【完結】【自己ベスト記録】過ぎ去りし時を求めてSS~聖竜の勇者ルートRTA:24時間31分44秒22 作:ryure
懺悔と果たせなかったなにもかも、あるいは
「預言」なんて最初は信じてなかった。
せいぜい、あんまりな事が続いたもんだからついに脳みそが都合のいい夢を紡いだんだってな。
オレはそう思ってた。
預言の通り、地の底で光を見るまでは。
……確かにあいつは光だった。
いつだって先導して、救いをくれて、それでいて。
ただの年下の生意気なガキには違いない。
きっと特別なんかじゃねえさ。
人情を持ち合わせていただけで、決して諦めなかっただけで、手を伸ばそうと思い、そして、生まれながらに選ばれただけで。
欲しい時に差し出す手に縋り付いたのは俺が最初だったかもしれねぇけど。
まったくどの口が言うんだって、な。
幼い頃に親に捨てられ、当然他に親類もなく、家族はたったひとりの妹のマヤだけだった。
どうにも要領が悪くて、ただ現状維持に燻っていたオレと違って利発で、いつか金持ちになってやるなんて息巻いていた小生意気で、目に入れても痛くないほど大事で、言えば怒るだろうが唯一無二で宝物の可愛い妹だった。
マヤが黄金の呪いを受けた時、オレは手を伸ばさなかった。
呪いへの恐怖が勝って手を伸ばせなかった。
掴んでやれなかった手をアイツは絶望の目で見ていた。
その目がどうしても忘れられなかった。
どう考えても町の神父さまがどうにかできる呪いじゃなかった。
呪いのことを養い親代わりの海賊どもに相談できるわけもなかった。
「生きる希望」を失って、至極呆気なく堕ちたのさ。
元々海賊の下っ端だったから今更かもしれないがオレは犯罪に手を染めた。
全てを覆い隠す寒々しい雪をこれ以上見ていたくなくて、どこかの船に潜り込んで別の大陸に渡ると手始めにパンを盗んだ。
カモを見つけてスリもやった。
それなりに覚悟をつけてからはちょっとした宝を狙うようになってオレは少しずつ名前が売れてきた。
そのうち仲間ができた。
そいつは盗賊なんて微塵も向いちゃいねぇ、気のいい男だった。
デクはオレのことをアニキだなんだと呼んで行動を共にした。
……少しだけ、罪悪感が薄れたような錯覚。
デルカダールの下層で顔見知りもできた。
昔のようにオレのことを弱虫に見るやつはいなくなった。
きっと孤独でもなかった。
クソッタレな泥沼の世界でオレはまるでマヤのようにちょっとばかり要領よく、少しだけ泳ぎ出せたように思う。
だが、遺跡を巡り、人を当たり、古い本を探しても黄金の呪いを解く方法は見つからなかった。
ヤケになって、せめてマヤが欲しがったレッドオーブを盗み出そうとして、あっさり失敗して。
デクまで捕まることはなくてそれは良かったが、オレは現行犯で捕まり、暗く冷たい地下牢に閉じ込められて釈放の望みもない。
暗がりでお優しくも差し入れられるまずい飯をすすりながら、こっそりと抜け穴を掘りながらオレは絶望していた。
正面突破は無理だ、だからといってこの抜け道から抜け出せるか、本当に?
それで抜け出してからどうするんだ?
ってな。
また盗賊に戻って誰にも、マヤにも顔向けできない生ぬるい暮らしを再開する気なのかと自問自答を繰り返す。
そしてそんな時に夢を見たのさ。
胡散臭い女が夢の中に現れて言ったのさ。
『オーブを集め、いつか地の底で出会う勇者に力を貸せばお前の贖罪も果たされる』
夢のような話だろ?
夢なんだからな、ただの夢に違いねぇさ。
贖罪?
マヤのことか?
「勇者」ってやつは呪いを解くこともできるのか?
「勇者」とはなんだ?
巷で言う「悪魔の子」のことか?
呪いを解くためには悪魔に魂を売れってか?
まったく、オレにはふさわしい末路だな!
信じちゃいなかったさ。
信じられなかったさ。
だけどもある時、黒い方の将軍さまがこのシケた地下牢に少年を連れてきた。
オレの前の牢屋に放り込んで、随分物々しいと思ったね。
少年は怯えきっていて、動転したのかツボかなんかをけたたましい音を立てて破壊したんだっけか。
オレは暇だったし、そいつに話しかけた。
地の底でも少年の紫色の目がぼんやりと光って見えたっけ。
まさしく光だった。
あぁ、オレはたしかに地の底で光を見たんだ。
それっきりオレは勇者のことを信じた。
いや、アイのことを信じた。
旅の途中、マヤのことは話さなかった。
クレイモランで氷の魔女と戦った時でも話さなかった。
それどころか妹がいることさえ伝えていなかった。
だけど、何故かアイツは全部わかってたみたいだった。
いや、正確には分かっちゃいなかったがオレが何かワケありなことはわかっていたみたいだった。
ぼーっとしているようで、おっとりしているようで周囲のことをよく見てやがる。
それがアイツだった。
だいたい常に無表情で、何考えてんだかイマイチわかんねえ時もある。
だけど過ごす時間が増えるうちに無表情の裏で考えていることがわかるような気がしてきて……だんだん最初に抱いた「光」の印象よりもただの気安い「友達」のように、等身大のアイツがわかってきた。
まず、今どき金持ちでも珍しいくらい大事に大事に育てられた坊ちゃんだってこと。
裕福な育ちの坊ちゃんって意味じゃねぇ、単純に大事に愛されてきたって意味だ。
しかも、育ての母は本物の母ではなく、育った村も嵐の日に流されてきたって話だからどこにも血縁関係のない場所ってことだろ?
正体が勇者でユグノアの王子だったということを育てのじいさんが知っていたとはいえ、とっくに滅んだ国に王子を救ったお礼なんて求められるわけもねぇ、十四年間音沙汰無しで拾ったじいさんが亡くなったあともじいさんの娘である養母はそりゃあ大事に大事に育ててお宝坊ちゃんにしたってわけだな。
育った村も意味不明なくらいお人好しだ。
元気な男手としては間違いなく欲しかったろうが、聞いている限り村の子どもとなんら区別されることなく育てられ、なんなら同世代の村長の家の娘と幼馴染で仲良しだったと。
辺境の村だし下世話に考えれば外を知らない、つまり外に出ていく危険のない、健康なよその血は大歓迎だろうが、にしても村の中の権威とか気にしないものか?
その幼馴染は不幸にあったが、その現場にいあわせショックを受けたアイを咎めるどころかこれ以上失うものかと過保護になったってマジかよ。
俺の知ってる常識なら良くて奉公に出されて給金を搾取、悪くて農奴、普通に考えれば村の別の娘をあてがわれて首輪にされるだろ。
そういうわけでアイの身体には溢れんばかりにお人好しと愛が詰め込まれていて、そのお陰で無表情の裏にはミチミチに自己肯定感が満ち溢れているって訳だ。
だから見ず知らずの困っている人を見ればすかさず手を差し伸べるし、アイが困れば間違いなく誰かが助けてくれると信じている。
アイは家族を愛していたし、村の人間を愛していたし、仲間のことも……オレのことも、好意を隠そうとしないし、それが真っ当に返ってくると疑いもしない。
夢物語のような正の連鎖の真ん中にアイはいた。
そして……あー、オレもその一員に加わったわけだが、今までだいたいその通りになった。
クソッタレな世界の闇。
闇こそこの世界の根幹であり、世界は闇から始まった。
そのうるわしい洗礼をアイだって嫌というほど浴びてきた訳だが夜闇に飲まれることなく、星のように光であり続けたさ。
みんなの道標として、救いの光として、縋り付くための手を差し伸べて。
アイは光だった。
アイは眩しいほどに真っ直ぐで。
だから、オレが嫌というほど知っていた理不尽に叩き折られて。
でも、アイはただへし折られて腐っちまう普通の人間ではなくて、理不尽に復讐できるだけのチカラを与えられていて。
ベロニカの死によって後ろも見ずに走り出したアイは小さいからだで大きな剣を振るい、文字通り血反吐を吐きながら魔王を倒した。
そして、また奪われて。
アイをかばったロウじいさんのからだに縋り付いて泣いて、その時には倒すべき敵ももういなくて、向けられる矛先もなく。
誰も、アイにかける言葉なんてなかった。
元凶を倒したからといって死者が蘇るなんてありえない。
だから、アイの復讐はどうしたって大団円にはなりえない。
だが、オレたちも同じように理不尽にそれぞれ奪われてきたから、使命感と復讐心に取り憑かれたまま走り続けて、それでこれだ。
マヤはもういない。
アイの肉親ももういない。
優しかった養母も、珍しいほど穏やかだった育ちの村ももうこの世にはなく。
帰るところがあるヤツもいなかった。
オレは心の中で自分を慰めた。
状況はほとんど最悪だったが、元凶を倒すことは出来た。
それに旅でふたりも失ったが、逆に言えばほかの仲間は生きている。
世界には“崩壊”のせいでごまんと天涯孤独になった悲惨なやつがいるだろうにオレたちには互いがいるじゃねえか、しかも大きな怪我もないし、幸運な方だ。
手足がもげて、何かが欠けて、そのくせ縋るものもない、そんな死んだ方がマシなヤツをいくらでも見ただろう、と。
魔王を倒したおかげで魔物は以前ほど凶暴ではなくなったし、オレたちなら世界中どこへでも行ける。
マシな場所を見つければほかよりいい暮らしができるだろ。
ベロニカもロウじいさんも、きっとそれを願ってただろ?
ふたりとも身を投げ出してまでアイを助けたんだから魔王を倒したあとの人生を幸福に生きなきゃむしろ顔向けできないだろうってな。
それぞれが大切な人を失った故郷を離れ、誰の縁もない土地でやり直せるはずだった。
死者のことを忘れられないでいたとしても、もう穏やかに暮らしてもいいはずだった。
アイは泣いていた。
ロウじいさんの遺体に縋り付いたまま泣いていた。
オレたちも泣いていた。
大切な仲間を失った悲しみは激しい痛みとなって胸を突き刺して。
だけどこのままじゃ。
アイ、お前はいつも他人のことばかり。
そろそろお前も自分の幸せってやつを考えるべきだ。
いつだって請け負って、頷いて、傷ついて。
一生懸命に戦った先で誰かが失う姿を見る。
繰り返し、繰り返し、世界を救う過程でどうしようもなくなってこぼれ落ちた死者を見送って。
そろそろ、なにか、忘れられるようなことがあれば。
忘れられなくてもいい、少しの時間でも気が紛れるものがあれば。
「勇者」とは関係のない、「使命」とは異なるなにかがあれば。
ただ一瞬でいいから気を紛らわして、起きた悲劇以外のことを考えて欲しかった。
オレはケトスの上で焼け焦げた世界を見回し、そして。光る何かを空から見た。
グロッタの近辺だったか、だがあの辺りになにがある?
グロッタはもうただの瓦礫の山だ。
バンデルフォンはとっくになく、地続きのユグノアも言わずもがな。
周辺国が次々に滅んだせいか、孤児院が運営されていた町はもうない。
オレは覚えておくことにした。
キラキラ光る何かを見るとアイは喜んで取りに行ったもんだ。
オレが密林でくれてやった不思議な鍛治が大好きなアイは素材を集めることにも余念がなかったな。
……世界崩壊が起きる前までは、だが。
少ししたら言ってみるか。
もしかしたらすごいお宝かもしれないぜ。
天空魔城は木っ端微塵になったわけだし、あの趣味の悪い城から金目のものが地上に落下したあとかもしれねえ。
それにしても、距離がおかしいかもしれないけどよ。
まぁ枯れ果てた大樹が空に戻ってきたくらいだし何が起きててもおかしくねえ。
その後、ロウじいさんはユグノア王夫妻の墓の隣に葬られた。
マルティナも見ていられないほど憔悴していたが、これ以上戦い続けなくていいという事実は少し前を向くのを早めてくれたらしい。
だけど、アイだけは、アイだけは違う。
役目を終えたはずなのに未だに手の甲に居座る勇者の紋章に突き動かされるようにじっと大樹の方角を見つめていることが多くて。
まるであの恐ろしい闇の大樹に次の命令をされるのを待っているかのように。
それで、オレは見ていられなくて言ったんだ。
本当はもっと落ち着いてから言おうと思っていたが、あのグロッタ付近のキラキラの話をして、それで、アイが久しぶりにキラキラを見て嬉しそうにするあの顔をするのが見たくて、オレは。
……後悔している。
「勇者」にしか許されなかった時渡り。
過ぎ去りし時を求めて、お前はひとり、孤高の勇者に成り果てて。
あんな歯車を見つけなければ。
忘れ去られた塔を探し出さなければ。
地の底で光を見たんだ。
預言を信じたのはオレの方だ。
たとえ贖罪が果たされなくても、もうオレは、オレはもう誰も失いたくなかったよ。
マヤを失い、お前も失い、一体オレは何を寄る辺に生きていけばいいんだ?
自己中心的なエゴの発言をお前は笑って受け止めた。
涙は乾いて、あの無邪気な微笑みは名残すらなく。
オレたちにさえ、お前は弱さを見せなくなった。
にこりともしないあの生意気なあいつの目が輝くのが笑顔だと知っていた。
今のお前は綺麗に微笑んで、あまねく全てを見守っているようだ。
オレはナイフを振り上げる。
震える手を押さえ込み、勢いよく忌まわしい紋章に突き立てる。
摂理がない世界で、とうとう阻まれずに、鮮血が飛ぶ。
お願いだ、生きてくれよ。
ただの少年たちの幸福はなんということもない、
「やぁカミュ。全然来ないから来たよ」
「……おうアイ、よく来たな。それでなんだその大荷物。あと、来るって聞いてねぇけど……デルカダール、大騒ぎになってねぇ?」
「今日は休日だから上司は知らないけどロウじいちゃんには伝えたし大丈夫でしょ。マルティナ姉ちゃんには手紙置いといた!
あのね、マヤちゃんの入学祝いに不思議な鍛治をいっちょやろうと思うのだけど、保護者的にはどういうものがいい? なんか実用品? それとも本人に聞く? メダ女って教材とか指定あった? 普段は制服だから敢えて休日用の私服とか? プリンセスローブとかどう? いけない、好みの問題があるよね。もっと動きやすそうなのがいいかな? サイズアウトした時の売却額も考慮する? それともサイズを直せるように内側に布を折り込んで作って……やったことないけどAラインのワンピースとかならやれるかも。でも肩幅はどうしようかな……試作のためにいっそ五着くらい……まずカミュで試作しよ。
カミュが素材を集めて、カミュに着せる。最近まともな服着てるけど胸元あけすぎだから布面積が多いやつにしよう。もし首が詰まってるのが暑かったら素材で涼しくするから。じゃ、何色がいい?」
「まてまてまてまて、ひとつずつにしてくれ」
「もちろん一着ずつ試着して都度作るよ」
「そっちじゃないんだ」
「うん、知ってる。とりあえず手元にはカミュが昔着てたレザースーツの型紙しかないから採寸してもいい?」
「だから待てって」
「冗談だよ。ワンピースにはしないから」
だから無表情のまますっとぼけんなって。
オレはわかるけどよ、たまに冗談なのか本気なのか分からなくて混乱するやついるんだぜ。
矢継ぎ早に話しながらアイはどデカい荷物から不思議な鍛治台を取り出して、オレの家の中に我が物顔で設置し始めた。
それは構わねぇけど……鍛治台を出してもなおでけぇ荷物には大量の素材が詰まっているに違いねぇな。
そんなもんよく背負ってきたもんだが、アイは元々小さいくせに両手剣使いの馬鹿力の持ち主。
最近元の戦闘スタイルに戻そうと「今」で鍛えていた片手剣から転向してスキルを振り直し、鍛錬に励んでいるらしい。
ていうか全然アイのところに行ってないってワケじゃなく……先週もシルビアのところでサーカス見てから八人集まってデルカダールで飯食ったじゃねえか……。
目の前でなにやらひとかかえもある素材が鍛治台に放り込まれかけたのを何とか止めて、ゴーイングマイウェイなアイに戻ったことをしみじみかみ締める。
突拍子もないが好奇心と善意しかない無害なアイ。
無害っていうのはアイ本人にとってだ。
せいぜい不思議な鍛治のやりすぎで夜更かしするくらいしか本人に害がないだろうし。
しかも最近「上司」のラリホーがラリホーマにパワーアップしたらしいから夜更かしもできずにちゃんと寝てるだろうしな。
毎晩寝てないやつがいないか巡回してるとかマジかよ。
兵隊の偉いさんってそんな世話焼きな保護者じみたこともしなくちゃいけないのか?
「もちろん仕事はあるけど、これまでと違って目的とかないし、未来が『分かってる』ってこともない。ある意味『やることがない』ってすごく良くないと思ってね。ただ日々をぼんやりしてるのは性にあわないし、なんかそれはそれでみんな心配しちゃうし。……旅の時みたいに気を遣わせるのもどうかと思って」
「自覚はあったんだな」
「そりゃあったけど。みんなが心配しないように表情筋を総動員してニコニコしてたのにあんまり誤魔化されてくれなかったなぁって思い返して」
「『既視感』があったから笑顔のアイとかむしろ違和感しかなかったぜ。それで、何をたくらんでるんだ?」
「たくらんでるってほどじゃないよ。僕がたくらむようなこと、もうないでしょ」
荷物の中から巻尺を取り出したアイは流れるようにオレの腕の太さを測り、腰周りを測り、サラサラとメモ帳に寸法を書きながらオレの目を見上げる。
ちっとも見慣れないくせに妙にしっくりくる晴れ渡った空の目が、旅をしていた頃よりも随分間近に迫ってきていて、「成長期だからな」と現実逃避のように思い当たった。
オレもまだまだ背が伸びると思いたいが、この勢いだとアイは無茶な戦いのせいで「前」より足踏みをしていた分もぐんぐん伸びるに違いない。
ユグノアで見た父君もそこそこの長身だったことだし……。
「『実戦』には必要がないものをみんなに贈ろうと思って。不思議な鍛治でやるから服か装飾品かになるけどね。戦えない構造、材質の服とか、丈夫じゃないアクセサリーとか。今は無理でも、そういうものを常日頃から身につけられる世界になるように、願掛け」
「へぇ、いいじゃねぇか。それでいきなり来たってワケか」
「ひとりで回るのなんだか面白くないからせっかくだしカミュを誘おうと思って」
「……ホントか?」
「カミュなら来てくれると思ったから。
姉ちゃんはお姫さまだからデルカダールのお城にいるものでしょ、ロウじいちゃんはあちこち回っててぜんぜん捕まらないし、ホメロスとグレイグは将軍だからあんまり国を離れられないでしょ、なんか呼んだら有給取りそうだけどそもそも上司をお供にするのはちょっと。セーニャとベロニカはラムダで勇者の本を書いてるらしくて忙しそう。シルビアは旅芸人の巡業で今どこにいるかわかんない。サーカスにも半分くらいいないし。で、カミュ」
「おう……」
そいつは光栄なもんだが一部に恨まれ、いや羨まれそうでもしかしたらあとで何か言われるかもしれねぇ。
まぁでもいいか。
ここはアイに暇そうだと思われた者勝ちってことで。
「約束通りもう一回旅をしてくれたから、いっそもう一回と言わずに何度でも旅をしてもらおうかなって」
「おう? おう」
「あ! マヤちゃんが卒業したらちゃんとイシかデルカダールに帰るから安心してね」
「? 相棒なんだから別にいつまでも構わないんだぜ? 手紙を出すかルーラで顔見せしたらいいんだからな」
「あ、そうか。そうだね、みんなに会えるんだものね」
「……、みんな、いつだとしても歓迎するからな?」
「そう?」
それは「みんな」に会えなかったアイの言葉。
今生の別れのあとの孤独が染み付いてやがる。
こんなに寄ってたかってもみくちゃにしてきたっていうのに根強いぜ。
そんな、すっかり思ったことをなんでも口に出す「素直なアイ」がご無沙汰だったせいで反応が遅れ、アイはもうオレの話なんて聞いちゃいなかったがまぁいいか。
鍛治台のフタをあけてポンポン材料を放り込んだアイはハンマーを手に取って邪神に立ち向かった時よりよほど目を釣りあげて集中モード。
この様子じゃちょっと乱れ打ちさえすればあっという間にヘパイトスの炎が発動するに違いないな。
鍛治を始めたアイはこっちのことなんて気にもしない。
今の合間に出掛ける準備でもしておこう。
トンテンカン。
カンカンカン。
懐かしくも聞き慣れた音を聞きながら。
アイが不思議な鍛治を熱心にやっていた頃は平和だったよなあ。
トントントン。
カンカンカン。
ところで服を作ってるんだよな?
なんで金属音がするんだ?
「カミュが着れそうなのってなんか派手なんだよなあ」
「出会った頃の配色思い出してみろよ……」
独り言っぽいのに返事をしてみるとアイは鼻歌でも歌いそうなくらい機嫌よく返してきた。
「服は地味めだったけど、腰に赤い布巻いてたからしばらくそれ目印にしてたかなあ」
「この頭じゃなくてか? あ、いやフードかぶってたのはオレだったな」
「頭は隠すのに胸元は出ててなんて都会的なんだと田舎者は思ったよ。都会のお兄さんってそうなの? って……」
できた!
と掲げられた派手なターバン付き衣装は悪いが丁重に断らせてもらった。
実戦に必要なくても日常生活にも必要ないだろうよ。
断るのも織り込み済みだったのかすかさず次の鍛治が始まった。
まだかかりそうだな。
オレはいつかのように座ってアイと鍛治台が奏でる音に耳を傾けているといつの間にか眠っていた。
なんということもない、ただの日常
有給明けに実家と職場に世界のお土産とたくさんの不思議な鍛治製防御高い普通の服を持ちこむアイくん
読了ありがとうございました!
追記(2024/9/22)
連載当時の裏話
・わざとタイトルのRTAタイムを有り得なく遅く表記
小説のくせに(本当にRTAしてないくせに)本家リスペクトが足りないと思いたくなかったため、せめてもの抵抗
・例のシステムや語録不使用 にわか知識で出していい深淵ではないし、使いこなせもしないし、不使用RTA小説が読んでみたかった
・ドラゴンネストRとFGOに影響を受けている
世界の根幹の闇 太古の昔に聖竜の汚染、時間戻ってすり減るメンタル→ドラネス
剪定事象という概念、開幕特殊バフ→FGO
・メンヘラオジサン救済→pixivで流行っている概念。仲間たちの記憶が戻る所までほぼセット
・ベロニカ視点が少ない→原作でも最後の方どこまで知っているんですか? どこまで思い出した? という人物なので
・ハッピーエンド→最初バッドエンドの予定だったが書いていてあまりにも可哀想になって気づいたら丸く治まっていた(大樹焼失)
・大樹(聖竜)は悪ではない。神や超越者ってそういうもの
・同人誌にしました。BOOTHに無料でデータ公開してますhttps://ryuasuthire.booth.pm/items/4250413
再配布ダメです。収録していない話が2話あります(今年に更新したもの)
攻略本並の鈍器になったので満足しています。もう二度とこの長さ編集したくない
どこ好き?
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RTA部分:数値付き解説
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RTA部分:ストーリー解説
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RTA部分:走者の他作語り
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小説部分:アイ視点
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小説部分:カミュ視点
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小説部分:セーニャ視点
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小説部分:マルティナ視点
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小説部分:ロウ視点
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小説部分:シルビア視点
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小説部分:グレイグ視点
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小説部分:ホメロス視点
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小説部分:その他視点
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全般:再構成ストーリー
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全般:原作死亡キャラ生存
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その他(感想・コメントへ)