異世界空手部・やわらかスマホの裏技   作:コッコリリン

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木村サイドです。これにてミスミドによる戦闘編は終了です。思ったよりも長くなった。許して……許して……。

邪竜戦と比べると思いの外あっさりしている気もするのはご愛敬。

補足:『30.迫真空手部、夜襲を受ける』の後半シーンで盗賊たちの手の甲の刺繍という重要なシーン書き忘れてました。すいません、許してください、何でもしますから!(何でもするとは言ってない)


37.迫真空手部、重なる手と手

 野獣たちが邪竜を相手取っているその頃。

 

「し、しまった……!?」

 

 木村は窮地に陥っていた。

 

「き、木村さん……ごめんなさい!」

 

「リオン殿……申し訳ありません……!」

 

「そんな、オリガさん……!」

 

 リザードマンの腕の中で、ユミナとオリガが捕まってしまったことに対して心底申し訳なさそうに謝罪する。リオンは動揺し、剣を持つ手が震える。他のリザードマンと戦っていた他の兵士たちも、国王が捕えられた光景を目の当りにして動きが止まった。

 

「いやいや、兵士の皆さんご苦労さん。あんたらが連中の相手をしてくれていたおかげで、こっちはまんまと出し抜くことができたぜ」

 

「き、貴様……!」

 

 その光景がおかしいのか、首謀者と思われる薄汚れた革鎧を着た男がニヤニヤ笑いながら歌うように皮肉を口にする。激昂するリオンだったが、男はそれを見咎める。

 

「おっと、聞こえなかったか? 全員動くなって言ってんだよ。さもねぇと大切な王様が大変なことになっちまうぜ? 勿論、そこのガキも一緒だ」

 

「くっ……」

 

「ひ……!」

 

 そう言って、右手に持つクロスボウを横に立つリザードマンによって拘束されている王へ向ける。たき火の炎に照らされたクロスボウに装填された矢の鏃が血のように赤く光り、アルマが怯えた声を上げた。

 

「アルマ……!」

 

「全員大人しく言うことを聞きやがれ!!」

 

 アルマを案じるオリガに目もくれず、男は木村含めた兵士たちに向けてがなり立てた。さらにクロスボウを王へ突きつけ、本気の度合いを示す。

 

「……リオンさん、ここは従いましょう」

 

「クソッ……!」

 

 木村が本を閉じながら、今にも飛び掛かりそうなリオンを制する。王とオリガを人質に取られた以上、男の命令に従う以外は許されない。リオンが剣を下ろすと、他の兵士たちも悔しさを隠せないままリオンに倣い、武器を下げた。

 

「よ~しよし、聞き分けのいい犬は好きだぜ? 国家の犬ころどもがよぉ」

 

「この……卑劣な……!」

 

「卑劣? おいおいバカ言うなよ。油断してたこいつらの責任だろ? 国王を守るために集められたエリート様が、とんだお間抜けだなぁ!」

 

 嘲り笑う男に、オリガが怒りを込めて睨みつけるが、男は意に返さない。侮辱し、せせら笑う。

 

 木村は男を忌々し気に睨み……そして、ふと男の手の甲へと見やる。

 

「……あの刺繍は……」

 

 手の甲に青い色で彫られた蜥蜴の刺繍。木村はその刺繍に見覚えがあった。

 

 確か、ベルファストにいた時の夜襲騒ぎの時に捉えた28人の夜盗の手の甲にも同様の刺繍が彫られていた筈……それを思い出し、木村は男の正体に当たりを付けた。

 

「お前……あの時襲撃してきた夜盗の仲間か!」

 

「ご名答~」

 

 木村が男の正体を言い当て、男はそれを心底愉快とばかりにあっさりと答えた。ベルファストから国を跨いでまでここまで追ってきたというのか。だとすれば、何という執念か。

 

「俺の仲間が随分と世話んなったようだからなぁ……まぁ、本当はあの黒い髪の小僧が目当てだったんだが……」

 

 言って、男は視線でその目当ての人物を探す。夜盗を捕えた功労者である冬夜を探しているのだろうが、本人は竜退治へ向かっているためここにはいない。冬夜が不在と知ると、男は小さく舌打ちした。

 

「……まぁいいか。相手は竜だ。どうせ食われちまうだろうしなぁ」

 

 不服そうではあるが、そう自分に言い聞かせる男。そして、

 

「っとぉ!」

 

 突然、クロスボウの照準を王から正面に……木村に向け、引き金を引いた。木村に足に衝撃が走る。

 

「え」

 

 唐突のことで木村は対応できず、無防備にも矢を太腿に受けてしまった。何が起きたかわからず一瞬呆け、矢が刺さった箇所から赤く染まっていく足を見つめる木村。やがて脳が遅れて状況を理解し、異常を激痛として木村に伝える。

 

「ぐ、ああぁぁぁぁぁっ!!」

 

「木村さんっ!!」

 

 悲鳴を上げ、足を抑えて倒れ込む木村。ユミナが悲痛な声を上げ、思わず木村へ駆け寄ろうとしたが、拘束するリザードマンの力強い腕のせいで動けない。オリガも衝撃で硬直し、アルマもまたショックを受けて小さな悲鳴を上げた。

 

「木村殿!!」

 

「オラ動くな!!」

 

「っ……!」

 

 傍にいたリオンが足元に倒れ込んだ木村を助けようとするも、男にクロスボウを突きつけられた動きを止める。動けない相手を甚振る男の卑劣にして残忍な行為をただ黙って見ているしかできないリオンは歯噛みする。

 

「よせ! 貴様の狙いは私だろう!? 何故彼を……!」

 

 男の狙いは国王の身柄の筈。王は男の蛮行に激昂するも、男は新しい矢を番えながら笑って返した。

 

「いやぁそれがあるんですよ国王陛下。というか、俺の仲間を捕まえた奴ら全員、痛い目に合わせないと気が済まないってなもんでしてねぇ」

 

「貴様……っ!」

 

「おやおやぁ? 国王が国民一人のために随分とお怒りで? さすがベルファスト国王! なんとも慈悲深い!」

 

 わざとらしい敬語で語る男。相手の神経を逆なでさせる話し方に、王は怒りで顔を赤くした。

 

「う、ぐ……っ!」

 

 倒れ込んだ木村は、足に突き刺さった矢を掴み、それを無理矢理引き抜こうと力を入れていく。肉と肉が裂け、ブチブチと音をたてる。その度に今まで味わったことのない痛みが走り、顔が苦悶で歪む。そして、

 

「があああああああああああああああああっ!!」

 

 矢を引き抜き、絶叫。夥しい血が流れ出る足を抑えながら蹲った。

 

「あーあー、バッカじゃねぇの? 無理矢理引っこ抜いたら余計血が出るっつーの」

 

 自分から死に一歩近づこうとしている木村を男は嘲笑う。木村はその言葉に返す余裕すら無く、ただただ足の痛みに呻くしかない。

 

「――――――っ」

 

「何だよ、返事なしか……」

 

 何も言い返さない木村に男は業を煮やしたのか、

 

「つまんねぇ、の!」

 

 足を振り上げ、木村の腹を蹴り飛ばした。

 

「っがぁ、はぁ……!」

 

「いやぁぁぁっ! 木村さん!!」

 

 痛みに喘ぐ木村。ユミナが泣きそうな声で叫ぶ。今すぐにでも木村の下へ駆け寄りたい、庇ってあげたいというユミナの思いを踏みにじるように、男は笑いながら木村を蹴り、踏みつけ続けた。リオン含めた周りの兵士も止めたくとも王を人質に取られている以上止められず、ただ痛ましそうに眺めていることしかできない。

 

「ヒャハハハ! オラオラ反撃してみろよ! オラぁッ!!」

 

「ぐ……あ……っ!」

 

 男になぶられ続けても、木村は蹲る姿勢を変えない。必死に耐え忍ぶように、丸まった姿勢を崩さない。

 

 やがて蹴り続けているのも飽きたのか、男は木村の頭を踏み付け、地面に押し付けた。

 

「何だよテメェ、全然抵抗しねぇじゃねぇか。あ? 何? もしかしてビビってんの?」

 

「―――――っ!」

 

 その場にいる誰もが思う。男は木村は抵抗しないのではなく、人質を取っている以上抵抗できないでいるのをわかった上で言っているのだと。男の理不尽窮まりない言動に誰もが憤りを覚える。それを知ってか知らずか、男は木村の頭に足を乗せながらグリグリと動かし、尚も小ばかにしながら笑い続けた。

 

「はぁ、ダメだねぇお前。ホンットダメ! 色々魔法が使えるみたいだから俺の仲間をあっという間に捕まえた小僧の代わりに痛めつけてやろうかと思ったんだけどなぁ……こりゃ比べ物にならねぇわ。雑魚過ぎてダメだ」

 

「く……!」

 

 踏まれながら顔を歪ませる木村。木村の自尊心を傷つけようという算段なのか、男はさらに言い募る。

 

「あの小僧だったらどうすんのかなぁ! 一人で何でもできるんだろうなぁ! あーあ、なぁんか興冷めだわぁ! 魔法使えても役に立たなきゃただのゴミ! 一人じゃ何にもできないゴミ痛めつけたところで時間の無駄だしなぁ!」

 

 わざとらしい大声で木村を罵る男は、足を離して木村へとクロスボウを向けた。

 

「ゴミはさっさと始末してやるかぁ」

 

「……っ!」

 

 ニタっと、弱者を甚振り楽しむ権力者が見せる笑みで、木村を処刑することに決めた男。木村は歯を食い縛り、男を睨み見上げた。

 

 どうすることもできない。木村に迫る理不尽な死を、誰もが見ているしかできない。木村の次は王か、ユミナか、はたまたリザードマンに包囲されいている兵士たち全員か……最早処刑場と化したこの場で、誰もが絶望していた。

 

 

 

「黙りなさい」

 

 

 

 それでも、一人。木村が甚振られ続ける、そんな絶望の光景を前にして、力ある声が響き渡った。

 

「……あ?」

 

 笑っていた男の顔が固まる。声の方を見れば、そこにはいまだリザードマンに拘束されている状態のままでいるユミナ。しかしその左右色違いの瞳は木村が甚振られて心痛め、そのせいで流した涙で濡れているにも関わらず、力強い光を宿していた。

 

「あなたに……あなたのような人に木村さんの何がわかるというのです。私たちを人質に取ることでしか優位に立てないというのに」

 

「なんだと?」

 

 男の愉悦の笑顔が消える。代わりに表れたのは不愉快だという色を隠そうともしない歪んだ顔。それを目の当りにしても、尚ユミナは続ける。魔眼を通して見た、男の醜い()を見つめながら。

 

「木村さんはすごい人です。誰かが嘆いていたら自分を犠牲にしてまでその人を癒し、誰かが傷ついたらその人のために怒って、誰かが幸せになったらその人の幸せを喜べる、とても優しい人です。そして例え一人になったとしても、自分にできることを成そうと努力をする人なんです……そんな人が弱い筈がありません!」

 

 キッと、男を睨むユミナ。まだ12歳にすぎない少女でしかないユミナの、年不相応のその強い眼で睨まれた男は一瞬たじろいだ。

 

「そんな素晴らしい人を……何よりも、私にとって大切な人を、あなたのような人が侮辱をするなど言語道断! そのような狼藉は、このユミナ・エルネア・ベルファストが絶対に許しません!!」

 

 大事な人をゴミ呼ばわりした男に対し、そう宣言するユミナ。オリガ含め、兵士たちはユミナの凛とした言葉に聞き惚れ、王はどこか満足気に頷く。男はただただ、ユミナの言葉一つ一つに何も言い返せないでいた。

 

 動けない筈だ。人質に過ぎない筈だ。ただの小娘がただ喚いているに過ぎない筈だ。

 

 なのに、何だ。この娘から出る覇気にも似た何かは。どうしてそうまでして諦めない姿勢を見せるのか。

 

 ああ……腹立たしい。何も言い返せない自分にではない、こんな小娘に狼狽えているという事実が腹立たしい。

 

「っ……!」

 

 故に、だろう。足早にユミナに歩み寄ると、苛立ち紛れに彼女の頬を手の甲で張り飛ばした。パシィン、という乾いた音が響く。王女の顔を殴るという所業に、その場の誰もが愕然とする。

 

「……ああ、そうかよ」

 

 男は無表情になる。しかし額には血管が浮き、胸の内にドロドロとした溶岩のような怒りを秘めながら、改めて木村へ歩み寄ってクロスボウを木村へと突きつけた。

 

「ならお前の言う素晴らしい人とやらを目の前で殺してやるよ。その次は……テメェだ」

 

 当初は、奴隷としてある国へ売り飛ばそうと考えていた。王女という肩書は金になるからだ。だが男はその計画を変更。ここまでコケにされたのだ、血祭にあげてやらなければ気が済まない。男の性分はどこまでも残虐で、そしてどこまでも小物だった。

 

 場の空気が再び緊張で張りつめる。だが頬を腫らしても尚、ユミナは狼狽えることはない。ただ男を睨むように見つめているだけだった。

 

 その顔を絶望で歪めてやる……そんな醜い考えの下、男はクロスボウの引き金に指をかけた。

 

「さて……お前には苦しんで死んでもらおうと思ったが、せっかくだし何か言いたいことがあんなら言ってみろよ。それくらいの猶予はやらぁ」

 

 さも己は慈悲深いとでも言うように、男は木村へ向けて口元を歪めながら言った。

 

「…………」

 

 木村はしばし無言になる。足の出血を抑えていたせいで手はもう血塗れだ。痛みを堪えているのか、その手で地面の砂利を握りしめる。あの足の傷では男の手にかかる前に、遅かれ早かれ木村は失血死してしまうだろうと、ユミナ以外の誰もがそう思った。

 

「ス…………」

 

「す? 何だぁ? スイマセンってか? 今更謝ったっておせぇんだっつーの! 恨むんならお姫様を恨めよなぁ!!」

 

 どう足掻いたところでもう遅い。命乞いをしようとしている木村を、男は笑って殺す。それは決定事項だ。

 

 何を言おうとしているのか。命乞いか、それとも最後の無駄な足掻きか。男は木村の口から飛び出してくる言葉を待つ。

 

 そして木村は、口にした。

 

 

 

「スリップ」

 

 

 

「……は?」

 

 瞬間、意味がわからなかった男の足元に異変が起きる。しっかり地に着けていた筈の男の足が突然氷の上のように滑り、視界が天地逆になったかと思うと、

 

「ぐえっ!?」

 

 後頭部から、地面に勢いよく倒れ込んだ。目の前で星が舞い、脳が揺れる。

 

 誰もが唖然とし、リザードマンも咄嗟に動けない中、一人上体を起こした木村が左手を宙へ向けながら告げる。

 

「皆さん、耳塞いでください!!」

 

「っ!」

 

 その言葉を聞いて、リオンは、そして兵士たちも耳を塞ぐ。人質となっているユミナたちも、ギリギリ自由がきいている手で耳を塞いだ瞬間、木村が叫んだ。

 

「インパクト!!」

 

 バァン!! 木村の頭上で魔力の塊が弾け、凄まじい音、衝撃となって同時に地上を襲う。リザードマンたちは音と衝撃に驚き、たたらを踏んだ。

 

 それ即ち、千載一遇のチャンス。

 

「今だ!!」

 

 まず動いたのはリオン。飛び出し、下げていた剣を振るい、王とオリガを捕えていたリザードマンの首を切断。拘束が解かれたオリガは素早くアルマを抑えつけているリザードマンを跳躍と共に身を捻っての跳び回し蹴りで吹き飛ばす。ユミナもまた、拘束が緩んだ瞬間に肘打ちを腹部へ見舞い、ひるませた隙に抜け出した。

 

「陛下たちを安全な場所へ避難させろ!」

 

 部下の一人に命じ、リオンは剣を天高く翳した。そして高らかに号令を下す。

 

「この機を逃すな! かかれぇぇぇぇぇっ!!」

 

「「おおおおおおおおおおおおっ!!」」

 

 人質全員が解放された。その瞬間、兵士たちはリオンの号令の下、息を吹き返したかのように手にした得物を振り上げ、いまだ動けないでいるリザードマンの群れへ突撃していく。

 

 例えリザードマンの上位種であるブラッディリザードマンといえど、動けなければ単なる木偶人形。王とオリガ、アルマは兵士たちが安全な場所へ避難させ、二度と人質にできない状態となった今、形勢は完全に逆転していた。

 

「こ、この野郎!!」

 

 あっという間に不利な状況へ追いやった木村へ、スリップの魔法が解けたことで起き上がり、クロスボウを木村へ向ける男。怒りのままに引き金を引こうと指に力を入れ、

 

「モデリング!!」

 

 その寸前で立ち上がった木村が、砂利を掴んだ手の中を光らせながら踏み込みつつ振り払う。その手には砂利を材料に魔法で作った鋭利な短剣、もとい先端が鋭く尖っているだけの短剣に見立てた石が握られており、男の手にあったクロスボウは弾き飛ばされた。砂利で作られた短剣もその拍子に砕け散る。

 

「がっ!? て、テメェ!!」

 

「スロー!!」

 

 毒づく男。しかし木村は容赦しない。さらに念力で男の身体を投げ飛ばし、背後の馬車に背中からぶつける。衝撃で肺から空気が漏れ、痛みと苦しみで咳き込む男。木村はその男の前に仁王立ちで立ち塞がる。リザードマンが控えていなければ、男はもはや無力でしかない。

 

「よぉ、盗賊のにーちゃん。もう終わりか?」

 

 その声は、弱々しい青年のものではない。怒りを孕んだドスの利いた低い声を前に、男は震える声で言う。

 

「テ、テメェ、怪我してたんじゃねぇのかよ……!?」

 

 男の視線の先には、矢によって血塗れになった木村の足。しかし、血に塗れてはいるが傷は無く、とても怪我をしていたとは思えない程。どう考えても一瞬で治るような怪我ではなかった筈だ。

 

「勿論、怪我してましたよ? ……すぐに回復しましたけど」

 

「はぁっ!?」

 

 しれっと、何でもないように言う木村。矢を引き抜いた瞬間、痛みに蹲るような体勢を取った木村。その体勢こそ、男を油断させるためのブラフ。男に見えない位置で木村は傷口に手を当て、こっそり回復魔法を唱えていたのだった。ブツブツと痛みに呻いていたように聞こえていたのは、回復魔法を小声で詠唱していただけ。後は男が木村が無抵抗であると思わせておいて、頭の中でこの窮地を脱する方法を考えていた。

 

「……確かに、僕は冬夜くんとは違って弱い」

 

 座り込む男へ、木村は語る。

 

「冬夜くんのように魔力は無限じゃないし、自由に使うことだってままならない。ハッキリ言って、僕は冬夜くんの下位互換だ」

 

 男の言っていたことは事実だろう。木村は自分がまだまだ弱いことを知っているし、今のままじゃ逆立ちしたって勝てやしないということも。

 

「勿論、焦りましたよ。弱いままじゃダメだって。どれだけ人を助けたくても弱かったら助けられる人も助けられないって。だから悩みましたよ。そりゃあ悩みました」

 

 男に向けて……否、それは木村に向けて、己に向けて語り続ける。

 

「それで、やっと気付いたんですよ。本当の僕の力は、ただ闇雲に魔力を増やすことでも、届かない頂に辿り着くまで強くなろうとすることじゃないんだって」

 

 やがて木村は気付く。切っ掛けは、ここまでの一連の流れを考え付いた己の発想。そして、ユミナの言葉。

 

 

 

「僕の本当の力は……想像です!」

 

 

 

 木村の本当の能力。それは自分の想像力。強大な力を振り回すのではなく、例え小さな力でも上手く使えば、それは大きな力となる。その力を使うには、木村の持つ自由な発想……そしてその力をどう振るえば上手く使えるのかという想像だ。

 

 それに気付けた。それに気付いたからこそ、木村はこの窮地を脱する方法を想像し、その通りに動いた。男の傲慢さを逆手に取った考えは結果、ドンピシャというわけだ。

 

「……あぁ、それから。アンタがやらかした失敗も敗因の一つですね」

 

「し、失敗?」

 

 なんだそれはと男が問う。木村は男に向け、憤怒を滾らせながら告げた。

 

「アンタの失敗は一つ……僕を怒らせましたね?」

 

「は?」

 

 意味がわからないと男が疑問符を浮かべる中、木村は言った。

 

 

 

「アンタはユミナさんを殴った……理由はそれだけだ」

 

 

 

 無抵抗の彼女の頬を、この男は殴った……それを目の当りにした時、木村の中で冷たい何かが走った。そして直後、己の身の内が激しく燃え上がる錯覚を覚えた。

 

 その錯覚が怒りへと変換した瞬間、木村は決意する。この男だけは、絶対に許してはおかない、と。それが木村の大きな原動力となった。

 

「て……テメェ、そんなんで俺が負けるとか、認めるかぁぁぁぁっ!!」

 

 木村の言葉に、男が顔を真っ赤にする。想像? 怒らせた? ふざけたことをと、男は腰の短剣を引き抜った。

 

 が、一本の矢が男の頬を掠めながら飛んできたことで、その短剣が振るわれることなかった。

 

「ひぃっ!?」

 

 背後の馬車に突き刺さった矢に怯え、男は立ち上がろうとしていた足をもつれさせて再び転ぶ。木村の背後から矢を放ったのは、流れるブロンドの髪を靡かせた一人の少女。強い眼差しを男へ送り、彼女は木村の横に立った。

 

「認めてください。あなたは負けたのです……あなたが嘲笑った、木村さんの想像の力の前に」

 

 ハッキリと断言する少女、ユミナ。彼女の言葉を聞いて、木村は照れくさそうに笑う。

 

「すいません、自分で言っておいてなんですけど、ちょっと恥ずかしいなやっぱり……」

 

「あら、そうでしょうか? 私は想像の力、とっても素敵だと思いますよ?」

 

「そうかなぁ?」

 

「ええ、そうです。フフ」

 

 笑い合う二人。先ほどまでのピンチなど無かったかのような二人を前にした男は、いよいよ後が無いと知るや否や、這う這うの体で逃げ出す。

 

「逃がしません!」

 

 無論、それを認めないユミナは弓に矢を番える……が、突如として突風が二人を襲う。

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!」

 

 突然のことで顔を覆う木村とユミナ。その際、ユミナが番えた矢が飛んでいってしまった。突風が止み、腕を下ろす二人。男の姿が消え、逃げられたかと二人が気落ちしかけた時だった。

 

「ヒャハ、ヒャハハハハハハッ!!」

 

 高らかな、それでいて下卑た笑い声が響き渡る。声の主はあの男。そして声の発生源は……、

 

「上っ!?」

 

 木村が頭上を見上げる。そして驚愕する。夜空をバックに浮かぶのは、ゴツゴツとした緑色の鱗を纏った赤い眼の蜥蜴のような生物。だがその姿はただの蜥蜴とは一線を画す。両腕が大きな翼となっており、尻尾には棘が幾つも連なって生えている。そしてその背中には、あの男が乗っているのが見えた。

 

「あれって、まさか竜!? 戻ってきたのか!?」

 

 驚愕する木村。それならば討伐しに向かった野獣たちは……しかしユミナは「いいえ」と否定する。

 

「あれは飛竜(ワイバーン)と言って、竜の亜種です。先ほど見た竜とはまた違う種類のようです。一回り小さいですし、何より鱗が違います」

 

 そのユミナの言葉に、木村は安堵する。だが今のこの状況はまずいとしか言いようがない。

 

「テメェら……よくも俺を本気で怒らせやがったなぁ!! もう勘弁ならねぇ!! 国王共々、全員ぶっ殺してやるよぉ!!」

 

『ガアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 狂ったように笑い、叫ぶ男が従えているワイバーンは、その口を開く。口腔内に炎が溜め込まれていくのを見るに、あそこから灼熱の炎が吐き出されようとしているのが遠目から見てもわかる。

 

 今、ここで炎を吐かれてしまえば、リザードマンを相手にしている兵士たちの身に危険が及ぶ。さらに言えば、ここは森の中。木々に燃え移れば大火事になりかねない。それをあの男はわかっているのだろうか? いや、わかっていてもやるだろう。なりふり構わなくなった男は、森がどうなろうが知ったことじゃないということが木村にも伝わってきた。

 

 木村は、あのワイバーンを叩き落すことを決める。右手をワイバーンへ翳し、身体の内側の魔力を練り上げていく。そして確実に決めるため、マルチプルを唱えようとした。

 

「うぐ……!」

 

 が、ここに来て身体が異常を知らせる。以前も感じた、魔力が枯渇寸前だという報せだ。思わず膝を着く。

 

 こんな状態でマルチプルを使用すれば、木村は重度の魔力切れを起こしてしまうだろう。結果、魔法は不発となり、ワイバーンの炎に焼かれてしまう。

 

(ここに来て……くそ!)

 

 だが、魔法一発分では不安が残る。相手は竜だ。マルチプルによる重複詠唱でもなければ、大きなダメージは望めない。しかも撃てても一発が限界だ。

 

 どうすればいい、どうすれば……焦る木村。考えろ。想像しろ。あのワイバーンを叩き落す方法は……。

 

 そう思い悩んでいた時……木村の右手に、暖かな感触があった。

 

 ハッと、木村は右手を見る。小さな手が、木村の手の甲に重ねられていた。手の主を確認すると、木村に向けて微笑んでいる少女、ユミナだった。蒼と翠の瞳が、澄んだ湖のように木村を映し出す。

 

「大丈夫です、木村さん」

 

 穏やかで、ハッキリとした声が木村の耳を打つ。そして、

 

 

 

「私は、あなたと共にどこまででもついていきます」

 

 

 

 その言葉が、木村の悩みを吹き飛ばした。

 

 一人で全てを成そうとしていた木村。しかし今ここにいるのは一人ではない。

 

 木村は膝を着いたまま力強く頷く。ユミナもまた頷いて返す。

 

 そして、木村は右手を、ユミナは左手を、それぞれの手を重ね、空を飛ぶワイバーンを見据えながら掲げた。

 

 二人は魔力を練り上げる。その魔力は身体を伝い、お互いの手の先で一つに混ざり合う。

 

 

 

「「雷よ来たれ、白蓮の雷槍!!」」

 

 

 

 重なる手、重なる声、そして重なる緑の魔法陣。二重構造の魔法陣が輝き、その中央へ光が集約すると、雷が迸り始める。やがて雷は強大なエネルギーとなり、

 

 

 

「くたばれクソゴミどもおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

「「サンダースピアッ!!」」

 

 

 

 エネルギーは槍へと変換され、飛び出す。同時、ワイバーンの口から炎弾が吐き出された。

 

 槍は二本。やがて空中で二本の槍は重なり、螺旋を描く。渦を巻く槍は閃光を纏い、空中で炎弾とぶつかった。

 

 勝負を制したのは……雷。炎は霧散、消滅。

 

 本来ならば神によって天から降り注ぎ、地上の人への罰の象徴ともされる雷。地上から放たれた雷は、天を裂き、悪意を滅するためその姿を変えていき、

 

「ひっ……!」

 

 

 

 一頭の竜となりて、迸る雷の牙で今こそ悪を滅ぼさんっ!!

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 二人の魔力によって撃ちだされたサンダースピア。それはワイバーンの強固な鱗を打ち砕き、男の断末魔と共に夜空を一瞬、昼へと変える程の光を放つ。やがて光が消えると、ワイバーンは黒焦げとなって森の中へと落下していくのが見えた。

 

 遠い場所で、重い何かが落下する音が聞こえる。同時、リオンがリザードマンを両断した。

 

「はぁっ、はぁっ……他に敵は!?」

 

 リオンが振り返りながら叫ぶ。兵士たちもまたリザードマンを倒したところで、立っているリザードマンは一匹もいない。リオンが倒したリザードマンで最後だったのだろう。

 

 それが意味することは、一つ。

 

 

 

「この戦い……我々の勝利だぁっ!!」

 

 

 

「「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 リオンが勝利宣言を叫ぶ。すると兵士たちは高らかに歓声を上げ、武器を天に一斉に掲げた。全員、やり遂げたという達成感に満ち溢れていた。

 

 木村は、その歓声を耳にする。やがて身体から緊張が抜け、それを引き金に魔力消費による疲労、そして出血のせいで血が足りなくなったことによる貧血がどっと押し寄せてきた。

 

「……すいません、ユミナさん……僕もう、眠い……」

 

「え?」

 

 耐えきれずに木村はそうユミナに告げると、返事を待つことなく瞼を閉じていった。

 

 

 

 森の中を轟く歓声は、しばらくの間続いたという。

 




多分次回で四章終わります。お前らもよーく見とけよ?(TNOK)

今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?

  • スマホ太郎(アニメ主人公)
  • 望月冬夜(原作主人公)
  • 野獣先輩
  • 三浦
  • 木村
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