いつかは終わるヒーローたちのアカデミア   作:Agateram

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……終わらない。この二人、めんどくせぇのですよ。主に私の作品では。




第44話 決勝種目 準決勝 デクとかっちゃん 前編

『出久ってのはでくっても読めるんだ。役立たずって意味なんだぜ』

 

『大丈夫?かっちゃん』

 

二人の関係が変わったのは、凡才と天才という能力の壁、そして個性の有無というあまりにもわかりやすい差異が原因としては大きいだろう。出久を治療する際に何度か見えた過去、爆豪のバカを仕方なく癒した時に見えた本人も意識していない、けれど10年近く経っても忘れられていなかった。

これらの出来事は俺が治療の際の副作用の一つとして、相手を形づくった過去の記憶が見える光景が見せた過去の一コマ。そしてこれらとそれに近い出来事の積み重ねによって、一人は優越感を、一人は劣等感を抱く。それでも人を人として見て変わらぬ心配をする心を持つ者と自分が特別で他は世界における端役だと奢る者。

それが一つ目の二人の分かれ道。

 

 

『無個性のテメェが俺と同じ土俵に立てるわきゃねぇだろうが!!』

 

『「ヒーローになれるかどうかは国が決めること!

そして僕がヒーローになりたいかどうかは僕が決めることだ! どこの誰にもそれを否定させない!』

 

誰かを救うことがヒーローの条件だと思い、敵を倒す者に認めさせた者、敵を倒すことがヒーローの在り方だと信じ、敵を倒す者に負け続けながらも勝とうとする者。

 

二つ目の分かれ道は、死んだ眼をした不愛想な男との出会いから始まった。

 

 

緑谷出久、無個性でありながら足りぬ才能を努力で埋めた心に特化した化け物。あるいは泥から生まれた宝石。

 

爆轟勝己、恵まれた個性と才能を持ち、努力も怠らずしかし心だけが足りない獣。己のみの世界に輝く宝石。

 

どちらも英雄と呼ぶには足りないものが多すぎる。しかしその資格は僅かに残る、いずれ英雄になる可能性がある者たち。それが、彼岸四季が理性や人情を省いた二人の評価だった。

 

爆豪勝己を侮ったことはない。アレは天の恵みを受けた天才だ。己のように天から疎まれた天災とは違う人種。何かのきっかけがあれば、彼を正しく導ける指導者やパートナーがいれば、きっと彼は俺が焦がれる英雄足りえただろう。だが、その期待を裏切ってしまう程度には性格も態度も行動も、ヴィランのそれと変わらぬものだった。それでもその才能と最深の性根だけは、まだ辛うじてヒーローのそれだと思える、複雑な男だった。

 

対して緑谷出久は、端的に第一印象を述べるなら阿呆だった。身の程もわきまえず、理想だけは高い。そのなのに、できるはずの足掻きもせずに誰かに救いを求める弱者。一度目は拒絶を、二度目は罵声を、三度目は驚嘆を、そして四度目にして、その理想だけは決して折れぬと知りえた阿呆の極み。しかして、理想に血肉が追い付けば、もしや俺が焦がれた英雄になれるのではないかと望みをもってしまうほどにはそいつは単純に狂っていた。

 

 

 

その二人が、今ぶつかり合う。雄英体育祭の準決勝という大舞台で。

 

 

何か因縁めいたものさえ感じるこの組み合わせ。しかし実力だけは両者は確かなもの。

必然どこかで争うことにはなっただろう。それがこの大舞台で、個人戦で、個性も解禁しての大一番となっただけで。

 

「どちらが勝つと思う?」

「そりゃお前……遠距離なら爆豪が有利じゃねぇか?」

「でも緑谷だってさっきの試合で拳圧だけで相手吹っ飛ばすくらいの暴風出してたぜ。」

「やっぱ単純な増強系だからこそ、一撃で終わらせられる緑谷が有利じゃねぇか?」

「確かに戦闘訓練では緑谷ちゃんが勝っていたけど、あれは耳郎ちゃんの索敵ありの強襲だったし、今回は面と向かっての戦いだからわからないと思うわ」

 

どちらが強いか議論はA組でも盛んにおこなわれていた。

まだ選手入場していないが、今までの試合でも二人の実力が伝わっているため、試合会場自体も同じような議論が展開されている。それでけ注目度は高い試合になるのだろう。

 

「あっ!ねぇ彼岸さんはどう思う?二人とも同じ中学やったし?」

 

焦凍と二人、静かに試合開始を待っていた俺に話を振ってきたのは麗日だった。現在のところやはり最初の戦闘訓練の印象が強く、6割方出久が優勢といった感じのようだが、議論の決着はついていないのか、最終的に二人を中学、あるいはそれ以前から知る俺へとお鉢が回ってきたようだ。

さて、聞かれたことには応えねばならないだろうが………勝敗の予想、ね。

 

「今の出久が爆豪に負けることはない。爆豪にいくら才能があろうが、出久なら近接格闘技術も、真剣勝負の駆け引きも、個性の純粋な破壊力も爆豪を上回っている。爆豪も成長しているがそれは精神的に少しマシになっただけの話だ。それくらいで覆るほど出久は生易しい鍛錬を積んでない。だがそれは、あの馬鹿が個性を使う気ならの話だ。」

 

「「「「「個性を使う気なら?」」」」」

 

そろって反応を示すA組に視線を向けることなく、俺は長い溜息を吐いた。

 

あの二人は複雑だ。あえて深く介入しなかったが、あの二人が根っこに持つのは、互いが互いにないモノを持つことへの情景、嫉妬、憤怒、そして、かすかに残った互いへの想い。

 

友情というには弱すぎる。ただの幼馴染と片づけるには複雑すぎる。ライバルというには遠すぎる。

 

アレを何と言えばいいのか、俺にはわからない。それでも、出久の考えだけはわかる。

 

「緑谷出久は、次の試合個性を使わない。その代わり、それ以外の全部を使って爆豪を倒そうとするだろう。」

「な、なんで?緑谷くん、何かあったん?」

「……個性は出久にとって、ギフトだ。天からの突然の贈り物。青天の霹靂。本来なかったはずのモノ。元来、緑谷出久は無個性で、それでもヒーローを目指した。諦めることをしなかった。オールマイトにはなれずとも、己の手で救えるものがあると、死んでも諦めることだけはしないと、そう決めて生きてきた。それが、緑谷出久の原点だ」

 

脳裏をよぎるのは、俺にすがる誰か。俺に否定され絶望した誰か。

無個性でも誰かを助けようとする誰か。

傷を負っても、血反吐を吐いても守ろうとして立つ、誰か。

諦めろと叫び死の刃を振りかざす誰か。それでも自分の描いたヒーローは諦めないと叫んだ誰か。

 

狂っている。それでも美しいと感じた、誰か。

 

過ぎ去る過去の歴史に郷愁を覚えた。馬鹿馬鹿しい。それほど昔のことでもない。そういうのは歳をとり、必死に生きてきたものたちだけのものだろう。

 

思考と視界を今に戻すとこちらに集中する若い視線。ヒーローの卵。その名に相応しい彩りたち。

 

「出久にも譲れないものがある。爆豪だからこそ、余計にな。」

 

「でもよ、そんなことして負けたらどうすんだよ!」

「そうだよ。これは訓練じゃなくて、年に1回しかない大舞台なんだよ?」

 

切島と芦戸が焦ったように声をかけてくる。二人の言うことが正しい。それは間違いない。

 

「それで負けるなら、アイツはそれまでの男だったというだけの話だ。自分の行いの始末くらい自分で受け入れるだろ。だが、アイツは勝つ。守るものがある時のヒーローは負けないさ。」

「守るもの?」

「いや、一対一の闘いで守るものなんてねぇだろ?」

「あるさ。緑谷出久にとってはな」

 

これ以上話すもの無粋だ。それにそろそろ俺も試合の準備がある。

 

「焦凍、俺たちもそろそろ待機しとこう。」

「……いいのか?」

 

かつて父親との確執で個性の半分しか使わなかった焦凍には、当然思うところもあるだろう。個人的な想いからできるはずのことをしない。それはヒーローとして考えるまでもなく失格だ。むしろなるだけで害悪とすら言っていいと思う。

 

それでも、ここはあくまで通過点で、あの馬鹿が馬鹿の目を覚ますために儀式みたいなものだ。そろそろあの馬鹿は目を覚ませばいい。大体にして自身のことさえ自分でどうにかできない者がヒーローなどとおこがましい。さっさとケリをつけるべきだったのだ、爆豪も、出久も。たとえ、それがどのような形になるにせよ。

 

「いいんだ。ヒーローが危険を冒してまで誰かを救おうとしているんだ。その手段にとやかく言うのは無粋さね。それにな」

 

 

————お前に今、俺以外を気にする余裕があるのか?

 

 

自分でも言葉と視線が刃物のごとく鋭さをもったのがわかる。そんな俺にクラスの連中はヒッと短い声と俺から遠ざかる反応を示して黙ってくれた。

 

「俺たちは俺たちの闘いをしよう。ヒーロー候補としても個人としても、今日だけは負けられない。お互いにそうだろ?」

「……ああ。そうだな。お前にはでかい借りがある。だからこそ、全力でお前を超えてやる」

「いいだろう。こっちも全力だ。死ぬ気でこいよ。」

 

互いに拳を軽く打ち合って逆方向に歩きだした。

もはや次の試合への意識は向けない。まずは目の前の強敵、轟 焦凍にのみ集中する。

 

きっと次の試合の二人が今、そうであるように。

 

 

 

『さあさあ長かった雄英体育祭も残すところあと3試合。準決勝を戦うのは何と同じ中学出身、のみならず幼稚園から小中高と同じ学校にいた幼馴染のこの二人だ!

圧倒的なフィジカル、確かな技術を併せ持った小柄なパワーファイター!緑谷出久!!

爆破を用いて近距離、中距離、遠距離のみならず空中戦さえ可能な万能さ!爆豪勝己!!」

 

 

プレゼントマイクの声に呼応するように観客席からの声援も一層熱が入る。

しかし、それは闘技場にいる二人には聞こえてさえいない。

 

互いの姿しか見ていない。互いの一挙手一投足の音、気配すら逃さない。表情に喜怒哀楽はない。今は、今だけはそれもいらない。ただ、目の前の相手に完膚なきまでに勝つ。

そんな二人の共通の思いと視線が中間で交わり、空気すら軋むような錯覚を審判のミッドナイトは覚えた。

 

———幼馴染、ね。お互いにそんな枠に収まりきれてない、憎悪?敵意?情景?…わからない。たぶんこの二人にしかわからない何かがあるのでしょう。けどまぁ——

 

「試合を始める前に、ヒーローの先人として、一つだけ言わせてちょうだい。ここはヒーローを目指す者たちが登る壁の一つ。あなたたちの間に何があろうとも、未来のヒーローとして恥じない戦いをなさい。いいわね?」

 

あまりにも剣呑な二人にヒーローとして、大人として声をかける。そのためにわざわざ闘技場に降りて二人に近づいてまで。それだけ今の二人は危うく見えたのだ。

 

「……はい。ありがとうございますミッドナイト先生」

「……わかりました」

 

声は二人に届いたようだけど、中身に少しでも変化があったのは緑谷君だけ、か。それでも片方が笑顔を見せた分だけ先ほどよりはマシでしょう。

 

審判席として用意された台座に戻り、改めて闘技場の二人を見る。

もはや、待ったなし。一つ大きく深呼吸して、腕を高く掲げる。

 

「それでは、準決勝第一試合、はじめ!!」

 

高く掲げた腕を振り下ろし、会場の歓声に負けないほどに声を張り上げて試合開始を合図を下す。

 

直後、会場にドンと体に叩きつけるような音が鳴り響き、視界を爆風が吹き荒れた。

どちらが勝つにせよ、とりあえずはいつでも止められる準備をしておこう。

 

副審のセメントスに目配せ、頷きを見て互いの認識にズレがないことを確信して再度闘技場に目を戻した。

未だ爆煙が晴れない中で、再度起こった爆音を聞きながら確信する。

この試合、間違いなく大荒れになると。

 

 

 

都合、三度目の爆発音が会場に響き渡った時に、相澤は担任として彼らを入学から最も見てきたプロヒーローとして異変に気付いた。

 

『再三の大爆発!! というか緑谷の姿が一切視えねぇ!!やはりいくら拳や蹴りで暴風を作れる緑谷でも遠距離なら爆豪有利か!!もしかしたら、こいつは一方的な試合展開になっちまうのか?』

『いや、違う。』

『イレイザー?どうかしたのか?』

『………おそらく、だが、これはなるべくしてこうなっている。爆豪も気づいただろう。攻撃の手が止まった。会場を見てろ。緑谷と爆豪が何か話すぞ』

「……なんか嫌な予感がしねぇでもないが、音響係、会場の音拾えるか!?確かにあの緑谷と爆豪の試合にしてはどうにもおかしい」

 

マイクが実況の音を切り、会場の撮影スタッフへ連絡をとる。一般のテレビ局とは違い、雄英側が試合の進行状況を詳しくするために用意した人員だ。当然中にはプロヒーローも含まれており、個性を使用してより詳しく現場の状況を拾える。

セメントスという物理的防御に特化した副審とミッドナイトという自分から発する香りから相手を眠らせるという試合を中断にもっていけることに長け、体術や戦況分析に長けた主審を要して、更にそれを補助するスタッフも今回は増員されている。当然、個性を使ったタイマン勝負などという、今までの雄英体育祭の競技でも一年生ではやってこなかった実践を想定された大会で万が一がないように配置された人員たちだ。それによって爆煙から現れた少し服が破れた緑谷とそれに吠えるように声を放つ爆豪の言動が解説席まではっきり伝わった。

 

『なんのつもりだ!!なんで、なんで『個性』を使ってねぇ!!舐めてんのかデクぅぅぅ!!』

『舐めてない。ただ僕は今から個性なしで君を、かっちゃんを打ち倒す。それだけだ』

 

 

 

 

 

言われた言葉に、理解が追い付かなかった。

個性なしで君を打ち倒すと、そう言ったのか。

それはつまり、つまりはだ

 

「俺が!個性なしで倒せるような!雑魚に見えるってのかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

叫ぶと同時に跳んだ。爆風が体を更に押しだす。

跳ぶ、というよりは疑似的な飛行だ。速度は走るよりも断然速い。そして爆速と飛行のために後ろを向けた腕を前へ突き出した。怒りに呼応するようにその手には既に爆発のための汗が溜まっている。

 

「死ね!!」

 

迷うことなく対象に、デク目掛けて爆破を行う。遠距離からではなく近距離からの大火力。その辺のモブなら一発で吹き飛ばせて試合が終わるような爆発。

 

それを、爆破の瞬間、体を捻じりながら飛びのき、転がりながらダメージを最小限で防いだデクの姿が見えた。そしてその体が個性であるあの忌々しい光を宿してないことも確認できた。できて、しまった。

それが余計に自分の怒気を高める。本気で個性を使っていない。

そして今の爆発で4回、すでに自分の爆発受けて無傷でいる。イラつく材料が姿を見る度に増えていく。

 

「本気でぶっ殺されてぇみてぇだなデク!!」

「それだよ、爆豪勝己。」

「ああ!?」

「君はあの日からそうだった。元から頭もよくて、反射神経も体力も、何もかも君は同世代で頭一つ抜け出ていた。個性が発現して、みんなとの差が更に顕著に出始めてから、君は僕をデクと呼び、みんなをモブって呼び出した。」

「だから何だってんだ!!俺が周りより上だったのは確かだろうが!!」

 

態勢を立て直して構える。腰を落として、膝を曲げ、拳を握って前と後ろに顔近くに持ってきて半身で構える。その姿は、まったく違う構えなのに、涙を溜めながらも俺の前からどこうとしなかったガキの頃を思い出させた。

 

「能力が上なら、クラスメイトも周りの人も端役扱いする。そんな君が誰かを助けるヒーローになれるとは、僕は思わない!」

「俺が目指してんのは『勝つヒーロー』だ!誰を何人助けても負けてたら終いだろうが!!」

「勝つことを否定はしない。けれど敵に勝っても、誰かを、君のいうモブを守れなければヒーローじゃない!!」

 

本当に、変わらねぇ。

あれだけ多くのモノが変わってんのに、俺を苛立たせることだけが、変わらねぇ!

 

「だから、今日、僕は証明しよう!君の言うデクが、個性がなかった僕が君を倒して、君の狭い世界をぶっ壊す!そして、君をただ勝つだけのヒーローなんかにしない! 」

 

 

 




後編は、今週中には、何とかあげます。
いつも読んでくださる方々、更新遅くなって申し訳ございません。
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