いつかは終わるヒーローたちのアカデミア 作:Agateram
今回はやや鬱々しい場面があります。苦手な方はご注意ください。
轟家には優しい設定ですが、その他も幸福であるとは限らないのです。
Side 近く 遠い しかし 確かに来る未来
ああ、またこの夢だ。
視たくもない光景を、何度も見せられている。
彼岸四季が個性と呼ぶ能力の一つ、あるいは全ての能力の源泉に近い
ナニカ が
俺に、
僕に、
幾度も幾度もこの光景を見せてくる。
彼岸四季は自身の『個性』で多くのことを為し得る。
他人は四季の『個性』にいつも驚き、問うてくる。
何故、人を性質を『色彩』として認識するのか。
何故、身体能力を強化できるのか。
何故、物体を創造可能なのか。
何故、他人の傷を塞ぎ、死の間際から救い上げられるのか。
何故、余人の遠い未来の
全てが、本当は彼岸四季こそが教えてほしい問いだ。
そして、何故それだけの多様性を持つ個性をもってしても、その
彼岸四季は己の『個性』を本当は理解なんてできていない。
ただ、結果を得て、過程を考察し、原因を突き詰めて、己の個性は『生命力に干渉をすることができる能力を持つ』という結論に至っただけに過ぎない。
生命力とは、命を生かすための力。
命を繋ぐための存在エネルギー。
だからこそ現在を生きるために其処に在る力を認識することで、数多の結果を成し得る能力。
その副作用として、その生命を形作った軌跡を知ってしまうために過去を視る。
そして、過去が成形した現在が織り成す紋様を視ることで、いつか辿る未来を知ってしまう。
ここまでは、理解できる。
過去は変えられない。今は過去の積み重ねで出来ている。未来とは今を積み重ねた先にできる。
当然のことだ。それを少しだけ視点を変えて視ることができるだけ、ならば悩みはしなかった。
彼岸四季は、一度折れてしまった男だ。全てを投げ出した男だ。逃げ出した男なのだ。
そうなってしまったのは、懊悩し、慟哭し、自暴自棄になり果ててしまったのは、彼が視えた未来が今をどのように変えようとしても、どんなに努力しても、どうしようもなく訪れてしまうものであったからだ。
人間の意志に関わらず、人の行動によって揺らがず、必ずその身にめぐって来る事象。
———運命。
それは、決して誰かに定められたものではないはず。あるはずがない。そう信じていた。そう信じて行動してきたはずだった。
けれど違った。運命は確かに在り、それは人が抗えるモノでは決してない。
それが、彼岸四季が自身の『個性』によって得た結論だ。
そしてその結論が、覆ることはなかった。
たった一つ、たった一人の例外を除いて。
そして、だからこそ、己が知りえる絶対の運命をたった一度だけ打ち消した、
だからこそ、もう一度だけ、今度は自分の手でその結末を変えたいと願い、足掻いている。
だが、それでも視える未来が変えることはなく、何度でも、その結末を、夢にさえ見せてくる。
夢の中で、限りなく遠い、しかし必ず来る未来の中で、それは必ず姿を現す。
彼岸四季の見た希望。必ず訪れるはずだった運命を違えた世界でただ一つの奇跡、緑谷出久が想い半ばで息絶えるその瞬間を。
少年は構える。
右足を一歩前へ。身体を開き、腰を落とし、膝を曲げ、右手を前へ突き出し、左腕を引き絞った。
今からその左拳を前に打ち出すためだけの技巧もない、必然だけが伝える体の備え。
そんな原初の、武とも呼べない、けれど闘争のための拙い構えをした少年は、おそらくはそれくらいしか出来ないくらいに満身創痍だった。そこに、少年の終わりがやってくる。
焔が、彼方からそこへうねりを上げた。
雷が、天から下に降るのではなく横へと奔った。
巨石が、その質量と速度を全て破壊のエネルギーに変えて飛びこんできていた。
波頭が逃げ場を無くし、重りが動きを止めさせ、風の渦が息を許さず、形容しがたき何かの顎が、貫くためにあるような鋭い爪が、人の悪意の先端にあるような刃が、全てが一切合切を滅ぼす爆発的な勢いを持って、視界を埋め尽くし、少年を襲った。
これほどに明確な死はそうそうあるまい。
どれか一つでも必死だ。それが数えるのも億劫なほどに殺到する状況で、相対する少年はいつも持つはずの槍もなく、その身一つだけ。
「■■■■■■■■■■■■■■っ!! ALL FOR ONE!!」
その聞き取りづらい雄叫びがあがり、左拳を繰り出しながら体を前へと進ませる姿が、その数瞬後に眼前の殺意の群れに呑まれて消える瞳が、彼岸四季が視た未だ変えることができない緑谷出久の最後だった。
繰り返される悪夢が教えた一つの響きと、一瞬であれだけ複数の事象をなす『個性』。
おそらくは、最後に聴こえた響きが相手のヴィランとしての名前だろう。
そしてその複数の事象を為した『色彩』が、酷く醜くて形容しがたいモノであったが、それはどの現象でも同じものであった。
つまりは同一人物が為した事象、『色彩』として認識しているのであれば機械的な手段ではなく『個性』を使った現象であるはずである。
だがしかし、あれほどに大量の、それも即死すら生温いような現象を一斉に起こせる存在は今まで目にしたことがない。
可能とするならば、おそらくは脳無といわれた複数の個性持ち。それに近い何者かだ。
その可能性が高いのは、USJにヴィランが強襲してきた際に幕を引いた、黒霧の向こうから手だけを出したあの圧倒的な悪意。
オールマイトが放った本気の一撃を受けてなお、気色悪い声を平然と垂れ流していた、アレの名前が
「オール、フォー、ワン」
それが、出久を殺す敵。
夢を視る度想いだす、必ず倒すべき、怨敵の名を。
side グラントリノ
「しかしまぁ、よくその年齢でここまでやれるもんだ」
張れ上がった己の頬を左手でさすりながら、どこか感慨深そうに老人は呟いた。
「す、すみませんグラントリノ!僕が上手く『個性』をコントロールできないばかりにケガまでさせてしまって」
ひたすらに頭を下げたままでいる、縮れた髪の毛をした170cmそこそこの、齢15の少年。
ヒーローを目指すために、日本トップクラスのヒーロー科に入り、その中でもトップクラスの成績を出し続け、今までもいくつかの実戦を経てきた少年。
たかが15年、されど15年。その人生の密度はどれほどに濃ゆく、どれほどに鍛錬に満ち満ちたものであったか、かつての教え子に話としては聞いていた。
例えば無個性のままであっても日本のトップクラスの学校の実戦形式の試験に合格するほどに熟達した武術を使えるほどに鍛え上げていた。
例えば今は代々秘密裏に受け継がれて鍛え上げられた世界最高峰の増強系の『個性』を自身の上限を冷静に見極めて使い、驚くべきことにどの先代も成し得なかった、かつての継承者たちの個性すらも使えるようになった。
必ず自分もその師匠をも超えるヒーローになると、現役のトップヒーローが太鼓判を押すほどの、心技体の完成度をもつ少年。
「鳶が鷹を生む、じゃねぇな。荒鷹が鳳凰を生んだか。全く俊典め。とんでもねぇ後継者を育てやがったもんだ」
思い出すのはかつて一年だけとはいえ自分がつきっきりで毎日血反吐を吐かせてきた相棒の弟子の姿。
体は身に余るはずの『個性』に早々に適応させ、現場に置いては勘だけで危険を察知し、最悪の状況であっても最善の行動を自然にとれる、そんな天性の才能を感じさせる男が相棒が自分に、そして時代を託した弟子だった。
後に長く№1ヒーローの代名詞、『平和の象徴』とすら呼ばれ、日本はおろか世界中にその名を轟かせた者。
そのヒーローを指導していた身として、老いたといえども教えることは山ほどある。
そう思ったからこそ、職場体験にわざわざ相棒の弟子に電話までして来てもらった。
しかし、結果はどうだ。
映像で見たその姿は『
流石に相棒の『個性』、『浮遊』を使ったことは驚いたが熟練には程遠く、使い方を苦心していることはその『個性』の本来の持ち主の相棒であった自分には初見であっても見てとれた。
確かに『黒鞭』『浮遊』という先代の個性を行使できたことは賞賛しよう。何が起こったのかはわからんが、そんな継承者は今まで存在しなかった。しかし平和の象徴と呼ばれた男の後継者足るにはまだ足りない。
それが全国放送された雄英体育祭を見た老人の所見であった。
だが蓋を開けてみればどうだ。
半月もしない間に少年は更に大きく成長していた。
『浮遊』の個性は『無重力』や空を飛ぶことが出来る『個性』持ちたちに協力を願い、『黒鞭』を繊細な力のコントロールを得るために、『ツル』や『複製腕』といった個性無くしては動くことができないような部分を自在に動かすことができる個性持ち達に声をかけ、協力してもらったという。
飽くことなき向上心、必要ならば誰の手でも借りることができる合理性、感覚を理論にして反復練習して会得する頭脳と根気。
ならば天才を伸ばした時と同じやり方ではその個性も能力も伸びはしない。
もとよりパワーはともかく、既に純粋な技術の練度であれば、同じ年齢の頃の
ならば何が必要か。
理論、否。それだけなら学校で十分に教えられる。雄英ほどの学校なら尚更だ。それこそ天才の動きを型に落とし込み、理論化して、それを凡人の才能でも使うことができるようにしたコイツならば自力で最適解にたどり着く。
技術、これも否。既に少年は自分なりの個性との向き合い方、使い方を見出しつつある。それも先々代のそれとはまた別の方向、新たな可能性へとその眼を向けつつある。ならば余計な口出しはかえって視野を狭める。
実践、……否、近いが違う。天才を学生時代に鍛えるのには一番だろうが、天才を我が身
へと落とし込み、理解するこの子に必要なのものは、実戦。
つまりは血反吐を練習で吐かせるのではなく、もう一歩、いや二歩先へ。命のやり取りすらある戦場こそが、コイツを成長させるために必要だ。
しかし、と考えて老人は再度腫れあがった頬を撫でた。
昔はなかった顔の皺。小さくなった自分の上背、細くなった腕、実戦から離れて鈍った勘。どれもが彼を本当に鍛え上げるには不足だ。本気で戦ったとしても、おそらくは敵うまい。それほどにこの少年は強く、自分は老いた。
ならば、自分が彼にしてあげられるとしたら、ヴィランと対峙する状況、助けるべき者が多き世の中での立ち回り、極限の状況下で鍛え上げられるヒーローとしての対応力を鍛えるために、その現場を用意してやることだろう。
「ロンゴミニアド」
「は、はい!」
「明日より現場実習だ。そして現場においては個性の使用をグラントリノの名の下に許可する。」
有象無象のチンピラ程度では肩慣らしにもなるまい。それ程度の器の出来栄えであれば自分がこうまで育て方に悩む必要もない。
ならばどこがいいか……ナイトアイ…いや候補としてはいいが彼はオールマイトと確執が出来てしまってから疎遠だ。それにいきなりでは先方も困るだろう。渡りはつけておくとしてもこの職場実習中では難しい。
ならば——
「明日から保栖市に向かう。話題のヒーロー殺しがいる場所だ。お前さんに与える課題は、もうわかるな?」
「——はい。ヒーロー殺しを捕縛します。」
迷うことも、驕った様子もなく、表情を引き締めてただ相対した自分を見るその眼の輝き。
未成熟な体、まだ子どもと呼んでいい齢。けれどその姿はその眼は、かつてのオールマイトを想起するような力強さを感じさせた。
「今日はこれまでだ。明日朝一で保栖に行く。準備しておけ」
「わかりました!本日のご指導、ありがとうございます!」
ああ、まったくもって、ホントにいい育て方をしたもんだ。こりゃぁ俊典の奴に謝らなきゃならんなぁ。
お前さんは、いい後継者を育てていると。
———だが、ちっとばかり出来すぎじゃねぇか?
優秀、その一言では片づけられない戦闘技術の熟練度。俊典のような感性で物事の本質を見極め、実践できる天才肌かと思ったが、違う。こちらの行動パターンや思考を分析し、少しずつ適応させる様子から分析が得意な凡人、良くいっても秀才タイプの人間だ。
だが、それにしては完成されすぎている。伸びしろがないかと言われればそれも否。
何かがおかしい。長く生きたきた勘というべきか、様々な人を視た年長者の眼が何か異常を捉えていると感じている。
こういう者はおおよそが大成するまでに時間がかかる。努力する時間が、成果を出すための時間が必要だ。
そしてその時間を一つの目標のためにあらゆる努力を惜しまず、そしてそれに人生を捧げるほどに続けられる者は本当に少ない。
それが天才と凡人を分かつ壁であり、幼い頃はその差は顕著だ。十で神童十五で才子二十過ぎれば只の人、とは昔の諺か何かだっただろうか。
少なくとも、コイツは神童ではなかろう。才子……とも違う。だが能力は、その技術と精神はおそらくは10代半ばにしてはあり得ない完成度だ。
それもヒーロー一家に生まれたわけでもない。つまりは英才教育を受けたわけでもない。
体格も優れているわけではない。
才能に愛されているわけでもない。
頭脳は優れているし、研鑽した後は見えるがそれも常軌を逸するモノではない。
戦闘や精神性といったヒーローに付随するだけが異常に伸びている。
いくらOFAという劇薬があったとはいえ、それだけでこの様を説明していいものか
———コイツ、ここに至るまでに何があった?
そんな疑問とわずかな好奇心で、俺は多分、聞いちゃいけないことを聞いちまった。
「ロンゴミニアド、お前さん、どうしてヒーローになったんだ?」
そう、これは聞くべきじゃなかった。コイツがあまりに出来がいいから、俺は頭の片隅にあった事実を忘れちまっていたんだ。
「最初は憧れでした。悲劇を覆し、誰かを助けるヒーローに憧れた。けれど僕は無個性で、4歳で、一度挫折しました」
無個性。
人類の8割が個性持ちとなった世の中。
だがその2割は個性がない。ただしこの数値はあくまで全人類の2割だ。
つまり、個性持ちが今ほど多くなかった、今の高齢の者たちの世代を含めても2割しかいないということ。
今の子どもたちの世代ならば一つの街に1,2人いるかどうかいったところだろう。
「みんながあるはずのものが、僕にはない。人生は理不尽で、人は平等じゃない。
僕は、誰かを助けようとしてけれど助けることはできず、そのまま誰かに助けを求める側になってました。」
それは無邪気で素直な、悪く言えば理性や道徳を持ち合わせない排他的な幼子たちにとって、『無個性』であるということは『個性』を持つ自分たちの中にある異物としてのレッテルを張るに十分な現象だったのだろう。
「そんな時、とある人に会いました。その人は個性なんて一つも使わずに、個性を振りかざす人達を叩き伏せていました。……僕が憧れた二人目のヒーローでした。
そんな、僕にとってのヒーローに出会った時に言われたんです。
———お前はヒーローになれない、と。そして、多分きっとそうだったんです。」
ここで、止めておけばよかった。
まだコイツが小さな子どもだったことを、何度も頭の片隅にあった事実を俺は正しく認識できていなかった。
そうであれば、きっとここで止めてしまえば、そんな表情をさせずに済んだかもしれないのに。
「それでも、憧れは消えなくて、諦めることはできなくて。」
この表情を、この顔を、俺は墓場まで忘れないだろう。
「
それは、何の抑揚もなく、
「
先ほどまでと変わらぬ笑顔のままで告げられる、
「それでも僕はまだヒーローに成りたいと焦がれていたから、」
「だからまだここでこうして生きています。」
泣きながらも、苦しみながらも、それでも、それでもと笑い続け、走り続ける、
「ヒーローになると誓った日から、ヒーローとして生きていくと決めた時から、」
一歩でも前へと進み続ける、
「道は一つです」
夢へと突き進むことだけを己の道としたこの少年は、ただ微笑む。這いつくばりながらも、泣きながらも、痛みも悲しみも全て飲み干して、ただ進む。
緑谷出久には、もはや英雄の道しかその行く末はないのだと、気づいた時には既に遅かったのだ。
結末は、きっと、ずっと前から決まっていた。
蛇足ですが、入学式の日にも、カッコいいと見送りをもらったのはオリ主だけであり出久君の方は書きませんでした。
少し前の話で出久君が「いってきます」と言って家を出ていたシーン、返事は聞こえなかったのではなく、ありませんでした。
もう誰もその家には彼以外にはいませんから返事などあるはずもありません。
彼は玄関の写真たてに飾られた写真の中にいる母に挨拶しただけです。
作者はヒロアカではもちろん出久君が一番好きです。