異世界空手部・やわらかスマホの裏技   作:コッコリリン

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今回、八重ちゃんには赤面してもらうことにしました(暗黒微笑)


31.迫真空手部、青春を目撃する

 夜盗による襲撃後の後処理はあっという間だった。半日は痺れから抜け出せないであろう夜盗たちは、猿轡を噛まされた状態で土魔法を使える冬夜と木村、ユミナ、数人の兵士たちによって首だけ出す形で埋められ、ベルファストの兵士たちが見張ることとなった。翌朝には近くの町の警備兵が引き取ってくれるという。ミスミドの兵士たちはこれ以上の襲撃がないよう、外敵の警備に専念することに。

 

「……なんか、すごいシュールな光景ですね」

 

「まぁ全身痺れてるとは言っても何かあっても困るしね、しょうがないね」

 

 首だけ地面から生えているような姿になった夜盗たちを見て木村が何とも言えない表情になる。自分で埋めといて何だが、全員痺れて動けない上にここまでする必要があるのかと思ったりもしたが、野獣の言うように万が一のことを考えるとこれが最善ではある。

 

「皆さん、ご苦労様です」

 

 一息つく野獣たちに歩み寄ってきたのは、全身鎧を身に纏った金髪の青年。ベルファストの兵士隊長で、リオン・ブリッツと名乗っていた青年だ。

 

「おぉ、リオンさんも疲れたろ?」

 

「いえ、自分は平気です。皆さんのお陰で大事に至ることなく、不届き者を捕えることができました」

 

「俺ら何もしてないゾ。お礼なら冬夜くんに言っておいて欲しいゾ~」

 

 相手がリオンと知ると、三浦がいつもののんびりした口調で話す。リオンもまた、三浦に対してどこか親し気だった。

 

 というのも、二人はこれが初対面ではない。以前王宮へ訪れた際、レオン将軍と共に戦闘訓練を行った三浦だったが、その時にすでに顔合わせは済んでいる。互いに汗を流し、切磋琢磨した仲だ。しかも彼は、レオン将軍の息子ときた。レオン将軍のお墨付きである三浦と打ち解けるのも時間はかからなかった。

 

「お疲れ様です、皆さん。リオン殿もご苦労様です」

 

 リオンに続き、オリガもまた歩み寄ってくる。手に盆を持ち、その上にはコップがいくつも乗せられていた。

 

「これはオリガさん! いえ、これも任務ですのでお気になさらず!」

 

 オリガの姿を見るやいなや、先ほどの冷静な態度から一転。リオンの顔は赤に染まる。声もどこか上ずっており、緊張しているのが見て取れた。それが愉快に映ったのか、オリガはクスクス笑った。

 

「なら、その任務を頑張った労いを込めてどうぞ。果汁入りの水です。皆さんも」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます」

 

「お~冷えてるかぁ?」

 

「大丈夫ッスよ、バッチェ冷えてますよ!」

 

 リオンに続き、木村と三浦、野獣もコップを手に取る。そして各々、冷たくて仄かに甘い液体を喉に流し込んでいった。

 

 その間、リオンとオリガは語り合う。相変わらず赤面したままたどたどしく話すリオンと、そんな彼を見つめながら小さく笑うオリガ。

 

「あ、ふーん(察し)……三浦先輩、ちょっとこっちへ来いホイ!」

 

「ん?」

 

 その構図を見て察した野獣と木村は、三浦を連れ立ってその場を離れる。後に残ったのは、どこか微笑ましく初々しい二人だけの空間。そこから少し離れた場所で、野獣たちは遠くから二人を眺めた。

 

「いや~……こういうのって青春って言うんですかね?」

 

「いいねぇ! 恋、青春、LOVE! 恋、青春、LOVE! って感じで」

 

 ほっこりする木村と野獣。そして、

 

「青春だね」

 

「青春ねぇ」

 

「青春、です」

 

「青春でござるなぁ」

 

「青春ですわね」

 

「ポッチャ(青春)」

 

 いつの間にか冬夜たち含めた一行も二人を見て和んでいた。

 

「……見た感じ、オリガ殿はリオン殿の気持ちに気付いているんでござろうか?」

 

「気付いてると思うわよ? どっかの誰かさんと違って、ね?」

 

 八重の疑問に、エルゼがジロっと『どっかの誰かさん』を見やった。

 

「……え? 何?」

 

 キョトンとする『どっかの誰かさん』もとい冬夜。何故睨まれているのか理解できないという風に。

 

「……ニブいのもそうですけど、冬夜さんは誰にでも優しくしすぎ、です」

 

「あ~、それ何となくわかる気がするでござるなぁ……ニブすぎるのはやっぱり問題でござるよ」

 

 リンゼが追い打ちをかける横で、八重は横目で隣に立つ三浦を見やる。

 

「ん? 八重ちゃんどうしたゾ?」

 

「……いえ、何でも」

 

 視線に気付き、冬夜みたく疑問符を浮かべる三浦に対し、八重はフイっと顔を背けた。

 

「……あ、わかったゾ」

 

「っ……!」

 

 が、納得したとばかりに掌を叩いた三浦に、一瞬八重は期待し、

 

「八重ちゃん、この水もっと欲しいのかゾ? 美味いからスゲ~わかるゾ~! 後でオリガさんにおかわりもらってきてやるゾ~これ!」

 

「………………こりゃ冬夜殿以上に問題があるでござる」

 

 見当違いな上に察しが悪すぎる三浦に、八重はガクリと項垂れてしまった。

 

「ええ。確かに朴念仁というものは考え物ですよね、木村さん?」

 

「なんで僕に振る必要なんかあるんですか(素朴な疑問)」

 

 木村を見てニッコリ笑うユミナ。木村はその意図がわかっているため、視線を外す。

 

「はぁ~、やっぱいいよなぁ恋って……俺も遠野と……はぁ~」

 

『……あの気持ち悪い顔してるの、噛み殺してもいいか?』

 

「ポチャ!(暴れんなよ……暴れんなよ……)」

 

 そして野獣は両頬に手を当ててうっとりし、それを見て殺意を覚えた琥珀が再び牙を剥こうとしているのをポッチャマがなだめていた。

 

 やがて冬夜はエルゼに「そこに正座!」と言われ訳も分からず説教を受ける羽目になり、これは長引きそうだと判断した一行は冬夜を放置。エルゼとリンゼの説教をBGMに、用意された野営用のテントに撤収していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 その晩、野営用というには意外と居心地のいいテント内の寝床に横になりながら、野獣は布製の天井を見上げていた。すでに明かりはなく暗闇が広がるテント内。聞こえて来るのは虫が奏でる音色か、夜通し交代しながら見張りを続ける兵士たちの足音と話し声。共に寝ている木村と三浦、説教から解放された冬夜も夢の中だ。

 

(……スマホ、かぁ)

 

 そして野獣は、夜盗による襲撃騒ぎの際に見せた冬夜のスマホについて考えていた。魔法とスマホを組み合わせた力で夜盗を撃退して見せた冬夜。ああいったスマホの使い道があるのかと、まさに目から鱗だった。

 

 野獣のスマホも、ああいった使い方ができるのでは……とも思ったが、あれは冬夜自身がスマホに魔法をかけたからできたのであって、魔法に関しては野獣はさっぱりだ。魔力はあれど才能はない。そういうのは木村の専門だ。木村に冬夜のようにスマホに魔法を付与させることはできないか聞いてみてもいいが、木村曰くエンチャントの魔法はひどく魔力を使うということらしい。故に頼むのも憚られる。

 

(あ、そういや前に神様に何か言われてたな~)

 

 と、ふと野獣は以前GOに言われたことを思い出す。

 

 

 

『君の中に眠る力は、探せば見つけられるから』

 

 

 

(……いややっぱ意味わかんねっス)

 

 スマホの活用方法について話していたのに、どうしてそこで野獣の中に眠る力に繋がるのか、今でもさっぱりわからなかった。

 

 ただ、探せば見つかる、という言葉にヒントがあるのは何となくだがわかる。スマホで探す、と来れば一つしかない。

 

(検索エンジンか?)

 

 おもむろに枕元に置いてあったスマホを起動、インターネットに接続。検索欄をタップする。が、当然と言えば当然だが、何を打ち込めばいいのかさっぱりわからなかった。

 

 試しに『眠る力 探す』と打ち込んでみたが、安眠するための方法やら安眠グッズの通販サイトが出てきた。デカい枕は興味をそそられたが、結局収穫は得られず。

 

「……あ~つまんね」

 

 ヒントがヒントになっていないではないかと、GOに対して内心毒づく野獣。もういいやと諦め、スマホの電源を落とそうとした。

 

「……あ、そうだ。最近あれ見てなかったな~」

 

 と、そこで思い直し、野獣は文字を打ち込んでいく。検索欄に『ソフトボール 下北沢ファイターズ』と入力し、検索をかけた。

 

「寝る前に試合でも見よっと。下北沢ファイターズの多々野のピッチングはいつ見ても惚れ惚れすんだよな~」

 

 野獣自身はやってはいないが、ソフトボールチームの一ファンとして、前の世界ではスマホの動画でよく試合を見ていた。以前木村に『何で野球じゃなくてソフトボールなんですか?』と聞かれたら『遠野が好きだから俺も興味本位で見てみたらハマっちゃってさ~』と返したことがある。

 

 この世界に来てから数回しか見てなかったため、ワクワクしながら音量を小さくして試合の動画を再生させた。動画内では野獣のお気に入り投手が、目にもとまらぬ速さで腕を一回転、高速でボールを飛ばしていた。

 

「いやぁ多々野のピッチングは相変わらずスゲーなぁ。やっぱあのピッチング好きなんスねぇ」

 

 うんうんと頷きながら動画視聴を続ける野獣。しばらくし、試合は佳境へ。点差は僅か。野獣は試合から目を離すことができず、鼻息を荒くしながらスマホの画面に見入っていた。

 

「ここで三振させれば、こっちの勝利……! 行けよ、絶対行けよ多々野……!」

 

 お気に入り投手の活躍を期待し、野獣は熱を込めて言う。自分の声のボリュームが先ほどよりも大きくなっていることに、野獣は気付かない。

 

 投手が腕を振るう。キレのいいピッチングは変わらず、さながら旋毛風を巻き起こさんとするような速さ。そこから繰り出されるボールを捉えることは、もはや叶わず。

 

 バッターはボールを打つことすらできず、キャッチャーの手の中へ。結果は……。

 

「い……!」

 

 ストライク。バッターアウト……ゲームセットだ。

 

「いよっしゃあああああああああああああ!! FOO!! 気持ち~!!」

 

 推しのチームの優勝に飛び上がり、思わず大歓声を上げる野獣。テント内に轟く野獣の勝利の雄叫び。そして、

 

「スロー!!」

 

「ンアッーーーーーーーー!!」

 

 眠りを妨げられたことで木村の怒りを買い、テントを突き破って夜空へ向けて野獣は飛んでいく。仮眠中にウトウトしていた兵士及び暗い森の中で眠る獣たちは、空から響く奇声を耳にして飛び起きたとか起きなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅立って六日目。夜盗による襲撃はあれから無く、順調に馬車を進め、そしてようやくベルファスト王国最南端にして、ミスミドにとってベルファストの玄関口でもある町カナンに到着した。そしてガウの大河を境界線に、対岸にはミスミド王国の町ラングレーが見える。

 

「広い河だな~。これもう海じゃね?」

 

 ガウの大河が一望できる場所に立った野獣が、手を翳しながら河を見渡しながら言う。

 

 野獣の言う通り、河というよりも海と言った方がしっくりくる程に広いガウの大河の港にも見える河岸では、簡素なつくりの帆船が幾つも浮かんでいた。その中でも上等な作りに見える帆船が、野獣たちが乗り込む物だ。ここで馬車を下り、向こう岸で予め用意されている同じ馬車へ乗り換えるという形で進むこととなる。

 

「船の手続きをしてきます。皆さん、その間は自由にお過ごしくださいませ」

 

「ん、おかのした」

 

 オリガに言われ、一行はひとまずの自由行動を許された。諸々の準備はオリガが、一旦王の護衛を兵士たちに任せ、野獣たちは町の市場へ繰り出す。露店が多く立ち並ぶここでも王都同様、人間や亜人が共存して生活を営んでおり、威勢のいい客引きをする露天商や雑談を楽しむ人々で賑わいを見せている。

 

 道中、エルゼとリンゼが興味のある店を見つけ、冬夜もそれについて行く形となり、一旦別行動ということとなって別れた。

 

「お~、この細工物スゲ~綺麗だゾ~!」

 

「ポッチャ!(干し魚美味そうすぎて草)」

 

「こっちは絹織物……色んな物がありますね」

 

「ここはベルファストとミスミドの境目ですから、お互いの国の品が多く売られているみたいです」

 

「いいねぇ! 買いたい物多すぎて笑っちゃうんスよねぇ!(欲張り)」

 

「まだ先は長いゆえ、買いすぎには注意するでござるよ野獣殿」

 

 露店を見て周りながらはしゃぐ野獣たち。アルマも一緒に来ており、互いの国特有の品々に目移りしていた。が、ある光景を目にして「あ」と呟く。

 

「ん? どうしたゾアルマちゃん?」

 

「あの、あそこにいるのって……」

 

 三浦に問われたアルマの視線の先。そこでは鎧を身に纏った一人の青年が、ある露店の前に立ち、真剣な面持ちで顎に手を添えて何かを考え込んでいる仕草をしていた。

 

 遠くから見てもわかる、その青年はベルファストの兵士、リオンだった。

 

「おぉ、リオンさんも買い物かゾ~?」

 

 三浦もリオンに気付き、声をかける。リオンはハッと顔を上げ、一行の姿に気付いた。

 

「こ、これは皆さん! い、いえ、その、えっと……母上! そう、母上に何かお土産をと思いまして!」

 

「「……?」」

 

 何故か顔を赤らめて慌てふためくリオンの姿を怪訝な顔で見つめる一行。母親へのお土産、と聞けば別に気にするような話ではないが、彼の態度がそれは嘘であることを暗に物語っていた。

 

 一行はリオンが品定めしていた商品を見る。女性物のアクセサリーを専門に取り扱う店のようで、髪飾りにブローチやネックレスといった品々が、色鮮やかな光を放ちながら鎮座されている。

 

「へぇ、どれも綺麗な奴じゃん」

 

「ええ。なので目移りしてしまいまして……」

 

 野獣が感心する横で、リオンが再び思案顔となった。

 

「……」

 

「ん?」

 

 八重の視線が一点、ある商品に注目していることに三浦は気付く。視線を追うと、八重は銀色のチェーンに通された三日月の形をしたペンダントをじっと見ていた。シンプルな造形ながら見事な曲線を描いており、それが美しさを際立たせている。もう一度八重の顔を見てみると、どこかポーっとしており、見惚れているかのよう。

 

 そしてその隣。こちらは金のチェーンに繋がれた太陽のような形のペンダントが置かれている。こちらもまた職人の腕の高さを物語っている美しさで、まるで対となっているかのような、おあつらえ向きのペンダントだった。

 

 その時、ピコーンと頭に電球が光った三浦。

 

「八重ちゃん」

 

「……へ!? あ、な、何でござろうか三浦殿?」

 

 三浦に名を呼ばれたものの、集中してみていたせいで、ワンテンポ遅れて返事をした八重。それを気にすることなく、三浦はいつもの笑顔を見せる。

 

「八重ちゃん、何か欲しい物あるかゾ? 俺がプレゼントするゾ~それ!」

 

「え」

 

 唐突にそんなことを言われ、八重は思考が停止する。それも一瞬で、すぐに慌てて手を振った。

 

「い、いえいえそんな!? 拙者は」

 

「施しは受け取れない、だったかゾ?」

 

 三浦に遮られ、先を言われてしまい、八重は思わず口を噤んでしまう。

 

「これは施しじゃないゾ。いっつもお世話になっている人にプレゼントを贈るのは全然おかしくなんかないゾ~!」

 

「それは……いや、しかし拙者とて同じことで、三浦殿にはいつも迷惑を……」

 

「迷惑だなんて思ったことなんか一度もないゾ? 八重ちゃんには仕事だけじゃなくて普段でも助けられてばっかりだからなぁ。前々から何かお礼したいなって思ってたんだゾ~」

 

「う……け、けど……」

 

 面と向かって言われ、八重は頬を赤らめながらもじもじする。本音を言うと、三浦からそう言われてすごく嬉しく思う。しかし反面、どうしても遠慮してしまう自分が出てきてしまう。それを歯痒く感じ、はっきり礼を言うことができない。

 

 というより、普段察しが悪いのにどうしてこういう時はやたら勘が鋭いのか、これがわからない。確信犯ならば文句でも言いたいところだが、そうではないからより性質が悪い。八重は内心、理不尽だとわかっていても憤りを覚えていた。

 

「受け取っとけって八重。こうなると三浦先輩、結構頑固だぜ?」

 

「そうですよ。それにそのお礼はまた返したらいいじゃないですか」

 

「殿方からのプレゼント……素敵ですね」

 

「ポッチャ(嬉しいだルルォ?)」

 

 その横で、野獣たちが素直に受け取るよう促す。野獣たちとて八重の遠慮する気持ちも理解できるが、人からの厚意を受け取ることは悪いことではないという考えの方が強い。

 

「……わ、わかったでござる。ありがたく受け取りまする」

 

 背中を押され、断ることもできず、八重は素直に受け取ることにした。口調が若干おかしくなったが、それすら気にする余裕はなく。

 

「いいゾ~これ! おじさん、買うゾ~!」

 

「毎度!」

 

 言って、三浦は金銭を店主に渡す。そして八重が選ぶ間も無く、月と太陽のペンダントを手に取った。

 

「あ……」

 

「八重ちゃん、さっきこれのことチラチラ見てただろ」

 

 僅かに目を見開く八重に、三浦は購入した月のペンダントを差し出す。おずおずとそれを受け取った八重は、ペンダントを眼前に翳した。チェーンに揺れて煌めく銀色の月は、夜空で太陽の光を反射して光る本物の月のように見える。

 

「き、気付いてたのでござるか……」

 

「当たり前だよなぁ? それスゲー綺麗だから見惚れちゃうのわかるゾ~!」

 

 そこまでわかりやすかったのかと、八重は恥ずかしさから赤面した。

 

「それからほら、見ろよ見ろよ、ほら」

 

 と、そんな八重に三浦が手にもっている物を見せる。それは月のペンダントの横にあった、金色の太陽のペンダント。これもまた日の光で輝き、まさに太陽そのものといった風だった。

 

「俺はこっち買うゾ。月と太陽でワンセットだゾ~! かっちょいいゾ~これ!」

 

「っ――――」

 

 三浦が嬉しそうに言う。その様子から見るに、三浦は意図はしていないのだろう。しかし、八重は月と太陽という組み合わせがどういうものかを瞬時に理解し、一気に顔が紅潮。まるで頭から湯気が出るのではないかと言うほどに熱を放った。

 

「……か、かたじけない……大切にするで、ござる……」

 

「どういたしまして、だゾ!」

 

 それでも何とか礼を言う。後半は尻すぼみになっていったが、ちゃんと聞こえた三浦は嬉しそうにそう返した。

 

「なんだ八重嬉しそうじゃねぇかよ~?」

 

「野獣先輩、茶化さないであげましょうよ……」

 

「ポッチャ(若いってなぁええもんやな)」

 

「なんだか素敵です……」

 

「さ、流石三浦殿……ああすれば私も……」

 

 その光景を見ていた野獣たちは、リオンとオリガに負けないくらいの青春を繰り広げている三浦と八重に和んでいた。尚、件のリオンは感心しながら何かを呟いている。

 

 じーーーーっ。

 

 じーーーーーっ。

 

 じーーーーーーーーっ。

 

「…………」

 

「……え、えっと……」

 

 ついでに木村は横からすごいまでに視線を受けていることに気付かない振りをしようと努めた。以前、王宮でも似たようなことがあった気がする。気のせい……ではない。

 

「……あ、そ、そうだ。ユミナさんも何か欲しい物あります? 普段お世話になってますし、僕からもプレゼントしますよ!」

 

 気付かない振りも限界がある。冷や汗を流しながら、木村が隣にいるユミナにそう声をかけると、先ほどまで熱のこもった視線を木村に送っていたユミナは、花開いたような笑顔を浮かべた。

 

「まぁ! 本当ですか? 嬉しいです、木村さん!」

 

 心の底から嬉しそうに言うユミナに、木村は「ハ、ハハハ……」と乾いた声で笑うのだった。

 

「アルマお前さぁ、お前も何か買って欲しいか~? 思い出作りに俺が買ってやんよ(太っ腹)」

 

「いいの!?」

 

 そして野獣もまたアルマにアクセサリーを買ってあげることにし、喜ぶアルマは商品のうちの一つ、ぶどうの形をした可愛らしいブローチを手に取った。

 

「いいねぇ! 可愛いじゃん。やっぱり女の子はこういった小物一つで可愛らしさがすっげぇ上がるって、はっきりわかんだね(女子力審査)」

 

「えへへ、ありがとうございます!」

 

 アルマのアクセサリー代を店主に渡す野獣。と、ここで野獣はピンとくる。リオンがここにいる理由、そして贈る相手は母親ではないのであるのならば……そう考えた野獣は、アルマに質問を投げかけた。

 

「あ、そうだ。オリガさんもこんな形のアクセサリーやっぱ好きなんスかねぇ?」

 

「お姉ちゃんですか? お姉ちゃんはどちらかと言うと花とかの意匠の方が好きですね。特にこのエリウスの花みたいな形の髪飾りとか。こういうのをお姉ちゃん、よく買ってきます」

 

「はぇ~、確かに可愛らしいなぁこれもなぁ」

 

 アルマが指さしたのは、日本でいうところの桜の花のような形をした髪飾り。シンプルだが、それがまた可愛らしさを引き立てている。

 

 それを聞いていたリオンは、悩んでいた顔から一転、喜びで満ち溢れた。『計画通り……!』とばかりに野獣は一瞬、鋭い眼光でリオンを見た後、一行に声をかける。

 

「じゃ、皆そろそろ行きませんかぁ? 冬夜たちも多分待ってることだろうし」

 

「お、そうだな」

 

「リオンさん、僕たちは先に戻りますね」

 

「あ、はい! 私もすぐに戻りますので!」

 

 踵を返し、露店を後にする野獣たち。野獣がチラと後ろを見ると、リオンが件の花の髪飾りを購入し、包んでもらっているところだった。

 

「なるほど……野獣さん、お見事ですね」

 

 野獣が何故あそこでアルマにオリガの好みを聞いたのか理解したユミナは、野獣を賞賛する。

 

「まぁな~。つっても、三浦先輩のおかげで思いついたんだけどな~」

 

「ん? 何のことかゾ?」

 

「いやいや、わからなかったら別に気にしなくてもいいっスよ」

 

「あ、そっかぁ」

 

 三浦的には純粋に八重が欲しがっているのを察し、プレゼントとして贈りたいと思っていたのだが、それを利用する形でリオンの背中を押すことを思いついただけのこと。無論、リオンが髪飾りを贈る相手は決まっている。

 

 そして当の八重はというと、三浦から贈られた月のペンダントを童女のような眼で見つめていた。傍から見ても喜んでいるのがわかる。

 

「木村さんもありがとうございます。何だか催促しちゃいましたね。ごめんなさい」

 

「いや、そんなこと……喜んでくれたのならそれでいいですよ」

 

 ユミナもまた、木村から贈られた品を嬉しそうに胸に抱えながら礼を言った。木村から受け取ったのは、卵型の翠色の石が金色の装飾に嵌め込まれたシンプルなブローチ。ユミナの片目とほぼ同色のそれが、ユミナに似合うと思って選ばれた物だった。

 

「けど、欲を言えば八重さんのようにペアが欲しかったかなぁ……なんて」

 

「う……す、すいません」

 

「フフ、冗談です。木村さんの気持ちがこもっているこれで十分ですから」

 

 小悪魔的に笑うユミナ。年下なのに敵わないなぁと思いつつ、木村は目を逸らして頬を掻いた。

 

「けど三浦先輩も意外だったけど、木村も物選ぶの上手いじゃん」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「なんだよお前、物贈ったことあんのかよ誰かによ?(憶測)」

 

「……木村さん?」

 

「いや無いですよ!? あったとしても親くらいです! ユミナさんも真に受けないでください目がちょっと怖いです!」

 

「ポッチャ(干し魚買って欲しい)」

 

 そんなことを言い合いながら、一行は船着き場へ続く道を進んでいく。途中で冬夜たちと合流を果たし、全員揃って準備を終えた船へと乗り込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 船にはそれぞれ風魔法の使い手が乗り込んでおり、帆に風を吹き付けて進む。それにより片道二時間で対岸へ渡ることが可能なのだとか。

 

 ……まぁ、途中で帆に大きな穴が空いているというトラブルが発生したわけなのだが。おかげで風魔法による前進ができず、仕方なく男性陣フル動員によるオール漕ぎへと変更、皆の苦労の甲斐あって、ようやく対岸へと渡ることに成功した。

 

「す、すいません、冬夜さん……」

 

「いいよいいよ。気にしないで」

 

 船から桟橋に降りた一行。リンゼは途中で船酔いしてしまい、冬夜に背負われていた。リンゼは謝りつつも、冬夜に背負われているという事実に顔を赤くしたり、酔いで気分が優れないために顔を青くしたりと忙しい。

 

「アァァァァ……ハァ、ハァ、アァァァァァ……(船酔い)」

 

「大丈夫ですか、野獣さん?」

 

「や、野獣殿の顔色が青になったり緑になったりしてるでござるよ……」

 

「気分が悪いのに無茶するからですよ先輩」

 

「そうだよ」

 

「ポチャ」

 

 一方、野獣もグロッキー状態で木村が肩を貸す形で一行に気遣われながら下船していた。リンゼ同様、野獣も船酔いしてしまったものの、皆が休めと言う中にも関わらず全力でオールを漕ぎまくっていた。野獣曰く『早く岸に上がりたぁぁぁぁぁい!!(船酔い人間)』というどこぞの妖怪人間が人間になりたいと言うようなフレーズを叫びながら気合入れるもんだから、船酔いが悪化した。しかし野獣のその我が身を犠牲にするオール漕ぎのおかげで、風魔法を使用した時並の速度を生み出すことができ、結果いつも通り二時間で到着することができたのだから、ある意味結果オーライである。

 

「もう、リンゼったら船の中でも本なんか読んでるからよ?」

 

「野獣もスマホでゲームなんてしてるからだゾ」

 

「うぅ、ごめんなさい……」

 

「アー逝キソ逝キソアッアッアッ……」

 

 エルゼと三浦が船酔いする理由を指摘して叱りつける。片方は冬夜の背の上で申し訳なさから顔を上げれず、片方は話すら聞いていない、もとい聞けていない。そうしてしばらく歩みを進めて行くと、カナンに置いて来た馬車と同じ型の物が鎮座していた。その馬車のうちの一つの傍で、国王は護衛の兵士と何かを話しているところだった。

 

「う~ん、出来ればすぐにでも出発と行きたいところなのですが……」

 

 そんな二人を見かね、オリガが思案する。国王がいる手前、あまり長居はできないのだが。

 

「あ、大丈夫、です。船から下りたら、大分楽になりました」

 

 しかし、リンゼは健気にもそう言って冬夜の背から下りる。顔色も大分落ち着いており、嘘ではないだろう。そんなリンゼに、エルゼがニヤつきながらスススッと近寄ってきて耳元で囁く。

 

「もっと冬夜の背中にいてもよかったのよ、リンゼ?」

 

「ちょ!? お、お姉ちゃんは何を言っているのかな!? かな!?(竜宮RN)」

 

 先ほどの真っ青な顔から一転、顔を赤に染めつつ手をブンブンと振るって反論するリンゼ。大抵の人はここで青春を感じるのだが、

 

「あ、ごめん。ずっと男におんぶされると恥ずかしいよね」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「い、いえ、そういうわけじゃ……」

 

「……はぁ」

 

 朴念仁冬夜と三浦にはそれは伝わらず。少し気落ちしているようにも見えるリンゼと、呆れてため息をつくエルゼ。

 

「このバカどもが……そんなこともわかんねぇのか(呆れ)」

 

「そうですよ」

 

「そうでござるよ」

 

「ポッチャ(そうだよ)」

 

「え、なんで!?」

 

「ポッチャマ……」

 

 そして朴念仁二人に対して呆れを含んだ罵倒をする木村と、それに便乗するユミナと八重、あとついでにポッチャマにジト目で見られ、二人は訳もわからずショックを受けるのであった。特に三浦に至ってはカナンの町での一件もあったというのにといった気持ちもあるため、上がっていた評価がまた下がってしまった。妥当である。

 

「えっと、それで野獣殿は……」

 

 ともあれ、リンゼは大丈夫だと判断したオリガは、野獣へと声をかける。が、

 

「逝キマスヨー……逝キマスヨー逝ク逝ク……」

 

「すいませんこっちは大丈夫じゃないみたいです……ご迷惑おかけしてすみません。ちょっと休めば大丈夫だと思いますから」

 

 野獣はリンゼよりもひどかったらしく、日陰に座り込んでしまい、木村がオリガに向かって頭を下げた。苦笑するオリガだったが、気にしなくともよいという意図を込めて手を振った。

 

「ええ、まぁ、大丈夫ですよ。出発までまだ一時間もありますし……その間に少し休んでいてください。後、ここから先は大きい町もありませんし、買い物は今のうちに。私は獣王陛下に手紙を出しに行きます」

 

「わかりました。じゃあ僕は足りない物の買い物に行ってきます」

 

「じゃあ、私も木村さんと一緒に行きます」

 

 ついでに野獣の薬も買ってきてやろうと思いつつ、木村は立ち上がった。ユミナもそれについて行くことに。

 

「僕が野獣さんを見ておくよ。何故か船酔いにリカバリーは効かなかったけど、それでも何かあった時は対処できるから」

 

「私もここにいるわ。まだリンゼが心配だし、ついでに野獣も見といたげる」

 

「ごめんね、お姉ちゃん……」

 

「二人とも、ありがとうございます」

 

「すまんゾ。じゃあ俺らも何か買いに行くゾ~!」

 

「拙者もお供するでござる」

 

「ポッチャ!」

 

 いまだ意識が混濁している様子の野獣を冬夜たちに預け、木村たちは町へと向かう。背後から野獣の「出、出ますよ……」という声の後に冬夜の悲鳴っぽい声が聞こえたような気がしたが、多分気のせいだろう。

 

 町を歩きながら、一行は町並みを眺める。ここはすでにミスミドの領内。しかし建物の造りはベルファストの町カナンと変わらない。人々も人間と亜人、両種族が共存している点も変わらない。しいて違う点を挙げるとすれば、ミスミド領内ということもあってか、亜人の方の比率が多いといった点か。

 

「思ったよりも大きな町ですね」

 

「多分、ここはまだベルファスト寄りだからかもしれませんね」

 

 木村にそう答えるユミナ。と、先頭を歩く三浦が突然立ち止まった。

 

「わ。どうしたでござるか三浦殿?」

 

「ポッチャ?」

 

 ぶつかりかけた八重が声をかける。彼の肩に乗るポッチャマも首を傾げていた。

 

「……今、何か視線感じたゾ」

 

「え? 視線?」

 

 キョロキョロする三浦。木村たちも見回すも、辺りは普通に買い物に勤しんだり商売をしていたりする人々ばかり。怪しいと思える人物は見当たらなかった。

 

「……特におかしいことは何もありませんけど……」

 

「気のせいじゃないですか?」

 

「ん~……」

 

 ユミナと木村に言われ、顎に手を添える三浦。しばし思考を巡らせていたかと思うと、すぐにいつものお気楽な顔になる。

 

「ま、いっかぁ!」

 

「いっかぁの一言で済ませるのでござるか……」

 

 結局、三浦の気のせいということとなり、一行は歩き始める。そうして、各々食料品といった物を買うために露店へと足を進めて行った。

 

 

 

 

 

 物陰へと姿を消していった者の姿に気付かないまま。

 




ほぼMTDK兄貴が通った道を空手部の面々が通るという展開。MTDK兄貴がハーレム形成していくのを見るのは多分割と好きかもしれないと思いました(小並感)

そろそろオリジナル展開が欲しいところなんスよねぇ……もう気が狂う!(バトル淫夢欠乏症候群)

あ、そうだ(唐突)

皆様、よいお年を。

今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?

  • スマホ太郎(アニメ主人公)
  • 望月冬夜(原作主人公)
  • 野獣先輩
  • 三浦
  • 木村
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