彼を止められなかった。
とはいえ、自己紹介自体は恙なく進行した。ヒーローを目指していようともまだ15歳の少年少女、馴れ合いとはいかずともクラスメイトとの不和は避けたいし、できれば楽しい学生生活を送りたいと思っても仕方ない。
とそんな風に達観していたからか、俺と出久の自己紹介では質問が殺到した。
出久は言わずもがな、無個性だったこと、突然発現した個性のことが中心だった。だけどこれにはしっかりとカバーストーリーを作ってある。
「入試の時は無個性だったのは本当だよ。でもその後、いつものように四季と訓練していた時にプロヒーローが練習を見てくれることになってさ、その時に発現したんだ。最初は出力が強すぎて腕がバキバキに折れちゃったんだけど」
「腕が折れる!?自分の個性で?」
「うん。それでそのヒーローが言うには多分増強系の個性だけど、増強に体がついていけなかったから、これまで生存本能が個性を出させなかったんじゃないかって言われたよ。確かに今まで鍛えてきたつもりだったけど、パンチ一発で骨が折れたんだ。もし子どもの頃に発現してたらホントにお終いだったかもしれない。今日もごめんね。僕が個性の加減をできなかったからボール壊したりして皆を驚かせちゃったし」
「ええよそんなん。それよりケガとかなかった?」
「それに腕は問題ないのかい?個性で折ってしまったのは先月だろう?今日の動きでは特に問題は見られないようだったが…」
麗日お茶子と飯田天哉だったな。彼女たちは確か出久が受験の時に知り合ったと言っていた。飯田も受験前に口論になってしまったが、根が真面目で基本的に善人なのだろう。出久もいい出会いをしたようだ。
「ありがとう。ケガは大丈夫。腕も四季の個性で治してもらったから大事にはならなかったよ。」
あっ馬鹿。それは簡単に言っちゃダメなやつだ。
「四季って、確か」「今日トップとってた、主席の」
ああ、しばらく個性は増強型しか使わないつもりだったんだけど、これでは仕方ないか。
「じゃあ次は彼岸だな。」
ご指名が入った。とりあえず出久の個性の件は誤魔化せたし、俺の個性の特性を話せば少しは皆の印象も薄れる。ナンバーワンヒーローの個性を継承したなんて、どれほど仲が良くてもまして初対面のクラスメイトに漏れていい内容じゃないしな。
「彼岸四季、17歳だ。皆よりは2つ年上だが同学年として扱ってほしい。二つ上なのは個性事故を起こして入院やらなにやらあったからだ。そこはまぁ深くつっこまないでくれ。個性は『春夏秋冬』。以上、さて質問、あるか?」
「じゃウチから。とりあえず、四季の個性ってなんなわけ?しゅんかしゅうとうって言われても分かりづらいし、増強系なのかと思ったら緑谷のケガ治したって言ってたり、試験でもウチがリラックスできるようにしてくれたりしてたじゃん。」
「ああ、まぁそうだな。名前聞いただけじゃわかんないだろうな。簡単に言えば生物が持つ生命力を視認し、それに干渉できる力、なんだが、わかったか響香?」
「ごめん。ますますわかんない」
「だよな。まぁざっくり言うとまず俺には生物が持つ生きる力が形や色彩として認識できる。体にまとわりつく水のようなときもあれば、固い石や炎のように見えることもある。共感覚っていうらしくてな、それぞれの複雑な生命の形を俺の脳が理解しやすいように、視認化しているらしい。それで、コレが俺自身の生命力」
生命力は活性化されるか共有化すると、他者にもそれが見えるようになる。ただこれは命を持つものだけが見える光らしく、カメラなど機械には映らない。生命力と俺は認識しているが、案外魂とか幽霊とかそういうオカルト的なものなのかもしれない。
まぁそれはいくら考えてもわからないが、今俺がやっているのは単純に自分の生命力を活性化させて皆に見せているだけだ。
「この生命力を活性化させることで、俺は一時的に増強型の個性と同等の身体能力の向上ができる。逆にさっき出久や響香の話にあったように」
今度は荒々しい赤い光ではない。集中し、生命力を誰にでもなじませるようなイメージで強めていけば、淡い白をまとったような桜色の球体が手の平の上に完成していた。イメージと集中力、個性の制御によって以前よりもその密度や能力は上がっている。実際に治療をうけていない皆にも可視化できるはずだ。
「見えるか?俺の生命力を相手に注ぐことで傷を癒す。それが俺の個性のもう一つの使い方だ。そしてこれが春夏秋冬の名前の由来でもある。生命力の使い方によって色彩が4つに変化する。
春は桜色の癒しを、夏は焼けるように赤く熱い猛りを表す。ほかの二つはまだ使えるレベルまで来ていないけどな。」
とりあえずこれで個性の説明は打ち切った。次に来たのは意外な奴からの質問だった。
「彼岸、さん?はプロヒーローから指導を受けたって言ってたな。それは誰からだ」
鋭い瞳でこちらを見るのは炎のような赤髪と雪のような白い髪が半分で分かれている少年。名前はまだ自己紹介前だけれど知っている。
「彼岸か四季でいいよ轟 焦凍。俺も焦凍でいいか?冬美さんとわからなくなってしまうからな」
「……テメェまさか」
「ああ違うぞ。俺や出久が稽古をつけてもらったのはエンデヴァーじゃない。ラビットヒーローミルコだ。」
「じゃぁなんで姉さんの名前を知ってんだ」
ああ、確かに冬美さんの言う通りだ。まだあの人に会わせられるような眼じゃない。『色彩』も落ち着かない。赤と青の色彩が混濁して濁っているかのようだ。
「俺が、個性事故を起こして入院したってさっき言っただろ。その時からの知り合いなんだよ。冬美さんもあの人も。ああけどエンデヴァーとも会ったことはある。2回ほど全力で殴りかかっただけだけどな。」
「は?」
「情報量多くて、整理できねぇだろ。帰ったら冬美さんにでも聞いてみるといい。」
呆けた顔をした焦凍は、それきり質問をしなかった。
まぁ仕方ないか。一朝一夕で何か変わるものじゃない。アイツもあの人も。まぁ俺も人のことは言えないが。
「さて、他になければまだ人数もいるしこのくらいにしたいが」
「ミルコとはどこで知り合ってどんな関係なんだ!!教えてくれ!」
終わらせようとしたところで、凄い勢いで峰田から質問が来た。ファンなのか?
「ミルコは……あーまぁなんだ…。俺の姉だ。」
義理の、とは言わなかった。言うと余計面倒になるしな。
しかし、これでも面倒だったようで「「「おお!!」」」という歓声に似た声が聞こえた。あの人結構目立つからなぁ。サイドキックもちゃんとした事務所も持ってない自由人だし。
「最初に言っておくが、姉のことに関する話題に関してはこれ以上却下だ。彼女のことを話すつもりは一切ない。ちなみに俺の家に来ても無駄だぞ。あの人日本全国跳びまわっているし、一応実家は広島だからな。ウチに来ることはそんなに多くはないから来ても会えん」
「最後に!!ミルコのスリーサイ「ブッコロスぞ?」っあ、はい。すみませんでした」
「峰田 実だったな。顔は覚えた。何かの拍子にルミ義姉さん……ミルコにあった時に粗相があるようなら、もぎ取る。覚悟をしておけ」
あっこの人シスコンだ。
ほとんどの1-Aメンバーが彼の地雷を悟った瞬間であった。
ちなみにそれを悟れなかったのは轟、八百万といった天然系か世間知らずのお嬢様たちくらいである。
「はーいはい。」
「っと、まだあったか。どうぞ芦戸」
「それそれ。」
「ん?どれだ?」
「呼び方だよ呼び方!緑谷は昔からの友だちだから名前呼びはわかったし、轟も身内の人と被るから名前呼びもわかった。でも耳郎ちゃんはどうして呼び捨てなの!?」
目をキラッキラさせてこちらに聞いてくる。これはアレだ。そういう関係なのか期待してる目だな。
「響香とは試験会場が一緒で少し交流があっただけだ。名前呼びなのは単に俺が耳郎だとなんか男っぽく感じたし、響香って名前が響きがいいからそう呼んでいいかって聞いてOKをもらったから呼んでるだけだよ」
「ええーー!つまんない!もっとないの!?些細なことでも恋愛に結び付けたい!」
「ご期待にそえず、申し訳ないな芦戸。」
そんな感じで漸く俺の自己紹介は終わり、それから20分ほどしてようやく俺たちの長い一日は終わるのだった。今日は正直、個性を視すぎて疲れた。ゆっくり休んで明日に備えるとしよう。
明日は、いきなり午後からヒーロー基礎学が始まるのだから。
追加情報 彼岸 四季の個性について
春夏秋冬は四つの複合個性のように見られるが実は一つの個性の別側面である。
本来は『人の命を視認し、物理的に触れる』ことができる力。
彼にとって命はその人が纏う様々な色彩のついた水のように視えている。体からあふれるようなら健康、ほとんど水がない、もしくは限りなく黒いようなら死が近い、といった具合だが、実際はもっと複雑。本人も言葉で表現できず、あえて言うなら、それが一番近いというだけである。医者からの個性診断において形ないものを形あるものとして認識するために脳が判断した一番わかりやすい表現がそれであり、共感覚に近いものと診断されている。なお形は水だけでなく炎や石のような形状をとることもあり、本人の在り方や自分が感じた印象などに様々な条件によって左右される。また個性を使う際にその人の在り方がより強く出るため、あまりに多くの個性を使っているところを見ると吐き気がするほどに気分が悪くなってしまう。
というわけで、筆休め編でした。
1-Aの普段の交流ってなかなか書けませんので、たまにこういう日常回を入れていきたいと思っております
次回は11月になってから更新します。今後もよろしくお願いします。