いつかは終わるヒーローたちのアカデミア 作:Agateram
お待たせしました。デクVSかっちゃん。決着です。
ヒーローとは、何か。
この世界で、ヒーローが現実になり、身近になり、職業にさえなった世界で、その問いの答えは無数にある。
ただ、緑谷出久の答えは決まっている。生涯もう変わることはない。
ヒーローとは、誰かや何かを守る者だ。尊い何かのために、より良い世界のために、大切に思える誰かのために、自分の過去、現在、未来、全てを賭して守るために動く者だ。
そうなるようにと生きてきた。
そうなるようにしか生き方を知らない。
だから、そうなれかしと叫んで拳を振るうことでしか、彼の生き方を変えることはできない。
だからこそ、この五体の全てを賭して、彼の生き方に干渉しよう。
これはただのおせっかいだ。余計なお世話だ。図々しい、厚かましい、傲慢な僕のエゴだ。
それでも、そのままの君はきっといつか行き詰り、息詰まる。
そんなものは、見たくなんてないから。だからこそ。
「だから、今日、僕は証明しよう!君の言うデクが、個性がなかった僕が君を倒して、君の狭い世界をぶっ壊す!そして、君をただ勝つだけのヒーローなんかにしない! 」
そうして、僕は僕自身のエゴのままに、爆豪勝己へ全速力で突っ込んだ。
爆発は、ない。いや、こちらの声に反応が遅れた。両手を前方に向けるが、あちらが間合いをつぶしてくれたおかげで、こちらの踏み込みが一歩速い。
拳が、爆破しようとした腕を通り過ぎ、そのまま彼の頬へと吸い込まれるように叩きつけられる。衝撃、手ごたえは確かにあった。だが、わずかに軽い。完全に反応が遅れて対応が間に合わないと思ったが、わずかに身を引いて着弾点を後ろにずらすことで威力を幾分か逃がしていた。
つくづく、天才。
それでも、もう、拳が届くところに、僕はいる!!
「クソ、デクが!調子に」「乗らせてもらうに決まっているだろ!!」
もらった打撃に、あるいは打撃の直撃を避けるために無意識とはいえ下がった自分に、または先ほど呆然となるほどの僕の言い分に、ようやく理解と感情が追い付いたように前に出てくる相手に、カウンター気味のミドルキックを鳩尾目掛けて打ちぬく。
「っそが!!舐めんな」
流石に二発目の直撃をもらうことはなく、防御するが脚の一撃を止めるために両腕を交差してとめている。なら、攻めるチャンスだ。
止められた反動を利用して戻ってくる右足をそのまま地面に叩きつけ、腰を捻って左の正拳。頭を下げて避けられたが相手は性格上避ける時に前に出ることが多い。そのままカウンターを打ち込めるから、彼の攻撃的な性格と合理的な理性がその動作をすることを、こっちはずっと昔から分析してわかっている。だから滑り込むようにこちらの懐に入ってきたところに左ひざ蹴りで跳ね上げた。再度両手で防御され、クリーンヒットにはならないが上半身を上げることに成功した。ガードがわずかに空いた、上半身も泳いでいる。そこに隙を感じた瞬間には左フックが爆豪の右頬を打ちぬいて容赦なく相手を地面に叩き倒した。
一連の攻防、実に3秒弱。
__計算しつくされたような、電光石火の瞬殺劇だった。
USJで、俺は彼岸四季に負けを認めた。その強さに、オールマイトを殺すための脳無とかいうデカブツを、一方的に屠るその有様に。それまで一度たりとも勝てたことがない戦績に、俺の有頂天だった鼻は折られた。
———わかっている。
俺は俺が優れていると思っていた。そしてその認識通りに優れていた。けれど、そんな認識なんて広い世界に出てしまえば、あっさりと崩壊する。
俺の世界に入ってきた2つ年上の同学年、彼岸四季に俺は負けた。負けを思い知らされた。
———わかっている。
そんなアイツにデクが魅かれたのもわかる。
USJでも、ホントは思い知っていた。俺は彼岸四季に負けた。そして自身が路傍の石コロとしか見られなかったデクが、俺の小さな世界に入れるような奴じゃないことを認めた。
——わかっているんだ。
だから、あれから遮二無二に努力した。
アイツ等に置いていかれないため、なんかじゃない。アイツ等を置いていくために。
——俺は、アイツ等に負けている。強さも、そしてヒーローとしての器も!
だがそれが、どうした!!
USJで誓った。俺は、爆豪 勝己は負けない、勝つヒーローになる!
いかなる状況においても勝つヒーローになる!!
それさえも、そのたった一つの俺の生き方でさえも、
「テメェは否定するってのか……そんだけテメェは格上とでも言いてぇのか!?
何様だ!!デク!!」
カウントを取られる間もなく、爆発と共に飛び上がり、一気に距離を詰めた。
接近戦が不得手なわけじゃねぇ!むしろ爆破によって不規則な軌道と反射神経、ゼロ距離でも必殺の威力を出せる分、こちらの方が得意なくらいだ。
テメェがその格闘技術を身に着けるのにどれだけ努力したか知らねぇ。だが、そんなものは結果の前じゃ意味ねぇってことを、骨の髄まで叩き込んで、意地でも個性を出させてやる。
その上で、俺はデクに勝つ。決勝であの彼岸四季に勝つ。
それが俺の歩くヒーローの道だ!!
そんな思いを滾らせて振り上げた拳は、相手に届く前に俺の腹を貫く左前蹴りが決まっていた。
強制的にくの字に曲がる態勢と吐き出される呼吸。遅れてやってくる吐き気と痛み。
それでも倒れねぇと歯を食いしばって顔を上げた瞬間、見えたのは踵と右半身になったデク、そしてこちらの動きを読み切った鋭い眼。
右後ろ回し蹴り。それを認識した瞬間に、俺は自分の顔が体からトンだような感覚と共に意識を強制的に刈り取られた。
『圧倒的!!圧倒的な格闘技術!!爆豪がとろいわけじゃねぇ!むしろ増強系の能力と見まがうばかりの速度と反射神経、爆破の不規則機動は学生じゃ間違いなく一級品だ。だが、その全てを完封して緑谷、大技で二度目のダウンを奪った!!コイツはもう、決まりじゃねぇか!?』
『いや、蹴りが決まる瞬間に爆豪も腕を差し込んで直撃はしてない。それでもあの前蹴りで動きを止めさせられたところにあれだけの速度で蹴りを叩きこまれたんだ。意識も朦朧としているはずだ。』
『マジか。おお、確かにスローで見るとギリギリで腕上げて防御してんな爆豪。しかし、緑谷の格闘技術はなんだよ!?プロ顔負けだろ!!?』
『……個人情報をここで話していいものか迷ったが、まぁ緑谷も隠していないしクラスの他にも公言しているので構わないだろう。緑谷は個性発現は今年の3月、雄英高校を受験した後だ。つまりアイツは入試の実技試験を無個性で突破している。もちろんその時は槍術を主に使っていたが、アイツは素手でも十分すぎるほどに強い。俺も個性無し、武器有りの組手で一本取られている。』
『ああ!?お前が、捕縛武器込みで負けたってのか!?うっそだろ?』
『事実だ。緑谷は彼岸と共にラビットヒーローミルコの指導を受けていたと聞いている。その上で槍も個性社会では珍しい実戦形式に極めて近い武術を習い、双方の技術を自分なりに練り上げた。アレに近接戦で勝てるのは雄英でも何人いるか、そういうレベルだ。それに、爆豪は緑谷が個性を使わないことに激高して動きが単調になってしまっていた。あれでは爆豪でも近接は分が悪い。なるべくしてなった結果だ。だが、この程度で終わるほど爆豪は生半可じゃない。見ろ。立つぞあの負けず嫌いは』
君は君が思い描くヒーローになればいい。その気持ちに偽りはない。
『必ず勝つヒーロー』
凄いことだ。素晴らしいことだと思う。負けるヒーローに価値はない。ただし、負けの定義だけはそのままにしておけない。
僕らが守るものは、正に君がモブと呼んでいる一般市民なのだと。いくら敵を屠ったところで、守るものなくしてヒーローは成り立たない。
彼が周りをモブにしたのは、僕だ。
僕が、誰よりも彼に近かった僕がデクだった。彼が最初に増長する原因を、周り見ない原因を作ってしまった。そして、10年近く、その認識に対して何もしてこなかった。
だから、今日、僕は何もできなかったデクを卒業する。
今日、君を自分以外をモブとしか見ないかっちゃんを助ける。そして『みんなを見て、守れて、そして勝つヒーロー』にしてみせる。
エゴというなら好きにすればいい。
自分勝手、その通りだ。
ただ僕たちはこうやって、拳を交えてでしか、本音を話し合えない。何も伝えられなくなった。こじれて、ねじれて、お互いを真っすぐ見られなくなった。
だから、僕は全て打ちぬいていく。デクとしての過去を打ち壊し、これから緑谷出久として生きるために。
だから、君は。
ああ、ホントにどこまでもコイツとは馬が合わねぇ。
俺がお前を見なくなっても、見たくないと思って目を逸らした後も、お前は俺を見ていたのか。
お前の目に、俺はどう映っていたんだろうな。滑稽なお山の大将にでも見えたか。そう見えても、仕方ねぇのかもしれねぇ。
わかっている。この世界には、俺より強い奴が腐るほどいて、お前も彼岸も、その先にいる奴らだ。
ああ、わかっている。わかっていた。俺が目指していたのはヒーローの上澄みだけだ。
勝つ姿が何よりも格好良かった。だからそれに成りたくて、それ以外には成りたくなかった。
だから、曲がったのかもしれない。勝つ奴だけが正しいなんてそんな風に思ったんだ。
どれだけ綺麗事言おうとも、崇高な意志を持とうとも、敗者に、死者に口はない。手出しもできない。助けようとする手も脚もねぇし声も届かねぇ。負けたら何にもなりゃしねぇ。
だから勝つのがヒーローの正しい姿で、それだけがヒーローの条件だ。
勝とうとしない奴らは端役だ。いらないのだ。俺の世界では、勝つ気がないのに何となく生きて何となく過ごして、そのくせ幸せばかりは欲しがるような奴は端役だ。
そんな奴らでも、ヒーローになると一度は口にする。
勝つ気力も覇気も努力も才能もない端役が、いっぱしにヒーローを口にする。
違うだろうが。勝とうともしねぇお前等がなれるもんじゃねぇ。勝ちたいと勝つと常に思っているものがヒーローなんだよ。
けど、デクは違った。
弱いくせに守ろうとする。負けるのに戦おうとする。自分が傷だらけになろうが、助けようとする。相手が自分よりも強かろうが弱かろうが、助けを求めていると感じたなら、助けたいと思ったのなら、誰にでも手を伸ばす。
わかっている。それがヒーローの理想の姿なんだろう。けど、それで?手を伸ばしたところでお前に何ができる?力も『個性』もねぇお前がどれだけ助けようとしても、負けたら意味がねぇ。それを、何度も分からせてきた。
なのに、お前は変わらなかった。いや変わったのか。お前は、強くなった。強くなって守れるようになった。守って勝てるようになった。
わかっている。認めてやる。テメェの方がヒーローに、俺たちの理想だったものに近い。
それでも、俺が求めたのはやはり一つだけだから。
——声が聞こえる。意識、トンでる間にカウント取られてんのか。なら、立たねぇとな。
「7,8,ないっ……爆豪君、意識ある?まだやれる?」
主審のミッドナイトが闘技場まで降りてきてこちらの意志を確認してくる。
だが、もう大丈夫だ。頭はくらくらするが、視界は定まらないが、四肢に力は入らないが、それでも、わかる。今の俺はきっと今までの俺の中で一番つえぇ。
「問題ねぇ。むしろ絶好調だ。」
「……受け答えはしっかりしている。わかったわ。けど次に大きなのもらったらストップをかけるわよ。いいわね」
「ああ、構わねぇ。次は俺が勝つ」
「……OK.それでは、戦闘続行!!」
高らかに響き渡った声に、先に反応したのは俺だ。いや、俺の腕だ。
半ば反射的に俺の腕は爆破を選択した。デクに、ではない。地面に向かっての爆発。考えるよりも先に脚も動いていたようで俺は今まで棒立ちだったその場から爆破を利用して飛び上がり、距離を取った。
デクは、俺が突っ込んでくるとでも思っていたのか、距離をとった俺を呆然と見ていた。ああ、いや、デクから、退いた俺に驚いたのか。
「はっなんて顔してやがる。間抜け面が更に間抜けになってんぞ」
「……口が悪い、ってことはかっちゃんに間違いないね。一瞬誰かと入れ替わったとか精神だけのっとられたとか洗脳を受けたとか、いろいろ考えたよ。君が敵から退くとは思わなかったから」
「イノシシじゃねぇんだ。俺も
とった距離は30mといったところだ。
いくらあの馬鹿が鍛えていても個性なしでは数秒かかる。
ゆっくりと息をするくらいの暇はある。それだけで十分だった。
頭が冴えてる。いつも感じていたイライラした気分が、今はない。
だからなのか、目の前の敵以外にもいろいろと見えるし、聞こえる。
例えば周りの歓声。俺の反撃を期待する声半分、このまま決着を望む声がその半分、残りはやはり個性を使えという野次めいた声ってところだ。
その中で、俺を単純に応援する声も聞こえた。
「バクゴー!!頑張れー!!!」
ああ、これは拳藤一佳の声か。この歓声でも聞き取れるってのはよほど大声なのか。
違う組で、ちっとばかり同じ組を組んだってだけで随分と真面目に応援しやがる。
いや、それだけじゃねぇか。A組からも切島や飯田の声、B組の角取の声も聞こえた。
頭を二度撃たれたので首の具合を確かめるついでに周囲を見渡せば、いろんな奴が声を出して、この試合に声援を上げていた。
視線を戻してみれば、そこに立っているのは昔から見知った顔。変わったようで変わらないアホ面だが、前よりずっと引き締まって見えた。
ああ、こうやって見れば結構世間ってのはうるさくて、眩しくて、せわしない。けれど意外と退屈もしないもんだ。
「モブ、か。そうだな。確かに全員をそう呼ぶのは、違うかもしれねぇな。」
「かっちゃん?」
「だがな、この世界に生きている大半の奴はモブと変わりねぇ。地に足つけて必死に逆境や困難に抗って、毎日を懸命に生きているなんて気合入った奴はそうはいねぇ。だから、俺にとっては俺が認めた奴以外はモブでしかねぇ。それでも、そのモブがいつか変わるかもしれねぇ、価値があるかもしれねぇ、ってのは認めてやる。テメェが
どうしようもない、ただのデクが、俺よりもヒーローに近づいた。それは事実だ。こいつはもうデクじゃない。
だから、俺も変わらねぇと追いつけねぇ。ただのお山の大将で終わりたくねぇなら、自分が変わらないと何もできねぇ。
「お前はイズクだ。だからそう呼ぶ。テメェもその気持ち悪い呼び方さっさと直せ。俺は、爆豪勝己。
かっちゃんらしい。それでいてかっちゃんらしくない言いかた。
思わず笑みが出る。ああ、目の前にやっと昔憧れたかっちゃんが、爆豪勝己が戻ってきた。
「………ああ。それじゃあ、ここからはお互い遠慮も加減もいらないね」
「当たり前だ。次舐めたことした瞬間、テメェを消し炭にしたるわ」
互いに笑って、そしてもはや迷うことなく、個性を発動した。
「TEXAS SMASH!」
「最大火力だ。とっておけ!!」
互いの遠距離最大火力はお互いの中心で激突し、会場中にその振動を響かせた。
轟音と爆風、そして爆煙が吹きあれた後に残ったのは二人の中間点に残された深さ3m、幅10mほど抉られたように半壊した闘技場。
そこに、迷うことなく突っ込んできた影が二つ。
一人は拳を握りしめ一直線に、一人は回転し螺旋を描きながら変則的な軌道を描き、半壊した闘技場の中央でぶつかり合った。
「DETROIT SMASH!!」
出久が繰り出すのは渾身の右ストレート。それもただのストレートではない。『浮遊』の個性で宙に浮きながらにして、確かな足場を持って放たれた拳は体ごと跳躍した一撃に更に加速を加え、拳が音速の壁を軽く突破する。
一撃の破壊力は向こうが上。榴弾砲着弾でも押し切れない。
そう判断した爆豪は両手を合わせ、爆発の衝撃を前方のみに集中させること面ではなく点での貫通力と破壊力を増幅させることで対応する。
やったことなどない。だが、今ならできると信じた。
「
二人の個性を出し切っての真っ向勝負。
この試合、最も大きな振動を響かせて、爆炎が空を舞った。
そして一人が闘技場に立ち、一人が会場の外に吹き飛ばされ、壁ではなくセメントスが出した硬化しきっていない柔らかいコンクリートにぶつかった。
万が一を考えてセメントスが構築していた競技者を受け止めるための壁。その後ろには会場へ衝撃をとおさないようにぐるりと闘技場を覆うように構築されたセメントの障壁があった。
そこで受け止められた者は、闘技場で左手を上げる相手を見ながら、唸る。
「次は、勝つぞ
左手を掲げ、虚空を掴み、勝利の祝福を受けるものは焼き焦げたようにボロボロになった自分の右拳を見て、その後で今まで戦っていた相手を見ながら叫んだ。
「次も、僕が勝つよ。何度でも競い合おう
準決勝 第一試合 勝者 緑谷出久。
かっちゃんをかっちゃんと書くのはこれで最後になります。
次回まで少し間が空きます。ちょっと試合展開を悩み気味でして。
あとアンケートを設置します。こちらは二つプロットもどきが出来てますが、それ以外にも皆さんの意見を参考にしたいと思いまして。よろしければアンケートへのご協力をお願いします。