いつかは終わるヒーローたちのアカデミア   作:Agateram

49 / 59


4月中に更新、できませんでした。

また次話更新後は2,3ヶ月ほど仕事の事情で更新できなくなるかもしれません。

いつも読んでくださっている方々、大変申し訳ございません。
時間はかかりますが必ず完結させますので、しばらくお待ちください。

感想、アンケートありがとうございます。
ではまた次回で。


第48話 雄英体育祭 最後の勝利者 後編

 

 

闘技場の地面を弾けさせて、弾丸のように一直線に跳びこむ小柄な体。しかしそれは一般人の動体視力では負いきれないほどの高速。だがそれに驚く暇などなく、飛び込んだ体躯の速度を遥かに超える速さで振るわれる槍。

 

突く。

 

突く。

 

突く。

 

ひたすらに、槍を扱き、真っすぐに突きこんでいく。

額、喉、心臓、みぞおち、丹田、膝、足先、ありとあらゆる部位、急所に超速の突きがとぶ。もともと槍とは連続で突くことなど想定していない武器である。一つの突きを避けられれば、容易くその間合いを詰められる。故に槍の基本とは突く、ではなく払い、あるいは叩くことで相手を近づけないことが基本であると言われることも多い。しかし、緑谷出久が使う槍は左前半身構えから、脚、体幹、腕を駆使して連続した突きを可能にしていた。

 

刃引きはしてある。だが、その速度で、人知を超えるパワーを持って繰り出される一撃が人体にあたれば、その部位はあっさりと吹き飛ぶ。それが雨嵐のように自分に向かって突きこんでこまれる光景はどのようなものだろう。

 

その雨嵐のごとき連撃の中を、たった一つの刃と赤い光をもつ体躯が割っていく。

刀身を使って穂先を弾く、だけではない。僅かに膝を曲げる、体幹だけで体をそらす、頭をミリ単位で下げる。それだけで、全ての刃が彼には届かない。必要最低限の回避行動。0.1秒遅れれば、1cmでも違えれば、一瞬で試合を終わらせるその刃を、まるで意に返さず、刃の中へと体を躍らせ、距離を詰めていく。

 

 

その様子を見て、刺突の雨が止む。次に来るのは薙ぎ払いの一撃。槍には必殺の距離がある。その距離は彼が持つ50cm程度の短刀よりもはるかに遠い間合いだ。だが今その距離は潰されつつある。槍は近ければ近いほどに取り扱いが難しくなり、威力を弱らせ、その長所が潰される武器だ。だからこそ距離を離すための一撃。直撃しなくとも相手を下がらせる、或いはその場に一歩とどまらせればいい、その意図をもって放たれた膝を狙った横薙ぎの一閃。

 

それは、容易く防がれた。刃で受け止められたわけでも避けられたわけでもない。

槍の穂先、その刃のわずかに手前に相手の右足が乗せられていた。

驚愕に槍の主の目が見開かれる。同時に危機を察した。槍に乗せられた足をそのまま体重をかけて、反対側の脚による蹴りが自身の頭に狙いをつけて振り上げられたのが見えたからだ。槍を持っている両手を離せば防御はできる。しかしそれでは槍という獲物を失うことになる。元より技量で劣る相手に武器の有る無しでは勝ち筋が更に減る。ならば、どうするか

など考える間も惜しく、歯を食いしばり、腰を捻って両手に再度力を込めた。

結果、相手の全体重がかけられていたはずの槍はいとも簡単に振り抜かれた。当然、槍に乗っていた相手も吹き飛ばされる。

 

結果互いに距離ができて、構え直した。武器をもって突っ込む前と同じ構え。仕切り直しだ。

 

お互いの動きが止まった瞬間、歓声が雷鳴のように二人に向けて降り注がれた。

 

 

 

 

 

『おっと失礼したぜリスナー諸君!!あまりの近接戦に思わず見とれちまったぜ!!

しかし、お互いに武器をもった途端、動きが更に早くなったな。それも緑谷の突きなんて正直オレにはほとんど見えなかったぜ!!』

 

『…それは仕方ないだろう。アイツ等は現時点で一年で……いや、雄英高校全体で見ても最高クラスの近接戦闘能力と個性を持ち合わせた二人だ。さっきまでの打撃戦はただの準備運動みたいなもの。今の攻防でもお互いにトップギアというわけじゃない。』

 

『マジか。彼岸はあの体が赤くなる、『地獄花』ってやつがあるが、緑谷もかよ?』

 

『緑谷の個性『フルカウル』はまだ使いこなせていない。力が強すぎて自滅してしまう。だが、それは彼岸の『地獄花』も同じことだ。彼岸のあの状態は長くは持たない。まして今日だけで相当な生命力を使っている。お互いが全力を出す時、それがおそらくは決着になるか。あるいは、さらに奥の手があるか…。どちらにせよ、眼を逸らすなよ。』

 

『お互い一撃必殺のパワー、勝機を逃さない技術がある。決着は一瞬ってことだな。見逃すなよリスナー!!』

 

 

 

 

 

 

「外野は盛り上がっているが、わかっているな出久。今のままなら、俺にはまだ勝てないぞ」

 

「そうだね…。地力ではまだ勝てない。でも、言ったはずだよ」

 

そう言って、一歩踏み出した緑谷の脚は空中で止まる。そして、そのままそこに足場でもあるかのように、空へと昇っていく。個性『浮遊』。空へと浮かび上がり、自在に宙を駆けるワンフォーオールに託された力の一端。オールマイトの師が本来持っていた『個性(浮遊)

 

「今日は、僕が勝つ」

 

先ほどとは違う。

これまでの誰とも違う三次元の動き。

爆轟の空中移動は必ず爆破という起点があるからどこに向かうか、よく見ればわかる。

しかし、緑谷は空中を全てを足場にでき、宙に浮かび続け、縦横無尽に空を舞うことが出来る。足を起点に方向を読もうとも、どこで踏み込むのか、こちらからは見えない。あるいは彼の師のように拳を振ってそこから移動することも可能。そしてそれらの動きに虚実を混ぜればもはや先を読もうと思うことすら思考を狭める罠となる。

 

だから先読みはできない。

常に相手に後手を迫る三次元戦闘。

 

「騎馬戦で見せた力だな…。確かに、有効な手段だ。俺も浮くくらいなら可能だがお前のように三次元を自在には動けない。だから地上で迎撃するしかないが、空からの攻撃ってのは普通はそうそう経験できない。」

 

なるほど、確かに厄介だと彼岸四季は認めた。

その上で、真上から来た刺突を左手の刃を逸らし、そのまま突っ込んで真上から追い打ちの膝蹴りで顔面を狙ってきた緑谷に対して、いとも容易くカウンターの掌底を彼の鳩尾に打ち込んだ。

 

信じられないような表情で目を見開き、同時に吐き出される空気と体がくの字に曲げられた痛みで一瞬動きを止めた相手にダメ押しの右のハイキックが頭から相手を地面に叩きつけた。

 

三次元の動き、飛翔に限りなく近いそれは、おそらくは№3のヒーローであるホークスクラスの移動速度だ。それが№1ヒーローの半分の力を以って空中から襲ってくるなど普通なら、いやトップクラスのヒーローでも一撃くらいは受けるかもしれない。

 

だがしかし、彼岸四季には通じない。

 

「判断が甘いな出久。忘れたのか。俺の師はラビットヒーローミルコ。空中からのコンボ攻撃など日常的にくらっている。そしてお前はまだその『浮遊』を使いはじめてから日が浅く、熟達には程遠い。ならば、その攻撃を捌くことなど地上で相手取るより容易いことだ」

 

彼岸の最も長い師であるミルコは『兎』の個性であり、ウサギらしいことがウサギよりできるという異形型の個性だ。

そこから繰り出される打撃は早く、その跳躍力と蹴り技はヒーローの中でもトップクラス、名実共に、日本の女性ヒーローでトップの近接戦闘力を誇り、その跳躍からの蹴りは得意中の得意だ。

それ故に、その女傑と訓練を重ねてきた彼岸が空中からの攻撃に対応できないはずがない。

 

 

確かに緑谷出久は年齢にそぐわない技術を持っている。そしてそこに恐るべきパワーとスピードを持つ『個性』を授かった。それに加えて、今度は空まで自在に駆けられる。

 

だが、まだ使えるだけだ。熟達には程遠い練度でしかない。

 

それでは、まだ彼岸四季には届かなかった。

 

ならばどうするか。

緑谷出久が出した答えは構えと同時に知れた。

 

「付け焼き刃の空中戦より、使い慣れた地上戦。悪くない選択だが、それで負けてやることはできないな」

 

「……負けてもらわなくていい。今日は勝ちにいくと言ったはずだよ!!」

 

雄叫びと共に、再度槍を構えて緑谷が突貫する。

 

槍は穂先を下から斜め上に突き上げられ、捻りを加えられながら心臓を狙う。

速度は速くとも、技巧は先ほどの連続した突き技に比べれば平凡。一撃に特化したような上半身を前倒しにした片手突き。一瞬の速度、間合いでは通常の突きには勝るが、容易に弾かれやすい不安定な突きである。彼岸の強化された動体視力でも容易にはとらえきれないほどの速度はあるが、それでも緑谷の100%の『個性』を一瞬だけ発揮させて放つ『刺し穿つ葬送の槍』には遠く及ばない。ならば緑谷の槍の間合いを完全に把握している彼岸にその突きは届かない、はずであった。

 

この試合、初めての緑谷の槍が彼岸へと通り、彼岸の体が中央から一気に場外近くまで吹き飛ばされる。あわや一撃で試合終了になるかと思われたが、闘技場の3歩ほど手前で彼岸が脚に力を込めて耐えた。

 

しかし、その顔には驚愕が浮かんでいた。

先ほどの突きこまれた際、彼岸は半歩引き、突きの間合いを外して打ち終わりを短剣で叩き落として一気に剣の間合いに入るつもりであった。

 

だが、()()()()()()()

 

届かないはずの半歩が届いたのだ。寸前で短剣を体と槍の間に割り込ませたが、今の突きで完全に折れてしまい、その上で体が吹き飛び、槍の穂先もわずかに彼岸の体を抉った。

 

刃引きしていなければ、あるいは短剣の防御がわずかでも遅れていれば、今の一撃で彼岸は負けていたかもしれない。

そう思わせられるだけの威力。

 

だが、そのくらいの力があることくらい彼岸はわかっている。わからないのは、届かないはずの突きが何故届いたのかということだ。

 

勝機と見たのか緑谷は一気に踏み込み、再度突きこんでくる。

 

手元の折れた武器ではまともな攻撃はできない。だがまだ柄先には20cmほど刃が残っている。最低限の防御では使えると判断してそのまま迎え撃った。

 

追撃の槍を、後ろではなく今度は横に避ける。しかし、紙一重で避けられるほどに知りえているはずの緑谷の突きがまたしても彼岸に当たる。今度は確実に剣で防御したが避けられるはずのモノが防御することになった。つまり防御しなければ当たるということ。避けられていないということだ。

鉄と鉄を打ち合わせる音が激化する。全ての攻撃を避けて反撃していた彼岸は一転して防御のみしかさせてもらえない状況となった。

 

 

———どんな絡繰りだ?

速度の上昇?——否、速さは変わっていない。つまり個性の増強もあり得ない。

 

間合いを測り損ねた?———否、一度ならいざ知らず、こうも全ての攻撃で予測を外すことなどない。

 

新しい『個性』?————可能性はある。『浮遊』という彼岸が知らない手札があった以上、他の個性があってもおかしくはない。だが間合いを伸ばす『個性』とは?拳藤のように一部が肥大化したわけではない、もちろんマウントレディのような巨大化のように大きくなってもいない。そんなものは一見でわかる。ならば、何が……

 

 

 

そこまで考えて、漸く彼岸は自身に攻撃を当てられるようになった仕掛けに気づいた。大きく槍を弾き、同時に緑谷に一歩近づけば蹴りの間合い。迷うことなく蹴り抜き、防御されたものの相手を引かせることに成功した。

 

彼我の距離は5mほど。それでも漸くリングアウトギリギリの状態からの攻防から一息つけた。そして彼岸は確信をもって緑谷へと口を開く。

 

「やられたよ出久。お前、()()()()()()()()()?それも右足や左足を()()()()()()()

 

「……凄いね。もう気づいたんだ四季」

 

その発言に緑谷はあっさりと事実を認めた。

間合いが突然伸びる、避けられるはずの攻撃が避けられない。それは緑谷をよく知る彼岸だからこそ起こる現象。よく緑谷の攻撃範囲を知っているから紙一重の最小の動きで避けられる彼岸だからこそ、緑谷が攻撃する時にだけ()()()()()()()()()()()()()で槍の軌道は変わり、間合いはわずかに伸び、結果として紙一重で避けられた相手に槍が届いた。ほんの少し、相手に気づかれない程度の『個性』の使い方。

 

使い慣れていない空中機動を行う最大の個性発動ではなく、いつも使っている場面でこそ生きる最小の個性の発動。それが緑谷の槍が届いた絡繰り。

 

「小技、とは言えないな。あの速度で戦っている最中に自分の足場を変える。そんなことは一歩間違えれば自滅する。それをこの大舞台でやってくるあたり、お前、ホントイカレてるよ。ヒーロー向きだ」

 

「相変わらず褒められているのか貶されているのかわからない言い方だね。けど、いいの?もう戦闘に回せる生命力ほとんどないんじゃない?」

 

「そうだな。お前の『浮遊』を使った変則的な技と通常の状態、そしてここぞという時の自壊覚悟の100%状態を加味すれば、俺も今の状態なら攻めきれない。だから、ここからは…………短期決戦だ。」

 

 

 

 

 

 

~~出久side~~

 

 

熱く火照った体が、一瞬で氷水の中にぶち込まれたように冷え切った。

さきほどまで、四季が纏っていた赤い生命力の光が消える。それは戦闘形態を解いたわけではない。逆だ。

 

響き渡る歓声の中でもはっきり聞こえる聞きなれた声が絶望を奏でるのが聞こえた。

 

————紅く目覚め、夏の太陽のように世界を焼け。灼熱の時は今。全ての命は闘争の中にしかない。『地獄花』

 

外に纏わせるように発せられていた活性化され戦闘に特化した生命力の光。それが外に溢れることはなく、体の内に全て凝縮されていく。結果、彼の体は焼けたように赤く、黒く、色がついていく。

生命力の全てを体の中に内包した限界の肉体超活性。彼岸四季の個性『春夏秋冬』の増強型特性『夏』の最強の戦闘形態。

 

スペックだけならオールマイトと同等の化け物すら真正面から退けた、四季の切り札。

 

それはつまり、僕のフルカウル50%の倍する出力を、僕よりも技術が上の相手が持つという圧倒的劣勢に立たされたと同義だった。

 

あれに対抗するには、現在の最大出力である50%を上回る必要がある。だが、一度50%の上限を超えれば、細かい調整は不可能。手綱を切られた状態の暴れ馬にまたがって鞭を入れるかのように暴走した力に振り回された挙句に無様に振り落とされ、骨が、肉が軋みを上げて潰れる未来しかない。

 

これから先は瞬きすらできない。比喩ではなく、瞬き一つの隙に相手はこの体を闘技場の外に吹き飛ばすだろう。

 

だからこそ、油断なく槍の穂先を相手に向けて構え、相手の出方をうかがった瞬間に、自身が選択を誤ったことに気づかされた。

格上相手に、出方を伺った。そんなの、相手に主導権を与えているのと同じだ。

 

「がはっ!?」

 

 

その結果として、気づいた時には鳩尾に一撃、赤い拳がめり込んでいた。

強制的に空気が吐き出され、

 

 

「行くぞヒーロー。死ぬ気で抵抗してみせろ」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、火が付いた。

続けさまに繰り出された鉄槌打ちを槍掲げて防ぐ。

だがその槍も、今の四季の前には紙切れ同然とでもいうようにへし折れた。

 

だが、数瞬の足止めは成功した。それだけあれば反撃できる!

 

「オラァ!!」

 

左の外回し蹴りが相手の側頭部を狙い、しかし当然のように防がれる。

そのままの態勢で折れた槍の石突を相手に投擲。だがそれは相手に当たることなく蹴り上げられ、即座にそれがかかと落としに切り替わりこちらの頭蓋を割らんとするかのような勢いで振るわれる。

片足で跳んで避ける、のは不可能。ならば逆に間合いを詰めて相手に組み付くようにして踵の直撃を避けた、つもりが体ごと脚一本で地面に叩きつけられる。

 

———根本的なスペックが違う。まともには打ち合えない。

 

「だからどうした!!」

 

追撃の蹴りを横に転がって避けながら、起き上がる。否、拳を地面に打ち付けて己の体を無理やり宙に飛ばし、回転しながら左手に残った槍の矛先を相手に向け、

 

打ち砕く飛翔の槍(スマッシュ オブ スピア)!!」

 

 

相手の眼前に先ほどの投擲とは比べ物にならないほどの力を込めて、相手の顔面に放った必殺の槍投げ。

 

不完全な体勢から放たれても『個性』と回転の力を全て載せた一撃は容易に空気の壁を突破し、

 

「——はっ!?」

 

その切先を、握りつぶされていた。圧倒的な暴力の前では今まで培ってきた技など、無意味とでもいうかのように、ただの力で握りつぶされていた。驚く間もなく拳が、蹴りが、僕に打ち込まれ、口から血が混ざった吐瀉物をまき散らしながら闘技場の隅に叩きつけられる。

 

————痛い。痛い。痛い。痛い。苦しい。キツイ。辛い。骨、内臓、傷、折れて、

 

「———だから、どうした!!」

 

そんなことはとっくの昔に経験しきっていたことだ。緑谷出久は『無個性』だったのだ。自分がスペックで、能力で劣ることなど慣れている。叩き伏せられることなど何度経験したかわからない。

技術が劣っていることも届かないことも知っている。鍛えてきた近接格闘や槍術であっても、自分を上回る者なら山のようにいる。たかが15歳の小僧が数年血反吐吐いたくらいの訓練で登れるほどに武というものの頂きは低くない。実際個性なしなら相澤先生の捕縛布を突破して一本とるまでに何度も負けた。

 

そして、今まで本気の四季からは訓練でさえ一度も勝ったことがない。

その圧倒的格上が、倒れたこちらを見下ろしながら口を開く。

 

「もう、終わりか?」

 

無機質に、無感動に、無表情で告げられる言葉に体の力が沸き上がってくる。

 

産まれながらの『個性(才能)』がないことも、生まれた末で身に着けた『技術(努力の結果)』が届かないことも、既に経験済だ。乗り越えた後だ。だから、そんな些事で躓くほどに、緑谷出久の心は弱くはない。

 

だから、その心に体は付随して立ち上がる。

 

「終わる、わけないだろ!!」

 

ましてや、今の自分には『個性(オールマイトの力)』が、受け継がれてきた意志がある。

だからこそ、いやたとえそうでなくとも、

 

「緑谷出久は、諦めることだけは、ない!!たとえ、死の間際でも、諦めることだけはしない!!」

 

その言葉に、彼岸四季はいつかのように笑った。

 

 

 

 

~~彼岸side~~

 

 

「緑谷出久は、諦めることだけは、ない!!たとえ、死の間際でも、諦めることだけはしない!!」

 

 

圧倒的な力で押しつぶしても、培ってきた技術を叩き落されても、潰えることない強い意志。

 

—————ああ、本当に強くなった。

 

どれだけ罵り、心を折ろうとも、また立ち上がる。

どれほど叩きのめし、砂利の味を覚えさせても、また立ち上がる

どれほどの不幸を目の当たりにしても、その手が届かず、守れずとも、また立ち上がる。

絶望へと叩き落されても、たとえ涙の海で溺れても、まだ立ち上がる。

 

 

何度も何度も、地獄を見ても、その在り方を変えようとせず、更に輝きを増す、ヒーロー。

 

————俺が見た、色彩

 

それを絶やさないために、ここで、お前の勝利の芽を摘もう。

いつかそれが、さらに大きく美しい色彩を放つために。

 

緩んでいた頬に力を入れて、脚に力を籠める。

 

相手はもう虫の息。だが、まだ『個性』の100%を使っていない。

一撃で一切合切全てに決着をつけられる切り札が相手にはある。だがそれを出す隙は与えない。

正面からなら、100%の攻撃でも対処できる。100%の出久はまだ先ほどの攻防のような繊細な技術は使えない。つまりUSJの脳無と同じだ。力と速度がこちらを上回ろうとも、技術が追い付かない、体がもたない。それならば対処は容易。

 

 

残り、5秒で、決着をつける。

 

そう考えて、この試合を終わらせるために、地面を踏みしめた直後に出久は来た。

その身一つで、いつかのように、雄叫びを上げて、迷うことなく俺に向かって飛び込んだ。

 

 

 

~~出久side~~

 

相手以外の全てを忘れる。拳を振るうのはあと2回。だから体があげる悲鳴は一切無視して突っ込んだ。

距離を詰めて左拳を振りかぶる。それだけで体は軋みを上げるが構わなかった。そうして痛みを無視してまで振るった拳は、簡単に片手で外へさばかれてしまう。

 

こちらの思う通りに。だからこそ、

 

「捕まえた!!」

 

触れられる瞬間に左手から飛び出した、黒い5本の影が、相手の腕に纏いつき、即座に腕ごと、体と両足を縛りつける。

 

「これ、は!?」

 

ここで、初めて四季が驚きで目を見開いた。

 

今の今まで四季に言ってこなかった、体育祭でもこの瞬間までただの一度も見せなかった切り札。先代の一人、ワンフォーオールを受け継いだ者が持っていた個性、『黒鞭』。

 

クラスメイトの常闇の個性『黒影(ダークシャドウ)』のような真っ黒なエネルギー体が、発動者の意志によって自在に動かせる『個性』。

 

その個性が作り出したこの瞬間こそ、この試合、待ちに待った最大にして最後の好機!!

 

相手の動きを制し、引き寄せるために黒鞭を持つ左腕の『個性』を100%に、そして引き寄せた相手に打つのは、ただの右ストレート。ただし右手の『個性』を100%解放し、大きく振りかぶり腰をしっかり入れて放つ、ただの、しかし緑谷出久最強の一撃。

 

 

「DETORIT SMASH!!」

 

 

試合を決定づける一撃を振るった、その瞬間に僕は四季が笑みを浮かべた姿を見た、気がした。

 

そして、放たれた拳の先で、全てが終わる音を聞いた。

 

そこから試合が終わるまで、緑谷出久には記憶がない。

 

ただ、

 

 

「試合終了!! 勝者—————」

 

 

落ちる意識の中で、ミッドナイト先生が高らかに最後の勝利者の名前を呼ぶ声だけ聞こえていた。

 

 

 

 

 





春に癒しを。
夏に猛りを。
秋に実りを。
そして冬に――を。

ひがんとは、悟りであり、祈りであり、呪いである。



次回『雄英体育祭 終幕』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。