ストライクウィッチーズとエースコンバットゼロのコラボSSです。
登場国、登場人物等捏造設定てんこ盛りです。
批評お待ちしております。

※拙作「INFINITY WITCHES ~無限大の魔女~」とはストーリー上の関係はございません。
※Pixivに昔投稿した同タイトル作品の加筆修正版です。

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「INFINITY WITCHES ~無限大の魔女~」のオリジナル展開版の原稿が進まないため、昔Pixivに掲載したストパン×エスコンのSSを加筆修正しアップさせていただきます。


ウィッチーズコンバット・ゼロ ザ・カールスラントウォー

2005年11月25日 オラーシャ帝国 国境付近

 

 

 

 

“Brett Thompson & Solo Wing Pixy”

 

 

 

 

「───あいつの事?ええ、知ってるわよ。話せば…長くなるわね。そう、古い話」

 

そう切り出した人物は、身振り手振りを交え話し始める。

 

「知ってる?エースは3つに分けられるの。“強さを求める奴”、“プライドに生きる奴”、“戦況を読める奴”。この3つよ。あいつは───確かにエースだったわ」

 

 

 

目の前で語る彼女は、『片羽の妖精』と呼ばれた元ウィッチ。

私が追う『ある女性』の元同僚。

 

 

10年前、世界を巻き込んだ戦争があった。

───『カールスラント戦争』。

 

 

その空に軌跡を描き、歴史から消えたある航空歩兵がいた。

畏怖と敬意の狭間で生きた、一人の魔女。

 

 

私は『彼女』を追っている。

 

 

 

そして──────『片羽』の言葉で、物語の幕は上がる。

 

 

 

「あれは、雪の降る寒い日だったわね…。そう、初めて会った日も、そしてあの日も────」

 

 

 

 

 

 

 

1995年12月31日15時10分 カールスラント領内 ムント渓谷 アヴァロンダム上空

 

 

“Garm1「Cipher」”

 

《警告!アンノウン急速接近中!!》

 

 

そう無線が騒いだ次の瞬間だった。

 

雪のちらつく空に、紅いレーザー光が煌めいた。

 

 

その禍々しい光に、PJ――「彼女」が消息を絶った後、私の2番機になったパイロット――の乗るF-16が捉えられる。

 

一瞬の事だった。回避を呼びかける間もなく、F-16の小柄な機体が爆散する。

 

最期の言葉も、断末魔の悲鳴すらなく、彼は空に散った。

 

早期警戒ウィッチ、イーグルアイが核サイロの再起動を確認したとがなりたてる。

 

 

…何が起こっている?

“エクスカリバー”のようなレーザー砲台か?

いや、アンノウンからの攻撃だろうか?

なぜ撃破したはずのV2が発射されようとしている?

 

 

その答えは、レーダーの端から近づくアンノウン…「彼女」が教えてくれた。

 

 

 

イーグルアイが作戦続行を命ずる。

 

 

 

それを聞き流す私の眼前に立ちはだかる「彼女」は、右足を赤く塗装した異形のストライカーユニットを装備していた。

 

その顔の上半分は大きなHMDで隠され、背中にランドセルのような形をした兵装を背負っている。

 

 

 

そして、「彼女」は混乱のさなかにある私達をあざ笑うかのように、こう言った。

 

 

《戦う理由は見つかったかしら?サイファー(相棒)

 

 

 

懐かしささえ感じる、無線越しでもよく通る声。

 

 

 

顔を見るまでもなく、声の主は分かる。

 

 

 

“円卓”を私と共に戦い抜いた英雄。

 

ストライカーを片方失いつつも任務を遂行し、無事帰還するほどの能力を持つウィッチ。

 

 

 

そして…私の相棒でもあった彼女。

 

 

 

知らず知らず、私は無線に叫んでいた。

 

《どうしてなの……!?“ピクシー”!》

 

 

 

 

 

 

2005年11月25日 オラーシャ帝国 国境付近

 

“Brett Thompson”

 

『カールスラント戦争』には謎が多い。

 

終戦から10年経った現在、やっと一部の情報が開示された。

私はその資料をすぐ入手し、それだけでは飽き足らず出所不明の裏情報にも手を出した。 

 

私がそこまでこの戦争に掻き立てられたのには理由がある。

 

 

そもそもこの戦争は1988年の帝政カールスラント法見直しに端を発する。

 

当時財政難に荒れたカールスラントは東側諸邦の独立を許した。

 

『彼女』が属したオストマルク共和国はこの時誕生する。

 

しかし、それでもカールスラントの財政難は収まる事はなかった。

 

一方で――その流れに乗じて肥大化していく超大国リベリオン。

 

その経済恐慌の中、極右政党が政権を獲得する。

 

 

 

“強く正当なカールスラント”を取り戻すために。

 

 

 

1995年3月25日。

オストマルクでの天然資源発見をきっかけに、ついにカールスラントは隣国への侵攻を開始した。

 

『カールスラント戦争』の開戦である。

 

魔女(ウィッチ)」たちが「怪異(ネウロイ)」より守りきり、ようやく訪れた平和な世界。

 

彼女たちが命を賭して手にしたそれを無に帰すかのように、人類は同族同士で争い始めた。

 

 

 

準備不足の各国は伝統のカールスラント空軍の前に敗走。

数日の内に山岳地を除く全域を占領下に置かれたオストマルク政府軍は外国人傭兵部隊を組織。

対ネウロイ戦の予備兵力として確保されていたウィッチも含めた部隊を組み、リベリオンとの連合作戦に望みをかける――

 

そう、ここまでは歴史の教科書にも載っている。

 

だが、私は資料に奇妙な類似点を見つけた。

とある一人のウィッチに関する記述。

そして、そこに残された『(Demon)』という暗号。

情報としては不十分なものも多い。だが私はそこに惹かれた。

 

私はこの魔女を通じてカールスラント戦争を追いかけることにした。

その先に何かがある、そう感じた。

この戦争の隠された真の姿か、それともただ兵士達の願望から生まれただけの御伽噺か。

 

その魔女には会うことは出来なかった。そもそも、存在自体があやふやだった。

 

ただ『彼女』と関わりのあった人物数人を突き止めることは出来た。

『ツバメ』、『梟』、『ハゲタカ』、『犬鷲』、『荒牛』、『魔術師』――――カールスラント、リベリオン、ヒスパニア、オストマルクと各国を飛び回り、彼女と肩を並べ、或いは銃口を突き付けあった男女を巡り歩いた。

 

 

 

まず取材を取り付けることができたのは、元カールスラント空軍第2航空師団第52戦闘飛行隊『ロト隊』隊長、ドロテア・フレイジャーだった。

その容姿と戦闘技術から、軍の広告塔として利用されたウィッチだ。

終戦後、彼女は首都の大学で歴史学の教鞭を執っている。

 

『守るべき国なんて持たない、そんな相手になぜ私は負けたのかしら。…ただ強さだけを求めていたような傭兵風情に。国を背負わねば速く飛べるとでもいうわけ?』

 

眼鏡をかけ、眉間にしわを寄せたエクスウィッチが吐き捨てたのを思い出す。

 

 

 

その次にコンタクトが取れたのは、『彼女』と円卓で戦ったエース部隊、元カールスラント空軍第51航空師団第126戦闘飛行隊ズィルバー隊隊長、ディトリッヒ・ケラーマン。

カールスラント空軍アカデミー上がりの叩き上げエースであり、ウィッチであった『彼女』と戦闘機で対等に渡り合うことができた数少ない人物だ。

 

『戦場で大切なものは憎しみを持たぬこと、生き残ること、そして自分の決めたルールを

守り抜くこと。…教え子に言い聞かせた言葉だ。そして彼女の姿を見て、私は全てを理解したよ。時代は受け継がれ流れているんだ。もう老兵の出る幕ではないのだと』

現在は牧畜業を営んでいる彼は、微かな笑みを浮かべつつ、私のインタビューに応じた。

 

 

 

幾人もの元エースとの邂逅を経て、ついに私は、『彼女』と最後に渡り合ったと思われていた(・・・・・・)人物を訪れた。獄中の身であった彼女は、顔を写さないという条件付きではあったものの快く私の取材に応じてくれた。

元リベリオン国防空軍大尉、第8航空師団第32戦闘飛行隊『ウィザード隊』隊長、ジェシー・ブリストー。

リベリオン空軍のトップエースウィッチであり、「青い魔術師」とまで呼ばれた彼女は、バルトライヒ山脈で消息を絶った数年後、テログループのトップとして表舞台に姿を現した。

 

『あの娘が居たから世界を変えられなかったんじゃないの。まだ変われるのよ。望む世界がどうであれ、人が知識を得て、変化を願えば、ね。…ただそれだけ。今の世界も、もうあの時から変わっているのよ』

 

 

 

私は、国境なき世界のリーダーであった彼女の取材を最後に、社に帰るつもりだった。しかし、彼女が去り際に漏らした一言が、私に取材を続行させた。

 

『ああ、そうそう。一つ教えてあげることがあるんだけど、『鬼神』と最後に戦ったのは私じゃないわ。最後に戦ったのは――“片羽”よ』と。

 

なぜバルトライヒ山脈で消息を絶ったはずのガルム2が、相棒であった『彼女』と銃口を突き付けあったのか?

私は八方手を尽くして調べ上げ、ついに彼女がオラーシャ国境付近で、ISAFの義勇兵として戦っていることを突き止めた。

戦場カメラマンとしてその地に赴き、ようやく彼女にたどり着き、この取材を取り付けるに至ったのだ。

 

 

 

 

 

“Brett Thompson & Solo Wing Pixy”

 

 

いくらかの沈黙の後、彼女は再び語り出す。その声で、私の意識は回想から呼び戻された。

 

 

 

「ベルカ絶対防衛戦略空域、B7R。…通称 『円卓』。私達エースに与えられた舞台。そこには上座も下座もない。条件は皆同じ。所属も階級も関係なし。制空権を巡って各国のエースが飛び交い、争う場所。『生き残れ』―それが唯一の交戦規定だったわ」

 

 

10年前を懐かしむかのように、『妖精』は目を細め笑った。

 

 

「場数を踏む度、あいつの強さが目についたわ。ひたすらに強い。冷徹さとプライドを併せ持ち、瞬時に戦況を見極めることができた、正しく戦闘のプロフェッショナル。鬼神とはよく言ったものね。戦いの女神がついていたのかも…いや、あいつ自身が女神だったのかもね」

 

 

もっとも、ついていくのが大変だったけど、と彼女は自嘲気味に言った。

 

 

 

 

 

――――さすが、「あのウィッチ(・・・・・・)」の血を引いているだけあるって感じだったわね。

 

 

 

あのウィッチ(・・・・・・)

 

 

 

彼女のその一言の意味を問う前に、すでに彼女は再び口を開いていた。

 

 

 

「気が付けば、色んな奴があいつを見てたわ。出撃のたび見送りが増えてたわねぇ。聞くは無用語るは無作法が身上の他の傭兵も、戦いには関心のないはずの整備兵までもよ。皆あいつの姿を目に焼き付けようとしてたわ。私も………もう少しでいいから、見ていたかったわね………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1995年12月31日15時10分 カールスラント領内 ムント渓谷 アヴァロンダム上空

 

 

 

 

”Galm1「cipher」”

 

 

 

《……降ってきたわね。不死身のエースってのは、戦場に長く居た奴の過信よ。貴女のことよ、相棒》

 

 

 

私は彼女の言葉に答えず、この状況を切り抜けるために知恵を振り絞っていた。

 

 

私の乗機はF-15Cイーグル・ジェットストライカー。

 

高性能な新鋭機だが、正体不明の機体とトップエースの最強コンビに立ち向かうにはいささか心もとない。

 

手持ちの火器はM16A2アサルトライフル一丁のみ。マガジンも装填済みを含めて2本だけ。

 

B7Rとアヴァロンダムの戦闘で、ストライカーに搭載したミサイルも残り少ない。

 

おまけに魔力も尽きかけている。勝算は――ほとんどない。

 

 

刹那、眼前を赤いレーザーが切り裂く。

 

「…っ!!」

 

辛うじてシールドで受け止めるも、すさまじい衝撃だ。

 

次まともに喰らったら、シールドごと切り裂かれ、確実に墜とされる。

 

イーグルアイが《持ちこたえろ》《敵機を解析する》だの言ってくるが、正直煩わしい。

私の全神経は、彼女だけに向けられていた。

 

彼女の装備した正体不明のストライカーは、その大きさに似合わないほどの機動力を発揮し、私を翻弄してくる。

照準するどころか、視界に捉え続けること自体が困難だ。

 

《敵機から地上への信号を確認!奴が…いや、彼女が『V2』発射を握っている!》

 

…胃に鉛が流れこむような感覚を覚える。

 

私の“元”相棒は、一体何が目的なのか。

 

 

《貴女にはここから境目が見えるのかしら!?国境は私達に何をくれたの!?》

 

一瞬、激昂したように彼女は叫び、一呼吸置いてまた言葉を続ける。

 

 

《全てを『ゼロ』からやり直す。そのための『V2』よ》

 

 

「…………………」

 

 

私は黙って、パイロンに残った数少ないQAAMを発射した。

 

 

だが、まるで見えない壁に阻まれたように機動がねじ曲がり、外れた。シールドでもECMでもない。あれは何だ?

 

 

そして反撃とばかりに彼女がミサイルを発射してくる。

 

それは私に命中することなく空中で爆発し、並のミサイルとは比べ物にならないほどの大爆発を起こす。

 

どんな仕掛けなのかはわからないが、空間制圧が目的の特殊兵器だろう。

 

彼女は、本気で私を殺そうとしてきている。

 

手の内を知られている相手に、私は徐々に追い詰められている気がした。

 

弾丸を節約するためにセミオートで5.56mm弾を撃ち込んでいくが、ほとんど当たっている気がしない。

 

 

《サイファー、これは終局じゃないわ。ここから全てが始まる。貴女になら分かるでしょう?これはお終いの『ゼロ』じゃなくて、始まりの『ゼロ』なのよ》

 

相棒が何を言っているか、私は分かりたくなかった。

 

《戦いに慈悲なんてものはないわ。生きる者と死ぬ者がいる。それが全てよ》

 

すれ違いざまにお互いミサイルを放つ。

 

最短射程を割ったミサイルは双方ともに外れ、私達は再び向かい合う。

 

《…奮い立つ?ならば私を落としてみせなさい!》

 

 

理想で空を飛ぶと死ぬ。

 

 

そう教えてくれたのはピクシーだった。それなのに……

 

 

今や彼女は「境目を消す」という理想に酔って飛んでいた。

 

 

 

延々と、延々と、私達はお互いの後背を取り合い続けた。

 

当たらないまでも至近で炸裂したミサイルが彼女の前進翼機にわずかながら破片を浴びせ、空中炸裂ミサイルが私のF-15の外板を歪ませる。

 

 

 

いったいどれほどの時間がたったのか。

 

《………時間よ》

その一言と共に、噴煙のようなものがダムの側に吹き上がり、何かが空へ飛び去っていく。

 

 

その何かとは、轟音と共に発射されたV2そのものだった。

 

彼女の手によって、世界の終末へのカウントダウンが、始まってしまった。

 

 

《惜しかったわねぇ、サイファー。歪んだパズルは一度リセットするべきなのよ。このV2で全てを『ゼロ』に戻し、次の世代に未来を託しましょう》

 

 

空中に静止し仁王立ちになったピクシーの背後に、一筋の白い煙を引きつつ上昇していく1発の弾道ミサイルが重なる。

 

 

……リセットする?現実の世界をゲームみたいに?

 

 

この地上で生きている何十億といった人たちと一緒に?

 

 

「………ふざけるんじゃないわよ」

 

 

ぼそりと呟いた私の声は、誰の耳にも届かなかったようだ。

 

 

突如、イーグルアイが無線に割り込む。

 

 

 

《こちらイーグルアイ!聞きなさい!ガルム1!敵ストライカーユニットの解析が完了したわ。機体形式『ADFX-02』、コード名は『モルガン』。このストライカーは特殊電子防御システム『ECMP』で使用者のウィッチもろとも護られているわ。ガン、AAMの照準は不可能よ》

 

そこで息を継ぎ、イーグルアイは続ける。

 

《ただ…唯一、エアインテークだけは防御範囲外よ。そこなら照準ができる。正面角度から攻撃を行い、モルガンを撃墜しなさい。今そこで彼女を討てるのは貴女だけよ。『円卓の鬼神』、幸運を祈るわ!》

 

 

エアインテークを狙える位置はストライカーユニットに正対する位置にしかない。

 

つまり―――小細工無し、正面からの真っ向勝負(ヘッドオン)だ。

 

 

イーグルアイの無線を聞き流し、意識をピクシーに集中させる。

 

 

《私と貴女は同じコインの裏表ね。似ている所はあるかもしれないけど、いつも背中合わせ。同じ方向を向くことは決してないわ》

 

 

…………違う。私は今のピクシーとは違う。

 

 

ともに円卓で戦った誇り高い英雄、「片翼の妖精」こそ私の「裏」だ。

 

 

目の前にいるのは懐かしい相棒でも、片方のストライカーユニットを喪失しつつも帰投したエースウィッチでもない。ただの身勝手な理想に酔ったテロリストだ。

 

 

V2の再突入まで残り4分。「鬼神」と「妖精」が最後の決着をつけるには、十分な時間だろう。

 

HMDの中央に、再突入までの残り時間が表示される。このわずかな時間こそ、全ての終焉へのカウントダウンであり、どちらかが地に墜ちるまでのカウントダウンだ。

 

《……もう一度正面からよ。ここで全てが決まるわ》

 

いきなり彼女のマニューバが鋭くなる。と同時に、背中のTLSとパイロンに残った何発かのミサイル、マガジンポーチを投棄した。

―――ライフルのみの真剣勝負、というか。

 

私もパイロンに残っていたMSSLとQAAMを投棄し、予備マガジンを全て使い切り邪魔になっていたチェストリグを脱ぎ捨てる。

 

 

あと3分。

《お互い、腕は衰えていないわよね》

 

 

プローンポジションに構えたXM8を乱射しつつ、彼女が逆落としに突っ込むのを紙一重でかわす。

返す刀で3点バーストで彼女を撃ち下ろす。

あたるはずがない、だって彼女は私が最も信頼する“相棒”じゃないか。

6発の銃弾を放った瞬間から、それは分かりきっていた。

 

 

 

あと2分。

 

ストライカーが悲鳴を上げるほどのGをかけながらシザーズ。お互いに狙いを付け、短くトリガーを引く。風切り音を立てて弾丸が身体を掠めるが、やはりどちらにも当たらない。

 

《さあ、かかって来なさい》

 

お互いにシザーズを止め、数km離れる。彼女が一瞬空中で静止し、こちらをHMD越しに睨みつけた―――気がした。

 

 

 

あと1分。

 

 

 

《いくわよ!》

 

同高度で正対した彼女がアフターバーナーを点火し、まっすぐに突っ込んでくる。

いつも通りの、円卓で戦ってきた時と同じ、自分が墜とされるはずがないと確信している自信に満ちた顔が、バイザーに鼻から上を隠されつつもしっかりと見える。

 

…………撃てるのか?

ほんの数ヶ月前まで肩を並べて戦っていた相棒を?

レティクルの真ん中に彼女をとらえた私は、答えの出そうにない問いを自問自答していた。

 

 

 

《撃ちなさいよ、臆病者!撃ちなさい!》

 

ガンレティクルの中心に捉えた彼女に、私の指は、私の思考に関係なく、訓練通りにトリガーを引いていた。

 

全く同時に、彼女もトリガーを引いた。

彼女の放ったうちの数発が、私の顔面を掠め、HMDを捥ぎ取り、頬を切り裂く。

 

痛みを感じる間もなく、残弾を全て彼女に向けて撃つ。

 

私と彼女が、すれ違った瞬間だった。

 

 

 

一瞬、目が合った気がした。

そして彼女の口が、「ありがとう」という言葉を、形作った気がした。

 

 

 

次の瞬間、モルガンの左エンジンが爆発した。

 

彼女の驚いた、しかしそれでいて安堵したような、納得したような顔が、嫌にはっきりと見えた。

 

反射的に遠ざかっていく彼女に手を伸ばす。が、もちろん届くはずもなかった。

 

 

伸ばした手は空を泳ぎ、ストライカーから煙を吐き出した彼女は急激に高度を落としていった。

 

遥か彼方、空中でストライカーが爆発するのが見えた。ベイルアウトした様子は――ない。

 

上空で、主人からの指示を失ったV2が大気圏外で暴発し、眩い光を放つ。

 

勝った。世界の終末は避けられた。

しかし私の心にその喜びはなく、相棒を永久に失ってしまったという喪失感で溢れかえっていた。

 

 

《サイファー、任務完了よ。さぁ、帰りましょう。私達の家へ。貴女の帰りを待っている人が沢山いるわ》

 

 

 

イーグルアイの言葉の後ろから、歓声が聞こえる。

 

 

だが、私は答える気になれなかった。

 

 

 

銃弾で裂かれた頬が、今になって痛み出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

10年後………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“Brett Thompson & Solo Wing Pixy”

 

 

 

これが、彼女が語ったもう一つの歴史。

 

 

わずか10分ほどの、未来を賭けた謳われることのない戦い。

 

 

『彼女』の消息も、この直後に途絶える。

 

 

カールスラントが起爆した七つの核の影響は大きく、それを目の当たりにした戦勝国は世界的な軍縮へと進む。

 

 

まるで、自らの戒めのように。

 

 

また、『V2』の存在も隠蔽される。

 

 

終戦後に起きた出来事は人々の記憶から消え、そして彼女らも同時に歴史の闇へ封印されたのだ。

 

 

これも平和への一つの形なのかもしれない。

 

 

 

こうして、物語の幕は閉じた。

 

 

 

 

だが、彼ら、彼女ら自身の物語は終わりを迎えたわけではない。

 

 

 

 

 

 

 

『片羽の妖精』、リリー・“ピクシー”・フォルク。

 

オストマルク空軍第6航空師団 第66飛行隊 『ガルム隊』2番ポジション。

 

そう、『彼女』の相棒であり敵であった女。

 

「私はアヴァロンで死ぬはずだったわ。でも死ねなかったのよ。モルガンから辛うじてベイルアウトできたんだけど、パラシュートが開かないまま地面に叩きつけられて。痛む体を引きずってたどり着いた場所は…………あの7つの核の爆心地の1つだったわ」

 

そこでいったん彼女は言葉を切る。

 

「焼き尽くされ、何も無い光景。それがなんだか悲しくて悲しくてしょうがなかったわね。でも、そこで強く生きる人々がいた。私は彼らに助けられたのよ。世界に境目なんて必要ないかもしれないわ。でも、無くすだけで人は変われるのかしら?それは分からない」

 

 

「…世界を変えるのは人を信じる力なんでしょうね。信じ合えば憎悪は生まれない。でもそれが出来ないのも人よ」

 

 

彼女はカメラに目線を向け、言葉を紡ぐ。

 

「………私はまだ戦場に居る。国境の近くよ。確かめたいのよ、国境の意味を。そしてそこで生きる人々の意志を。ここに答えなんて無いのかもしれないわ。でも探したいのよ。そう、今はそう思う。それでいいと思うわ。………この映像はあいつも見るの?…ああ、そう。会ったら伝えてちょうだい」

 

 

「―――『よう相棒、まだ生きてる?』ありがとう、戦友。またいつか、会いましょう」

 

 

 

 

『円卓の鬼神』。

 

カールスラント戦争を駆け抜け、畏怖と敬意の狭間で生きた魔女。

 

『彼女』はたった数ヶ月の間だけ空に存在していた。

 

その後の消息は、一切不明。

 

 

大学で教鞭を執る「赤いツバメ」、貿易会社を営む「藍鷺」、ダンサーとして生計を立てる「灼熱の荒牛」の2番機、果ては”国境なき世界”のリーダーであった「魔術師」。

『彼女』と関わりのあったあらゆる人物とコンタクトをとった。

 

ある人物は、彼女を『特異体』と評した。

 

またある人物は、『自分も“鬼神”も一生地獄で生きて行くしかねぇ。だが、それも強者の証だ』と語った。

 

何人ものパイロットが彼女に対して抱いた感情を吐露した。

 

『また彼女と空を飛んでみたい』

『感情のない何かと戦っているようだった』

『僚機を奪われたが、憎しみは無い』

『初めて戦闘中に恐怖を覚えた』

 

さまざまな、時には相反する人物評を得ることが出来た。

 

 

だが、ついに彼女の人間性までは迫る事が出来なかった。

 

 

ただ、『彼女』の思い出を話すとき、誰もが少し嬉しそうな顔をしていた。

 

 

………それが、答えなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"Solo Wing Pixy/Liily Foulke"

 

 

 

私は(トンプソン)が去った後、しばらくスタジオ代わりとなった廃墟の天井を見つめていた。

 

 

 

AK-47独特の重い銃声と、それに呼応するようなM16の軽い銃声が微かに廃墟の窓の外から聞こえる。

 

 

 

不意に、相棒(サイファー)の顔を思い出した。

 

 

 

1940年半ば、第二次ネウロイ大戦の戦火に晒された欧州を戦い抜いた扶桑生まれ(・・・・・)のエースウィッチ。

 

戦史に詳しい人間なら誰もが知っている英雄の、その面影を残した子孫。

 

 

 

脳裏に映った幻影に、私は思わず心の中で声をかけた。

 

 

 

「ありがとう、戦友……。いや…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミヤフジ(・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時はやや遡り2ヶ月前……

 

 

 

2005年9月26日08時00分 ガリア共和国領内 トゥインクル諸島上空

 

 

 

 

“Demon Load of The Round Table”

 

アヴァロンダムの戦いから、10年近く経過した。

 

私は既に魔力を失い、自らの力で空を飛ぶことはできなくなっていた。

 

しかし、オストマルクは私というウィッチが自国から失われるのを避けたかったようだ。

私に新しい名前と身分を与えて極秘の内に在籍させ続け、ガリアが隣国に侵攻作戦を開始すると同時に私を独立国家連合軍(ISAF)に派遣した。

 

あがり(・・・)を迎え、エクスウィッチとなった私は、自らの魔力を用いなくとも空を飛び味方を指揮できる、AWACSに管制官として乗り込むこととなった。

 

だが、それも今日までだ。

 

あの化け物(・・・・・)を破壊すれば、戦争は終わる。

 

 

曇天の空の中を忌々しい隕石が降ってくる中、私は、広域無線に向かい声を張り上げた。

 

 

《こちら管制機スカイアイ、聞こえるか?メビウス中隊、状況を報告せよ》

 

7人のウィッチから、次々と返事か来る。

 

《こちらメビウス2。スタンバイ》

 

《メビウス3からメビウス7、スタンバイ》

 

《オメガ11…じゃなかった、メビウス8、スタンバイ》

 

 

……が、相変わらず1番機のウィッチ――頭に白と青のリボンを結んでいる――からの返答はない。

 

そういえば、私も昔はつんけんしてろくに無線に答えなかった。

と、ベルカ戦争時代を思い出し、苦笑する。

 

 

その思い出は、相棒の顔をも私の記憶の奥底から引きずり出した。

 

 

 

 

 

結局、あいつの死体は戦後10年たった今も見つかっていない。

 

オストマルク軍部は数年前彼女に、KIA認定を下した。

 

だが私は、あいつは生きていると確信していた。

 

もしかしたら、今もどこかで戦っているのかもしれない。

 

 

「……よう相棒、まだ生きてる?」

 

 

10年前の古傷が残る左頬に触れると、思わず、あいつの口癖が口をついて出てきた。

 

 

怪訝な顔でこちらを見てきた同僚に何でもないわよ、と返し、この戦争最後となるであろう作戦の開始を告げる命令を下した。

 

 

 

《攻撃準備完了。攻撃を開始する。全機メビウス1に続け!》

 

 

 

既に15機のSu-37がこちらに向かってきているのがレーダーに映っている。

 

相棒なら、「花火の中に突っ込むわよ!」とでも言いそうな光景だ。

 

交戦宣言や撃墜、被弾、緊急脱出を告げる無線が交錯し、慌ただしくなってきたE-767の機内で、30機近い敵味方が映し出されたレーダーをにらみつつ、私はもう一度呟いていた。

 

 

 

 

「……よう相棒、まだ生きてる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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