語るのは二人の共通した大切な人物のこと。その人物は世界を代表するサッカー選手になっていた。
彼との思い出。二人はそれを語る……
若干のキャラ崩壊・キャラの口調間違い・キャラ同士の呼び方変更・微量の俺たちのフィールド要素・重要ポジションの横浜フリューゲルス・『キチガイの不在』
上記が大丈夫な方はどうぞ
「ここ……ですね」
詩音はスマホで地図を確認し、喫茶店の扉を開く。店内のカウンター内にはマスターと思わしき詩音と同年代の男性が何やらチェックをしていた手を止めて顔を入り口に向けてきた。
「すいません、今日は貸し切り……って、双海さんじゃん! 久しぶりだな!」
「お久しぶりです、稲穂さん」
詩音はこのお店のマスターであり、自分と同級生の友人である稲穂信に向かって挨拶をした。
「ずいぶん早いな。予定じゃもうちょっと遅いはずじゃないの?」
信の言葉に詩音は苦笑する。
「『ちょっと早めに行ってあのバカが仕事しているか確認してきてくれ』と」
「……あのクソ野郎」
詩音の言葉に信は悪態をつくが、その言葉に嫌悪感はなく、親しみが溢れていた。詩音も信と伝言をお願いしてきた彼の関係がわかるために苦笑するだけだ。
「とりあえず双海さん、座ってくれよ。今日のために双海さん用にいい紅茶の茶葉を仕入れておいたんだ」
「ありがとうございます」
信の勧めに従って詩音はカウンターの席に着く。そして信は手慣れた様子で紅茶の準備を始めた。
「今坂さんや音羽さんは?」
「まだ仕事。試合開始には間に合うってさ。智也は唯笑ちゃんが連れてくるだろうさ」
信の言葉に詩音も思わず笑ってしまう。唯笑に引っ張られてうんざりした表情ながらもまんざらでもない表情を浮かべた智也の想像がつくからだ。
「しっかし、あいつもすさまじいな」
信は詩音に紅茶を出しながらテレビに視線を向ける。詩音もそちらを見ると、サッカー日本代表戦の試合直前特番が始まっていた。
「あいつが『伊武も高杉も磯野も高校中退して世界に飛び出した……つまりサッカーで成り上がるにはそうしなきゃいけないんだよ……!』って言って高校中退してイタリアにサッカー留学に行ったのにはドン引きしたけどな」
信の言葉を詩音は紅茶の香りを楽しみながら聞いている。
「それにそれを言い出したのが双海さんを引き留めた直後だったしなぁ」
「懐かしいですね。それで稲穂さんと本気の殴り合いをしていました」
詩音の言葉に信は恥ずかし気に頬をかく。
「まぁ、俺も若かったからね。自分の都合で女を振り回すな、って気持ちがあったな。まぁ、でも……」
信は言葉の途中で店内の壁に視線を向ける。詩音もそこに視線を向けると、そこにはJリーグから唯一消滅したチームである『横浜フリューゲルス』の応援フラッグが飾られていた。
それを眺めながら信は口を開く。
「たぶん、フリューゲルスがなくなったからだろうなぁ。あいつが海外に行くって言いだしたの」
信の言葉に詩音は何も言わない。当時の彼の絶望と苦悩を家族以上に一番近くで見守っていたのが詩音だ。詩音はいまだに彼のその絶望を覚えている。
「……皮肉なものです。彼はそれまで海外に行くことに否定的でした。海外に行けとアドバイスする時任さんの言葉も『俺にはフリューゲルス』があるからと一蹴していました」
詩音も覚えている。まだ付き合う前だった時に一緒で出掛けた時であったフリーカメラマンの美人女性。彼女に熱心に海外行きを進められても彼は笑って拒否していた。
だが、横浜フリューゲルスがなくなったことで彼の鎖は解かれた。
昔を思い出して詩音はくすりと笑う。
「懐かしいです。私を理由に海外に行こうとしない彼を、私は叩いてしまいました」
「え!? そうなの!?」
信の意外そうな言葉に意外に思ったのは詩音だ。彼と信は幼馴染だと聞いている。なにせ智也と唯笑が幼馴染だと聞いて二人で『なんで俺の幼馴染は男なんだ!』と絶望したと本人から聞いている。
「聞いていなかったんですか?」
「聞いたことない」
「ですが毎日メールはしているようだったので、てっきり知っているのかと」
「あいつとのメールは基本的に朝一のう〇この写真を送りあうことだからなぁ」
詩音の判目に信は慌てた様子で訂正する。
「たまにおし〇この写真も送る」
「……はぁ」
「呆れられた……!?」
むしろ今の会話の流れで何故呆れられないか疑問に思う詩音だったが、昔から彼と信のやり取りは理解不能だったのを思い出し『あ、頭の病気なんですね』と思うことにする。
「でもそうかぁ……あいつが海外行きの背中を押したのは双海さんだったのか」
「高校時代、私は彼に助けられました。だから今度は私が助けたいと思ったんです」
詩音の言葉に『はぁ、暑い暑い』アピールをする信。そのアピールも高校時代に彼と信が智也と唯笑の仲を茶化す時にしていたアピールだ。
「双海さんに背中を押されたあいつは日本を飛び出して世界へ……んで、今はサッカー日本代表の中核なんだからすげぇな」
「今ではFIFAのベストイレブンにも選ばれていますよ」
「一緒になって小夜美さんの作ったバナ納豆パンを智也の口に押し込んでいたあいつがなぁ」
信の言葉に詩音は当時を思い出して笑ってしまう。しょうもないことや本当にどうでもいいこと、くだらないことに無駄に力を入れて周囲を巻き込むのが彼だった。そしてそれに率先して参加したり思いっきり巻き込まれたりするのが信であった。
詩音もそんな彼の引き起こす騒動に巻き込まれているうちに、かぶっていた仮面が外され、周囲に溶け込めるようになった。
そしてそんな彼に詩音はじょじょに惹かれていった。
「双海さんも大学でイギリスに留学したと思ったらそのまま、だもんなぁ。うちの代は自由人が多い」
「稲穂さんがそれを言いますか?」
詩音の言葉に信は苦笑しながら頬をかく。
実は信も高校を中退している。彼が中退した直後くらいに突然中退したのだ。友人一同で驚いたのでよく覚えている。
「あいつがサッカーのために海外に行くって聞いた時にさ、思ったんだよね。俺は何がしたいんだろうって」
そして信がぽつぽつと語り始めたのを詩音は黙って聞いている。
「あいつは夢に向かって走り始めた。智也は過去を乗り越えて歩き始めた。その二人に比べて俺はどうだ? って自問した時にさ。俺には何もないって気づいたんだよね」
そして信は再び視線を横浜フリューゲルスの応援フラッグに向けた。
「たぶん、横浜フリューゲルスが残っていれば重度のサッカーオタになっていただろうで、勝敗についてあいつに直接文句を言ったりしていただろうな。だけど、横浜フリューゲルスがなくなって、ずっと一緒にバカをやっていたあいつは夢のために高校を辞めた」
そこで信は視線を詩音に戻した。
「あいつ本人には言えないけどさ、俺、あいつに憧れていたんだよ。家族の問題が色々あっても決してあいつは『サッカー』っていう軸はぶれなかった」
その言葉に詩音も頷く。彼と近くにいたからこそ知っている彼の家族に対する苦悩。彼はどんなに家族のことで悩んでいてもそれを表に出さず、サッカーに邁進していた。
「だから俺も何かを見つけたかったんだよな。だからバイトを何個もして海外に飛び出して色々探した。その途中で色々な奴にも出会った」
「答えは見つかりましたか?」
詩音の問いに信は軽く肩を竦める。
「さぁ。本音を言うと今でも答えは見つかってない。だけど、さ」
そう言って信は店内を見回す。
「今はこれも悪くない、って思えてる。ここでも色々な奴に出会えるし、色々な話を聞ける。いろんな奴のいろんな人生。俺はそれを聞くのが楽しいんだ」
信の言葉に詩音も優しく微笑む。どうやら彼の心配は杞憂であったようだ。あの友人思いだが性根が腐っている彼は素直に親友の心配ができないし、自分で直接聞くこともできない。
だから詩音に聞いてきてくれるように頼んだ。
(この調子だったらいい報告ができそうですね)
信のことを心配していた彼も、この報告で安心できるだろう。
「やっほー!」
「お~っす、信いるかぁ」
「お~、唯笑ちゃんにそのオマケ」
「誰がオマケだ」
入店早々に信に煽られた青年・三上智也は信に向かって中指を立てると、信も爽やかな笑みで親指を下に向けた。
「あああああああ! 詩音ちゃん久しぶり!!」
「ええ、お久しぶりです。唯笑さん」
唯笑のアクティブな挨拶に詩音も優しく微笑みながら答える。そして智也も詩音に目を向ける。
「お、双海さんももう来てたのか」
「あ!! ともちゃん、詩音ちゃんはもう双海じゃないよ!!」
唯笑の言葉に智也は何かを思い出したように口を開く。
「そっか、もう嘉神川だったか」
「そうなりますね」
「結婚おめでとう! 詩音ちゃん!!」
唯笑のお祝いにお礼を言う詩音に左手薬指には指輪がはめられているのであった。
双海詩音
視点主。高校時代に嘉神川くんに関わって色々あり、現在は結婚した模様。
稲穂信
メモオフシリーズ皆勤賞の男。メモオフシリーズを語る上でこいつは外せない。嘉神川くんと幼馴染設定にしたのは作者の趣味です。
嘉神川
オリ主。世界を代表するサッカープレイヤーの模様。下の名前は考えていない。嘉神川姉妹とは腹違いの兄。クロエは兄との約束で澄空に入学したという独自設定があったりしますがこのストーリーには関係しないので除外
横浜フリューゲルス
嘉神川くんはここのユースに所属していた。何故横浜フリューゲルスかって? 作者の趣味さ。
作者の小説を初読みの方は初めまして。読んでくださっている方はいつもありがとうございます。
この作品は作者が大好きなメモオフが21周年ということで執筆しました。え? 20周年の時にかけ? ちょっと何を言っているかわかりませんね
メインヒロインは作者がシリーズ通して一番好きな詩音。そしてメモオフシリーズで外せない男・信。この二人がオリ主である嘉神川くんについて語るというストーリー。メインキチガイである嘉神川くんが不在のために大人しめにできあがりました。
嘉神川姉妹の兄にしたのは作者の趣味。ほかの妹候補は陵いのりちゃんでした。
今のところ高校生編を書く予定はありません。反響があったら書くかもしれませんが