異世界空手部・やわらかスマホの裏技   作:コッコリリン

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この話と次回の話、異世界スマホファンの方々……これ書いといて今更ですが、マジすいません(土下座)


11.迫真空手部、誤解の戦い

「はぁ、やっと終わった。あの人話長いなぁ」

 

 王都のとある屋敷にて、正門からぼやきながら歩いて出て来るのは、まだ少年とも呼べる一人の男。目鼻整った顔立ちに黒い髪に黒い瞳、白いシャツの上に羽織った黒いジャケットという出で立ちだ。

 

「まぁ、いいか。とりあえず早く帰ろう……あ、そうだ」

 

 仕事の依頼で荷物を届けた後の、その依頼の品に関しての知識を耳にたこができる程に長々とした話を聞いていたせいで疲労の色を隠せない少年は、唐突に思い出したと掌をポンと叩く。そしてその場でUターン。おもむろに懐を探り、そこから黒い板状の物を取り出した。

 

「二人にお土産でも買って帰ろう……何がいいかな~」

 

 のんびりと、彼は王都の店が立ち並ぶ通りを目指す。脳裏に浮かぶのは、少し前に右も左もわからない時に世話になった彼の仲間の双子の少女たちの顔。あの二人なら甘い物か、或いは可愛らしい小物がいいかもしれない。何を買えば喜んでくれるのだろうと思いを馳せながら、少年は歩く。

 

 その手に持っている板状のアイテムを見ながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「ぬわぁぁぁぁぁん疲れたもぉぉぉぉぉん」

 

「チカレタ……」

 

「キツかったっスね今日は~」

 

「なぁもう今日は……スゲーキツかったゾ~」

 

「なんでこんなキツいんスかね~。もう辞めたくなりますよ~ギルド~」

 

「どうすっかなぁ俺もな~……」

 

「ちょっと二人とも、目立ちますよ」

 

「ポチャ」

 

「というよりもギルドを辞めたら働き口が無くなるでござるよ」

 

 昼過ぎの王都の大通り、多くの人が賑わう中を歩くのは、いつもの3バカ+侍娘+マスコットという奇抜な組み合わせである『迫真空手部』の一行だった。先頭を歩く野獣と三浦に続くように木村と八重が歩き、大声でぼやく先輩二人を木村と八重が窘める。尚、ポッチャマのいつものポジションは三浦の頭の上だ。

 

 木村の言う通り、通りを歩く人々は彼らを見る。中には奇異の目で見てくる者もいたが、大体の人たちは「ああ、いつもの彼らか」と慣れた様子だった。

 

 この王都に来て早二週間経つ。それだけの期間、ほぼ毎日のように同じような光景を目の当りにしていれば、近辺に住まう人々にとってもはや彼らはいつもの光景の一部に過ぎなかった。

 

「て言ってもさ~木村ぁ。俺らランク一個上がっただけなのに一気に難易度上がっちゃってさぁ」

 

「今日のホモブリン討伐依頼なんて朝からきつかったゾ~」

 

「ポッチャ」

 

「仕方ないでしょう? それだけ困ってる人たちがいるってことなんですから。それに報酬に目が眩んだ野獣先輩が選んだんだから文句言わないでくださいよ」

 

 この二週間、今後いつ金が無くなるやもわからないからという理由でギルドへ通い続けていた彼らの活躍は、目覚ましいの一言にある。何せ元の戦闘力が高い彼らにとって、初心者向けの討伐依頼など赤子の手を捻るように簡単なのだ。木村も身体能力は先輩二人に劣るとはいえど、それでも魔法を使わずとも並の人間など敵わない程の実力を持つ。それに合わせ、最近になって無属性魔法を除く属性魔法の種類も増えただけでなく、着々と魔法の実力も上がっていっているのもあって、木村は今や迫真空手部の要であり、同時に司令塔のような役割を担っていた。

 

 そんなこんなで、一週間依頼をこなしていたらギルドのランクが一つ上がっていたという次第だった。今の彼らのギルドカードの色は『黒』から『紫』だ。異例の早さでランクアップしただけに、王都のギルドの名物チームとしてそれなりに名を馳せていた一行であった。この調子なら次のランク『緑』もすぐだろうというのは、馴染みの受付嬢からの言葉だ。

 

「あ、そうだ。新しい家探しってどうなってるゾ?」

 

「そういや最近、ギルドの仕事ばっかしてて家探しとかするの忘れてたよなぁ。ずっと宿屋暮らしっていうわけにもいかないし、どうしよっかなぁ」

 

「まぁそれ以前にいい家が見つからないんですけどね……二人が妥協すればすぐだと思うんですけど」

 

 元々この街で暮らすことを目的にしている彼らだったが、いかんせんいい家が見つからない。資金はたくさんあるため、候補はいくつもある。しかしこれだ! という家が無いというのが現状だ。

 

 というよりも野獣の注文が多すぎるのだ。何のために使うのか知らないが、やれ屋上付がいいとか、やれ地下室があった方がいいとか。三浦も三浦で三人が入れるような広い風呂がある家を希望したりと、あーだこーだ言っていると、気付けばギルドの仕事をこなしつつ二週間が経っていた、というわけである。

 

「バッカお前木村、もしかしなくともずっと住むことになるかもしれない家なんだぞ? 自分の納得がいくような家じゃないと嫌じゃんよ~」

 

「そうだよ」

 

「はいはい……まぁとりあえずギルドの仕事も一段落したし、また家探ししましょうかね」

 

 今度はどこの不動産に行こうかと三人が話し合っている時、ふと三浦が気付く。さっきから八重が話に入って来ていない……というより、黙り込んだままだった。

 

「八重ちゃん、どうしたゾ?」

 

「……へ? な、何がでござる?」

 

 三浦がどことなくボーッとした様子の八重に声をかけると、八重が遅れて反応する。その顔はいつもと変わらない、凛々しい顔立ち。しかし三浦はその顔を見て、あることに気付く。

 

「八重ちゃん、さっきから俺らの話チラチラ見てなかっただろ」

 

「え、見てな……いや話をチラチラ見てなかったってどういう意味が……?」

 

「あ、ちゃんとツッコミはできるんですね」

 

 意味不明な言葉に対し返答しようとしたが頭の上に?を浮かべて混乱する八重を見て、木村はホッとした。そしてそれを見て、野獣が言う。

 

「お前八重さぁ、最近さぁ、ちょっと疲れてるよな?」

 

「そうだよ」

 

 それを聞き、八重の肩がギクリと震えた。野獣たちはこの仕草を知っている。これは図星だという意味だ。

 

「そ、そんなことないでござるよ? 何を根拠に疲れてるなどと……」

 

 手を振って誤魔化す八重だったが、そうは問屋が卸さないばかりに三人には返す。

 

「八重さん、無理しないでください。やっぱり疲労が出てるんですよ」

 

「そうだよ。それ、八重ちゃんが俺らに合わせてるせいでヘトヘトになってるってことゾ」

 

「ポチャ」

 

「っていうか、ごめんなぁ八重。俺らいっつもこんな感じだから配慮足りなくてさぁ」

 

 底なしの体力を持つ彼ら三人に付いて回っていた八重だったが、彼女は神の恩恵を受けていない人の子。並の人間よりも強いとはいえども、二週間もギルドの仕事をほぼ休みなしで受けていては、やはり蓄積された疲労も隠し通せるものではない。

 

「そ、それは……けど、拙者も皆の仲間でござるから、足を引っ張るわけには……」

 

「疲労でぶっ倒れられたらそれこそ迷惑だっての。八重のことだから言い出せなかったんだろうけどさぁ、遠慮せずに疲れたって言ってくれよな~頼むよ~」

 

「僕たちのせいで八重さんがしんどい思いをするのは本意じゃないんですから。野獣先輩の言う通り、何か不満があるなら絶対言ってくださいね」

 

「俺たちは仲間なんだから、そういう隠し事は無しだゾ~」

 

「ポチャポチャ(同意)」

 

 ポッチャマにまで頷かれてしまえば、八重はもう何も言えない。これもまた修行の一環……そう考えていたからこそ、不満の一つも言わずに三人と共に動いてきた八重だったが、三人にそこまで言われてしまえば、逆に申し訳なさが先に立ってしまった。

 

「……申し訳ないでござる、三人とも。拙者が至らぬばかりに……」

 

「謝んなよな~。悪いのはお前のこと考えずに働きまくってた俺らなんだからさ~」

 

「そうだよ。八重ちゃんは何も悪くないゾ」

 

「そうですよ。これを機に、明日は皆でお休み取りましょう。もうずっと依頼こなしてたし、ギルドに預けてる分も合わせてお金も有り余ってますからね」

 

「お、そうだな。明日はお出かけがしたいゾ~」

 

「いいねぇ! 最近気になる店見つけてさぁ!」

 

「ポッチャ」

 

 三人の心遣いに感謝しつつ、しかし八重は内心で困惑していた。というのも、

 

(お休み……一体、どんな風に過ごせば……)

 

 休日の過ごし方がわからないのだ。元より武者修行に力を入れていた日々。休日なんて考えたこともない彼女にとって、世間一般でいう女の子らしい過ごし方というのがさっぱりわからなかった。まぁ、明日もどうせ四人で行動するのだから、悩む必要はないかと、楽観的にそう考えた。

 

 と、そんな八重を見ていた野獣。何か悩んでいることがわかった野獣は、ギラッと眼光鋭い視線を木村に送った。

 

「おい木村ぁ。まず明日さぁ……お洒落なカフェ、あんだけど……一緒に行かない?」

 

「え? 僕とですか?」

 

 どういう意味でそんな提案をしたのかわからなかった木村だったが、野獣が八重と三浦へ視線を送りつけるのを木村に見せる。その視線を追っていると、最初こそ首を捻っていたが、やがて「あ、ふーん(察し)」と呟いた。

 

「あぁ、いいですねぇ。じゃあ明日は三浦先輩と八重さんが二人でショッピングとかしてみては? ポッチャマも僕らと一緒においでよ」

 

「ポッチャ!」

 

 木村の提案に、ポッチャマも大きく頷いた。が、そこで慌てるのがそんな提案が出るとは思ってもいなかった八重だ。

 

「え……うえぇ!? な、何故ゆえ拙者と三浦殿が!?」

 

「あ、おい待てぇい(江戸っ子)。何で皆と一緒に行動しないゾ? 大勢の方が楽しいだルルォ?」

 

 三浦は慌てこそせずとも、何故ゆえ八重と二人っきりにさせるのかがわからずにそう質問する。対する野獣と木村とポッチャマはと言うと、

 

「いえいえ、いっつも四人と一匹で行動してるじゃないですか。それはそれで不満はありませんが、たまにはそれぞれ別々に行動するっていうのも乙なものかと思ったんですよ!」

 

「三浦先輩は八重をエスコートしてやってくださいよ。ちょうど半々、俺らは俺らで動くからさぁ(紳士の気遣い)」

 

「ポッチャ!」

 

 白い歯を見せつつサムズアップ。ポッチャマも実にいい笑顔を二人に送った。

 

「え、エスコートって何でござるか!?」

 

「お、そうだな。そういう考えもありだな~」

 

「三浦殿ぉ!?」

 

 顔真っ赤にさせながらあわあわする八重に対し平然と納得する三浦。野獣と木村は内心で「やったぜ」と新世界の神のような顔でほくそ笑んだ。

 

「ん? 八重ちゃんは俺と一緒は嫌かゾ? 嫌なら俺は別で動くから大丈夫だゾ~」

 

「い、いえ、そういう意味で言っているのではござらんよ!? そ、そうではなく、そんな、三浦殿、じゃなくて殿方と二人きりというのは拙者も初めてのことで……!」

 

「なら問題ないゾ。俺だって女の子と二人っきりっていうのも初めてだからな~。初めて同士だゾ」

 

「何が問題ないんでござるかぁ!?」

 

 と、ここで八重が何故三浦と共に動くのにここまで慌てるかふと考える。そもそも一人での休日の過ごし方がわからない八重にとって、三浦と一緒に動くというのは渡りに舟の筈……ならばどうしてここまで慌てふためかなければいけないのか。

 

 答えは単純な話。男性経験のない八重にとって三浦と二人きりになること。それすなわち、

 

(と、殿方と二人きりとか……これって、いわゆる逢瀬では……!?)

 

 まぁ、そんな話だ。同時、相手が野獣や木村ならばここまで慌てないのに、とも考えると、また頭が沸騰しそうになる。

 

 そんなことを考えながら一歩後ろへ下がると、足元の小石に気付かずに踵が引っかかってしまった。

 

「わ、はぅわぁっ!?」

 

 ズデン。そんな鈍い音を立てて尻餅を着いてしまった八重。

 

「あっ、八重ちゃん大丈夫かゾ?」

 

「お、大丈夫か大丈夫か?」

 

「疲れで足元がフラついてたんでしょうかねぇ」

 

「ポッチャ」

 

 三浦と野獣が八重の腕を掴んで引き起こす。二人に手を引かれた八重は、己の未熟さを恥じ入りながら「め、面目ないでござる……」と小声で呟いた。

 

 とりあえず、一度宿屋へ戻ろうか……木村がそう提案しようとした。

 

 

 

「スリップ!」

 

 

 

「ファッ!?」

 

「あっ」

 

 どこからともなく声がしたかと思うと、突然野獣と三浦がコミカルな動きでズデンとすっ転んだ。

 

「えぇ!?」

 

「ちょ、先輩何してんですか」

 

「ポッチャ」

 

 驚く八重、呆れる木村とポッチャマ。そして二人を助け起こそうと木村が手を伸ばしかけた瞬間、

 

「さ、こっちへ!」

 

「え? あぁっ!?」

 

 いきなり黒いジャケットの少年が走り寄ってきたかと思うと、八重の手を引いて通りの向こうへ走って行った。

 

「……え!? や、八重さん!?」

 

「ポッチャ!?」

 

 いきなりのことで反応が遅れた木村は、思わず八重の名を叫ぶ。その間にも、少年に手を引かれて八重はどんどん遠くへ。

 

「木村ぁ! お前だけでも早く追え!」

 

「え、でも二人は……!?」

 

 と、足元で倒れ込んでいる野獣から言われ視線を下げると、野獣と三浦の足元に白い魔法陣が生成されているのが視界に飛び込んできた。その上で、野獣が必死に立ち上がろうとするも、まるで氷の上のように「オォン!?」と悲鳴を上げながらまたもすっ転ぶ。三浦にいたってはゆっくり立ち上がろうとしているようだが、途中で膝が滑ってまたも倒れ込んでしまった。

 

「木村早くしろぉ! 八重ちゃんを!」

 

「っわ、わかりました! ポッチャマ、二人を頼むよ!」

 

「ポッチャ!」

 

 どう見ても只事ではない。ポッチャマに二人のことを任せると、木村は少年と八重が走り去った方角へ向かって走る。何事かと通り過ぎる際に人々が振り返るも、それに構っていられる余裕は木村にはない。

 

 どこへ行ったのか、見回しながら走る木村。と、視界の端に見覚えのあるリボンと長い髪を見つけた。それはすぐさま、建物と建物の間の路地裏へと消えていく。

 

「いた!」

 

 逃してたまるかと、木村が追いすがる。そして見つける、八重の後ろ姿と少年。二人が走る先には行き止まり。これ以上逃げ場はない。

 

 捕まえた……! そう確信した木村だったが、ここで予想外のことが起きた。

 

「ゲート!」

 

「はぁっ!?」

 

 少年が手を翳して叫ぶと、等身大の穴が開く。その穴の先はどこかの道となっていて、思わず驚愕して叫ぶ木村を他所に、少年は八重の手を引きながらそこへと飛び込んでいった。

 

「わぁっ!?」

 

「八重さん!!」

 

 八重が穴の中へ入っていくのを目にしながら、木村もそこへ飛び込もうと駆け寄り……それを拒否するかのように、穴は跡形もなく、一瞬で消えた。

 

「っ!? ど、どこへ……」

 

 穴があった場所を重点的に探す。しかし、そんな物は最初から無かったとばかりに、ただの硬い地面や壁があるだけ。少年どころか、八重がいた痕跡すら見つからない。

 

「木村ぁ! 八重ぇ! 大丈夫かぁ!?」

 

「や、野獣先輩! 三浦先輩!」

 

 息せき切って走ってきた野獣が木村と八重の名を呼ぶ。その後ろから三浦もポッチャマを頭に乗せたまま、必死の形相で走り寄ってきた。木村が途方にくれた様子で振り返ると、野獣と三浦は急ブレーキをかけて立ち止まる。

 

「おい木村ぁ! 八重ちゃんはどこゾ!?」

 

「そ、それが……ここで見失ってしまって……」

 

「ファッ!? 見失ったって……どう見ても行き止まりじゃねぇか!?」

 

 野獣たちの前に聳え立つ建築物の壁。乗り越えようにも突起物も何もない壁を、八重を連れたままどう乗り越えるというのかと、野獣は疑問を叫ぶように口にした。

 

「実は……八重さんを拐った奴が、空間に穴を開けて、そこに八重さんを連れて……」

 

 木村の説明は、普通に考えれば荒唐無稽な話だ。しかし、この世界には魔法という超常の力が満ち溢れている。故にすんなり信じることができたが、状況は最悪だった。

 

「なんてこったい……相手は魔法使いだったかゾ」

 

「クソッタレェ! 俺らをすっ転ばせたのもあいつの仕業に違いねぇ! 頭にきますよ!」

 

「ポッチャァ!」

 

 絶望する三浦に、憤慨する野獣とポッチャマ。木村は相手の行動の意図が読めず、困惑する。

 

「何で八重さんを浚ったんでしょう……もしかして、人さらい!?」

 

「或いは……以前、スゥを狙っていた連中と関連があるかもしれないな」

 

 ここに来て、三浦が閣下モードに入る。八重を攫われたことによる怒りから、無意識に切り替わったのだろう。

 

「あの黒づくめの奴らか! でも何で連中が!?」

 

「そこまではわからん。しかし、飽く迄推測でしかないが、八重を攫うことで俺たちの戦力を削いだ上に、人質として捕えて俺たちの動きを制限させようという魂胆かもしれん。あれだけ暴れたんだ、連中が俺たちのことを調べ上げていても何ら不思議ではない」

 

「何だよそれ!? そんなことのために八重を!?」

 

「実に腹立たしいが……現に奴らの思惑に、俺たちは嵌ってしまっている。八重が相手の下にいるとなれば、俺たちは動くに動けん」

 

「そんな……」

 

 こうしている間にも、ひどいことをされているのではないか……木村はそんな不安を抱いた。それは野獣も、三浦もポッチャマも同様だ。

 

 大事な仲間を、そんな連中の好きにさせるわけにはいかない。しかし攫われた先がわからない以上、どうすれば……。

 

「……そうだ! おい木村ぁ! お前さっきの奴が突然空間に穴開けてそこに入ってったって言ってたよな!?」

 

「は、はい。そうですけど」

 

「じゃあその時、あいつが何か、呪文的な……魔法名的な何かを言わなかったか!?」

 

 野獣が木村に問うと、木村は思考を巡らせる。確か、彼が八重を連れ去る直前に叫んでいた言葉は……。

 

「……『ゲート』!」

 

 思い出した。その名を叫びながら、木村は本を手に取る。そして心の底から強く、ゲートという魔法を欲した。

 

 ページが捲れて行く。以前のリカバリーのように後のページになるかと思いきや、割と前半に近いページが開かれ、そこにゲートという名が綴られた。

 

「あった!」

 

 希望を見出し、その魔法の効果について確認する。が、読んでいくうちに顔が曇っていった。

 

「だ……ダメだ。この魔法は一度行ったことのある場所へ空間を繋いで行き来することができる魔法とあります……奴が八重さんをどこへ連れ去ったかわからない以上、使用することが……」

 

「……万事休すか」

 

「ポッチャァァァァ……(絶望)」

 

 憎々し気に三浦が呟き、ポッチャマが顔を羽で覆った。このまま指を咥えていることしかできないのか。木村も役に立てないことに絶望を抱く。

 

 だが、一人希望を捨てない者がいる。

 

「いや……まだ手はあるぜ!」

 

 そう言って掲げたのは、ヒラヒラの布……のようでいて中身は野獣の重要アイテムだった。

 

 

 

 

 

 

 

「よっと……ふぅ、危なかった」

 

 穴を抜けた先は、どこかの街道だった。青空が広がり、草原と所々に生えた木々といった自然豊かな風景が広がる。以前は見飽きたと思っていた光景を前にし、八重はいまだ混乱から抜け切れていないでいた。

 

「い……一体何を……!?」

 

 いまだ手を離さない目の前の少年に、八重は疑問をぶつける。いきなり手を引かれたかと思えば、いつの間にか王都とは明らかに違う場所へと連れて来られた。最後に耳にしたのは、木村が自身を呼ぶ声。切羽詰まった彼の声はもう聞こえない。先ほど通った穴が消えてしまったからだ。

 

 唐突の出来事だったために何もできなかったが、徐々に冷静になっていくと、それに反比例して怒りが沸々と湧いてくる。もしや目の前の少年は人さらいか……またはスゥシィを狙う輩の仲間か。そう思い至った八重は、手を振りほどいて刀を抜き放とうとした。

 

「君、大丈夫だった?」

 

「へ?」

 

 が、振り返った少年の顔を見ると、素っ頓狂な声を上げると共にその動きが止まった。

 

 どう見ても悪事を働くような顔をしていない上、明らか八重を気遣っているのがわかる。掴んでいた手を離すと、八重を安心させようとしているのか、柔らかな笑みを見せた。

 

「いきなり連れ出してごめん。咄嗟に助けようと思ってあんな強引なことをしちゃったんだけど」

 

「……え、えっと……」

 

 謝罪する少年に対し、八重は何も言うことができない。人さらいがこんなことを言うか? とか、スゥシィを狙っていた輩とは違うのか? とか、色々な疑問が浮かんでは消えていく。何か言おうと八重が口を開きかけた、その時だった。

 

「あれ? 冬夜じゃない。何してんのこんなところで」

 

 少年の背後からそんな声がかかり、少年が振り返る。八重も声の主の方へ意識を向けた。

 

 少年と同い年か、それか年下に見える少女が二人、そこに立っていた。片や銀髪をロングストレートにした少女と、片や銀髪をショートカットに切りそろえた少女。ロングの少女は勝気な雰囲気が漂い、ショートの少女は大人しそうだが、どちらとも顔立ちが似ている。双子なのだろうかと八重は思った。服装も上半身が黒と紫の色合いの上着に白のブラウスと共通しており、違う点と言えばロングの少女が緑のキュロットに黒ニーソックス、ショートの少女が同じく緑のフレアスカートに黒タイツであった。

 

 少年は声をかけてきたロングの少女とショートの少女の姿を認めると、「あれ?」と疑問を口にする。

 

「エルゼにリンゼ? 君たちこそどうしたの? こんな街外れで」

 

 少年……先ほどロングの少女から冬夜と名を呼ばれていた……が、逆に質問を返すと、二人の共通であるエメラルドグリーンの瞳をぱちくりさせた。

 

「あたしたちは暇つぶしにって思って簡単な依頼を受けた帰りよ。まぁ、今の私たちなら一角狼なんてお使い程度だし、ちゃちゃっとぶっ飛ばしてやったわ」

 

「あ、あはは……相変わらずエルゼは豪快だなぁ」

 

 ロングの少女はエルゼというのかと八重は考える。困ったような顔で笑う冬夜だったが、ふとショートの少女、こちらがリンゼという少女なのだろう、が八重の姿を見て首を傾げた。

 

「あの、冬夜さん。そちらの方は? 不思議な恰好をされていますが……」

 

「そうよ。アンタ確か王都に荷物を届けるって依頼受けてたんじゃないの?」

 

 どことなくジトっとした目で二人に睨まれる冬夜。たじろぎつつも、冬夜は答えた。

 

「い、いや、その。王都に荷物を届けた後、街でこの子がゴロツキに連れて行かれそうになっていたから、咄嗟に助けたんだよ。それでゲートを使ってリフレットの外れまで転移したってわけで」

 

「は?」

 

 冬夜の説明を聞いて、八重は目を点にしてまた素っ頓狂な声を上げた。

 

「へぇ、そういうことだったの。まぁ、アンタが厄介事に首突っ込むのは今に始まったことじゃないから、大して驚きやしないわ」

 

「それに、人を助けるために行動しないなんて、冬夜さんらしくないですからね」

 

「アハハ……まぁ、結局逃げてきたって感じだったけど。街中で暴れたら迷惑かけちゃうしね」

 

 そんな会話を繰り広げる三人だったが、八重は気が気でなかった。

 

 冬夜の話を鵜呑みにするというのならば、彼は人さらいでも、ましてやスゥシィを襲った輩の仲間ではない。

 

(も……もしかしてこの御仁……勘違いを……!?)

 

 まさかの善意のつもりで八重を連れ去った……ということになる。あの時、八重がこけたのを助け起こしてくれた三浦と野獣が、冬夜の言うゴロツキだとしたら、冬夜は彼らから八重を救うために彼らを何らかの方法で転ばせた隙をついて八重を連れ出し、そしてここへ連れてきた……概ねこんなところだろう。

 

 何と言うか、とんだ勘違いである。彼は純粋に八重を助けようとしただけなのだろうが、それを知らない三人にとって、冬夜は単なる人さらい以外の何者でもない。今頃、彼らは怒り狂っているだろう。

 

「あ、そうだ。僕は望月冬夜。君、その恰好って侍だよね? もしかしてイーシェンって国の人?」

 

「え……いや、その」

 

「あ、ごめん。いきなりで混乱しているよね。今から王都にゲートを繋げるよ。さっきの通りだとあのゴロツキがまだいるかもしれないけど、希望があれば別の場所に」

 

 自己紹介を始めた冬夜からの質問に何も答えられず、さらには彼の提案も耳に入らない。

 

 このままではずっと誤解される……それはよくないと、八重は彼の話を遮った。

 

「ま、待って欲しいでござる! 拙者、別に何も」

 

 そう言いかけた……その瞬間、

 

 

 

「八重ぇぇぇぇぇぇ! 無事かぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

「キャイン!?」

 

 突然、そんな絶叫と共に八重は吹っ飛んだ。

 

「え!?」

 

「な……」

 

「そんな……!?」

 

 突然のことに、冬夜が、その後ろのエルゼとリンゼも驚愕する。それもその筈、八重の背後の空間がいきなり歪んだかと思うと、そこから八重の名を絶叫の如く叫ぶ肌黒の男が飛び出してきて八重を思いっきり撥ね飛ばした。そしてさらに小石にけっつまづくと、勢いそのままに顔面から「オォン!?」という声と共にスライディング。

 

「八重、大丈夫か!?」

 

「ポッチャ!」

 

「ファッ!?(瀕死)」

 

 さらにそこに男こと野獣を踏み潰しながら閣下モードの三浦が飛び出してきて、

 

「八重さん!」

 

「ンアッーーーーーーー!!(トドメの一撃)」

 

 木村が野獣にトドメをさした。甲高い悲鳴が轟き渡る。

 

「って、野獣先輩何寝てるんですか!?」

 

「そんなことしている場合ではないだろう」

 

「ポチャポチャ!」

 

「ふざけんな! お前らが次々踏んでくからだろいい加減にしろ!!」

 

 呆れた風に言う木村と三浦とポッチャマに、飛び起きた野獣は体中に靴跡をつけながら二人に抗議した。何でいきなりこんな目に合わないといけないんだとばかりに怒る野獣だったが、確かにこんなところで喧嘩している場合ではなかった。

 

「今のって……ゲート!?」

 

「そんな、冬夜さん以外にも使い手が……!?」

 

 いまだ驚愕から抜け切れていない冬夜たち。そんな彼らに、野獣が改めて向き直った。

 

「見つけたぞ、この変態人さらい野郎! 八重をどこへやった!?」

 

「返答次第では、只ではすまんぞ」

 

「ポッチャァ!(威嚇)」

 

「おぅ、俺らの目の前で誘拐とか、舐めてんじゃねーぞ?」

 

 すっかり愛剣と化した曲刀を抜く野獣、静かに拳を構える三浦、三浦の肩の上で羽を広げて威嚇するポッチャマ、本を広げつつ普段と違うドスの効いた声で威圧する木村。全員、相当な怒りを湛え、八重を攫った冬夜を睨みつけた。

 

「この人たち……ただのゴロツキじゃない……!?」

 

 先ほどのゲートの件、そして三人の気迫を前にして、冬夜も腰に携えていた刀を抜き放つ。彼の後ろで、エルゼは拳に頑強そうなガントレットを装着して構え、リンゼは瞳と同色の宝石が先端に付けられた短杖を手にする。

 

 一触即発の雰囲気が漂う。そんな中、野獣が再び叫ぶ。

 

「おい、答えろよ! 八重をどこへやったって言ってんじゃんアゼルバイジャン!」

 

 返答しない冬夜に業を煮やした野獣が、剣を手にしたままにじり寄る。野獣が只者ではないことを察した冬夜は、刺激しないよう落ち着き払った声で返した。

 

「八重……あなたたちが連れ去ろうとしていた人ですか?」

 

「ファッ!? 連れ去ったのはお前だろうが! 何人に罪擦り付けてんだよ! 頭にきますよ!」

 

 逆効果だった。しかし、こんなゴロツキが一体彼女とどんな関係が……そう考えていた時だった。

 

「八重っ!?」

 

 三浦が八重を発見する。肝心の八重はというと、

 

「ウキュ~……」

 

 草むらの上で完全の伸びていた。

 

「や……八重ぇぇぇぇ!! テメェら何てことを! ゆ″る″さ″ん″!!(RX)」

 

「へ!? いや、気絶している原因はあなた」

 

「うるせぇ! 八重をあんな目に合わせやがって、もう許せるぞオイ!(言い間違い) ……もう許さねえからな~!?(言い直し)」

 

「いやどっち!?」

 

「な、何なのこいつ……全然話聞かないんだけど……」

 

「……な、なんか、色々おかしいような……」

 

 怒り狂う野獣、困惑する冬夜とエルゼとリンゼ。この場で誤解を解くためにいなければいけない人間は頭の上で星をクルクルさせつつ夢の中。

 

 誤解が誤解を招いた事件は、こうしてもうどうしようもない程に明後日の方へ加速してそのまま全速前進。意味のない戦いが今、幕を開ける。

 




(望月冬夜くんのトレードマークの白いファッ!? 付きコートは原作改変のせいで)ないです。ってか冬夜くんがこんな勘違いするわけないだろいい加減にしろ!!(キャラ改変する二次創作作家の屑)

今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?

  • スマホ太郎(アニメ主人公)
  • 望月冬夜(原作主人公)
  • 野獣先輩
  • 三浦
  • 木村
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