いつかは終わるヒーローたちのアカデミア   作:Agateram

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最初に言っておきます。

この話、多分かこ最長で長いです。
その上、私の描写不足でわかりにくい箇所も多いですし、さらっと重要なこと言ってたりもします。

そんな駄文ですが、心の広い方は読んでもらえれば幸いです。

ちなみに、この小説はオリ設定、そして原作の改変ありということをタグに着けております。原作との乖離にご注意ください。


第16話 救いの手を差し伸べることはできずとも

 

「さて、これで戦闘訓練はほとんど終了だ。最初にしては上出来だったぜ皆」

 

 

明るい笑顔でそう評された1-Aの皆はホッとして笑顔を浮かべた。

憧れのナンバーワンヒーローからの賛辞をもらえたのだ。

 

嬉しくない生徒などごく少数、それこそ負けてしまって人の言葉を聞く余裕がない者くらいだろう。

けれど、そうして足を止める者を待っている時間はない。

 

徒歩だろうが、走りだろうが、這いずろうが、自ら前へと進めない者は、成長しない。

いつだって、どこでだって、そうなのだ。

自分で体験したことだ。嫌でもわからされた世界の当然の現実だ。

自分の失敗を飲み込めない者はそこで終わる。それでなお進むと決めた者だけしか、成長はないんだ。

 

だから、こうして僕は苛立っているのかもしれない。

まだ、部屋の片隅で座りこんで、こちらを睨むだけの僕の幼馴染に。

 

けれど、一度頭を切り替える。

もう終わったことだし、後はあっちが決めることだ。

それにこの後は大事な一戦が控えている。

 

 

「さて、最後はトリを務める彼岸少年だね。人数の都合とはいえ、特例の一人に君が残ったのは偶然か、それとも裏でこそこそやってた必然かな?」

 

「もちろん、後者ですオールマイト。戦いはいつでもどこでも、まずは情報と下積みが大事ですから。それを疎かにしていればどれだけ強かろうと絡めとることは容易いですから」

 

悪びれることもなく、自分で一人になり、自分の対戦相手を選ぶ権利を得たと、暗に四季はそう言った。しかし、それを非難する者はいない。

 

彼の思惑を知っていた者も知らなかった者も、既に結果は出ている状況では関係ないからだ。

 

「なるほど。それほどまでに戦いたい相手がいたと。それで、誰を指名するつもりだい?」

 

「もちろん貴方を、オールマイト」

 

間髪入れずに答えた瞬間、周囲の時間が止まった。

ヒーローの卵が、雄英とはいえ一年生のしかも入学したばかりの子どもが、ヒーロー飽和社会と呼ばれる中でトップをひた走ってきた英雄に挑む。

それは蛮行というよりは自殺行為に等しい。それに轟君との約束が…。

 

「と、いうつもりでしたが既に先約がありまして、貴方に挑むのはもう少し鍛えてからにしておきますね。オールマイト先生」

 

ハーっとクラスのほとんどがため息に近い息を吐いた。

意識していないだろうけど、殺気に近い怒気が轟くんから出ていた、というか彼の近くの床が凍り、半分焦げかけているのは本気でキレかけて個性が出てしまったからだろう。

 

もしかしなくても、四季は轟くんを煽ってる?何のために?

 

「というわけで、よろしく轟 焦凍。お互い全力でやりあおう」

 

無駄に爽やかな声で、けれど一ミリと表情は変えずに、轟くんに向き合った。

対する轟くんも無表情、じゃない。明らかに眼もとを険しくして怒りを前面に出していた。

 

「ああ、全力で、殺りあおう彼岸」

 

あっコレホントにヤバい。

身体の半分を氷をモチーフにしたコスチューム(あるいは個性による氷の鎧?)で隠している轟くんを見据えながら、白でほぼ統一され、踵とつま先に重りとなる合金でできた特性の靴を履き、拳には青い籠手をつけただけで、後は耐熱対刃性に優れた軍服のような戦闘服に非常用の応急ポーチが付いた彼岸四季は不遜に頷いた。

 

 

推薦入試VS入学試験1位の戦い。

 

 

それは最初から明らかに物騒になる雰囲気を残したままで始まることになった。

 

完全な余談だが、四季のコスチュームのデザインはミルコがほとんど企画したのが分かった。だって彼女と特徴が一緒で色彩も似ているし、彼女との付き合いも1年と少しになる。いい加減彼女がブラコンであることも理解していた。ちなみに四季もシスコン、に近いものがある。本人たちは気づいてないけど。

 

 

 

ヴィラン 彼岸 四季  ヒーロー轟 焦凍

 

そういう役割で始まる一戦。

内容は僕らと変わりない。

ヴィランが保有する核を捕獲(触れるだけでよい)する、あるいはヴィランを行動不能にするか捕獲テープをまけばヒーローの勝ち。

 

時間制限内に上記を達成されなければヴィランの勝ち、あるいはヒーローを行動不能か同じく捕獲テープを巻けばヴィランの勝ちになる。

 

なるのだが、まずもってお互いにテープを手にとる仕草の欠片もない。

そもそもが四季の立ち位置がおかしい。

 

核は廃墟のビルの屋上に設置。

これは別にいい。相手から最も遠ざけるならそこも一つの手だ。

ただ相手が屋上に行ける個性持ちでないことが前提での話だ。

轟くんは先ほどの戦闘でビル1つを丸ごと凍らせてみせた。

 

それほどの規模の個性が発動できるなら屋上まで一気に氷の塔でも作成して確保することも可能だろう。

 

ならば何故屋上などに核、つまり勝利条件を置いたのか。

それは四季の立ち位置を考えればすぐにわかった。

彼は屋上から、正確にいえば屋上に至る壁に垂直に立っていた、

 

もう一度言おう。壁と垂直に立っていた。

 

核を屋上におき、目標はここだと言わんばかりにその全身を轟くんに見せつけている。

わざわざ壁に立つという、物理法則はどこにいったと言わんばかりの姿で。もちろんただ立つのは個性でも使わないと難しいので、実は両足とも壁を踏み抜いているが、あとは彼の身体能力だけで壁と直角に、すなわち地面と平行に立って見下ろしている。

お前は俺の下だといわんばかりの腕組み姿勢で、推薦入学の轟くんを見下ろしているのだ。

 

以上の普段の四季からはあまり考えられない行動を統合すれば、その意味は一つだ。

ただただ轟くんを苛立たせるために行っている挑発だ。

 

しかし、それが相手を馬鹿にしたものでないことを、少なくとも僕は知っている。

あれは、轟くんに他を見るな、という意思表示だ。

自分だけを視て、自らの全てをぶつけてこいというためだけの挑発。

 

 

けれど、それは効果覿面だったのだろう。

 

「それでは、両雄、戦闘訓練開始!!」

 

 

開幕と同時に5階建てのビルを超す規模の大氷壁。厚さは3m以上、長さにして20m以上だ。心なしか、先端が尖っていたのは目の錯覚だと思いたい。それが秒を切るほどの速さで、形成されて壁に垂直に立っていた四季を襲った。

 

全国から集められた優秀な個性を持ったはずの、日本でも指折りの優等生たちが思わず口を開けるほどの規模と速度。

 

勝負は一瞬で決した。ほとんどの者がそう思っただろう。

 

その氷壁が次の瞬間に全て砕け散る様を見るまでは。

 

砕け散った先端にいたのは、当然対戦相手である四季。

 

破った方法は単純。足の一振り。本来は突進の勢いと全体重を乗せたかかと落とし。四季の師匠であり、義姉であるミルコの得意技、踵半月輪(ルナアーク)。それを模倣した一撃は轟くんのおそらくは最大出力であろう氷結の塔を、ただの一撃を持って破壊した。

 

 

そんな初撃から皆の想像を軽く超えるド派手な攻防を持って、推薦入学という確約されたエリートと入試一位という実績を持つ二人の戦いは始まった。

 

 

 

 

強い。それも他のクラスメイトには悪いが段違いに強い。率直にそう思う。

 

右の瞬間最高出力の氷結は、ただの身体能力を増幅させた一撃で粉々に砕け散った。

その後に彼岸は壁から足を離し、重力に任せて自由落下してくる。

 

無防備極まりない姿で、ただ落ちてくる。

 

そこにもう一撃最大限の出力の氷結を放つと、彼岸は不可思議な動きをした。

空中を、跳ねたのだ。まっすぐ落ちてきたはずの体が斜め下へ、飛び跳ねる。

何を言っているのかわからねぇだろうが、事実、あの野郎は自由落下という直線の軌道から俺の氷結に触れることなく唐突に進路方向を変え、氷結の一撃を免れた。

 

増強系の個性で、空気を蹴って無理やり方向転換した、のか?

 

ありえない、とは言わない。オールマイトも腕の一撃、或いは空中の大気を力づくで踏みしめるという規格外の手段で空中での戦闘を可能にしたと聞いたことがある。

 

だがそんな反則めいたイカれた技を、たかが高校一年生がやるなんて、冗談にもほどがあるだろう!?

 

自由落下にプラスされた速度は俺に次の一手を使う暇を与えない。

 

俺の背後、一メートルに轟音と共に着地した化け物の同級生は、片膝、片手、をついた座位状態。

 

チャンスだと思う前に体が動いた。忌々しいが体に覚えさせられた基礎の戦闘技術は敵が傍に来たら無意識に出るくらいまでは鍛錬してある。故に失敗した。

初手は体を反転させながら放った右ローキック。ただし相手が膝をついている状態なら当然受ける場所は顔面。当たればその場で戦闘を終わらせられるコースと速度ののった蹴りは、その側面から触れるように添えられた手の平に誘導されてコースを曲げさせられた。

相手に咄嗟に放った蹴りを完璧にそらされた俺は、当然蹴るはずだったものがなくなり、体勢を崩す。

 

そんな隙を見逃してくれるほど、目の前の相手は弱くない。

瞬きする間もなく半分座り込んだ体勢から片手を支点に半回転した蹴りが俺の軸脚を蹴り上げ、この体が宙に浮く。そして受け身をとり、相手を視界に入れて追撃に備えようと体をねじる寸前で、後ろ襟と腰のベルトをつかまれた。

 

「歯を食いしばれ、飛ばすぞ!!」

 

そんなことを言われた気がした瞬間、その通りにされた。地面と垂直になるかのように、この体を投擲された。クソッタレな馬鹿力だ。氷で覆われた右側から地面に当たることでダメージを最小限にしたが、ざっと50m以上はビルから離された。真下や反対のビルに投げられていたら、それだけで終わっていただろう。

 

「まだだ!!」

 

 

大規模凍結が一撃で粉砕されるなら、やり方を変えるだけ。右足から直接冷気を地面に這わせ凍らせる。同時、右腕に冷気を纏わせ前方につきだして全力で放出する。その場に凍らせて縫い付ければ、どれほどの身体能力だろうがまともに動けはしない。そこに最大出力をぶつければ終わりだ。

 

そんな咄嗟の作戦などわかっているかのように、彼岸の姿がかき消えた。

 

戦闘中に目標を見失うなんて愚策。いったいどこに。

 

そこで、突き出していた右手外側から伸びてきた拳が視えた。そうか、相手に手を突き出しているなら、斜め左に一歩跳ぶだけで、こいつは俺自身が作ってしまった腕という死角に入ることができる。そのくらい、個性把握テストでできると視ていたはずなのに!

そんな思考で対策などできない状態でまともに拳をくらい、一瞬、俺の意識は途切れた。

 

 

とはいえ、途切れたのは一瞬だ。顎にもらった一撃で一瞬意識がとんで無様に倒れこんじまって、しかもまだ視界が定まらないが、彼岸の姿は認識できる。

彼我の距離は2mもない。ならばと地面に置いた右手を空へ仰ぐように一閃。同時に地面から生えてくるのは氷塊でできた剣山。ここ距離なら、無傷じゃいられねぇ。少なくとも距離をとって仕切り直せる。

 

そんな考えは突き出された剣山ごと、彼岸の放った後ろ回し蹴りで砕け散った。

蹴りの余波と砕かれた氷の礫が逆に俺を襲い、更に後方に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

クラスの皆が静まり返っている。

 

推薦入試VS入学試験1位の戦い。

 

どちらが強いか、訓練前はクラス内でも評価はわかれていた。

攻撃範囲が広く、拘束にも優れた遠距離攻撃をもつ轟君が有利という意見。

距離さえ縮めてしまえば、身体能力で勝る四季が有利という意見。

 

評価は半々。

訓練が始まるまではそうだった。

 

しかし、始まって1分。

既に形勢は決まったとでもいうように、クラスの誰もが口を閉ざしていた。

 

内容は圧倒的に四季が優勢。

広域直接攻撃は脚の一撃で砕かれ、空中での機動で相手の虚を突いたと思ったらビル…、目標となる核から遠ざけるように投げ(本来ならここで終わっていたと思うが)そこからの遠距離凍結攻撃も相手の視界から外れるように斜めに沈むような跳躍で懐に入って顎に一撃。

倒れこんでもすぐに放たれた氷の剣山の攻撃はさすがは推薦入学者というほかないが、それも予想していたかのように剣山ごと轟君を更に吹き飛ばした。

 

一方的だ。あまりにも一方的な戦局。

誰もがこんな結果になるとは思ってなかっただろう。

 

まだ画面上の轟くんと四季の戦いは続いていた。攻めているのは轟君だ。

一方的に遠距離から多彩な角度からの氷壁で四季の動く場所を減らしたところに、蔓のような氷の鞭、氷のハンマーなど多彩な氷結技で四季を責め立てるが、四季はそれを全て回避している。

 

いまだにダメージがゼロの四季。

一方で、轟君の身体には異変が起き始めていた。

 

「体に、霜が降り始めてる」

「え?」

「どういうことだ緑谷」

 

鮮明な画面がいくつも広がる観戦室で、轟君が一番アップされている画像を指さす。

 

「轟君の体に霜が降りてきているんだ。たぶん、氷の個性を使いすぎた反動、だと思う。

個性だって身体能力の一部。使いすぎれば疲労する筋肉のように、おそらく使いすぎれば自分自身の体温を下げるんじゃないかな。反応や動きが鈍くなっている。それに、氷の勢いも規模も、どんどん弱くなっているみたいだ。」

 

 

僕の言葉を踏まえて、画面を改めてみると徐々に戦場をビルから遠くにしていく二人の戦闘痕は、遠くになればなるほどに氷結の痕が小さくなっている。

 

「でもよ、轟って炎も出せただろ。寒くて動けなくなったら炎だせば解決できるんじゃねぇのか?」

「確かに。彼はまだ『半熱半冷』の個性の半分、すなわち凍結しか使っていない。勝負はこれから、ということかい緑谷君?」

 

「………それは、轟君次第かな。」

 

「どういうことだ?。炎を使って解決するなら使わない手はないだろう」

 

冷静な障子君が僕に問いかけてくる。けれど、僕にも詳しい事情は聞かされてない。

わかるのは、画面から見た推察と、彼岸四季が、必要以上に相手を煽っている現状と彼が轟君を倒そうとする意志がないということだけ。

だから、あえていうのなら、

 

「そうだね。理屈はそうだし、使える場面なんて山ほどあった。それでも使おうとしないなら、それは理屈じゃなくて、轟君が自分の意思で使ってないってことだと思う。

僕とは違うだろうけどね。

僕はまだ個性を十全に使えないから使わない時もある。けれど彼はたぶん十全に使えるけれど、決して使わない。

それが、多分轟君が気にしていることで、四季が変えたいことじゃないかな。」

 

だから、ほら、あんなに叫んでいる。

音声はオールマイト以外には聞こえないけど、四季が叫ぶ時は決まって誰かを助けたい時で、誰かに自分で立ち上がってほしいと願うときだから。

 

 

「で、いつまでこんな無駄なこと続ける気だ?」

「無駄、だと?」

「無駄だろう。今のお前は半冷の能力の使い過ぎで戦闘力がた落ち。ほかの奴らの個性の把握くらいしてないとでも思ったか、たわけ。そんなこと初日からやっている。臆病なんでな」

「…………クソ親父から金でももらったのか。俺に左を、炎を使わせろって」

「エンデヴァーからもらったのは赫灼熱拳とプロミネンスバーンくらいだな。

あの屑野郎、怒り心頭のくせして殺さない程度に抑えやがって。まぁただのガキに必殺技使わせて、その後に一撃当てたから中指おったててやったぜ。ざまぁみろだ」

 

彼岸が嘲笑するように言う。真実だと信じられた。なぜなら戦闘服の上着をめくって見せたアイツの腹には個性でも消せなかったのかひどい火傷痕が残っていたからだ。ほかにもあちこち傷跡だらけ。一体どんな生活をしてきたのだろう。

俺は、話の内容とアイツの境遇を考えて思考がまとまらない。

 

「戦ったのか、あいつと。技を出させるくらいに」

「前に言っただろ。2回ほど全力で殴り掛かったって。

俺は家族全員なくしててな。おかげで頭がおかしくなって入院した。

そん時に偶然世話になったのが同じ病院にいた冷さんだ。そんな冷さんを苦しませて冬美さんを泣かせたんだ。殴り掛かって当たり前だ。

お前こそ、なんでそんな回りくどいことしてんだ?」

 

何なんだこいつ。ホントに何なんだこいつは。

さらっとクソ重たい自分の過去話しやがって。

その上、まわりくどい?俺のやり方が?

 

「母さんの個性だけで、アイツを超える。それのどこが回りくどいんだ」

「回りくどいだろ。気に入らないなら氷も炎も何もかも使って、ムカつくDV馬鹿親父の顔面を一発ぶん殴ってやればいい。そして言うんだ『ざまぁねぇな、そんなんだから万年2位なんだよクソッタレ』ってな。俺はそうしたぞ。」

 

その代わりに死にかけたけどな。

そんな風に簡単に言いながら、アイツは立っていた。

 

万年2位。それは蔑称であると同時に賛辞でもある。

数多ひしめくヒーローの中で常に2位をとるということはそれだけの実力があるということだ。それにおそらく今の俺よりも若かったであろうコイツは正面から挑んだってのか。

 

頭のねじが2,3本とんでやがる。

 

「だけどそれだけだ。俺にできたのはそれだけ。

後はあの屑野郎がそれから、毎月欠かさず冷さんの好きな花を送り続けて、冬美さんが頑張ってくれて、夏雄さんも勇気を出して、漸く面会できるくらいになった。

頑張ったのは冬美さんと冷さんだ。勇気を出したのは夏雄さんだ。変わろうと、自分のまわりを見ようとしたのは轟 炎司だ。

俺は誰も救えてない。誰も変えてない。変わったのはあの人たち自身で、変わろうとしたのもあの人たち自身だ。」

 

「……変わらなかったのは、俺だけってわけか……。」

 

思えば何度もチャンスはあった。姉さんが一緒にお見舞いに行かないかって言ってきたこともあったし、夏雄兄さんからも誘ってくることもあった。

 

……クソ親父だって、そうだった。

 

自分のことは許さなくていいから、アイツにだけは会ってやってくれないかなんて、どの口が言うんだって一蹴したことを覚えている。

 

ああ、そうだ。一蹴した。無視した。視ないことにした。聞こえないことにした。

俺がこんなになったのは誰のせいだ。

姉さんがずっと家族を支えようと頑張って苦しんできたのは誰のせいだ。

母さんが、……あの優しかった人が俺に湯を浴びせたのは誰のせいだ。

俺が、毎日のように悪夢にうなされているのをお前は知っているか?

地獄のようなあの日を毎日夢に見る気持ちがわかるか!?

そんな日々を、地獄のような人生を、

 

 

「それを、忘れろっていうのか。」

 

ああ。滅茶苦茶なことを、他人に言っている。わかっている。わかっているんだ。

でもなぁ。

 

「苦しかったんだ。悲しかったんだ。痛かったんだ。それを、なかったことにしろってのか!!恨みも苦しみも痛みも全部なかったことにして今更家族面しろっていうのかよ!?」

ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!!

今更、今更そんなふうにできるはずがない。できていいはずがない。

そんなことをしたって過去は覆らない。俺の火傷のように、一生消えたりしない!!

 

そんな俺の叫びに、応えたのは至極単純で身勝手な言葉だった。

 

 

「そんなことは俺が知るか馬鹿野郎!!」

 

お前は正しい。轟 焦凍。

お前の怒りも憎しみも、今自分が置いて行かれているような喪失感も孤独感も全部正しい感情だ。

それを無くせとは言わないし、言えない。そんなことを言うほどに俺は傲慢でも聖人君子でもない。

 

彼岸 四季に人を救うなんて高尚な真似ができるわけがないのだ。

 

「答えなど聞くなよ。救いなど求めるなよ。

答えは自分で出せ。救いがなければ自分で見つけろ。

それでダメなら助けを求めろ。ただし、助けを求めるなら正しく求めろ。

今、お前の前に立っている奴が、ヒーローにでも見えるのか? 見えるなら眼科か脳外科にでも行け。

今目の前にいるのはただのヴィランだ。お前が、お前たちが思い描く全てを救う英雄なんてものとはかけ離れたクソ野郎だ。ヴィランに答えも救いも助けも求めるな。」

 

そう、たとえ雄英に通おうと、ヒーローも目指そうと、たとえ、どこかの誰かからヒーローのように思われようとも、ここにいるのは歪んだ考えをもった偽物だ。そこから得た答えはどれだけ正しく見えても、きっとどこかで誰かを歪ませる。

 

彼岸 四季とはそういうものなのだ。

 

でも、そうだ。そんな俺ができるとすれば、決まっている。

 

「ぶつけてこい。お前の全部を。

怒りも、悲しみも、憤りも、どこの誰に言えばいいかもわからない混ぜこぜの感情でいい。今だけは、ヒーローじゃなく、ただの轟 焦凍として、力をもってしまっただけのただの子どもとして、全てぶちまけて来い。俺にお前は救えないが、ガキの癇癪にくらいは付き合ってやる。」

 

 

手招きをして上から目線で、煽る。そうしてさらけ出せ。その感情を、個性を、心をぶちまけろ。

そうしないと如何にかなりそうな時だってある。

ならばそうしろ。ただし受け皿は俺にしておけ。それで誰かを傷つけたなら、お前はそれを悔やむことになる。ヴィランにさえなってしまうかもしれない。

だから俺にぶつければいい。それなら誰も傷つかない。誰も傷つかないなら、お前が悔やむことも何もない。

 

だって今、彼岸 四季はヴィランだ。

 

俺の煽りに煌々と左の炎が燃え盛り、右の氷が世界を凍てつかせるように周囲を囲む。

この訓練、最高の出力だろう。右もそして、初めて使った左も。

 

「………ホント、俺はお前が嫌いだよ」

「これで好きとか言われたら驚きを通り越して呆れるぜ?」

「……でも、ありがとな。今だけは、お前だけを視ていられる」

 

煽られて、怒って、放たれた激情が生じさせた二つの相反する個性。

それに反するように、轟 焦凍は笑って、その眼に俺を映した。

 

そして俺の個性も彼の『色彩』を目に映す。

 

ああ、こいつはいい。視界を埋め尽くす赤の炎や青さを感じる氷とは全く逆の、ただ光るだけの透明な雫。透けて視えるのに輝くそれはまるでこれから何にでもなれると言っているかのような純水に溢れている。

 

なんだ。自分で立ち上がるだけの力は持っているじゃないか。

 

「さぁ、クライマックスは派手にいこう!!」

 

あっちが冷気と熱気の二つで来るなら、こっちも二つで答えなきゃ無粋。

故に、こっちも1つの個性を別々の属性で同時発動という荒業を決行する。

 

「『紅く目覚めろ。夏の太陽のように、蹂躙せよ』『大いなる星の息吹。秋にもたらされる恵みの一部をここに譲り受ける、汝の名は剣也』」

 

言の葉が紡いだ先にあるのは、俺の生命力をありったけもっていった紅い大剣。

自然からもたらされる恩恵を形へと変えて、夏の暴力的に高めた生命力を流し込んだ一振りで砕け散る欠陥品。だが、この刃こそが今の俺が出せる最高の一撃。

 

それを大きく大上段に振り上げる。後はただ振り下ろすだけ。

 

「そんなことまでできんのか。それで、準備はいいのか?」

「なんだ。待っててくれたのか?こっちはいつ来てくれても良かったんだぞ?」

 

焦凍は笑っていた。十分だ。十分な戦果だ。

だから後は、その気持ちのまま、眠らせてやる。

 

『二人とも!!これは訓練だぞ!! その規模じゃ二人とも吹き飛ぶぞ!!』

 

インカムからオールマイトの声が聞こえる。

きっとこちらを信用して今まで声を出さずにいてくれたんだろうが、さすがに規模がでかすぎたか。

だけど、この一撃は撃たせる。撃たせないとアイツは立ち上がっただけで、走り出せない。

 

「大丈夫ですオールマイト。誰も死なないし、傷つきませんよ。なんせ、ここには『俺がいます』」

 

彼の決め台詞『私が来た』というその場全ての者に安心を与える魔法の言葉。傷つき、血を垂れ流し、枯れ果てながらも笑って立つ大英雄の言葉。その言葉の重みの兆分の一に満たない俺の言葉だが、それでもオールマイトだけは信じてくれたらしい。ありがたい。

 

 

「そういうわけで、遠慮はいらない。心配もいらない。もう一度だけ言おう。」

 

「俺にお前は救えない。だけどガキの癇癪にくらいには全力で付き合ってやる。」

「上等だ!!」

 

極限まで冷やされた空気が左にため込まれた爆炎によって、空気が膨張。

結果として引き起こされるのは、圧倒的な爆風だ。間違いなく今の焦凍の最大威力の大技。

 

立ち向かうのはただ一振りの大剣。

 

振るえるのは感覚的に一振りのみ。そんな欠陥品で暴力の極致ともいえる広域攻撃に何ができるのか。

答えは、一瞬の閃光が示した。

 

 

 

 

斬られた。

確認したわけじゃない。痛みを感じたわけでもない。身体のどこかが切り飛ばされたわけでもない。

 

だけど、俺が放った最高出力の爆風が原理もわからねぇ光によって左上から一直線に断ち切られ、俺の左肩から右わき腹にかけて振りぬかれた感覚があった。

 

あとは、よくわからない。

ただ、感じたのは全てを出し切ったという爽快感と、そしてそれをもってしても負けたという口惜しさ。

 

何故か無性に眠くなって瞼がおちてくる。個性の使いすぎた疲労感からか。それともやはりアイツに斬られたから死ぬのか?その割にはやはり痛みも血も出ておらず、逆に、まるで暖かい何かに包まれて微睡むような心地よさがあった。

 

何をされたのか、わからないまま、けれど瞼はおちてくる。意識は遠くなり視界は前のめりに倒れて、

 

「寝るなら布団で寝ろよ。こんなところで寝たら風邪ひくぞ」

 

地面に付く前にいつの間にか俺の前に立っていた男に支えられた。

 

うるせぇ。誰のせいだ。

 

そんな軽口を言いたかったが、どうやら今日はここまでらしい。

 

そうして俺は結局コイツに何を教わることも救われることもないままに、けれどどこか満足して戦いを終えた。だって、きっと答えだけは得たのだ。

 

そもそも救われたいなんて傲慢をいうのはヒーローじゃねぇ。救うことがヒーローだ。

だったら、俺がヒーローを目指すなら、まずはやることがある。それだけで十分。

 

そして俺はゆっくりと意識を落とした。きっと悪夢はもう見ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





というわけで、次回は解説回とまぁその他いろいろ。

それから一話くらい日常回を挟んで皆さんが多分大好きな脳無戦です。

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