音声記録-彼が告白した罪-   作:まむれ

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リェータの場合

 リェータは██だ。

 

 朝起きて、ご飯を食べて訓練へ。相手を見つけて模擬戦開始。

 自分の弱さを知った少女は、今度は力になれるようにと少しでも強くなるべく拳を振るう。ロドス艦内で広大に作られた訓練室は、室内戦市街戦平野戦etcと様々な場面を想定した訓練が出来る場所だが、リェータに限って言えば距離数メートルの遭遇戦や奇襲したりされたりを重点的に選んでいた。

 

「ふむ、熱心なのは良い事だなリェータ」

「ありがとうございます、教官!」

 

 新人ロドスオペレーターの登竜門、ドーベルマン教官の扱きを二度も体験したいと思うオペレーターはほとんどいないが、リェータに限って言えば二度ならず三度四度と願いを出し、両手で数えきれない程繰り返し受講して教官本人を呆れさせた程だ。

 リェータにとっては幸運──新人にとっては不幸──な事に、ドーベルマン教官は熱心なオペレーターだった。毎度同じ内容では代わり映えしないだろうと五回目あたりから、訓練内容に一捻り加えるようになった。人質を助けたと思ったら敵の仲間でしたと安堵した訓練生を背後からブスリ。武器がない状況からスタートして、死体役の横に置かれた武器を手に取れと言っておきながら下にはペイント爆弾が仕込まれていたり、ヒット判定の出た標的に近付いたら死亡判定が出ていないから動けますからの巻き付けた爆弾がドッカンだったり。彼女の名誉を守るために言うのであれば、ドーベルマン教官は決して悪辣な性格をしているわけではない。ただ、可愛い愛弟子のために力を尽くしただけなのである。

 

 課程を満了して晴れて正式にオペレーターとなった新人達の言葉を借りて言えば“性格の悪い”訓練を毎度受講するリェータに、教官は「何故そこまでするのか」と問いかければ、彼女はいつも同じ言葉で返す。

 

「私は強く、なりたい。もう無力な自分は嫌なんだ」

 

 ウルサス学生自治団が保護された環境を思えばその言葉は理解できる。だからこそドーベルマン教官は、リェータを苛烈なまでに鍛えた。休日であろうと請われれば即座に訓練室を確保し、本人が止める意思を見せなければ朝早くから日付が変わるまで部屋を占有してアーミヤやケルシーから小言を貰う事もあった。

 教官を庇うリェータを制止して、自ら頭を下げるも後悔していないと清々しい表情の顔を見れば、怒る側も毒気を抜かれて考えた言葉が喉から出てこない。

 

「今日も頑張ってるなあリェータ」

「おー、ドクターか」

 

 ロドスアイランド三大柱の二人が怒っている横で、残る一柱であるドクターは絞られてげんなりな二人に近付いて軽い雰囲気でリェータを労う。

 

「どう? 今日も強くなれた?」

「もっちろん! 教官には感謝してもしきれないぜ! ……ドクターにも、だ」

 

 何を隠そう、ドーベルマン教官が要請すれば即座に必要な部屋を確保出来るように働きかけたのがこのドクターだ。沢山の建前と本文中に潜む真打の一文をしっかりと見抜きながらも、アーミヤに密告する事無く他の資料と同じ様に判子を押して処理済みの箱へ放り投げて通した。

 事態をアーミヤが知った時には既に遅く、問い詰められても「いやあ仕事が普段から多いからねえ」と開き直り過ぎて責任転嫁までする始末。当然、横に居たケルシーの怒りのバロメータが一瞬で沸騰して冷静に激怒する事件にまで発展した。

 

「けれど、本当にほどほどに頼むよ? 怪我をしたり、実践で訓練の疲れが残ってたから全力を出せませんでしたなんて言われても困るからね」

「うー、ドクターには申し訳ないけど、私は止まれないんだ。わかるだろ?」

「リェータ、止まれないのは解ってる。けど、休息はきちんと取るべきだ。でないと……例えばセルゲイを守る時に全力を発揮できないだろう?」

「うっ……わかったよ!」

 

 ドクターのアドバイスに、リェータは正直だった。『彼』の名前を出されれば、如何なリェータとて素直に聞き入れざるをえない。例えば小言ばかりのアーミヤやケルシーでも、リェータは身体を縮こませずに胸を張って己を主張を貫き通そうとしただろう。だが、『彼』の存在はリェータに存在する数少ない弱点の一つであった。

 

 リェータがこれ程までに訓練へ熱心になる理由。それを知る希少な存在であるドクターからすれば、あまり使いたくない要素。それでもこうして時々使うのは、誰かが止めなければリェータは我が身を顧みない行動をするからだ。

 訓練でも時折見られる自分を犠牲にするような立ち振る舞い。ドーベルマンは、少なくともそんな英雄的な行動をさせるためにリェータ含む新米を扱いてる訳ではない。

 

 ドーベルマンは確かにリェータを贔屓にしている。だからこそ、実力ではなんら問題ないと評価していても未だに彼女に対して合格通知を出していない。

 このままオペレーターとして出せば、なんでもない、己のミスで窮地を招いた味方を庇って命を落としかねないと判断しているから。鬼の新人教官の名は、訓練生だけに向けられるものではないのだ。

 

「教官、今日はどうだった?」

「また、一撃の威力が強くなっていたよ。だからこそ、惜しいな。あの逸材が眠ったままというのは」

「ごめんねぇ、俺達も、どうしていいかわからないんだよこの問題は」

「私とてそれは一緒さ。全く、特定の生徒を特別扱いなんて教官の名は返上した方が良いかもしれん」

 

 


 

 

「おー、やってるね」

「遅い」

「んだよ、こちとら教官の可愛がりを潜り抜けたばかりだと言うのに」

 

 訓練を終えたリェータは身を清めた後、すぐさまウルサス学生自治団の本部へと向かう。ロドスアイランドの好意で用意された小さな会議室は、銀の壁と白の床という殺風景な時代を終えてお洒落に模様替えされている。

 薄茶と淡い桃色の陶製タイルが敷き詰められた部屋に入れば、正面にテーブル四つをピッタリくっつけた机が設置され、その上に団員の私物とライトが数点乱雑に置かれており、そこを中心として、銘々が自由な時間を過ごして紅茶を嗜んでいた。壁際にはラーダ──グムの背丈の二倍はあろう巨大な本棚が存在感を放っており、抜き取った本を元の場所に戻さない尻拭い……つまりは整理整頓をアンナがやっている。本棚への返却も碌に出来ないのは他ならぬ団長であり、文句を言われた後なのか仏頂面でナターリアが用意した紅茶を飲んで喉を潤していた。

 

「しょうがないよねー、ソニアお姉ちゃんは片付けずーっと苦手だもん」

「本を抜き取ったらそれを戻すまで他の本には触らない。それが何故ソニアには出来ないの?」

「いや! アタシだけのせいじゃねーだろ!? アンナがごっそり持っていくから、どこから取ったか忘れるんだよっ」

「学習しねーなソニアは」

「ウルサス人ですら嫌気の差す教官訓練を、両手で数えきれないくらい履修してる脳筋に言われると腹が立つ」

 

 週に最低一回は開かれるこの集まりは、かと言って何か特別な事をするわけでもなくただ同じ空間で同じ時間を過ごしたいと言う願いで設けられた場だ。

 例えばナターリアはティータイムと洒落込みながら学生自治団の面々を観察しているし、アンナは大体読書。グムはお菓子を食べて誰かに話しかけるか突発的に手料理を作って皆に振る舞う。ソニアはファッション誌だったり新聞や小難しい指南書を読んで己の能力を磨いている。

 

「んだよ、今日も来てないのかアイツは」

「そうだな」

「最後に来たのはいつだったっけ?」

 

 部屋を見渡し、隅に追いやられた椅子を見たリェータは残念そうに呟く。ウルサス学生自治団には本来もう一人大切な構成員がいたが、この場にその姿はない。

 

「さぁ、いつだったっけ?」

「グムはわかんないよ」

「……どうだったでしょうか?」

「アンナ、そうして私の方を見るのは何故かしら? 彼の事をなんでも私が知っていると思ったら大間違いよ」

 

 各々が、リェータの疑問に口を出すが答えは出てこない。解決しない問題に、リェータが新たに声を出そうとした時、力いっぱい読んでいた本を閉じる音が室内に響いて全員が音の主に視線を吸い寄せられる。

 

リェータ(・・・・)

 

 一目見て、不機嫌だと分かる顔。ウルサス学生自治団団長であるソニアは、とても小さな子供には見せられない程の険しい表情でリェータを睨み付けた。

 

「アタシはお前にセルゲイを呼ぶように頼んだはずだよな?」

「えぇ? いや確かにそうだがよ、アイツ、私の顔を見るなり逃げだすんだぜ?」

「リェータ?」

「……わかったよ。次は、上手くやるからそんな怒んなって」

「その言葉も何回聞いたかわからないな?」

「だってよ! ちょっと追いかけて疲れて目を逸らしたらもういないんだぜ?」 

 

 強くなったとはいえ自治団の一員を自負するリェータは、ズィマーにとても弱い。いや、ズィマーだけではなく、構成員の誰にも弱かった。苛烈な敢闘精神もこの面々の前では海中深くに沈没したが如く強く出れない。語気に反して、リェータの顔色は優れず、目を合わせる事無くタイルに視線を落としていた。

 

「次は、絶対連れて来てくれ」

「……って言ったってよぉ、何度失敗したか数えてんのかよ」

「31回だ。この問答も同じくらい繰り返してきたんだが」

「ちょっとズィマー(・・・・)

 

 見かねたのか、アンナが口を挟む。窘める声でソニア──ロドスでのオペレーター名である『ズィマー』を呼びながら──を見るアンナの目は険しい。

 

イースチナ(・・・・・)

「私達は急がないし焦らない。そうでしょ?」

「………………そう、だったな」

 

 ゆっくり、言い聞かせるように。

 アンナに合わせて、彼女のことをオペレーター名で呼んだソニアは数秒の沈黙のあと、諦めたように溜めていた息を吐いた。

 

「悪いな、ちょっと強く言いすぎた」

「あ、ああ、いいけどよ……」

「ほーら、グムちゃんが作ってくれたお菓子食べましょうねー」

 

 微妙な空気が蔓延した本部にすかさず甘い一打を打ち込んだのはナターリア。グムの作ったお菓子を皿へ小分けにしつつ、グムと一緒に団員達に配る。食べた後に本へすぐ触れるように手拭きまできちんと渡して、配り終えた後に席に戻ると真っ先に口へと運ぶ。

 

「美味しいわね、グムちゃんのお菓子」

「言われなくても、皆知ってるぜそんなこと」

「一番食べてるのはソニアですからね」

「私の分まで食べた事あったよなぁ? えぇ?」

「だいじょーぶ! そしたらまたグムが作ってあげるから!」

 

 いつも通りの雰囲気に戻り、拗れなかった事にリェータは安堵した。巻いたままのスカーフを首から取って丁寧に畳み、机の端へと置く。

 リェータはこの空間が大好きだった。仲間達と、なんでもない時間を共有するこの瞬間が大好きだった。会話が途切れる事もあるけれどそこに不快感はなく、訓練で溜まった疲れがすぐになくなるくらいには癒される。

 

 だからこそ、皆に申し訳ないと思うのだ。

 31回もセルゲイを連れてくることに失敗してしまった自分が情けなくて嫌になる。強くなりたい、仲間の役に立ちたい、守られるだけは嫌だと立ち上がったのに、未だに前線オペレーターとして合格を貰っていない。

 セルゲイをここへ連れてくるのが先か、オペレーターとして合格を貰えるのが先か。そんな事を皮肉交じりに言われても、現状が現状なだけに言い返せないのだった。

 

 

 

 

「ねぇ?」

 

 夜も良い時間になったところで、集会は解散となった。片付けはもちろん全員で、ソニアはアンナに見張られながら本棚の整頓をして、グムは調理器具を洗っている。

 リェータも自分の散らかしたものを片付けている時、一足早く終えたナターリアが小さく話しかけてきた。

 

「本当に、セルゲイはあなたから逃げてるの?」

「そーだよ」

「本当に?」

 

 しつこいな、とリェータが嗜めようと振り向くと、昏い二つの目がじっとリェータを見ていた。

 普段通りの声で、口をニッコリと緩めながら、ナターリアはそれ以外何も見ていないかのようにリェータを視界の中心に据える。不気味な佇まいに、喉元まで出かかっていた言葉がひゅっとどこかへ消えていく音が聞こえた気がした。

 

 

今までずっと、誘おうと近付いたらあいつが逃げたんだ。
 
顔向けできなくて、あいつと話すのが怖くて私が逃げた。
                           
もう何度も────

 

「あ? いや? あれ? どうだったかな? うん、そうだそうだちがいないよ、ほんと、なんでだろうなあ……わたしにもわからないよ」

 

 思考に霧がかかったような気持ち悪さが身体を這って全身に広がっていく。自分が今何を考えているのか、一瞬で吹き飛んで、混乱のあまり呂律がおぼつかなくなり、立っていた足に力を込める事が難しくなる。

 リェータの身体がふらり、と崩れるように倒れそうになり、

 

「…………彼にも、時間が必要なの。ごめんなさいね、変な事聞いて」

「いいってことよ。逃走したあいつを捕まえられない私もわりーんだからよ」

 

 ──正面から両手でリェータの肩を掴んだナターリアによって押しとどめられた。

 ナターリアの手と、申し訳なさそうな声に意識がリセットされ、曇っていた視界が元に戻る。

 

「わり、なんか訓練の疲れが今さら回ってきたみてぇだ。ちょっと今日は任せてもいいか?」

「ええ、お詫びと言ってはなんだけど、今日もあなたの分もやっておくわね」

 

 ふらふらと出口へ向かうリェータの背を、全員が見ていた。片付けのために動かす手を止めて、心配そうな瞳──の中に何も感じられない無機質なものが二対──が向けられていた事を本人は知らない。

 自室に戻り、寝具の上で寝転んで目を閉じてなお、さっき感じた気持ち悪さが晴れる事はなかった。




すみませーーーん! 原作内でリェータの情報全然ないんですがーーー!!!
というわけでそれっぽくしてみたけどなんもわかんね!! ウルサスの子供たちの続編来たら俺は終わりだぁ!!
EN版GALLERYにウルサス学生自治団集合してる壁紙あったんですけど楽しそうだったなあ……

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ぼくはね、感想と評価が欲しい(強欲)
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