皆さんは国王陛下と謁見する時は、ちゃんと礼儀と敬いをもって話しましょう。イセスマの王様は大らかですけど普通の王様の場合だと野獣先輩たちみたいなことしてたら「じゃあ、死のうか(斬首)」になります。気を付けよう。
「あ、そうだ。野獣、さっき木村に向けながらスマホ弄ってたのは何でだゾ?」
王が回復したのを改めて確認するため、老人と翡翠色の髪の女性が容態を見ている間、天井にぶつかって額にできたタンコブをつけた三浦が、同じようなタンコブをつけた野獣に聞いた。
「ああ、これ? 実はさ、昨日の夜中に神様からスマホのアップデートの件で連絡あったんだよね」
「アップデートですか?」
木村もまた天井にぶつけられたせいでできたタンコブを擦りながら怪訝な顔をして野獣の話を聞いていた。
「で、そのアップデート内容ってのがさっき使ったアプリでさ。スマホって魔力で充電してんじゃん? そのスマホの魔力をカメラで映した対象目掛けてスワイプして飛ばすことができるっていうもんなんだよ」
「魔力を?」
「なんかさ、ちょっと前に流行ったじゃん。街の中を歩き回って仮想現実の世界に現れたモンスターをスワイプして投げたボールで捕獲するっていうゲーム。あれ参考にしたらしいんだよなぁ」
「お~、俺もあのゲームはやってたゾ。ポッチャマを100匹捕まえたな~」
「ポッチャ?(そマ?)」
「いや捕まえすぎでしょ。それだともうポッチャマ用のゲームになっちゃいますよ……けど、道理で身体の中の魔力が回復したわけですね。おかげで助かりました。ありがとうございます、先輩」
「いいってことよ。礼なら神様に言ってくれよな~」
昨晩、GOから説明を受けた時は、確かにサポートには向いているが機能としては些か地味、という印象が拭えなかったが、まさか早速役に立つとは思っていなかった……が、野獣の脳裏に過ったGOの役に立つ未来が来るというのはこういうことかと、妙に納得がいった。
(けど、なんか掌の上で踊らされてる感が拭えないんだよなぁ……)
確かに助かりはしたが、都合がよすぎてまるで神の思惑通りに動かされているような気がしてならない……そう考えた野獣だが、さすがに気にしすぎかと思い、GOのことについてあれこれ考えるのはやめにした。
やがて、王の身体が完全に健康体であることがはっきりし、ベッドから降りた王がしっかりした足取りで木村の前へ。
「木村殿、と言ったな。此度は大変世話になった。礼を言わせてくれ」
公爵に似て温和な顔つき、しかし雰囲気から感じられる威厳を前にし、木村は慌てて頭を下げた。
「い、いえ、そんなこと。ご無事で何よりでございます」
相手は一国の長。それ相応の礼儀と態度が必要であることは誰にだってわかっている。わからないのは礼儀作法も何も知らない空気の読めないバカだけだ。
「公爵の兄ちゃん、無事でよかったゾ~これ!」
「本当ですよねぇ! 流石は俺らの後輩!」
「ポチャ!(誇り)」
バカはここにいたことを忘れていた。
「お前らバカか頭下げろぉ! 申し訳ありませんでした陛下ぁっ!!」
いつぞやのスゥシィとの会話を彷彿とさせるかのように、木村が先輩二人の後頭部をガシッと掴んで無理矢理土下座させた。その際、あまりの力強さに部屋が少し震えた程。
国王の前でとんでもないことをやらかす三人を前に、部屋の中にいた一同呆気に取られる。唯一平然というか「あぁ、いつも通りの彼らだ」とばかりに納得しながら頷いているのは公爵だけだった。
「ハッハッハ! 弟から話だけは聞いていはいたが、なるほど、面白い者たちだな! なに、気にすることはない。君たちは余にとって恩人であると同時に客人だ。楽にしてくれ」
毒に侵されていたとは思えない程に活発に笑う王があっさりと許したその瞬間、ピョンと跳び起きた額に二重のタンコブを作っているバカ一号と二号。
「FOO!! さすが公爵の兄ちゃん! 器めっちゃデカスギィ!」
「王様スゲ~いい人だゾ~!」
「ポッチャー!」
「すいません国王陛下お言葉ですがあまりそういうこと言うのはお控えいただけませんかこいつら調子乗るんでホントに」
国王から許しをもらった瞬間にこれだ。しかもそれをあっさり許している王も王だ。どうなってるんだこの国の偉い人たちは。普通なら不敬罪で極刑物だというのに底なしのお人好しばっかりか。木村は内心で頭を抱えたくなった。
「リカバリー……失われた伝説の無属性魔法……まさかこの目で見れるなんて……」
それから翡翠色の髪の女性はさっきから木村を見ながらブツブツと何か言っている。視線が怪しいため、木村は極力目を合わせないよう努めた。
「兄上、お耳に入れていただきたいことがあります」
和やかな空気を切り裂くように、真剣な面持ちとなった公爵が王へと向き直る。公爵の雰囲気から重要なことであると察した王は、笑顔を消して厳しい顔つきとなった。
「ミスミドの大使のことですが……どうやら大使がワインに毒を仕込んだ首謀者として、バルサ伯爵が大使を拘束しております」
「何だと? まことか?」
「はい。いかがいたしましょう?」
「そのようなことは断じてありえん! これは私を邪魔に思う者による犯行だ!」
「ええ。私もそのように思っております。しかし現に兄上はワインを口にし、そして毒によって倒れられたと聞きました。現場にいた多くの者がそれを目撃されてます。潔白を証明するにも、その容疑を晴らさない限りは……」
公爵と王が話し込んでいる間、三人と一匹は暇を持て余していた。王に毒を盛った人間が誰かというのを話しているようだが、正直空手部ができることはここまでだ。後は彼らに任せるしかない。
「やることねぇなぁ……(暇人)」
「やることねぇなぁ……あ、そうだ」
そう思っていた木村だったが、ここで唐突に三浦の頭に電球がピコーンと光る幻影が見えた……ような気がした。後何故か嫌な予感がした。
「せっかくだから俺らで事件解決してみるのはどうだゾ?」
「は?」
何を言ってんだこの池沼は。そう思った木村だったが、
「いいねぇ! ここに来て何もしないで帰るってのも味気ないし、やっちゃいましょうよ~!(野次馬根性)」
「ポチャ!(賛成)」
悪乗りする野獣とポッチャマを見て、木村は焦った。
「ちょ、何言ってんですか先輩!? 未遂とは言え国王暗殺事件ですよ!? さすがに僕らの手に余りますって!?」
「大丈夫だって安心しろよ~! こう見えて俺『名探偵コーモン』毎週観てっから!」
「俺も『金大地少年の事件簿』全巻読んだからな〜。推理には自信ありだゾ~!」
「それアニメと漫画じゃねぇか! それで名探偵になれたら誰も苦労しねぇんだよバカ一号二号!!」
暇つぶし感覚で事件に思いっきり首突っ込む気満々な先輩二人に、いよいよ頭痛がひどくなってきた木村。どうやって止めればいいんだこいつらと頭を悩ませていると、
「あ、すんません! 事件現場ってどこっスかね?」
「は? あ、あぁ、すぐ近くの大食堂だが……」
「よし、じゃあ(事件現場に)ぶち込んでやるぜ!」
「行きますよ~行く行く!」
「ポッチャー!(レリゴー)」
「ちょ、ま、先輩!?」
髭を生やした屈強な男性が野獣の質問に戸惑いながら答え、それを聞くや否や暴走列車並に止まらない先輩二人と一匹は木村の制止空しく部屋を飛び出していく。呆然と「マジかよ……」と呟くしかない木村は、ガクリと項垂れた。
「き、木村殿? 彼らは何をしようとしているんだ?」
突然部屋を出て行った二人を怪訝に思い、公爵が木村に聞く。木村は疲れた顔で振り返り、口を開いた。
「……事件解決するって言って現場まで行ってしまいました……どうしてくれようかあのバカ二人……」
「なんと、もう犯人がわかったというのか!?」
「いえ全然違います。すいません、お手数おかけして申し訳ありませんが、一度皆さんで現場へ行きませんか? 落ち着いた今なら何かわかるかもしれませんし」
後あの先輩二人が現場を荒らさないよう見張るためにも……という言葉は飲み込んだ。
「そうだな……うむ、一度大使とも話さなければいけないし、今一度あの場へ戻ろう。レオン将軍、大使を呼んできてくれ。そこの者はバルサ伯爵を」
「「はっ!」」
王の命令を聞いた髭の男ことレオン将軍と近衛兵は、恭しく一礼してから部屋を出て行った。というより将軍だったのかあの髭の人、と木村は愕然とした。今さっき野獣が馴れ馴れしい態度で質問したが、怒っていないだろうか。それだけが心配だった。
「あの……」
「……?」
リカバリー並に疲れしてしまった木村だったが、誰かから声をかけられて振り返る。そこに立っていたのは、スゥシィのような流れるプラチナブロンドに銀の髪飾りを付けた美しい少女だった。大きい瞳はよく見れば左右が色違いで、右がサファイアのように碧く、左がエメラルドのように翠と、まるで宝石みたく煌めいている。
確か彼女は、木村が王の治療中に王の手を必死な面持ちで握りしめていた少女だった。ということは、彼女は王の娘、ユミナ王女なのだろう。幼い顔立ちに凛々しさと高貴さを秘めているユミナ王女の前に、木村は一瞬ドキリとした。
「お父様を助けていただいて、本当に感謝しております。ありがとうございました……えっと、木村様」
言って、純白のドレスを摘まみながら一礼する。姫らしい礼儀正しさを前に、木村も慌てて頭を下げた。
「い、いえ、国王陛下の命が助かって何よりでございます」
それだけしか言えなかったが、緊張で噛まなかったのは幸いだった。そして頭を上げれば、ユミナ王女はじっと木村を見つめていた。
まだ何か言うことがあるのだろうか? そう思った木村は、言葉を待つ。
じー……。
じーーーー……。
じーーーーーーー……。
「……あ、あの?」
待てど暮らせど言葉は出て来ず、しかし視線は木村を捉えて離さない。気持ち熱が込められているようにも感じられるが、何なのだろうか。居た堪れなくなって、思わず木村は声をかけた。
そして頬を赤らめながらやっと出てきた言葉が、
「……年下はお嫌いですか?」
「え、何それは(困惑)」
突拍子すぎて思わず素で返してしまった。意図が読めなくて困惑してしまう。
「おい木村早くしろ~!」
「早くしろよ~!」
「ポッチャー!」
「いや早くしろじゃないですよ!? 待ってください現場荒らす気じゃないですよね!?」
ユミナ王女の質問の意味を尋ねる前に、先輩二人が木村を呼びに戻ってきたために中断。一度ユミナ王女に頭を下げて「失礼します!」と言ってから、木村は再び現場へ向かって行った先輩二人を全速力で追いかけていった。
相変わらず背中に熱い視線を受けながら。
~114秒後~
「オリガ・ストランド。参りましてございます」
先ほどの部屋から、豪華な料理が並べられた白いテーブルクロスが敷かれた長テーブルが中央に置かれた饗応の場である立派な大食堂に移った一同の前に、レオン将軍が連れてきたミスミドの大使が現れ、王の前に跪いた。大使は女性で、青い服に茶色の長い髪をしている。何より特徴的なのは、頭に生えている狐の耳と、腰から生えている狐の尻尾。誰から見てもわかる、彼女は獣人だった。
「お~、大使って狐の獣人さんだったのかゾ~。耳と尻尾が可愛いゾ~!」
「本当っスね~!」
「ポッチャ!」
「先輩、今は真剣な場なんですから少し静かに」
木村から拳骨をもらったせいで今度は頭頂部にタンコブを作った三浦と野獣を木村が窘める中、王が大使であるオリガに威厳に満ちた声で語りかける。
「単刀直入に聞かせていただく。そなたは余にこの毒を盛ったワインを贈呈し、余を亡き者にしようとしたか?」
言って、王は饗応のために置かれた立派な長テーブルの上に置かれたワインを指さす。それこそ、オリガが王に友好の証として贈った件のワインだった。
「滅相もございません! 誓ってそのようなことは断じて!」
当然、否定するオリガ。対し、王も「うむ」と小さく頷く。
「だろうな。余もそなたがそのような愚行を犯す筈がないと思っている。しかし、現に余はワインを飲んだ直後に倒れた。これをどう説明する?」
「それは……」
はっきりと王に言われ、オリガは言い淀む。身を潔白するための証拠がない以上、どれだけ否定しようと事実は変わらない。つまるところ、容疑者として有力なのは今のところオリガ以外にいないのだ。
「バルサ伯爵、お見えになられました!」
と、そんな中、バルサ伯爵を呼びに行った近衛兵が大食堂に入って来て、一礼をしてから入口の横へ移動する。連れて来られたバルサ伯爵は不服な態度を隠そうともせずにぶつくさ言いながら入室したが、王の姿を視認するやいなや顔色が変わった。
「へ、陛下!? もうお身体は大丈夫なので!?」
「おぉ、バルサ伯爵。この通り、もうすっかり元気だ。心配をかけたな」
慌てふためくバルサ伯爵に、王は胸を叩いて己の元気さをアピールする。
「さ、左様でございますか……ご無事で、何よりでございます」
言葉は毒によって床に伏せていた王の身を案じているように聞こえる。しかしその顔は、王が無事だったというのに何故か引きつった笑みをしていた。寂しい頭から汗も大量にかいている。
「うむ。そこにいる木村殿のおかげでな。危うく先代国王である父上の下へ召される寸前だったところを救われたのだ。いやはや、余は実に運がよかった!」
はっはっはと笑う王。伯爵もまた釣られたように笑うも、直後にギロリと木村を睨みつけた。
「え……な、何で睨まれてるんだろ……」
「おい木村ぁ。お前もしかしてあのハゲの人になんかしたゾ?」
「今のうちに謝っとけよな~。ハゲってのはデリケートなんだからさぁ」
「いやアンタらの方が謝っとけよ」
三浦と野獣に責められて思わずツッコんだ木村。それを聞いて一瞬でゆでだこになるバルサ伯爵と、笑いを堪える一同。
「と、ともかく、これで王が倒れられた時に現場にいた者全員が揃いましたね」
気を取り直し、翡翠色の髪の女性こと宮廷魔術師のシャルロッテが場を取り持つ。今この場にいるのは、国王、公爵、王妃、ユミナ王女、シャルロッテ、レオン将軍、老人ことラウル医師、オリガ、バルサ伯爵、そして空手部の三人と一匹。
「うむ。して、誰がワインに毒を盛ったかだが……」
レオン将軍が顎に手を添えて言う。それを聞いて、オリガは顔が強張り、耳がピンと立つ。その顔からは自分ではないと暗に訴えているのがわかる。その横でバルサ伯爵が、まるで鬼の首を取ったかのように叫んだ。
「そんなの皆まで言うこともない! ミスミドの大使であるこ奴に決まっておる!」
ビシッとオリガを指さすバルサ伯爵。オリガはたまらず首を振った。
「ち、違う! 私はワインに毒なんて仕込んでいない!」
「黙れ! 卑しい獣人風情が! お前以外にいないんだよ! 国王陛下を殺すために毒を仕込んだのだろう!? あの」
「美味スギィ!!」
「そう! あの美味すぎなワイン…………は?」
バルサ伯爵を遮るように大食堂に響く奇声。その場にいる誰もが声の主へと目を向けると、
「美味いゾ~これ! 渋みと酸味のバランスが絶妙で、それでいて後味がまろやかで、トッチャマのワインセラーにある自慢のワインと引けを取らないゾ~!」
「三浦先輩燻製肉食べますかぁ? これめっちゃ合いますよ~合う合う!」
「お、そうだな」
迫真空手部のバカ二人こと野獣と三浦が、件のワインを注いだワイングラスを傾け、テーブルの料理の一部を肴にテンション上げながら酒宴と洒落込んでいた。三浦の頭の上ではポッチャマが燻製肉をもぐもぐ。
「おおおおおおおおおい!? アンタら何してんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
誰もが唖然とする中、木村がマジでやりやがった! とばかりに大絶叫。国王の前であるということもそうだが、よりにもよって証拠物件に手を出しただけでもやばいというのに、毒が入っていると思われているワインを口にするなど言語道断である。にも関わらず、何をしているというのだこのバカどもは。
「ほら、木村。見てないでこっち来てお前も飲んでみろよ(後輩への気遣い)」
「お前も飲めよ飲めよ~」
「ポチャ(肉うめぇ)」
そんな木村の慌てようも何のその、手招きして木村を呼ぶ二人に、たまらず木村は叫び続ける。
「バカだな!? お前らホンットバカだな!? それ証拠のワインですよ!? しかも毒が入ってるっていうのに何やってんですか!?」
「入ってないゾ?」
「……え?」
が、三浦が平然と言い放った言葉に、思わず木村が口を閉ざす。
「(だから毒とか入って)ないです。ってかさっきからしこたま飲んでるけど、入ってたら今頃俺と三浦先輩も王様みたいにぶっ倒れてるところだぜ?」
「そうだよ」
「ポチャ」
野獣も三浦と同様、ワインに毒が入っていないことを告げる。現に今、二人は平然とワイングラスを傾けているのを見るに、それは事実であることがわかる。
「……ちょっと待てよ?」
と、ここで木村があることに気付いた。
「レオン将軍……でしたよね? あの、このワインってどなたがお注ぎになられましたか? 給仕の人ですか?」
「い、いや、饗応の場ということで国王陛下が自らお注ぎになられたが」
「じゃあ、皆さんワインを口にされました?」
「無論、ベルファストとミスミドとの今後を祈ってと、我々も口に……した……」
木村に問われ、レオン将軍が答えていく。その途中、木村の疑問に気付いて言葉が尻すぼみになっていく。
「それ変ですよ。ワインに毒が入っていたとしたら、国王陛下以外の皆さんも毒によって倒れている筈です。なのに倒れたのはワインを注いだ国王陛下だけって、おかしいじゃないですか」
「そうだよ」
「しっかしこのワインマジでうめぇな~。ミスミドめっちゃいい国じゃん! じゃけん今度行きましょうね!(酒道楽)」
「お、そうだな」
「ポチャ」
「アンタらはもう飲むのやめろよ(苛立ち)」
ワイワイ騒ぐ三人と一匹だったが、彼らのおかげで図らずともオリガの潔白が証明されたことで、オリガは安堵のため息をつく。そして王は、眉間を抑えて俯いた。
「……余としたことが、突然の事態にこんな簡単なことを完全に失念していた……その者たちの言う通りだ。大使よ、そなたを疑う態度を取ってしまった非礼を詫びよう」
「そ、そんな陛下。私は己の潔白が証明されたのなら、それで十分でございます!」
謝罪する王に、オリガは慌てふためく。ワインを口にした者たち全員、何故もっと早くに気付けなかったのかと己の迂闊さを恥じていた。だがなんにせよ、こうしてミスミドとの関係が破壊されるという事態は、これで防がれたということとなった。
「……じゃあ、誰が陛下に毒を仕込んだのだ?」
「あの毒は我々でも見たことがない毒でした。おそらく獣人が使う特殊な毒なのでしょう。大使に疑いの目を向けさせるためにその毒を使用したのだとすれば……」
「なるほど、辻褄は合うな……しかしどういう方法で毒を……兄上自身が注いだのであれば給仕係の者を疑うわけにも……」
レオン将軍、ラウル医師、公爵が話し合う。木村もまた別に一人熟考していた。
(王様を暗殺するような奴だ、きっと考え付かないような方法で毒を盛ったに違いない……まさか、魔法を使ったのか? けど警備が厳重な中でそんなことが……)
誰もがどのようにして毒を仕込んだのか考える中、三浦はふと気付く。
「あれ? 伯爵さんどうしたゾ?」
「え? な、何がだ」
三浦の視線の先。一人その場で立ちながら先ほどよりも伯爵の頭と顔から尋常ではない汗が流れ出ていた。目もギョロギョロしており、どこか狼狽えているかのよう。
「お、大丈夫か大丈夫か?」
「伯爵さん、めっちゃ汗かいてるゾ~。もしかして暑いのかゾ?」
「ま……まぁ、そう、だな。暑いかもしれん」
明後日の方を向くバルサ伯爵。その様子を見て、誰もが思う。
怪しすぎだろお前、と。
「あ、そっかぁ、暑いのか~。それは大変だゾ。ちょっと待ってるゾ」
一人、何も気付いていない様子の三浦がテーブルに近づく。そしてテーブルの上に乗っているいくつかのワイングラスのうち一つを、特に何も考えずに手に取った。
そのワイングラスは、上座……つまり、国王が座っていた席に置かれていたグラスだった。
そのグラスにワインを注いでいく三浦。瞬間、バルサ伯爵の顔がより一層強張る。
「ほら、飲めよ飲めよ、ほら」
にこやかに、三浦が善意のつもりでワインを差し出す。が、バルサ伯爵は一歩後ろへ下がった。
「い、いや、私は、ワインは好かんから……」
「ん? 何を言っているのだバルサよ。貴殿はワインが大好物ではないか」
言い訳をして遠慮しようとするバルサ伯爵だったが、レオン将軍がその発言を否定する。恨みがましい目で将軍を一瞬睨むも、三浦がワインを近づけてまた顔色が変わった。
「どうしたゾ? 飲めば喉は潤うゾ~これ」
「だから、その、だな……!」
「おいおい、三浦先輩の厚意無碍にすんなよな~ハゲ伯爵~」
「そうだよ」
「ポチャ」
「や、やめ……!」
野獣になじられるも、それに反論する余裕すらないバルサ伯爵。さらに一歩、三浦がワイングラスを近づけた……その瞬間、
「ええいやめんか無礼者! そんな物飲めば私が死んでしまうわ!!」
三浦のワイングラスを叩き落した。ガシャンと音をたて、グラスが粉々に砕け散り、中身のワインが床に飛び散る。
沈黙。誰もが閉口し、全員がバルサ伯爵を見る。当のバルサ伯爵は肩で息をし、興奮冷めやらぬといった風だった。
やがて落ち着き、若干時間をかけてから「あ」と一言呟いた。
「……今のはどういう意味かね? 伯爵」
「い、いや、その……」
ワインに毒は入っていない筈。にも関わらず死んでしまうとはどういうことかと、王が鋭い眼で伯爵を睨む。その眼にバルサ伯爵は、誤魔化すような半笑いのまま口元をヒクつかせる。冷や汗もこれまで以上だ。
「……もしかして、なんですけど……」
木村が砕けた王のワイングラスを見ながら、今しがた考え付いた、しかし『いやいやまさか、そんな筈は……』と内心で否定しながら、毒の仕込み方を言い当てた。
「王様が使うグラスに……毒、塗ったとか……?」
瞬間、ビクゥと肩を震わせたバルサ伯爵。この部屋にいる者の中で唯一亜人に差別意識を持っているという動機、グラスに毒が塗ってあったということを知っている上にこの態度。これらを鑑みるに、導き出される結論は一つ。
己が犯人であると、自供しているようなものだ。
「バ、バカな……私の、完璧な計画が……!!」
「バカじぇねえの(軽蔑)」
「(自分の)ケツの穴なめろ(高度な煽り文句)」
「なんでそんなアホな方法でいけると思ったんですか(正論)」
「ポチャチャ(お前頭ン中ガバガバじゃねぇかよ)」
顔面蒼白のバルサ伯爵の呟きに、三人と一匹が冷たい目でそれぞれ思ったことを口に出した。木村が考えるような魔法を使ったトリックでもなんでもない、というより普通によく調べたらいずれ判明するようなトリックとも呼べない杜撰な方法での暗殺計画。国のトップの命を狙う人間にしてはお粗末すぎて失笑すら出ない、そんなレベルだった。
「く、クソ! こんなところで終わってたまるか!!」
が、それでも国王を暗殺しようとしたことには変わりはない。忌々し気に吐き捨てたかと思えば、踵を返して大食堂から逃げ去ろうと試みる。が、それよりも先に動く者がいた。
「木村ぁ」
「はい。スロー!」
「んのぉ!?」
野獣の合図と共に、木村が近くにあった椅子にスローをかける。寸分違わず、椅子の背もたれがバルサ伯爵に命中。衝撃でエビぞりになりながら吹っ飛んだ。
「その者を捕えろ!!」
直後、王が扉の近くにいた近衛兵に命ずる。すぐさま兵は動き、倒れ込んだバルサ伯爵を拘束した。
「近衛兵だ!」
「動くんじゃない! 抑えろ!」
「な、何だ貴様ら! 離せ貴様ら! 離せ貴様ら!」
「大人しくしろ!」
「貴様ら二人に負けるわけがないだろう!! 離せ貴様ら! 離せ貴様ら!!」
「応援だ! お前たちはそっちを抑えろ!!」
「三人に勝てるわけがないだろう!!」
「馬鹿者、貴様私は勝つぞ貴様!!」
離せ貴様ら! 離せ貴様ら! と見苦しく喚き叫びながら三人の近衛兵に連行されていくバルサ伯爵。
己の凝り固まった差別主義とプライド、そして権力欲のために主たる国王陛下を謀殺しようと画策した凶悪な反逆者……その男の後ろ姿を見つめながら、空手部の三人と一匹は同じことを思い、そして口にした。
「「「あ ほ く さ」」」
「ポチャ(やめたら伯爵)」
こうして、国王暗殺未遂事件という国の歴史書に載ってもおかしくない未曽有の大事件になりそこなった出来事は、呆気なく幕を閉じたのであった。
バルサ伯爵マスコット説
アニメイセスマでも屈指の迷シーンの立役者バルサ伯爵。ポッと出の小物でしかない彼だが、実は彼はイセスマのキャラの中で一番愛らしいのではないかと1145141919810364364893931%確信している。これからこの説を確信に至らせる根拠を説明していく。
根拠1
原作で余裕かましていたところ望月兄貴のスリップで階段を転げ落ちて痛みを堪えながら歩き去っていく健気さ
根拠2
望月兄貴に「犯人はこの中にいます!」と言われた時に一人ニヤついてるのに周りの人たちから「お前だろ犯人」と思われていることに気付いていないアホの子っぷり
根拠3
王様助けた望月兄貴を睨みつけたり、余裕の態度でワインに毒仕込んだのお前だろと大使を罵ってると原作望月兄貴が未成年飲酒かましてワインは無毒であることを証明させられて一瞬で大汗流したりと嘘をつくのが下手な正直者
根拠4
クソザコトリックで全部思い通りになると思っていたところあっさり見破られて焦るドジっこ属性
よってバルサ伯爵=隠れマスコットキャラクター。Q.E.D.証明完了
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
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スマホ太郎(アニメ主人公)
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望月冬夜(原作主人公)
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野獣先輩
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三浦
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木村