公爵とは一番上の位にして、王族のみにしか与えられない崇高な爵位である。これはすでに国どころか世界の常識として浸透しており、国を治める国王の次に敬うべく存在であり、決して公爵相手に粗相があってはならない。
そしてそんな相手から食事に招待されるということは大変な名誉であり、貴族にとっては狂喜乱舞する程の出来事である。呼ばれた者は何としてでも公爵に気に入られようと躍起になり、彼に頭を下げる。そして食事の際のテーブルマナーを決して忘れず、騒がず、その空間は気品に満ちていることだろう。
……その筈なのだが。
「FOO! この肉最高にウメェ! やっぱ公爵んとこの飯は美味いって、はっきりわかんだね(常識)」
「おいしいゾ~このビーフシチュー! 濃厚なソースがトロトロ肉と合わさって最強の味してるゾ~これ!」
「うぅ、この野菜苦手なのじゃ……木村、食べんか?」
「こら、スゥシィ。好き嫌いしてはいけませんよ?」
「そうだよスゥちゃん。野菜もしっかり食べないと大きくなれないよ?」
「え~……」
「あ、じゃあ俺が半分食べてあげるゾ~。それなら食べれるだルルォ?」
「三浦殿、甘やかすのはいけないでござる。野菜の栄養価は侮れん故、しっかり食べなければお母上のような淑女にはなれぬでござるよ、スゥ殿?」
「う……わ、わかったのじゃ! 頑張って食べて母上みたいになるのじゃ!」
「偉いゾ~スゥちゃん! それでこそ公爵さんの子供だゾ~!」
「あ、木村野菜好きだったよな? お前どう?」
「八重さんの話聞いて無かったんですか。スゥちゃんも食べてるんですからアンタもちゃんと食べろよ」
「クゥ~ン……(嘆き)」
「ポチャポチャ(ウメェウメェ)」
どう見ても普通の家庭の親戚の集まりです、本当にありがとうございました。
長テーブルに並べられた豪華な食事に舌鼓を打ちながら、スゥシィが嫌いな野菜を前にして嫌な顔をし、それをエレンと木村が窘め、そんなスゥシィの手助けをしようとする三浦を止めて八重が食べることの利点を説明して促し、その横で野獣が木村に叱られ、テーブルの上でポッチャマが魚料理を丸呑みしている……この光景を第三者が見たら、十中八九王族の食事だとは思わないだろう。まんま親戚が遊びに来て夕飯を共にしている光景にしか見えない。粗相しかない上にテーブルマナーも気品もへったくれもありゃしない。
「そうか、冬夜殿たちも冒険者として活動しているのだな」
「ええ。僕はエルゼとリンゼに色々教えてもらいながら何とか頑張れてます。けどやっぱり知らないことが多すぎて、冒険者としてはまだまだです」
「謙虚なのだな君は。しかし、冒険者は力なき人々のために働く立派な仕事だ。それをこなすことができるということを誇りを持ちなさい」
「アハハ、ありがとうございます。そう言ってくれると励みになります」
そして野獣たちの反対側では、冬夜は上座に座る公爵に自分のことと冒険者としての活動を話題にし、話に花を咲かせていた。冬夜には気負いも何もなく、見ようによっては仕事に理解ある叔父に自分の近況を楽しそうに話す甥みたいだった。
騒がしくも和やかで、決してありえない筈なのにありふれた食事風景。この場にいる九割は食事を楽しんでいるだろう。
((な、何も味しない……!))
そして残された一割はいまだ顔面蒼白から戻れていない。
冬夜の隣に座るエルゼとリンゼだが、気分的には公爵令嬢と公爵夫人を相手にはしゃぎながら食事を楽しむ迫真空手部一行と、畏れ多くも公爵相手に普通に雑談を楽しむ冬夜という板挟みにされた感じだ。このTPOも何も弁えていない光景を前にしてうっかり相手が王族であることを忘れてしまいそうだ。おかげでせっかくの食事が喉を通りそうもない。
「あれ、二人ともさっきから大丈夫? 体調よくないの?」
「い~え~? すっこぶる元気よ、すっこぶる!」
「全然! 全然大丈夫ですよ! はい!」
「そ……そう」
だというのに、隣の男ときたらすっかり公爵と打ち解けて普通に楽しんでいるものだから、思わず恨みがましくもなるというものだ。二人に気圧されて顔を引きつらせる冬夜だったが、何故二人が怒っているのかさっぱりわからない。
「あ、そうだ。公爵様に聞きたいことがあるんです」
「ん? 何かね?」
ふと冬夜が疑問に思ったことがあり、それを聞くために公爵に質問を投げかける。
「あの、あの人たちと公爵様って、どんな関係なんですか? すごく親しい間柄のようですけど、やっぱり気になったので」
その質問を聞いて双子も身を乗り出して頷いた。公爵家にあそこまで親しい態度を取っているのだから、ひょっとしたら彼らは公爵家と縁のある貴族の人間なのかもしれないと双子は懸念していた。もしそうなら、これまでの態度を改めなければいけなくなるかもしれない。
「あぁ、彼らか。彼らは最近まで新天地を目指して放浪の旅をしていた者たちだと聞いているよ」
公爵からの答えを聞いて、エルゼとリンゼはホッとため息をついた。
だが、それならそれで解せない。どんな理由があって一介の旅人が公爵家とここまで親しくなれたのか。余程のことがあったに違いないと、公爵の話に真剣に耳を傾ける。
「彼らはね、私たちの恩人なんだよ。それも、とても返しきれないような恩だ」
「恩人、ですか?」
「ああ。まず最初の恩なんだが、以前訳あって娘のスゥが家令と共に屋敷を出て、その帰り道に襲撃を受けてね……護衛の多くが殺されてしまった痛ましい事件だ」
公爵家の令嬢の襲撃……想像以上に大それた話を聞いて、三人は息を呑む。
「その際、家令のレイムも胸を矢を受けたらしい。致命傷だったそうだ。スゥシィもあわや連中の手にかかりそうになった時に、通りがかった彼らによって襲撃者は退けられ、レイムの命も救われた……これが第一の恩だ」
初っ端から大きすぎる恩だった。そして公爵は続ける。
「第二の恩は、妻のエレンだ。彼女は以前まで病の後遺症で目が見えなくなってしまってね。それを解決するためにスゥシィは旅をしていたんだが、結局手がかりもなく……そんな時に、木村殿が名乗りを上げてくれたんだ」
「木村さんが?」
名前を挙げられた木村を、リンゼは見る。当の木村は野獣が皿の上に野菜を移されたことにキレて野獣の口をこじ開けて無理矢理野菜を詰め込んでいた。
「彼はいくつかの無属性魔法が使えるらしく、その中に妻の目を癒せる魔法があったんだ。それをエレンにかけてくれたおかげで、妻の目は治ったんだ……だが、その代償として木村殿は重度の魔力切れを起こしてしまい、倒れてしまったんだ」
「っ……!」
魔力切れ……人間の中にある魔力が無くなると、人によっては貧血のような眩暈を起こし、ひどい時は昏睡状態からの死亡もありえる。魔力切れの恐ろしさを知るリンゼは、顔を青くした。
「幸い、処置が間に合ったから木村殿は無事だった……彼は自らの危険を顧みずに妻を治してくれたのだ。娘の件含めて私にできる最大限の謝礼を渡したが、それでも不十分な程の第二の恩なのだよ」
「そんなことが……」
確かに木村は優しい人間だが、まさかそのようなことがあったなどとは予想だにせず、エルゼが半ば呆然と呟いた。
「そして、第三の恩だが……スゥシィが再び襲撃された。しかも最初の襲撃者と同一犯だ」
「また!?」
「ああ。しかしギルドの依頼の最中だった彼らと一緒になったおかげで、襲撃者を軒並み捕縛することができたんだ。これが第三の恩……これら全てを合わせると、何をして彼らの恩に報いればいいのかわからなくなってしまってね」
そう言ってはにかむ公爵。想像以上の恩義だったと知った冬夜たちは、何も言葉を返すことができないでいた。
「……何と言うか、すごかったんですね、彼ら……」
「ああ、素晴らしいよ。彼らのような人間と出会えたことは、私たち家族にとって奇跡だとすら思っている。実は神の使いと言われても信じてしまいそうだ」
「……神の使い?」
彼らを持ち上げる公爵の言葉を聞いて、エルゼがチラと空手部を見る。野菜を無理矢理食わされた野獣は、仕返しに木村の肉を気付かれないようにこっそり食べているところだった。
「……神の使い……」
「エルゼ?」
「……何でもないわ」
どれだけ立派なことをやっていたとしてもあんな俗な神の使いがいてたまるか、とエルゼは思ったとか思ってないとか。
「け、けど……その、やっぱり、気になったりとかはされないんですか? えっと、礼儀とか、公爵様に対する言葉遣いとか……」
おずおずとリンゼが公爵に聞く。「ナイス質問よリンゼ!」とエルゼが影でサムズアップしていた。
「ん? 礼儀……ふむ」
顎に手を添えて考える公爵。やはり彼としても彼らの振る舞い方には思うところがあるのだろう。
「特に気にしてはいないな」
「いや気にしなさいよって言いたいところですけどそれはどうしてなのでしょうか!?」
「よく耐えたね、お姉ちゃん……」
「なんか途中から変なテンションにもなってたけど……」
普段のテンションでツッコミ入れたところで舵を切ってギリギリ敬語に持ち込んだエルゼにリンゼは小さく拍手。冬夜は苦笑。
「いやなに、さすがに私も礼儀やマナーについては理解しているつもりだ。君たちと彼ら以外の者からあのような態度をされれば私とて不愉快には思うさ」
「じゃあ、どうして?」
冬夜が聞くと、公爵は一つ頷き……視線を、スゥシィへ。
「我が妻エレンが目から光を失ってから、私は何とか元に戻そうと必死になって調べていた。スゥもまた、母親の目のことを自分なりに何とかしたいとずっと思っていたからこそ、レイムと共に旅に出た……けどね、スゥは本当は甘えたかったのだと私は思っている」
「甘えたかった、ですか?」
「ああ。私は妻の目や政務ことで忙しく、そして妻は目が見えないがためにできることは限られている……そんな両親に、あの子は甘えたくとも甘えられなかったんだろう。さらに言えば、公爵家の娘という立場もあるために、友人らしい友人すらもいない。私の前では変わらないよう努めていたが、私にはわかる。妻が病気になる前に見せてくれた活発な笑顔が見れなくなってしまったんだ」
語る公爵の声は穏やかなものだったが、どこか後悔も含まれているような震えがあった。父としての責務を果たせていなかったという悔いが、何も知らない筈の冬夜たちにも伝わってくる。
「正直に言うと、妻の目は半ば諦めかけていた。娘のあの輝かしい笑顔も見れないと、そう思っていた……そんな時に、彼らが現れてくれた」
母の横で、苦手な食べ物を前にして嘆いている三浦を叱る八重とポッチャマを見て無邪気に笑う娘を、公爵は優しい眼で見つめる。
「彼らがスゥの命を救ってくれて、妻の目の光も取り戻してくれた。その恩は確かに計り知れない大きな物だ。しかしね、私は恩以上に、スゥシィが彼らと共にいると以前以上に笑っているのを見ているのがたまらなく嬉しいんだよ」
ふざける野獣、にこやかな三浦、愛嬌を振りまくポッチャマ、二人を窘める木村、そして困り顔をしながらも見守る八重……彼らの中心にいる時のスゥシィは、本当に心の底から楽しそうだった。
「彼らのことを友と呼んで話す娘は、いつも輝いているんだよ。私とエレンでは成し遂げられなかったことだ……だからこそ私は、この屋敷の中でもありのままの彼らでいて欲しいと思っている」
「公爵様……」
「まぁ、かく言う私も彼らを見てて楽しいと思っているのもあるからね。公爵という立場としてはどうかと思われてもしょうがないかもしれない」
娘の心からの笑顔までも取り戻してくれた迫真空手部。上も下も関係なく態度を変えない彼らは、貴族社会という大きな闇を抱えた世界を垣間見てきた公爵にとって、暖かい光のような存在だった。
人生、何が起こるのかわかったものじゃない。彼らとの出会いは、とてつもなく大きい。
冬夜たちもまた、彼ら迫真空手部が公爵家を様々な意味で救っていたという事実を知り、彼らに対する見方を改める。公爵に対する態度に思うことはあっても、公爵自身がそれでいいと公言している。ならばエルゼもリンゼも、もはや何も言うことはなかった。
「先輩……さっきから僕の皿から肉取ってますよね?」
「いや全然(食い気味)」
「取ってますよね? いや取ってるよな確実に」
「なんのこったよ(すっとぼけ)」
「……」
「……」
バキィ!(クロスカウンターでお互いの頬を叩きのめす音)
「オルルァ!?」
「オォン!?」
「お二人とも喧嘩はよすでござるー!」
「おー、野獣と木村また喧嘩してるゾ~。相変わらず仲がいいな~」
「ポッチャ(呆れ)」
「おお、わらわこれ知ってるぞ! 喧嘩する程仲がよいという奴じゃな!?」
「あらあら」
「……いややっぱどうかと思うわあたし」
「うん。私も同意」
「えっと……止めなくていいんですか、公爵様?」
「はっはっは! 賑やかでいいことではないか!」
よかねーよ。と暗にツッコむエルゼの心など蚊帳の外。公爵家の食堂からはまるで大衆酒場のような喧噪めいたはしゃぎ声が夜遅くまで聞こえてくるのであった。
尚、パレントからテイクアウトしてもってきた手土産のロールケーキを巡って野獣と木村の第二ラウンドが始まりかけたが、さすがに見かねた八重とエルゼの厳重注意(鉄拳制裁)によって未遂で終わったことを記述しておく。
「ぬわぁぁぁぁんさっぱりしたもぉぉぉぉぉん」
ボフリ、風呂上がりの野獣は宿屋のベッドに顔を埋める。公爵邸の夕食会は夜遅くまで続き、スゥシィがウトウトし始めたのを頃合いに幕引きとなった。冬夜たちとも別れ、王都にあるすっかり生活の場となってしまっている宿へと戻ってきた一行。いい加減早く家を見つけたいところだが、難航しまくっているせいで見つからない。その上、この宿屋暮らしが思いのほか快適というのもあってモチベーションが上がらない。もう宿の主人とは時たま一緒に酒を飲み交わしたりする仲だ。その後一緒に泥酔して主人の奥さんから一緒に黄金の右ストレートをもらうのが定番の流れだ。
とにもかくにも、もう日付は過ぎている。野獣は一人長風呂していたため、すでに部屋は暗い。両隣のベッドでは三浦と木村が熟睡しており、ポッチャマも三浦の腕の中で寝息をたてている。八重も別室ですでに就寝中だ。
野獣もすでに今日一日色々ありすぎて、ベッドで横になった瞬間に強烈な眠気が襲ってくる。風呂で暖かくなった体温も手伝って、他の皆に続いて自らも夢の世界へと旅立つために瞼を閉じようとした。
『レザマリィ!♪ レザマリィ!♪ 朝まーで踊ろう♪』
「ファッ!?」
が、唐突に鳴り響く着信メロディ。閉じかけた瞼を開けば、枕元に置いてあるやわらか形態のスマホがメロディを流しながら振動しているのが目に入った。やわらか形態からスマホ携帯に戻すと、暗い部屋を照らす光を放つ画面には『GO神』の文字。
久しぶりに聞いた着信メロディを止めるため、野獣は通話ボタンをタップ。二人が目覚めていないのを確認してから、耳に当てる。
『どうもどうもこんばんちゃーす。やぁやぁ、久しぶりだね野獣君』
「神様……アンタこんな時間に何の用なんスか? 俺もうね、眠い(静かな怒り)」
この世界に転生を果たした直後以来の陽気な声を電話越しに、野獣は静かにキレる。今まさに眠ろうとしていたところを叩き起こされた挙句に、悪びれない態度と来れば誰だって怒りたくもなるだろう。
『まま、そう怒んないで。君にとって朗報を届けに来ただけだから』
「朗報?」
少なくとも睡眠妨害するためにわざわざ電話してきたわけではないらしい。それを知って、野獣はベッドから身を起こして聞く態勢に入った。
『ほら、転生する前に話したじゃん? 君のスマホのアプデ。やっと完成したからさ、そのお知らせ』
「ファッ!? マジスか!?」
『マジマジ。で、とりあえずどんな内容かっていうと……』
GOは野獣のスマホに転送される新たな機能について説明する。最初はスマホの新機能についてワクワクしながら聞いていた野獣だったが、内容を聞いていくうちにだんだんテンションが下がっていく。
「……それ、なんか微妙っスね……ってかもしかして、ちょっと前に流行ったアプリ参考にしてます?」
『そうそう、あんな感じの奴。けどさ、君のお仲間のことを考えたら結構便利な機能と思わない?』
「ヌッ……まぁ、確かにサポートするには向いてるっちゃ向いてるかもしれないっスね」
『でしょ? ま、そのうち役に立つ時が来るって。そう遠くない未来で』
「何を根拠に……って、ああ、神様だっけアンタ」
軽い口調で忘れそうになるが、相手は神だ。野獣たちの未来もある程度は見通せるのだろう。そう結論付けて、野獣は反論するのをやめた。
『じゃあ、そういうわけだから……っと、そうだそうだ、一つ言い忘れてたことがあったわ』
「もう、なんスか?」
もう眠気もピークなのだが。そう暗に伝えるつもりで、不機嫌な声で返事をするが、GOは意に返す様子もなく変わらず明るい口調で話す。
『君さ、スマホあんま活用できてないっしょ?』
「は?(威圧) そんなわけないじゃないスか。しっかり使ってますよ」
仲間内での気分盛り上げに役立ったし、演武の時の盛り上げに一役買ったし、スゥシィの襲撃時だってスマホがあったからこそ木村が一人の命を救うことができたのだ。二回目の襲撃時も、八重が勘違いとは言え誘拐された時も、スマホがあったからこそ窮地を切り抜けてこれた……なのに活用できていないとはどういうことか。
『いやぁ、そういう意味じゃなくてね……まぁ、これは自分で探してもらった方がいいかな。その方が君のためだし』
「いやだからどういう意味なんスかって。はっきり伝えてくれないと頭にきますよ?」
『まま、そう焦んないで。じゃあせっかくだからヒントあげるよ』
通話を切ってやろうかとイライラがピークに達しそうになっていた野獣に、GOは変わらない口調で言った。
『君の中に眠る力は、探せば見つけられるから』
「は?」
『そんだけ。じゃあまた何かあったら連絡するから、はい、じゃあよろしくぅ!』
「あ、待ってくださいよ」
プツッ。その音を最後に、通話が切れる。後に残されたのは通話が切れたことを知らせる電子音だけ。もう何を言っても答えない。
「……はぁぁぁ……つっかえ!」
寝ようとした矢先の唐突な連絡、しかも最後は意味不明なことを言われて、野獣は苛立ちを隠すことなく荒々しくベッドに横になり、頭の後ろに手を組みながら天井を見上げた。
「……俺の中に眠る力? 探せば見つかる? ……なんのこったよ」
GOは何を伝えようとしていたのだろうか。いくら考えてもさっぱりわからない……三浦たちに相談したところで、恐らく野獣と同じことを思うだろう。
まぁ、今はそんなことは考えなくていいだろう。
それよりも、スマホの新たな機能。寝そべりながらスマホを操作すると、GOの言う通り、スマホのホーム画面に見慣れない丸いアプリアイコンが現れていた。それを起動し、改めて機能の説明を読むと、GOが説明した通りの内容だった。実際に使うにはその時が来ないと効果の程はわからないが、出来れば来ないことを祈るような物だ。確かに役には立つかもしれないが。
「……まま、ええわ。もう寝よ寝よ!」
野獣はシーツに包まり、瞼を閉じる。GOによって邪魔されて一時は退散していた睡魔が再び襲ってくる。今度は何者にも邪魔されることなく、睡魔は野獣を夢の世界へと誘っていく。色々な疑問点、不安を残したまま、野獣は深い眠りへと落ちて行くのであった。
~翌日~
「ありがとうございましたぁ」
その声を背に、野獣たちはすっかり常連となったリフレットの喫茶店パレントから外へ出る。手にテイクアウト用の箱を持ちながら、木村は安堵のため息をついた。
「よかったぁ、残り3つ。ギリギリでしたね」
「ホントよかったぜぇ。けど何で限定品になったんだ? 昨日はしこたま食っても大丈夫だったのに」
「アンタのせいだよ」
「そうだよ」
「ポッチャ」
「ファッ!? 何で!?」
木村からの冷たいツッコミ、三浦とポッチャマの便乗を喰らって心外だとばかりに驚愕する野獣。
「何でって、昨日あんだけ食ってりゃそりゃ限定にしますって……アエルさん、野獣先輩見た瞬間すっごい顔してましたよ? 気づきませんでした?」
「あっ。確かに笑いながら口元痙攣してたゾ」
「クゥ~ン……」
さすがに皿を積み重ねる程に食われればある意味店としては嬉しいかもしれないが、それにしても限度がある。限定商品にでもしなければ体力的にも辛いのは目に見えていた。
「けどよかったですよ。これでスゥちゃんも喜んでくれますね」
「昨日持ってったのはバニラで、今日は苺のロールケーキだからな~。絶対喜んでくれるゾ~!」
昨晩、手土産に持って行ったロールケーキ。食後に全員分出したところ「うまあ! これうまあ!」と目を輝かせながらロールケーキを食べるスゥシィを見て、木村はまた買ってくると約束し、早速その約束を果たすためにこの店に訪れた。公爵もエレンも喜んでくれたため、家族分で三つだ。
「あ、そういや八重はどうする? あいつ置いてくのか?」
「あ~……どうしましょうか?」
と、この場にいない彼らの仲間の一人である侍娘のことを気に掛ける野獣たち。パレントへ訪れる際、道中で冬夜たちと遭遇した……のはいいが、何故かエルゼとリンゼが八重の肩を掴んだ。
『ごめーん、ちょっっっとだけ八重借りてくわね?』
『すいません皆さん、八重さんお借りします』
『え? え? ちょ、二人とも? 拙者に何か……』
『いやいや、そんな大したことじゃないのよ~? ただね、昨日のことでオ ハ ナ シが……ね?』
『そうです。すこ~~~~~~しだけ言いたいことがあるんですよ……ね?』
『……あの、目が怖いんでござるが。なんか光が無いんでござるが。掴まれた肩が痛いんでござるが。言いようのない恐怖が拙者の身体を駆け巡ってるんでござるが……と、冬夜殿?』
『……ごめん、八重さん。僕にはどうすることもできない』
『た、助けてでござるぅぅぅぅぅぅぅ!!』
普段よりも柔らかい口調なのにどこか凄まじい気迫を発している双子に両腕を掴まれてどこかへと引きずられていく八重。泣き叫びながら遠ざかっていく八重を見ていると、空手部の三人と一匹、冬夜の脳裏にドナドナのメロディが流れた。
結局、八重はどうすることもできないと結論付けて、一応冬夜に八重のことを頼んでから一行はパレントへ。そうして今に至るのだが、八重をどうするか決めてなかった。
「……まぁ、多分大丈夫だろ。頃合い見計らってまた迎えに来てやろうぜ?」
「ですね……僕もそれが無難かなって思います」
「八重ちゃん、女の子の友達と色々お話したいだろうからな~。いい機会だゾ」
「ポチャ(不安)」
触らぬ神に祟りなし。三浦は純粋にエルゼとリンゼと女子トークを楽しんでいるのだろうと思っているようだが、野獣と木村とポッチャマはあの双子を見て言いようのない不安を抱いていた。まぁ冬夜もいるし大丈夫だろうと無理矢理納得することにした。
今はとりあえず、このロールケーキをスゥシィに届けることが先決だ。三人は目立たない路地裏に入り、そこで木村がゲートを開く。そこを潜れば、あっという間に公爵邸だ。
「わっ」
「あ、すいません」
「どうもー」
「お邪魔しまーすゾ」
「ポッチャー」
ゲートを作る際にイメージする場所を間違えてしまい、ちょうど門の前に出現してしまった木村は、いきなり現れた三人に驚く門番に謝罪する。野獣と三浦とポッチャマは普通に挨拶しつつ片手を上げた。
門は固く閉ざされているが、門番に頼めば開けてくれるだろう。木村が門番にお願いしようとしたが、それよりも先に屋敷の方からガラガラと音が聞こえて来る。見れば、馬に引かれた立派な馬車が走り寄ってきているところだった。門番はそれを見て重い門を開いていき、三人は邪魔にならないように門の横へ移動した。
「あれ、出かけるんですかね?」
「あ、そっかぁ。じゃあ出直した方がいいかゾ?」
「公爵だけが出てくんなら、スゥに渡せばいんじゃね? 渡すだけなら大丈夫だろ」
さすがに留守中にお邪魔するのは失礼かと思い、どうしようか相談する三人。そうこうしているうちに馬車が門を出て行き、去っていく……かと思いきや、急に三人の前で止まった。そして馬車の扉が開き、公爵が出て来る。
「おお、木村殿! 二人も共にいたか!!」
「公爵様? どうかされたんですか?」
いつになく、ひどく焦っている様子の公爵。木村は何があったのか、自分たちに何か用なのかを聞こうと口を開いた。
だが、返って来たのは言葉ではなく、
「木村殿、野獣殿、三浦殿! どうか私の願いを聞いてくれ!!」
「え……」
「ファッ!?」
「あっ」
「ポチャ」
土下座する勢いで頭を深く下げる公爵の姿であった。
ワンピースのアラバスタ編のラスト、ルフィたちが王宮で飯めっちゃ食ってるシーン好き。身分も何もかもを超えての交流は気にする人もいるかもだけど、ま多少はね?
公爵さんが原作でも望月兄貴に滅茶苦茶寛大なのは、人柄ももちろんあるんでしょうけど、多分子供のスゥシィの件も絡んでんでねーかなーと思ったり。公爵という立場+奥さんの目の件だと、あの年の頃だけど甘えたくとも甘えられんとスゥシィなりに感じてたんだと思うんですけど(迷推理)。だから原作だと望月兄貴はスゥシィの本当の笑顔を取り戻してくれたからより寛大になってフレンドリーになったと私なりに考えた結果、こーなりましてん。深読みしすぎか? まま、ええわ(自分に甘い)。
次回、私の中で異世界スマホ好きなキャラランキングトップ3のうち一人の登場です。オラわくわくすっぞ!(孫悟空)
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
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スマホ太郎(アニメ主人公)
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望月冬夜(原作主人公)
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野獣先輩
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三浦
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木村