野獣たちが城へ呼び出されてから数日後。
「こうやって王都を見て回るのも久しぶりね~」
「うん。相変わらずここは賑やかだね」
王都の通りをのんびりと歩く三人。肩に琥珀を乗せた冬夜とエルゼ、リンゼは、手に王都の店で買った品物が入った袋を手に、辺りを見回す。道を歩く人々の中には獣人も大勢いて、種族の垣根を超えて互いに交流している光景は、まさに平和そのものといったところだった。
「ところでリンゼは欲しい物はそれで全部?」
「はい。買い物に付き合ってくれてありがとうございました」
「冬夜もごめんね、荷物持ってくれて」
「いいよこれくらい。大したことないからさ」
リンゼの欲しい品物がリフレットには無く、それなら人が多く集まる王都ならと冬夜が思いついたとが今ここにいる理由だが、どうせならとエルゼもまた買い物を楽しんだおかげで、思いのほか多くなった荷物を冬夜が両手を使って持っていた。実を言うと地味に重かったりするのだが、そんなことは女の子の手前おくびに出すわけにもいかず。
(やっぱり、僕ももっと鍛えた方がいいかもしれないなぁ……)
一度野獣たちと勘違いによる激闘を繰り広げたことを思い返す。あの時、マルチプルを併用した魔法の嵐を力技で突破した野獣。気のせいか、今でも時々野獣に殴られた顎が痛むような気がしてならない。あれ以来、冬夜は世の中にはとんでもない人間がいるものだと強く実感していた。同時、彼らは神からもらった力に驕れることなく、日々鍛錬を積み重ねているという。
冬夜は冬夜なりに頑張ってはいるのだが……魔法はともかくとして、剣の腕しかり、力しかり、いまだ迫真空手部の面々には程遠いと痛感してしまう。冬夜も神から身体能力の底上げをしてもらってはいるものの、そもそも前の世界でも実戦向けである迫真空手の修行をしていた彼らとは下地が違うのだから仕方ないと言えば仕方がない。しかし、それでも力比べで負けてしまうというのは、男として少し悔しい気持ちはある。
現に今も抱えている荷物がやや重いと感じている時点で、自分はまだまだ筋力等が足りないと自覚している。これでは彼らに追いつきようがないなと、冬夜は自嘲した。
<ここも中々に人が大勢いますね>
<まぁ王都だからね>
ふと琥珀の声が聞こえる。実際は琥珀は口を動かしておらず、冬夜の脳内に響くように聞こえたのだが、冬夜は疑問に思うことなく答えた。召喚者と召喚獣ならばある程度の意思疎通、つまりテレパシーが可能であり、人通りの多い場所ではこうして会話をするようにしている。
そして、琥珀が人が賑わう光景を楽し気に見ていたが、
<げ>
その可愛らしい顔を顰め、露骨に嫌そうな声を上げた。
<ん? どうしたの琥珀?>
<……主、あそこの店を>
琥珀が右前脚で指し示しながらテレパシーで冬夜に伝える。怪訝に思いながら、その先を冬夜が見やった。
「……あれって、野獣さん?」
琥珀が指した先には、野獣が店から冬夜たち同様の紙袋を手にして出て来るところだった。店の看板を見る限り、食物を取り扱う店のようだった。
「おーい、野獣さん」
声をかけない理由がないため、冬夜が手を振って野獣を呼ぶ。冬夜の声が聞こえた野獣が振り返り、「お?」と意外そうな顔をした。
「よお! 奇遇じゃねぇか」
「珍しいわね、アンタ一人って。いつものメンバーはどうしたのよ?」
「皆別々の物を買いに行っててさぁ。俺は食い物担当」
エルゼに聞かれ、ガサリと紙袋を持ち上げて見せる。
「そういうお前らこそどうしたよ? 買い物?」
「はい。リフレットに欲しい物が無かったので、冬夜さんのゲートでここに」
「王都は人が多い分、店もたくさんあるからね、しょうがないね」
リンゼが答えると、野獣は納得がいったとばかりに頷いた。相変わらず妙な言葉遣いで話す野獣だが、こうして話しているだけで楽しい気分になる。何とも不思議な人物だと、冬夜は思っていた。
しかし、約一名ほど楽しいとは縁遠い顔をしている者がいるのも事実。
『ウグルルルルル……』
野獣を視認した瞬間に琥珀が総毛立ち、唸り声を上げて威嚇する。今の琥珀の姿は愛玩動物の見た目で威嚇姿すら可愛らしく見えるが、当の琥珀は真剣だった。
「ちょ、琥珀落ち着きなって……」
「まだ野獣から臭いがするっていうの?」
冬夜が窘め、エルゼが疑問を投げかける。琥珀の言う臭いとやらは何もしないが、琥珀のような鼻の利く動物にしかわからない臭いがするのだろうか。
そしていきり立つ琥珀を前にして、また野獣が怒って喧嘩が勃発するのではないかと冬夜たちが不安に思っていた。
「……なぁ……やっぱり俺って、臭い?」
「や、野獣さん?」
が、ここで予想外にも野獣の声は落ち着いており……というより、どこか落ち込んでいるような声で聞いてきた。いつもなら「頭にきますよ!!」と叫んで掴みかかって来ていたところだったのだが、どうしたのだろうか。
「いやさぁ、これでも俺って毎日しっかり風呂は入るようにしてるし、琥珀にはっきり臭いって言われてからアロマ水とかハーブ配合の石鹸とか使って臭い消そうと頑張ってんだけどさ……それでも臭かったら俺どうすりゃいいんだよ……もうそういう秘薬探さなきゃどうしようもない……どうしようもなくない?」
心からの静かな叫び。だんだん涙目になっていく野獣を見て、冬夜たちは思う。
(せ、繊細だ……野獣さんって思った以上に繊細だった……!)
(滅茶苦茶気にしてるじゃないの! 見てるこっちが可哀想になってくるわ!)
(……ちょっと可愛いって思っちゃいました)
身体は大きく、大らかな性格で不躾な言葉遣い。しかしその内面は割と傷つきやすいガラスのハートの持ち主、野獣。意外な一面に気付いた三人は、口には出さずとも内心衝撃に揺れていた。
『ムグググ……』
そしてそれは琥珀にも影響があったようで、自分が嫌悪する臭いをどうにかしようとしている野獣に対してキツイことも言えずに口ごもってしまう。
「ほら琥珀。野獣さん、結構気にしてるんだし、ちょっとだけでも我慢できない? 本人はどうにかしようとしてるんだし」
「臭いに関しては慣れでどうにでもなるんじゃないの?」
「……このままだと、さすがに可哀想、です」
主である冬夜含めてエルゼとリンゼにまで言われ、思わず『う~……』と困ったように唸る琥珀。琥珀としても好きで野獣につっけんどんな態度を取っているわけではないのだが、やはり野獣から漂う体臭は生理的に受け入れるのが難しいものがある。人間である冬夜たちには感じない臭いだからか、野獣に同情的なのも少し納得いかないが。
だがまぁ、本人はどうにかしようとしているようだし、琥珀としてもその辺りは認めてやらんこともないと、改めて野獣へと向き直る。そして、
『くさっ!!』
「オォン!?」
「……やっぱダメかぁ」
やっぱ無理と条件反射で後ろ足ドロップキックを野獣の顔面にお見舞いするのだった。
結局なんやかんやあって、琥珀と野獣の和解は成立せず。けどとりあえず冬夜たちが王都に来たということで、彼らを迎え入れるために野獣(顔に肉球跡付き)が先導して歩く。獣人も入り混じる人込みの中をズンズン進む野獣は、もう王都を歩き慣れている風にも見えた。
しばらく通りを歩き続ける野獣と冬夜たち。だが途中、リンゼが「あれ?」と声を上げた。
「野獣さん、宿屋はあっちですよ?」
野獣たちが拠点としている宿とは違う道を歩く野獣に、リンゼが宿がある道を指さす。うっかり道を間違えたのだろうかと三人が思っていると、
「……あ。そうだそうだ言ってなかったっけ」
うっかりしてたなーと言いながら、三人に振り返りながら言った。
「この辺にぃ、俺らのマイホーム、建ったんスよ。みんなで行かね?」
「「「……はい?」」」
唐突すぎて三人の目が点になった。
「この辺にぃ、俺らのマイホーム」
「いやもっかい言わなくていいわ! え、家!? やっと買ったの!?」
「わぁ、おめでとうございます! 遂に買えたんですね!」
エルゼが驚愕し、リンゼが思わず手を叩いて祝う。野獣たちが自分たちの家を買うつもりでいたが、いつまで経ってもいい家が見つからないという理由でずっと宿屋暮らしだったことは前々から冬夜たちは聞いていた。そんな彼らが、ようやく念願だった持ち家を手にすることができたという話は、まさに寝耳に水だった。
「んまぁ、そう……買ったっていうのとはちょっと違うような気がする」
「「「……?」」」
だが、野獣から帰って来た答えはあまりはっきりしたものではなく、疑問符を浮かべる三人。
「えっと、どういう意味?」
「まま、そう焦んないで。詳しいことは着いてから話すからさ、つべこべ言わずに来いホイ!」
冬夜が聞くも、野獣ははぐらかして先を歩き始める。意図は読めないが、ひとまず言う通り、彼に着いて行くことにした三人は野獣の後を追う。
市場を抜け、野獣が歩いていく先は外周区だ。城を中心にして、王都は内周区、外周区と分かれており、王族、貴族や大商人といった国に重要人物は内周区に、そして川を挟んでの外周区には国民含めた様々な人々が住んでいる。野獣が向かうのは、その外周区の中でも富裕層が住まう西区だった。
立派な家々が並ぶ街並みの中、何てことのない風に歩く野獣の後ろをついていく冬夜たちは、予想外の場所を進んでいく野獣に内心驚きを隠せない。そうしてしばらく歩き続けていくと、野獣は立ち止まった。
「こ↑こ↓」
「ふぁ~……すっごい大きいです……」
野獣が指さした家。それを見上げ、リンゼが半ば呆然と呟く。
高台に位置する家は、白い壁が光る立派な二階建ての家だった。屋根がないが、それが冬夜にとってはどこか近代的なデザインにも見えるのが特徴の家。家の側面に階段が付いており、そこから二階、そしてさらに上の屋上へ上がれるようになっている。住宅街から少し離れた閑静な場所に建てられたこの家は、広々とした庭もあって所謂豪邸と呼んでも差し支えない程の立派な家だった。
「これが……アンタたちの家?」
「そ。大きすぎず小さすぎずのいい感じの家だルルォ?」
「すごいなぁ。立地的にもいい場所だね」
驚く冬夜たちを連れ、家の前にある門から敷地内へ入る野獣。そして家の玄関の扉を開いた。
「入って、どうぞ」
「お、お邪魔しまーす」
野獣に促され、家の中へ入る三人。広々とした玄関から奥へ。一つ扉を開くと、そこはリビングルームとなっており、真ん中に大きなテーブル、そして椅子が四つ、さらにはダイニングキッチンと併設されているタイプで随分と立派なものだ。さらに部屋の奥にもソファに挟まれる形で背の低いテーブルが置かれている。そしてソファのすぐ横は、高台に位置しているという立地を活かした景色が見えるように大き目の窓があった。窓からは王宮を含め、王都が一望できる。
「あぁ、おかえりなさい野獣先輩。って、冬夜くんたちも来たんですか?」
「お~、みんな来てくれて嬉しいゾ~これ!」
「みんな帰ってたのか。途中でバッタリ会ってさぁ、早いかもとは思ったけど、近いうちに呼ぼうと思ってたし、多少はね?」
そんなリビングで出迎えたのは、花を生けた花瓶を窓際のテーブルの真ん中に置いている木村。ソファの上でポッチャマを足の間に座らせながら胡坐をかいてくつろぐ三浦の横では八重が、その向かい側ではユミナが、それぞれカップを手にして紅茶を口に運んでいた。
「皆さん、ようこそお越しくださいました」
「あぁいや、突然お邪魔してすみません。さっき知ったばっかりだったから、引っ越し祝いとか持ってきてないんだけど」
「いえいえ。お気持ちだけで結構ですよ」
「それに拙者たちも先ほど引っ越し作業が終わったばかりでござるからなぁ」
ユミナに歓迎の言葉をかけられて冬夜は申し訳なさそうに言うも、ユミナは笑顔でそう返し、八重もどこか疲れた風にそう言った。
「へぇ……中も広くていい感じじゃない。っていうかアンタたちみんなでここに住むってこと?」
エルゼが高い天井を見上げながら言う。ここに彼ら五人が勢揃いしているということは、つまりは一つ屋根の下で暮らすということになるのだろうか。そう思って質問したが、「ああ、いや」と八重がそれを否定した。
「まぁ似たようなものでござるが、この階には三浦殿たちが、拙者とユミナ殿は上の階で居住を構えるということになったでござる」
「え、つまり二世帯住宅ってこと?」
「一階と二階で別々の家なの? 変わってるわね」
二階建てなのはそういうことかと、八重の話を聞いて納得した冬夜。エルゼは二世帯住宅という存在を今知って少し驚いている。そして八重は苦笑交じりに続けた。
「拙者はその、最初はここに住まうことを遠慮しようとは思っていたんでござるが……」
元々八重は武者修行の最中の身。ここに腰を落ち着ける予定など無かったが、三浦たちから皆で住もうと提案され、最初こそは断ろうとは思っていたが……。
『あ、おい待てぇい(江戸っ子)。八重ちゃんは確かに別の国に家があるかもだけど、帰る家は二つあっちゃダメだなんて決まりはないゾ~これ。それに八重ちゃん、一人だけ仲間外れとか俺は嫌だゾ』
『一階と二階がありますから、どちらかをユミナさんと八重さんが一緒に使えばいいんですよ。宿でも似たような形で過ごしてましたし、これなら男女別に住めますしね』
『無理強いはしないけどさ~、何も住む家ができたからって旅できなくなるとか無いじゃんアゼルバイジャン。せっかく住める家があるのに使わない手はないって、それ一番言われてるから。だから水臭いこと言ってんなよなぁお前なぁ』
『そうですよ。私たちはすでに一つの家族のようなものです。それに私一人で住むのはやっぱり寂しいですから』
『ポッチャ(ナカーマ)』
三人と一匹に加え、ユミナにまでそう言われてしまえば、遠慮することは到底不可能だと八重は気付かされた。彼らの言うことも一理あるが、元より八重も皆と離れた場所で寝泊まりするのはさすがに寂しいという気持ちもあるにはあったため、最終的には首を縦に振った。
まぁ、何だかんだ言って、彼らから共に暮らそうと言われて内心嬉しかったというのは口が裂けても言えないが。自分も随分と絆されたものだと内心で自嘲しつつも、そんな自分が嫌いではないと思い知った八重であった。
「やっぱり、皆さん仲良しなんですね」
「当たり前だよなぁ? 俺たち迫真空手部はみんなで一つだゾ~」
リンゼが微笑ましく思いながら言い、三浦が誇らしげに言い放つ。身内を大切にする三浦らしい発言だなと誰もが思った。
「にしても、これだけの家を買うのに結構したんじゃないの? それこそ白金貨何十枚とか」
立地もよくて二階建て、そして内装がこれだから、やはりそれ相応の値段はするだろうと冬夜は口にする。それに答えたのは木村だった……が、何故かため息交じりに。
「それなんですけどね……この家、実は貰い物なんですよ」
「貰い物!? え、誰から!?」
驚くエルゼ。木村は変わらない顔で言った。
「……国王陛下です」
「「「え」」」
三人は固まった。
発端は数日前の爵位授与式。謁見の間では、床に敷かれた長く赤い絨毯の上で片膝を着き、恭しく頭を下げている木村、野獣、三浦の姿があった。そして正面の玉座に座るのはベルファスト国王、トリストウィン・エルネス・ベルファストその人である。
厳かな雰囲気の中、三人の頭上から威厳ある声がかかる。
「木村殿、田所殿、三浦殿。そなたたちは余の命を救ってくれたばかりか、ミスミド王国との同盟を阻まんとしていた輩の捕縛におおいに貢献してくれた。その恩義に報い、そなたたちに爵位を授けよう」
「勿体なきお言葉、まことに畏れ入ります、国王陛下。しかし自分たちは冒険者として人のため、そして国のために貢献していきたく思います。つきましては、この度自分たちは爵位を辞退させていただきたく……」
「ふむ、そうか……ならば無理強いはすまい。これからも国民のために尽力していって欲しい」
「「「はっ!」」」
木村はともかく、野獣と三浦が礼儀を弁えているこの光景は、彼らを知る者が見れば正気を疑いかねないものだ。それもこれも、木村と八重が徹底的に礼儀を叩き込んだためだ。と言っても、教えたのは簡単なこと。
『基本的に喋るな』……これだけ。
というわけで、話を進めるのは木村と王であり、二人はただ黙っているか返答するかに絞ることで粗相をしないよう努めた。木村も、この爵位授与式は形だけの物で台本通りに進んでいるに過ぎないため、余程のことが無い限り変なことは起こらない筈だ……と、そう高を括っていたのだが。
「とはいえ、このまま帰すのは余の恩人であるそなたたちに対し、失礼だと思う」
「……はい?」
台本にないことを話し出した王に、思わず木村は下げていた頭を上げてしまった。
「そこで、謝礼金と冒険の拠点となる家を用意した。爵位の代わりに受け取って欲しい」
そう言って、国王はすぐ近くに立っていた初老の紳士に目配せをする。紳士は木村たちへ歩み寄り、恭しく頭を下げながら手に持っていた銀の盆を差し出した。盆の上には両手で持つ程の大きさのサイズの袋と、家やその他のことが書かれた目録が乗っていた。
「この度は大義であった。今後の活躍を期待しているぞ」
「やりました」
「いいですゾ~これ!」
「え? …………え?」
無意識に受け取ってしまった木村は、後ろから聞こえて来る敬語もどきのことをくっちゃべる先輩二人を叱責することも忘れ呆然と呟く。ただ視界には、手渡された袋と目録、そしていたずら成功と言わんばかりにニヤリと笑う王の顔が映っていた。
「とまぁ、そんな経緯でこの家を受け取った……もとい受け取ることになってしまいまして……」
「いや、あたしとしては爵位を断ったアンタたちの方が驚きなんだけど」
眉間を抑える木村に、エルゼが口の端をひくつかせながらツッコんだ。
「でも何で爵位を断られたんですか?」
「いやだってめんどいし」
「めんどいゾ」
「ああ、面倒だったんで」
「そんな理由でですかぁ!?」
リンゼの質問に対して普通にそう返す三人に、リンゼがらしくなく大声を上げた。ただ、爵位を面倒臭いという理由だけで蹴るなど前代未聞だが、何だかこの三人ならありえなくもないとリンゼは何となく思ったり思わなかったり。
「まぁ、拙者も最初はそんなことで爵位を辞退するのはどうかと思ったのでござるが……はぁ」
「アンタも苦労してるわね、八重」
どことなく疲れた風にため息をつく八重の肩を、エルゼが労いの意を込めて肩を軽く叩いた。本当の苦労人は何気に八重なのかもしれない。
「……けど、王様から授与されたって言う割にはそこまで大きくはないよね?」
「あ、そうですよ。国王陛下からの贈り物なら、もっと大きな……それこそお屋敷程の大きな家でもおかしくはないですよ」
冬夜からの疑問に、リンゼも同意する。一国の主からの贈り物にしては、確かにこの家は小さく感じた。それこそ一貴族が住まうような大きな屋敷をもらってもいい筈なのだが。
「……それもなんですけど……あの後、王様から聞いたんです」
それもまた木村が答える……ジロリと、先輩二人を恨みがましい目で見ながら。
「ふむ、爵位の代わりに住居が欲しいとな」
「そうそう! ぶっちゃけ爵位とかお金とかよりもそっちが欲しいんだよなぁ!」
「そうだよ。俺たち元々家探しをしてたんだけど、理想の家が無いんだゾ~」
爵位を断ったあの日、木村が授与式の段取りを聞くために別室へ、八重もまたポッチャマと共に別室で待機している間、野獣と三浦が王と対面していた。一国の主に対して変わらぬ態度で接する二人を、王は気を悪くすることなく真剣に耳を傾ける。そもそもここにはストッパーである木村も八重もいないため、二人の独壇場だった。
「なるほど。そう言えば以前、何か希望があるかどうか聞いた時にそんなことを口にしていたな……よかろう。爵位の代わりに、君たちが希望する家を授けよう」
「FOO! さすが王様! 太っ腹だってはっきりわかんだね!」
「いいゾ~これ!」
二人の要求を快く受け入れる王にテンションが上がる野獣と三浦。
「ただし、一つ条件がある」
と、ここで王の目が鋭く光る。その真剣な目を見て、二人も押し黙った。
「……ユミナと木村殿が一つ屋根の下で暮らす……この条件を飲むのならば、君たちが欲する家を授けよう」
重い口を開く王。ある情報提供者からの話によれば、ユミナと木村の関係は正直もどかしいの一言だった。何せ木村のガードが堅いのだ。それでいてユミナのことを大事に思っているのがわかる程に、彼はユミナに対して真摯に接している。ユミナもユミナで、無理矢理関係を迫ろうとはせず、ただ今のところは木村の傍にいるだけで幸せそうだという報告も聞いていた。
それはそれで父親的には全然OKなのだが……王的には木村とユミナがあーだこーだして子供を作って欲しいとも思っていたりする。そうすれば後継ぎにもなるし、何より木村という貴重な存在が他国に奪われるということもなくなる。打算的ではあるが、王としては木村を他国に、特に帝国には渡したくはない。
まぁそれは建前で、娘の幸せ第一なのが本音なのだが。
そんなわけで、野暮と言えば野暮なのだが、手っ取り早くくっつけるために二人を一緒の家に入れてやろうと王は画策した……のだが、野獣と三浦はあまりいい顔はしていない。
「う~ん、いきなり同棲はどうかと思うゾ? それにユミナちゃんは12歳だし、木村は絶対手を出さないと思うゾ~」
「そうか? 王家の者は15までには婚約して相手を決めるのだがな? 私も妻と婚約した時は14だった」
「若スギィ!」
木村は成人男性、ユミナは未成年。元々の世界で生まれ育った空手部にとって、あの二人が恋愛するのは百歩譲っていいとして、結婚となると強い抵抗感がある。特に木村は真面目な男だ。大人びた精神の持ち主のユミナを意識こそすれど、手は絶対に出さないだろうと野獣と三浦は確信していた。
だが何だかんだで、ずっと木村を一途に思っているユミナのことを二人は応援していた。何とかもう少し、せめて人前で手を繋ぐ程度の進展は欲しいとも思っている。ユミナは精神的にも見た目的にも12歳には見えないし、元の世界ならともかくこの世界ならば二人の関係も疑われることはない……かもしれない。
「んじゃあさぁ、二世帯住宅とかどうよ?」
「お! いいゾ~それ」
「二世帯住宅? ……それはどういうものだ?」
野獣の提案に三浦が賛成したが、王はそれがどういう物かわからず首を傾げた。
「簡単に言うと、一つの家に二つの家があるって感じっスねぇ。例えば二階建ての家のそれぞれの階に一家族が住むって感じで。これなら一つ屋根の下でいつでも会いに行けるし、ユミナも寂しくないだろ?」
「ふむ……なるほど」
一理ある。なかなか画期的だと王は頷いた。
「……しかしそれなら、大きな屋敷でもいいのではないか? 余としてはそれくらいの家を用意してやろうかと思っているのだが」
「いや~(屋敷とか)キツいっス。俺らはでっかい屋敷より普通な家がいいって、はっきりわかんだね」
「そうだよ。木村もきっとそう言うゾ。どうせだったら普通の家より豪華な家って感じにして欲しいゾ~!」
「うぅむ……欲があるのか無いのかわからない者たちだな。アルの言う通りだ」
公爵から聞いていた空手部の人物評価をあらかじめ聞いていた王はそれを目の当りにして苦笑した。
「わかった。しかし余が贈る家だ。屋敷とまではいかずとも、それ相応の家を用意させてもらうぞ。無論、先ほど野獣殿が言っていた二世帯住宅、という形でな」
「やったぜ」
「スゲ~楽しみだゾ~これ!」
諸手を挙げて喜ぶ二人。ぶっちゃけ木村が犠牲になっていることは何となく自覚しているが、これも全て後輩の幸せのためと思うことにしておいた。
「では、希望があるなら言ってくれ。可能な限り答えていこう」
「お、そんなら勿論、屋上付で! それから地下室もあるといいよな~!」
「俺は三人一緒に入れるくらいの広さの風呂が欲しいゾ~!」
そうして、王と野獣と三浦は今後住まうこととなる家についてああでもない、こうでもないと盛り上がった。
「そんなわけで、この家は王様と先輩たちの悪乗りで元々あった建物を改装して完成したんです……」
「もう、お父様ったら……」
「アァッ! ハァッ! ハァッ! 逝きスギィ! 逝く逝く逝く逝く!!(頭部変形)」
「ア・ン・タ・ら・は・いっぺんあの世に逝かなきゃわっかんないでしょうが礼儀ってものをぉぉぉぉぉぉ!!」
「あっあっあっあっあっ」
「お姉ちゃん堪えて堪えて! 野獣さんと三浦さんの頭の形が変わっちゃう!!」
呆れを含んだため息を吐きながらそう締めくくった木村。ユミナも父親に対して思うことはありつつも、若干声が弾んでいた。やはり木村と共にいれることが嬉しいのだろう。
あとついでに相変わらず王に対して変わらない態度を取りまくっていたことを知ってブチ切れたエルゼによって野獣と三浦は渾身のアイアンクローを喰らっていた。ガントレットを使ったパワーファイターであるエルゼの握力によって二人の頭が愉快なことになっていくのをリンゼが慌てて止める。
「ま、まぁでもいい感じの家でよかったんじゃない? 僕はちょっと羨ましいよ」
「……原因が原因ですからね……まぁ、確かにいい家っていうのは否定しませんけど」
冬夜のフォローに苦笑しつつ、前々から家が欲しいと思っていた木村にとってはありがたい反面、やっぱりユミナとの結婚がどんどん近づいていっている気がしてならない。本格的に外堀を埋めていくつもりだなあの王は、と内心で毒づいたりもした。
「まま、いいじゃんいいじゃん! 今日は新居引っ越し祝いってことでさぁ! 食材も買ってきたし、今日はみんなでパーッとやりませんか? やりましょうよ!」
「いいゾ~それ! 冬夜くんたちもゆっくりしてって欲しいよなぁ?」
「く、やっぱりこいつら回復力化け物級ね……!」
「エルゼ、本気で潰すつもりだったの……?」
元気いっぱいに言う野獣と三浦に対し、忌々しそうに呟くエルゼ。そこに殺意が若干交じっているのを察した冬夜は引きつった笑みを浮かべた。
何だかんだ言っても、彼らなら上手くやれるだろう。騒々しくも楽しい日々をこの家で過ごしていく……冬夜はそれが、何となく羨ましく思った。
「……ところで食事は誰が作るんでござるか?」
と、ここで八重が素朴な疑問を投げかける。
「あ、そっかぁ。俺レンチンしかしたことないゾ。野獣と木村って料理作れたかゾ?」
「特にはやってないです(不可能)」
「すいません、僕基本外食か弁当ばっかりだったんで……」
「あ、ごめんなさい私も……ずっと王宮にいたものですから……」
「……そう言えば拙者も無理でござった……」
「いやアンタたち生活できんのそれ!?」
「どうしましょう冬夜さん。私、皆さんが心配で仕方ありません……」
「うん、僕も思った。大丈夫かこの人たち……」
『ふぁ……意外といいソファですな』
「ポチャ(せやろ?)」
まさかの迫真空手部全員が生活能力皆無という事実。呆気らかんとしている三浦と野獣と木村、そして気恥ずかし気に顔を赤らめるユミナと八重を見て、冬夜たちは凄まじい不安に襲われた。尚ずっと黙っていたと思われていた琥珀はポッチャマと共にソファの上で我が物顔でくつろいでいた。
まぁ結局、ユミナのことを考えていた王の計らいで、その日のうちに家事全般を請け負うメイドギルドの人間が派遣されるわけだが……彼らが思い通りの生活を手にするまで、まだまだ前途多難である。
原作イセスマだとでっかい屋敷をもらっていましたが、野獣の「こ↑こ↓」がしたかったのでこんな感じになりました。やっぱ普通の家が好きなんスねぇ。
二世帯住宅ってさぁ……あの世界では珍しい……珍しくない? そんなことを思ったんですが、イセスマ博士ニキ説明して(はぁと) オナシャス!
【悲報】話のストックが切れそうヤバイヤバイ……毎日8:10投稿の危機です。そうなった場合活動報告にて告知します。許して……許して……。
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
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スマホ太郎(アニメ主人公)
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望月冬夜(原作主人公)
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野獣先輩
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三浦
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木村