いつかは終わるヒーローたちのアカデミア 作:Agateram
あと、1話でUSJ編も終わるといったかもしれない。
けれど、実は1話では収まらなかったのです!
というわけで、まだ場面は全く進まず、けれど、この回をもって爆豪勝己の命運は皆さまの投票を参考に全く変わる運命をたどります。
というわけで思わせぶりなことを書いといて、ほぼほぼプロットができてしまっていて今からアンケート覆ったらどうしようとか慄いている私が、投降した。のでとりあえずどうぞ。
腕を振る前に起点となる肩を切る。
脚を動かす前に膝をくり貫く。
体を前に倒す前に首を裂く。
やっていることは単純だ。
この三つで大抵は足りる。
だというのに、この敵ときたら、
切られながらも腕を振りぬき、
脚を貫かれながらも前へ進み、
首がもぎながらも前進しようとしてくる。
全くなんて化け物だ。さすがは『対 平和の象徴』として作られたモノ。
流れは完全にこちらが掌握している。こちらの思い通りに動く人形になり果てている。
それにも関わらず、この化け物はそれを力技でねじ伏せようとしてくる。
全く、本当に厄介なものを作ってくれたものだ。
もっとも、前進を僅かなりとも許す理由は俺の方にもある。
視界に映る生命の生きる力を様々な形の『色彩』として見るという俺の基本能力。
それが、この脳無という相手とは最悪に相性が悪い。
俺は今、正直に言って吐きそうなほど気持ちが悪い。頭蓋と目じりの奥からトンカチでガンガン殴られているくらいには頭痛がする。
本来なら、こんなことはよほどのことがないと起きない。
これは目を覆わんばかりの、それこそ何千という個性の発動や何万の人込みの中か、救いようがないほどの死刑囚確定の極悪人を何度も見た時などに感じる痛み。あまりの『色彩』の多さに脳の処理が追い付かない、あるいはあまりの醜悪さに脳が処理したくないという拒絶が施す、これ以上見るなという本能的な廃絶の結果。
つまりは、酔うのだ。人混みに酔うように、悪酒に惑うように、妙な薬を使われた時のように、脳が十全に動こうとしてくれない。
つまりそれだけこの脳無という生命体が、命という形を人為的にぐちゃぐちゃにゆがめて作られた人の紛い物だと、俺の個性はそう訴えているわけだ。それこそ見るのもおぞましいような実験と研究という名の下の、非人道的行為によってのみ作られた壊れた命。
本当に、この脳無が名前どおり脳無しでいてくれて、助かった。
もし半端に意識があったならば、この命に助けてとでも願われていたら、俺はどうしていたかわからない。
おそらくは、その言葉通りに助けていただろう。その方法は、救いとは言い難いだろうが。
そんなことをしている間にあと20秒。
そろそろ、作戦を実行してくれないと不味いんだが、後ろではまだ言い争いが…あっ、出久が爆豪を殴ったな。個性抜きだけど、かなり本気で。
ホント、こっちが命がけて時間稼いでいるのに何してんだあの若造ども。
「つまり、あの状態は後一分も持たねぇ、てことだな緑谷」
「うん。あの状態は100秒限定の無敵状態みたいなもの。その後は常人以下かひどければ強制的に休眠状態になって回復するまで起きない。だから僕たちは一分後に四季が作る隙に、あの脳無を倒す……あるいは殺さないといけない」
情報のすり合わせをできるだけ短時間で終え、結論を出す。
殺さなければ、あるいはそれと同等の状態にしなければ脳無は止まらない。
それは、こちらの敗北を、ひいてはこのゾーンにいるクラスメイトや先生たちの命が危ういことを意味している。
だからこそ、僕たちでやらないといけない。
「策はあるか?俺の氷結もあっさり破られた。拘束は多分無理だぞ」
轟君の言葉どおり、ただの拘束では意味がない。単純な力で破られる。
周りを見れば相澤先生の捕縛布も散らばっている。おそらくは先生も応戦し、捕縛布を使って雁字搦めにしたのだろう。それでもそれが散らばっているということは、つまり特殊合金を含んだプロの捕縛武器をもってしても、そして轟君の氷結でも拘束はできないということ。
ならば、どうする。相手は衝撃を吸収し、ダメージが通っても即座に回復する化け物。
………いや、答えなど決まっている。
捕縛は、僕たちでは不可能だ。でも止めるならば、誰かの命を取りこぼさないためならば、やるしかないのだ。そう決めたはずだろう緑谷出久。
「拘束、捕縛はほぼ不可能。なら、僕たちができるのは倒す。……ううん、違うね。言葉遊びで逃げるのは止めよう。僕たちは全力で、あのヴィランを殺す。それしか、道はない」
そう、先ほど僕がした覚悟。
人を救うために、人を殺す覚悟。
それを前提に、三人で行動するしか、あの敵たちを止める術はない。
そうただでさえ、後二人主犯格のヴィランが残っているんだ。あの二人がいつまでもこの状況を静観しているとは限らない。
だから、四季が抑えていてくれているこの100秒の間で、相手が次の行動を起こすこの間にしか、僕たちに勝機はない。
「……ああ、そうだな。それしかねぇ。俺の左も、右も、全力で使う。」
「ありがとう、轟君。作戦は簡単だ。僕が初撃でアレを地面に縫い付ける。
轟君にはその瞬間に最高速であの化け物を凍らせてほしい。そこで、爆豪に全力爆撃で氷ごと相手を粉々にした後に、更に轟君に破片を焼いてもらうか、凍らせてもらえば再生もできないと思う。」
「オーバーキル、とは言えねぇな。あの様子を見れば」
轟君が向けた視線の先は、四季が目に追えないほどの高速で脳無の体中を切り裂いて、いや、正確には肩や膝、首とか、だろうけれど、一方的に切りつけている光景がある。
一件スプラッタホラーの一幕だ。目にするのも気持ち悪い、吐き気を催す光景だ。
どれほど常識外れた速度で、どれほど桁外れた力で、どれほど埒外の技術で行われていようとそれは一言でいえば、殺し合いの真っただ中。
親友が自分の命を削りながら、誰かの命を取ろうとしている光景を見たいと思うほど、僕の心は壊れていない。けれどこの光景で見るのは別にある。
当然それは目下の最大の敵、脳無だ。
四季の攻撃はナイフなどによる斬撃。ショック吸収の個性はその真価を発現できずに切り裂かれる。しかしそれはダメージにはならない。ただの時間稼ぎだ。逆再生もかくやというほどのスピードで再生する体はそれだけで生理的に受け付けづらい。それが一撃受ければ即死につながる膂力をもつ敵だというだけで、既に悪夢だ。
相性にもよるが、ヒーロービルボードチャートJPに乗るようなヒーローや武闘派のヒーロー達でも太刀打ちできるのは何人いるか、というそんなレベルの敵。
たかがヒーロー科に入ったばかりの一年生が相手をできるレベルではない。
けれど、やらなければならない。
命は重いのだ。先ほど痛感した。
命を重さを、殺すことに悍ましさを。
それでも、
敵は倒す、仲間は守る、両方をこなさなければならない。
それが、ヒーローだと、胸を張っていえるように。
たとえ、その裏でヴィランという『人』を殺すことになろうとも。
「轟君、僕らがやろうとしていることは人助け、ヒーロー活動。その名の中に隠れた人殺しだ。あれが改造人間でも、元は人だったはず。それを殺すんだ。きっと、この選択をずっと後悔するかもしれない。それでも、付き合ってくれる?」
こちらの意図を、あのヴィランは僕らの力では殺さないと止められないということを理解してくれたのだろう。
顔が一瞬強張ったが、それも、次の瞬間両端に現れた冷気と熱気と、強い瞳で返された。
「ヒーローってのは綺麗なだけなもんじゃねぇ。わかっているよ緑谷。
それでも、俺はなるって決めたんだ。自分が目指したヒーローに。ここで逃げたら俺達も、相澤先生も、皆も死ぬ。なら逃げる選択肢はねぇ。付き合うぞお前の策に」
心強い。入学してからまだ一週間だというのに、命がけの策に乗ってくれる、その意気、さすがはヒーロー科。ううん、さすが、轟 焦凍、というべきだよね。
「ありがとう。それで爆豪、不満はあるだろうけど、今は協力して……爆豪?」
そして、そこで漸く僕は見た。
いつも勝気だった幼馴染。ヒーローを目指すと言いながら、やっていることはヴィラン予備軍と大差ない、その癖やけにみみっちいところがある、緑谷出久の最初の壁。
天に愛された者。あらゆる才能において僕を、他の皆を上回った天才が四季と脳無の戦いを見て、その矮小な、しかし彼を支え続けた確かな誇りが崩れかける様だった。
初めてケンカで負けたのは、小学校6年の頃だった。
個性『爆破』が発現し、自分の知能も、身体能力も、個性もが周りの誰よりも凄いと褒められた。凄いと言われて、みんなが俺の後ろをついてきた。皆が俺を認めた。
けれど、そんな小さなお山の大将は、たかが二つ上のガキに正面から潰された。
勉強はほとんど互角だが、相手が上の順位が多かった。
身体能力は個性抜きなら、アイツの方が上回った。
ケンカでは、何度挑もうが一度たりとも勝ったことがない。
それでも、それは個性抜きの話だ。
個性が、この爆破の個性と俺の天才と呼ばれた才能があれば、あの野郎なんて敵じゃねぇ。
オールマイトにも、いずれあの憧れたヒーローでさえも追い越してみせる。
そう言ったのは、いつが最後だったか。
雄英高校の入試では、あの野郎はおろか、デクにさえ負けていた。
個性把握テストでは、デクにも半分野郎にも、作る奴にさえ負けた。
戦闘訓練では、何が何だかわからないうちに、瞬殺された。
いつからだ。
俺が、『勝つ』と言えなくなったのは。
いつからだ。
俺が、俺自身を信じられなくなったのは。
ああ、少なくとも今だ。今、俺は認めちまった。
あの脳無には勝てねぇ。
そして、なにより、その相手を正面切って戦って勝ち続けているあの野郎に、彼岸 四季に勝てねぇと諦めちまった。
一度認めてしまえば、崩れ落ちるのは簡単だった。
わかっていたからだ。本当は自分がどれだけ薄っぺらなのか。
どれだけ虚勢を張り続けるだけのガキだったのか。
負けたからじゃねぇ。勝てなかったからじゃねぇ。
あいつ等が、彼岸が、デクが、俺を見なくなった時から、見る必要もなくなった時から……違う。
俺は、路傍の石コロとしか見られなかったアイツ等が、俺の小さな世界に入れるような奴じゃねぇと、認めてしまったときから、負けていたんだ。
力で、技で、心で、器で、ケンカで、速度で、個性で、人間性で、生き方で、俺はあいつ等に及ばねぇと認めてしまった。
なんて、惨め。なんて無様。
爆豪勝己は、それくらいの奴だったんだと、俺はこの時初めて、本当の負けを認めた。
そして、俺の届かない領域でやりあっている留年野郎、彼岸四季の前で、俺はとうとう膝さえ折ろうとして、
「戦闘中に、何を呆けているんだ馬鹿野郎!!」
世界で最も聞きなれたクソナードの言葉と、拳が頭に響いた。
むしゃくしゃして殴った。
理由はそれだけだ。特に弁明もない。
ただ邪魔だった。イラついた。馬鹿かと思った。馬鹿だと断じた。
だから殴った。何故ならかっちゃんは馬鹿は馬鹿でも頭のいい馬鹿だ。
この状況の整理ができていないとは言わせない。この状況の危うさがわかっていないとはいわせない。なのに、この馬鹿幼馴染もどきのいじめっ子野郎ときたら、この後に及んでまで自分のプライドなんかで動きを止めている!
「クソ馬鹿野郎かお前は!! 人の命が掛かった場所で! 命がけで戦わなければいけない場所で! 自分のくっだらないプライドなんて気にして死ぬのをただ待っているだけのヒーローがいるか!!」
ああ、そうだ。たとえ性根が屑に近かろうが、いじめっ子だろうが、この馬鹿は才能に恵まれ、何よりヒーローを目指したはずのバカだったはずだ。
それが、なんだその無様さは。それがヒーローの姿か。オールマイトの勝つ姿に憧れ、勝つということに固執した、僕の憧れだった男の姿か!!
「ふざけんなバカ野郎! ここは、戦いの場だ。テレビの先のヒーローが活躍する場所じゃない!僕たちが、ヒーローにならなきゃ皆が死ぬ戦場だ!そんなところで、無様に負けを認めて這いつくばるのが、君の目指したヒーローなのか!?
答えろ!!答えろよ!かっちゃん!!」
嗚呼、クソが。本当にこのクソナードの声は、拳は、眼は、俺の頭に響きやがる。
はい。というわけで、言い訳タイムを少しください。
実はこの場面はさくっと終わって次の体育祭編が爆豪をはじめ、何人かの分岐点になる予定でした。
けれどまぁ話がまとめきれず、この有様です。
次回、USJ編完結。その後日常回と、ちょっとした?原作改変、とかなにやら入ります。
ナマケモノの木登りのような進行で申し訳ありません。
今後も付き合ってやるよという心の広い方は、最後まで書ききりますのでどうかお付き合いいただければ幸いです。