いつかは終わるヒーローたちのアカデミア 作:Agateram
実はお気に入り300件突破記念に番外編を書くつもりでしたが、途中で書けなくなってしまい、本編の方を先に書くことにしました。
番外編は体育祭が終わってから書こうかと思います。
年末年始で更新が遅くなっていますが、できるだけ更新はしていきますので、お暇があればまたご覧いただければ幸いです。
また誤字報告をくださったウムル・アト=タウィル様、mizu1212様、ありがとうございます。
『さあ、会場まで足を運んでくれた皆も、テレビの前で見ている皆も、声だけ聴いてくれているリスナーも、ようく見聞きしてくれ!
雄英体育祭1年生の部 第2種目に残ったのはこの四組、
一位 爆豪チーム!
二位 彼岸チーム!
三位 轟チーム!
四位 尾白チーム!
それ以外のチームは悉くが0ポイント!特に上位三チームは他の組のポイントを根こそぎ奪ったな!』
『だが、そこに至るまでの過程も見るべき点がある。途中まで奇策とルールの穴をついて一位を保ち続けた彼岸チームはおそらく作戦は彼岸の発想だが、実際にポイントのほとんどを取ったのは耳郎、発目、心操の三人。それぞれ自分の持ち味を十分に生かした見事な立ち回りだった。
そして立ち回りを言うなら、彼岸たちのように派手な動きをする騎馬に引き付けられた戦場をよく観察し、一発逆転を狙いながらも堅実に自分たちのポイントを守り通した尾白チームも評価に値する。最後の一発逆転狙いの大規模放電も悪くなかったが、彼岸は上空からそれを予想していたようだったな。あの一撃を放つならほかの三チームが激突した後の方が効果的だったかもしれん。しかし、騎馬としての総合力ならおそらく常闇チームや宍田チームの方が現状、上だった。それを補ってあまりある冷静で合理的な判断で守りに徹して乾坤一擲にかけたチームプレイ、納得の四位入賞といっていいだろう。』
『正直確かにあのチームは意外だったな。砂糖もパワータイプでごり押しタイプだし、上鳴も熟考するタイプにはみえねぇ。作戦を組み立てたのは尾白か口田か?』
『さてな、そこはわからんが……この体育祭前にA組、B組は彼岸が体育館やら演習場やらの許可を入学初日に既に取っていて、そこで希望者が集まって互いの訓練や自身の個性の応用などを確かめていた。そこで、あの四人も他の騎馬の個性などを多少なりとも把握できていたんだろう。だからこそ冷静な判断をしてできるだけ目立たない立ち回りをすることで、最後まで生き残ることができた。』
『事前に情報を得ていたからこそ、安易な行動をせずにいたってことか。』
『そうだな。対して轟チームはその逆ともいえるな。最初の奇襲で自分たちの脅威度を回りに示すことで回りの騎馬が迂闊に近づけないよう印象付け、八百万の小型戦艦を作るまでの時間を作り、彼岸の作戦を全員で打ち破った。チームの作戦も1000万以外は狙わない、つまりは彼岸チームの打倒をコンセプトにしたものだろう。それは見事に達成されたといっていい。八百万の『創造』、塩崎の攻防自在の『ツル』、そして土壇場で彼岸の想定以上の力を発揮した緑谷と轟。それぞれの準備を整えて彼岸の能力と策を乗り越えたのは見事だった。だが、惜しむらくは最後の油断だな。
一位の爆豪チーム。正直俺はここが一番驚いた。A組の担任として、爆豪の性格は理解しているつもりだった。非凡な才能と上昇志向の塊であるが故に、誰かとの協力すら拒む姿勢。どれだけ才があろうとも、その未熟な精神性を直さなければヒーローには決してなれないと評価していた。だが、変わった。明らかに飯田、拳藤、角取との確かなチームプレイができていた。そして、その上で最後の最後、切り札を隠し持っていた飯田と体がろくに動かなかったであろう状態でも勝利を諦めなかった精神力。全チーム最多のハチマキの数と1000万ポイントという頂点の証。個々として優れていたのは別にいたかもしれん。だがチームとして優れていたのは間違いなくこのチームだった。胸を張っていい結果だ』
『確かにな!チーム分けの時に拳藤が2,3回爆豪を張り倒していた時はあのチームダメじゃねぇかって思ったけど、終わってみれば一番チームとして機能していたかもしれねぇ。ある意味拳藤のファインプレーだったのかもしれねぇな。』
———爆豪は滅多なことでその意志を変える奴じゃない。その変わりようは勝利への貪欲さか、あるいは山田が言ったようにB組の拳藤たちと何かあったか、またはその両方がうまくかみ合ったのか、いずれにせよ、これで爆豪は確実にヒーローとして一つ前に進んだ。
『次の決勝ラウンド、楽しみになってきたな。ほかの連中もここで終わるような軟な精神はしていない。決勝に進んだ連中は、どいつもこいつも油断ならないぞ』
『OK!!これでひとまず午前の部を終わるぜ!昼休憩とレクリエーション競技の後で、いよいよ雄英体育祭、最後の種目!聞いて驚け、見て騒げ!今年の最終種目は一対一のガチバトル!決勝種目『個性あり』の『ガチバトルトーナメント』だ!! ただし大怪我・致死になりかねない攻撃は禁止だ!目指すのはあくまでヒーロー!倒して捕らえるのが本分であることを忘れずに、実践と同じ気持ちで全力で競え卵ども!それじゃあまた午後の部で!よし、飯に行こうぜイレイザー!!』
「すまなかった響香、発目、心操。みんなは確かに俺の期待どおり、それ以上の活躍をしてくれた。しかし俺は1000万ポイントを守れなかった。お前たちの頑張りに水を差してしまった。本当に、申し訳ない」
頭を下げる。途中までは策の通りに事は進んだ。轟・出久チーム、爆豪の動き、そして第三者、上鳴の動きまではほぼ予想の範疇を超えなかった。だが、出久は俺の知らない動きをした。焦凍は俺の予想以上の完成度の技を放ってきた。そして、爆豪は俺が予想していなかったチームプレイをもって2種目目の一位を攫っていった。
情報を集め、策を敷き詰めても、それを超えてくる者たちがいる。
俺などの予想を、見地を、その熟慮の果てをあっさりと突破していく者たちが出てきたのは嬉しいことだ。だが、それでも俺を信じてチームを組んでくれた皆の期待を裏切ってしまったことは謝らねばならないことだ。
だから頭を下げたままで、皆の批難を待っていた。だがそんな俺の頭を三つの拳が上から落ちてきて、少し小突いた程度の衝撃が来て、それだけで終わった。
「なに謝ってんの。作戦十分に通用したでしょ」
「ええ!私の発明品もこれでもかというほど目立たせることができましたよ」
「結果として、1000万を失っても、俺達がとった点数で決勝種目まで進むことができた。これは俺の目的も、俺達の目標も叶っている。お前が謝ることは何もねぇだろ。むしろよくあの猛攻から1000万ポイントだけで済ませてくれたってお礼を言いたいくらいだ」
「……だが、1位ではない。心操も発目も1位の方が目的により近づけたはずだ。それを許したのは俺の未熟で」
「バー――カ」
そんな声と共に俺の額に伸びてきた小さな手がデコピンをぶつけてきた。痛くもない一撃は、しかし確かに俺を瞠目させた。顔を上げた3人に映る『色彩』には微塵の陰りもなく、むしろ2種目目前より、より輝いて見えたのだ。
「ウチと心操はヒーロー志望、発目はトッププロさえ舌をまくサポートアイテムを作る職人を目指してる。そのために私たちは四季とチームを組んで、決勝種目に上がれた。次は個人種目。存分に自分を示せる場所に皆でたどり着いた。ならいいじゃん。アンタ一人の力と策で勝つよりも皆で生き残ったこの結果の方がウチは嬉しいよ。」
歯を見せて、童女のようにあまりに明け透けに笑う響香。そこには一切の嘘も見られず、むしろどこか優し気な印象すら受けた。童女の純粋さと母性がまざりあったような不思議な印象だった。
そしてその両脇から残る二人のチームメイトが声をかけてくる。
「私のベイビーたちは先ほど言ったように大活躍しました。あなたの浮遊を助け、他のチームからポイントをベイビーたちの力を見せつけながら獲ったときは会場のサポートアイテム会社の皆さんも大注目されてましたよ。実にいい作戦でした。私は大満足ですとも」
「俺はアンタのおかげで個性の全容を知られることなく決勝種目までこれた。それにヒーロー科の騎馬だって、やり方一つで倒せるって自信もついたよ。だから、あんたに謝られることなんて一つもないぜ」
両脇を見て、最後に笑顔で響香が声をかけてくる。乾いた地面に降る雨のように染み込む声色だった。
「そういうことだよ。だから、アンタが謝ることなんてない。むしろありがとう。私たちは、まだ先に行ける。私たちみんなの力で、先にいけるんだよ。だったらここは『ごめん』とか『申し訳ない』とかそんなロックじゃない言葉じゃないでしょ」
「……ああ、そうだな。言う言葉を間違えていた。響香、心操、発目、短い間だったが、俺の無茶な策に付き合ってくれて、勝ち残らせてくれたことに感謝する。本当にありがとう」
俺の言葉を聞いて、3人はそろって破顔した。
なるほど、絆というものは、友情というものは意外と時間をかけずとも築けるものらしい。
俺も、きっと3人のように破顔して笑うことができていたかもしれない。
〈幕間、昼食 轟家〉
「さて、じゃあみんな手を合わせてね。いただきます」
「「「「「「いただきます」」」」」」
『氷結』という周囲を冷やし固める個性とは真逆の、聞くだけで心が温かくなるような優しい声の後に全員が合唱して唱和する。小学校のような光景を大の大人たちがやっているが、その光景を滑稽と取るほどに世間の心は腐ってはいないだろう。
むしろ大人になっても家族仲良くそうやって食卓を囲んでいる姿は理想的な家庭に見えるかもしれない。ただしそこに、
「何故、お前までいるのだミルコ?」
「ああん?細かいこと気にすんなよエンデヴァー。アタシだってアンタの仏頂面眺めるよりは義弟の顔見ながら弁当つつきたかったよ。」
にらみ合う日本トップクラスの2大ヒーロー達がいなければの話だ。
片方は我が義姉ラビットヒーロー、ミルコ
片方は日本で2位、そして事件解決数でいえば日本でトップを誇るフレイムヒーロー、エンデヴァーだ。
「けど冷さんと友だちに誘われたってんなら仕方ねぇだろ。だいたいウチの義弟が出久以外の奴から飯に誘われるなんざ初めてなんだぞ。」
「それは……いや、すまん。そうだな。そういえば焦凍が友だちを呼んできたもの初めてだったな。つまらないことを言ってすまなかったミルコ、彼岸……くんも。」
「…アンタ、ホント丸くなったな。まぁ検挙数は前より上がってるみてぇだし、いいんだろうけどさ」
以上が俺と焦凍の頬を軽く引きつらせて保護者二人の会話である。
現在俺たちはランチラッシュが切り盛りする食堂には行かず、それぞれの家族が作ってきた弁当をつつきあい、食卓を共にしている。
というのも先ほどあったように冷さん、つまり焦凍の母親が久しぶりにあった俺を食事に誘い、焦凍もそれに乗って一緒にどうだと言ってきたためだ。出久はオールマイトに用事があるらしく断っていたが。ちなみにせっかくだからと俺に『秋』の特性を使ってテーブルを出せと言ってきたルミさんの一言でスタジアムの一角に弁当を乗せる円形のテーブルを作ってそこで俺と冷さん、冬美さんが作った弁当を広げていた。個性の無断使用かと思ったが、トップクラスのヒーローが言ってきたのだからセーフだろう多分。
「あれ、この卵焼きの味付け、母さんと同じだ」
「冷さんに料理の基本を教わったりもしましたから、味が似てる物も多いんです。ところでこのエビチリ作ったのは冬美さんですか?辛目ですけど美味しいですね」
「ありがとう。少し中華系の料理にも挑戦しているんだ。四季くんはまた料理の腕あげたね。味もそうだけど、彩りも綺麗で他の食材に味が移ったりしないようにしてるし、女子力でまけちゃいそうだよ」
「いえ、まだまだです。いまだランチラッシュ先生の足元にも及ばず…恥ずかしながらまだ味も技術も盗めてません。」
「いや四季は雄英で何してんの?」
「そうか?お前の作ってきてくれる弁当、いつも十分美味いぞ」
「いつもって言った?焦凍そんなに四季の弁当食ってんの?」
「二人が仲良くて、母さん嬉しいわ」
「ああ、そうだね母さん。それは嬉しいけど、普通の高校生男子は友だちに弁当作ってこねぇから。」
「けど、ランチラッシュ先生には及ばないだろう?」
「ああ。だけどお前ならいつか超えられると信じている」
「ありがとう焦凍。俺、これからも頑張っていくよ」
「お前ヒーロー科だよな?頑張るところソコじゃなくね?」
「歴戦のヒーローに挑むとはな。身の程を知れ小僧」
「言ってろ火事オヤジが。これは俺の矜持の問題だ。卒業までに、俺はあの人の技術を盗んで見せる」
「何、雄英に調理師科って新設されてた?」
「おお、お前の飯が旨くなるとアタシも嬉しい。頑張れよ四季!」
「ツッコミ役足んねぇよ!なにこの空間。天然とバカしかいねぇよ!」
「「「「「夏雄(夏雄さん、夏兄、夏くん)うるさい(から静かにしないとだめよ)」」」」」
「俺がおかしかった?いや、もう少しまともな感性の奴いねぇの!?」
そんな感じで、昼食は楽しく美味しく過ごすことができた。炎司さんの方もどうやら家庭もうまくいっているらしい。少し前に2度ほど殺し合ったがその時よりもずっと目が落ち着いている。そして、冷さんも冬美さんも、夏雄さんでさえ笑顔でその中に焦凍がいる。それが何よりうれしかった。何故か夏雄さんは疲れていたが、きっと大学が忙しいのだろう。
「少しだけ変わったかと思っていたが表面だけ、か…」
「親父?どうかしたか?」
騒がしい昼食を終え、ミルコと彼岸は去っていった。その片割れを見てどうしても過去のことを思い出してしまう。
ナンバー2ヒーローを相手取り、隔絶とした実力がある自分にボロボロに負け、しかし関係なく次も挑んできたあの時の少年は、自分に死のイメージをさせて必殺の技すら使わせた上で、腹を焼かれながらもこちらを殴りぬいたあの狂人は、やはり狂人のままだった。
だが、あれもヒーローの一つの形。あるいは……敵と判断したモノにとってのヴィラン。
全てを■■ための装置。狂人たちが望んだままの救世主。
この家にとっては、間違いなく恩人だが……
「焦凍、彼岸とは友人なのか?」
「ああ、大切な友だちだ。」
「そうか……なら、覚えておいてくれ。もしその時が来たら躊躇うな。」
「は?」
「今はまだ知らなくていい。だが、頭の片隅に入れておいてほしい。お前もあの緑谷君もいつか、対峙する可能性がある。悪ではない。しかし善でもない。人々が求めた一つの形と。その時、彼岸四季を本当に大切な友人と思うなら、どうか躊躇ってやるな。」
「どういうことだ?」
「今は知らなくていい。お前がヒーローになった時に話そう。もしお前にまだヒーローになる気があるのならの話だ。俺は、正直もうお前に、お前たちにこんな地獄のような世界に来て欲しくない」
「あなた……」
「ホントに変わったな親父。」
昔ならこんなことは言わなかった。ヒーローにナンバーワンになると、そのために努力して努力して、それでも足りなくて、届かなくて、子どもたちに頼った、願った。いやそんな柔い言葉ではない。縋りつき、ナンバーワンになれと、呪ったといっていい。自分の子にだ。父として、一人の大人として守らなければならない幼子にそのような行為をして、平気でいた。度し難い。その有様があの狂人の一族たちと何が違うというのか。
「お前が望めば、それを止めはしない。だが、まだ引き返せる。お前は頭もいい。まだどこへでもいけるし、何にでもなれる。ヒーローでなくとも大成できる。人並みのそれ以上の幸せを手に入れられる。だから、引き返すなら」
「もう決めたんだ」
振り返った先に、俺がいた。いやかつての俺が、まだナンバーワンなどに固執しておらず、ただヒーローになると叫んでいたころの幼い俺がいた。
「俺はヒーローになる。俺は俺が思い描いたヒーローになるって決めたんだ」
ああ、橙矢見ているか。こいつもお前と同じ目をするようになった。キラキラとヒーローを目指す目をしたころのお前と、ずっとずっと昔の俺と同じ目をするようになった。
ならば、もう止まらないだろう。ならばせめて父親として、ヒーローとして育てなければ。どうかその道を正しく行けるように、俺のように間違えないように。そして、どうか。
「ならば死ぬな。せめて俺や母さんよりは後に死ね。それだけ守ってくれればいい」
そう、それだけ守ってくれれば、多くは望まない。
それが、どれだけ親の心を壊すのか、もう身に染みてわかっているから。
アレがどれほどに恐ろしいモノか、理解させられているから。
〈幕間 OFA①〉
「つまり、夢の中や個性の訓練をする中で個性に付随した先代たちの声を聴き、そしてお師匠様の『浮遊』を使えるようになった、と。そういうことかい緑谷少年」
「はい、師匠、あっいえオール…でもない。八木さん」
「ああ、大丈夫。ここは盗聴器も監視カメラもないから安心していいよ」
しかし、と一息ついて師匠、オールマイトは天井を見上げた。
確かにこの『浮遊』は発言したのが2日前でまだ師匠にも言っていなかった。オールマイトも雄英教師とヒーローの二足のわらじで体育祭の準備も重なって忙しかったためだ。
「私にも先代たちを個性の中に感じることはあった。だが、声を聴いたりましてやその『個性』を使うことなどできなかった……。君は本当に私の想像を超えてくるね」
「いえ……それでも一位はとれませんでした。油断した僕の責任です。爆豪と飯田君を、いえ、四季以外のみんなに意識を割いていなかった。みんなヒーローを目指して必死にやってきたのに……個性をもらって、先代たちに託されて、師匠に鍛えられて、なお、僕はまだこんなところにいる」
悔しさに握りしめた拳が震える。ただただ己の不甲斐なさばかりが頭に浮かぶ。だがそれでも最高のヒーローの個性を受け継ぎ、先代たちに『次』を託された。ならばここで俯いているだけでいいはずがない。
「それでも、まだ僕は折れてません。折れません。必ず、世間に見せてみせます。次は僕が来たと。すぐに僕が行くぞと。あなたの弟子として、そして僕が僕自身に定めた信念を貫くために、僕が決勝種目を優勝します」
そう、まだだ。俯いている暇などない。そんな暇があっていいはずがない。
ヒーローはいつだって前を向いてないと、救うべきものすら見えないのだから。
(………強い。身体もそうだが、それ以上に精神が強靭。そして私には届かなかった先代たちの個性の発露という新たな境地にこの齢で、この短期間でたどり着いた。しかし、いいのかこれで。この子はいつか、その信念が故に、燃えて光り、そして消え去りそうだ。まるで流星のように。)
「緑谷少年、君はまだ若い。前だけ見ていては、足元や背後にあるものを見失うよ。強く在ろうとするのはいい。そうでなくてはヒーローには成れない。人々に安心は与えられない。だが、君自身のことを、君を大切に思ってくれる人たちのことを忘れないようにな」
「はい!頑張ります」
(ああ、私は未熟ですグラントリノ、お師匠様。この子はきっと、止まらないし止められない。そしてそれを言えるほどに、私自身が周りを顧みて来なかった。それを棚にあげた私の言葉では、この子は止まらないだろう。私も、また成長しなければ。教師としても、ヒーローとしても、そしてこの子の師匠として、正しく導かねば)
師の思いなど知らず、僕はこの時、この後の決勝種目で勝つことしか頭になかったのだ。
食堂での昼食を終え、僕たちは会場への通路を四人で歩いていた。会場からはレクリエーション競技前のチアリーディングが行われている時間だからか、歓声が暗い通路の先、光にしか見えない先の会場から聞こえてくる。
「さってと、昼食も食べたし、本選までは少しゆっくり休めるね角取、飯田、爆豪」
「……なんで俺がお前たちと一緒に飯食わなきゃなんなかったんだ」
「それ、今更でしょ。それにとりあえず2種目目を制した祝勝会ってやつだよ。もちろん、次の決勝種目では、お互い全力でぶつかるけど、今くらいは喜んでいいでしょ。メリハリって大事だよ。特に爆豪は気が張ってばかりだから、偶には緩んでそっから一気に爆発したほうがきっといい結果出るよ」
「……でっけぇお世話だ」
悪態をつきつつ、それでも昼食の誘いを断らなかったのは事実。
これまでの彼になかったことだ。それを為したのは2種目目前の拳藤君の言動が、爆豪君に届いたからだろうか。それとも団体戦とはいえ勝利をつかんだからだろうか。
どちらにせよ、良い変化だと思う。そして、それが今まで同じクラス委員という立場で、彼の近くにありながらそれをできなかった自分を不甲斐ないとも。
しかし、今はそれを悔いている時ではない。むしろこの変化を喜び、そして次の種目に備えるべきだろう。
何せ、自分は先ほどの勝利の代償として奥の手だったレシプロバーストを使ってしまった。
一度見たからには、雄英の生徒ならば必ず対策をしてくるだろう。
「さて、この通路を潜れば、また敵同士だ。改めて拳藤君、角取君、爆豪君。第2種目組んでくれてありがとう。そして決勝種目ではお互い、全力で戦おう」
「はっ!当たり前だ。次も俺が、ぜってぇに勝って、トップを獲ってやる!」
「そうだね。ここまで来たんだ。全力で、優勝狙いに行くよ」
「YES!わたしもやってみせますよ」
A組とB組で分かれた自分たちはもう四人で組むことはないかもしれないが、それでもこのチームはいいチームだった。
けれど、この通路が終わって会場にでれば敵として相まみえることになるかもしれない。勝ち残るなら、なおさらだ。だから、ここからは馴れ合いもなしの真剣勝負だ。それぞれにその覚悟を持って不敵に笑い合い、通路を潜った。
さて、トーナメント表は表示されているかと上を向いたところで、我が目を疑った。
「……すまない、爆豪君。俺は少し目がわるくなってしまったようだ。何かあり得ないものを見えてしまったのだが、君は何が見えるだろうか」
「……俺に聞くな」
「えっ!?なに?何やってるの?アレA組の女子だよね?」
「俺に聞くな!!」
何故、チアリーディングの恰好をしているんだウチのクラスの女子たちは!?
微妙なところで今回は終了です。
既にお気づきでしょうが、人間関係は原作と多少異なっています。轟家はもちろんですが、出久も1年近くオールマイトと戦闘訓練し続けたこととミルコとオールマイトの闘争の果てに(第10話)正式に師弟となり「師匠」と呼んでいます。もちろん誰の目にもつかない場合のみです。正式に知れ渡ると大変なことになるので。
また爆豪君、改変始まってます。これから原作と大分立ち位置が変わってきますが、出番は減ります。ファンの方は申し訳ございません。
次回からはトーナメントですが……全員分書くのは時間も技量も足りませんので、大半は巻きでいきます。
さて、勝つのは自分宣言、結構みんな言ってますが、勝者は誰でしょうか。
あと、もう一つアンケートを実施しています。今まで迷っていたのですが、原作主人公、緑谷出久にヒロインが必要か、あるいは誰かのアンケートです。あまり女性陣とからませている描写がなかったのは実は彼にはヒーロー一直線で行ってもらおうかと思っていたからでしたが、やはり要素の一つとしてありかなと。あとこのままでは多分、まぁ、皆さんが予想するようなヒーローの化身みたいな存在になってしまいそうなので、よろしければ、そちらにご意見いただければ幸いです。
年末年始、寒くなりそうなので皆さまもどうかお体にお気を付けください。
それではまた次回で。読了いただきありがとうございました。
緑谷出久にヒロインは必要でしょうか?あるいは必要なら誰がいいと思いますか?
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