「ファッ!? なんだこの化け物!」
「……どうやら先ほどの地震の原因はこいつのようだな」
野獣が突如現れたコオロギのような化け物を前にして驚愕し、三浦は冷静に分析する。地震が起きた後に現れたこの水晶のような身体を持つコオロギの化け物。どう考えても地割れを起こした張本人と見ていいだろう。
その化け物が、目のない顔をこちらを向けている。意思を持っているのかは定かではない。本能の赴くままに動く生物なのかもしれない。だが、六本の長い脚を蠢かせ、こちらへ身体を向けるのを見る限り、
「来るでござる!!」
敵意を持っているのは確実だった。
コオロギは前にある脚二本を、一行へと伸ばす。脚は凄まじいスピードで獲物を捉えんと野獣たちに迫るが、一行は八重の声を合図に、すでに一斉にその場から散るように回避。一行が立っていた場所の背後の城壁がガラス細工のように粉々に砕け散った。
「はぁっ!!」
回避してすぐさま一番手としてコオロギに攻撃を叩き込んだのは三浦だ。飛び上がっての踵落としをコオロギの顔面部分に叩き込み、鈍い音をたてる。直後、三浦の顔が歪む。
「くそ、硬い……!」
「援護するでござる!!」
三浦に続き、八重もまた飛び上がりつつ刀を抜き放ち、三浦が蹴った個所目掛けて斬撃を放つ。が、甲高い音が鳴って僅かな傷が入っただけで、コオロギ自体にダメージが入っていない。
「う、腕が痺れるでござる……なんという強度……!」
「避けろ!!」
歯噛みしながらも、三浦の声と共に八重はその場から飛び退る。三浦もまた横へ転がり、コオロギから距離を取った直後、二人が立っていた場所に先端が鋭い足先が突き刺さった。
「雷よ来たれ、白蓮の雷槍、サンダースピア!!」
物理攻撃がダメならばと、木村が援護のために雷の槍をコオロギ目掛けて飛ばす。寸分違わず、槍はコオロギに命中……する寸前、雷の槍が霧散、粒子となる。粒子はそのまま、コオロギの赤い石へ吸い込まれるように消えていった。
「あれは……まさか、魔法を吸収した!?」
驚く木村の横を駆け抜けるのは野獣。曲刀を振るい、コオロギの身体に刃を叩きつける。が、八重同様浅いを傷を付ける程度。だが、
「一発がダメなら二発でも三発でも食らわしてやるよオラァ!!」
縦横無尽に高速で飛び回りながらコオロギの身体全体を切りつけるように連撃を繰り出す。鋭い金属音が絶え間なく鳴り響き、次々と傷が入っていく……が、いずれもやはり浅く、全てが有効打とは成りえなかった。
やがて堪忍袋の尾が切れたのかどうか定かではないが、野獣の攻撃が鬱陶しいとばかりにコオロギが動く。
「オォン!?」
地面に跡をつけながらその場で高速スピン。野獣はたまらず弾き飛ばされ、地面を転がった。
「野獣先輩、危ない!」
コオロギが六本の脚を曲げたかと思うと、太陽を遮るようにして天高く舞い上がる。水晶体と言えども薄い影はできるもので、その影は吹き飛ばされたばかりの野獣を覆っていた。それを見た木村が叫ぶと、野獣は起き上がるのではなくそこから転がっていく形で回避。間一髪、野獣がいた場所にコオロギが着地、地面を大きく揺らした。
だがコオロギの追撃は止まらない。逃がさないとばかりに、野獣目掛けて脚を動かし、巨体に見合わない素早さで野獣へ迫る。
「アァッ! ハァッ! ハァッ!」
今度は立ち上がって逃げ出す野獣。足の速さでは誰にも負けない野獣に追いすがるコオロギは、廃墟の壁や石柱を次々と豪快な音をたてながら破壊していく。
「野獣!」
「まずいでござる、あのままだと追いつかれてしまう!」
野獣の危機に三浦と八重が走る。だが障害物を破壊しながら走るコオロギに追いつけない。今は野獣に追いつけないでいるが、それも時間の問題だ。
「……魔法は効かないけど、物理は効く……か」
木村はというと、物陰に身を潜めながら瓦礫を砕くその様子を冷静に見て考える。三浦と八重と野獣の攻撃は、浅いと言えども傷をつけることはできている。その上、現在進行形で瓦礫を砕きながら疾走しているのを見るに、物理攻撃が効かないというわけではない筈。逆に木村の魔法は吸収され、無効化されてしまった。
つまり、魔力で構成された炎や雷といった現象的な攻撃は通用しない。しかし、魔法で作り出した物体ならばどうか……野獣を救うためにも、試してみる価値はあるだろう。
「一か八か……氷よ来たれ、大いなる氷塊、アイスロック!!」
木村がコオロギの進行方向に向けて水魔法のアイスロックを唱えると、上空に大岩のような氷塊が出現、落下し、真下を通りかかったコオロギを押しつぶした。嫌な音が鳴り、コオロギの動きが止まる。
「よし、やっぱりだ! 魔法を使った物理攻撃は効く!」
自分の予想が正解だったことで指を鳴らす木村。そしてコオロギの動きが止まったことで、野獣はどうにか逃げ切ることに成功、木村がいる物陰に飛び込んで身を隠した。
「あかんこれじゃ死ぬぅ! あいつヤバすぎんよ~!?(九死に一生)」
「野獣先輩、怪我はないですか!?」
「いや全然。走りすぎてちょっと疲れた程度だからヘーキヘーキ。助けてくれてありがとナス!(礼儀)」
座りながら体力回復に努める野獣。木村が物陰から顔を覗かせると、コオロギが氷塊から抜け出そうと藻掻いているところだった。そこを容赦なく、風の如く駆ける三浦の鋭い拳がコオロギの脚に、一番脆そうな関節部位に迫る!
「オルァ!!」
バキィン! そんな音をたてながら、気合一閃、速度を乗せた三浦の拳がコオロギの脚のうち一本をガラス棒のように叩き折ることに成功した。折られた脚は地面に落ちると粉々に砕け散る。
「やったでござる!」
こちらの攻撃がようやく通じた瞬間、八重が喜色の声を上げる。このまま攻め続ければいずれは……と、誰もがそう思っていた時、
「っ……!?」
三浦の背筋に、悪寒が走る。思わず振り返ると、脚を一本失った筈のコオロギの姿。だが、三浦の目の前で信じられないことに、破壊した筈の脚が植物が早送りで成長していくように再生されていった。
「そんなっ!?」
「うっそだろオイ!?」
木村と野獣が驚愕する間に、コオロギは折られた脚を完全再生させた。そして伸し掛かっていた氷塊を砕き、再び立ち上がる。
氷塊の破片が降り注ぐ中、コオロギは己の脚を折った三浦へ怒りを感じているのか、意図返しとばかりに再生したばかりの脚を槍の如く真っ直ぐ、高速で三浦へと突き出す。
(まずい……!)
回避―――無理だ、間に合わない。
防御―――駄目だ、受け止めきれない。
受け流し―――不可能だ、もう眼前まで来ている。
結論―――万事休す。
「やぁぁぁぁっ!!」
次の瞬間、脚は三浦を刺し貫く……寸前、割って入った八重が猛然と刀を振るい、弾いた。弾かれた脚は進路を強引に変えさせられ、二人の背後の石柱を破壊した。
「八重!?」
「三浦殿には指一本たりとて触れさせはせぬ!」
驚愕する三浦、刀を構えて鋭い眼でコオロギを睨む八重。三浦を仕留め損ねたコオロギは立ち上がり、再び六本の脚を動かして二人へと襲い掛かる。
「うおらぁぁぁっ!!」
「てやぁぁぁぁっ!!」
三浦も大勢を立て直し、八重と共に勇猛にも迎え撃った。
それを少し離れた場所で見ていた木村は、頭をフル回転させる。
「このままじゃ埒があかない……対策を建てないと、闇雲に攻撃してたらいずれこっちがやられてしまう」
「けどよぉ、あいつの身体すげぇ変態(みたいな硬度)だぜ?」
野獣の言う通り、あの変態じみた硬度によっていかなる攻撃も通じない。魔法も吸収される以上、直接使うことは不可能。氷塊を落とす等の攻撃は通用するにしても、いまだ相手は健在、有効打となりえない。まさに鉄壁である。
何か、何か手はないか……じっくり、コオロギを観察する木村。
そして、気付いた。
「……あの赤い石」
水晶の身体の中に埋め込まれた、目のような丸くて赤い石。木村の魔法を吸収したあの石だけ、身体を構成する水晶とは材質が違う。何より、硬い身体で守っているかのようにも見える石は、さながら人でいうところの心臓……。
「……あの、水晶に埋め込まれている赤い石。あの赤い石が奴の核かもしれません。あれを破壊すれば、恐らく……」
一部だけ異なる箇所。そこがコオロギの唯一の弱点かもしれないと見立てた木村は、野獣にそう告げる。
「なるほどなぁ。けどよぉ、あれ破壊するにはやっぱりあの硬さは厄介だぜ?」
弱点らしき部分はわかった。だがそこへ行きつくには、あの鎧の如し身体をどうにかしなければ届きそうにない。野獣の苦言に、木村は頷いた。
「確かに、厄介です……けど、物理攻撃が通じるのなら、まだ手はあります」
そして、木村は策を伝える。と言っても、策らしい策ではない、単純なものだったが。
「先輩、僕たちであいつを足止めします。動きを止めたら、奴の核目掛けて渾身の一撃をお見舞いしてください。いくら頑丈とは言えど無防備状態の時ならば、まだ勝機はある筈です。」
「ファッ!? おま、簡単に言うけどさぁ……」
確かに、手段としてはそれしかない。だがそんな重要な役を担う身になる野獣は文句の一つでも言おうとした。
「大丈夫です……野獣先輩ならできるって、信じてますから」
ニッと笑う木村。聞こえのいい言葉かもしれないし、根拠も何もない。これが会ったばかりの人間相手に言ったところで、顰蹙を買うか、或いは調子に乗るかのどちらかだろう。
「…………ハァ~!(クソデカため息)」
野獣は、どちらかと言えば後者だ。だがそれは単純な話ではない。
同じ迫真空手部として共に汗水を流し、練習に励んできた者との絆。こうして共に異世界の大地で魔物と対峙し、背中を合わせながら命がけで戦う信頼。一朝一夕では築かれることはない関係だからこそ、野獣は調子に乗りながらも、木村を信じた。
「リフレットのパレントにぃ、新作スイーツのロールケーキ、売ってるらしいんだよ。これ終わったら奢れよな~(生存フラグ)」
「ええ……皆で食べましょう!」
そう固く約束し、野獣は飛び出し、駆ける。木村もまた、魔法の詠唱を始めた。
「岩よ穿て、隆起せしは岩の鋭槍、アーススピアー!!」
ドォン! 大きな音と共にコオロギの真下から岩の槍が飛び出す。刺し貫くことはできなかったが、強い衝撃でコオロギの身体が一瞬浮き、動きを止める。
「三浦先輩! 八重さん! 奴の赤い石が見える箇所! きっとそこが奴の弱点です! できるだけ奴の動きを止めるように戦ってください!!」
「わかった! 行くぞポッチャマ! 八重!」
「ポチャ!」
「任せるでござる!」
木村の策を聞かずとも、何か考えがあることを察した二人は、ただそう返事を返してコオロギへ駆ける。互いに挟み込むようにしてコオロギへ飛び掛かると、三浦は拳を、八重は刀をコオロギの身体に叩きつけた。
相変わらず硬い表皮に遮られ、甲高い音を鳴らしながらも傷をつけるくらいしかできない。だが、二人は止まらない。
「野獣の言う通り一発がダメなら!」
「二発でも三発でも食らわせて!」
再び拳を振り上げる三浦と、刀を振り上げる八重。そして、
「「押し通るっ!!」」
そこから凄まじい速度で繰り出される拳と刀のラッシュ。鳴りやまない金属音。残像が残る程の速度で繰り出される三浦の拳と、刀の軌跡を幾重にも描きながら叩き込まれて行く八重の刀。二人が狙うは一点、核と思われる赤い石。ノーダメージと見せかけ、二人の周りには水晶の小さな欠片が陽光で煌めきながら飛び散っていく。着実に削れている証だ。
コオロギとて黙ってはいられない。まるでうるさいハエを払うが如く、その場で再び高速スピン。その寸前、予備動作で気付いた二人は、コオロギを蹴りつける勢いを利用し距離を離す。
スピンを止めたコオロギは、またも脚を伸ばす。そしてリベンジとばかりに、再び三浦を狙う。今度は八重も着地の衝撃で咄嗟に動けない。三浦もまた同様。今度こそ三浦は脚に身体を貫かれる……そう思われても仕方ない状況だった。
が、
「ポッチャマ! みずでっぽう最大出力!!」
「ポッッッチャアアアアアア!!」
前方目掛けて、ポッチャマが三浦の肩越しからこれまで以上の水圧を誇るみずでっぽうを発射。狙うはコオロギ、ではなく、何もない空間。だが三浦にとってはこれが狙いだった。
勢いよく吐き出された水は、ポッチャマの身体を、ひいてはポッチャマ自身がしがみついている三浦の身体を反動で吹き飛ばす。それに抵抗することなく、三浦は勢いに身を任せる。結果、三浦は緊急回避という形でその場から素早く離脱。コオロギの脚先は空を切るに留まった。
「八重!!」
「勝機……!」
三浦が八重を呼ぶ。その意図を察し、八重が跳んで城壁の残骸の上へ、さらにそこから跳躍。大上段に構えた刀を振り下ろす先、そこは、
「せやぁぁぁっ!!」
三浦を狙うために伸ばした脚の、関節部位。
ザンッ! 刀の刃は蒲鉾を切るかの如く脚を容易く切断。三浦の時同様、離れた脚は粉々に砕けて消えた。一本脚を失ったコオロギはバランスを崩して倒れるも、すぐに脚を再生させるだろう。
だがそれでいい。一瞬でも動きが止められたのならば、十分だった。
「今です! 野獣先輩!!」
木村は視線の先、八重が飛び降りた城壁よりも大きい瓦礫の上へ向けて叫ぶ。
「お ま た せ(反撃の狼煙)」
そこに立っていたのは他でもない、野獣。
躊躇なく、野獣は飛び上がる。着地点はもちろん、コオロギ……の、赤い石が埋め込まれている部分。そこ目掛け、野獣は曲刀の切っ先を向けながら落下していく。
風を切り、落下のエネルギーを乗せ、野獣の剣は寸分違わずコオロギの身体に突き刺さる。三浦と八重によって傷つき、削れて僅かに薄くなっていたおかげで、これまでの攻撃よりも深々と刃が埋まった。
だが、野獣は忌々し気に舌打ちをする。
「チッ! 後少しだってのに!」
刃は、身体を確かに貫いた。だが本命である石には僅かに届かない。
ならばもう一度突き刺すまで。野獣が剣を抜こうと力を込めたその瞬間、脚の再生が完了したコオロギが身体を大きく揺らした。
「オォン!?」
咄嗟に剣の柄を持ち、振り落とされまいと抗う野獣。そして、
―――パキィィン
「ファッ!? 折れたぁ!?(仮面ライダーRYUK)」
根本からポッキリ、野獣の剣が柄だけ残して折れてしまった。
リザードマンから奪い取り、それ以来ずっと使い続けてきた曲刀は、元々粗悪品でしかなかった物。野獣がこれまで手入れを欠かさず行ってきたおかげだったとしても、今の今まで折れなかったのは奇跡と言える。しかし、頑強な鎧を纏ったデュラハンに続き、高い硬度を誇るコオロギを相手取るのは、さすがに限界だった。
まさかこのタイミングで折れるとは思っていなかった野獣は、いまだ暴れるコオロギに意地でも振り落とされまいと必死にしがみついた。
「アァッ! ハァッ! ハァッ! ハァッ!」
「野獣!」
「野獣殿!」
三浦と八重が救助しに行こうにも、核の近くまで剣が突き刺さったことで危機感を覚えたのか、土煙を上げながら死に物狂いで暴れるコオロギを前に近づけない。
「まずい、どうしたら……!」
後一歩まで来て、野獣は武器を失ってしまった。このままでは野獣が危ないが、手出しできない。木村は思考を巡らせ、何か手は無いか必死に模索する。
魔法は野獣を巻き込みかねないからダメ。三浦と八重も近づけない。ならば野獣自らがコオロギにトドメを刺すのが手っ取り早いが、どうすれば……そう考えていた時、木村の視界が
「暴れんなよ、暴れんなよ……!」
野獣がコオロギをなだめようとするが、当然言うことなど聞く筈もない。暴れ馬が如く上下左右に揺れるコオロギに、突起物のない身体に必死にしがみつく野獣の体力が限界を迎えようとしていた。
「っ、この手しかない!!」
それを見て、考えるよりも身体が動いた木村は走り出す。目指すは一点。スライディングをしながら、木村は腹の底から叫んだ。
「スローッ!!」
野獣へ向けて手を振るう。すると地面に深々と突き刺さっていた
「先輩! これを!!」
木村が投げ飛ばし、コオロギの上へと飛んでいくソレ……先ほどまで激闘を繰り広げ、木村の魔法によって消滅した魔物、デュラハンが携えていた大剣を、野獣の眼光鋭い眼が捉えた!
「ヌッ!!」
コオロギが跳ねたタイミングを見計らい、野獣は手を離す。トランポリンのように宙高く舞い上がった野獣が手を伸ばしたその先には、回転しながら飛ぶ大剣の柄。野獣はそれを、
「取れ、ちゃ……ったぁっ!!」
見事キャッチした。
野獣が離れたことでコオロギは自由を取り戻す。が、そうはさせじと動く影が二つ。
「させん!」
「はぁっ!」
すでに脚の対処法のコツを掴んだ三浦の正拳突きが、八重の刀が、左右の前脚を破壊、切断する。こうしてコオロギは再び地に伏せることとなった。
再生が始まる。だがその間は動きが取れない。
つまり……恰好の的だ。
「最後の一発くれてやるよオラァッ!!(必殺の一撃)」
身の丈程もある大剣を手にした野獣が、分厚い刃をコオロギへ向ける。切っ先はブレず、真っ直ぐ核へ……折れて刃のみとなった曲刀へと吸い込まれるように落ちていく。
そして遂に、大剣の刃は曲刀を釘のように打ち込み、核だけでなくコオロギの身体そのものを貫通した。
爆発のような音が響く。曲刀と大剣の刃は確実に核を捉え水晶の身体の中で真っ二つとなる。その瞬間、ガクガクとコオロギは身体を大きく震わせ、脚をバタつかせ……やがてビクンと動きを止めると、脚が力なく伸びて地面を震わせながら倒れた。
「オォン!?」
その際、大剣と共に地面に落下した野獣。情けない声を上げながら尻を打ったが、それよりも目の前の化け物に誰もが注目していた。
ピシリ。コオロギの水晶の身体に、亀裂が入っていく。その亀裂は徐々にコオロギの身体全てを覆っていくと、床に叩きつけられたガラス細工が如く粉々になって砕け散っていった。
日の光に反射して煌めく、化け物の身体を構成していた水晶。一行は固唾を呑んで見つめていたが、いつまでも経っても復活する様子はない。それが意味することはつまり、
「終わった……で、ござる」
こちらの勝利、ということだった。
「ぬわぁぁぁぁぁぁん疲れたもぉぉぉぉぉぉん!!」
「チカレタ……」
「ポッチャァ」
「……今回は、拙者も……疲れたでござるぅ」
地面に身体を投げ出して大の字になって転がる野獣と閣下モードから戻った三浦とポッチャマ、そして八重。木村もまた、幾つもの魔法の行使によるものと身の丈以上に大きい大剣をスローで投げ飛ばしたことによる疲労でヘロヘロになって、同じように倒れ込んだ。
「か……かつてない程の、強敵でしたね……」
「キツかったっスね今日は~……お前どう?」
「き、キツかったでござる……」
「ポッチャマ……」
「ポチャ……」
張りつめていた緊張が取れたことで四人とも円を描くようにして仰向けに寝そべり、起き上がろうにも一度倒れ込んだらもう起き上がれない程に疲れ切った一行は、そのまま澄み渡った青空を見上げた。
「にしても、何だったんだよあいつぅ~……あんなんいるなんて聞いてねぇぞ?」
「僕だって知りませんよ……地面の下から現れたってことは、やっぱり地下があったってことですかね、ここ?」
「恐らく……もしかしたら、ここが廃墟になった原因やもしれないでござる。何故今現れたのかは謎でござるが……」
「あ、そっかぁ……」
「ポッチャァ……」
あれだけの強さだ。一介の兵士が数人束になったところで蹴散らされてしまうだろう。そう考えたら、八重の考えも頷ける。だが、何故今更そんなものが一行の前に現れたのか、これがわからない。
「……多分、あいつが知ってるんじゃねぇ?」
野獣は最初の地震の時に木村によって窮地を救われ、代償としていまだ気を失っている男へ顔だけ向ける。デュラハンの時から姿を見せなかったというのに、タイミングよく表れたことを考えたら、あの男が一枚噛んでいるとしか思えない。
「ですかね……どうします?」
「恐らく、あの男は身なりからして冒険者。ギルドに連れて行って報告した方がよいでござる。それから、ここは元王都。そこの地下から現れ出でたという事実を国にも報告する必要もあるでござるな……」
「となると……公爵さんのところに行った方がいいゾ?」
「そうですねぇ……それが一番手っ取り早いかぁ」
「じゃあ早速……と行きたいところなんですけど」
はぁ、と木村がため息一つ。
「すいません、少し待っててもらえます? もう僕、ヘトヘトで……ゲートなんてとても開ける状態じゃないんですよね」
「あ~、いいよいいよ。休んで休んで。俺ももう(疲労)溜まっちゃってさぁ……」
「そうだよ」
「そうでござるなぁ」
「ポチャ」
寝そべったままそんな会話を繰り広げる一行。木村の言う通り、体力が回復してからでないと動けそうにない。魔物はもう退治した。ならば危機はもうない。しばらくこのまま寝転がって休息をとることにした。
「あ、そうだ。八重ちゃん」
「ん? なんでござるか、三浦殿?」
隣で横になっている三浦から呼ばれ、八重は顔だけ向ける。そして三浦は、八重に向けて笑顔で言った。
「約束、守ってくれてありがとなぁ。助かったゾ」
「っ……!」
面と向かって、以前八重が勢いのままに口走った、次は自身が三浦を助けるという約束……それをようやく果たすことができた八重に礼を言う三浦。最初、八重はそのことを覚えていてくれたことによる喜びと戸惑い、そして胸の高鳴りを覚え、そして、
「……どういたしまして、でござるよ」
ニッコリと、心の底から嬉しそうに、そう返したのだった。
そうして30分後、ようやく動くことができた一行は、いまだ目覚めない冒険者の男を連れて木村のゲートを使い、王都へ帰還を果たしたのだった。
原作だと望月兄貴の閃きが冴え渡ってアポート使ってあっちゅー間に倒しましたが、空手部の面々はアポートが効くとは知らずに力技で核を砕くという方法で倒しました。いやアポートもある意味力技ですけどベクトル違うし。だってこの戦いがまるで将棋だなんて思いつかないんだもの仕方ないじゃない。あと作者の趣味(拙者、力技で困難をこじ開ける展開大好き侍)。
余談ですが、アニメの三話でデュラハンが剣だけ残して消滅したの見て「(あの剣)ええや〜ん」と思ってたんですが結局何事もなく放置されたんで拾わせていただきました。魔物が持ってた武器ってたまにかっこいいのあるよね。
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
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スマホ太郎(アニメ主人公)
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望月冬夜(原作主人公)
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野獣先輩
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三浦
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木村