いつかは終わるヒーローたちのアカデミア   作:Agateram

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原作が終章に突入していますね。

原作デク君は精神的に疲弊しておりますが、こちらの出久君はそんなことはありません。たぶん!




第51話 次代の希望

 

 

~~side緑谷~~

 

 

「ここは……」

 

自分が今立っているのは草木が一本もない荒野。

正に枯れ果てたという表現が適切な大地が視界の全てに広がっている。

空は黒い雲に覆われ陽の光はなく、僕が見えている範囲は100mほど先まででそこから先はまるで何もないかのように黒く塗りつぶされている。

 

いや、これはおかしい。

段々と暗くなっているのではなく、黒い壁がそこにある、あるいは世界がこの半径100m程度の円の中しかないような、そんな世界は現実にはまず存在しない。

 

そもそも僕は明日からの職場実習に備えて眠りについていたはずだ。

 

ならばこれは、夢の中か。

それにしては鮮明すぎる。大地の感触も脚にかかる自身の重みも……いや、なんだこの体。両足と利き腕はある。だが左腕と胴体が半分以上黒い霧のようなモノで覆われている。感覚はあるのに、動かせないしそこだけ何も感じない。この状態は明らかに異常だ。

 

「これは……まさか」

 

知っている。似ている。

この感覚、この景色は、そうだ。黒鞭や浮遊を使えるようになる前と同じ。

 

『凄いな。まだ継承して僅か3ヶ月足らず。それなのに既に体が個性に順応し始めている』

 

不意に聞こえた声に振り返ると、そこに彼らがいた。

 

間違えようもない。例え半分がまだ黒いモヤに隠れていようとも、間違えるはずもない。

 

OFA(ワンフォーオール)の先代方、ですね」

 

僕の問いに、8人の先頭に立っていた白髪で目元が見えない青年は嬉しそうに口元を綻ばせた。

 

『そうだよ。全員揃って話すのは初めてかな。僕が初代OFA(ワンフォーオール)所有者。改めてはじめましてだ。9代目……いやロンゴミニアド、の方がいいかな』

 

「ヒーロー名でも緑谷でも出久でも構いません。全て僕ですから。はじめまして初代……お名前を伺ってもよろしいですか?」

 

『それではロンゴミニアドと。それと名前だけれど…ごめんね。僕は話すことはできない。僕は……巨悪の弟だからね』

 

「巨悪……USJ襲撃の時に最後にオールマイトと相対した男ですね」

 

まだ耳に残っている。あの日、USJで脳無を倒し、四季が死柄木弔を蹴り倒そうとした時に黒い霧の向こうから聞こえた、命を何とも思っていないような軽さにタールを煮詰めたような黒く粘りつくような響きを持つ声。

 

人の悪意が黒い霧の向こうに確かにいた。

 

『そうだ。もう僕らが、OFA(ワンフォーオール)が何と戦ってきたのかは聞いたね。その始まりの話、どうやってこの個性が出来たのかも、何のためにあるのかも。そして、僕があの男の弟であることも。』

 

「はい。先日オールマイトから知っていることは全て聞きました」

 

体育祭が終わった次の日、オールマイトは夜の浜辺で全てを話してくれた。

この個性の原点、対峙する巨悪、自身の師匠の死、がむしゃらに駆け抜けてきた日々と戦いの記憶、そして平和の象徴として立ち、巨悪を打ち砕いた6年前の決戦のことも。

 

同時に知ることになった。その巨悪が滅びておらず、ヴィラン連合という組織の裏にいるということも。それを自分が討ち果たすあの人の覚悟も。

 

「オールマイトは、師匠は自分で奴と…オールフォーワンと決着をつけるようです。けれど、それは、きっと違う。」

 

だってそうだろう。オールマイトは既に戦った。戦ってきた。オールフォーワンだけではない。彼は数多のヴィランと、人知が及ばぬ天災と、そして敵とすらいえない世論とすら戦い続け、平和の時代を築き上げた、平和の象徴。

 

それが、どれほどの偉業か、彼が作ってくれた時代に生きた自分には想像もできない。

 

彼がいたからこそ、多くの命が救われた。直接的にも、間接的にも、彼が救った命がどれほどなのか測ることもできないだろう。

 

「あの人は十分に戦った。もう十分過ぎるほどに戦った。」

 

そう、だから

 

「だから、次は僕が、行く!」

 

握りしめた拳に力を込めて言い放った。

 

『……一応言っておくけれど、君がもらったこの個性は祝福じゃない。呪いだ。既に特異点は過ぎ去った。君がこの個性を持ち、あの男がこの世界に存在するかぎり、君の人生は地獄のようなものになる。』

 

初代が、5代目が、7代目が、未だ影に隠れて人型としてしかわからない他の全ての先人たちが、オールマイトのような影すらも僕に視線を向けているのが分かった。

 

『この先は悪鬼羅刹すらも恐れる地獄だ。それでも行くか?』

 

まだ名も知らない、逆立った金髪に鋭い視線の先代が問うてくる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『この先に後戻りはない。そして希望すらもないかもしれないよ』

 

七代目、志村奈々さんが心配そうに言ってくる。

 

「未来はそれまでの過去の積み重ねの結果だ。今を必死に積み重ねれば変えられる。」

 

 

 

『————君は、英雄にはなれない。それでも、行くか』

 

 

 

初代が確認するように声をかけてくる。

わかっている。これは最後通告だ。

超常黎明期、混乱と混沌が支配した時代に生きた全ての先人たちがそう言うのだ。

ここから先は地獄であり、後戻りの道はなく、僕は英雄にはなれないのだろう。

 

ああ、少しだけ懐かしい。昔も似たようなこと言われた。

 

それでも、もう決めているんだ。

 

 

 

「行きます。そう生きると僕が決めた時から、道は一つだ。」

 

 

 

 

そう、道は一つだ。例え個性がなくとも、誰に何も言われようとも、例えそれが他の誰にもヒーローと呼ばれなくとも、僕は僕が思い描いたヒーローになる。それは、それだけはもう変わらない。

 

『ああ……君で良かった。僕は、僕たちは君と行こう。』

 

その言葉と同時に意識が薄れていく感覚がある。

わかる。この夢から、この世界から離れるのだ。

しかし、これは夢であってもただの夢ではない。薄れゆく意識の中で、初代が、他の先代継承者たちが掌をこちらに向け、笑みを浮かべた姿を最後にしかとこの眼に焼き付けた。

 

そう、次は僕だ。

 

僕が、今の時代を、そして次の世代を守るヒーローになる。

 

 

そうして僕は夢から目覚めた。

 

思わず布団を吹き飛ばすように上半身を起き上がらせて開けた視界に映るのは見慣れた自分の部屋だ。

筋トレをするためのベンチや用具類、幼い日に壁に貼り付けたオールマイトのポスター、パソコンデスクに横に添えつけられた書棚。それだけしかない自分の部屋だ。

 

「夢……いやあれは『個性』が見せた現実」

 

口に出して確認する。間違いなくこの個性の中に先代継承者たちはいる。『黒鞭』と『浮遊』の個性がそれを証明している。だからこそ、先ほどの夢もまた現実と変わりない事実だ。

 

決意を新たにして、僕は出発の準備を行い手早く朝食をとって家を出た。時間にはまだ余裕はあるが、今日から職場体験だ。つまりは雄英高校に行くわけではないのだ。長旅になるので不慮の事態に備えて早めに現地に到着しておかなければ。

 

「っと、しまった。母さん。行ってきます」

 

玄関からそれだけ言って改めて駆け足気味に家を出た。

もちろん、行ってらっしゃいの言葉は聞こえなかった。

 

聴いている暇もないのだ。

 

この道を行くと決めたのだから。

 

 

 

 

~~side 轟 焦凍~~

 

「それで、話ってのはなんだ親父。それに母さんまで」

 

明日から職場体験のため1週間ほどは事務所での寝泊まりとなる。その準備を行い早めに就寝しようとしていた時に親父は家に帰ってきた。それも母さんを伴ってだ。

二人だけじゃない。姉さんも夏兄も一緒に全員そろって居間で話を聞くことになった。

 

何の話かはわからないが、ただの世間話ではないだろう。少しだけ重い空気の中、まずは親父が口を開く。

 

「話というのは、焦凍、お前の友人であり、この家族の恩人であり……そしてかつて罪人でもあったあの男…彼岸シキについてだ。」

 

そんな爆弾発言を、俺の眼を見て言い切った。

 

「罪人…だと?四季が?」

 

「そうだ。彼の名誉のために言っておくが、これは彼の罪とは言えん。時代が、彼を求めたとでも言うべきなのだろう。」

 

そうして聞かされたのは、身の毛がよだつような、人という種の成れの果ての物語。

人の善性、人の望み、人の救い、その全ての思いの欠片を束ねた末。

かつて彼岸四季が経験した、アイツの半生だった。

 

「…何故、こんな話をした」

 

話し終えた後に俺が口にできたのはそれくらいだった。

兄や姉も詳しいアイツの経緯までは知らなかったようで絶句したままだ。

 

ただ母さんだけは知っていたようで、涙をあふれさせながらも粛々と話を聞いていた。

 

「お前が、彼を友と言ったからだ。」

 

そして全てを話した親父は見たことがないほどに真っすぐな眼をしてこちらに言葉を放ってきた。

 

「彼にも友人はいる。緑谷君のような友人がな。だが、体育祭を見た限り、そして俺が知っている限りではあるが、彼はあまりにもヒーロー的だ。正義の味方、といってもいいかもしれん。」

 

無論、それが悪いわけじゃない。と前置きをおいて、

 

「だが、正義だけでは救えない者もいる。正義では救えない、救うというその前提からして違う者すらいる。そして彼はそういう類の人間だ。そんな彼の傍にいるのであれば、友人でありたいと思うのであれば、知っておく必要があった。」

 

親父のそれはヒーローとしての眼じゃない。わかっていた。わかってしまった。その眼はただただこちらを心配する、父親の眼だった。

 

「ありがとう親父。でも大丈夫だ。」

 

衝撃的だったのは事実だ。予想よりもこの世界が醜いということもわかってしまった。

たかが15の小僧が背負うにはあまりに重い事実だ。それでも、

 

『俺にお前は救えない。だけどガキの癇癪にくらいには全力で付き合ってやる。』

 

そう言いながら、ヒーローでないと言いながら、それでも俺を、家族を助けてくれたあの男の顛末を黙って見ていられるほどに俺は達観してもいなければ、傍観できるほどに人を捨てちゃいない。

 

「俺にアイツは救えないかもしれない。けど、ガキの癇癪にくらい付き合うさ。」

 

そう言った俺に家族みんなが驚いたように視線を向ける。俺は少しだけそれが可笑しくて、そして俺の脳裏に頼もしい奴が、信頼できる連中が笑顔を向けていた。

 

「それにな親父。俺に救えなくても、俺たちなら救えるかもしれねぇ。」

 

運命なんて、鼻で笑って蹴とばしてやる。俺が、俺たちがそうさせる。

 

きっとまだ、未来は白紙だ。

 

 

 

 

 

~~side どこかの二人~~

 

 

「一度、アンタと話してみたかったんだ」

 

「生憎と俺はお前と話したいことなんてないな」

 

「つれないな。けど、そりゃそうだ。なんせまだ会うのは二回目だしな」

 

ケラケラと心底楽しそうに笑う男がいた。

苛立ちを隠しきれない様子の男がいた。

 

そんな二人が一つのベンチに腰掛けて、互いを視ずに、しかし確かに話をしている光景は奇妙ではあるが、周囲の人々はそんな些細なことに気を留めることもなく通り過ぎていく。

 

「まぁぐだぐだ言うのは苦手だからさっさと話すか。アンタさ、こっちに来ないか?」

「寝言を寝ないで言っている奴を見るのは初めてだな」

「即答だなオイ。予想通りで何よりだ」

 

だけど、と前置きして

 

「アンタ、この光景がどう見えてる?」

「……一言でいうなら平和、だろう。面白い回答を期待するなよ。俺にそんなセンスを求められても困るし、お前を楽しませるつもりもない。」

「いや、十分楽しいぜ。なんせ、アンタこの平和ってのが好きじゃないだろう?」

 

少しだけ、苛立っていた男の肩が震えた。それは怒りか、それとも他の何かか。

 

「俺にもこの光景は平和に見えるぜ?平和、平和、平和、結構なことだ。どいつもこいつも自分の人生に疑問なんてないように何事もなく生きている。今日の飯の心配をしなくていい。雨風を凌ぐ場所を探さなくていい。」

 

一息ついて、初めて笑っていた男は隣の男を見て言った。

 

「今にも終わりそうな命の心配をしないでいい。平和ってすげぇよな。自分が死ぬことすら死ぬ前になるまで忘れられるんだぜ?」

 

「……大概の人間はそうだ。死ぬことを考えて生きる奴なんていない」

 

「じゃあアンタはその大概から外れているってことだ。」

 

「何が言いたい」

 

「ああ、そうだな。俺らしくもなく回りくどくなっちまった。結局聞きたいことは一つなんだ。」

 

——アンタさ、こっち側の方が楽なんじゃないか?

 

「……お前が何を言っているのか一つもわからない」

 

「おいおい嘘をつくなよ。ヴィランってのは奪う者だ。金を、尊厳を、時間を、権利を、命を、相手の幸せな何かを奪って自分が幸せになりたいって奴らだ。アンタ、誰かにいつも何かを与えているみたいだけど、奪っている時の方がずっと生き生きとしてたぜ?」

 

「黙れ」

 

初めて笑っていない男が見せる表情は、怒りではない。敵意でもない。

 

「殺すぞ死柄木 弔」

 

ただただ純粋な、殺意。

 

「ああ、そうなったら敵わない。ここらでお暇するぜ。」

 

言葉と同時に二人の間に黒い霞が現れ、死柄木の体を包んでいく。

 

「約束通り、捕らえていた民間人は返すよ。約束は守る方なんでな」

 

消えていく死柄木と反対から出てくるのは二人の男女。それをもう一人の男が両手を受け止める。息はある。外傷もないことを確認する。

別に受けとめた男からすれば何の関係もない二人であるが、いつでも殺せるように目の前で攫われた。それだけで男は相手の言うことを聴かねばならなかった。

 

何故なら、それがヒーローだから。

 

「窮屈だろ、ソレ」

 

そしてヴィランは、死柄木 弔は相手の男を心底楽しそうに笑って言い残す。

 

「捨てたら来いよ、彼岸 シキ?」

 

 

それをただ聴きながら、そこに立つことしかできない男は、どこまでも感情のない瞳で既に誰もいなくなった場所を見ていた。

 

彼岸四季の職場体験、激動の最終日の始まりにして他の雄英一年生たちの職場体験初日の一幕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





補足として、オリ主である彼岸は飯田君の兄を治すために一足早く職場体験に入っているため他の一年生よりも早く職場体験を終わります。原作と日程が違う、など矛盾はありますが、オリ設定ということでお願いします。

なお次回からオリ展開がまた徐々に増えていきます。ご了承ください。
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