当小説の『4.迫真空手部、演武をしてから今後の方針を決める』にある無属性魔法『サウンドアップ』を『スピーカー』に変更しました。原作にスピーカーって魔法ありました。読み込み足りませんでした。許してください、なんでもしますから!(テンプレ)
以上です。それでは、本編をご覧ください(KBTIT)
村に辿り着いた一行が目にした光景は、一言でいえば地獄絵図であった。
建物は倒壊し、火の手があちらこちらから上がっている。逃げ惑う人々、鳴り止まぬ悲鳴、子供の泣き声。老若男女関係なく、等しく炎は命を奪わんと襲い掛かる。
その炎を生み出すのは、上空で背中の大きな翼を羽ばたかせて滞空する竜。闇夜に溶ける黒い鱗で覆われた強靭な身体、鞭のようにしなる長い尾、死神の鎌の如く冷たく光る爪、そして血のような赤い瞳で下界を睥睨するその姿は、まさに空の王者。竜は己より小さく弱い命が逃げ惑う光景を嘲笑いながら、鋭い牙が生え揃った大口を開け、火炎弾を飛ばす。また一つ、村の建物が破壊されて瓦礫と化し、崩れ落ちていった。
「村人を救助するぞ! 動けない者を運び出すんだ!」
「我々も行くぞ!」
ミスミド兵率いるミスミド、ベルファスト混合隊が、燃え盛る炎を物ともせずに住人救助に走り出す。竜はそれを見咎め、兵士たちに火炎弾を吐き出さんと口を開いた。
「光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン!!」
が、そうはさせじと竜に飛んでいくは一筋の光。闇夜を切り裂く流星となった槍に気付いた竜は軽く横へ動いただけで回避。そして光の槍を放った存在を睨む。
道の上で竜に向かって手を翳している人間、冬夜とその横で冬夜を守るように控えている琥珀の姿を視界に収めた竜は、口の中にため込んでいた火炎弾を放出、冬夜を狙う。
「くっ! ブースト!!」
冬夜は身体強化魔法を使って琥珀と共に素早くそれを回避。冬夜が立っていた場所に火炎弾が着弾し、爆発、燃え上がる。
「琥珀!」
『御意!』
降り注ぐ火の粉の中、冬夜が琥珀に呼びかけ、その背中に飛び乗った。琥珀は冬夜を背にしながら駆け出し、白虎の強靭な四肢による瞬発力を活かして凄まじいスピードで村の南へと向かっていく。
竜は仕留めるつもりで撃った火炎弾を難なく避けられ、怒りを顕わにする。そうして村人には目もくれず、腹立たしい小物を今度こそ潰さんと、冬夜目掛けて火炎弾を連射していく。琥珀が通った道から爆炎が迸り、小石が飛散する。冬夜の頬を熱風が掠めるも、後ろを振り向かずに前へ前へと進んでいく。
やがて冬夜と琥珀は竜を引き連れながら林の中へ。竜は木々隠れても無駄だとばかりに、構わず火炎弾を吐き出す。木々が燃え、草木が灰となる。琥珀は火炎弾を巧みに避けながらひた走る。
林を抜けると、見晴らしのよい広い牧草地帯へと辿り着いた。遮る物のない、言うなれば隠れるところがない場所。琥珀はここで急ブレーキをかけ、竜へと向き直る。竜は諦めたかと内心ほくそ笑んだ。
竜の意識は冬夜へ向けられている。だからこそ気付かなかった。
「オルルァ!!」
竜目掛けて飛来する岩の存在に。
『グガァッ!?』
身体にぶつかって砕け散る岩。竜の顔と同サイズの岩がぶつかったことによって生まれた凄まじい衝撃と痛みで、たまらず上空でフラつく竜だったが、すぐさま態勢を立て直して、瓦礫が飛んできた先を見やる。
「ナイスヒット!」
「……やはり、あの程度では落とせんか」
「ポッチャ」
頭にポッチャマを乗せたまま地面に拳を叩きつけている体勢で竜を睨む坊主頭の男、三浦(閣下モード)と、そしてその横で大剣を手にガッツポーズをする男、野獣の姿。先ほどの岩を投げつけたのがあの二人であることを知った竜は、怒りの咆哮を上げた。
『ゴガァァァァァァァァッ!!』
空気を震わせる竜の咆哮は、牧草地帯周辺の木々をざわめかせる。地上に立つ野獣たちもまた、その衝撃を前に足を踏ん張り、吹き飛ばされんとする。
『貴様……! 我が主を侮辱するか! たかか空飛ぶ蜥蜴の分際で!!』
そんな中、琥珀が怒りを顕わにし、牙を剥いた。
「琥珀、あいつの言葉がわかるの!?」
冬夜が琥珀の背中から下りながら驚き、琥珀に問う。その疑問に答えるため、琥珀が通訳した。
『「我が享楽を邪魔した小さき虫どもよ、その身体を八つ裂きにして喰らってくれる」と奴は言いました。人の言葉もわからぬ鼻垂れ小僧が! これだから蒼帝の眷属は気に食わんのだ!!』
琥珀の言葉の中にあった蒼帝という名が気にはなったが、それよりも琥珀の言葉が正しければ、村を襲って大勢の人々を傷つけた理由はただの享楽であるという事実に、この場の全員が怒りを覚えた。
ただ、野獣は気になることがあったため、思わず口にする。
「……いや、怒る気持ちもわかるんだけどさぁ。さっきの一吠えの割に内容長い……長すぎない?」
「……ま、まぁ確かに長いけど……」
あの咆哮一つでよくそこまで言えたものだと野獣は思う。それは冬夜も今言うことじゃないのではと思いつつも同意した。
そしてもう一人……否、もう一匹、強い反応を示す者がいた。
「ポッチャァァァァ!!」
「ポッチャマ!?」
三浦の頭の上から飛び降り、竜を見上げるポッチャマ。そのつぶらな瞳を吊り上げ、怒りの表情を顕わにしつつ、両羽を激しく動かす。
「ポチャ! ポチャポチャ! ポッチャチャチャ! ポチャァ! ポチャァポチャァ! ポッチャァァァァァ……ポチャァァァァァァァァァ!!」
「……えっと、琥珀。ポッチャマは何て言ってるの?」
鳴き声を繰り返し、何かを竜に向けて叫んでいるようにも見えるポッチャマの通訳を琥珀に頼む冬夜。琥珀はそれに答えた。
『……「ドラゴンの屑がこの野郎」だそうです』
「短スギィッ!!」
竜とは逆に、鳴き声の長さに反して内容の短さにたまらずズッコける野獣たち。後ついでにポッチャマの口の悪さが露呈した瞬間だった。
ともあれ、ポッチャマの罵倒、もとい挑発が効いたのか、竜が低い唸り声を上げる。怒りの沸点が低いようだ。
「とにかく、あいつを叩き落さないと。いつまでも空中ででかい顔させるわけにはいかない」
言って、冬夜は右手を翳す。そして己の中の魔力を練り上げていき、叫ぶ。
「マルチプル!」
無属性の同時発動魔法マルチプルを発動、そして冬夜の目の前でいくつもの小さな魔法陣が展開される。その数、およそ128個。続け様、冬夜は魔法を唱えた。
「光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン!!」
全ての魔法陣が輝き、中心から光の槍が発射される。魔法陣の数だけ射出された槍は、マシンガンの弾丸のように竜へと飛んでいく。
それらを竜は回避。が、数の暴挙の前で完全回避とまではいかず、数本の槍が鱗に覆われていない腹部に突き刺さる。それでも翼を動かすのを止めず、空中に留まり続ける。
「次こそは! フンッ!!」
だが、竜の相手は冬夜だけではない。三浦が力強い拳で地面を殴りつけると、地面が盛り上がり、爆ぜる。そして衝撃で宙へ浮き上がってきた身の丈以上の大きさの瓦礫目掛け、今度は野獣が大剣を大きく振りかぶり、
「オルルァッ!!」
バッティングが如く、瓦礫を大剣のフルスイングで撃ち出した。それによって瓦礫は砲弾と化し、凄まじいスピードで竜へ飛んでいく。光の槍によるダメージの抜けきらない身体では、いかに空中では俊敏性のある竜とてひとたまりもない。
『ギャオアアアアアアアアアアアアアッ!?』
槍が命中した箇所に瓦礫がぶつけられたことで、激痛を覚えた竜は悲鳴に似た咆哮を上げる。今度は翼を動かす余裕はなく、地面へと落下。衝撃で地面が揺れる。
地面へ落ちはしたが、それでも翼はまだ無傷だ。竜は痛みを堪え、どうにか再び空へ舞い上がらんと翼を動かす……が、それすらも不可能となる。何故ならば、
「今だ! リンゼ!!」
「水よ来たれ、清冽なる刀刃、アクアカッター!!」
冬夜の合図と共に林の木々の間から飛来してきた圧縮された水の刃により、右側の翼が真ん中から両断されてしまったからだ。再び激痛が竜を襲う。
翼は両方無ければ機能しない。片側の翼はもう完全に使い物にならない以上、もう空を飛ぶことは不可能だ。人間にしてやられているという事実を前に、竜は忌々しさを込めて前方にいるであろう人間たちを睨もうとした。
「やぁぁぁっ!!」
「ブーストォォォッ!!」
が、それすらもさせてはくれない。再び林から飛び出したるは、刀を上段に構えた八重、そしてガントレットを構えたエルゼ。八重の刀の刃は竜の赤い右目を切り裂き、エルゼの拳は竜の横っ腹に命中、凄まじい衝撃で空気が震えた。
『ガギャアァァァァァァァッ!!』
右目を切り裂かれたことで、視界が狭まる。横っ腹のダメージもバカにできない。
「いったぁっ!? めちゃくちゃ硬いわよ、あの身体!」
「しかし、効いてはいるでござる!」
「はい! このまま押し切れば、きっと……!」
痺れる手を振るエルゼの横で、八重が刀を正眼に構える。その横で、遅れて林から出てきたリンゼも並んだ。
これは全て冬夜が建てた作戦だった。冬夜と琥珀が竜の注意を引いて村から竜を引き離し、そして村から十分離れ、人気のない開けたこの場所まで誘導する。そこで待機していた野獣と三浦と共に竜を地面へ叩き落とした後は、再び空を飛ばないようリンゼが魔法で翼を切り裂き、八重とエルゼが奇襲をかける……結果は見事成功。竜を地面へ引きずり降ろしてやった。
ここまでされて、竜が怒り狂わない筈もない。憤怒の咆哮を上げながら、竜は口から火炎弾ではなく、火炎放射のような炎を噴射、八重たちを狙う。
「やばっ!?」
退避しようとする八重たち。だがその前に、三人と竜の間に三浦が立ち塞がる。
「やれ、ポッチャマ!」
「ポッチャァァァァァァァァ!!」
三浦の肩の上に立つポッチャマが、その小さな嘴からは想像もできない程の高圧水流を吐き出す。それはさながら、消防士が火消しのために使うホースから噴射される水が如し。そんな凄まじい水と迫り来る炎がぶつかり合い、水は蒸発して水蒸気と変化し、竜の炎は完全に消滅。水は勢いを消すことなく、竜の顔面にぶつかり、凄まじい水圧によって竜は仰け反った。
「今だ野獣!!」
「おかのした!!」
三浦の号令の下、立ち込める水蒸気を突っ切って我先にと飛び出したのは野獣。得物の大剣を大きく振りかぶり、竜の首目掛けて分厚い刃を叩きつける。ガァンッ! と金属同士が激しくぶつかり合う時のような音が響き、竜の鱗が一部剥がれ、肉を穿つ。が、野獣は舌打ちをする。
「硬スギィッ!!」
『ガァァァッ!!』
予想以上の硬さだったが、深追いはせずに野獣は飛び退く。瞬間、野獣が立っていた場所を竜の牙が襲う。後一歩遅ければ、野獣の身体はギロチン刑が如く両断されていただろう。
「ハァッ!」
冬夜も負けじと、野獣に気を取られている竜目掛けて刀を振り下ろす。野獣が首ならば冬夜は頭を狙った。その一刀は、冬夜が自らにかけた無属性の強化魔法ブーストが込められた一撃。並の魔物ならばゼリーのように両断されるであろう刃が竜に迫る。が、
―――パキィン
「しまった!?」
呆気なく、冬夜の刀は半ばで折れてしまう。冬夜は己の迂闊さを呪う。八重のように目といった柔らかい部位を狙わなかったばかりか、野獣の大剣のように質量で押しつぶす戦闘スタイルは自身の細身の刀では不向きであることを失念していた。刀が折れたことで動揺した冬夜を狙い、竜が口を開ける。口腔内が赤く染まり、凄まじい熱量が溜め込まれていく。その熱が今、冬夜へ放たれんとした。
「オルルァ!!」
が、三浦が空中で身を捻りながら遠心力と重力を乗せた蹴り、所謂胴回し回転蹴りをまだ無傷だった左目に叩き込んだことで阻止される。ウォーハンマーを凌ぐ威力を伴った蹴りにより、左目は潰れ、竜の視界は完全にゼロとなる。凄まじい痛みが竜を襲い、冬夜を狙った炎弾は明後日の方へ飛んでいった。
『グガァァァァァァァァッ!?』
「これが基本の……」
痛みの咆哮を上げる竜に、三浦が容赦なく追い打ちをかけるべく右拳を引き、狙いを野獣が切りつけた傷へ定め、そして、
「正拳突きだッッッ!!」
ズドンッ!! 拳から発せられた音とは思えない重々しい音が、空気を震わせる。数十トンはある筈の竜の身体が浮き、三浦たちから離れた地面を砕いて倒れ伏した。
「……確かに鱗は強靭ではあるが、以前戦った水晶の魔物のように再生しない分、まだやりやすいな」
手を振るい、廃墟で戦ったコオロギの外殻の硬度を思い出しながら呟く三浦。空を飛んでいる間は厄介な相手だとは思ってはいたが、翼が無い今、もはや相手は地を這う蜥蜴に過ぎない。俊敏性もあのコオロギ程もない、今の三浦たちにとっては敵ではなかった。
だがそれでも鱗が堅い分、倒すには時間がかかる。村の住民は兵士たちに任せてはいるものの、村が炎に包まれている今、一人でも手助けがいる筈だ。一刻も早く村へ戻りたいところだが……。
「みんな、時間を稼いでくれ! リンゼは僕の前に巨大な氷壁を! 琥珀はリンゼを守ってくれ!」
と、ここで何か策を思いついたのか、冬夜が全員にそう呼びかけた。
「策があるでござるね? 承知したでござる!」
「じゃあ俺が時間稼いでやるか! しょうがねぇな~」
八重と野獣が承諾し、竜へ駆ける。竜は重い身体を起こし、残された嗅覚で迫り来る野獣と八重を察知、二人目掛け炎弾を口から撃ち出した。
「カスが効かねぇんだよ!」
「その手はもう見切っているでござるよ!」
それを二人は左右へ飛び、回避。炎弾は何もない場所に着弾、爆炎を上げる。接近した八重は竜の身体を足場にして跳躍。狙うは、残された左側の翼。
「せやぁっ!!」
鱗に覆われた身体では刀が折れる。目は潰した。ならば残すは、竜の身体の中でもまた柔らかい箇所、翼の膜。宙で身体を縦に一回転、重力を乗せた八重の一刀は、膜を布切れのように容易く切り裂いた。
続けざまに切りかかるは野獣。大剣を横へ振るい、遠心力に身を任せて独楽のように回転。竜巻となった野獣の身体が、突風を伴い竜へと迫る!
「ンアッーーーーーー!!」
奇声みたく叫びを上げながら、野獣は回転の勢いを利用して大剣を逆袈裟に振り上げ、竜の身体に叩きつけた。僅かに浮き上がる竜の身体。鱗に覆われていない腹部が曝け出され、そこに追撃が繰り出される。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
高く宙へ飛び上がったエルゼと三浦が、それぞれ突き出した足を槍とし、竜の無防備な腹部へと突き刺さる。ブーストの込められたエルゼの蹴りと、鍛え抜かれた三浦の蹴り。その二つが合わさった飛び蹴りは、竜の身体が歪む威力を孕んでいた。竜の口から飛び出すのは炎でも咆哮でもなく、胃液。内臓にまで響く程の味わったことのない苦痛により、竜はのたうち回った。
「氷よ来たれ、永遠の氷壁、アイスウォール!」
その間、リンゼは琥珀の横で水属性の魔法、アイスウォールを唱える。水晶のように透き通った3m程の氷壁が冬夜の前に聳え立つ。
「よし、これなら……モデリング!」
氷壁を見て頷くと、右手を翳して魔法を唱える。氷壁が輝くと、角ばった氷壁が変貌、円形で窪みのある形となった。所謂レンズ状になった氷の向こう側に見える竜へ向け、続けざまに冬夜が叫ぶ。
「マルチプル!」
氷のレンズの前に生成されていく小さな魔法陣。その数は一つ、二つと増えていき、十を超え、百を超え、さらには二百、三百……最終的には圧巻の512個の魔法陣が展開していった。
「行くぞ! 光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン!!」
512個の魔法陣が輝き出し、そこから光の槍が射出、レンズへと吸い込まれて行く。
「さらに! モデリング!!」
再びモデリングを使用し、レンズの厚さを調整、焦点を竜へと合わせる。そして、
「くらえっ!!」
屈折して一点へ集められたシャイニングジャベリンはビームと化し、真っ直ぐ竜へと飛んでいく。一筋の光は竜の鱗を燃やし、さらにその中の肉体をも消失させ、竜の身体を貫通した。
『グオオオオオオオォォォォォォ……!!』
身体に風穴を空けられた竜は、天へ向けて咆哮を上げる。だがその声には今までの覇気は無く、徐々に小さくなっていく。断末魔の咆哮はやがて完全に途切れ、やがてその身は草原の上へと倒れ込み、地面を揺らした。
小さく痙攣する巨体。ぽっかり空いた穴からは血が流れ出て行く。誰から見ても致命傷だ。助かりようがない。
「ふぅ……やった」
冬夜が一息つく。直後、冬夜が大砲として利用した氷のレンズは砕け散り、破片となって地面に散らばった。
「やったわね冬夜!」
「やりますねぇ!」
エルゼと野獣が冬夜にはしゃぎつつ駆け寄る。琥珀に乗ったリンゼ、そして八重と三浦もまた冬夜たちの下へ。
「お見事、です」
『さすがは我が主。スカっとしました』
「やったゾ! 今日のMVPは冬夜くんだゾ~これ!」
「あの竜の鱗を貫通するとは……凄まじいでござるなぁ」
口々に冬夜を誉めちぎる。全員疲労の色が見えるものの、五体満足だった。
「いやぁ、みんなが時間を稼いでくれたおかげだよ」
「謙遜してんねぇ! このこの~!」
野獣が照れる冬夜を肘で突っつき、それを見て琥珀が唸る。村を焼き払った元凶にして強敵、竜を倒した。その戦果を互いに讃えるも、まだ終わってはいない。
「あ、そうだ。急いで村まで戻るゾ。まだ怪我してる人とか助けないとなぁ」
「木村たちも心配だし、行きますよ~行く行く!」
いまだ村は炎に包まれている。急ぎ戻り、村人の救助をしなければいけない。戦勝ムードから一転、一行はもはや動くことのない竜に背を向けた。
――――――――
――――
――
身体が動かない。先ほどまで感じていた痛みも薄れてきた。それと同時に命が流れ出て行くのを感じる。このまま自分は死ぬのだろうと、その者は理解していた。
何故こうなったのだろうか。自分は最強の種族だった筈。小さき虫如きに遅れを取る筈がないと、何度も言い聞かせた。それでも結果は変わりはしない。
こんな筈じゃなかった。そもそも自分がここにいること自体が間違いだったのだ。
何故死ななければいけない。何故こんな無様な姿を晒さなければいけない。
せっかく己の力を誇示する機会が訪れたのに。あの方が『村を思う存分破壊しろ』と命じられたのに。それすら成し遂げられないのか。
嫌だ。死にたくない。まだ生きていたい。生きて己の存在を全種族に誇示したい。もっと楽しみたい。まだ生を十分に謳歌していない。あの方の役に立てていない。
死にたくない。死にたくない。死にたくない……。
その時、自らの身体の奥底にある何かが膨れ上がっていく感覚を覚えた。
彼は死を恐れた。生にしがみつかんと藻掻いた。死に瀕する魂からの叫びにより、その身に宿らされた力が呼応した。
徐々に大きくなっていく力。その間も、彼は死にたくないと念じ続けていた。強大な力に呑まれようとしていることにも気付かない程に、命に固執していた。
やがてその思いは削れていく。力は彼の思考を。彼の知性を。彼の魂を。力は彼の彼たらしめている全てを喰らって大きくなる。
やがて彼は消える。彼という存在は消失し、上書きされていく。彼という存在はこの世から完全にいなくなった。
後に残されたのは、純粋で、無垢で、無邪気なまでの、
悪意
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――――
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ドグンッ。
「っ―――――!!」
「わっ。み、三浦殿?」
バッと後ろへ振り返る三浦。唐突な動きに、八重は驚く。
「……」
「どうしたんスか三浦先輩?」
「ポチャ?」
三浦の視線は、倒れ伏して動かない竜へ向けられたまま動かない。その様子を訝しんだ野獣とポッチャマが首を傾げる。エルゼとリンゼ、冬夜も同様だ。
「…………」
三浦は答えない。ただじっと竜を見つめている。竜はいまだ穴から血を垂れ流したままピクリともしない。
だが、
ドグンッ。
「……みんな、構えろ」
三浦は感じた。腹の奥底に響くような、大きな鼓動を。再び閣下モードの顔つきとなった三浦は、ゆっくりと手を上げ、構える。
一行は、三浦が何事もない時以外に閣下モードにならないことを知っている。その彼が、再び閣下モードとなった。それが意味することは一つしかない。
ドグンッ。
「―――っ、何でござるかこの音!?」
八重もまた三浦が感じていた大きな鼓動を感じ取り、納めていた刀を再び抜き放つ。八重だけではない、野獣たちも再び身構えた。
音の出所は、目の前の竜。動く気配のない筈の竜。命の鼓動はもはやない筈の竜。
ドグンッッッ。
その竜の身体から、黒い靄のような物が噴き出て来る。靄は一瞬のうちに竜の身体全体を繭のように覆っていった。
「ファッ!?」
「な、何よこれ!?」
「冬夜さん!?」
「みんな、気を付けて!」
『これは……!?』
突然の異様な光景を目にし、誰もが目を疑う。長い時を生きてきた琥珀も、この光景を前にして愕然としていた。
その間にも事態は動く。黒い繭はゆっくりと宙へ浮き上がっていく。やがて地上から10m程の高さまで上がると、繭に赤い罅が入っていく。
繭……否、これは卵だ。卵はやがて全体を赤い罅に覆われていき、そして、
巨大な翼が広がると同時、完全に割れる。
黒い殻が弾けるように飛び散り、細かい破片となって降り注ぐ空の中。空と見紛わんばかりの巨大な翼を動かし宙を浮かぶのは、漆黒の竜。
その竜は先ほどの竜の鱗よりも黒く、身体も一回り大きく、牙も、爪も、全てが強靭にして鋭利な物へ。
血の如く赤い眼は変わらず、されどその眼に知性はあらず。
生きる者たちよ、命を惜しめ。畏れよ。慄け。相対したことを悔いて嘆け。悪を超え、生きとし生ける全ての者の天敵である邪悪な者の名を叫べ。
その者の名は、
『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAモウヤダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!』
絶望と暴虐の化身『邪竜』―――ここに降臨す。
ここまで引っ張っておいてなんですが、次回は木村サイド。オリジナル展開が続きますゾ~。
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
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スマホ太郎(アニメ主人公)
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望月冬夜(原作主人公)
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野獣先輩
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三浦
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木村