いつかは終わるヒーローたちのアカデミア   作:Agateram

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難産でした。
舞台に参加者多いと書くのが凄く難易度あがるのですね。

正直うまく皆さんに伝わるか心配です。

少しだけ長くなっておりますが、どうかお暇な時にご覧ください。


第34話 雄英体育祭 第2種目 後編

彼岸チーム

 

 

「すまないが、この即席のチームで考えられる策は3つしかない」

 

「いや、3つあれば十分だけど」

「そもそも連携がとれるほど互いのこと知らないし、ぶっつけ本番でどうにかできる相手じゃないだろう。明らかに他の組はアンタのポイントを狙ってチーム組んでるぜ。」

「関係ない。どの道全員蹴散らさないとトップは取れないからな」

 

とか言いつつ、ホントは胃が痛いがな!恩人兼保護者兼見栄を張りたい人が、ヒーロー活動休んでまで見に来てくれているし、義弟と全国放送で言われた手前、最低でも表彰台に上がらないと面目が立たん。

そしてそれ以上に、まだ緑谷 出久には壁が必要なのだ。強くなるための打ち壊す壁が、高く飛ぶための乗り越える壁がいる。

 

だから胃が痛くとも、ガラでなくとも、ヒーローになどなれないとしても、俺がここにいるのだから。

 

「1つ目は奇襲の類、2つ目はルールの穴を付く裏技の類だ。この騎馬戦は、騎手が落ちても失格にならない。つまり落ちなければ、騎手は騎馬から離れて行動できると解釈してもかまわないだろう。そして、それは騎馬も然り。騎馬が組んでいる時に騎手が乗ってさえいればいい。つまり、騎馬が崩れても騎手さえ地面に付かなければ、失格にはならない。かなり強引な解釈だが、それでもルールをわざと曖昧にさせているんだ。おそらくミッドナイトが止めないかぎり、この策は有効になる。」

 

 

 

 

「だからって、1つ目でいきなり騎馬を崩して本人は跳躍して着地地点で合流とか、頭おかしいと思うが」

 

近くにいる、既に手を取って騎馬の形を成す必要もなくなった心操が上空を見上げながらそう切り出した。

「諦めたほうがいいよ。四季の頭の中は少しネジが飛んでる。なんせ2つ目の策は、自分が宙に浮き続ける隙に、私たちが自由に動いてポイントを獲りにいく、だからね!」

 

言い切って走り出すのは彼岸チーム、耳郎 響香。氷の地面をイヤホンジャックの先端を地面にさして自身の心音を増幅し破壊する。人体に使うと防御を無視して内側からダメージを与えたりできる当たりさえすれば一撃必殺になりえる個性。そして、その射程は片耳だけでも半径6メートルほど。およそ人が直接触れられる距離ではない。

 

そして相手は騎馬。そしてその馬は単一の存在ではなく複数人が手を繋いでいるだけの、きわめて不安定かつ、小回りも効かない。その上こちらはポイントたるハチマキを持っていないので狙う意味もない。

 

だからこそ、響香の個性をもってすれば、たとえ同じヒーロー科でもハチマチを取ることは容易だった。

 

そしてもう一人の騎馬、サポート科の発目はその自慢のサポート品を全開に使うことができる。もとよりこの大会のために用意した発明は5つや6つではない。2,3品をチームメイトに貸し出しているが、それでも十全に使えるサポートアイテム(彼女曰く、自分のベイビーたち)をフル活用すれば、明らかに実力者ぞろいの相手を選べなければポイントをとれる。

 

そして最後の騎馬である心操人使には2つ武器が渡されていた。発目が開発した、相手を一時行動不能にするための砲身から放たれた鋼線が相手に吸着し、スタンガンのように電撃を放つ銃が一つ。だがその電力も一度や二度程度なら相手を昏倒させ得る電力があるが、それ以上は電力が続かないという欠点がある。だが、それでも鋼線事態は手元のスイッチで吸着を離して巻き取りが可能。つまりはその機能だけなら何度も使える。

そしてもう一つは、彼岸四季が渡した自分の個性で作ったという先端が輪になっているロープ。もちろん心操は初めて使うものであるため、ロデオのように牛を捕らえるような見事なロービングテクニックなどない。精々が振り回して相手がいる方向に投げつけるくらいだ。腕なり、動きにくい騎馬の足なりが少しでも掛かってくれたら御の字程度である。だがこれには一つだけ仕掛けが施されている。四季の個性の特性『秋』の眠りに誘う効果が込められた品であるということだ。無論、その効果は弱い。四季が作る個性で作る物は基本的に自分が使うものであり、他人が使うためのものではない。そのためロープ全てに眠らせる効果を付与して作るなら眠らせるという効果が心操本人にも及んでしまう。だからこのロープは輪になっている部分にのみ、眠らせる作用を強くさせた品となっている。だがそれでも、あくまで彼岸が使う場合に限って十全な能力を発揮する。他人が使うということは四季の手から離れるということ。つまりは大本の木からとれた枝のようなものだ。本体からの生命力の供給がなければ、数分で消えてしまう程度。使えるのは10回にも満たないだろう。そしてその能力も受けた相手の力と意識が少し抜ける程度の能力しかない。

だがそれで十分なのだ。銃にせよ、ロープにせよ、それは心操の個性があくまで『相手に触れないと発動しない個性』であるとチーム以外に知らしめるための彼岸の作戦。

銃での気絶を狙っているわけではない。ロープでの睡眠を狙っているわけではない。

あくまで間接的、あるいは直接心操が相手に触れるという条件を満たしている上で、相手との会話を成立させるための囮だ。

 

狙うはヒーロー科、B組のチーム。確か拳藤の話では騎手が策略家らしいが、関係ない。こっちには十分に勝機があると心操は判断した。当てるだけが目的のロープと銃を二人の騎馬に放つ。そしてが二つが相手に触れた瞬間に本命の言い放つ。

 

「チョロいなアンタら。終わりだぜ」

「それ、スタンガンなんでしょ。それくらい私の個性……で」

「こんな縄をひっかけたてい…ど…」

「寝てろ」

「は?おい、取蔭!黒色!どうした!?」

 

どちらかのアイテムが当たった瞬間に挑発、命令を矢継ぎ早に繰り出すことで、間接的に触れることで、『直接、ないし関節的に相手に触れることで意識を奪う個性』だと相手に錯覚させる。

そして騎馬が崩れたところで組みなおす前にハチマチをヒーロー科B組、物間チームから取る。サポートアイテムありきとはいえ、ヒーロー科にも戦術次第で勝てる。それはこの体育祭で自分のいいアピールになる。

初見殺しである本当の個性、自分の声に返事をした相手を『洗脳』する個性を隠しつつ、確実に相手の動きを奪える。しかもこのブラフをチームメイトが黙っていてくれれば、次の本選でも使える。そう唆してくたのは彼を組に誘ってきた第1種目1位の人物だ。

 

「ホント、イイ性格してやがるあの野郎」

 

そして無論、三人が別々に動く必要もない。互いが協力すれば、三方向から相手の騎馬を責めることも可能。作戦の立案した者の性格の悪さがにじみ出るような悪辣な作戦だ。

 

そしてその作戦を考えた本人は、戦場のような有様となった会場のはるか上、およそ30m、発目のジェットパックで飛び上がり、ほとんどの者が手の届かない空中で、足元に小さな木の葉の上に立っていた。その上それぞれの騎馬がとったハチマチを『秋』の個性で作ったであろう糸を蜘蛛のように伸ばして即座に回収し、後は高みの見物を決め込んでいる。どうやってそこに立っているのか、何故木の葉なのかなど、考える暇は他の騎馬にはない。なんせ彼の手足たる騎馬たちが縦横無尽に駆けまわっているのだから。本人はその眼下で行われる戦場を笑うこともなく、無表情でただただ見下ろしている。

この男、ぶっちゃけ傍目から見ればヒーローというよりも魔王である。

最も、本当は個性を使い続け、眼下の騎馬たちからの反撃がないかなどに意識をさいているため、見物と言えるだけの余裕は全くないが、そこは天然のポーカーフェイス、つまりはいつもの無表情が有効に働いているおかげでカバーされているだけだ。

だが、その作戦自体は合理的。ポイントも稼げて発目は自分の発明品が随所で目立ち、心操は個性を誤認させ、響香は自分の個性を十全に扱える。故に、彼岸チームは騎手ではなくその騎馬が猛威を振るった。

 

 

対して、騎馬戦の騎馬として十全に動けているのは意外にも爆豪チームだ。

 

「爆豪、次はどこ?」

「もう一回、あの影野郎のところだ!!次でブン獲って来てやる!投げろや拳藤!!」

「よっし!行って、来い!!」

 

豪快な叫びと共に、個性『大拳』で人を包めるほどに巨大化した拳が騎手である爆豪を高速で飛来させる。細かい進路の変更は腰に付けた角取の『角砲』。それで若干の進路の変更が可能。だがもちろん、こんなやり方でまともな人間が相手のハチマチを取ることなどできない。だが、それを為せるのが爆豪 勝己だ。

本来備わっていた反射神経と運動神経、そして手の平から爆破するという攻撃特化に思われる個性を持ってして飛翔を可能とする三次元運動を可能とする頭脳と体幹、そして体の動きを十全に把握する天賦の才。

 

「来たぞ!芦戸、瀬呂、常闇、俺じゃ届かねえ。防御と攻撃、頼んだ!」

「オッケー、迂闊に近づくと危ないよ!『強酸の雨(アシッドレイン)』」

 

飛来するのは芦戸 三奈が腕を振るって飛ばす強い酸性の雨。当たっても重傷にはならないが水泡ができるほどの酸性はある。だが彼女の気質はやはり人命を優先するヒーロー。酸という自分の個性が対人相手では危険なことを理解している。だから雨と名前をつけていても広域に発射せず、目に入れば危険なのを考慮して狙いは下半身に集中している。ならばと爆風を一つ放って酸を蹴散らした。

そして、爆破直後を狙ったであろう瀬呂のテープももう片方の手で焼きちぎる。

 

爆豪は気づいている。既に気づかされている。

この攻防は自分一人なら防ぐだけで精いっぱいで、今眼前に来る影の塊、常闇影踏の『黒影』の猛威を防ぐことまではできなかっただろう。

だが、飛翔を拳藤と角取に任せているため、攻めに専念できる。

 

自分一人で勝つ。

それが理想だ。だが、それで勝てなかったら?

勝てなかった時を既に爆豪勝己は経験した。それも2度も。

惨めだった、屈辱だった、己の無力に、憤死する手前だった。

 

爆豪勝己が定めたヒーロー像はオールマイトの『勝つ姿』だ。

勝てなければ、ヒーローとしての自分に意味はない。

 

ならばこそ、負けたくないと、勝ちたいと初対面でも叫ぶ拳藤一佳に賛同した。

その叫びに、負けている悔しさを呑んで、別の組である自分に声をかけてまで勝利を欲する姿に、協力してもいいと思った。

 

本人は決して認めない。気づいていても認めるにはまだ彼は若すぎるし、考え方に柔軟性がない。

けれど、気づいている。この状況が作れるのはチームを組んだ奴らのおかげだと。

だから、趣旨を曲げてでも、なんとしてもこの場は勝つ!

 

その思いが、爆豪勝己の能力を、頭脳を活性化させる。

 

迫りくる、物理攻撃を無効化する触れられる影という理不尽。

だが、それの対抗策はもうできている。

 

「『閃光弾』」

 

両手を合わせるようにして行った爆破は、今までの火力や爆風重視とは違う爆破。

光に重きを置いた、閃光弾。

それは目の前の影を一瞬でかき消し、眼前に騎手である常闇が驚愕した目でこちらを見ていた。

 

「気づいていたのか!?」

「当たり前だ影野郎!!」

 

近接してしまえば、フィジカルも運動神経も近接格闘技術も上な爆豪が負ける道理はない。フックのような頭を刈り取るような一撃で、ハチマキのみを奪取し、直後に先頭の壁である切島の頭を蹴ると同時に角取のコントロールされた角が爆豪の体を飛翔させ、離脱する。追撃も間に合わない。爆豪が近接できれば必ずハチマキを取れると考えた故のハチマキを取ったかどうか確認もせずに角取が角をコントロールしているための電光石火の早業。

 

そして帰ってくる騎馬を迎えるのは再度拳を大きくさせた拳藤だ。帰還の方法上、背後へと飛翔する爆豪は、当然背後への対処ができないが、それを拳の大きさで本人を丸ごと覆い隠すようにキャッチすれば、隙など生じない。そしてその後に先頭である飯田が『エンジン』の個性を持って即座に場を離脱し、次の獲物に狙いを定める。一定の場所に身を置かずに互いが、互いの能力をフルに使って舞台を駆け巡る。

 

舞台は既に、爆豪チームと彼岸チームが暴れまわる、二組の独壇場と化していた。

 

 

だが、それでも、もう一組警戒しなければならない騎馬があることを、二組は知っていた。

その騎馬が、満を持して動く。既に、騎馬と呼んでいいかもわからない巨体となって。

 

 

「申し訳ありません。コレを作るのに、思ったよりも時間がかかってしまいました」

「かまわねぇ。注文したのはこっちだ。それより行けるか緑谷」

「問題ないよ。上のみんなが振り落とされないように、お願いします塩崎さん」

「了解しました。わたくしのツルで自分自身を固定した上で轟さんと八百万さんの腰に命綱をつけます。決して落とさせませんし、行動の阻害にもならないようにしましょう。」

 

「それじゃぁ、行くか。緑谷、まずは残っている騎馬のポイント取って、試運転。それから、上だ!!」

「了解!それじゃ、機関最大船速で行くよ!」

 

 

『なんだこりゃ!!一体全体この騎馬戦は何回驚きゃいいんだよ!?見てるかリスナー!

会場に、船が出現したぞ!!』

『八百万の個性『創造』で作り出したものだな。上に3人乗っても余裕がある、縦4m、横3mほどの小型ボート……いや、アレは小型戦艦だな。木製の船体の所々に銃身…いや小型の砲門が見える。おそらく…』

『おおっと、イレイザーが言っていた砲門から射出されるのはネット!つまりあれは動きを阻害するネットランチャーかよ!そして足を止めてしまえば、待っているのは轟の氷結と塩崎のツルのコンボ!!こりゃキツイ』

『だが、この非常識な作戦ができるのはそれぞれの個性もあるが、足となって船を高速移動させているアイツの存在だな』

『ああ、そこだな。テレビ!ちゃんと映っているか?会場の皆からは見えにくいだろうから、説明しとくぜ!あの船を、三人分の体重と船事態の重量を軽く持って何事もないように縦横無人に駆けるのは、おそらく1年最大のパワーを持つ、緑谷出久だ!!』

 

 

船が陸を高速で走って迫りくる。

意味がわかるか?その光景を想像できるか?

少なくとも、俺は、俺達は無理だった。

 

雄英高校という有名校に進学できても入学したのは普通科。ヒーローが世界の注目の的として取り沙汰されるこの時代にあって俺達普通科は、ヒーロー科への劣等感を持っていた。

 

だから、この体育祭で、あの彼岸ってやつの啖呵で何が何でもヒーロー科の連中に一矢報いてやるって考えて、我武者羅で走った。その結果、俺を含めて何人かの普通科、サポート科はヒーロー科を押しのけて第2種目に辿りつけた。その勢いで、何とか今まで生き残った。

 

けど、これはなんだよ。

俺より小柄な奴が、船と他三人担ぎ上げてこっちより何倍も速い速度で回りを蹂躙しながら走ってくる。

 

しかもその船、上のポニーテールの女が作ったが10本くらいの棒を三人で一斉に空に放り投げたと思ったら、次の瞬間にはその空を駆けるようにジャンプして、一端船から手を離したかと思うと目にもとまらない手さばきで全部の棒を騎馬の足元にぶん投げやがった。棒が刺さった瞬間なんか、見えなかった。気づいたらデカい音がして目の前に棒があったんだ。

俺たちの足元にも2本、いや後ろからもデカい音がしたから檻みたいに深く差し込まれた棒で俺達を含めて回りの3組ほどが動きを止められていた。

信じられねぇパワー。そしてわけがわからねぇほどの精密さ。どんな個性もってたらこんなことできんだよ。

 

そして次に轟音と共に船が空から落ちてくる。それを小僧……たしか2位通過した緑谷とかいう奴は、何事もなかったかのようにそれを受け止めて立っていた。

 

動きが止まった俺達に氷や網が降ってきて、更に動きが止まり、そこにツルが滑り込んできてあれだけ必死に守っていたハチマチは一瞬で回収された。

 

「ちくしょう!いいよな、そんな個性があってよ!」

 

俺だって、そんな便利な個性があったら、ヒーロー科を目指していたさ。きっと今騎馬を組んでいる奴らだってそう思っている。

個性さえあれば、俺達だってできるんだ。個性に恵まれただけのこいつらに、

 

そんなことを考えた瞬間に、世界が震えた。

 

違う。俺達が経っている会場の半分が、壊れされたんだ。

 

その原因は、目の前にいる、緑谷 出久。その足元、ただの一踏み。

高く、それこそ垂直にまで上げられた脚が、空気を切り裂いて地面を叩いた。

 

震脚って言葉が昔どっかの格闘技だか武術だかであったそうだが、まるでそれを表したような地面を震わせる脚の一撃。

そして、その振動で回りがまともに動けない中で、地面が氷結した。凍傷にならないようにしてあるのか、それほどの厚みはない氷だが、地面とくっついた脚は簡単には動かせない。そんな、動きが止まった、静寂に思える中で、轟音を繰り出した規格外の脚力の持ち主は静かに言った。

 

「世界が平等だったことなんて歴史の中で一度たりともない。

万人が公平な世界だったことも、一度もない。才能も、家柄も、個性も平等にはない。

それでもヒーローを目指すなら、どんな理不尽にも、どんな責め苦にも、弱音なんて吐くな。それはヒーローがやることじゃない。無駄と知っていても認めず鍛えろ。負けるとわかっていても勝つ気で挑め。死ぬとわかっていても迷わず進め。

それができるなら、君だって、誰かのヒーローになれるよ」

 

 

怒っているわけじゃない。自慢しているわけでも、安易な励ましでも同情でもない。

本気で言っている。笑顔で、何の疑問もなく、本気でそう思って言っている。

 

 

ヒーロー科ってのは、こんな奴ばっかりなのか?

 

だったら、ヒーロー科ってのは、天才か狂人の集まりじゃねぇか。

 

既に4組以外はポイントを持っていない電光掲示板の途中経過を見ながら、俺はそこであがくのを止めた。

その結論がもはや俺に一歩を踏ませる気力もわかせなかった。それは俺以外の騎馬を組んでいた連中も同じだったようで、特に何も言われなかった。そして、そのまま一歩も動くことなく第2種目を、最初の雄英体育祭を終えた。

 

狂人か、天才しかヒーローにはなれない。そんな結論を得て、頭が痛くなるような現実を目のあたりにして、俺は昔描いたヒーローという幻想をそっとそこに置いてくることを決めた。

ヒーローはテレビの中だけでいいさ。現実のそれは、俺には重すぎる。

 

 

 

それはおかしな考えではない。むしろ当然の考えだ。狂人ほどの努力をして命の危険と隣り合わせの職業になるよりは普通の幸せをつかむために努力したほうがマシだ。そう考えるのがきっと普通なのだから。

 

 

 

それでも、ヒーローという光に目を奪われた狂人か、才能と普通の努力だけでその位階にまで登れるだけの天才たちだけが、そこに至るのだ。

 

 

そして、その卵たち、一年生たちの、第2種目もあと1分。

 

 

そこで、最有力の上位3組のウチ、2組が一斉に動いた。

 

既に予選通過はほぼ確実。

だから、無理に行くことはない。そのままポイントを維持してればいい。守りに徹すればいい。

だけど、それでも行く。

狙うのは、頂点であるが故に。

 

2組が動くのは同時だった。

きっかけは彼岸の個性によって高められたであろう応援席にも聞こえるような大きな一言。

 

「3つ目の作戦を始めるぞ!!皆集まってくれ!!」

 

その一言で、会場に散っていた彼岸チームの騎馬3名が一か所に集まっていく。

そこに降りるつもりなのか、それともブラフか。

 

しかし、何かをやろうとしているのは間違いない。

彼岸四季は策略家だ。行動にはそのほとんどに何らかの意図がある。だから、その何かをさせる前に叩く!

 

時間も残り1分、攻め時を考えるならここしかない。

 

それが轟チームと爆豪チームの共通した認識だった。

だから飛んだ。一人はチームの助力を得て攻撃に集中するように両手を構えて、もう一組はその船ごと飛び上がり、船上の二人、八百万はネットランチャーを構え、塩崎は個性の『ツル』をあらゆる方向から彼岸へと襲わせるためにツルを伸ばす。

 

その瞬間、四季が身構え、そして呟いた。

 

「俺だけが敵だと思ったか?」

 

 

 

 

『飛んだーーー!!残り一分、遂に空中にいる彼岸四季を狙って上位2チームが襲い掛かる!!二組同時、しかも一組は足場が船って形でしっかりと固定され、一人はチームの個性を使って空中移動が自在!流石に分が悪いだろコレ!』

『違う!よく見ろマイク!!空中にいるのは、2組だけじゃない!!』

『ああ!?ほとんどの組は爆豪チームと彼岸チームにやられて…っコイツは!』

『遮蔽物なし、そして、全員がそう簡単に回避できる余裕もない。こいつ等、狙っていたのかこの状況を』

『ダークホース出現だ!魅せてやれ!!』

 

 

あるチームの数分前の作成会議

 

「奇襲?」

「ああ、俺たち二人は正直持久戦には向いてない。なら一発勝負がいいと思うんだ」

「確かに、俺の『個性』だと他のメンツにもダメージ行くから正直まともにつけねぇ」

「僕の個性も多分歓声にかき消されてほとんど動物に声が届かないと思う」

「ああ。だけど俺達二人は体格がある。そしてお前には器用な尻尾と体術がある。多分轟たちも爆豪たちも最後は間違いなく彼岸を狙う。一ヶ月程度の付き合いだけど、アイツ等がそうやるってことはわかるだろ?」

「ぜってぇヤルわあいつ等。お互いビシバシ張り合ってんもんな」

「そこで、お前だ。せっかく彼岸が何もない空中にいるんだ。俺達は防御と回避に専念。最後の最後で漁夫の利を勝ち取ってやろうぜ」

「オッケー。異議なし!」

「……勝ち進むにはいつか挑まないとな。俺が上鳴を空に投げるよ」

「僕もできるだけフォローするよ。頑張ろう」

 

 

 

ここだ。

ここだけが、俺達が勝てる唯一のチャンス!

ダチから託された思いは、裏切らねぇ!

 

 

「いくぜ!全力無差別放電!!ありったけをくらいやがれ!!」

 

 

 

瞬間、空中に雷光が走り抜けた。

雷の速度は音速のおよそ100万倍。音速でさえ1秒で進む速度はおよそ340mにもなる。その100万倍の速度で攻撃が来るのだ

つまり、雷の発生を見てから避けることは、人間を含む数多の生物には不可能。

加えて空気中を走り抜けるだけの電圧をもつ、上鳴が放つその雷はおよそ150万ボルト。

スタンガンの数倍の威力の放電が空気中に無差別に舞う。

回避は不可能。防御も空中では術が限られる。加えて奇襲という好条件。

 

どれだけの戦闘技術に差があろうと、その速度と威力が十全に機能すればジャイアントキリングも可能なだけの可能性を秘めた個性が今、解き放たれた。

これこそが、彼岸四季の3つ目の策、自分たちではなく、他人の個性を利用することである。『個性』とは十人十色であり、その相性によっては如何に精強な者でも蟻の一刺しが致命ということもあり得る。相性の差。あるいは特定条件における必殺。それは闘争の中では必ずあり得る、そして考慮すべき未知の可能性。

 

故に、そのような想定外を想定した時に防御に徹して空から落ちてくる時にのみ騎馬を為して自分を受け止めるように合図を送るのが、彼岸四季の3つ目の策の全容。自身が万能でも最強でもないと知るからこそ、負ける可能性を踏まえた次善の策である。

 

 

雷光をまともに受けたのは、爆豪だった。攻撃に集中していた、そして相手は彼岸と轟、緑谷と視界が狭まっていた。その隙をつかれた。いかにタフネスだろうとも電気が体に流れれば力を失い、動きを止めて落下する。

 

上鳴も同様だ。上鳴チームは砂籐、口田という騎馬に体格の良い者を配置させている。そして障子が蛙吹と峰田の二人を抱えて騎手としていたと同様に。騎手は二人。

武闘派で近接に優れる尾白と一撃必殺が狙える上鳴だ。ハチマキは近接に優れる武術家の尾白がつけて、体躯とパワー、あるいは近づいてきた者を上鳴の帯電の個性で騎手を守り、いざという時に砂籐のシュガードープによる筋力増大によるごり押しと、尾白が上鳴を個性である尻尾で投げて放電させるという奥の手を持つ騎馬。それが上鳴チーム、いや実際にポイントであるハチマチをつけているのは尾白なので尾白チームの作戦であった。

 

今回はその一つの目論見が叶った形と言えるだろう。実際爆豪を落とすことに成功している。

そして轟チームも無傷とはいかない。あくまで想定していたのは上空の彼岸チーム。次いで爆豪チームだ。いくら頭脳派の4人といえども、乱戦必至の状況、加えてその終盤でいざ狙いの獲物を取るという段階での奇襲には万全に対応できなかった。

 

だが、ほぼ直撃を受けた爆豪と違い、彼岸対策の一つである、塩崎茨の個性『ツル』と木造をした船という足場が偶然にも状況を好転させた。その放電が足場となる創造された船がアース替わりとなり多少なりとも電流は下へと流れ、彼岸を四方八方から責め立てる予定だった個性『ツル』が、無差別放電の電流を各所に逃がした。そして船を担いで飛んでいた緑谷出久は、それらの影響と船事態によって、直撃は免れていた。だからこそ、チームとしてまだ動ける余地が彼等にはあった。

 

「轟くん、僕が行く!切り札使わせてもらうよ!」

 

物理法則などどこかに吹き飛ばしたように、船が彼岸の上に飛ぶ。否、投げられる。

まるで、そこに地面があるかのように、緑谷出久は空中に完全に静止したまま、三人が乗った船を更に宙へと投げた。

 

普通なら、ありえない。

どれだけ力があろうが、オールマイト級の規格の外にいるような力でない限りは、足場という力を支える起点が無くしてそのような芸当はなしえない。

だが、それはつまり足場さえあれば、未だオールマイトには及ばない力しか出せない緑谷出久でもできるということ。

 

 

 

緑谷 出久がここに来て見せた切り札。

それは師であるオールマイトですら、眼を疑った光景だった。そう、ナンバーワンヒーローになる遥か以前、いつも明るく笑顔を絶やさないことで皆に安心を与えるということを教えてくれた、そして受け継がれてきた個性を自分という無個性に渡してくれた、恩師の姿をそこに幻視した。

 

その師匠の個性、『浮遊』

空を自在に浮き、重力を無視して空中に足場を作り遊びまわるかのように縦横無尽に天空を駆け抜ける個性である。

 

だが、相手は彼岸 四季。

緑谷 出久の可能性を誰よりも、師であるオールマイトよりも信じる者である。

 

だから、わかっていた。

この程度の試練は潜り抜けると知っていた。

 

そして、空中にいたが故にこそ、各騎馬の動きも下でせめぎ合っていた者たちよりも把握できていた。だから先ほどの上鳴チームの必殺の奇襲も『秋』の特性で作った大盾で防ぎきっていた。読めていたからだ。機を狙う彼等の希望を捨てていない目を見ていたから、準備が済んでいた。

 

そして、今、自分のあずかり知らない個性を行使した緑谷に対しても、驚くことなく、上鳴の全力放電を防ぎ切った盾に更に力を込めて防御の構えをとった。

 

既に宙に浮くことは考えず、守備に徹する構え。

 

その鉄壁に。緑谷出久は全速の一撃を持って応えた。

まだ使い慣れぬ、そして師にも友にも秘密にしていた浮遊の個性と己の上限である50%の『ワンフォーオール』を全開にして突貫する。

 

決着は刹那についた。

勝負に勝ったのは緑谷出久だ。守備に専念した盾は一撃だけで砕け散った。

しかし、衝突の反動で緑谷は先に地面に落ちていく。まだ『浮遊』の個性を完全に使いこなせていないのか、今の激突でそれを使う余裕がないか判断はつかないが、盾を割ることはできてもハチマチ、ポイントには手が届かなかった。

故に勝負には勝ったが、試合には負けた。つまり、完全に勝ててはいない。また負けた。それが緑谷出久の所感だ。ただし、それは、あくまでも個人の話だ。

緑谷出久を信頼していたからこそ、その底力に警戒して防御を固めた。だからこそ、生まれる隙。それは、上空から彼岸を過ぎ去り、地面へと伸びる氷の疾走。

 

それは父であり、ナンバー2ヒーローであるエンデヴァーの奥義の一つ。いまだ炎では成し得ない凝縮された炎を一点に集中して放つ極限の一撃。その名を『赫灼熱拳』

それを使い慣れた氷結にてアレンジし、船体を土台として地面へと駆け落ちる疾走と化した青く蒼く、光り輝く氷結の拳、名付けられた名を『氷冷一閃』。

 

「獲ったぞ四季ぃぃ!!」

 

その速度と余波でさえ体を凍結させる極低温の旋風は緑谷出久に気を取られすぎた彼岸四季の頭のハチマチ、1000ポイントを確実に獲った。追撃に映ろうにも氷結で制限された体ではそう簡単に追撃はできない。

 

緑谷出久の『浮遊』、そして轟 焦凍の『氷冷一閃』。二人が決勝ラウンドに取っておくつもりだった奥の手二つを開示した末に、彼岸四季のその想定を、策を打破した瞬間であった。

 

そして、高速でハチマチをとったまま落ちてくる轟を、先に落ちていた緑谷が受け止める。

更に船が落ちてくるが、緑谷出久は受け止める。例え、現在慣れない氷結の極致ともいえる技を使って落ちてきたせいで動けない轟をわきに抱えていようとも、片腕のみであっても誰もケガさせることなく、絶対に受け止めるだろう。つまりあとは終了を待つだけとなった現在トップとなった轟チーム。

 

そして、1000万ポイントを失って氷結の余波によりほとんど動けない彼岸四季をサポートアイテムなどを駆使してどうにか受け止めることで精いっぱいの彼岸チーム。

 

 

故に、此処に勝敗は決した。

彼岸四季は緑谷出久の全力を見定めていたがために、轟 焦凍の全力を見落とした。2人と1人の勝負は決したのだ。すなわち、緑谷出久と轟 焦凍の勝利である。

それを、彼岸も緑谷も轟も、そしてそれぞれのチームメイトも確信した。

 

 

だからこそ、勝敗は決した。

タイムアップ直前、緑谷出久が落ちてきた船を受け止め、彼岸四季がどうにか残ったポイントを守るべく動いているのを見て追撃がないことに安堵し、轟 焦凍はチームメイトが無事に降り立ち、握りしめたそのハチマチ、勝利の証に歓喜が沸き上がってきた、その一瞬の油断。

 

そこを一陣の烈風が切り裂いた。

 

手ごわい獲物を倒す方法は代表的な二つ。徐々に追い込んで手負いにして弱らせていくか、あるいは油断したところを、一気に喰い破るかである。

 

そして、今、この時、全員が地面に降り立ったこの時にこそ使える至高の牙を隠し持っている人物と、たとえ全身がしびれていようとも、その誰にも負けたくないという意地を極限まで高めた二人が、勝敗を決した。

 

 

「君なら、獲ってくれると信じていたよ爆豪君」

「ハッ!そんな裏技あるんなら最初にいっとけや、飯田天哉(・・・・)

 

最後の最後、タイムアップ終了直前に、会場を過ぎ去った超高速の集団。

それこそは『レシプロバースト』という使った後にしばらく動けなくなるデメリットを抱えてなお、奥の手として使えるほどの瞬間的に自身の最高速をはるかに超える超スピードで走ることができる飯田天哉と、たとえ体がまともに動かなくとも勝利への執念だけは最後まで手放さなかった爆豪勝己が為した、最後の大どんでん返し。

 

雄英体育祭1年生の部 第2種目 一位 爆豪チーム!




というわけで、2種目目は彼岸でも緑谷くんたちでもなく、爆豪チームの勝利でした。
爆轟君の勝利ではありません。爆豪チームの勝利です。

ここが、実は爆豪くんの分岐点の大きな一つになる予定でした。

違うルートでは爆豪君は拳藤さんたちと組めずに敗退して……というルートを辿っていました。いつかそっちのルートも書きたいですが、まずは正規ルートを頑張ります。

投降が遅くなってすみません。次回は…年末前に投稿できればいいなと思います。

緑谷出久にヒロインは必要でしょうか?あるいは必要なら誰がいいと思いますか?

  • 必要なし。あるいは主人公がヒロインだろ?
  • 原作ヒロイン麗日お茶子
  • ケロケロな蛙吹梅雨
  • B組もいいかも。
  • 壊理ちゃんでもええやん
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