翌日、リフレットにある宿屋『銀月』にて。冬夜たちが寝泊まりしている宿にして、冒険者稼業の拠点ともなっている場所。
「では、召喚魔法についてご教授させていただきますね」
「よろしくお願いします」
「うん、よろしく!」
そこの裏庭、薪割り用の株や薪の保管用の小屋が宿と隣接する形で建てられた広い場所にて、ユミナが木村と冬夜に教えを授けていた。
きっかけは冬夜が昨日依頼完了後に「僕も召喚魔法を使ってみたいんだけど」とユミナに頼み込んだことから始まる。それならとユミナは木村も誘ったが、木村は召喚魔法を使えないために教えを受けるだけに留めた。木村の魔法は特殊であり、本に項目が追加されない限りその魔法は使えない。無属性以外の魔法は木村の成長でしか増えないが、無属性は使いたいと強く念じることでページが更新される。召喚魔法は無属性とは違って闇属性魔法のため、使用できるかどうかは今後の木村次第ということだ。今まで独学で魔法について学んできたが、リンゼしかり冬夜しかり、やはり講師がいるといないとでは身に付き方が違う。ここで召喚魔法についての知識を深めていけば、より高みを目指していけるに違いないと木村は思っていた。
因みに野獣たちはちょうどパレントへ行きたかったということでこの場にはいない。パレントへ行くついでに冬夜たちが泊まる銀月で召喚魔法の講習を行おうということになり、今に至る。
「まず闇属性の召喚魔法は、魔法陣を描いて対象を召喚することから始まります」
言って、ユミナは魔石の欠片を圧縮して作ったという特殊なチョークを手に持ち、それを使って地面に幾何学模様の魔法陣を書き込んでいく。木村も何度か本で見たことがある魔法陣だったが、暗記するには相当時間をかけなければいけない程の複雑な模様に見える文字をテキパキと綴っていくユミナに脱帽していた。
「何が召喚されるかはランダムで、何でも召喚者の魔力、質などに反映されると聞きますが、詳細はわかってはいません。それで、召喚した者と契約すれば召喚魔法は成功です」
「契約って?」
「はい。召喚した者から契約を持ち掛けられ、その契約を召喚者は呑む必要があります。簡単な物から絶対に不可能と呼ばれる物まで、相手によって内容は異なりますね。因みにこの子が私に提示した契約は『お腹いっぱい食べさせてくれること』でした」
(なんですかそれ可愛いな)
先ほど召喚した頭に十字の傷が入った銀狼の頭をユミナはそっと撫でる。聞けばこの狼が群れのリーダーであるらしく、つまりリーダーを召喚したユミナ自身が群れの長という立場にいるわけだ。厳つい顔に見合わずに契約内容があまりにほのぼのしていて木村が心の中で和んでいた。
「あ、因みにこの子の名前なんですが『シルバ』といいます」
「なんですかそれ可愛いな」
「え……?」
「いや狼ですよ!? 狼の名前ですよ!? シンプルで可愛いなって意味ですよ!?」
「あ、そうですよね! ごめんなさい私ったら!」
思わず口に出てしまった。頬を僅かに紅に染めたユミナを見て木村は焦って訂正した。ユミナも慌てながらも把握するが、いまだ顔は赤い。
「んん!」
一瞬甘酸っぱい雰囲気になりかけたところを冬夜が咳払いしたおかげで、何とか気を取り直すことができた。木村は内心で(負けるものか……!)と決意を固くしていた。この場に野獣がいたら「もう負けてる……負けてない?」と言っていたやもしれない。
そうこうしている間、ユミナは魔法陣を書き終える。五人分が手を繋いで輪になった程の大きさだ。
「条件が満たされなければ、召喚した者は去ってしまいます。そうなれば同じ人の前には二度と現れません。契約のチャンスは一度だけってことですね」
「なるほど、一期一会って感じかな?」
「……ちょっと違うんじゃないですか、それ?」
「え、そう?」
冬夜の呟きに木村がツッコむ。そのやりとりを見ていたユミナは小さく笑ってから話を続けた。
「彼らは契約無しではこちらの世界には存在できないので、襲われる心配はいりません。ただ、召喚者が魔法陣に入った場合は話は別になります。中には戦って実力を示して見せろ、という存在もいますから」
「な、なんか物騒ですね……」
「ええ。ですから召喚魔法は慎重な判断が必要なんです。軽はずみに使用できる魔法じゃありません。初心者が高位の存在を呼び出すこともあり得なくはないですから」
「それだけ特殊ってことか」
他の魔法は使用者の意思でコントロールができるが、召喚魔法によって呼び出された存在は契約しなければ使役できない……魔法を唱えた際の魔力の消費、それから契約。この二つをこなして初めて成功と言えるわけである。
「ですから、契約ができればその召喚者の命には絶対に従う……筈なんですけど……」
「あぁ……昨日のあれ、ね」
と、顔を曇らせるユミナに冬夜が苦笑した。まさか絶対服従の筈の銀狼がユミナの意に反して野獣を追い回すとは誰も思わなかったであろう。そのことを思い出したかどうかは定かではないが、心なしか彼女の傍に立つ銀狼のシルバもばつが悪そうな顔をしている風に見えなくもない。
「ま、まぁほら、召喚魔法についてまだ謎な部分もあるって言われてますし、気を落とさないでください」
「はい……」
今でも少し気にしているようで、木村の慰めに小さく頷いた。何とかしてやりたいが、昨日の出来事はユミナにとってもイレギュラーだったのだから、毛が生えた程度の知識量しかない木村と召喚魔法を初めて習う冬夜にはどうすることもできなかった。
「と、とりあえず早速召喚してみようかな!」
少し暗くなった空気を変えようと、冬夜が一歩前に進み出る。召喚魔法陣の前に立ち、右手を前に突き出して意識を集中を集中させる。そして闇属性の魔力を魔法陣に集中させていくと、魔法陣が紫色に輝き始めた。
やがて魔法陣から黒い霧のような物が噴き出し始め、それは宙に霧散することなく、魔法陣にビーカーが被せられているようにその場に充満していく。霧の濃度が強くなっていき、そして、
「うわ!?」
「きゃ!」
ボンッ! と爆発したような大きな音が鳴り、木村とユミナは驚く。すわ失敗か? 木村はそう考えた。だが次の瞬間、その考えは過ちであることを知る。
『我を呼び出したのは貴様か……?』
低く、威厳ある声。見れば魔法陣の霧の中、青い双眼が鋭く光る。霧が晴れていき、声の主がその全貌を現す。
大きな白い虎だった。鋭い牙に鋭い爪。しかし、その屈強な体躯から発せられる威圧感、そして感じたことのない圧倒的魔力の波動が、ただの虎ではないことを物語っていた。
「と、虎? けど、何だこのすごい魔力……!?」
魔法を扱う今の木村だからこそ、この虎がとんでもない存在であることがわかる。そして木村の横でユミナも凄まじい魔力を受け、震えていた。
「この、魔力って……まさか」
「ユミナさん?」
『ほう……我を知る者がいるようだな?』
ジロリ。眼光鋭く睨まれたユミナは、小さく「ひっ……!」と声を上げる。シルバもまた怯え、尻尾を丸めて耳も下がっていた。木村はそんな彼女を庇うように前に立ち、虎の視線と威圧感、魔力からユミナを守る。
「ユミナさん、この大きな虎は?」
一方の冬夜は、一瞬驚くも平静を取り戻し、ユミナに聞いた。木村に庇われたことで幾分か震えが収まったユミナは、木村の背に掴まりながら答えた。
「……召喚できる存在の中で、最高クラスの四匹のうちの一匹……西方と大道の守護者にして白き獣の王……『白帝』です」
「白帝……」
白い帝……なるほど、名は体を表すと言わんばかりの存在感だと木村は思った。
『いかにも、私は白帝。四の神獣がうちの一、獣の王である。人間如きが我を呼び出すとは、余程の強運の持ち主と見た』
「そりゃどうも」
「……」
すでに慣れたからか、冬夜はしれっとしている。木村は冬夜ほどの余裕はないにしても、その威圧感と魔力に慣れたためか、先ほどよりも落ち着きを取り戻した。それでもユミナの前からは動かず、じっと白帝を睨むように見つめる。
『ほう……我の眼力、魔力を直に受けて尚平然とする者が二人か……面白い』
「……僕は召喚した者ではありませんが、その力を抑えることはできませんか? 彼女が怯えているんです」
「弱者を脅かすのは褒められたことじゃないと思うけど?」
木村と冬夜の抗議を受け、白帝はしばし無言になる。そして、
『……よかろう』
フッと、虎から発せられていた威圧感が消えた。それでも隠しきれない魔力はどうしようもなかったが、さっきよりかは幾分かマシだ。ユミナも安堵のため息をつく。
(……これも神様の力、かな?)
木村もホッとしながらも、かつての自分ならばユミナ同様震えるしかできなかった白帝の圧倒的力を間近で受けていながらも平気でいられた理由を考えていた。
とりあえず、少なくとも話のわかる存在であることを知って少し安心する。そして冬夜は、改めて白帝に語り掛けた。
「それで、召喚者は僕なんだけど、どうすれば契約してくれるんだ?」
『……人間が我と契約、だと? ハッ! 随分と舐められたものだ!』
己の存在の強さを自覚しているからか、傲慢にも聞こえる言葉と共に鼻で笑う白帝。それでも冬夜は顔色を変えず続ける。
「とりあえずさ、言ってみてよ。内容によっては諦めるから」
『……フン』
不遜な態度。ふと、鼻をひくつかせてから冬夜と、そしてその後ろにいる木村をじっと見つめてから首を傾げた。
『……どうなっている? お前たちからは何か奇妙な……不思議な力を感じる。精霊、いや、高位の存在の加護? だがそれぞれ同じようでいて非なる力……何なのだこれは?』
「何の話だ?」
冬夜が疑問符を浮かべる。だが木村は白帝の言っている意味がなんとなく察せた。恐らく冬夜を生き返らせた神と木村たちを生き返らせた神の力のことだろう。
『……まぁ、いいだろう。お前の魔力の質を見せてもらう』
「どうやって?」
『我に触れて魔力を注ぎ込め。魔力が枯渇するギリギリまで、だ。最低限の質と量を持ち合わせているのならば、契約を検討しよう。神獣である我と契約するのだ。生半可な魔力では話にならんからな』
「確約じゃないのか……とりあえず、それが契約の条件なんだね?」
『ああ、考えてやる』
(契約するとは言ってないんだよなぁ……)
何となく白帝がヤクザに見えた気がしたが、木村は何も言わずに成り行きを見守る。木村の後ろから顔を覗かせる形で、ユミナも冬夜と白帝のやり取りを見つめていた。
冬夜はおもむろに白帝に歩み寄り、魔法陣の外側から手を伸ばす。遠目からでもわかる白帝の毛深い頭に触れると、その手が僅かに体毛に沈んだ。
「このまま流せばいいのか?」
『そうだ、一気に流すのだ。言っておくが、魔力が枯渇して倒れたら契約は無し。お前はその程度だったということだ』
得意気にも見える白帝の顔を見ながら、冬夜は魔力を白帝に触れた手に集中させる。淡い光が漏れ出てきた。
「じゃあ、行くよ」
言って、冬夜は白帝に魔力を流し込み始めた。その瞬間、いきなり白帝の顔つきが変わった。
『む……な、なんだこの魔力の澄んだ質は……!?』
驚愕する白帝に構わず、冬夜は魔力を流すのをやめない。最初こそまだ余裕だった白帝だったが、徐々に身体が震えだす。
『な……これは、どういう……!?』
「う~ん、減ってるって感覚ないな……ちょっと増量」
「ちょ、ちょっと冬夜くん?」
様子がおかしい白帝に対し、なんてことのないように言う冬夜に思わず木村が声をかけるが、冬夜は集中しているのか聞いていない。先ほどよりも手の先の光が強くなった。
『こ、これは……うぐぅ……ちょ、ちょっとまっ』
「増加」
「冬夜くん?」
だんだん苦し気な顔になってきた白帝に冬夜がボソリ。それがまるで拷問追加しているようにも聞こえた木村はもう一度呼びかけるも、冬夜は聞いていない。
『ちょ、ちょっと待って、助け、待ってくださ……!』
「もういっちょ」
「冬夜くん!?」
もう泣きそうな声になっている白帝に冬夜の無慈悲な宣告。木村が焦るも冬夜は相変わらず聞いていない。
『も、やめ、無理、し、死ぬ』
「冬夜くんストップストップ! 死ぬ! 死ぬから! 白帝死ぬから!!」
「へ?」
木村は思わず今にも死にそうな程にガクガク震える白帝から冬夜を引き剥がした。さすがに反応した冬夜はきょとんとするも、その瞬間白帝は解放されたかのようにバタリと倒れ込んだ。目を回して口から泡吹いてるその姿は、先ほどまでの威厳はもうない。
「……やば、どれくらい流し込めば枯渇するのかわからなくってやりすぎた」
「やめてやれよ……(憐憫)」
気まずそうに頭を掻く冬夜に、木村は白帝があまりにも可哀想に見えて思わず呟いたのだった。ユミナも冬夜の容赦のなさに思わずドン引きしていた。
ひとまず、冬夜が回復魔法をかけてやることで意識を取り戻した白帝は、フラつく足取りで立ち上がった。
『一つ、聞かせていただきたい……先ほどの魔力量、あれでまだ余裕があったのか?』
どこか怯えているような様子の白帝。さっきまで威圧感と眼光を放っていた存在と同一とは思えない程の変貌っぷりだ。
「んー……いや、余裕というよりかほんの少ししか減ってないよ……ってか、あれ? もう回復してる」
『んな……!?』
「お前魔力おかしいよ……(恐怖)」
驚愕する白帝、そして冬夜の何てことのないとんでも発言に木村も思わず引いていた。
「それで、契約は? どうなんの?」
白帝から持ち掛けたこととはいえ、思いっきり魔力を流し込んで気絶に追いやった相手にしれっと言う冬夜に、木村とユミナは冬夜の精神状態を若干疑った。
『……お名前を、伺っても?』
「ん? 冬夜。望月冬夜。冬夜が名前で望月が家名ね?」
まだ若干ビビってるように見える白帝の口調が変わったことを訝しみながらも、冬夜は己の名を告げる。白帝はその名を口の中で呟いて反芻し、突然恭しく頭を下げた。
『望月冬夜様……我が主にふさわしき方とお見受けしました。この白帝とどうか、主従の契約を結ばせていただきたく思います』
神獣が屈した。その事実を目の当りにした木村とユミナは驚愕する。
「契約を結ぶ、ね……どうすればいいの?」
『私に名前を。名前とは自己の証明であり、契約の証。この世界に私が存在する楔となりましょう』
「なるほど名前か……うーん……」
顎に手を添え、考え込む冬夜。木村は頭の中でふと野獣だったら『タマタマ』と名付け、三浦だったら『虎ッチャマ』と名付けるだろうなと考えていた。因みに木村は『シロ』である。
冬夜のネーミングセンスが試される中、やがて冬夜は思いついたその名を口にした。
「コハク。琥珀とかどうかな?」
『こはく……ですか?』
「そ、琥珀。こうやって書くんだ」
木の枝を拾い、それで地面に漢字で名前を書く。自分たちの世界の文字が通じるかどうかわからないが、冬夜は琥珀の漢字の意味を教える。
『王の横に立つ白き虎……まさに私に相応しい! 感謝いたします、我が主。これからは琥珀とお呼びください』
「うん、よろしく琥珀」
これで契約が完了した。琥珀は魔法陣からのそりと出てきて、冬夜の前に立った。その頭を冬夜が撫でる。
「すごいです……冬夜さん、神獣の白帝と契約してしまいましたね……」
「流石ですね……やっぱりとんでもないな、冬夜くんは」
『少女よ、私はもう白帝ではない。これからは琥珀と呼んでもらおうか。そこの者もそうしてくれ』
ユミナと木村へと顔を向けた琥珀はそう願い出る。もう威圧するような雰囲気は出ておらず、穏やかな空気を纏っていた。
「あ、はい。よろしくお願いします、琥珀さん。私はユミナです」
「僕は木村ナオキです。よろしく、琥珀さん」
『うむ、よろしく頼む』
木村は内心で虎相手に“さん”付けというのも変かなと思ったが、まぁ相手は神獣だし、細かいことはいいだろう。
『主よ、一つお願いが』
「ん? 何?」
『私がこちら側の世界に常に存在することを許可していただきたいのです』
「……どういう意味?」
冬夜に問われ、琥珀は冬夜の目を見ながら答えた。
『通常、召喚者が我らを呼び出し、存在を保つには召喚者の魔力が必要なのです。魔力が切れれば存在を維持できず、我らは消えるのが普通です。しかし主の魔力は普通の召喚者と違う。主ほどの魔力の持ち主であるならば、常にこちら側に私が存在しても問題ない……そう思った次第です』
「あ~、なるほどね……」
納得がいったと頷く冬夜。魔力量も常人でないならば、その魔力回復量も化け物級な冬夜ならばこそできることだと確信した琥珀からの頼み。冬夜としても断る理由はない……が、一つ懸念事項が彼にはあった。
「いや、いいんだけどなぁ……街の中で大きな虎が歩き回るっていう光景を見て周りがどう思うか……」
「あぁ……さすがに目立ちますね」
木村も冬夜の考えに同意する。脳裏に浮かぶのは、リフレットの街などを闊歩する冬夜と琥珀の姿。当然、虎なんて獰猛な動物を連れ回っていれば、周囲は阿鼻叫喚になるのは必然と言えるだろう。そうなれば生活しにくくなる。
『なるほど……それでしたら私にお任せを』
それを理解した琥珀は、『むん!』と唸ったかと思うと、ポンと軽い音をたてて冬夜の視界から消えた。一瞬戸惑った冬夜だったが、視線を下げると、姿を180°変えた琥珀がいた。
『この姿なら目立たないかと思います』
大型の虎から子犬サイズの虎へ。力強い脚は短く太い脚へ。息も詰まる圧迫感は愛嬌と可愛さへと変化し、低い威厳ある声から高い愛らしい声となった。
「おお、すごい! さっきとはまるで違う姿になった」
「うん、目立たないってことはないだろうけど、これなら連れて歩いても問題はないかな」
一瞬で別物へと姿を変えた琥珀に驚く木村と頷く冬夜。内心では見た目愛らしい姿に和んでいる。
『ありがとうございます。では、この姿で主と共に行動を』
そう琥珀が言いかけた時、
「可愛いーーーーーーー!!」
『ぎゅえ!?』
ユミナが抱き上げ、思いきり頬擦りし出した。フワフワの体毛が心地よさそうだった。
「見てください木村さん! すごいフワフワですよ! 可愛いです!」
『ちょ、やめんか!? なんなんだお主は!?』
「ユミナさん、気持ちわかりますけど程々にしてくださいよ」
「あ~……ごめん琥珀。ちょっと堪能させてあげて」
『主ぃ!?』
幸せそうに琥珀をなでなでするユミナを見て、木村は口では止めているが、見てて癒されているので強くは言えず。冬夜も同じ気持ちなのか、苦笑しながらも琥珀に我慢を強いた。ショックを受ける琥珀。
そしてしばらくユミナがモフモフし、やがて琥珀は諦めて全てを受け入れ始めた頃、銀月の裏口の扉が開いた。
「ぬわぁぁぁぁぁん美味かったもぉぉぉぉぉん」
「スゲ~美味かったゾ~!」
「ポッチャー!(幸福)」
野獣と三浦が裏庭に入ってくる。三浦の頭の上のポッチャマも含め、至福と言った表情をしていた。
「あ、おかえりなさい先輩」
「おう木村ぁ! お土産買ってきてやったぜ!」
「バニラロールケーキと苺ロールケーキだゾ~! 冬夜くんとユミナちゃんの分もあるからな~」
「あぁ、ありがとうございます!」
「すみません、お手数おかけします」
冬夜とユミナが二人に礼を言う。と、ここで野獣がユミナの腕の中にいる琥珀の存在に気が付いた。
「お? ユミナ何その猫みたいなの?」
「スゲ~可愛いゾ~それ! 捨て猫か?」
「ポチャ?」
「違いますよ。この子は琥珀さん。冬夜くんが召喚した存在です」
「ゲッ、召喚」
言った瞬間、野獣の顔が引きつった。昨日の件もあって、召喚魔法に対していい思い出がないために当たり前の反応である。現にユミナの足元に控えているシルバも野獣を見て唸り声を上げている。さすがに反省したのか、すぐには襲っては来なかったが。
「ああ、大丈夫。琥珀は意思の疎通ができるから、昨日みたいなことにはならないって。ね? 琥珀」
同意を求め、冬夜がユミナに抱かれたままの琥珀に問う。
『…………』
「……琥珀?」
が、予想外にも琥珀からの返答はない。ただじっと、野獣を見つめ……もとい睨んでいた。心なしか顔を顰めているようにも見える。
『主よ……一つお聞かせ願いたいのですが』
「ん? 何?」
冬夜が聞き返すと、琥珀は右前脚を野獣へ向け、言った。
『何なんですか。あのムカつく臭いを放つ男は?』
「へ?」
「はい?」
「え?」
「あっ」
「ポチャ?」
「……は?(威圧)」
上から冬夜、ユミナ、木村、三浦、ポッチャマ、そして野獣が、どういう意味かと怪訝な声を上げた。野獣に至っては血管が浮き出ている。
「え、えっと……琥珀、ムカつく臭いってどういう意味なの?」
『言葉通りです! 何なんですかあの男は! あの男から漏れ出る臭いを嗅いでると無性にイライラするんです! 本当に人間ですか!? あんな臭い出すのが主と同じ人間と思いたくありません!!』
「おいゴルルァ! 黙って聞いてりゃ好き勝手言ってくれるねぇ!? 怒らせちゃったね俺のことねぇ!?(激怒)」
『ムギャーーーー! やめんか口開くな! 余計イライラする! お前は一体何の生物なのだ!?』
「ふざけんな!(迫真) 普通に人間だわ! お前初対面なのに滅茶苦茶失礼だなこの野郎醤油瓶!!」
『だから喋るなぁ! 臭いんだよぉ!!(マジギレ)』
「ハッキリ臭いって言うなぁ! 悪い猫はお仕置きだどぉ!!」
『猫ではない白帝だこの無礼者ぉ! もう我慢ならん!!』
「ちょ、琥珀!?」
ユミナの腕から飛び出した琥珀と野獣が取っ組み合いの喧嘩を始めた。冬夜が止めようとするも間に合わず、ドッタンバッタン大騒ぎ。人間VS神獣という言葉にするなら壮大な、しかし実際は暴れる猫と人間のガチ喧嘩という何ともしょーもない光景だった。
「……あの、ユミナさん。もしかして昨日のあれって……」
先ほどの琥珀の態度。そして発言……それらが意味することは、一つのみ。
「はい……理由はわかりませんし、不可解な点はありますけれども……」
「……やっぱり原因先輩かよ……」
琥珀の言うイライラする臭い……それが昨日のシルバたちを惑わせたのだろう。そして今まさに琥珀も。
召喚魔法で呼び出し、契約を交わしたにも関わらずにその垣根を超える程の野獣の臭い……木村たちには特に気になる臭いはしないが、琥珀やシルバのような鼻の利く存在の嗅覚には何かを感じるのだろう。まさか昨日木村がフォローする際に言った野獣が気に食わなかったという言葉が本当だとは思わなかったが。
とんでもなく迷惑窮まりない話だ。だが当の野獣は無自覚というか何も知らないらしく、現に琥珀と種族を超えた喧嘩を繰り広げている。ただ一つわかったことは、昨日のあれはユミナの不手際ではないということだ。
ユミナは安堵したかったが、それ以上に問答無用で襲われる野獣に対して申し訳なく思い、何とも複雑な心境を抱いていた。
そして木村は、そんな意味のわからない理由で召喚魔法の使い勝手が悪くなってしまったことを憂い、その上でそんな臭いを出しているとされている野獣が不憫に思えてならなかった。
けどまぁ、とりあえず今木村たちがすべきことは……。
『ガルルルルルル!!』
「ガルルルルルル!!」
「あ″あ″あ″あ″あ″痛い痛い痛いぃ!!(出血大サービス)」
「おい木村ぁ。野獣助けるの手伝って欲しいゾ。このままじゃ死ゾ」
「ポチャ!(やべぇよやべぇよ)」
「琥珀ー! それ以上はやばい! それ以上はやばいって!」
「シルバ待って! それ以上はダメー!!」
「あーもう滅茶苦茶だよ……」
琥珀に頭を齧られ、左手をちゃっかり参戦したシルバに噛まれている野獣を救助することであった。
結局、後から来た八重たちが野獣がどえらいことになっているのを見て悲鳴を上げ、冬夜が琥珀を、ユミナがシルバを叱りつけ、リンゼと木村が野獣に回復魔法を施して事なきを得たのであった。
原作マスコット琥珀ちゃん。けど私の中のマスコットはバルサ伯爵だかんな。そこ譲らんかんな。
次回、アニメ見てた人なら知ってる展開。
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
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スマホ太郎(アニメ主人公)
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望月冬夜(原作主人公)
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野獣先輩
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三浦
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木村