A.勢いで書いた。反省はしてるが後悔はしていない(鋼の意思)
けどコメントでボロクソ書かれたら泣くから許してぇ許し亭(クソザコ意思)
「はぁぁぁっ!!」
「ぬぅんっ!!」
ドゴォンッ! 鈍い音が森の中を響き渡る。
場所は先ほどまでの場所から少し離れた位置にある小さな森。そこでは、ガントレットを腕に装着したエルゼが右ストレートを三浦目掛けて繰り出し、三浦もまた同じく右ストレートもとい正拳突きで迎え撃っていた。
ぶつかり合う拳と拳、広がる衝撃波で揺れる草木。さすがに咄嗟の判断とは言えども鋼鉄製のガントレット目掛けて拳を叩きつけるのはキツイかと三浦は僅かに顔を顰めるも、三浦以上にエルゼは焦燥感を抱いていた。
(こいつ……すごく強い……!)
飛び退いて距離を離し、長い銀髪を靡かせながら再び猛攻を三浦に叩き込むべく走る。繰り出される左右のガントレットによる連撃、細い健脚から隙を突いての蹴り。普通の敵なら捌ききれない強力な攻撃の数々を、三浦は最小限の腕の動きで受け流し続けた。
エルゼが三浦を相手取ろうと決めたのは、三浦が素手で構えを取っていたのを見て、格闘術を得意としているのだと判断したためだ。ちょうど三対三、相手が格闘ならこちらも格闘だと、三浦を誘い出して一対一に持ち込んだ。同じ土俵の上ならやりようがある……そう考えて三浦と相対した。
だが、何度か拳を交わし、やがてエルゼは相手を見誤っていたと気付かされる。
エルゼのガントレットによる強力な一撃にかかれば、相手が頑強な鎧を纏っていていようが関係なく、命中すれば確実に大きなダメージが望める……が、それは命中すればの話だ。
フットワークを活かしてフェイントを混ぜつつ素早く動き回り、時には死角から低い姿勢で突っ込んで力強い拳を叩きつける……それがエルゼのバトルスタイルだ。
対し、三浦は迫真空手の技をもってして相手の攻撃を受け流しつつ隙を突いて急所を狙う、或いは凄まじい連撃を叩き込んで相手を圧倒する戦い方を得意とする。意識は相手に向けているようで、その実周囲の殺気にも敏感な三浦に死角はない
力のエルゼ、技の三浦……この場合、どちらが有利か等を決めつけるのは早計ではあるが、この戦いの均衡はいまだ平行線のままだ。
理由は、エルゼの攻撃全てを三浦が受け流し続けているためだ。捌き、躱され、時として防御される。力任せに相手を殴り飛ばす戦い方を得意とするエルゼにとって、まるで風で靡くカーテンを殴りつけているかのような錯覚を覚える程にやりづらい相手であった。
「くっ……!」
再び素早く距離を離し、構え直すエルゼ。三浦は追撃せず、その場で構える。肩で息をするエルゼに対し、三浦の呼吸は乱れていない。だが、三浦の拳は赤くなっており、鬱血しているのが見て取れる。何度も硬いガントレットをいなし続けているうちにダメージが蓄積されていったためだ。
「ぬぅ……」
呻く三浦。顔には出さずとも脈打つような痛みが拳に走る。三浦もまた、彼女が強敵であることを理解していた……だが、
「……何で攻撃してこないのよ?」
「……」
三浦からは、全くと言っていい程攻撃する気配がなかった。全てエルゼからの連撃を受け流し、攻撃らしい攻撃と言えば先ほどのように防御が間に合わないと判断した場合に突き出される拳のみ。それ以外は全て受けに徹している三浦に、エルゼが問う。
エルゼが女だからと見て侮っているのだろうか。或いは何か別の理由があるのか……相変わらず睨むような険しい顔のままでいる三浦の考えなど知りようがない。
「なるほど……答えるつもりはないってわけね」
言って、小さく笑う。内心、全く口を開かない三浦に対する苛立ちもあるが、それ以上にこの戦いを楽しみだしている自分にも気付く。別にエルゼはバトルジャンキーではないが、このギリギリの攻防にスリルを感じているのもまた事実。だがこれは遊びではなく、戦いだ。三浦が何を考えているのかわからない現状、これ以上時間をかけるのは得策ではない。
何より、リンゼと冬夜もまた戦っているのだ。早く合流して援護しなくてはいけない。
「いいわ……だったら」
瞳を閉じる。スゥ……と息を吸い、そして吐く。肺の空気が入れ替わると同時、思考がクリアになる。
「こっからは手加減無用……さすがに命までは取らないけど」
眼前に掲げるように構えたガントレット。全神経を己の武器に、もとい己の拳に集める。そして、
「骨の一本か二本は、覚悟してよね! 『ブースト』!!」
カッと瞼を開き、駆け出す。そのスピードは今までの比ではなく、彼女が走った後の草が遅れて揺れる。
エルゼが拳を振り上げる。三浦はその拳を捌くべく身構えた。
「っ……!」
が、第六感が叫ぶ。受け流すな、避けろと。それを証明するかのように、エルゼのガントレットが赤く光っているのが見え、三浦は身体を横へズラして拳を避けた。通り過ぎる拳から感じるこれまでにない力に、三浦が戦慄する。
「はぁぁっ!」
エルゼは止まらない。一発避けられたから何だとばかりに、二発目、三発目と、赤い軌跡を描きつつ拳を三浦へ見舞う。それら全てを避け続ける三浦だったが、やがて避け切れずにやむを得ず受け流す……が、その瞬間、受け流した手に痺れが走った。
「くっ……何という力だ」
攻撃力が、そして速さが上がっている。恐らく先ほど彼女が叫んだ『ブースト』というワードが原因だろうか。
考える間を与えられない程の凄まじい連撃が三浦を襲う。軽いジャブですらハンマーのような威力を纏い、受け流すことすらままならない三浦にはそれだけで大ダメージだ。
「ちぇりゃぁっ!」
「ぐ、おぉっ!」
側頭部目掛けて飛んできた回し蹴りを腕で防御する。が、足にもブーストの効果がかかっているようで、受け流しただけで捌ききれなかった攻撃をモロに受けては無事では済まない。身体全体に凄まじい衝撃が走り、たまらず呻く。倒れないよう足を踏ん張るも、身体が一瞬硬直した。
それが大きな隙となる。エルゼはその隙を逃さずに、大きく振りかぶった右拳を、
「おりゃああああああっ!!」
力いっぱい、三浦の腹に叩きつけた。
「ご、あっ……!?」
ノーガードからの一撃。三浦の身体をくの字に曲げる程の衝撃は、三浦の肋骨を折り、肺の空気を全て吐き出させる。たまらず吹き飛ばされた三浦は、一本の木に背中から叩きつけられ……ズルズルと、力なくずり落ちていき、木の根元に座るように項垂れたのだった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
木の葉が舞い落ちる中でピクリとも動かない三浦を、拳を突き出したまま見つめる荒い息のエルゼ。強敵を相手取ったことによる緊張感、確実に倒すと決めた時から脳内に分泌されたアドレナリンによる興奮。
「……何とか……勝てたわね」
ガントレット越しに伝わる手応え。確実に相手を再起不能にさせたと確信したエルゼは、ようやく呼吸が落ち着いてきたのを見計らい、感慨深げに呟く。
さすがに殺してはいない。宣言通り、動けなくしただけだ……少しやりすぎたかと反省しているが、それだけの相手だったのだ。彼女に落ち度はない。
もはや三浦は動かないし、何も応えないだろう……エルゼは踵を返し、三浦に背を向けた。
「さ、早く二人のところへ戻らないと」
二人は今どのような状況なのか、エルゼは知らない。急ぎ戻り、どちらかに加勢しなくては……走り出すべく、エルゼは足に力を入れる。そして今まさに地面を蹴ろうとした、その時。
「迫真空手信条……『一つ、相手が本気でいるのならば己もまた本気で向き合うべし』」
ドグンと。エルゼの心臓が鷲掴みにされたような気がして、足が止まった。
冷たい汗が流れる。背中から聞こえたその声を耳にした瞬間、エルゼは内心で否定する。
(そんな……ありえない……!)
確実に倒した筈だ。確実に動けない程のダメージを与えた筈だ……なのに、背後から押し寄せて来る覇気は、エルゼを捉えて離さない。
間違いであって欲しい。そんな願いを込めて、エルゼはゆっくりと後ろへ振り返る。そこでは、三浦が変わらず木の根元で気絶している姿が見える筈だと。
「迫真空手の教えを……ハァ……どうやら俺は、忘れてしまっていたようだ」
現実は、非情だった。膝を着き、口から垂れる血を拭いながら、ゆっくりと立ち上がる坊主頭の男の姿を認めた瞬間、エルゼの中で警鐘が鳴り響く。
「な……何で……」
言葉が出ない。倒したのに何故立ち上がれるのか。骨が折れていながら何故平然としているのか。どこにそんな力があるのか……エルゼにはわからなかった。
「……俺は迷っていた」
ザシッ……三浦が踏み出した足から落ちた木の葉と草の乾いた音が聞こえる。
「本当にお前と戦うべきなのか……何か行き違いがあるのではないかと、俺は頭の片隅で考えていた」
右腕を腰に、左手を眼前に。腰を深く落とし、半身になる。
「だが……それは本気の相手にとって無礼であることを、俺は失念していたようだ」
風が吹く。森を揺らし、草を揺らし……背中に冷たい汗を流すエルゼの銀髪を揺らす。
「謝罪しよう……そして」
ギッと、鋭い目がエルゼを射抜く。そして、
「俺の本気……見たけりゃ見せてやるよ」
瞬間、三浦の姿が掻き消えた。
「っ!!」
それは無意識だった。今まで培ってきた戦闘経験が、エルゼの脳をフル回転させる。それによって、咄嗟に右腕を上げることができた。
その右腕に走る、凄まじい衝撃。牛の猛突進など比ではない、恐ろしい物だ。
「うぁっ……!?」
思わず呻くエルゼ。苦悶に顔を顰めつつ、衝撃の原因を探る。それはすぐに見つかった。
いつの間にかエルゼの前に立つ三浦の姿。そしてエルゼのガントレットに叩きつけられたのは、三浦の拳。
それを確認して間もなく、今度は三浦の神速の左拳が襲う。それをギリギリで防いだエルゼは、後ろに跳んで距離を離そうとした。が、それは許されない。エルゼに付いていくようにして三浦もまた踏み込み、エルゼを追撃する。一撃、二撃どころの話ではない。左右の拳による豪快にして怒涛のラッシュ、足から繰り出される死神の鎌の如し蹴り。ひとたび三浦が動けば風が吹き、次の瞬間には身体のどこかに衝撃が走り、拳を防いだガントレットが軋む音を鳴らす。苦し紛れの反撃に拳を突き出すも、三浦の身体を貫通したかと思えば三浦の身体は消えており、下からの掌底がエルゼを襲う。
「くぅ……!」
咄嗟にガントレットでガードするも、衝撃までは殺せない。そんな中、やがてエルゼは気付く。先ほどまではエルゼが一方的に三浦を追い詰めていたが、今や逆。三浦による一転攻勢へと移り変わり、防御に専念しなければ一撃でやられてしまう。反撃の糸口が掴めない。三浦の隙が突けない。今のエルゼには、負傷している筈の目の前の男に対する勝利のビジョンが浮かばない。
(ここまでやるなんて……!?)
先ほどまで受け流し続けていた相手の情け容赦のない拳と蹴りの暴風雨を前に、エルゼの心がかき乱れる。最後、三浦の上段蹴りを防ぐと、エルゼの身体は地面を削りながら吹き飛ばされた。
「ふぅ……はぁ、はぁ……!」
倒れこそはしなかったものの、今のエルゼは満身創痍だ。ガントレット越しの腕は痺れ、足も震える。立っているので精一杯だ。
だが引くつもりはない。かならずどこかに隙があるはず……不退転の覚悟をもってして、エルゼは三浦と対峙する。
だが、三浦はもう次の攻撃の予兆に入っていた。
「受けてみるがいい……迫真空手の真髄を……!」
瞳を閉じて意識を集中させ、右腕を上へ、左腕を下へ……大きな円を描くように両腕をゆっくりと回し始める。
「“心”に“愛”を……」
回していた腕はやがて交差し、
「敵には“雷”を……」
足を肩幅に広げ、そして、
「我が魂の“音”を聞けッ!!」
カッと、瞳を開く。全身から噴き出す圧倒的覇気。全ての生き物がひれ伏す程の強大な力が、エルゼを襲う。
「奥義……!」
そして……交差した腕を解き、一瞬にしてエルゼに接近し、右拳を突き出した。エルゼは咄嗟にガントレットを眼前で揃え、防御の構えを取り、
「
ドンッ! ガントレットに三浦の拳がぶつかると、そんな凄まじい音が森に響き渡る。思わずたたらを踏んだエルゼだったが、すぐさま距離を離した。
「あ……危なかった……」
強力な一撃だったが、先ほどの蹴りに比べればまだマシだった。どうにか防ぐことができて安堵の息を吐くと、再び構える。どう攻めるか、エルゼは脳内でシミュレーションを組もうとした。
“組もうとした”……その言葉が持つ意味は一つ。
「っ!? か、は……ぁ!?」
することができなかった……ということになる。
腕に、足に、腹部に走る衝撃。まるで一瞬のうちに拳の連打を叩きつけられたかのよう。身体に力を入れることすら許されない激痛。エルゼの肺から空気が飛び出し、そして膝を着かせるのに十分な威力だった。
「っ……!」
何が起きたかわからない。戸惑いながらもガントレットを杖にするようにして、倒れ込まないよう耐えるエルゼ。だがもはや、その身体は立ち上がることを絶対に許そうとしなかった。
「……ぐぅ」
己の技が決まったのを確認するや、三浦もまた片膝を着く。三浦もまた激痛に苛まれながらも動き回っていたが、もはや限界だった。
「心愛雷音……その拳はいかなる方法をもってしても、かならず相手の身体に届く」
はっきりとした声で、三浦がそう告げる。エルゼは、その話を耳にしつつも尚立ち上がろうとした。
「っ……く、う……!」
だができない。激痛に耐えるあまり顔をしかめるエルゼ。三浦をどうにか睨むも、それ以上のことはできない。対し三浦は、相変わらず鋭い目をエルゼに送るだけだ。
やがて三浦は、着いていた膝を崩す。そして、
「フゥ……今はあまり動くな……内臓に響くぞ」
胡坐をかいて座り込み、深呼吸してからそう警告した。
もう三浦からは敵意がない。ある程度、自身の身体とエルゼが回復するまでここで待つつもりでいる……その意図がわからず、エルゼは目を白黒させることしかできない。
何のつもりかと問おうにも、喋ることすらままならず……ただ穏やかな顔で静かに見守るようにして座る坊主の男と、その前に膝を着く銀髪の少女という、奇妙な光景がしばらく続いた。
「炎よ来たれ、赤の飛礫、イグニスファイア!」
「炎よ来たれ、赤の飛礫、イグニスファイア!」
一方、草原のど真ん中にて、木村と短い銀髪の少女、リンゼが炎の魔法を撃ち合っていた。二人とも同じ魔法であり、木村が以前使用していたファイアショットよりも大きな火球がぶつかり合う……が、リンゼが放った魔法が、木村の魔法を散らし、さらに木村に迫る。
「うわ!?」
木村は回避できず、手前に着弾した炎弾の衝撃で吹き飛ぶ。草の上を転がりつつ、すぐさま立ち上がって魔法を唱えた。
「こ、氷よ来たれ、大いなる氷塊、アイスロック!」
大岩の如し氷の塊がリンゼへと飛んでいく。が、それをリンゼは杖を手に冷静な様子で魔法を詠唱する。
「炎よ来たれ、渦巻く螺旋、ファイアストーム!」
リンゼへ迫る氷塊が、突然発生した炎の渦に飲み込まれる。灼熱地獄に捕らわれた氷塊は、標的へ辿り着く前に溶け、一瞬にして蒸発した。
「くっ……それなら! 石よ来たれ、飛来せしは岩の礫、ストーンショット!」
リンゼ目掛けて大小様々な石が飛ぶ。これなら炎で焼けないはず……だが、
「水よ来たれ、清冽なる刀刃、アクアカッター!」
圧縮された水の刃がリンゼの杖から幾つも飛び出し、全ての石を真っ二つにしていく。結局、木村の石礫はリンゼの近くへバラバラになって落ちていくだけだった。
「う、嘘だろ……!?」
魔法を撃っては相手も魔法を撃ち、その度にこちらの魔法は全て無力化されてしまう。しかも相手の魔法の方がより精錬されているように感じ、それでいて正確だ。さらに言えば、リンゼはいくつもの魔法を使用したにも関わらず、息切れ一つしていない。その場から動かず、ただ杖を振るっては迎撃しているのみ。木村へ向けて撃った炎の魔法、イグニスファイアも、木村に直撃しないコースを狙っていた。つまり、手加減されているということになる。
「もうやめてください! これ以上戦ったら、あなたの身体が……!」
リンゼは木村が息を荒くしているのを見て、何とか止めるよう叫ぶ。リンゼから見ても、木村の魔法は並の魔法使いよりも上であることはわかる……わかるのだが、どうにも粗削りな気がしてならなかった。魔力の消費率の高さに反し、魔法の精度が低い。まるで素人が強大な力に振り回されているかのようだ。それゆえにリンゼは少ない魔力消費で対抗することが容易にできた。
だからこそ、リンゼは木村を止める。これ以上魔法を行使したら倒れてしまうと。
だが、木村は戦意を失うことはしなかった。
「……諦めませんよ、僕は」
本を広げ、使用できる魔法を探す。使える魔法が増えたことで魔法名が綴られたページ数が増えた魔法書。その中から木村は、リンゼに対抗しえる魔法を見つけ、唱える。
「風よ来たれ、襲来せし暴風、エアトルネード!」
「水よ来たれ、押し寄せる水の衝撃、アクアブラスト!」
木村が放った小規模の竜巻を、リンゼの水魔法が打ち破る。拳の如く飛んできた水の塊に、木村は身体を強く打ち付け、吹き飛ばされた。
「ぐぁっ!? く、くそ……やっぱり、強い」
全身ずぶ濡れになりながらも、本は手放さない。防水加工か何か施されているのだろうか、本はページがふやけることも文字が滲むこともなく、変わらず健在している。さすが神自らが木村に送った代物だ。だが今は、そんなことに感嘆している暇はない。
リンゼの魔法は強力だ。使う魔法は水と火のみで他の魔法は使えないのか、或いは出し惜しみしているのかはわからない。しかしたった二属性だとしても、全属性扱える木村が足元にも及ばない実力を持っていた。それだけ彼女の方が魔法の知識が深く、それでいて戦闘経験が豊富なのだろう。並大抵の努力では手に入らない力だ。神によって力を与えられ、最近になってやっと使える魔法の種類が増えてきた木村とは場数が違う。
八重を救うため、そして先輩二人が頑張っているというのに、ここで自分だけ倒れるわけにはいかない……だが、木村は目の前の大人しそうな少女に勝てる気がしない。
(どうすれば……どうすればいい……!?)
木村は焦る。どうしても勝ちたい。だが勝てない。相手の方が実力は上で、しかも飽く迄も木村を止めるために魔法を行使しているだけで本気ではない。闇雲に魔法を撃ったところで対抗されるのがオチだ。
神の力があっても、どうすることもできないこともある……それを強く痛感した木村は、本を持つ手に力が入る。やるせない気持ちに押しつぶされそうになって、思わず視線を落とした。
視線の先には、木村が悔しさのあまり力強く握られた右拳。あまりに強く握られて爪が食い込み、血が流れ落ちる。
どうすることもできないと、諦めに近い感情に支配されそうになった時……木村の脳裏に、ある言葉がよぎった。
「……迫真空手信条……『一つ、最後まで諦めることなかれ』……」
瞬間、頭の中の諦めという名の霧が払われる。諦めるわけにはいかない。諦めること、それすなわち相手だけでなく自分にも負けること。それこそが真の敗北。諦めない限り、己に敗北はない。
敗北はしない……かならず勝利を、血が流れ出るこの拳で掴む。
「……そのための、右手……そのための、拳!!」
木村は立ち上がった。全身ずぶ濡れで魔力が尽きそうになっても、本を片手に力強く大地を踏み、相手を見据えた。
「どうして……」
何度打ちのめされても立ち上がる木村に、リンゼは戦慄し……しかしある種の感動を覚える。
何が彼をそんなにまで駆り立てるのか。何が彼をそこまでさせるのか。リンゼにはわからずとも、そこにある彼の魂が光り輝いているように見える。
それゆえに、リンゼは悲しくなる。これ以上彼を戦わせるわけにはいかない……ならばここで彼を戦意喪失させるのがせめてもの情け。
「……ごめんなさい」
今までは迎え撃つのみだけだったが、次の魔法で終わらせる。動けなくなっても、回復魔法で傷を癒してあげなければ……そう考えながらリンゼは杖を翳し、意識を集中させた。
「火よ来たれ、赤き玉、ファイアショット!」
木村も何度か使ったことのある魔法。拳程の火の玉が真っ直ぐ、弾丸の如く木村へ飛ぶ。人間に当たれば割と大きな威力だが、直撃コースからあえて外して火傷程度の怪我を負わせ、戦意を消失させるつもりだった。
高速で飛来する火の玉を前に、木村も魔法を唱えた。
「風よ来たれ、暴風の鉄槌、ウィンドブロウ!!」
いつぞやのスゥシィを襲った男たちの一人に向けて放った風の魔法。それを木村は力強く撃ちだした。
自身の後ろへ向けて。
「えっ!?」
さすがのリンゼも衝撃だった。こちらにではなく、後ろへ向けて撃った木村に、何を考えているのかと、一瞬だけ彼が狂ってしまったのかと思ってしまった。だが、それはすぐに愕然とした感情によって支配されることになる。
後ろへ向けて風の衝撃波を撃った木村。その衝撃波は、木村のすぐ後ろで爆発するように散った。
そして衝撃波を背中に受けた木村は、
「うおおおおおおお!!」
必然的に前方へと……リンゼの方へ飛んでいくことになるわけだ。
まさかの魔法の使い方に驚愕し、反応が遅れてしまったリンゼ。リンゼが撃ったファイアショットは、木村の風魔法の余波で消滅。慌てて次なる魔法を撃とうとするリンゼだったが、それよりも先に木村が迫る。
「っ!」
思わず、両腕で顔を覆って衝撃に備える。やがて木村がリンゼに肉薄し……その横を素通りしていった。
「うわぁぁぁっ!?」
ゴロゴロゴロと転がっていく木村。草がクッションになっていて怪我こそなかったが、全身泥だらけになってしまう。
「……あ、あれ?」
ぶつかると思っていたリンゼは、恐る恐る腕を下ろした。木村の姿を探して振り向くと、少し離れた場所で倒れている木村を見つけた。
何がしたかったのかと、困惑しているリンゼが呆然と木村を見つめる中、木村は頭を抑えながら起き上がる。
「う……ま、魔法は、魔石等の媒介が無いと上手く使えない……」
「……?」
起き上がりながら解説し出した木村に、リンゼが首を傾げる。構わず木村は続け、そして、
「つまり……杖がないと、君は十分な力で魔法を使うことができない」
ニヤリと、不敵に笑いかけた。そして、右手に持つ物を見せつける。
「え? ……あ!」
木村の手の中にあった物。それはリンゼの武器である短杖。気付けば、リンゼは自身が素手であることに今になって気付いた。
(まさか……さっきすれ違った時!?)
全てはこのため。あの勢いで飛んでいきながら、自身の得物を奪ったというのか。木村のその大胆にして後先考えない策を目の当りにし、リンゼは愕然とした。
「これでも……魔法に関して自分なりに勉強はしてきたつもりだ」
これまで魔法を使ってきて木村は思い知った。魔法の技術だけでは魔法を使いこなすことはできない。知識もあってこその魔法だということに。故に木村は、魔法に関する本を買い、独学で知識を得てきた。いつかこの知識が役に立つ筈だと信じて。
その知識は、今こうして木村の武器となり、逆に相手を、リンゼを追い詰める。
「今度はこっちの番だ!」
木村にとっての杖は、神より与えられし本。その本を平げながら叫ぶ木村。そして右手を地面に叩きつけた瞬間、
「土よ来たれ、頑強なる壁、ストーンウォール!!」
木村の魔法が発動。リンゼの周りが急に揺れ出したかと思うと、彼女を取り囲むようにして土の壁がせり上がるようにして生成されていく。
「きゃあ!」
押しつぶされるかと思いきや、リンゼの前後左右に等身大の壁が作り出され……リンゼは、その壁の内側に閉じ込められる形となった。今の彼女は杖がない。自力での脱出は困難だろう。
「こ、これで……もう、動けない、だろ」
リンゼの閉じ込めに、つまり行動不能にすることに成功した木村は、よろよろと数歩前に歩き出て……そのままうつ伏せに倒れ込んでしまった。その際、本とリンゼの杖を手放す。
「これが、魔法使い同士の戦いか……はは、とんでもないな……」
改めて自分がまだまだ未熟であることを痛感しながらも、格上相手に勝利したという事実に満足して笑う。魔力を消費して動けない身体をそのままに、リンゼの周りの土が時間経過で崩れるまで、木村は草の上に身体を横たえるのだった。
「光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン!」
道の真ん中にて、冬夜が目の前の野獣へ向けて指を向けつつ叫ぶと、指先から生成された魔法陣から光り輝く槍が飛び出す。
「ヌッ!」
高速で飛ぶ槍を、野獣は紙一重で躱す。そして曲刀を手に冬夜へと走る野獣。
「はぁっ!」
牽制を躱された冬夜は刀を手に野獣を迎え撃つ。振るわれる曲刀の刃が冬夜の刃にぶつかり、甲高い音を鳴らす。そこから始まる幾つも繰り出される剣戟。情け容赦のない野獣の剣を、冬夜は危なげなく防いでいく。
「ちょっと刃ぁ当たんよぉ!(警告)」
力強いフルスイング。冬夜はそれを刀を縦にして受け止めたが、強い力に刀が震える。
「う……!」
飛び退り距離を取る冬夜。すかさず左手を振るい、魔法を唱える。
「砂よ来たれ、盲目の砂塵、ブラインドサンド!」
左手に生成された砂を掴み、それを野獣へ投げつける。砂は意思を持っているかのように蠢き、野獣の視界を覆っていく。
「ファッ!? え、何これは」
「今だ!」
冬夜が戸惑う野獣へと駆け出す。目が見えない今ならば倒すことができる……そう考えての行動だったが、
「そこにいるって、はっきりわかんだね!(心眼)」
冬夜がいる位置へ、躊躇うことなく剣を振るった。
「なっ……!?」
これには予想外と冬夜は咄嗟に刀で防ぐ。続けて振るわれる刃を、今度はギリギリのところを回避、再び距離を取る。その際、野獣の目つぶしの砂も消える。
「何で、僕の位置が……」
「鍛えてますから(仮面ライダーHBK)」
野獣の直感は超人並だ。たかが目くらまし程度で野獣の動きは止まらない。挑発するかのように冬夜の疑問に答えた野獣は、曲刀を構え直した。
「そろそろ本気出しちゃっていいスか~? 俺もう(怒りのパワー)溜まっちゃってさ~……!」
本気でぶっ飛ばしてやらないと気が済まない……そんな野獣の気迫に押され、冬夜は一瞬息が詰まった。
(強い……今まで戦ってきた敵の中では一番だ……!)
冬夜の力は、決して弱くはない。尽きぬ魔力に全属性の魔法を使用できる上、剣の腕と身体能力だってそんじゃそこらの冒険者など軽くあしらえる程だ。自惚れるつもりはないが、どんな相手にも負けるつもりはないと自負している。
だが、目の前の男は強い。少なくとも自身よりも遥かに、純粋な力比べでは野獣が上だ……このまま戦っていては勝敗は見えている。
ならばどうすればいいか……少なくとも正攻法では敵わない。ならば、
「マルチプル!」
持てる力を出し惜しみせずに使うしか道はない。
「ファッ!?」
驚愕する野獣。その視線の先、冬夜の頭上には魔法陣が幾つも生成され、浮かび上がっていた。複数の魔法を同時に放つことを可能とする無属性魔法『マルチプル』の詠唱を完了させると、さらに冬夜は魔法を詠唱する。
「光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン!!」
冬夜の声が空間に響く。それがトリガーとなり、全ての魔法陣から先ほどの光り輝く槍が順次飛び出していく。無属性魔法と光属性魔法の組み合わせた魔法が野獣を襲う。
「うっそだろお前!?」
嵐の如く飛んでくる槍の雨。野獣はそれらを避けるか、或いは剣で弾くかで凌ぐ。
「炎よ来たれ、赤の飛礫、イグニスファイア!!」
しかし冬夜は容赦しない。マルチプルを併用し、今度は火の球を幾つも降らせ、野獣を追い詰めていく。
「お前魔力量おかしいよ!?(驚愕)」
これはさすがに弾けないと、逃げ回る野獣。出鱈目に撃っているようでいて、野獣が逃げる進路方向目掛けて火の球を撃っている辺り、容赦がない。
「まだまだ! 雷よ来たれ、白蓮の雷槍、サンダースピア!!」
さらに風属性の魔法をも使い、野獣を徹底的に追い詰めていく冬夜。凄まじいエネルギーが迸る槍の間を縫うようにして、野獣は逃げ回り続ける。
「アァ! ハァ! ハァ! ハァ!」
喘ぎ声にも似た声で叫ぶ野獣だったが、そろそろ怒りのボルテージが限界に達そうとしていた。
「この野郎、滅茶苦茶撃ちやがって! 頭にきますよ!!」
いい加減痺れを切らした野獣は、進路を変更。逃げ回るだけだったが、真っ直ぐ冬夜の方へ。それでも飛来する雷の槍だが、野獣は直感と目視でギリギリを避けていく。後数mもすれば、野獣が冬夜に肉薄する……が、冬夜は口の端を僅かに吊り上げた。
「かかった……!」
冬夜は計算していた。野獣は確かに実力はある。だが直情的な性格で、尚且つ策を練る戦い方は苦手だと見た。追い詰めるように立ち回ればやがてイライラがピークに達し、こちらへ向かって来るだろうと、この短い時間で彼の性格を把握し、そして予測していた冬夜は、勝利を確信した。
あと少し、あと少し接近させ……そして頃合いを見計らい、叫んだ。
「スリップ!!」
途端、野獣が踏み出した足元に生成される白い魔法陣。それは王都にて、野獣と三浦をすっ転ばせた物。摩擦係数を短時間の間ゼロにし、氷以上に滑りやすくする無属性魔法。最初の頃は何のために使うのかわからなかった魔法だが、汎用性の高さから今となっては冬夜の得意魔法にもなっている。
そんな魔法を野獣は踏んだ……結果、
「ンアッーーーーーーーー!?」
野獣は冬夜の狙い通り、奇声を上げながら足を思いきり滑らして前のめりに倒れていく。
ここで幾つか仮定の話をしよう。
もし仮に、冬夜がスリップ以外の魔法を使っていたら、
もし仮に、冬夜が王都でスリップを使っていなければ、
「カスが……!」
もし仮に、冬夜の相手が勘の鋭い野獣でなければ、
「効かねぇんだよっ!!」
冬夜の勝利は確実だっただろう。
「な……!?」
冬夜の目の前で、野獣は大きく足を滑らせた……かに見えた。
だが野獣は持ち前の身体能力を活かし、咄嗟に剣を地面に突き刺し、転倒を免れた。
野獣は、王都で喰らったおかげでこの魔法の特性がわかっていた。単純な魔法のようだが、その効果は絶大だ。故に野獣は直感で、冬夜がこの魔法を使うであろうことを予測していた。だからこそ対処ができたのだった。
その上、この魔法を逆手に取る手段も思いつく。
「迫真空手部信条……!」
刺した剣をしっかり掴みながら身体を剣から離していく。そして、
「『一つ! 友は決して見捨てるべからず』!!」
剣を地面に固定したまま思いきり引き寄せると、身体が軽快に滑り出す。そしてスリングショットの如く、剣を手放した野獣は前へと猛烈な勢いで飛び出した。
前……すなわち、冬夜が立っている場所。
「そんなっ!?」
スリップを逆に利用されるとは思っていなかった冬夜は焦る。刀を使うか、拳か足を使うか、或いは別の魔法を使うか、はたまた、それとも。砲弾のように迫り来る野獣を冬夜は迎え撃つために思考する。
結論が出る。諦め、ではない。どう足掻いたところで、野獣の拳が冬夜に届く結果は変わらない。
ならば、その直前で冬夜は数ある魔法の中から一つの魔法を選択する。間に合えと、冬夜は祈るように魔法を唱える。それは刹那の時間、ほんの一瞬の判断。そして、
「♰悔い改めて♰!!」
「パラライズ!!」
野獣の鉄拳が、冬夜の魔法が、互いの身体に叩きつけられた。
冬夜くんはリアルの友人でいたらきっと楽しいだろうなと思っております(盗んだバイクで走りだす以外)。けど殴るこたぁねぇだろうがよお前よぅ(自分を脅す)
今更ですがエルゼを展開の都合上仕方ないとはいえポコパンしてしまったのは結構書いてて辛かったです……私にリョナ属性はない(強調)
っていうか書き終えて思い出したんですけど……リンゼちゃん、アニメであの子杖無くても魔法撃ってますやん! 最初の構想崩れちゃ~う!(読み込みの甘さが露呈)
まま、ええわ。このまま書いたろ(妥協)
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
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スマホ太郎(アニメ主人公)
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望月冬夜(原作主人公)
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野獣先輩
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三浦
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木村