いつかは終わるヒーローたちのアカデミア 作:Agateram
次回は幕間、あるいはその後の日常編です。
長かった……。
いつからか、俺達の、爆豪 勝己と緑谷 出久の関係性は変わった。
いや変わったのはデクだけだ。変わった性格、変わっていく体つき、俺の呼ぶ言葉、俺を見る目。アイツの視界に映る対象も変わっていた。
だがアイツの視界にもう俺はいねぇ。その事実に、安心したのはどうしてだ。
決まっている。俺が、デクを嫌う理由だった、二つを見なくてよくなったからだ。
今でこそわかる、俺がアイツをどうしても受け入れられなかった理由。
それは『強さの質の違い』と『気持ち悪さ』だ。
俺が目指したヒーローは………オールマイトだ。オールマイトが勝つところだ。
何が何でも勝つ、それに憧れた。
勝たなきゃ何の意味もねぇ。
勝たないってことは負けることだ。敗者に何も言えることはねぇんだ。
勝者だけがこの世で発言できる。この世を制するのはいつだって、どこでだって勝者だけだ。
だからこそ、ヒーローの勝者の象徴に憧れた。
あの人のように誰にでも勝てるようなヒーローを目指していた。
だが、現実はどうだ。
留年野郎……彼岸四季は一度だってまともに勝てたことはない。
緑谷出久、あのクソナードにも先日負けた。負けて、しまった。
そればかりか、昨年も、そして今も、一瞬とはいえ、敵から助けられた。
助けられたんだ。俺が! 勝つために鍛えてきた。勉強も運動も個性も伸ばしてきたはずの俺が、あの道端の石コロに助けられた。
これ以上の屈辱はねぇ。
そう、思っていた。そう思うことで俺は、自分の弱さを認めることをしなかった。
だが知っていたんだ。
彼岸 四季が、俺よりも強いことを。
緑谷 出久が、俺よりも強い彼岸を目標にしたことを。
そして、あの二人が個性抜きならいつの間にか自分よりも一歩先にいることを知った。それでも個性ありならと思った雄英試験でも、戦闘訓練でも、負けた。
それで、俺の中の『強さ』で固めた誇りは塵になった。
もう一つのデクを嫌う理由。どうしても受け入れられない『気持ち悪さ』
ガキだった俺はそれがわからなかった。
でも、今ははっきりわかる。
デクも、あの半分野郎も、そしてあの留年野郎も、自分の命よりも誰かを優先している。そしてそれが当たり前だと、こんな生きるか死ぬかの場面であっても、日常のほんの小さな場所であっても『自分』より『他人』を優先しやがる。
あり得ねぇ。
自分の命よりも大切なものがあるなんてのは、ただの幻想だ。人は自分よりも大切なものを作らねぇ。作ったとしてもいざって時はそれを見捨てる。それが当たり前だ。生物として、それが当たり前の行動だ。
それをアイツらは、あのデクは、緑谷出久はしない。
助けると決めたときには、既に体が動いてやがる。その時に自分が死ぬ可能性も助けられるかどうかも関係ない。ただただ助ける。それだけに自分の全部をつぎ込む。
おかしい。頭のネジが外れているとかそういう次元じゃねぇ。
生物としての在り方が、気持ち悪いほどに俺と乖離している。
そしてそれは、デクが俺よりも………強くなる前も、後も、誰かを助けるために何でもするっていうスタンスを、考えを、原点を変えていない。
それが、気持ち悪かった。自分とはまるで違う生物に見えた。
ただ、それは、認めなくなかったからだ。
わかってんだ。俺は頭がわりぃクソ阿呆じゃねぇ。
その考えこそが、俺が憧れたナンバーワンヒーローのそれに一番近い、ヒーローの根源だって、理解してんだ。
自分の命よりも、赤の他人の命のために自分の全てをかけられる。狂気の沙汰だ。常人の考えじゃねぇ。
けど、それが俺が憧れたヒーローの本質で、それを昔から持っていたのが、他の全てを持っていた俺が唯一気持ち悪いと切り捨てたものを持っていたのが、クソデク、緑谷出久だったってだけの話なんだ。
なら、ヒーローとして、本当に大事な何かをもっていたのは、俺とデク、どちらだったのか。
『強さ』で、留年野郎に負け、『気持ち悪さ』……ヒーローの『資質』でデクに負けた。
そんなことを考えてしまったから、俺はもう立てなくなろうとした。
立とうとしなくなった。だって俺は、アイツ等どころか、その他の端役といった奴らにすら負けるようなちっぽけな人間だったんだから。
そんな俺を、あのクソナードは容赦なく、殴りつけた
「ふざけんなバカ野郎! ここは、戦いの場だ。テレビの先のヒーローが活躍する場所じゃない!僕たちが、ヒーローにならなきゃ皆が死ぬ戦場だ!そんなところで、無様に負けを認めて這いつくばるのが、君の目指したヒーローなのか!?
答えろ!!答えろよ!かっちゃん!!」
そんな言葉と一緒に来たのは拳だった。
いつの間にか俺よりも一回りデカくなった手。
傷つき、分厚く、ごつごつとしたソレ。俺と大して変わらない身長なのに、俺よりも重い、筋肉を引き締めて作ったような体。そして、昔と変わらない、いや昔よりもなお強くなった、誰かだけを助けるためにだけ生きているような、理解できない瞳。
殴られた頬がイテェ。個性は出してなくてもあの分厚い拳で、あのクソ力で殴られれば、当然のように体が一瞬宙に浮いて俺は倒れた。あのクソナードが……。
なんだよその眼は。その眼を俺に向けんじゃねぇ。
俺が、俺が目指したのは、勝つヒーローだ。
何事においても勝つヒーロー。
だから、今の俺はヒーローのとしては、ただの、ただのモブで………いられるはずが、ねぇだろうが!!
「ふざけんな!クソナードが!!誰が無様に負けを認めた!?
こっちはテメェ等がこそこそしている間にあの脳ミソをブッコロス手段を考えていただけだ!!テメェ等こそ、こそこそしてあの留年野郎に稼いでもらった時間に見合う策は思い浮かでんだろうな!!」
叫べ。虚勢を張れ!それでも今はいい!
折れるような軟な考えは捨てろ。負けるかもしれねぇ、なんて考えるな。いつだって勝てると思って進め!それが、俺だ。爆豪 勝己だろうが、クソが!!
爆豪 勝己は負けない、勝つヒーローになる!!
いかなる状況においても勝つヒーローになるって、今、俺が決めたんだよ!!
それでいい。それがいい。
かっちゃんは、爆豪 勝己はいつだって勝つ気でいなければならない。
それが、爆豪というヒーローが幼いころから抱いたヒーロー像で、今もこれからも抱いていくヒーローの在り方なんだから。
ヒーローの定義なんて、本当は決まっていないんだ。
当たり前のことだ。正義と悪が時代と立場と信じるものによって変わるように、ヒーローも、英雄も全て認識一つで変わるものだ。
幼い頃にオールマイトだけがヒーローであったように。
個性がないとわかった時に、自分に持ってないものを全てもつ彼がヒーローであったように。
個性ではなく、その在り方、その意志、生き様、死にざま、人生にこそヒーローの在り方がわかると教えてくれた彼のように。
今の僕が思い描くヒーロー像のように、君は君が描くヒーローになればいい。
「当たり前だよ!作戦はできてる。あとは君がついてこられるかどうかだ」
「ナメンなクソナード!お前らが俺についてこいや!」
「……お前等、ホントに頼むぞ。あと10秒で時間だからな」
そうして、人生初めての、そして遠い未来に何度も即席チームを組むことになる、三人の初めてのヴィラン戦闘が開始した。
現在の戦闘能力を維持できる限界活動時間まで残り10秒を切る、そんな時に出久から合図が来た。合図は簡単。俺を「四季」ではなく「彼岸」と呼ぶこと。
彼岸という俺の姓の語源は一説では煩悩を脱して悟りの境地に達した者だけ至れる場所のことを『彼岸』と言われているそうだが、この状況、俺達二人にとっては戦場においては互いに視認やアイコンタクトがとれる余裕がない時の単なる『作戦準備完了』の合図でしかない。
つまり、この状況を脱する算段がついたということだ。ナイフを持つ右手で切りつけながら、相手に見えないように一瞬だけ左手のナイフを親指と人差し指だけでもち、他の指を伸ばす。ナイフがなければただのOKサイン、わかりやすい意思伝達手段だ。
これで場は整った。ならば、俺がやるのは最後の嫌がらせと、後方支援を途絶えさせること。
だから、それまでの単調で、しかしだからこそ誰も付け入る隙がなかった超高速単純戦闘を切り替えて、拳を避けると同時に脚をできるだけ深く、数瞬で何度も切り裂き、脳無を宙に一瞬浮かす。
直ぐに再生を始めるだろうが、それでも十分な隙になるだろう。
そして俺はそのままこれまで一歩も引くことができなかった脳無を無視して、残る主犯格、死柄木 弔と黒霧へと走る。速度はもはや夏の特性が切れたように幾分緩やかに、肌の色も普段と同じに変わっているだろう。
それを見れば、俺が脳無の相手が限界になり一発逆転を狙って主犯格の二人を制しようとしていると相手に誤認させることができるかもしれない、という姑息な時間稼ぎと意識をこちらに向けるだけの行動だ。
しかし、それだけで十分だ。
約90秒、1分半もの時間をあの大きなヒーローの卵たちに与えれば、その間にアイデアを、覚悟を、連携をもってして、一瞬でもヒーローのような大きな翼を見せてくれるだろうから。
俺はなんの心配もなく、この戦いの最後の仕上げを邪魔させないために走り出した。
背後に響く轟音に、振り返ることなく笑いながら。
姿勢をわざわざ崩してくれた四季に内心お礼を言いながら、僕は上空で槍を構えた。
持つのは当然左手。利き腕である右手は先の戦闘で100%の一刺しで使い物にならないからだ。
それでも、この一撃は必中の自身がある。
片手が動かなくとも、利き腕でなくとも、それくらいはできるように鍛錬してきた。
だからこそ、この一投は外さない。
相手を貫き、地面に縫い留める高所からの投擲。
コツは三つ。
1つ目は超単距離で最高速度に乗る踏み込み。走る勢いを槍に乗せるのは投擲の基本だ。
2つ目は従来の陸上競技や古代兵の投擲にもあり得なかった跳躍の際の体幹。跳躍しながらモノを投げるのは脚が地面から離れる時点でせっかくの踏み込んだ勢いを殺しかねない愚行だ。だから誰もやらないし、意味がない。だけど、それを無駄にしないための体幹バランス、腰の捻りから肩へ全部の力を乗せる力の完全制御が必要不可欠。なければ手の力だけで投げるような投擲とすらよべないものになる。
3つ目、これは単純だ。オールマイトが教えてくれた。ここぞというときに、力を出し切るために、心を決めて叫ぶのだ。
「
50%、体が許す限界ギリギリで放つ飛翔する槍は、空気の壁を突破する速度で相手の心臓を貫き、そして深々と地面に刺さる。
それとほぼ、同時、既に先行していた氷結の波が、縫い留めれた脳無が槍に触れようとするよりも早く、地面から津波のようにその全身を襲う。いや覆うだけに留まらず、天に昇らんとするほどの大氷結をもって脳無の動きを完全に止めていた。
「緑谷風に名付けるなら、穿天氷壁、ってところか。あとは任せたぞ爆豪!!」
「わかっとるわ!クソが!!」
僕よりも更に上空、ほとんど真上から急降下してくるのは爆発のエネルギーを推進力に変えて、更に回転しながら標的に飛び込んでいく爆豪。
その遠心力と爆速でつけた落下のスピードでつけた速度のままに、右手を開き、更に手についている手榴弾型のサポートアイテムの安全ピンに左手をかけていた。最大速度に最大威力の爆発、それに加えてサポートアイテムを使用することで爆発の指向性と威力を高めてゼロ距離で放つ大技。
「
本日最大の爆破が対象の脳無を粉々に破壊した。
1人では成しえなかった脳無の撃破。
3人のチームアップと1人の時間稼ぎで漸く、それは為されたのだった。
後ろからの爆風を受けて、更に加速する。
もうあと数歩でたどり着く位置まできた死柄木 弔の表情で、後ろで何が起こったか、よくわかる。脳無を倒したのだろう。あの3人が。
後は、この二人を倒して終いだ。
もはや肉体活性も限界が近い。一瞬、一撃で意識を刈り取る!
「脳無が!なんだなんだよお前等!?」
「死柄木 弔、早くこちらへ。逃げますよ」
黒霧はいち早く俺への対処をしようとしてワープゲートとなる黒い霧の塊を出しているが、もう遅い。俺の蹴りの方が早く届く!
そう、確信した瞬間に霧の向こうから腕が見えた。
同時に、先ほどの脳無が可愛く見えるほどの、全ての色を混ぜて溶かして煮詰めたような、形容しがたい『色彩』も。
「『空気を押しだす』+『膂力増強』×3、吹き飛ぶがいい。枯葉のように」
脚を死柄木に振り下ろす直前に、ナニカが、いや空気の塊が腹を直撃する。
感じられたのはそこまでだ。
そこから先はよくわからないほどの速度で、出久たちがいた場所を通り過ぎ、岩壁まで一直線にこの身を弾き飛ばされた。
————不味い。アレは、ダメだ。本当にどうにもならない。出久を、皆を逃がさなければ。
「せ、先生……」
「やぁ、弔。今回の作戦は失敗みたいだね。でも大丈夫さ。次に活かせばいい。
今回の敗北を糧にすれば、君はもっと伸びる。」
嫌な声だった。本当に声なのかも疑わしい。聞くだけで耳が脳がイカレそうな、感情が籠っているようで何もないような音だった。
そして、それは来た。
黒い霧の向こうから。
ヘルメットにたくさんの管をつけた、スーツを着た男。
死ぬ。間違いなく、アレを相手にすれば全員死ぬ。
直感だ。今受けた個性のダメージだけではない。俺の個性で見た『色彩』の醜さでもない。
一人の生物として、アレに関わらせれば、この場所に、この学校にいる全員が死ぬと感じている。
「四季!!しっかり、しっかりして!僕がわかる!?意識を保って!すぐに止血するから」
出久の声が聞こえる。あの化物の重圧の中で、それでも俺の身を心配して俺の前に立っている。
逃げろ、とは言っても無駄だろう。出久は、緑谷 出久はそういう男だ。
だから、俺がやらないといけない。
アレはこの場の誰よりも強い。誰よりも醜い。誰よりも、冒涜的な何かだ。
死ぬのは、怖くない。死は隣人だから。
だから、あの化物と呼んでいいかもわからない生物の相手もできる。
緑谷出久を、轟焦凍を、ついでに爆豪のバカも、アレに殺させるなんて真っ平だ。
「『生まれた、瞬間に、既に……』」
個性を、発動させる。
『春夏秋冬』最後にして、最低の能力。
始まりにして、終わった能力。
使いたくはない、使われたくはない。
けれど、そうしないと友一人守れないというならば!
そこまで、考えた時に、大音響を伴って、USJの扉が打ち開かれた。
それは、歩くだけで、そこにいるだけで、その場にいるヒーローの卵たちに安心を与える。
「もう、大丈夫!!何故なら、私が来た!!!」
『平和の象徴』、オールマイト。
「これは、これは、久しぶりに聞いた声だねオールマイト」
「っ!!?きさ、まは!」
「悪いが、今日はここまでだ。またいずれ、君を」
瞬間、刹那もなかった間に台詞は遮られた。
途方もない衝撃が、広場を、このUSJそのものを震わせた。
それは、俺達の動体視力を超えた速度でオールマイトがあの管だらけの化け物に、拳を打ち込もうとして、あの化物はおそらくは先ほど俺を吹き飛ばしたものの何倍もの威力の衝撃波をもって迎え撃った、その余波だった。
余波だけで、この広い施設の全てを震わせた。
ここにいる互い以外の全てを震わせた。
(次元が、ちがう)
(これが、プロの、ナンバーワンの本気)
(オールマイトの一撃を、相殺した!?なんなんだあのヴィランは!?)
一瞬の状況変化に生徒たちは反応できない。
最前線に立つ、その背中があまりに遠い。
そしてその先にいる敵も。
どちらも今の自分たちでは立ち入れない領域にいると、ただの一撃。たった一つの攻防。
それだけで、そこにいた俺を含めた全てのヒーローの卵たちが悟らせられたのだ。
「危ない、危ない。しかし良いのかいオールマイト?
ここでやりあえば、周りの生徒は死ぬよ?」
「っ」
一瞬の躊躇。
それを作るための虚言。
ここでやりあう気などさらさらなかったのだろう。
その一瞬で、黒霧と死柄木を回収して、黒い霧の中に入っていく。
「次は、殺すよ、平和の象徴」
「オールマイト、お前も、お前の生徒たちも、大嫌いだ!殺してやる」
そうして、最後の捨て台詞と共に、脅威は去った。
緑谷 出久と、死柄木 弔、そして彼岸 四季が初めて一堂に会した、最初の戦い。
後にUSJ事件と言われ、後の大事件の始まりと言われる、これが長い闘いの始まりだった。
今回も読んでくださった皆様に深い感謝を申し上げます。
いつもありがとうございます。
爆豪君のアンケートもこの回までとします。
たくさんの投票ありがとうございました。
ご期待に添えるものかはわかりませんが、少しキャラが違う、あるいは立場が違ってkる、かもしれません。
それでは、よろしければまた次回。
緑谷出久にヒロインは必要でしょうか?あるいは必要なら誰がいいと思いますか?
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必要なし。あるいは主人公がヒロインだろ?
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原作ヒロイン麗日お茶子
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ケロケロな蛙吹梅雨
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B組もいいかも。
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壊理ちゃんでもええやん