いつかは終わるヒーローたちのアカデミア   作:Agateram

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前の話で次回は10月11日投稿と言いました。

大嘘でした。思いのほか筆が進んだので、投稿します。


第4話 №1ヒーローと緑谷出久  ファースト

彼岸 四季

 

それは僕、緑谷出久がまだ小学生だったころに出会った年上の同級生だった。

 

本人曰く、個性の都合で病院などに入院していたため、まともな教育が受けれず僕たちの同級生になったとのことだった。

 

目つきが鋭く、笑わない。顔の筋肉が死んでいるのかと思うほどの無表情は当時の僕たちをまるで睨んでいるように見えた。

 

だからだろうか。彼はよくガラの悪い連中や他校生、はては高校生や大人にまで因縁をつけられることがあった。もちろん彼には非はない。最初は荒事にならないように丁寧な言葉で受け流していた。本人曰く、平和主義者だからケンカはできるだけ買わないし売らないということらしいと後から聞いた。

 

僕らに接点はなかった。ただ、クラスが同じになっただけ。しかも6年生の途中からだ。中途半端な時期の転校生。あまり対人関係のスキルがない僕は話しかけることもできなかった。

 

関係が変わったのは、僕がいじめられている時だ。

許可された場所や資格がないと使ってはいけないとされる個性。

しかし、子どもにとって個性とはこれ以上ないほどの遊び道具だ。そして自分を強く誇示するための看板みたいなものでもあった。

 

だから、攻撃性が高い個性や使い勝手がいい個性を持つ者は必然的に高圧的に、そうでない個性を持つ者は目をそむけるか、高圧的な個性に迎合するか、無個性の僕のようにイジメの対象となるかだった。

 

これが日本の僕の周りだけなのか、それとも世界規模で同じようなことが起きているのかはわからないし、どうでもよかった。

 

ただ、僕はそんな現実を変えたかった。自分がイジメられるのは耐えられた。けれど、目の前で他人がイジメられるのは耐えられなかった。だから、いつも前に出ていた。

 

「こ、こここここれ以上は許さないぞ」

 

震える足、震える手、揺らぐ心。それでも誰かがイジメられているのを見て何もしないのは、僕が目指すヒーローじゃない。

 

その一心で相手に…主に幼馴染であるかっちゃん、爆豪勝己の前に立った。何度も、何度も。

それこそ4歳のころからずっと、だ。

 

でもあのころの僕はわかっていた。世界は平等じゃなく、理不尽でできていると。

 

 

だから、その日もまた殴られると思った。だけど、その想像を吹き飛ばしたのは、一度も話をしていない、目つきの悪い転校生だった。

 

彼は何もいわずに現れ、爆豪を含めた三人をあっさりと倒してしまった。

最初は増強型の個性かと思った。けれど彼は力が強くなったわけでも、速くなったわけでもなく、ただ淡々と向かってくる相手の攻撃を避け、カウンターを食らわせ、あるいはいつの間にか地に投げつけていた。

 

個性が流行する前に流行っていたという武術。あるいは武道といわれるものであることは知っていた。ただそれをここまで高いレベルで、自分と同じ年ごろの人が使うのを見たのは初めてだった。

 

個性を使わずに個性を使う相手に勝つ。

それはつまり、無個性の自分でもヒーローになれるかもしれないという可能性ではないか。

 

 

だから縋った。

外聞などなく泣きすがり、断られた。

何度も、何度も、何度も教えを請うては断られた。

 

そこにあったのはヒーローになれるかもしれないという希望、じゃない。

根底にあったのは誰かに肯定してもらいたいという願い。

 

そんなだから、否定された。

 

「誰かに何かを言われた程度で諦める程度の脆弱さで助けられる者なんか何もない!」

 

 

そうだ。いつだってそうだった。

誰かを助けようとした。けれどそれが為されたことはない。

 

「両手を合わせて、膝を地につけて祈る暇があるなら、一歩でも多く走れ。一回でも多く拳を振れ!」 

 

 

無個性だから、と言い訳をしていた。この身体を言い訳にしてしまっていた。五体満足で動けるように産み、育ててくれた両親がいるのに、両親からもらった身体を言い訳にヒーローになれないと俯いていた。

 

上を見て、周りを気にしないで頑張ろうなんて思っていた。けれど、本当に頑張っていたのだろうか?

 

もう一度、去り行く彼を見た。

かっちゃんを制した右腕は僕の両腕よりも太かった。鞭のように絡みつく指を一本残らず弾いた速度は目で追えなかった。空、頭上という視覚の外からの全体重を乗せた蹴りを見もしないでかわして気づいたら相手がクルクルと回転しながら地面に倒れたのは何をしたのかもわからなかった。

 

もちろん彼にも個性はある。一度使っているのを見た。けれど彼はそれを使わない。使う必要もないほど努力してきたのだ。

 

なのに自分はどうだ。

毎日走っているか?腕や足、身体を鍛えて、何かしらの武術を磨いたりしてきたか?

答えはノーだ。何もしてこなかった。

 

無個性だから、誰にもそうなれると言われなかったから、半ば折れていた。

 

そこを見抜かれていた。だからダメだと言われた。

 

だから変わろう。今だ。たった今から僕は、変わらなくてはならない。

そう、いくら祈っても自分で動かないと夢なんて叶わない。だから歩きだそう。いや走りだすのだ。今ここから緑谷出久は疾走を開始する。しなければ一生あの背中に、そしてそのずっと先のオールマイトのようなヒーローもなんて慣れっこない。

 

 

緑谷出久は4歳にして、無個性という絶望を知り、11歳にしてようやく、決意を固めることができた。

 

 

それが、僕と彼岸 四季との出会いの物語。

 

 

それからいくつかの事件や衝突があって、僕らは友人になった。

共に武術を切磋琢磨し、勉強を教えあい、たまにケンカもする。

 

おそらく、きっと僕の最初の友人。

 

けれど、その背中はまだ遠い。

 

 

 

目の前で四季はマンホールを振り回していた。

重さ100キロ以上あるはずの鉄の塊を片手で振り回し、流動性のある泥をあたる傍から辺りに吹き飛ばしていた。

 

身体が淡く赤い光を宿していることから彼が使った個性は自身の身体能力を高める増強型だ。彼には個性が四つある、という。

 

いや正確には1つの個性が四つの側面を持っているというべきものらしい。

全てを見たことはないが、今使っているのはその中で最も戦闘的な個性だ。

 

相手も抵抗しようとしているが、泥を伸ばしたところを払われ、全体を覆うとすれば、瞬時に後退するか、マンホールを盾に一点突破する。

 

四季が優勢だけど、相手は物理的なダメージはほとんどなさそうだ。また集まれば厄介。

既に警察に連絡を入れた。ヒーローか警察が来るだろうが、到着までは時間がかかるだろう。それまで、四季の個性が持てばいいけど…何か僕にできることはないか。

 

流動体、飛び散った破片は動いているものも動かないものもある。

動くものは元の身体に戻ろうとしている様子だ。なら、今僕がすべきことは、

 

「飛び散った破片を回収して、本体と合流できないようにする、かな」

 

思い立ったらまずは実行。近くにあった自販機の横のごみ箱、そこから中身の空のペットボトルを道路にぶちまけ(もちろん使わなかったら後で元に戻します)、片っ端から相手の身体をボトルに詰め込み始めた。

 

戦っている四季とは比べ物にならない地味な作業。でもできることは何でもやる。

それが少しでもヒーローになるための、僕の決意なのだから。

 

 

 

「さて、大体終わったか」

「そうだね。まだ破片が多いけどもうペットボトルには詰め込めないし」

 

 

およそ3分、といったところだろう。

先ほどまでこちらの何倍もありそうだった敵はもはやバケツ一杯分くらいになるまで小さくなっている。

 

結局俺がマンホールの蓋でそぎ落とし、出久が思いつきでペットボトルに回収してくれたおかげでヴィランは再度集まることもできず、ここまで小さくなったわけだが……こいつこれ以上やったら〇んだりしないかなと思い、今は俺が本体、出久が周囲に飛び散ったコイツのかけらと詰め込んだペットボトルを見ている。

 

後は警察かヒーローに引き渡すだけ、だと思いたいが、なんだろう。

さっきから妙に自分の個性が反応している。

 

目の前のヴィランにではない。けれど近くに、恐ろしいほど強い何かがいる。

それに、自分の個性が震えている。

まさか、こいつの仲間?それともコイツを追ってきたヒーローか、もしくは敵対するヴィラン。

 

「このガキども!絶対許せねぇ!絶対痛い目みせてやる!!」

 

小さくなってマンホールの蓋の下敷きにされたヴィランはまだやる気のようだ。もっとも小さくなりすぎてもうマンホールの蓋から這い出る力もないようだが。まあ、這い出ようとしたら今マンホールに乗せている俺の足が思い切り四股を踏んで潰すが。絵面的には俺のほうがヴィランな気がするが、気にしない。

どのみち警戒が必要だなと思い、気を入れなおした瞬間、その人はきた。

 

 

「もう大丈夫!!私が来た!!ってアレ!!?もう終わってる!?」

 

そんな間の抜けた声とは裏腹に、震えあがるほどの覇気を滾らせ、その人は俺たちの前に現れた。

 

ヒーロー飽和社会ともいわれるほど数多くいるヒーローたちの中で、ずっとトップヒーローを冠し続けた生きた伝説。

 

№1ヒーロー、オールマイト

 

 

 

「いや、すまない。このヴィランを追っていたんだが、まさか私が来る前に退治してくれているとは。」

 

「いえ、こちらも逃げられなさそうだったので個性を使用しましたから。正当防衛、成立でいいですよね」

 

「ああ、もちろんさ。何せ君たちを危険にさらしたのは私の失態!そしてこのヴィランは狡猾で前科も多い。君たちが咎を受けることはないとも」

 

やっばい。何がやばいかというと目の前のオールマイトがやばい。

 

何がヤバいのかというと、その『色彩』だ。

『色彩』とは俺の個性『春夏秋冬』の基礎ともいえる能力だ。

ややこしい個性であるが、簡潔にいえば『人の生命力を視認し、生命力に直接、ないし間接的に干渉できる個性』だ。

 

俺の目には生命が持つ『生きる力』、またはそれに近い『何か』がその人を纏った水のように視えている。体からあふれるようなら健康、ほとんど水がないなら死が近い、といった具合だ。実際はもっといろいろ特徴があるし、近いから水のようといったが、俺自身も言葉で表現できず、あえて言うなら、それが一番近いというだけである。医者からの個性診断において形ないものを形あるものとして認識するために脳が判断した一番わかりやすい表現がそれであり、共感覚に近いものと診断された。

 

まあ生命力の形や認識はその程度だが、色彩は実に多彩だ。出久なら綺麗なエメラルドグリーンで光輝いている。これは出久が心身ともに健康で活力に満ちていることを表している。

 

ではオールマイトはどうか。

これが、ヤバい。何がヤバいのかって、目の前の凄まじい力を感じるナンバーワンヒーローは、俺の目には瀕死の重体のように水がないように視えるのだ。先にも言ったが、水が見えないということはその人の死が近いということだ。

その癖に僅かに残っている色彩は多彩で白、黒、赤、紫、青、黄色と一体どれが本当なのかわからない。しかも僅かな生命力しかないはずなのに、それが持つ力が膨大すぎることがわかる。

 

それこそ今すぐ此処から逃げろと、本能が叫びだそうとするほどにこの人は次元が違う。なのになぜ、そんなに死にそうに見えるのか。

 

そんな俺の疑問を他所に、オールマイトからサインをもらった出久がオールマイトに話しかけていた。

 

「オールマイト一つ、伺ってもいいですか」

 

震える声、ではなかった。

ただ、確かめるように一言一句はっきりとした問いだった。

 

「僕は、無個性です。それでもヒーローを目指しています。無個性でもヒーローになれますか?」

 

それは、いつか聞いた問いだった。

 

「……ヒーローはいつだって命がけだ。私も、誰もかれもが今日死ぬかもしれない。そんな気持ちで生きている。そんな世界に個性なしでなれるとは、私には口にできない。」

 

「…わかりました。」

 

既に、答えが出ている問いだった。

だから出久がどんな反応をするのかもわかっている。

 

「なら僕は、個性なしのヒーローとして、命がけで生きていきます!!」

 

破顔したのが自分でもわかった。表情筋がほとんど死んでると言われる自分でも今の問答は痛快だった。

オールマイトも思わず、といった感じで口を開けて呆けていた。

 

別にオールマイトの言葉を信じなかったわけじゃない。そも出久はオールマイトオタクといえるほど彼に憧れている。その憧れに真っ向から否定された。

 

それでも、まだ、彼の心は折れてはいない。

その心の決まり方があまりに潔くて、眩しい。

 

これが、緑谷出久。 俺が信頼し、尊敬するヒーローの卵だ。

 

 




追加情報  彼岸 四季の個性について

春夏秋冬は四つの複合個性のように見られるが実は一つの個性の別側面である。
本来は『人の命を視認し、干渉できる』ことができる力。

わかりにくいですよね。つまりハンターハンターの念を想像してもらい、それがもう少し水っぽく見える。そしてそれに干渉できる力です。

増強型は『夏』、自身の命を活性化させて生物としての能力を底上げする。
単純な力や速度の上昇だけでなく、体自体の強度や五感も鋭敏になるなど、人としての能力の限界を超えた力を発揮できる状態です。ただしデメリットあり。詳細はまた今度で。

緑谷出久(14)
覚悟はいいか?僕はできてる!と言ってしまえるくらいにヒーローになる覚悟がガンギマリしている原作主人公。強化されているのは肉体だけでなく精神もタフネスです。


さて、次回こそ話を進めましょうかね。

読んでくださる方々、お気に入りしてくださった6人の皆様ありがとうございます。拙い作品でよろしければ次話もよろしくお願いします

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