いつかは終わるヒーローたちのアカデミア 作:Agateram
今回はオリ主とミルコの職場体験の全国行脚の予定でしたが、まとまりが悪くなったため、みんなの職場体験出発編となりました。
オリ主の職場体験はダイジェスト形式でお送りする予定です。
なお、タイトルは誤字ではありません。
row様、誤字報告ありがとうございます。
職場体験初日、僕たちヒーロー科1年A組はほぼ全員がそれぞれの職場体験に赴くために雄英高校の近隣にある駅に集合していた。
その手には各々の荷物、そしてヒーローコスチュームが入ったバックが握られていた。コレを着て職場体験に臨むということは外部の人々からはヒーローとして見られるということ。先日のヒーロー名を決めたことも含めて皆の顔立ちもいつもより引き締まって見えた。
「それではこれより職場体験を実施する。体験とはいえ、ヒーローを志す者として恥ずかしくない行動を取ること。そしてくれぐれも先方に失礼のないように。わかっているな?」
「「「「「はい」」」」」」
「ふむ…気合が入っているのはいいが、軽々に個性を使用するなよ。個性の使用は原則として禁止している。彼岸の場合はあくまで特別措置であることを忘れるな。お前たちはまだ卵だ。いいか、今回の目的はあくまで体験だ。それを忘れるな」
些か気合が入りすぎていたのを見通したのか、相澤先生から言われて幾人かは知らず張っていた肩ひじを下した。四季が意識不明であったインゲニウムを個性で治療したという話からまだ1週間、知らず知らずのうちに気負っていた者も多かったのだろう。
もちろん人のことは言えないのだけれど。
そうしてみんながそれぞれの職場に出発する。
焦凍くん(ヒーロー名 ショート)はヒーローとしての姿を学ぶために№2ヒーローであり、自身の親でもあるエンデヴァーのところへ。また八百万さん(ヒーロー名 クリエティ)もエンデヴァーから指名が来ていたため、そちらに行くらしい。正直後者は意外ではあったが、彼女が体育祭で焦凍くん相手に善戦していた。その結果と彼女の個性の万能性を鑑みれば指名が来てもおかしくはないかもしれない。
その他にも常闇君(ヒーロー名 ツクヨミ)は10代でヒーローランキングトップ10入りを果たした速すぎる男と呼ばれる№3ヒーロー、ホークスの事務所に指名が来ていた。彼は体育祭で決勝トーナメントにこそ出場できなかったがその『個性』の有用性、発展性はA組でも指折りだ。しかし体育祭で結果を出せなかったのは事実。今回の職場体験で上位陣との差を埋める何かを得るために目を鋭くして気合いが入っているようだった。
他にも有名なヒーローに指名された人達もいる。
勝己(ヒーロー名 不明…爆殺王などしか言わなかったため決まっていない)は№4ヒーロー、ベストジーニストの事務所に行くらしい。
ベストジーニストはファッションが有名になりがちだが、その実はヒーローとしての在り方に対して紳士かつ厳格な、正に折り目正しいヒーローだ。正直なところ、勝己に合うとは思えないが…何かしら思うところがあるのかもしれない。
そういえばB組の拳藤さん(ヒーロー名 バトルフィスト)もベストジーニストの事務所だ。体育祭からやや周囲への態度が軟化したとはいえ、勝己の粗暴な言動が矯正されたわけではない。迷惑をかけるかもしれないので一応勝己の昔馴染みとして先日彼女には挨拶に行った際には彼女は笑って『あいつなら大丈夫。私に任せておいて』と男前な発言をしていた。まぁベストジーニストほどの実力者なら何かあっても大丈夫だろうし、体育祭で勝己とチームプレイをした彼女がいれば何とかなるだろう。あるいはそういうところまで見て二人を指名したのかな?
しかしこうして考えると凄いことだ。なんせ半年前の自分たちでは手が届かない、テレビの中にいたトップヒーローの元で学べる機会を得たのだから。雄英体育祭はお祭り、悪い言い方をすれば見世物のような意味合いもあるが、こうしてトップクラスのヒーロー達から指名をもらえているという点では確かに意味あるものだったのだろう。
ただそんな機会に恵まれておきながら、別の事務所を選んだ人もいる。
その際たる人は、飯田君(ヒーロー名 インゲニウム・セカンド)だ。
他のクラスメイトやB組の人達も自分の個性にあった事務所か、或いは麗日さん(ヒーロー名 ウラビティ)のように自分に足りない近接戦闘の技術を学ぶといった明確な目的があって事務所を選んでいる。
けれど彼が選んだのはノーマルヒーロー マニュアルの事務所だ。
マニュアル事務所がヒーローとして悪いというわけではない。むしろヒーロービルボードチャートでも300位前後に名前を連ねる優秀なヒーローだ。その名も『多くのヒーローの規範となる』という立派なものだと聞く。しかし飯田君には300以上の指名が来ていた。その中には更に上位の事務所やそれこそ彼の兄であるインゲニウムが率いる事務所『チーム韋駄天』からの誘いもあった。確かにインゲニウムこそまだ入院中だけれど、彼のスピードについていける優秀なサイドキックたちがいる事務所だ。確実に自分の実力を伸ばすノウハウもあるため自分を育てるための環境としてはそちらが良かったはずだ。けれどそれをそこからマニュアルを指名した理由は、おそらくは一つ。
だから僕は飯田君に声をかけようとして
「「飯田(くん)!」」
同時に彼に声をかけた焦凍くんと声が重なった。お互いに目を見合わせ、言いたいことは同じかと目線で確かめ合ってから再度飯田君に声をかけた。
「飯田君、僕たちはまだヒーローの卵だ。無理はしちゃダメだよ」
「なんかあれば連絡をくれ。実習先が離れているから駆けつけることは出来ねぇがヒーローたちのネットワークを通じて何かできるかもしれねぇ」
「………そうか、そうだな。すまない二人とも。大丈夫だ。俺は兄が不在の保須市を守るためにマニュアルさんのところに行く。それだけだから。」
「それだけなら、韋駄天で良かったはずだろ」
「っ………兄を欠いて大変な事務所にヒーロー科の職場体験で負担などかけたくはないだけだ。」
「……もう一度言うよ飯田君。無理はしないでほしい。」
「…ああ。ありがとう二人とも。」
そう言って歩いていく後ろ姿を僕と焦凍君は言い知れぬ不安を抱えたまま見送った。
そうする間に常闇君も勝己も、他の皆もそれぞれ出発し、残されたのは出発時間が一番遅い僕、麗日さん、焦凍君、八百万さん、それに出発時間がない耳郎さんだった。
「耳郎、先方から何か連絡はあったか?」
「…連絡はないです。場所と時間はここで問題ないって話だったんですけど…」
先ほどからしきりに視線を周囲に向けていた耳郎さん(ヒーロー名 イヤホンジャック)は手元の携帯端末を見てため息を吐くように先生に返した。
彼女は今日からラビットヒーロー、ミルコのところで職場体験の予定なのだが、ヒーローミルコは固定した事務所を持たない。連絡先はあるが、基本的にこの国を東奔西走しながらヴィランを倒していくという何とも自由奔放なヒーローなのだ。だからこそ彼女は待ち合わせ場所がこの駅ということだけしか知らない。
肝心の待ち合わせ時間はすでに30分以上過ぎている。
「緑谷、お前からミルコに連絡取れないのか?」
「連絡はしたけど返信がない。メッセージに既読もつかない。けれどルミさん…ラビットヒーローミルコがヒーロー専用回線で繋いである携帯端末の音や振動を察知しないなんてことはないよ」
そう、ミルコは耳郎さん同様、あるいはそれ以上に耳が良い。彼女が自身の身に着けているものの音すら拾えないなんてことはありえない。
ならば考えられるのは……彼女の性格を考えれば2つ。1つは、
「何らかの事件に遭遇した、あるいは対処中ということでしょうか。それもトップクラスのヒーローが連絡も返せないくらいに火急な案件、かもしれませんわね」
僕の考えを代弁するかのように八百万さんが呟く。おそらくは皆はその選択肢しか思いつかなかったのか、一様に顔を曇らせた。
「……場合によっては職場体験は延期か、あるいは中止もある。その時は雄英から別の課題を出す。」
相澤先生の言葉に耳郎さんの表情は更に曇る。それはきっと職場体験とは別のことを考えているのだろう。ミルコが事件に遭遇しているということは、四季もまた事件の渦中にいるということだから。
「心配しないで耳郎さん。四季は強い。もちろんミルコはそれ以上に。だから大丈夫」
「ホントに?」
「え?」
「ホントに、大丈夫だって言えんの?だってアイツいつも無茶ばかりしてるじゃん」
「……よく見てるね耳郎さん。」
「見てるのは緑谷と変わらないよ。ウチは、聴いてるの。」
「きいている?」
「呼吸、心音、内臓や骨の軋む声、血流、人が出す音は嘘をつけないものもあるの。四季って表情を隠すのは上手いけど、感情には結構波がある。それを音で拾ってる。そうしないとアイツ無茶ばかりやらかして………壊れてしまいそうだから。」
「まぁ、それが四季だからね。でもそっか。ちょっと安心した」
本当によく視てくれてる。そこは安心、だけど……耳郎さんて、結構愛が重いタイプ?まぁ四季にはそれでも足りないくらいだけど、重石にはなるのかな。
「安心したって、何が?」
「何でもないよ。それより耳郎さん、周りに注意」
「え?なに…か」
彼女が振り返った先にあったのきっと白。そしてそこから伸びる日焼けしたような肌と勝気な心情を隠す気もない表情と、ピンと天を突くように立った白い耳。間違えようもない。
「やっぱりお前耳が良いな。慣れない指名をしてみて正解だったか」
耳郎さんの職場体験先にして、四季の義姉、ラビットヒーローミルコが音もなくその場所に立っていた。
「遅れて悪かったな耳郎響香。ちょっと今朝いろいろあってその処理に手間取ってた。だから遅れることはわかってたんだが…ついでにアンタをテストさせてもらった。」
「え?」
まぁ、こういう突拍子もないことを平然とやるのも、ヒーローミルコの特徴で、先ほど僕が考えた可能性の一つである。
「おはようございますルミさん。いえ、ヒーローミルコ。それでテストはいかがですか?」
「おう出久。相変わらず礼儀正しい奴だな。テスト結果はもちろん決まってるだろ」
ビシっと擬音が付きそうなほどに高々と親指を天に向けて満面の笑みを浮かべて、
「せっかくいい耳持ってんのにアタシが近づくことに気づけなかった。つまり不合格だ。」
悪びれることなくそういい放つ様子はテレビで見たままのヒーローミルコ。天真爛漫にして、天衣無縫。己の心のままに進み、そしてヒーローへと至ったのが彼女だと僕は思っている。
「え!?ちょ、ということはウチ、職場体験中止、ですか?」
「ああ?何言ってんだ。
そして、その心が常にたくさんの人を笑顔にするために向けられているのが、彼女のヒーロー足る所以だ。
「だいたい最初っから合格してんなら、アタシのところで職場体験する意味なんてねぇ。ようこそ、ヒーローミルコの職場体験へ!死ぬほど鍛えてやるから全力でついてこいイヤホンジャック」
「は、はい!」
勝気な笑みを浮かべてヒーローは卵を出迎えた。
「嵐のような人やったね…」
「……まぁ何もなかったのならそれが一番ですわ」
「いや、何かはあったんだろう?」
「そうだね。テストも本気だっただろうけど、その前にトラブルはあったはずだよ。だって四季が来てなかった。」
何かしらのトラブルがあったとみるべきだろう。つまりはさっき僕が考えた可能性は二つとも正解が正しい答えなのだろう。一緒に来なかったということは四季はまだその案件にかかっているか先に現地に行かせている、というところだろうか。
「とりあえず、みんな職場体験できそうで良かった、でいいのかな」
「いいと思うよ。まぁどこも一筋縄ではいかないものになりそうだけどね。麗日さんも頑張ってきて。近接戦闘は一朝一夕ですぐに上がるものじゃないけど、プロの指導は実になるよ。ほら、僕や四季がそうだしね」
「うん!ありがと緑谷君」
「焦凍くん、八百万さんも気を付けて。」
「お前もな出久。」「お気をつけて緑谷さん」
残る三人に声をかけた後、僕も自分が実習する場所に行くために新幹線に乗り込んだ。
僕の実習先のヒーローはグラントリノ。
他にも多くの指名をもらっていたが、ここに決めた大きな理由はグラントリノというヒーローが実はオールマイトが学生時代に指導を受け、オールマイトの師匠の相棒を担っていたという理由からだった。
残念ながら最近は目立ったヒーロー活動をしていないのか、僕が調べられる範囲では彼の情報が見つからなかった。
オールマイトからは大変厳しい指導を受けたがおかげで実践に近い訓練ができたこと、そしてオールマイトの師匠、つまり七代目の『浮遊』の個性とバディを組めるほどに空中戦に長けた個性を持っていることを聴いている。
今の僕に必要なのはOFAの超パワーを使いこなすことだけではない。自分の戦闘技術を他の個性と結び付け、新たな戦闘スタイルを確立することが最優先事項だ。パワーは一朝一夕で見に付くものではない。技術もまた然り。しかし技術を磨くためには一つ効率的なやり方がある。それは、先人の教唆を受けて訓練することだ。
その点、グラントリノは七代目の戦い方を知っている元相棒。浮遊と超パワーの組み合わせの戦闘方法を理解しており、それに対応した動きができていたということだ。断らない理由はなかった。
そうして意気揚々とグラントリノの自宅兼事務所、というにはあまりに古ぼけた、廃墟やスラムの様相を見せる建物の前に到着したはいいが、ノックをしようが誰も出てこず、連絡先として教えられた電話を掛けるがつながらない。仕方なくドアノブを試しに回してみるとドアが開き、
「っ!大丈夫ですか!?」
その先には床に赤い液体をまき散らして横たわる老人がいた。
反射的に踏み込み、しかし床に水たまりのように溢れたはずの血から匂いがないことに気づき、足を止めて同時に両手を持ち上げた瞬間、衝撃が頭蓋に響いた。
「ほぉ!この奇襲を防ぐか。やるじゃないの」
確かに頭に衝撃はあったが、とっさに上げた腕は目の前の老人が跳ね上がると同時に繰り出してきた蹴り足の直撃を防ぎ、体に染み込まれた条件反射で老人の眼前まで拳を突き出していた。
その拳を止められたのは先ほどの襲撃に敵意や殺意といったものを感じることがなかったからだ。
そして一連の行動の鋭さとオールマイトに聞いていた容姿、『個性』から目の前の相手が誰かもわかった。
「はじめましてグラントリノ、でよろしかったでしょうか?」
「ああ。俺がグラントリノだ。それで、君は誰だ?」
「僕は
「即答!なかなか肝が据わった後継者だ。こりゃすぐに実戦に入っても問題なさそうだな」
愉快そうに笑う古豪のヒーロー グラントリノ。彼の下での職場体験という名の訓練はこうして始まった。
しかし、その時はまだ知らなかった。この時、別の場所で彼等に起きていた事件のことを。
~~同刻、保栖市~~
分厚い雨雲で太陽光が遮られた暗い路地裏で、青い太陽が大地を燃やし、空を焼いていた。
「テメェを焼き殺してやれば、アイツ等の愉快な面が拝めるだろうなぁ」
「アイツ等ってのがどこの誰のことかわからないが……アンタじゃ無理だ」
相対するのは赤い鬼。迫りくる青い炎を腕に一振りで引き裂き、蹴り一つで空を割く暴君。
「ぶっ殺してやるよ彼岸四季」
「そういうことは、殺した後に言うんだよ三下」
炎、点火。
本作は轟家には優しい仕様に………たぶんなっています。
ちなみに本編が何となくどんな終わりになるのか、考察されている方の中で「あっ自分の小説の結末そのままやん」と思った内容があったので先に書いておきますが、
・原作の雄英1年では爆豪、轟、緑谷については実は既に結末が決まっています。
・原作でいるかもしれないという内通者については、生徒の中にいるという前提で書いております。
この件につきましては、全容が明らかになる前にはタグに注意書きを書く予定ですので、ご了承ください。
ちなみに、麗日さんが緑谷くん呼びなのは仕様です。原作と違い、『デク』呼びはなくなってますので、あだ名で呼んでません。下の名前で呼ぶほどにはまだ親密でもありません。