いつかは終わるヒーローたちのアカデミア 作:Agateram
集団を書くのは難しい。そんな初心者の作品ですが、よろしければご覧ください。
雄英高校体育祭、1年の部の審判を預かった18禁ヒーローミッドナイトは、眼下に広がる光景に満足していた。例年であればヒーロー科以外の生徒たちに目には諦めを含んだ影のある目と覇気を感じられない緊張だけに支配された様でこの開会式を迎えるのが常だ。本当にヒーロー科に行こうとする、あるいはトップを本気で目指そうとするなどという生徒はほんの一握りだった。
しかし今はどうだ。
先の宣誓は、完全にわずかに残った雄英高校の生徒という小さな火に藁を、否、石油をばらまいたように爆発的に広がり、1年のほとんどが『やってやる』と燃えている。その眼にいつか忘れてしまった野心を、闘志を漲らせている。
良い!それが良いのだ!!
己の全てをかけて苦難に挑む、若き情熱が迸っている。ゾクゾクと背筋を走る興奮を抑えられない。ここ数年、ここまで1年が盛り上がることなどなかった。
それを誘導したのは、今年の主席入学者、彼岸 四季。
常に冷静な印象だった。その顔に無表情をはりつけ、考えなど読ませない。イレイザーヘッドに似た合理的主義。だが、それがこの光景を為した。何のことはない。教師と同じだ。相澤消汰と同じなのだ。合理的に見せて、何だかんだで結局情を捨てきれない、そして内に秘めたヒーローとしての熱意はそこらのヒーローなどと比べ物にならない。そんな教師とそして、彼のプロフィールを知る立場故にその口調にどこかのウサギヒーローの姿も見える。ああ、この子は間違いなくあのトップクラスのヒーローの弟で、自分の後輩の生徒だと感じた。その生徒がこの大舞台で放った挑発を含めた選手宣誓。これほど心躍るものはない。
そしてそれは自分だけでなく、他の皆の心をも躍らせている。昂らせている。これでこそ祭りだ。
「最高よ彼岸君! 最高の祭りのスタートだわ。
さあ、1年諸君!今の気持ちを忘れないで!己がトップに行く気概がなければ何も為せない!第一競技『障害物競走』!!全員参加のスタジアムの外周約4kmの競争!そして忘れてないでしょうね!雄英高校の売り文句は『自由』、コースを守りさえすれば何をしたってかまわないわ!そしてそれは私たちにも言えるわ。私たちが自由に理不尽な障害物を置いてきた道、その勢いで乗り越えてきなさい!」
障害物走と聞いて、思い浮かべるのは前時代であれば校庭のトラック内に設置された平均台や投網くぐり、麻袋の中に入って両足で跳びながら進むなどが一般的だったらしい。純粋な足の速さもそうだが、どんな競技にでも対応できる運動神経が重要であるが、ここ雄英高校に至ってはそれだけではない。
まず、スタートからして違う。各自同じ列に並んでスタートなどという生易しいものではない。総勢200人超の人々がスタート地点とされた鋼鉄製の長さ30m、高さ10m弱の門を潜らねばならない。
言葉通り狭き門をいち早く潜らなければ競争にすらならない。
スタートですらこれである。その後の障害の脅威度も推して知るべし。
だが、それに臆するものは、今この時、一年の部に至ってはいなかった。
「しゃあ!やっっぁぁぁてやるぜ!!」「ヒーロー科がなんぼももんじゃコラ!」
「あの面に一発ぶち込んでやる!」「やるだけやってやるわよ。見てなさい」
全ての選手が鼻息を荒くし、今か今かとスタートを待ちわびる様は長い雄英高校体育祭でもそう見られる様子ではないだろう。
(少し、焚けつけすぎたか。怒りや意識を高くもつことで緊張しているよりは動きは良くなっても思考は冷静でいないとケガしやすくなるのだが……これはリカバリーガールから後で説教されるかもしれん)
現在の状況を作り出した元凶、ヒーロー科彼岸四季が最後方から更に数メートル後ろに位置しながら、目の前の光景に感想をもらす。
前線に行こうとしないのは、明らかに先ほどの選手宣誓で周囲のヘイトを集めすぎているのと密集しすぎているからだ。ほかの出場者からどんな妨害があるかわからない上に、あの密集ではうかつに個性も使えない。だから、この位置が最善。
『さぁ、エブリバディ!用意はいいか!?準備は万端か!?トップを目指す決意はできたか!?できてないなら、今すぐ用意しな。スタートまで残り3秒!』
司会進行を務めるヒーロー、プレゼントマイクの声が高らかに響きわたり、その場にいた全員、それこそ会場までが一瞬で騒ぎを止め、スタートの瞬間まで息すら止めるように静まり返った。
『2ぃぃぃぃぃぃ!!』
全員がいつでもスタートダッシュを決めれるように体重を前に移す。
『1ぃぃぃぃぃぃ!!』
さあ、祭りの開幕だ。
「スターーーーーーート!!」『っておい、ミッドナイト、それ俺の役目!?』
そんな締まらないスタートの合図と共に、しかし、全身全霊で200名超のスタートダッシュは始まった。大歓声と共に、走り始めたその耳には既にプレゼントマイクの言葉すら耳に入っていまい。
それほどの集中力、熱意、活気に満ちたスタート。
彼岸 四季がわざと挑発した効果は十分にあったと最高峰、いまだスタートを切っていない身で薄く笑い、ゆっくりと、しかし静かにできる限り無駄なく己の体に身体能力、生物といての強度を上げる『個性』の応用の一つを染み込ませていく。
そんな間にすでにスタート地点にいた生徒たちは競い合って一斉にスタート地点のゲートに詰めかける。速度特化の個性、あるいはそれに結いする個性持ち主が先に抜けるが、大半はスタート地点た狭い門に阻まれ、その走りを止めてしまっている。
「ちくしょう!ゲート狭すぎだ!」
「どいて!先にいけない」
「どける隙間なんてあるかよ!ちくしょう。」
『HAHAHA、スタートゲートで早くも疾走が止まっているぜ!!一目見ればどんだけ狭き門かわかるだろう!?さぁどうする? すでに最初の振るいが始まっているぞルーキー!?』
スタート地点である以上、ゲートを通らなければならないのは必定。しかし、その広さでは三桁の人数が走りながらスムーズに通れるはずもない。
『気合いが入るのはいいが、そのせいで視野が狭くなりすぎだな。速度に自信がないのであればどのようにしてあの門を潜るか冷静に考えるべきだったな』
『コイツはシヴィーーー!!さすがイレイザーヘッド!解説は合理主義者に任せるぜ。そして、最初の苦難を乗り越えられるのは何人いる!?見せてくれよ卵たち!』
そんな先達の言葉に反応するように、早くもスタートゲートで最初の動きが起こる。
まず一気にトップに立ったのは轟 焦凍。『半熱判冷』の個性で足元に氷を生成する出力で自分の体を前へと押しだし、独走トップに立った。先頭集団を走っていち早く門を抜け出すと同時に、後方の生徒たちの脚元を凍らせて動けなくする。ただ抜け出すのでは飯田天哉をはじめとした速度を得意分野とする個性に追いつかれる。
だからこその密集地帯への氷結攻撃。有効だろう。彼の個性をあらかじめ把握してないものならば。
『おお!!いきなり来たぜ!先頭にたったのは1-A轟 焦凍!自分を加速と同時に後方へ早速妨害だ!! 見づらいリスナーも多いだろうが既に後方の選手たちの足元を氷漬けにしやがったぜ!攻防を同時に行った!これこそ雄英推薦入学者の実力だ!さぁ、他はどうでるよ!?』
『よく見てろよ。すぐに答えは出る』
生徒の多くが凍って動けなくなってしまう中、彼ら、彼女らは当然のように集団から躍り出る。ある者は爆炎を手のひらから迸らせて飛翔し、ある者は体から棒高跳びに使うような、しなる棒で氷結を飛び越え、ある者は氷自体を破壊して、氷結の足止めを突破する。
「甘いですわ轟さん!」
「こんな小細工で足止めできると思ったか半々野郎!!」
「体の芯が冷え切る前にぶっ壊せば、ただの薄氷だ!俺の方が固いぜ!」
爆豪や八百万をはじめとした実力者はもとより、1-Aのクラス陣はほぼ全員が何らかの方法で轟の氷結を突破していく。
「さすがにクラスの連中には避けられるか。……緑谷と四季が、いない?」
轟は軽く後ろを振り向きその様子を確認し、わずかに眉をひそめた。
速度では群を抜く二人、戦闘訓練や実践でも成果を残す好敵手が二人していない。
一体、どこにいる。まさかあの二人に限ってまだ他のクラスメイトの後塵を拝しているなどということはない。
それだけの確信が轟にはあった。
後ろにいないなら、まさかと思い、前をそして上を確認したが、いない。
どこにいった?
まさかと思うが最初の門でなんかあったのか?
そう思って速度を緩めることなく、しかしもう一度振り返った瞬間、視界に門が降ってくるのが映った。
「は?」
理解が追い付かない。追いつかないが、事態は進む。ついさきほど自分が潜ったはずの門が、高さ10m超、長さ30mのコンクリートや鉄筋でできているであろう超重量物が今自分の上空を飛び越えていた。
轟は驚きながらも本能に従って、疾走していた体躯を左手からの炎の噴射による反作用で無理やり止める。何故ならあの門は自分の行く先に落ちてこようとしているからだ。このまま進めば直撃してしまう。
轟音というのもバカバカしいほどの音を響かせ、その重量で大地が揺れた。轟を始めとして先頭グループも、氷結によって脚が止まっていたグループも、そしてスタートの門で詰め込まれていた集団も、目の前の馬鹿げた光景に目を瞬かせた。
その上を通り過ぎる影が二つ。
空を駆け抜け、脚を止めたグループを一切合切抜き去った。それはおそらくはこの事態を引き起こした張本人たち。
緑谷 出久と彼岸 四季が、狙ったように、いや間違いなく狙って地面に叩きつけられてボロボロに崩れた門の上に降り立った。
「さぁ祭りの始まりだ!!なのにいつまで固まってるつもりだ!?あまりにも見苦しいから門ごと取っ払ったぞ!先頭はここだ!!さっきのやる気がまだあるなら、追い越して見せろ!!」
「…四季、ホント今日は滅茶苦茶やるね。」
両手をあげて大げさに手招きする彼岸とその横で呆れたようにつぶやいている緑谷。
後方の門、1年生のほとんどが詰まっていたスタートゲートは、切り裂かれていた。
そこにあるのはゲートがあった先にある通路と同じだけ幅の空白、そしていきなり壁がなくなって、あるいは空中からスタートゲートが降ってくるという珍事にぽかんと思考がとまったまま、彼岸の言葉を聞く生徒たち。
『おおおお!?こいつは失礼したぜリスナー!
あまりにも予想外の光景に思わず目を疑っちまって声もでなかったぜ!!
雄英史上初じゃねぇか?スタートゲートをぶった切って、蹴り飛ばすなんて真似をした奴らは!?1-A緑谷 出久と彼岸 四季。まさにクレイジー!!ていうかどんな教育してんだよイレイザーヘッド!?』
『俺に聞くなよ。まぁゲートが狭くて通りにくいから広げて通りやすくした、というだけの話だろ。』
『やり方がクレイジーだってんだよ!!しかもまた生徒たちを焚きつけやがったな彼岸!絶対それが狙いだろう!?ったく、ホラどうした1年!!ぼさっと脚止めている暇があったら走れ!瓦礫の上でドヤ顔かましている奴を抜かして度肝を抜いてやれよ!!』
会場から発せられたプレゼントマイクの声に、漸く動きを再開する生徒たち。
その様相は煽りに怒りがあふれた者、チャンスだと笑う者、馬鹿げた行動に呆れた者など様々な様相を見せながら、しかし、先頭グループとなっていた1-Aの皆に襲い掛からんばかりの勢いで疾走を開始していた。
「いい!?めっちゃ走ってきとる!!」
「焚きつけすぎだあのバカ野郎!」
「こりゃ、こっちもマジで行かねぇと不味いな」
慌てるのは1-Aをはじめとした先頭グループ。
とりあえず頭ひとつ抜け出したと思ったところで迫ってくるのは人の波。そしてその表情はどれも必死だ。
ヒーロー科といえど全員が全員身体能力に優れているわけではない。
もちろん鍛えてないわけではないが、それでも常人の範疇を超えていない者も多い。
だからこそ、気を抜けば第一競技で終わるかもしれないと可能性と危機感を募らせ、それぞれが全力の疾走を開始した。もちろん、己にできる手立て、『個性』を十全に使って。
ある者は自分の脚にローラースケートを作り出し、ある者は自分の背後にある尻尾と両足で跳ねるような跳躍で距離を稼ぎ、腰に巻かれたベルトから質量を持った光線を進路方向の反対の地面に斜めに放出することで空を飛んだ。
誰もかれも先ほどまでの余裕は一切なし。
これでいい。と彼岸四季は思う。
せっかく開会式で焚きつけても、最初の関門でそれが消えたのでは意味がない。
せめて、トップを焦らせるくらいには燃え上がって、いや燃え尽きるくらいの気勢を見せてほしい。そうして初めて、切磋琢磨される場所ができあがる。
欲しいのは一部の者だけがトップを目指すような茶地な場所じゃない。
全員が頂点を目指して駆けあがってくる熱意と創意工夫に溢れた全霊を賭けた大舞台。
その熱意溢れる場所で勝ち上がってこそ、未熟な卵は温められ孵化していく。厳しい切磋琢磨の中でこそ、眩い原石は磨かれるのだ。
とはいえ、焚き付けもここまでだ。
もう一人、二人とこの元スタートゲートの瓦礫を突破して自分を追い越そうとする者たちも来ている。加えて既に先頭は自分ではない。発破がかかった3人がかけ抜けている。
轟音と爆音が振り返った先から響き渡る。
彼岸はニヤリと口元を緩めて、その視界の先に、映るロボットの残骸が降り注ぐ場所へと移動を再開した。
そう、歩くようにゆっくりと。
『おおっと後方の怒涛の追い上げばかりに目を向けるなよリスナー。既にトップは第一の障害物『ロボインフェルノ』にたどり着いたぞ!!先ほどの前代未聞の珍事を引き起こした片割れ。そして今、緑の紫電をその身に纏い、大型のロボットヴィランをすれ違いざまに殴りとばした!!
比較的小柄にも関わらず、その実態は1-Aのきっての武闘派!現在の先頭は緑谷 出久ぅぅぅぅぅぅ!!』
四季から合ったスタート前の打ち合わせ。
どうせなら、問答無用で全員が全力を出せるようにしたいので最初だけ手を貸してほしいという簡潔な願い。
全員が全力を出せるのならそれに越したことはない。だから特に考えもせずに頷いた。
結果、四季はいきなり『秋』の特性で生命あるものにしかみえない超が付くほどの大剣を作り出したかと思うと、目の前の命あるものには一切の傷をつけずにしかし無機物は確実に切り裂く剣戟を三線した。地面を縫うかのような一撃の後にスタートゲートの端を左右双方とも両断したのだ。
結果、だれも気付かないうちにスタートゲートは切り裂かれ、そして散歩にでも行くように僕に「アレ、みんなの邪魔だから蹴り飛ばそう」なんて言いながら一瞬だけ全力の強化を行った蹴りでゲートを蹴り飛ばした。もちろん僕も手伝ったが。というか手伝わないと大事故になりかねなかったし。
結果として、1年生の皆の道が確保され、四季がさらにあおったことによって、全員がほぼ強制的に全力を出すことにはなった。手段の是非はこの際気にしないことにした。気にしたら胃がいたくなりそうだ。担任の相澤先生の胃はたぶん大丈夫ではないだろう。
しかし、協力するのは最初だけだ。
みんなが全力を出せる場を作り上げたのなら後はお互いに敵同士。
だから、皆を焚きつけている四季を置いて先に走り出した。
もちろん、前を行くのは僕だけじゃない
氷の足場と炎の推進力の同時発動でこちらの加速にもついてくる轟君。煽られまくったことで顔が既にテレビ放送できないほどに目が吊り上がって凶悪面構えになり、おそらくはその興奮状態でいつもよりも威力が上がった爆発の反動をうまくつかって遮るものがない空を駆ける爆豪。
僕がかつて入試で3ポイントだった見かけだけのミサイルを放つ3mほどの高さのロボットヴィラン、つまりは第一の障害物となるロボットの群れの一角を殴り飛ばした時には二人は既に僕の20m後方にまで距離を詰めていた。
視界の先には1ポイントだった人と同じくらいのサイズの小型ロボットから0ポイントと同等クラスの巨大ロボットまで数体見え、全体数は数えるもの面倒なくらいにヴィランだらけといった有様だ。
これはいちいちロボットに構っている暇はないかな。
などと考えている間に、右側、轟君が滑るように走ってきた側から氷が伸びてきた。
それも僕にではない。その周辺全体が彼の個性によって氷結され、極低温状態となっている。この光景は一度見た。画面越しだったけれど、四季が全開の一撃を持ってしか防げなかったあの大技。
「どうせ、ならもっとすげぇモノを用意してほしいもんだ。こっちは、生まれて初めて家族そろって応援に来てくれてんだからな!」
発言と同時、左側の炎が燃え盛り、彼の前に溢れるヴィランを小型、大型、超大型関係なく、超級の爆発で根こそぎ吹き飛ばした。
『……なに、なんなのお前のクラス。全員スケールでかいことやるノルマでもあるの?ロボの3分の1が吹き飛んだぞ』
『極低温に冷やされた空気を瞬間的に熱して膨張させる爆発技だな。戦闘訓練で一回やっていたが、その時よりも指向性を持たせているようだ。たった一ヶ月でも成長してるな。あとそんなノルマはない』
「凄い。流石だね轟君!」
「…嬉しそうに笑うなよ。今敵だぞ俺ら。まぁ、お前たちにばかり良い恰好させられねぇ!トップは俺がもらうぞ緑谷!」
「いいや、トップは僕だ!!」
二人して、何もなくなった道を駆けだす。少しズルい気もするが、せっかく道が開けたのだ。わざわざロボが群がっている地帯を行く必要はない。
「待てやコラー!!」
後ろで爆破音が聞こえるが、あの調子で待てと言われて待つ馬鹿はいない。
元よりこれは障害物競争。争い競うことが目的だ。だから振り向くことなく、脚を前へと走らせた。
第一障害突破 先頭は緑谷出久と轟 焦凍、次いで爆豪 勝己。
なんだアレは……。
力に差があるのは知っていた。『個性』が戦闘系のものが多いのがヒーロー科だってのはわかりきったことだ。けど、違う。あの4人はモノが違う。
初めてあった時に練習に誘ってくれた緑谷も、トップ宣言した彼岸も、今ロボを一掃した轟も、それに手のひらから爆破を起こして飛翔するなんて無茶な飛行を軽々と行ってついて行っている爆豪も、他のヒーロー科の奴らと比べても桁が違いすぎる。
まともに戦いにでもなったら、俺なんて一発でやられる。
けど、それでも。
迫りくるのは見覚えのある顔。入試でみたロボットヴィランの1ポイント。
こんな奴一体にすら、俺は苦戦する。戦闘系の個性とは言い難いから。
けれど、アイツは緑谷は言った。
自分は昔、無個性だったと。だから必死に体を技術を鍛えて、槍という武器を使って入試に受かったのだと。実際に、この2週間でほかのヒーロー科の飯田とかいう男子生徒にも聞いてみた。確かに緑谷は入試では槍を使っていて、そして今のような超パワーの個性など使っていなかったと。
そんなはずがない。戦闘系の『個性』もなしで受かるはずがないと、俺は2週間、緑谷の手が空いた時に訓練と称して個性なしでの戦闘を挑んだ。
けれど、結果は全敗だった。緑谷は個性を使うと体の表面に緑色が主な紫電が走る。だから『個性』は使っていなかった。あまりにも勝てないものだからイレイザーヘッドに監督として見てもらい、個性事故が起こらないようにと『個性』を消してもらって挑んだことだってあった。
だけどあいつは、俺よりも10cmも低い身長でも俺よりも力も速度も上で、何よりも技術が桁違いだった。俺の拳も蹴りも一つも当たらない。当てられない。全て避けられるか、止められてそのまま関節技やカウンターを決められた。槍を使ってもらった時など動くことすらできなかったほどだ。
『個性』を言い訳にした俺と、『無個性』を言い訳にしなかったアイツとのどうしようもない差がそこにあった。
なんで俺は、体を鍛えてこなかった。
なんで俺は、戦う術を磨いてこなかった。
なんで俺は……
「なんて、言い訳や後悔ばっかしていられるかよ!!」
他の奴が壊したロボットヴィランの装甲。それを拾って、目の前のヴィランの顔面に横っ面にぶち当てた。左に流れた相手の身体、隙だらけになった首元に再度装甲板を叩きつけると相手は首元が半分へこみ、その機能を停止した。
そうだ。言い訳を言っているときじゃない。後悔をしている時じゃない。
宣戦布告をしたじゃないか。それは自ら退路を断つためだったはずだろうが。
ヒーローになる。
そう決めたなら、走るだけだ。無様でもいい。恰好なんてかまうな。なりふり構っている間は必死とも本気とも呼ばない。
俺は、この体育祭で、結果を残してヒーローになるんだ。
「1-C心操人使、か。やっぱり悪くない。そう思わないか響香?」
「いや、知らないし!?ていうか、何でこんなとこにいんの?さっき追い越して見せろとか言っといて、めっちゃ追い抜かれてるよ!?」
「ああ。ぶっちゃけ最初に『個性』使いすぎてな。ほら、俺の『個性』って基本生命力が命だからな。流石に人を傷つけずに門だけ切り裂いて蹴り飛ばすのは生命力を使い過ぎた。今のままだと正直最後まで持たないかもしれない。つまり、お前たちの後ろで休ませてもらっている。」
「バッカなの!?やっぱり馬鹿なのアンタ!?」
『イヤホンジャック』を巧みに操り同時に二体のヴィランロボットを倒しながら、響香はこちらの胸倉をつかんで揺さぶってくる。
正直、10万人以上もの人並みの前で選手宣誓をしたりしたせいで様々な『色彩』を見すぎて車酔いに似た症状が出ているのでやめてほしいが、今現在俺は響香や八百万、障子といった面々の後ろを走ることでできるだけ個性を使わないようにしているので、文句も言えない。
「まぁまぁ、落ち着け響香。それにここはなかなかいい環境だぞ。なんせ焚きつけたおかげでみんな俺を追い越そうとして『個性』を使いまくっている。情報集め放題だ。故に後悔はしていない。」
「た、確かにB組やほかの科の皆さんの個性などの情報収集ならしやすい環境でしょうが、トップをとるのではなかったのですか?」
「トップ集団、轟や緑谷、爆豪は既に第2関門まで到達しているぞ。そろそろまともに個性を使わないと追いつけないだろう。」
障子と八百万からの助言も間違いはない。ただ、まぁトップ集団は三者が互いに妨害しあっているのでそれほど離れてはいない。俺達も回りのヴィランロボを仕留めて走り出しているしおよそあと2分ほどは余裕があるだろう。
「余裕があるウチに見ておきたかったんだよ。なんせ情報も聞くだけと見るとでは段違いだしな。それに過去の体育祭の傾向を見る限り、次は何らかの要素で即席のチームアップを求められるかもしれない。その時に最適な布陣をそろえたかったし」
「まだ第一種目の第一関門なのに、2種目の心配をしている場合!?」
「心配している場合なんだよ響香。なんせコンビならともかく、集団での戦いでは俺や出久はまわりと合わせづらい。増強系の力をセーブしないと味方にも被害が行く可能性があるしな。だから基本ヒーローやサイドキックは同じ系統の個性やあるいは互いの弱点をカバーしあえる個性で組んでいるだろう?」
「そうだな。それで、いや、まさかお前」
「ああ、俺はお前たちとチームアップしたい。もちろん集団戦の内容によるが、索敵や一撃で相手を昏倒できる個性がある響香、俺のパワーでもそうそう揺らがない身体能力と背後にも目を持つ障子、そして万能性と策略、知略に長けた八百万なら大抵の競技で勝てる。人数次第ではあの心操も加ってほしいところだが、どうだ?」
俺の台詞に3人は三者三様に悩んでいる様子だった。
先ほどの言葉、休んでいることも生命力を温存していることも嘘ではない。だが本命はこちらだ。雄英高校は学生のうちからプロになって学ぶことを多く学ばせる、実践教育型の学校だ。そして突発的な現場で即席のチームアップをすることはプロでは少なくない。だからこそ、個人の力を第1種目で測ったのなら第2種目は連携力や対応力を見る集団戦の可能性が高いが、今回ばかりは轟や出久はチームを組んではくれないだろう。
「もちろん、そうでない場合もある。だが、例年の傾向や第一種目をみるかぎり、可能性はなくはない。もしそうなった時に俺と組むっていう選択肢を残してくれていると嬉しい、とまぁそんなところだ」
実際、この三人の個性は優秀だ。どんな場面でも無駄にはならない応用が利く個性と信用できる人格をしている。だからこそ、誰かに誘われる前に誘っておきたかった。これで、こちらが思ったような集団戦の場合は多少なりとも俺の言葉に乗ってくれる可能性をあげられただろう。
「それならそうと早く言えばいいのに…」
「まぁ、あくまで可能性の話だったからな。それに、休みたかったというのも本音だ。とはいえ、そろそろ時間だ。」
「時間?」
響香たちが後ろを走っていた俺を振り向くが、それに返答する時間はそろそろ残されていないようだ。2種目目を出久が渡り切った。ならここらが限界点だろう。
「俺の言葉、考えておいてくれ。俺はこれから、トップをもぎ取ってくる。漸く、他からもトップの三人も俺のことを意識するような余裕はなくなったみたいだしな」
三人とも止まった俺にぎょっと目を剥いたが、それでも走ることは止めない。それでいい。仮にも競技中だ。むしろ妨害もせずに俺の話を最後まで聞いてくれただけでありがたい。
さて、収穫はあった。
渡りも一応はつけた。
ならばやることは一つだ。
『紅く目覚め、夏の太陽のように世界を焼け。灼熱の時は今。全ての命は闘争の中にしかない』
最大出力による、全力疾走。
否。それはただの溜め、助走に過ぎない。その助走のための一歩ですら、先ほどまで話していた響香たちを置き去りにした。そこから始まるのは跳躍。文字通り一つ跳びで2つ目の断崖絶壁エリアに到達すると、そこから右足を大きく踏み込んで再度跳躍した。
それは既に人が出してよい速度でも高さでもない。
だが、それは多くの人がテレビの中では見たことがある移動方法だった。ナンバーワンヒーローと言われるオールマイトが現場を去る際に利用する砲弾が打ち出されるような異常な速度と筋力にモノを言わせた移動方法。その光景を見ていた生徒たちはそれを連想した者が多かったことだろう。
だが、これはそれとは似て非なるもの。脚に翼でもついているのか、重力が彼女の周りにないのかとでも言わんばかりに、文字通り飛び跳ねて高層ビルの間を、その上を移動する、とあるヒーローにそっくりな移動方法。
会場にいる、彼の義姉はその光景に口角をあげた。
体重と落下エネルギー、そしてさらに空中で回転しながら遠心力も足した3歩目で断崖絶壁エリア『ザ・フォール』を踏破し、障害物競争の大詰め、最後の難関である地雷を敷き詰めた地雷原を突破するという『怒りのアフガン』を視野に入れる。そこにたどり着いているのは三人。当然緑谷出久、轟 焦凍、爆豪 勝己の三名が、それぞれ妨害しあいながらも中腹まで進んでいた。だが、そのスピードは遅い。当然だ。身体能力だけの直線なら出久が最も速い、ならば氷壁で進路をふさごうとする焦凍、そしてその隙に進もうとすると爆豪が爆風で焦凍の周りの地雷を誘爆させ、脚を止めさせる、その間に空中を飛翔しようとする爆豪を出久が拳圧でできた暴風で阻害する。
見事なまでの三竦み。
だからこそ、隙ができる。ゴール手前で互いが焦り、互いの処理と自分の歩を進めることで頭も手もいっぱいだ。この状態を待っていた。自分という存在を頭の中から消してくれる状態を。
そこに最大速度で飛来する、はるか上空から地雷原を抜ける影に気づくのは、流石の三人もできなかった。
「まだまだ青いな小僧ども。先に行くぞ」
最後に煽ってから一歩体を押しだし、跳ぶ。それだけで地雷原を抜けた先からゴール地点であるスタジアムまでの距離をゼロにするのに十分だった。
全力の増強を行って、わずかに10秒。その歩数はたったの5歩。
彼岸四季が最大出力を出すにはタメと自己暗示をする時間が必要である。それ以外の強化では出久の方が速度と力で勝る。それでは多彩な体術や他の特性を使おうとも勝つ確率は下がってしまう。また出久ともみ合いになれば焦凍や爆豪からの妨害をかわすのは難しい。故に避けたかったのは3人と直接あたること。
故に、あえて一度トップ争いから自分を遠ざけて、他のことに手がつかないような状態になったその瞬間に合わせて最大出力で一気に抜き去る。その電光石火の早業こそが、最も消耗が少なく、そして確実にトップを取れる方法であると俺は結論づけていた。
そして、今この状態がある。
『おいおいマジかよ!今年の雄英体育祭! 1年生の部、第1種目! トップを取るという有言実行したのは徹頭徹尾観客の度肝を抜いたこの男! 彼岸 四季!! 堂々の1位でゴールだーーーー!!』
司会のプレゼントマイクの声をさかいに、スタジアム中から歓声が雨のように降ってきた。そして、その中で既に強化を解いている彼の耳でも聞き取れる声に、遠くでも見えるその姿に目を耳を体を向ける。
「よくやったぞ四季―――!!さすがアタシの義弟だ!!」
その最大の賛辞を聞いて、その日初めて無表情な男は心から笑って右手を高々と掲げた。
第一種目障害物競争 1位 彼岸 四季。
相変わらず誤字が多くてまだ他の話まで直せてませんが、とりあえずいったん物語を進めるのを優先します。
騎馬戦は………正直行き詰ってますので次回は少々時間があきます。
申し訳ございません。
緑谷出久にヒロインは必要でしょうか?あるいは必要なら誰がいいと思いますか?
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必要なし。あるいは主人公がヒロインだろ?
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原作ヒロイン麗日お茶子
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ケロケロな蛙吹梅雨
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B組もいいかも。
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壊理ちゃんでもええやん