いつかは終わるヒーローたちのアカデミア   作:Agateram

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昨日、48話を投稿しています。見ていない方はそちらからどうぞ。
また48話前書きにも書きましたが、しばらく更新できなくなるかもしれません。

職場体験編はしばしお待ちください。




第49話 雄英体育祭 終幕

 

 

「これより表彰式を始めます!」

 

祭りの終わりを告げるようにまだ夕暮れだというのに盛大に花火が打ちあがり、観客の歓声があがる。その中でミッドナイト先生は表彰式の開始を告げ、表彰台には雄英体育祭の一年生の部の1位から3位まで、3位は準決勝まで残った2名が同位となるため計4名がそこに並び立っていた。

 

「さぁ早速メダル授与!今年贈呈するのは勿論、この人!」

 

 

私が!メダルを持―「我らがヒーロー!!――オールマイト!!」—ってき、た」

 

遥か上空から回転して、格好良く着地を決めながら登場したナンバーワンヒーローだったが、ミッドナイト先生と台詞が被う。打ち合わせはしっかりしましょうよ。そんな若干ぐだぐだしてしまった空気を感じながらもメダル授与は始まった。

まずは三位、あまりスペースのない席で隣にメンチきっている爆豪とそれに気づいていない焦凍からだ。

 

「まずは轟少年!3位入賞おめでとう。予選、決勝トーナメント戦、特に準決勝は素晴らしい戦いだった。4月に入学したばかりの君とは見違えたよ。いい顔になったね轟少年」

 

その首にかけられるのは銅のメダルだ。彼の狙っていたものではないだろう。けれどどこかすっきりした表情で、焦凍は笑った。

 

「原点を思い出させてくれるバカ野郎がいましたから。でもそいつには借りができる一方なので、いつかまとめて返せるように、努力します」

「いいね!君のプルスウルトラを期待しているぜ」

「ありがとうございますオールマイト」

 

オールマイトは焦凍を大きな体でハグした。あなたの体じゃ焦凍が見えなくなっちゃうでしょう。カメラ構えているエンデヴァーと冬美さんからブーイングがされてますよ。

 

「同じく三位、爆豪少年!おめでとう。……こういうのもなんだが、君はこの表彰台に来ないかと思っていたよ」

「……ああ。俺だってこんな形で表彰されるなんて真っ平だ。けど……まぁここに来られなかった奴らだっている。俺が負けたってのも事実だ。だから、そこから逃げる真似は俺の目指す、アンタより強いヒーローじゃねぇ。そう思っただけだ。」

 

これは、本気で驚いた。何があったのか、あのバカ豪、もとい爆豪があんな台詞をはくとは…。思わず天を見上げ、槍が降ってこないことを確認し、ベタだが自分の頬をつねってみた。

 

痛い。これは、まさか痛みまで再現する幻覚を見せる個性にでもかかったか?

 

そう思って隣、といっても高低差はあるのだが、隣にいる出久に顔を向けると、そちらも鏡合わせのように自分の頬をつねっていた。

お互いの眼が合い、頷く。意思疎通はそれだけで十分だった。

「「誰だお前!!爆豪は絶対そんな殊勝な言葉は言わないぞ!!ヴィランか!!?」」

「ああん!!?いい度胸だクソコンビが!!テメェ等をぶっ飛ばして今から一位とったるわクソが!!」

俺と出久が同時に構えを取ると同時に手のひらから爆音を響かせ、俺たちのよく知るバカ…もとい爆豪に戻る。

「「え?……本物?」」

「よっし。コロす。マジでブッコロス!!」

 

今度は打ち合わせなしでハモる俺たちに割と本気の爆破を行おうとしてあわててオールマイトが止めに入り、爆風を裏拳一発で上空に打ち上げた。凄い技術と化け物染みたパワー。さすがナンバーワンヒーロー。あと爆豪は今までの自分の言動を思い出せ。俺たちの反応も大概アレだが。

 

「全く、君たちは最後まで賑やかだね。まぁこれも青春かHAHAHA!!」

 

そんな俺たちの、割と本気だった偽物疑惑も笑って一蹴する。こういうところも彼のナチュラルボーンヒーローなどと言われる所以なのだろう。

 

そして、未だこちらを威嚇する爆豪もハグと笑顔でおさめてから、こちらに向き合い、俺の前をその大きな体躯が過ぎ去った。

 

「2位入賞、おめでとう、緑谷少年!」

「……ありがとうございますオールマイト」

 

そして2位の出久を祝福し、出久は笑おうとして失敗してしまったような笑みを彼に見せていた。

 

俺はそれを、彼よりも一段高い位置から見ていた。本当の勝利者が2位の銀メダルをかけられている様は似合わないな、などと口が裂けても言えないことを思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「捕まえた!!」

 

その出久の声を聴いた時には既に全身の動きを封じられていた。手足を体ごと黒い触手のようなもので巻かれて固定されたのだ。全力で振りほどこうにも今、この触手、黒いエネルギー体のようなモノを出した出久は今その『個性』を自損覚悟で使って100%を使って締め上げている。

単純な腕力ならば、今の自分はおろか、あのオールマイトさえも超える。

 

そしてその力で拘束され、宙に浮かされたところで待ち構えているのは、大きく振りかぶった個性100%の右ストレート。

 

詰みだ。これは避けられない。

 

強くなった。自分を本気の試合で下すほどに、緑谷出久は強くなった。

 

認めよう。雄英高校1年の『彼岸四季』は緑谷出久に負けた。

 

——ああ、本当にこのままこの拳を受けられたら、どれほど——

 

そんな誘惑に乗ってしまいそうになるくらいには、緑谷出久は強く、この眼に映る彼という生命が放つ色彩は美しかった。

 

——————けれど、まだそれは先の話だ。

 

ヒーローを目指す()()()()()()()()()()()()()()は緑谷出久に負けた。

けれど、『()() ()()』は負けることはない。

 

 

「『彼岸花』」

 

 

呟く。誰にも聞こえないほどに小さく。

 

それだけで、自分の体の動きを一切許さなかった堅牢な黒い触手は崩れ去った。

 

自由になった手足と体。しかしそれはまだ宙に浮いたまま。

 

このままでは出久の100%の拳をまともに受けてしまう。

それも今の自分の体は『夏』の特性である生命力の活性が全くない状態。つまり常人となんら変わらない耐久力しかない。

 

そこにあの拳を受ければ、まぁ間接的に言うとすれば四肢のどれかが原型を留めれば運がいい、とかそういう結果になるだろう。

けれど、その拳はこちらに届く前に急に速度を失い、パン、と軽い音と共に、こちらの手のひらの中に納まった。

それだけで、出久の至高の一撃は終わりをみた。

 

出久の信じられないものを見たように開かれた瞳に映りこむ、自分。

 

———無様だ。本当に。

 

けれど、そんな自分と出久との試合は終わっていない。だから、終わらせた。

 

そっと右の指を出久の額に添えて、それだけで何度打とうと、蹴ろうと立ち上がってきたヒーロー科一年最強の男の意識は閉じた。

 

 

前のめりに倒れてくる出久の体を受け止める、ことはしない。

それは今の俺にはできない。

 

だから、思わず支えてしまいそうになった手を必死にこらえて、その体が地面に倒れ伏すのを見送った。

 

ああ、吐き気がする。

 

本当に、気分が悪い。

 

視界の端には、10万人の観客。10万人の色彩が俺に余計に吐き気を覚えさせた。

 

『個性』を抑えようとしても、簡単に抑えられない。

どうしようもないくらいに頭痛と吐き気がひどくなったところで、いつの間にか側に来ていた主審、ミッドナイト先生の声を聴いた。

 

「試合終了!! 勝者 彼岸 四季!!」

 

 

ミッドナイト先生は出久の脈や状態を確認した後に、こちらに手を向けて勝者の名を告げた。

 

勝者、か。皮肉なものだ。名乗り上げられた名前は偽りの勝者だ。

『彼岸 式』は負けることはない。けれど勝つこともまた、ないというのに。

 

 

 

 

 

 

 

———だからこそ、俺がここで彼に一位のメダルをもらうことは正しくはない。

けれど、出久にはまだ強くなってもらわなくてはならない。だからまだ俺が彼の高い壁としてあり続ける。俺を踏み台にして彼が高く飛べるように。俺が見た死の運命からも逃れるほどに高く飛べるように。

 

 

だから、このメダルは余計なのだ。俺には荷が重すぎる。

このメダルは本来、出久たちのようなヒーローを目指す者がもらっていいものだ。

 

俺のような者が、それも最後の決勝戦であんな個性を使ってしまった俺がもらうべきではない。

しかし、それを声に出すことはできない。俺の個性は一部のものを除いて秘匿されなければならないから。

そんな思考を繰り返しているとオールマイトが俺の前に立つとより歓声は高まった。

 

——俺を称えるようなこの歓声が、私には全て怨嗟の声に聞こえてしまう。

 

——俺を見る羨望の眼差しが、私には全てを射抜く光に見えてしまう。

 

止めてほしい。俺はそんな声をかけてもらえるような、そんな眼で視てもらえるような、ヒーローの卵ではないのだ。

 

この歓声も、オールマイトからメダルを受け取ることも、どれも俺には余計で、俺はヒーローになろうとしただけの——

 

 

「よーーし、そこまでだオールマイト!!」

 

 

そんな俺の視界を、思考を、全てをかっさらうように、白い人影が俺とオールマイトの前に跳びこんできた。

ああ、その姿は良く知っている。

「ミルコ!?どうしたんだい?」

 

ヒーローランキングトップ10に名を連ね、そして()()()()()()()()()()の姿だった。

 

「おう、オールマイト。悪いがここから先、アンタはお役御免だ。こんだけ体育祭を盛り上げて、宣言通りに一位を獲ったんだ。少しぐらいのワガママは通してくれ。——この子にはアタシがメダルを渡す。」

 

そんな荒唐無稽を当然のように言ってのけるあたり、さすがの豪胆さだ。

そして、その義姉の様子と俺を交互に見て、オールマイトも何か感じることがあったのか、すぐにいつも笑顔に戻って彼女が差し出した手にメダルを渡した。

 

「仕方ないな。だがその方が彼岸少年にはいいだろう。任せたよミルコ」

 

「おう、話が早くて助かる。さってと」

 

「ルミ、さん…」

「ほかの誰かに見えんのか?」

「いや、そうじゃないけど……どうして?」

「どうして? そんなこと、決まってんだろうが。」

 

そうしてルミさんは笑った。透き通った、綺麗な笑顔だった。

 

「私は彼岸四季の義姉だ。家族だ。だから、お前を一番褒める権利があるんだよ」

 

そうやって、ルミさんは笑った。

そうやってこの人は、いつだって俺に涙を流させるのだ(私の涙を止めてくれる)

 

「よく頑張ったな四季。これは、ヒーローミルコからじゃねぇ。ただのお前の義姉から可愛い弟への、ご褒美だ」

 

そう言って体を屈めた俺にメダルの紐をかけてそのまま俺の頭を抱きしめた。きっと俺の涙が誰にも見えないように。

 

 

 

 

こうして、俺の最初で最後になる雄英体育祭は終わった。

 

 

 

「いいなぁ彼岸君。ミルコから直接メダル渡してもらって」

「でも、オールマイトの方が嬉しいんじゃない?」

「でも彼岸さんもミルコの時の方がリラックスしているように見えたわ。ねぇ耳郎ちゃん?」

「…………」

「耳郎ちゃん?」

「あっ!?う、うん。ごめん梅雨ちゃん。ちょっとぼーっとしちゃってた」

「大丈夫かしら?さすがに今日は疲れたものね」

「大丈夫。うん…大丈夫」

 

 

————けど、アイツはどっか壊れてる。だから、いつか、必ずそうなる。 

 

……そうなるってどうなるの?

 

————壊れたモンがどうなるかなんて、ガキでも知ってるだろうが。

 

……壊れた物がどうなるかなんて、わかっている。でも壊れた者はどうなるの?

 

 

 

幾人かの心に、懸念を抱えさせたままで、体育祭の幕は降り、

 

 

「インゲニウム、飯田君のお兄さんが、ヴィランに負けた?」

「はい、それで飯田さんは、先ほど早退なさいました。大事なければいいのですが…」

「…心配やね」

「……今は連絡を待つしかねぇ。」

「はい…」

 

 

それでもヴィランは待ってはくれず、

 

 

 

「ああ、幸せそうだなぁ、なぁ……轟 焦凍?」

「何か言ったか?」

「何でもねぇよ。それよりアンタの言う組織のこと、少し考えさせてもらっていいか。義爛さん」

「ああ、まぁお前さんなら、実力的には問題ねぇだろ。気が向いたら連絡くれや()()

 

 

 

次の脅威は、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 

「彼岸 四季か。ハッ、アイツ、なんだってアッチにいるんだろうな。」

「死柄木 弔?彼がどうかしましたか?」

「いや。ああ、でも……先生はギミックだから気にするなって言ってたけど、ちょっと興味が湧いてきた。あのバケモンに。」

 

 

 

 

一つの舞台が終わり、また別の舞台の幕があがる。

ただし、今度行われるのは、命のやり取り、プロヒーローの舞台で。

 

 

 

 







彼岸 四季は常に偽りと共に在る。

彼岸 式は常に終わりと共に在る。


どちらも彼であり、どちらも彼ではない。

ヒガン シキ は、善でも悪でもない。
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