サブタイで誰が出て来るのかって、はっきりわかんだね。
太陽が昇りきり、一日の半分が来たことを報せる。リフレットの町から遠く離れたここ、アマネスクの町も昼の光が降り注ぐ中、人々が行き交っている。皆生き生きとしており、町の中は活気に溢れていた。
「「「あぁぁぁ~……」」」
「ポッチャァァァ……」
そんな中、明らか活気とは無縁とばかりの顔色をした三人と一匹。迫真空手部の3バカが、町の往来を力無い足取りで歩いていた。三人が放つ暗いどんよりしたオーラだけでなく、服装は元の世界の服装のままなため、その恰好がここでは異色ということもあってより注目を集めていた。三浦の頭の上に乗っているポッチャマは変わったぬいぐるみか何かだと思われているためか、三人と比べると目立つことはなかった。
「うぅ、この世界に来て早々こんな思いをするなんて……こんなんで本当に僕たち生きていけるんですかね……?」
「喉渇いた……喉渇かない……?」
「喉だけじゃなくて腹減ってこのままじゃ死ゾ……」
「ポチャァ……」
「ごめんなぁポッチャマ。あれだけじゃやっぱり足りないよなぁお前もな~……」
異世界に着て次の日、リフレットの町にて、三人はまず生活の基盤を固めるためにお金を稼ごうと決めた……が、町にある看板や張り紙を見て愕然。文字が全く読めない。人々の会話の内容が聞き取れることに気付いたものの、文字が読めなければ何が何だかさっぱりわからない。一応、野獣のスマホの地図には日本語で表記されるのだが、それは店名や地名のみであり、チラシといった物に書かれた文字はわからない。その上、素性のわからない人間である三人を雇い入れる店などある筈もなく、門前払いをくらいまくり、仕事にすらありつけない。仕方なく、別の町で仕事を探そうということとなり、3日かけてノーランという町に訪れた……が、結局リフレットの二の舞。こうして運勢クソ雑魚なめくじな三人が流れ着いたのが、ここアマネスクの町だ。ここに来るまで一週間。ろくな物を食べてない3人はもはやヘロヘロだった。普通の人間ならばすでに行き倒れていてもおかしくはない。
それでも倒れなかったのは、一重に彼らの身体能力と体力の高さにある。曲がりなりにも三人は迫真空手部に所属する手練れ。並の人間とは一線を画する。さらに言えば、神であるGOから基礎能力と身体能力底上げの恩恵を賜ったおかげもあって、三人は今まで生き永らえてこれたのだ。ポッチャマに至っては神が三浦のために創造した生物ゆえ、同様に体力は有り余っている。
さらに言えば、三人の心が折れなかったのはひとえに野獣のスマホの力もあった。野獣が面白おかしい動画や癒される動画を流したり、時として映画を三人+一匹一緒に小さい画面の前で集まって見たりして、擦り切れそうな精神を癒しては持ち堪えてきた。余談だが、たまーに野獣が面白半分で飯テロ動画を流した日には三浦と木村とポッチャマから半殺しにされて自爆したりした。
しかし、やはり体力や精神は無限ではない。いい加減になんとかしないと、本当に行き倒れてしまう。心身共にボロボロだ。町に着いて早々、午前中は仕事を探したり喧嘩したり物乞いしたりと、試行錯誤しつつも実りのない時間を過ごしてきた三人。腹に入れた物はお情けで恵んでくれたパン一個と、到底足りる物ではない。三浦にいたっては相棒のポッチャマに半分以上あげていた。
異世界転生6日目にして、早速大ピンチ。まだ日暮れまで時間はあれども、ホームレスと化した空手部となった三人にとって生きるか死ぬかの瀬戸際とはこのことか。
「なぁ、今ある食い物って何があったっけ……?」
「いざって時のための俺のポケモンのスナック菓子一箱だけだゾ……」
「何でそんなのがあるんですか……」
「おいしいからに決まってるだルルォ? 今日中に何か食べ物見つからなかったら、これを皆で分けて食べるゾ……」
「ス、スナック菓子一個を皆でって……腹の足しにもならないって、それ一番言われてるから……」
こんな肉体的にも精神的にもギリギリな生活を続けていたら、それこそどこかで野垂れ死ぬことは確実だ。何とかしなければ、いよいよやばい……野獣はそう考えていた。それは三浦と木村もまた同様。
「もう、あえて騒いで警備兵に捕まってみます? そうすれば最低限の食事は提供されるかもですし……」
「この世界に来て早々前科持ちになるとか、涙が出、出ますよ……」
「けど背に腹は変えられないゾ……」
この世界にとって自分たちは異物そのもの。故に素性も何もわからない現状、警備兵に捕まって取調室で根掘り葉掘り聴かれるのはよろしくない……そんな思いもあるが、そうも言ってられない状況に陥りつつある。何ならもう今から騒ぎでも起こして……いっそ店からリンゴの一個か二個盗んでみても……。
「って、あれ? 何だか騒がしいですね」
と、野獣の思考が自棄になってかなり危ない域に達しかけたその時、木村が何かに気付いて顔を上げる。見れば正面、道のど真ん中だというのに人だかりができており、そこで何やら騒ぎが起きているようだった。
「何だぁ? 俺らが騒ぎを起こす前にもう騒ぎが起きてんのか? それじゃ今俺らが騒いだって警備兵来ねえじゃねぇか!」
言ってること滅茶苦茶なことに気付かない野獣は、怒りを顕わに野次馬の中へと突っ込んでいく。空腹でイライラしている野獣は、もはや八つ当たりできれば何でもいいみたいな思考に陥りつつあった。三浦と木村も、慌てて彼の背中を追った。
人混みを掻き分けて、野次馬の一番前へと躍り出る野獣。三浦と木村も続いて彼の隣に並び、目の前の光景を目の当りにする。
「あ、あれって……」
それは、異様な光景であった。数人の屈強な、それでいてガラの悪い男たちに取り囲まれる形で対峙するのは、一人の少女。これだけならば男たちが少女に絡んでいるだけで、非日常ではあるが特に変わった光景ではない。が、少女が身に纏っている服がこの場で異彩を放っていた。
薄紅色の着物に紺の袴、白い足袋と藁草履。腰に差しているのは黒塗りの鞘に収められた太刀と脇差。大きな赤いリボンのようなもので結わえてポニーテールにした長い黒髪は艶を放っており、そこに差された簪がまた彩りを添えている。
「おぉ、かっこいい! 何だか侍みたいな恰好の女の子だゾ~」
あどけなさを感じさせつつも凛とした佇まいから只者ではない雰囲気を出している少女のその姿はまさしく、野獣たちの知る侍、或いは武士というような服装だった。思わず三浦が興奮して声を上げる。
「侍……ということは、この世界にも日本みたいな国があるんでしょうか?」
「っていうか、侍っていうよりなんかゲームにいそうな恰好じゃねぇかあれ? 世界観とかこれもうわかんねぇな」
各々、そんな感想を少女に抱いている間にも、事態は動いている。
「さっきは世話になったなぁ姉ちゃん。お礼に来てやったぜ?」
リーダー格らしき男が少女に向けてニヤけたまま言い、対する少女は頭に疑問符が浮かんでいるのが見えるような顔で顎に手を添えて首を傾げる。
「はて……拙者、世話などした覚えはないのでござるが?」
「うぉ、ござる口調だぜござる口調! 初めて聞いた!」
「野獣先輩、珍しいのはわかりますが今そんなこと言ってる状況じゃないですよ」
心底わからないとばかりの態度の少女に、男のニヤけ顔が消え、代わりに現れた感情は怒り。米神に青筋が浮き、男は怒鳴り散らす。
「すっとぼけやがって! 俺らの仲間をぶちのめしておきながら無事で帰れると思うなよ!?」
「……あぁ、あの時警備兵に突き出した奴らの仲間でござるか。あれはお主たちが悪い。昼間っから酒に酔い、乱暴狼藉を働くからでござる」
至極真っ当、常識であるとばかりに言う少女。実際、少女の方に言い分があるのは誰から見ても明らかだ。しかしそれで納得できる程の度量など男たちにある筈もなく。
「やかましい! やっちまえ!!」
それを合図に、男たちは一斉に飛び掛かる。普通の人間ならばここで終わりだが、侍の姿はハッタリではないということを証明するかの如く少女はヒラリヒラリと、さながら蝶のように舞って次々と華麗に回避、そして男の一人の腕を掴むと、軽い感じに捻り、投げ飛ばす。
「すげぇ! まるで合気道とか柔術みたいっスねぇ」
「すごいゾ~、大の男を次々に投げ飛ばしてって滅茶苦茶かっこいいゾ」
野獣と三浦が称賛する中、少女はどんどん男たちを投げ飛ばし、或いは急所を突いて気絶させていく。この調子でいけば男たちを全員叩きのめすのも時間の問題だろう。
が、ここで予想外のことが起きた。
「っ! あ、ぅぅ……」
「え、急に動きが……」
少女が腹を抑え動きが止まり、木村が焦る。それを逃す男たちではなく、少女の背後から剣を手にした男が迫る。
このままでは、少女の背中は剣によってばっさり切られ、重傷か、最悪命を落とす……この場は今以上に騒然となるだろう。
それを止める者は、この場には誰もいない……
「ポッチャマ、みずでっぽうだゾ!」
「ポッチャ!」
なんてことは、ない。
三浦が頭の上に乗っているポッチャマに向けて叫ぶと、まるで三浦の身体の一部だと言わんばかりに即座に反応。胸を膨らませたかと思うと、その小さな嘴から勢いよく噴射される冷たい水が、まっすぐビームのように男目掛けて飛んでいく。
「ぶわっ!? な、なんだこれ、水!?」
「え?」
結果は、命中。突然水が勢いよく男の顔面に当たったことで目に水が入り、痛みに呻く。その声に反応した少女は振り返るも、状況がわからない様子だった。
それに関わらず、野次馬の中から飛び出す影。ポッチャマに目つぶしを命じた張本人、三浦が足を突き出し、槍のような飛び蹴りをいまだ目を擦っている男目掛けてお見舞いし、男を吹き飛ばした。
「五体満足ならばいざ知らず、万全の体調じゃない状態の中で立ち向かうには女子一人では骨が折れるだろう」
男を蹴り飛ばして着地した三浦は、ゆっくり構えを取る。その姿は、これまでの三浦とは目つきが、顔つきが違う。それでいて全身から湧き立つ覇気が視認できる程に蜃気楼のように揺らめいているのがわかる。
野獣と木村は、この状態を知っている。この姿の三浦は、普段の天然で抜けている先輩にあらず。
「出た、三浦先輩の『閣下モード』!」
「この状態の三浦先輩には誰も勝てませんね!」
それは三浦が怒った時、本気になった時にのみ出て来る、真の三浦と呼ばれている姿。迫真空手において、この姿になった三浦に勝てる人間はいまだおらず、対抗できるのは、迫真空手部の顧問である彼らの先生のみだ。
「義によって助太刀するぞ!」
言って、三浦は殴りかかって来た男を受け流し、鳩尾にカウンターで拳を叩き込む。鋭い音をたてて、男はくの字に身体を曲げて吹っ飛んでいった。
「っ! かたじけない!」
三浦が味方だと知った少女は、そう言って再び男たちと対峙する。男たちは後僅かのみと言えど、それでもまだ数の上では男たちが有利。二人の実力ならば決着はすぐに着くだろうが、念には念を入れておきたい。
「お前木村さぁ、この機会に魔法で何か援護してやったら?」
そう思った野獣がいまだ魔法が不慣れな木村にそう提案する。
「え、僕もやるんですか?」
「三浦先輩もやってるんだからさぁ。それに、お前の魔法がどれだけ戦闘に役に立つかっていうのも確認するのにもいいと思うぜ?」
野獣の言うことは一理ある。木村はまだ初級魔法ですら疲労を感じる程しか力がないが、今後そうも言っていられない状況が来る可能性はおおいにある。ならば今ここで実際にその力を試すのも悪くない筈。
「よし、それなら……」
木村は本を広げながら思案する。炎、水、風、土、光、闇、それから無属性……色々あるが、その中で殺傷能力が低い物を探す。やはり悪人といえども相手は人。殺人を犯す気には到底なれない。
ページを捲りつつ、考える。相手の気を逸らしたりできる程度の威力、石か何かを投げられるような、◯◯スローとかそんな感じの魔法は……。
「……ん? これだ!」
白紙のページも捲っていくと、不意に白紙の中にポツンと綴られている文字を発見する。それを読んで、そこに綴られていた魔法を指さす。指さした魔法は無属性魔法『スロー』と書かれており、簡単な説明書きには『自身が持つ魔力を利用し、近くにある対象を投げ飛ばす』とある。超能力の念力みたいなものだろうか。素手のように練習すれば大きな物も投げることが可能とあるこれを使ってその辺にある石を投げれば、十分武器になる筈だ。まさに先ほどまで考えていた、ちょうどおあつらえ向きの魔法だ。今まで何か書かれていなかったと思われていたページに載っていることに今気付くというのは都合が良すぎる気もするが、この際それは考えないでおこう。
「よし、念じて……」
本を広げ、手を翳す。投げる物は手近に落ちている拳大の石ころ。目標は三浦と少女が対峙している大柄の男。その男目掛けて木村は石を投げるイメージを練り上げ、そして叫んだ。
「スロー!」
「ンアッーーーーーー!!」
「ぶべらぁっ!?」
木村の奇襲はつつがなく成功。魔法が発動して銃弾のように野獣が飛んでいき、野獣と激突した男は140ポイントくらいのダメージをくらってもんどりうって転がって行き、やがて止まった時にはすでに意識を異次元の彼方へと飛ばしていた。ついでに野獣も180ポイントダメージをくらって地面に転がった。
「アァァァァァ、ハァ、アァァァァ……」
「あ、あれ? 何で先輩!?」
木村としては石ころを投げるつもりだったのが、まさか野獣を投げ飛ばすことになるなど思いもせず慌てふためく。
ともあれ、今の男で最後だったらしく、男たち+αは全員伸びていた。この世界に来ての初戦闘は、空手部+少女の圧倒的勝利で幕を閉じることになった。後は警備兵に任せ、三人と少女はこの場を離れることになった。ついでに気絶した野獣は責任もって木村が背負っていった。
「なぁ木村……俺お前になんかした? 投げ飛ばされる程お前にひどいことした?」
「す、すいません先輩、僕もまだコントロールがうまくできなくって。次は気を付けますから」
乱闘騒ぎがあった現場から少し離れた路地裏にて、泣いている野獣に気まずそうに謝罪する木村。木村としても不可抗力としか言いようがなく、ただただ「オォン、アォン」と泣きながらポロポロ涙を流す野獣に頭を下げ続けるしかできなかった。
「助かったゾ~野獣。お前が突っ込んできてくれたおかげで俺たちも無事で済んだゾ」
閣下モードから元のおとぼけた性格に戻った三浦に言われた野獣は、泣き腫らした目のまま言う。
「いや三浦先輩ならあの程度楽勝でしょうよ……俺なんていきなり人間砲弾にされるなんて思ってもなかったし……」
「本当にすいません、許してください、何でもしますから」
「ん? 今何でもするって言ったよね?」
そんな感じでやいのやいの言っている野獣たちの傍で何か言いたげなオロオロしていた少女。やがて意を決し、声をかけることにした。
「えぇっと……お取込み中のところ申し訳ないのでござるが……」
「おぉ、ごめんだゾ」
ほったらかしにしてしまったことを詫びる三浦。野獣と木村も騒ぐのを一旦止め、話を聞く体勢に。少女は最初、三浦のあの真剣な顔から一転して今の愛嬌のある顔つきになったことに内心戸惑っていたが、一度小さく咳払いして気を取り直す。
「先ほどは、ご助勢かたじけなく。拙者、九重八重と申す。あ、八重が名前で九重が家名でござる」
頭を下げながら、助けてくれた礼と自己紹介をする少女改め八重。それを聞き、野獣たちも己の名を名乗ることにした。
「俺は三浦だゾ。こっちは相棒のポッチャマ。よろしくな~」
「ポッチャ!」
「俺は田所。けど皆からは野獣って呼ばれてるから野獣って呼んで、どうぞ」
「ナオキです。木村ナオキ。木村と呼んでください」
三人の名を聞いて、八重は驚く。
「なんと、お三方もイーシェンの出でござるか!?」
「イーシェン?」
聞き慣れない言葉が出て来て木村が首を傾げる。しかしそれに答えたのは三浦だった。
「違うゾ。俺たちは日本の下北沢ってところから来たんだゾ~」
「日本? 下北沢? はて、聞き慣れぬ地名でござるが。オエドではないのでござるか?」
「江戸は日本の東京の昔の名前だゾ。俺たちは異世界から来」
「ちょちょちょ、三浦先輩ストップ! ストップ!」
慌てて三浦の口を塞ぎながら、木村が八重から少し距離を取る。そして野獣も含めて三人が顔を寄せあい、小声で話す。
「三浦先輩、僕らが異世界から来たことは話さない方がいいですって!」
「何でだゾ? 別にやましいことなんてないのに」
「あのさぁ……三浦先輩、もし仮に初対面の人間から『どうも、異世界から来ました』なんて言われたらどう思う?」
「びっくりするゾ」
「そんなリアクションで済ますのは池沼のアンタだけだろうが! 普通は頭おかしい人間と思われて警戒されちまうだルルォ!?」
「野獣先輩の言う通りですよ、三浦先輩。いらない混乱を避けるためにも、ここは僕らが異世界から来たことは黙っている方が賢明です」
「あ、そっかぁ……まぁ二人がそう言うなら」
若干納得いってない三浦だったが、真剣な二人にそう諭されては従うしかなかった。
改め、唐突なことで驚き、ポカンとしている八重の方へ向き直る。
「ごめんゾ八重ちゃん、またほったらかしにしちゃったゾ」
「い、いえいえ、お構いなく。気にしておりませんゆえ」
さすがに目の前で内緒話されては気分はよくないというのは三浦でもわかる。改めて謝罪し、八重も気にしてないことを示してそう言った。
「まぁ僕たちの出身地についてはあまり詮索しないでください。一応イーシェン? に似てる国の出ではあるんですが、色々複雑な事情がありまして……」
「そ、そうでござるか……あいわかった、恩人がそう言うならば、これ以上の詮索は無用でござる」
何か後ろめたいことでもあるのかとも思ったが、助けてもらった手前、木村の願い通りに彼らの出身地については触れないようしようと決めた。
「っていうかオエドって、まんまだな……」
「けどこれでこの世界にも日本と似た国があることがわかりましたね……文明的には名前の通りだとしたら江戸時代辺りでしょうか」
この世界についてまた一つ知る事ができた野獣と木村は、八重に聞こえないように小声でそう話した。そしてふと、野獣は気になったことを八重に聞く。
「それよりさぁ、さっき何であそこでフラついてたわけ? 身体の調子でも悪いの?」
先ほどの様子を野獣に問われ、八重はギクリと肩を震わす。そして気恥ずかしそうに頬を赤く染め、視線を逸らした。
「い、いやーその、身体は問題ないのでござるが……拙者、ここに来るまで恥ずかしながら路銀を落としてしまいまして、それで……」
グゥゥゥゥゥ。
返事とばかりに、八重の腹からそんな音が鳴った。それだけで三人は「あ、ふーん(察し)」と呟き、八重は「あうぅ……」とより顔を紅潮させて身を小さくさせながら顔を伏せた。
「そっかぁ、八重ちゃん腹減ってたんだなぁ」
「ちょ、三浦先輩、女の子相手にそれは……」
デリカシーが無いのではないかと木村が注意しようとしたら、三浦はおもむろに懐からある物を取り出し、それを八重に差し出した。
「これあげるゾ。少しだけでもお腹の足しになると思うゾ~」
「え、これは……」
キャラクターの絵柄が書かれた六角形の独特な形状の細長い箱に入っているそれは、三人にとってなけなしの食料でもあるスナック菓子だった。
「ファッ!? 三浦先輩、それあげちゃうんスか!?」
それに驚き、異議の声を上げたのは野獣だった。
「そうだゾ。お腹減ってるみたいだし、俺たちはなんだかんだでさっき食べたしな〜」
食べた、と言っても、物乞いして手に入れたパン一個だけだが。
「ちょっと待てオイ! それ俺らの」
「先輩、先輩!」
「ヌッ!」
抗議しようとした野獣を、木村が止める。
「先輩、ここは譲ってあげましょうよ」
「な、何でだよ、俺らのなけなしの食料だぜ?」
「それでもですよ。彼女は僕らにとってここに来て初めてまともに接触した人なんですから、今後も何かとお世話になると思えば……」
「クゥ~ン……(悲しみ)」
木村の考えは言うなれば打算的な考えではあったが、彼らも彼らで一日を必死に生きている。それならば計算した恩だとしても、ここで彼女と繋がりを持った方が今後のためになる筈。そんな木村の考えに一理あると思った野獣は、切ない顔になりながらもそれ以上の反論はしなかった。
「い、いいんでござるか? 先ほど野獣殿が何か言いたげでござったが……」
「大丈夫だゾ。お近づきの印と思ってくれれば」
木村に対して善意100%の三浦が、にこやかに言う。八重は、珍しい絵が描かれた不思議な箱の中身が食べ物だと知って、思わず唾液が口から溢れそうになったが、はっとして頭を振った。
「い、いやいや、そんな、拙者も武家の娘! 見ず知らずの者から施しを受ける訳には……!」
卑しい自分を打ち払うようにそう言う八重だったが、三浦も下がらない。
「あ、そっかぁ……それなら、取引しようゾ」
「と、取引、でござるか?」
「そうだゾ。実は俺たちも一文無しで明日を生きるのも危うい状態な上に、この辺りのことがさっぱりなんだゾ。だから八重ちゃんは俺たちに色々教えて欲しいんだゾ。その代わりにこのスナックを上げる……これなら施しにならないゾ」
「そう言えば、僕たち看板の文字すらも読めませんでしたよね。八重さんがいれば、僕たちも今後路頭に迷わずにすむと思います」
「俺らの食い物あげるんだからさ~頼むよ~」
「ポッチャ!(懇願)」
三浦が持ちかけた取引に、木村と野獣も賛成して八重に頼む。二人にとってはここで初めてまともに会話した異世界人、絶対逃す訳にはいかないという思いもあった。
対し、八重はどうしようか悩む。ただで食料を恵んでもらうのは抵抗があるが、三浦の話に乗るならばこれは施しではないというのはわかる。しかし、彼らにとっても貴重な食糧をそう簡単に受け取っていいものだろうか……そう葛藤する八重だったが。
グゥゥゥゥゥ。
「うぅ……」
八重の腹の虫が、早く何か寄越せと催促して憚らない。恥知らずな腹を責め、八重の顔はまた熱を持った。
と、そんな彼女の手を三浦の大きな手が掴み、
「ほら、食えよ食えよ、ほら」
「え、あ……」
無理矢理にでも、スナックを握らせた。見れば、三浦の顔に悪意はない。空腹の八重を助けたいという純然たる思いから食べ物を譲っているということが八重にもわかった。
そんな彼を見れば、これ以上の遠慮は無礼にあたる。そう考えた彼女は、
「か……かたじけない」
やけにつるつるした箱の感触を手にしたまま、そう答えたのだった。
原作主人公君は今頃リフレットの町で双子ちゃんと一緒にアイス作ってんじゃないですかねぇ?(適当) つって、時系列的におかしいかもしれませんが、ま、多少はね? 原作にいない人物(空手部3バカ)がいるという時点で原作乖離が始まってると思っていてくれよな~。
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
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スマホ太郎(アニメ主人公)
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望月冬夜(原作主人公)
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野獣先輩
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三浦
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木村