いつかは終わるヒーローたちのアカデミア   作:Agateram

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今回は出久君視点です。

初の出久君と弔との会合になります。




第23話 ヴィラン強襲④

自惚れていた。

 

たかが数年の鍛錬、たかが一年のオールマイトからの特訓、そして勝ち得たと言ってもらえた身に余る個性。

 

増長していた。何とかできると思っていた。何とかしないといけないと思っていた。

 

だが、今僕は何とかできていない。

それが結果で、結果が全てが世間の常識だ。

 

 

黒霧と名乗った転移の個性で飛ばされた先にあったのは水。

 

近くに船も見えたことから直ぐにUSJ(ウソの災害や事故ルーム)の湖の中央部分辺りに転移させられたことが分かった。

 

水中に落とされた先に待っていたのは、どれも水中に適していると思われる個性を持った異形型のヴィラン。

状況を確認した瞬間、個性を滾らせ、水中を蹴った。

 

オールマイトの個性による筋力の増強率は常軌を逸している。それこそ空気でさえ、足場にできるほどの速度で脚を踏み込める。訳が分からないだろうが、事実としてできるのだ。パンチやキックで空中での移動が可能。そのような常人には発想できないことを実践する姿が超人染みたオールマイトを更に大きく見せる。

 

だが、まだ僕は未熟。空気を踏みしめるような高速移動は無理だ。

だがここは水中。つまり周りは全て水。その抵抗は空気とは段違いだ。だからこそ、できる。

僕のフルカウルの出力でも水中でなら高速移動が可能なのだ。

 

だから、そうした。こちらを嫌な眼で視て襲おうとしていたヴィランたちを2,3人、槍と、蹴り、そして最後に拳で水上にたたき出した。

 

その後、梅雨ちゃん、峰田君と合流し、僕が拳圧のラッシュで湖に一時的にそこまで届く穴をあけ、そこに戻る水圧で吸い寄せられたヴィランの中に峰田君の『もぎもぎ』の個性、自分以外の物体には異常な接着力をほこるボール状の球を頭からもぎ取り、何個でも生えてくる拘束に向く個性を使い、一気にヴィランを制圧。梅雨ちゃんの個性『蛙』で峰田君と一緒に暴風・大雨ゾーンの援軍に行ってもらい、僕は学校に連絡するために出口を目指すと嘘をついて、セントラル広場に戻ってきた。

 

理由は簡単だ。四季が、あの四季ですら吹き飛ばしたヴィランがじっとしているわけがないから。あのヴィランが暴れだしたらみんながどうなるかわからない。

だから、そこに行った。なんとかするために。みんなを守るために。

 

 

だが、甘かった。見通しも、分析も、状況把握も、何もかもができていなかった。

初めての実戦、なわけではない。今までも巻き込まれる、あるいは騒動に飛び込むような形でヴィランと対峙してきた。

 

けれど、個性をもってヴィランと対峙したのはこれが初めてだ。

だから、目が曇っていた。力があると、思い込んでいた。

 

 

だから、こんな無様をさらしている。

 

脳無という、脳が丸見えの筋骨隆々の化け物は、まずその接近するスピードが目で追うことすら困難な超加速を持っていた。その上四季の蹴撃をもってしても、ダメージらしいものはなく、またパワーも彼を上回っていた。つまりは身体的スペックは僕の上限よりもはるか上。

 

それがこちらに飛ばされる前に得た脳無の情報。

そこから、まずもって分析したのは、相手の速度についていけるか、あるいは反応できるかということ。それができなければ戦いの土俵にすら立てない。

 

結論として、辛うじてではあるが反応は可能。だが相手の力を考えた時にこちらは一撃でやられる可能性がある。四季の『夏』の状態はただ力や速度が増すだけではない。その皮膚、内臓、骨の一片に至るまでより強固に、よりしなやかに、より死ににくい体へと変貌する。その状態の四季が一撃で、それも自分の蹴りで迎えうった上で打ち負け、一撃で意識を奪われた。

 

なら、どうする。

四季はそもそも僕の体術の先生の一人。OFAを継承した今でもその蹴りの練度と威力は彼が上だ。ならば僕の体術もほとんど通じないだろう。組み技、寝技もあの体格差では意味はない。

 

相手は敵。それもオールマイトや僕たちを殺すことに躊躇いもなく、大勢で殺しに来たと公言するほどの敵だ。

 

ならば、この槍を使うしか道はない。

 

打撃がおそらく通じない。ならば刺突。

槍の間合いならばあのヴィランの間合いの外から貫ける。

 

刃引きされていても、僕のOFAの筋力と鍛えた槍術なら大して関係なく、相手に刺さるだろう。相手の四肢、無理であれば……やりたくはないが内臓を貫きダメージで動けなくする。

 

 

そう分析して、セントラル広場の傍まで、水中を蹴って潜行してきた。

 

そうして水辺から広場の状況を見ようとした僕は、自分の目論見と相手の悪意の違いに愕然とした。

 

そこにいたのは手足の骨が全てあってはならない方向に折られ、倒れ伏す相澤先生とその頭をつかんで地面に叩きつける脳無。

 

完全に戦闘不能な相手を、わざと殺さずに痛めつけているモノとそれを傍観しているクソ霧野郎に、「もっとがんばれよヒーロー」と言いながら笑っている悪魔。

 

甘かった。人の悪意を、敵の殺意を、その度し難さを見誤っていた。

こいつらは、僕が思っていた、見てきたものたちより更に醜悪なモノだ。

 

敵とはいえ、相手は生命。生者のその命を奪うという蛮行。その行為をするのには覚悟がいる。元よりヒーローは綺麗事を実践する仕事。

だからこそ、基本は敵であっても殺さずに倒し、戦闘不能にする。そしてその後は法の下で罪を償う。

 

だから、殺さず、しかし相手の動きを確実に今後の一切を奪うために首の骨を穿つ!

それは殺すよりもあるいは残酷な行為かもしれない。けれど、そうでもしないと相澤先生が死ぬ。

アイツラはまだ僕に気づいていない。だが気づけば今度は僕が標的になるだろう。それはいい。だが、その時に相澤先生はどうなるか。考えるまでもないし考えたくもない。

 

だから行った。

狙うのは脳無。穿つのは頸椎。

迷うことなく全力で槍を振るい、狙いどおりに頸椎を穿ち、脳無と言われていたヴィランはその手を止めた。

 

下手をしたら、いや下手をしなくとも死ぬかもしれないが、それでもこのまま先生を見殺しにするよりはいい。

そして先生を相手から奪い取るようにして抱えて、後退する。

 

「み、どりや……にげ、ろ」

 

声が、聞こえた。良かった。意識はある。重傷だけどまだ大丈夫だ。

四季だってもうすぐここに来るだろう。まずは彼に応急処置をしてもらい、リカバリーガールや医療施設へ届ければ命は助かる。

 

「すみません先生。その命令は聞けません。

脳無…脳ミソが出ているヴィランは今首の骨を穿ちました。後は二人です。

すぐに救援も来ます。それまでは時間くらい稼ぎますから、意識をしっかり保ってください。」

 

先生をそっと地面に下して、すぐに槍を構える。相手は転移の個性とまだ不明だが、命令を出していたことから主犯格の敵。油断していい相手じゃない。

 

だから、OFAも自分が使える上限いっぱい。約50%を維持している。

 

さっきの不意打ちと違って今度はあちらがこっちを認識している。転移がある以上、先生から離れすぎると先生を人質にとられるか、あるいは殺されるかもしれない。

 

うかつには、動けない。どうするか。幸い『蹴り穿つ微睡の槍』はもう一組ある。それを使うか。しかし一度見せたものが簡単に通じるかどうか。

 

そんなことを悠長に考えていたから、相手の、手を体中につけた敵が寒気のする笑みを浮かべたのに気付くのが遅れた。

 

「おいおい、最近の学生は怖いなぁ。いきなり首を刺すとかそれでもヒーロー志望か?」

 

「……殺してはいない。けど頸椎を砕いた。首から下はまともに動かせないよ。君たちもそろそろ投降したら? 他の場所に飛ばした生徒たちも、もう敵を倒しているだろうし、僕と一緒だった二人には応援を呼びに行ってもらった。もうすぐ増援も来る。投降するなら、これ以上罪は重くならない」

 

僕の返答の何が面白かったのか、手のヴィランは大声をあげて笑う。黒霧といっていたヴィランは沈黙を保ったまま。それだけ自分の力に自身がある、ということだろうか。それとも応援を呼びに行ってもらったという嘘がばれているのか。

 

「おいおい、笑わせてくれるなよ雄英。教えてやるよ。その脳無はな、対オールマイト用に改造された特別製だ。首の骨を折ったくらいで、やれると思ったのか?」

 

「…は?」

 

視線だけ、先ほど槍で穿って行動不能にしたはずの脳無に向けると何事もなかったかのように立ち上がっていた。立ち上がって、ただそれだけ。人形のように経っているだけだ。視線すらこちらに投げてはこない。

 

だけど、だからこそその異常性がわかった。『改造』『特別製』『対オールマイト用』、つまりはオールマイトを殺すために作られたモノで、あのオールマイトを殺せると判断できるだけの存在ということ。

そしてそれを裏付けるかのように、確実に折り砕いたはずの首の骨など関係ないとばかりに平然とした姿。正に化け物だ。

 

「驚いたか?そいつはあらゆる打撃を無効にする『ショック吸収』とあらゆる傷を即座に再生する『超再生』っていう二つの個性を持っているんだよ。それに、オールマイト級の力と速度。わかるかガキ? お前が倒したつもりのそいつはなぁ、平和の象徴を殺すための化け物なんだよ!お前みたいな雑魚キャラで、何秒持つかやってみろ! 殺せ脳無。標的は槍を持っているガキだ!」

 

次の瞬間、死ぬと体が理解した。

殺意とか悪意とか関係なく、あの脳無はただの暴力装置で言われたとおりこちらを殺しに一歩踏み出そうとしている。

 

ショック吸収…打撃は効果がない。超再生…半端な攻撃では止まらない。

 

僕が殺されれば、次は誰だ。相澤先生か。それとも、またここに来た生徒を殺すのか。

 

それを、許せるのか緑谷出久!!

 

もう呼吸一つしている暇はない。

答えは決まった。覚悟は昔に済ませている。

 

だからこそ

 

「刺し穿つ葬送の槍!!」

 

フルカウルの、否、『ワンフォーオール』の個性を右腕だけ最大出力にして繰り出す右の直突き。その切っ先は音速など遥かに超過し、捻りながら加えられた回転の余波でさえ、槍の周辺に鋼鉄をも粉砕する衝撃波を発生させる、今の僕に出せる最大の攻撃の一つ。

 

その切っ先の先にあったのは、穴。

 

それもただの穴じゃない。相手の心臓を狙った突きはその胴体を丸ごとなかったことにした。こちらに振りかぶっていた腕はどこかに飛んで行った。頭もこちらへ殴り掛かった勢いのまま後ろの湖へと落ちていった。

その場所に落ちた左腕と力のあまり地面に刺さった両足と、吹き飛ばされ、ミンチ以下になった赤い、赤黒い地面のシミが僕が為した結果の全てだった。

 

———命を絶った。

 

この手で殺した。

 

重い。

 

100%の個性を発現させた反動で折れた腕の痛みなど、この重さに比べれば気にすらならない。

 

体が、心が、重いのだ。

 

誰かの命を絶つというのは、これほどまでに重いのか。

たとえそれが、こちらを殺そうとしていた敵でも、こんなに吐き気がするものなのか。

 

「おいおい、どうしたヒーロー。震えているぞ?」

 

何故、こいつ等は仲間が倒された、いや殺されたのにへらへら笑っているのか。

何故、こいつ等はこんな吐き気しかでないような行動をあっさり行おうとするのか。

 

理解ができない。何だ。この男は。

 

「なんなんだお前は!仲間が、死んだんだぞ!それなのに、何をへらへら笑っているんだ!どうしてこんな気持ち悪いことを平然と『やれ』なんて言えるんだ!!」

 

「おいおい、自分で殺しておいてこっちに説教かよ。まぁいいさ。簡単だ。」

 

立ち上がって、大げさに手を天に広げるようにして、そいつは僕に言い放つ。

 

「価値観の相違ってやつだよヒーロー。お前は地面にいる虫が死んだときにもそんな風に怒るのか?この世界に60億以上いるモノを何体か減らそうが特に何も感じない。それだけのことだ。」

 

—————わけが、わからない。

 

そんな僕にところで逆に聞くぜヒーロー、なんて言葉が続いたが、コイツの言葉を聞いていると頭が痛くなる。

 

「お前等は何で命かけて、自分の知らない奴とか助けるんだ?そこにいる教師だってそうだ。まだお前入学して1週間そこらだろ?そんな奴らのために、どうしてお前は命を懸ける?」

「それが、僕の信念だからだ! 自分の心に決めた僕の確固たる『原点』!僕は『人』を救えるヒーローになる。目の前で理不尽に奪われる幸せを、日常を守るヒーローになると

そう決めた!そう決めて生きてきた!!だからそう生きるだけだ!」

 

「『信念』に『原点』かぁ。はっいいねぇ。いかにもヒーローらしい。ところでヒーロー?」

 

もう勝ったつもりか?

 

その一言と同時に、僕折れていた右腕ごと胴体を打ちぬかれた。

目まぐるしく変わる視界とまき散らす血反吐、そして何が起こったか打たれるまでわからなったという醜態をさらして、轟音と共に岩壁に激突した。

 

 

脳無。さきほど確かに胴体を貫き、四肢も頭も吹き飛んだはずの相手が何事もなかったかのように右腕を振りぬいた姿勢でそこに立っていた。

 

絶望はまだ死んではいなかったのだ。

 

 




さて、USJ編もそろそろ佳境です。

あと……2,3話はかかるんですよねコレ。

次は大体書いているので明日には投稿できるかもしれません。

今後もよろしくお願いします。
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