いつかは終わるヒーローたちのアカデミア   作:Agateram

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シゴト、タイヘン、オワラナイ。

3月中には、体育祭編、終了予定です。


第46話 決勝種目 準決勝  リターンマッチ

『解説じゃないが、あの馬鹿二人に一言だけ言わせてもらっていいかマイク。』

『ああ、いいぜ。多分俺も同じ感想だ』

 

 

『『加減しろ馬鹿野郎ども。セメントスが死ぬぞ』』

 

 

解説席から死んだ視線で見た先には、もはや闘技場など欠片も無くなった試合会場跡地がクレーターとなって広がり、そこに大小様々なコンクリートの破片が散らばり、先ほどまで戦っていた二人が苦笑いしながら、それでもお互いの獲物を持ったままで相対していた。

 

そしてその端には雄英高校でも有数の広域戦闘、そして広域防御能力を持つヒーロー、セメントスが力を使い果たしたように地面に横たわっていた。

 

 

事の発端は、わずか5分前。

準決勝 彼岸四季VS轟 焦凍の試合開始前に遡る。

 

 

 

 

 

「珍しく外れたな、お前の予想」

 

試合開始前、入場を済ませ後はスタートの号令がかかるのを待つばかり。本来緊張してしかるべき二人、轟焦凍と彼岸四季の間はいっそ穏やかというような会話が為されていた。

それはひとえに、無表情が多い彼岸四季が珍しく笑みを浮かべながら闘技場に立っていたからに他ならない。その理由に気づいている轟は直球でその話題を振った。

言い当てられた彼岸は苦笑しながらも、その言葉を肯定する。

 

「ああ、俺が思っていたよりも成長していた。出久も……爆豪勝己も。」

 

彼が仏頂面を崩したのはそれが理由だ。

彼が一番ヒーローとしての理想に近しいと思うのは緑谷出久である。しかし、それと同時に惜しいと思う人材がいた。それが爆豪勝己だ。ともすればヴィランに落ちると可能性さえ考えていた。むしろその可能性の方が高いとすら思っていた。

その予想を緑谷出久と爆豪勝己の二人は覆した。

その結果を嬉しく思う。人の持つ可能性は、自分の思う矮小な世界では収まらないと、そう思えた一戦だった。きっと爆豪勝己が彼の理想とするヒーローになることはない。けれど、世間一般のヒーローの、そのトップクラスに位置する可能性を示したのは間違いないのだ。

 

彼岸四季にとって予想とは予知と紙一重である。個性の影響で確定された死を見続ける副作用を持つ彼にとって、自分の予想する未来を良い方向へ覆す行為は歓迎すべきことであった。

 

だからこそ、上機嫌のままで、この試合の相手を見て言い放つ。

 

「もちろんお前も俺の予想くらい覆してくれるよな焦凍?」

 

「当然だ。ここで、お前の優勝宣言を覆してやるよ四季」

 

即答された声に更に笑みが深まる。気分がいい。今日は本当にいい日だなどと思いながら、自分の対戦相手を見定めた。

 

「4月とは別人だな。いい眼、いい色彩が見える。加減はいらないな。お前も俺も。」

 

「当たり前だ。手加減も試しも必要ない。最初から最後まで全力でいかせてもらうぞ」

 

 

互いに浮かべるのは笑み。

それは爆豪の野性味あふれる好戦的なものとも、緑谷の逆境を乗り越えようと鼓舞するものとも違う。

 

そんな笑みを浮かべた二人にスタートの号令がかかればどうなるか。

 

応えは開始直後に現れた。

 

 

観客が感じたのは、春も過ぎ去ろうとしている季節にあるまじき冬の涼風。

10万以上の人波の熱気にあふれた会場を一瞬とはいえ吹き荒れた風は、その中心たる闘技場から放たれた。会場の観客席からでも見上げるばかりの巨大な氷山が地面から生えていき、それを真正面から2m近い大剣が同じく下から上への切り上げの一振りが両断した余波だった。

 

次いで感じたのは真夏の風を圧縮したような熱風。先ほどの氷山を割った主へと、太陽が落ちてきたと錯覚させるほどの膨大な炎の塊が今度は空から落ちてくる。

思わず身構える観客もいる中で、大剣の主は先ほどとは真逆の唐竹の一閃で炎を両断した。

 

双方で生じた衝撃はセメントスが出した壁によってほとんど防がれているため観客に直接的な被害はない。そこまで計算された攻防だった。そしてそれをもってしても会場はその眼に映った光で、聞こえた音で、体を震わせた振動で、溶けた地面の匂いで、そして己の本能で感じた。視線の先にいるのは自分とは桁違いの怪物であると。

 

天に迫るような氷山で真冬に戻ったかと思うほどの冷気を、太陽と見まがうような火球で真夏のビーチにでも来たような熱気を会場の全てに感じさせた個性を披露した方も規格外なら、それを一歩も動かず、大剣の二振りしただけで両断した方も規格外。

 

開始10秒ほどで繰り出された攻防は、正に観客の度肝を抜き、一瞬の静寂の後にあらん限りの声を振り絞ったような歓声へと繋がった。

 

それは、この種目のみならずこの試合こそ今年の最大の目玉だと期待してしまう故の期待の声の宴。

 

その中心で二人の強者は笑い合って向き合っていた。

敵に向ける威嚇でもなく、仲間に向ける激励でもない、もっと純粋で、子どもじみた笑みを浮かべた年相応の二人がただお互いの感情をむき出しにして笑い合っていた。

 

 

「全力で行くぞ四季!」

「ああ、せっかくの祭りだ。今回くらいはお互い羽目を外そう!」

 

そうして、爆炎と氷結が、赤い命が彩る斬撃と正面からぶつかり合った。

 

 

その結果として、セメントスからSOSが入るまで実に1分。

コンクリートが豊富な市街や十分にその準備があるこの会場のような場所なら無敵に近いと言われたヒーローが二人の激突の余波に限界を感じた時間である。

 

当然、その大怪獣の激突並の衝撃のぶつかり合いに、いくら個性を想定した作りであっても個人規模として作られた闘技場は、二人の本気の前にはもはや跡形もなく、既にあるのはお互いが立っている場所とコンクリートの破片が大小散らばったクレーター。それがほんの3分前まで立派な闘技場のあった場所の名残だった。そしてその惨状を見たセメントスは闘技場の修復は諦めて、せめて外部へ衝撃が行かないようにできるだけ密度と硬度を上げた見上げるほど高い城壁のようなコンクリートの壁を三重に張り直すことにした。これで何分もつだろうかと、不安になりながらも、己にできる最大の仕事をやり続けた。

 

そんな教師の思いは知らず、お互いしか見えていない二人は相変わらず笑みすら浮かべて消耗した様子もなく、しかし気分だけは更に高揚し、それに合わせて個性すらも上限を開放するように強力なものにしながら立ち合っていた。

 

「さて……準備運動にはなったか?」

 

「そっちはもう限界か?それとも火遊びと氷遊びに飽きてきたか?」

 

「ああ、遊びには飽きてきた。そろそろ、本気で獲りにいくぞ」

 

言い終わった直後に、炎が舞った。

ただ今までと違うのはそれが対戦相手に向かって放たれたものではなく、自分の右手に巻き付くように放たれたものだった。

 

「赫灼……見たことあるんだろ。親父と殴り合ったお前は」

 

「ああ、炎を、いや元となる熱を凝縮することでその温度と威力を跳ね上げる、エンデヴァーが炎熱系最強のヒーローと言われる所以の一つだろう。」

 

「そうだ。炎と熱の操作技術の粋、そして親父の多くの必殺技の基礎になるもの、それが赫灼だ。俺はまだそれを()()()使()()()ほどに炎の扱いに慣れてねぇ。だけど、鍛え続けた右なら、別だ」

 

そうして右腕の包むように展開された炎の中から伸びるのは氷。氷の刃。

腕から直接、伸ばされた指先から真っすぐに透き通るような氷が鋭い刃となってその刀身をさらしていた。

 

「氷の刃…いや正確には『氷』じゃないな。氷は水を個体にしたもの。それはただ水分が凝固しただけの氷じゃない。」

 

一見しただけではただの氷に見えるだろう。しかしよく見ればわかる。その刀身から出る冷気が周りの窒素、酸素までもが凍り付き始めている。

 

「個性で生み出した、極低温の冷気を刃状に固めた半冷の個性の最小にして最大開放。それがその刃の正体か?」

 

「そうだ。これが赫灼と対を為す俺の右の切り札、全ての動きを止める凍結の極致、名付けるなら……そうだな、『零晶(れいしょう)』ってところか」

 

「所以は全ての動きを零にする冷気の結晶、ってところか?それだけの冷気、使っていたら自分の腕が凍死するんじゃないのか?」

 

「ああ、以前の俺ならできなかった。お前の言うとおり、自分の冷気で自分自身が凍り付いてしまう。騎馬戦でお前のポイントを取るために使った時は、その後すぐに自分がまともに動けなくなっちまった。けれど今なら、左の炎で右の冷気をサポートできるようになった今なら、自分自身へのダメージを最小にしながら最高の冷気を、意のままに繰り出せる!」

 

一閃。

 

『零晶』と言った剣を一振り真横に薙いだ。

 

それだけで、その直線状にあった全てが凍結した。

地面を通して凍らせているのではない。宙に、その剣の先から出させる冷気が、剣線の先の全ての大気を凍らせた。刃に触れたものだけでなく、その余波でさえ相手を凍らせるほどの冷気を纏った剣。

 

今までの氷とは一線を画す冷気の塊。まともに受ければ良くて全身氷像、悪ければ当然死ぬ。

それほどの攻撃を前に、彼岸も迎撃するリスクを避けて咄嗟に真横に転がって避けた。

態勢を立て直した時には轟が剣を振り切った先から先ほどまで自分がいた場所を通り過ぎて、後方で観客席に余波が行かないように三重に作られたコンクリートの壁が二つ切り裂かれたままで凍結しており、三つ目の壁がようやく斬られず、しかし20m近い氷の壁を出現させていた。

 

「おいおいマジか。騎馬戦の時の最後の一撃より圧倒的にヤバいな」

 

「まだ、終わりじゃねぇぞ!!」

 

聞こえた声と同時に、全てを凍結させる剣戟が宙を舞う。それも1度や2度ではない。その右腕を振り抜いた数だけ、氷が舞い、闘技場があった場所が凍らされていく。

 

これほどの冷気を操れる人間が、果たしてこの日本に、否この世界にどれだけいるだろうか。もちろんヒーローだけでなく、ヴィランも含めてもおそらく片手で足りるだろう。

 

これほどの冷気ならこの巨大な会場全てを凍らせることすら可能であろうが、観客席にはギリギリ被害が出ない範囲でしか凍らせていないことからその精度は初めて使ったものとは思えないほどだ。

 

長年培った右の半冷の個性。歪んだ信念があったとはいえ、努力した事実は裏切らない。その努力と自分の身すら凍結するデメリットを防ぐための炎の同時使用という成長が若干15歳の少年に世界有数の冷気を十全に操る術を教えていた。

 

先ほどまでの拮抗状態ではなく、完全に轟のペース。

そして周囲を凍らされて逃げ場所が無くなった彼岸に、今度こそ凍結の剣戟が彼岸に直撃する。

 

この時点でこの試合の結果をほとんどの観客が確信した。すなわち轟焦凍の勝利。

 

そう観客のほとんどが確信する中で、確信しなかったのは避け続けていた彼岸の変化を見極めていたトップヒーローや彼に近しい者たちは感じ取った。今しがた剣戟が直撃した場所に現れた、自分たちを凌駕する生命の奔流。禍々しくさえ感じる赤く染まる刀身と同じ色に染まった、彼岸四季の全身に人々は恐怖すら覚えた。

 

「……ついに出したな、お前の全力。」

 

一方で、轟はひたすらに高揚を覚えていた。

全力を出し続けている、出していても大丈夫な相手が目の前にいて、そして相手もまた自分を全力を出すに値すると評価してくれた。その証左こそが今の彼岸の姿。

 

緑谷が語ったことを踏まえれば100秒前後しかその状態を保てないが、その間だけはオールマイトを倒すために作られた脳無を一方的に叩きのめせるほどの圧倒的戦力を誇る彼岸四季の切り札。

 

「……武器を現実に創成する『曼珠沙華』に加えて、生命力を戦闘用に全振りするコイツまで使わせられるとは思ってなかった。けど、次の一撃で終わりだ、焦凍」

 

『曼珠沙華』で作った大剣。その白い刀身が、再び彼岸の生命力を注ぎ込まれ、赤く紅く染まる。そこから発せられるのは今までの非ではない暴力的な赤い奔流のごとき光。

 

それが解き放たれれば、たとえ轟の『零晶』で作り出した凍結の剣といえども砕かれるだろう。故に、轟はとっておきの奥の手を出そうと左手に熱を高めはじめ、それに応えるように半身から炎が吹き荒れていく。

 

次の一撃で決着がつく。

 

観客もそれがわかったのか、会場の全てが息を止めたかのように静寂が訪れ、二人が動く、その刹那に、会場中に大声の電子音が響き渡った。

 

『ストップ!!ストップだ!!二人とも!!少し待ちやがれ!!その激突の前に、周りを視ろ!』

そのアナウンスで二人とも一時、戦闘態勢を解いて声の主、プレゼントマイクがいるであろう解説席を見上げる。

 

傍から見れば、既に二人のいる場所は爆撃でもされたような有様だった。既に意味をなさなくなった吹き飛ばされた闘技場。場外のライン、もとの闘技場があった場所の外には二人とも出てはいないが闘技場そのものはすでに立つ場所がないほどに瓦礫しかない。

 

 

 

ここで、場面は冒頭に戻る。

 

試合会場の破損については互いの力に会場が耐えられなかったが故の出来事であるが、流石にセメントスが過労となって倒れるまで力を使ったのを見た二人はバツが悪そうにしている。ただしお互いまで戦闘可能であり、試合のルールとしては何ひとつ破ってはいない。そして二人が戦った場所こそ破損はひどいが観客席に怪我人を出すような真似はしていない。

だから試合を続行したいが、肝心の守りの要のセメントスが既にグロッキー状態。壁は最後の力を振り絞って最高強度で3重に張り巡らせたが、今からの衝撃の余波には耐えきれないことは傍目に見ても明らかだった。

 

『あー、この場合は仕方ねぇが、試合を続けるわけにもいかねぇ。』

『そうだな。彼岸、轟、お前等もわかるだろう。これ以上は観客を巻き込みかねない。お互い不本意だろうが、この試合は引き分けで』「ちょーーーーーーっと、待った――――!!」

 

そうして試合が引き分けに終わらせられようとした最中、空から二人の人影が降ってきた。

それは誰もが知っている。会場で知らぬ者など存在しない二人。

 

日本におけるヒーローの格付けといえるプロヒーローのビルボードランキング、不動の1位と2位、オールマイトとエンデヴァーがヒーローのコスチュームを着た状態で二人を挟むように対極に上空から着地したのだった。

 

「イレイザー、マイク、二人の判断は正しい!!しかし、ここはヒーローの卵たちが全身全霊を用いて己の力を競い合い高め合い、ヒーローへと巣立つための経験を積む場所だ!!それを我々の都合でなかったことにはしたくはない!!」

 

『……確かに彼らの力のぶつかり合いを御しきれないのは大人の都合です。だが自分の力で周囲の民間人を巻き込まないのはヒーローの基礎。それができなかったなら、二人は決勝に行く資格はないと私は思います』

 

「理屈ではそうだ。民間人を巻き込むヒーローなどヴィランと変わりない!!しかし、それを踏まえて彼らも力を振るっていた!よく見たまえ!!その証拠に轟少年の氷の跡、彼岸少年の剣戟が切り裂いた跡を視ればわかるだろう。観客まで届きかねない攻撃は闘技場内に着弾するように調節されている。またその前の遠距離の打ち合いでもお互いに攻撃を真っ向から受けて絶対に後ろには通さなかった!」

 

「俺が言うと身内贔屓に聞こえるかもしれんが、今オールマイトが言ったことは確かだ。それは上から見ていたお前たちや、最前列の観客に怪我人がいないことからもわかるだろう」

 

オールマイトに続き、先ほどまで観戦席での私服とは違ってヒーローコスチュームで固めたエンデヴァーも補足を行う。

 

『……それでも、これ以上の戦いをその二人は行おうとしていました。もし、それが欠片でも観客を傷つける可能性があるのなら、俺はこの試合を止めるべきだと思います』

 

「そうだね!だからこそ、私たちが来た!!」

 

「仮にその二人が全力でぶつかり、どこかに余波が飛ぶとしても俺たちが観客には欠片たりとも衝撃を通さん。ヒーローとして、観客の安全は保障しよう」

 

「仮にも私たちはプロのヒーロー。彼らの先人だ。その全力くらいは軽く押さえてみせるさ。そして、さらに万全を期して、守りのスペシャリストたる彼にも来てもらった!!」

 

その台詞が放たれるなり、六角形の光の壁が闘技場の二人を包み込むように展開されていく。それを為した男の名はシールドヒーロー・クラスト。こと防御に関しては日本でも最上位に入る、守りのスペシャリストであり、ヒーローチャートでもトップ10に何年も入り続ける実力派ヒーローである。

 

「№1,№2ヒーローたっての頼みで警備から、会場の守護を引き受けた!全力で守ると誓おう!!」

 

「彼のシールド、セメントスの障壁、そして不測の事態には私とエンデヴァーが動く!!観客には、傷一つつけさせないさ。」

 

オールマイトがビシっと親指を突き立てスマイルを浮かべる。それだけでそこにいる全ての人々が安心した。それが、平和の象徴の影響力。

 

ただし、それだけでも納得しかねるのを防ぐのが理論派でエンデヴァーである。

 

「安心してほしいイレイザーヘッド。次にしょ………轟選手が放つ一撃は広範囲を殲滅するものではない。それは彼に修行をつけた身として保障する。そして」

 

『当然、アタシが修行をつけた四季も観客に怪我をさせるような一撃は放たねぇよ!!そんなことしたら、師匠としてアタシが蹴り飛ばす!!』

 

いつの間にか放送席まで来ていたラビットヒーローミルコが最後の一言を言ってしまえば、それで反論はない。

 

なんせ仮にもここには日本が誇る10人のトップヒーロ―が4人もそろい、観客の無事を保障している。その発言を待っていたように、試合会場の様子を近くで移すための大型モニターに雄英高校の最高責任者、根津校長が登場する。

 

『そういうことさイレイザー、マイク。もちろん君たちの判断はヒーローとして正しい。けれどここは教育の場であり、若いヒーローの卵たちがその全てをぶつけ合う場所だ。もちろん選手二人の師匠が言ったように、二人とも最後の一撃で会場にまで被害が及ぶようなことはなかっただろうけれど、それでも不安が残った。故に、セメントスからのSOSを受けて私が会場にいる最適な人員を選別して、万が一すらないようにした。責任は私が持つよ。ヒーローとして、全力で最後まで戦いなさいな二人とも』

 

「それじゃあ試合は続行でいいですね!」

 

最後の確認を会場まで上がって審判していた主審のミッドナイトが行い、全ての教師、ヒーローたちから許可を得た。

 

———盛り上がってきたわね。多分、ここまでの厳重警備は雄英高校の歴史でも前例がない。

 

「さて、それでは改めて、彼岸君、轟君、準備はいいわね!?」

 

「もちろん」「いつでも」

 

「……この戦いはきっと雄英高校の体育祭の歴史に残る戦いになるでしょう。最後、とびっきりのクライマックスを期待しているわよ!試合、再開!!」

 

 

再開と同時に、轟は再度『零晶』の刃を展開する。先ほどの焼き増しとなるかと思った瞬間、今度はその半身から炎を吹き出し、己の左上半身の体操着を焼ききった。それで炎の勢いは止まらず、大きくなったかと思いきや、そこに『零晶』の刃が近づき、その炎が徐々に小さくなっていく。傍目にはコントロールできない炎を右の半冷の能力で抑えただけに見える。ただ、正面から見据えていた彼岸とその近くにいるトップヒーローたちは気づいた。身体から腕へ、そしてその先の固く握りしめられた拳へと小さくなっていく炎が徐々にその熱を高めていっていることに。最後には炎すらほぼ消えて、残ったのは発光しているように見える中心部が黄白色、そしてその周りにオレンジ色、赤と周囲を取り巻くようにうっすらと炎が纏わるのみとなった左拳。

 

これが、ただの炎を扱うだけの個性であれば、ただ個性の扱いに失敗したように見えたかもしれない。だが轟焦凍の個性は『半熱半冷』。正確には炎を扱う個性ではなく、炎を扱えるほどの高温を放つことこそ真髄なのだ。本質はあくまで熱を上げ続けることにある。そして、その熱を一点に凝縮した結果、現れるのが発光してみえるほどに高温となった拳であり№2ヒーローを張り続け、炎熱に関しては世界最高クラスと言われるエンデヴァーの必殺技の基本にして奥義『赫灼』の状態である。

 

今の轟では炎や熱を操るだけでは出せない熱エネルギーの極致。それを『零晶』を繰り出した時と同じく左半身の個性をフルで活用しながら右腕の冷気で暴走しないように制御し、熱の逃げ場を失わせて固まり、高め切った末に漸く至った。

 

左に『赫灼』、右に『零晶』。正に『半熱半冷』の極致に至った姿である。

 

そして、その光景は彼岸を挟んで対面にいるエンデヴァーからもそして観客席にいる轟冷からもよく見えていた。

 

かつて、エンデヴァー、轟炎司は自分に限界を感じ、力を求めて狂った思想で己が望んだのは『赫灼』を使うことで体に熱がたまり、身体機能が落ちるという自分の弱点を冷気をもって冷やすことで自由自在に使い続けることができる、そんな子どもだった。だがその子どもは、自分の想像など遥かに超えたところに立っていた。

 

自分の奥義である『赫灼』と、それとは真逆の『零晶』なる境地に達した我が子。

 

そんな場合ではないと思いながらも、エンデヴァーは涙腺が緩むのを感じた。

同じく轟冷も涙が溢れようとするのを止めることができなかった。

それは焦凍が自分たちの予想以上の力を手にしたから、()()()()()()()

 

 

御しきれない炎を冷気で補佐することで使えるようにし、自分の体をも傷つける冷気を炎熱で保護することで到達した我が子の姿。

それが、熱で家族すら傷つけることしかできなかった自分とは違う道を歩んでくれたと感じたから。

心が冷え切り、熱持つ我が子を傷つけてしまった自分を温めてくれた手の温もりを思い出したから。

後悔はある。

熱を冷気で沈め、冷気を熱で温める。自分たちにも、そうできていたならと。

 

熱に狂った頭を冷やせていたならば、氷固まった精神を溶かせることができていたなら、お互いがお互いを支え合おうとしていれば、きっとこんなに子どもたちに辛い思いをさせることなんてなかったのに。

そんな後悔を二人は同時に感じ、それでも、そんな中で育った末の子が透き通ったような笑みで炎と氷を御している姿に、救いを感じた。

 

自分たちは、間違った。けれどその中でも今、自分たちの子はたくましく笑ってそこに立ってくれている。きっと()()()は、自分たちを許さない。けれど、焦凍はそんな自分たちの間にいても、優しく育ってくれた。父と母と呼んでくれた。

 

そしてそのきっかけをくれた少年と今、笑って向き合っている。逞しくまっすぐな眼をして。

 

きっと、今轟家のみんなが幸せを感じられるのは、一番不幸な生い立ちで育ったあの子が優しくいてくれたから。優しいヒーローになってくれたから。

 

だから見届けよう。例え涙で視界が滲んでも、この試合の結末を。

 

 

そうして、試合は最後の邂逅を迎える。

 

 

最初に動き出したのは、轟焦凍。

 

『零晶』の剣を相手の喉元へと構え、『赫灼』の拳をそのすぐ後に来るように構えたまま少しずつ、距離を詰めだした。

 

それを見て、彼岸四季も大きく息をした後に、言の葉を口ずさんだ。

 

「紅く目覚め、夏の太陽のように世界を焼け。灼熱の時は今。全ての命は闘争の中にしかない、……最高戦闘特化状態、技の名を『地獄花』」

 

再度、彼岸の体が赤く染まり、見る者に畏怖を抱かせる様相となる。

「大いなる星の息吹、その実りを創成する『曼珠沙華』」

 

その上で構えるのは白い大剣。それが徐々に赤く染まっていく。あたかも剣が血を吸い上げるように、白が消え、赤が広がる。

大剣が赤く染まりきった時、変化が訪れた。

刀身150cm、幅20cmあった刃が、少しずつ崩れ始めたのだ。

 

それは紅葉のように少しずつ落ちていく。

 

「曼珠沙華でやるのは初めてになるが、先に言っておく。これが、今の俺ができる攻撃手段で最高威力の技だ」

 

落ちていくだけの赤が舞う。紅葉よりも更に小さく、赤く染まった花びらが舞う。それは弓を引き絞るように構えた右拳に集約されていく。

 

「決着をつけよう。行くぞ」

 

言葉通りに突っ込んだ。既に体を脈動するような赤く染まった肌はない。全てを先ほどの剣に吸われつくしたように消え失せていた。それでも、まだその強化が残っていたのか、距離を詰めるその速度は弾丸のごとく一歩で20mの間合いを潰す。

 

だが、その間合いがゼロになる前に、轟が反応した。

 

それは『零晶』の刃に、『赫灼』と化した拳を触れさせた瞬間に顕現した。

超低温に冷やされた固まった水や大気が数千度を超える『赫灼』で熱された結果、生じるのは熱膨張を利用した、超爆発。

そして、それを『赫灼』で溜めた熱を一気に上方に解き放つことによって、全ての気流、爆発の奔流に上空への指向性を与える。

 

膨冷熱波・極(ぼうれいねっぱ・きわみ)

 

本来なら球状に広がっていく爆発の奔流を全て上へと操作することで、爆風の範囲は最小限に、そしてその範囲にいる者には必殺となる轟焦凍の必殺技。

その威力は日本屈指の防御力を持つシールドヒーロー・クラストの張ったシールドの上部を一瞬で消し去るほど。

それに対して、突っ込んだ彼岸の選択はいたってシンプル。

目の前の爆炎の柱へと地面を這うような軌道を描きながら赤い力場を纏わせた拳を全力で叩き込んだ。

 

その結果生じたのは虚空。極限まで範囲を狭めた爆風が撃ち込まれた拳を中心に穴が開いたように消された空間が出来上がっていた。

 

それを為した彼岸の先には片手を凍傷し、片手を火傷しながら驚きに目を見張る轟焦凍の姿。それに笑みを返しながら、彼岸は笑う。

 

「技の名を『天蓋花(てんがいばな)』。俺の奥の手だ。」

 

まるで自慢のおもちゃを相手に見せた時のような無邪気な子どもの笑み。

そんな笑みが伝播したのか、轟も笑った。笑うしかない。自分の奥の手は相手の奥の手で無に帰した。個性の力は使いつくした。ならばお互いに残っているのは、もうこの体一つだ。

だからこそ次の行動も二人は全く同じだった。

 

「焦凍ぉぉぉぉ!!」

 

「四季ぃぃぃぃ!!」

 

互いの奥の手は見せあった。お互い限界に近い。だからこれで終わりだと互いにわかった。正面からお互いに拳を振りかぶり、鏡合わせのようにお互いの頬を打ちぬいた。

 

互いに全力の一撃。

 

先に膝が折れたのは、轟だった。

 

「強かったよ焦凍。お互いの年齢が逆なら、お前が勝っていただろう」

 

気を失った轟を抱えて、勝者は惜しみない賞賛を腕の中の誇り高い敗者に送った。

 

 

準決勝 第二試合 勝者 彼岸四季

 

 






轟の個性が物理法則と違うことには、ツッコまないでいただけると助かります。
まぁほら、そもそもここは超能力を個性なんて言っちゃう世界観なんで、物理法則なんてあってないようなものですから(言い訳)



次回、決勝戦。
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