異世界空手部・やわらかスマホの裏技   作:コッコリリン

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脳裏にやじゅこは(野獣×琥珀)という組み合わせを思いついて書き始めて10分後に正気に戻りました。ギリギリです(セーフとは言ってない)


38.迫真空手部、後始末をする

「ぬわぁぁぁぁん疲れたもぉぉぉぉぉぉん」

 

「アンタいっつも疲れてるわね……」

 

 夜が明ける。村に甚大な被害を与えた一頭の竜との死闘を繰り広げた野獣たちは、兵士たちと共に夜通し救援活動を続けていた。リンゼとポッチャマは水魔法とみずでっぽうで消火活動に走り、エルゼと八重、三浦と野獣は手分けして怪我人を救助するために奔走し、冬夜は回復魔法で怪我人の治療を行い続けた。

 

 途中、作業中に王を護衛していた兵士の一人が来て、国王を狙う輩に襲撃を受けたことを知らされる。木村の活躍によって襲撃者は退けることはできたものの、木村が負傷したと聞いて野獣たちは激しく動揺したが、現在は大きな怪我も無く、王たちと休んでいると聞いて安堵した。懸念事項であった竜が退治された以上、国王たちも襲撃による後始末を終えたらここへ来るとのことだった。

 

 とにもかくにも、朝日が山間から顔を出してエルドの村を照らす中、野獣たちは怪我人を救助し終え、一息ついていた。竜退治の時の疲労もある中、瓦礫を押しのけながらの救助は想像以上にキツく、野獣は思わず弱音を吐いてエルゼが呆れて呟き、冒頭に至る。

 

「けどよかったです。怪我人は大勢いましたけど、犠牲者は一人も出なかったようですし」

 

「確かにそれは不幸中の幸いでござるなぁ。ある意味奇跡でござる」

 

「救助活動スゲ~キツかったゾ~。冬夜くんも今日疲れたろ?」

 

「まぁ、ね……さすがに夜通し回復魔法は疲れたかなぁ」

 

「ポッチャァァァ(俺もう眠い)」

 

 全員疲労で重くなった身体を労わるように草むらに腰を下ろす。夜通し走り続けたためか眠気も強く、このまま草むらに身体を投げ出したら眠ってしまうかもしれない程だ。

 

『ご苦労様でした主。兵士から茶を受け取って参りましたので、どうぞ』

 

 そんな一行を労い、冬夜に回復魔法をかけてもらったおかげで怪我一つ無くなった琥珀がマスコット姿のまま頭に盆を乗せたままテコテコと歩み寄ってきた。盆には人数分のコップが置かれてある。

 

「あぁ、ありがとう琥珀」

 

「お~ありがとな~琥珀ちゃん! スゲ~助かるゾ~これ!」

 

 人前で喋らないようにしている琥珀がどのようにして盆を受け取ったのか疑問を覚えながらも受け取った冬夜。三浦も礼を言いながら受け取り、八重たち女性陣も琥珀の気遣いに感謝しながら手に取った。

 

『ほら、お前も』

 

「お? サンキュー」

 

 最後、野獣へと歩み寄り、コップを取るよう促す。野獣も礼を述べながら手に取り、中の茶を呷った。冷たい茶が喉を通る感覚が心地よく、火照った身体に行き渡っていくかのようだ。

 

「FOO! 疲れた身体にアイスティーが染み渡りますねぇ!」

 

『……』

 

 プハーッ! と気分爽快とばかりに満足気な表情を浮かべる野獣。その間、野獣の前から琥珀は動かず、じっと野獣を見つめていた。

 

『……おい』

 

「んあ? 何だよ?」

 

 ぶっきらぼうに呼びかける琥珀に、野獣がきょとんとする。が、琥珀はしばし『あー』だの『うー』だの言って、何かを言いあぐねている様子。何を言い出すのか、冬夜たちも成り行きをじっと見守っていた。

 

 やがて、若干言いにくそうにしながらも言葉を紡ぐ。

 

『……やはりお前は臭い』

 

「ファッ!?(ショック)」

 

 何を言うかと思えば、結局罵倒。思わず変な声を上げる野獣とガクっと体勢を崩す冬夜たち。

 

『というかお前が乗った後の背中も臭かったぞ。主が水魔法で洗ってくれなければずっと染みついたままだっただろうな。全く困ったものだ。その臭い、本格的にどうにかして欲しいと心底思っている』

 

「何だそりゃ!? それ言いたかっただけかよこの野郎醤油瓶!! 頭にきますよ!!」

 

 尚も悪口を言い続ける琥珀に、野獣がプンプンと擬音が付きそうな怒り方で怒りを顕わにする。何が悲しくて疲れ切った身体のままいつもの罵倒を聞かなければいけないんだと、野獣は憤慨した。

 

『…………まぁ、けど』

 

 最後、琥珀が小さな、本当に小さな声で続けた。

 

『助けてもらったことについては……感謝、している。お前のことは……まぁ、認めてやろう』

 

「……へ?(呆然)」

 

「こ、琥珀?」

 

 小声でそんなことを言う琥珀に、野獣は半ば呆然とする。聞いていた冬夜たちも唖然としていた。

 

『い、言っておくがその臭い以外だからな認めるのは! いい加減本当にその体臭をどうにかしないと、次は本気で噛むからな! 覚えていろ野獣(・・)!』

 

 言って、プイっとそっぽ向いた琥珀。琥珀自らが野獣を認める発言をしたこと、そして野獣の名を初めて呼んだことに、その場にいた全員は固まった。

 

 あれだけ野獣を毛嫌いしていた琥珀の心境の変化。それに戸惑っていたのは冬夜たちだけではない。野獣本人もまた、信じられない面持ちで琥珀を見つめていた。

 

「……こ、琥珀……お、お、お前……」

 

『何だ』

 

 震えながら野獣が琥珀の名を呼ぶ。応えた琥珀は、背けていた顔を野獣へ向けた。

 

 

 

 野獣は激怒していた。

 

 

 

「お前あの竜に頭やられちまったんだな!? あの偉そうな白猫代表琥珀がそんな殊勝なこと俺に向かって言うわけねぇ!! チクショウ、あの竜よくも琥珀を!!」

 

『オルルァッ!!』

 

「オォン!?」

 

 思いきり勘違いしている野獣に琥珀はコークスクリューロケット頭突きを野獣の鳩尾に叩き込んだ。

 

『んなわけ! ないだろう! お前は! バカか! それから! 誰が! 偉そうな! 白猫! 代表だ! この! 腐れ野獣がぁぁぁっ!!』

 

「ファッ! ヌッ! クゥーン! オォン! アォン! 琥珀さんやめちくり~!(命乞い)」

 

 倒れ込んだ野獣に追い打ちの連続頭突きを叩き込んでいく琥珀。ボッコンボッコンにされる野獣の情けない声が木霊し、近くにいた兵士と村人は「何やってんだあいつら……(呆れ)」みたいな目で見つめていた。

 

「お~、野獣と琥珀ちゃんめっちゃ仲良しになってよかったな~」

 

「ポチャ……(Zzz)」

 

「仲良し……なのかな、あれ? 普段とあんまし変わってないような気もするけど」

 

「ま、まぁほら、臭い臭いって言って毛嫌いしてるよりかはマシじゃない?」

 

「うん……そう、だよね」

 

「というよりそろそろ止めなくてよいのでござろうか……?」

 

 煙燻るエルドの村を柔らかな朝の日の光が照らしていく。燃え盛る地獄から解放された村から「ンアッーーーーーーー!!」という一人の男の奇声が響き渡り、青い空の中へと溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

 重い瞼をゆっくりと開く。飛び込んで来る明るい光に思わず顔を顰めつつ、徐々に朧気な視界が鮮明を取り戻していく。目の前の光景のぼやけていた輪郭が形を成していき、ようやく元の視力に戻った時に目に入ったのは、夜が明けて昇ってきた朝日の光。そして、

 

「おはようございます、木村さん」

 

 ニッコリと、輝いた笑顔を至近距離でこちらに向けるユミナの姿。

 

「……あ、おはよう、ございます……?」

 

 普通に挨拶を返す木村。ふと後頭部に感じる柔らかい感触。背中からは感触的に草の上で寝そべっていることがわかるが、何かの枕が敷かれているのだろうかと木村は思ったが、ふとユミナがこちらを真上から覗き込むような体勢を取っていることに気付く。ユミナとの顔の近さと併せて鑑みるに、この状況は……。

 

「……え、これって膝枕されてます?」

 

「はい、膝枕されてます」

 

 木村が自分でも間抜けだと思わせる程に普通に質問すると、明るい口調で返すユミナ。

 

 数秒硬直すると、木村の顔が真っ赤に染まっていく。そして、

 

「すすすす、すいませんユミナさ……ぁぅ」

 

「あ、ダメですよ木村さん! まだ休んでないと」

 

 慌てて退こうとするも、頭の中が揺れるような感覚を覚え、ユミナに促されるように再びユミナの膝の上に頭を乗せる羽目になってしまった。

 

 ゆっくりと昨晩の記憶が蘇る。突然の魔物の襲撃。洗脳されたレイン。首謀者である夜盗の残党の罠。そこから繰り広げられる夜盗の男に一方的に蹂躙される木村……からの、一転攻勢。最後はユミナと共にワイバーンを使役した男を撃退し、そこから先は魔力と血の消費、それから疲労によって意識を失った。

 

 そして今に至る。一晩とは思えない怒涛の出来事だった。

 

「……あの、他の皆さんは……」

 

 あれだけの騒ぎ、皆は無事なのかどうか木村は確認した。

 

「ええ、皆さんでしたら」

 

 途中で区切り、ユミナはチラと周りを見やる。木村も寝そべりながら顔を横に向けると、昨晩の後始末に奔走する兵士たちが、作業の片手間にニヤニヤと木村とユミナを見つめていた。王もまた負傷した兵士たちの治療の手伝いにあたっていたが、同じくニヤついた笑みを浮かべていた。

 

「……すいません、あの、やっぱ起きても」

 

「ダ・メ・です」

 

「はい」

 

 ある意味公開処刑を受けているかのような羞恥を覚えてユミナに提言したが速攻却下。圧のある笑顔で頭を抑えられ、木村は言う通りにせざるをえなかった。成熟した精神の持ち主とは言えども12歳の少女の膝に頭を乗せている成人男性という図……どう考えてもやばい絵面でしかない。こんなの野獣たちに見られた日にはどうなるかわかったもんじゃなかった。

 

 野獣……そう言えば、竜退治に赴いた彼らはどうなったのだろうか? 無事なのだろうか?

 

「……野獣先輩たちは、無事ですか?」

 

「はい。先ほど確認が取れました。竜を討伐したようです。皆さん、流石ですね」

 

「そ、そうですか……よかった……」

 

 嬉しそうに言うユミナに、木村は心から安堵する。野獣たちなら大丈夫だと確信する一方、竜は恐ろしい相手と聞いていたため、本当のところは不安を抱いていたが、ユミナの顔からして嘘ではないと確信した。

 

「……すいませんユミナさん。膝痛くないですか?」

 

 野獣たちが無事と知ると木村の心に余裕が生まれる。ある意味自棄になっている点もあるにはあったが、それでも膝を借りているのには違いなく、ユミナを気遣った。

 

「いいえ、平気です。それにこういうの、『役得』って言うのでしょう?」

 

「すいませんその言葉誰から教わりました?」

 

「……? 野獣さんです」

 

(あいつシバく)

 

 心で固く決意した木村。

 

「けど昨日の夜は驚きました。気を失って倒れ込んでしまったんですもの。押し倒されたのかと思って期待しちゃいました」

 

「そ、それはすいま……いや何期待してんですか。やめてくださいよ本当に(懇願)」

 

「フフ、冗談です」

 

 冗談に聞こえないのだが。というかその瞬間を皆に見られたというのか。意図していなかったとはいえども少女を押し倒す成人男性とか膝枕以上に圧倒的にアウトだし、木村は死にたくなった。

 

「それよりもほら、今は休んでいてください。この状況が落ち着いたら、私たちもエルドの村へ向かいますから、それまではどうか……」

 

 そう言いつつ、ユミナは木村の頭に手を置いた。木村も負傷兵の手当ての手伝いをしたかったが、確かにまだ万全ではない。恐らく増血剤のようなものを投与されたのか、血の巡りが回復しているようにも感じるが、魔力の方はまだのようだった。

 

 今の木村ができることは何もない……それに気付き、木村は何も言い返すことはしなかった。

 

「……すいません、ご迷惑をおかけします」

 

 先程からすいませんばかり言ってるなと自覚しつつも、木村は礼を言った。

 

「迷惑だなんて思ってませんよ。私の膝で思う存分、休んでいてくださいませ」

 

「いえできれば馬車の中で一人で」

 

「木村さん?」

 

「お言葉に甘えさせていただきます(即答)」

 

 勝てねえ。勝てねえよこの12歳。木村は意味のわからない敗北感を味わいながら、身体を楽にしていった。

 

(…………それにしても、昨日のあの男……)

 

 徐々に微睡んでいく中、木村は昨晩の襲撃者について考える。状況を見るに、あのリザードマンを率いていたのはあの男。ワイバーンを使役していたのを見るに、やはり召喚者なのだろうか。

 

 いや……何だか違うような気がしてならない。

 

 あの男は小物だ。とてもあれだけの魔物を使役できる程の力があるとは思えない。それにレインを洗脳したのもあの男だとは到底考えられなかった。確証はない。だが木村の直感が叫ぶ。

 

(もしかして……黒幕は別に……?)

 

 あの男はまるで竜による襲撃も想定していたかのような口ぶりだった。つまり、この襲撃騒ぎはもっと複雑なのではないか……木村はそう考えていたが。

 

(ダメだ……思考が定まらない……)

 

 意識が落ちていく。抜けきっていない疲労が木村を夢の中へ誘おうとしているのを感じる。

 

 今はもういい。考えるのは後回しにしよう……木村は微睡に身を任せ、意識を完全に夢の中へ閉ざしていった。

 

「……寝ちゃいましたか」

 

 静かに寝息をたて始めた木村を見つめつつ、ユミナは優しい手つきで木村の頬を撫でながら、小さく笑う。

 

「可愛い寝顔ですね」

 

 無防備に眠っている木村の寝顔は少年のよう。それがどうにも愛おしく感じてならない。

 

 あえて言わなかったが、木村が気を失って倒れ込んだ時、ユミナは顔面蒼白になったものだ。もしかしたら……と、最悪を考えてしまった時、呼吸があることと確かな鼓動を感じたことで、ユミナは胸を撫でおろした。

 

 だが、ユミナはふと撫でる手を止め、暗い表情となる。

 

「……ごめんなさい木村さん。私はひどい女です」

 

 ポツリ、消え入りそうな声で呟く。

 

「私は、あなたがボロボロに傷つけられた時に何もできなかった……ただ泣き叫ぶしかできなかった。あなたを失うのが怖くて、気が狂いそうだったというのに……けれどあなたが、あの時私が叩かれたことを怒った時、私はすごく嬉しかったんです」

 

 木村が男に向けて言った言葉。ユミナが殴られたことで静かにキレたという事実を前に、ユミナの心が高揚していくのを感じた。

 

 そして恥じる。木村がボロボロになっている時に何もできなかったのに、喜んではいけないと。

 

「だから、私に何かできることはないか……ずっと考えていた結果が、これでした」

 

 木村が少しでも休めるのであれば、自分の膝など喜んで枕にしよう。そう思い、ユミナは実行に移した。

 

 勿論、義務で彼に膝を貸したわけではない。好いた男を膝枕することに、何の抵抗があろうか。

 

(……それに、あなたの意外な一面も見れましたし)

 

 声には出さないが、普段は真面目で誰にも優しい木村が、野獣たちがふざけた時に見せる物とは違う怒りの感情を剥き出しにした顔に、ときめきを覚えたこともまた事実だった。ユミナも知らない、木村のもう一つの性格を垣間見れたこと……それもまた、ユミナの心を熱くさせる。

 

「あなたはまだ、私と添い遂げることに抵抗があることはわかっています……けれど」

 

 木村がユミナとの結婚を望んでいないことはユミナとて知っている。だが、それでもと、ユミナは改めて決意を固めた。

 

「こんなひどい女ですけれど……いつの日か、あなたの背中を守れるような強い女になってみせます。ですから」

 

 言って、ユミナはそっと、眠っている木村へと顔を近づけていき、

 

「その時は、覚悟していてくださいね? ……ナオキさん」

 

 木村の額に口づけを落とした。

 

 やがては心の強かな女性となるであろうことを予感させる、そんな微笑みをたたえながら。

 

 

 

 

 

 

 

 深い森の中。木の根が張り巡らされた小さな洞穴の中、入り口から差し込む日の光から逃れるように、男はそこかしこに転がる岩のうちの一つに隠れながら身を縮こませて震えていた。

 

 寒さからではない。洞穴の中の気温は低いが、極寒という程ではなく。耳に聞こえて来る水滴が落ちる音で、ビクリと震えが大きくなる。

 

(くそ! くそ! くそ! なんで、なんでこんな目に……!)

 

 男は内心で悪態をつく。不意をついて国王が乗る馬車を襲撃し、人質に取ったまではよかった。男の目的は十分果たせた筈だ……だが、その後。あの気弱そうな青年を足蹴にした時に状況は一転してしまった。

 

 ブラッディリザードマンは全滅。国王の命も奪えず、挙句ワイバーンをも失ってしまった。ギリギリのところで咄嗟に飛び降りたおかげで大事には至らなかったが、落下の衝撃で腕の骨を折ってしまった。足首も痛めてしまったせいで動こうにも動けない。

 

 そして一晩かけ、何とかこの洞穴に身を潜めることができた。もう一歩も動ける気がしないが、そんなことはどうでもいい。

 

 男は怯える。兵士にではなく、猛獣にでもない。男の脳裏に恐怖がよぎった。

 

(最悪だ……最悪だ、最悪だ! このままだと俺まで……!)

 

 嫌でも思い出す、あの光景。かつて盗賊団のリーダーだった男は、部下に馬車の荷物を奪うよう指示した。だが結果は最悪。半数以上の部下が捕えられてしまった。

 

 苛立たしいったらありゃしない。男は地団太を踏んだ。そして部下を捕まえた連中に恨みを募らせた。

 

 そんな時……()が現れた。

 

 第一印象は、なよっとした奴だった。戦いどころか、喧嘩慣れすらしてなさそうな青年。突然、そんな奴が男の前に現れ、第一声にこう言った。

 

『僕が君たちを使ってあげるよ』

 

 何だこいつは。誰もがそう思った。男は嘲笑った。つられて他のメンバーも笑いだす。青年は笑わず、ただ男を見ているだけ。

 

 一人の部下が、下卑た顔で青年の頬を短剣の側面で軽く叩いた。バカなことを言う青年を怯えさせてやろうと、そして襲撃失敗の鬱憤晴らしに惨たらしく殺してやろうと、盗賊団の誰もが思った。

 

 

 

 3分後……リーダーの男を残し、盗賊団は肉塊へと変わった。

 

 

 

 そこから男の転落は始まった。青年の残忍極まりない所業を目の当りにして逆らう気力すらも起きず、ただただ言いなりになって動くしかなく。ブラッディリザードマンもワイバーンも、青年が「この子たちを使って襲撃してきてよ」と言われて、言う通り動いただけで。

 

 それだけなら男も怯えることはなかった。だが行動を起こす前に青年が言われた言葉が忘れられない。

 

(殺される……このままだと殺されちまう! じょ、冗談じゃねぇ! 俺は、俺はこんなところで死ぬような男じゃねぇ!)

 

 今まで好き勝手生きて来た。物を奪い、人を殺め、本能に導かれるように生きて来た。これからもそうして生きていくつもりだった。

 

 何故だ。どこで間違えた。どうしてこんな目に合わなきゃいけない……男は己を正当化させ、これまでの所業を顧みることなく、ただただ自問自答する。

 

 そうしていると、不意に洞穴に差し込む光が陰る。雲が出てきたのかと、男は思って顔を上げた。

 

 

 

「ああ、やっぱりここにいたんだ」

 

 

 

 男の顔が凍り付く。身体が硬直し、震えが止まった。

 

 洞穴の入り口に立つ人影。逆光で顔は見えずとも、声でわかる。わかってしまう。

 

「あ……あ……」

 

 男の身体が先ほどよりも大きく震えだす。何故、ここが……声に出ずとも、暗に顔がそう物語っていた。

 

「なんでここにいるのかなぁ? 面倒臭いんだよねぇ、君を探すのもさぁ」

 

 コツコツと、靴音を洞穴に響かせながら覇気のない声の主が入ってくる。やがてその全貌が明らかとなった。

 

 まだ年若い青年と言える男。くすんだ金髪。整った顔立ちをしていながら、その顔は何もない無表情……否、虚無を形にしたように何も映していない。青いスラックスに黒のシャツ。そしてその上に、襟と袖、裾にファーが付けられた雪のように純白のコートを羽織っていた

 

「い、いや、違う! 違うんだ! ただ負傷したから傷を癒すためで……治り次第戻る予定だったんだ! 逃げようとかそんなこと思ったわけじゃねぇ!!」

 

 青年の姿を認めた瞬間、男は震える声で叫ぶように言う。それはまるで命乞いをしているようにも聞こえた。

 

「ふーん……別にいいよ。君が戻って来ようがどうでも。たださ、気分悪いんだよねぇ」

 

 男の言葉などどうでもいいとばかりに、青年は男に歩み寄る。男は青年から逃れようと、痛む足をバタつかせながら後ずさる。

 

「何で僕の言うこと聞いてくれないのかなぁ? ねぇ何で? 僕言ったよね? 指示通りに動いてよって。なのに何で? 僕のことバカにしてんの?」

 

 男に詰め寄りながら言う言葉は、明らかに叱責しているものだ。だがその声にも感情は乗せられていない。それが余計に男の恐怖を煽った。

 

「し、指示通りに動いた! アンタの言う通りにした! 何も間違っちゃいねぇ! 俺は、俺は……!」

 

「指示通り動いて失敗してちゃ意味ないじゃないか」

 

「ひっ……!?」

 

 バッサリ切り捨てられた男は上ずった声を上げる。背中が硬い何かにぶつかる。洞穴の壁が、男をこれ以上逃さないとばかりに立ち塞がる。尚も男は逃げようと、足を動かして藻掻いた。

 

 そんな男の前に、青年は屈み込んだ。下から男を見上げるように覗き込む。

 

「僕が君に言ったこと、覚えてる? もし失敗したら……わかるよね? って。最後まで言わなきゃわからなかったの? やっぱり君はバカだね」

 

「や、やめ……助けてくれ! 頼む! 頼むぅ!!」

 

 男はもうなりふり構わなかった。顔を恐怖で歪ませながら涙と鼻水と唾液でぐちゃぐちゃに汚れようがどうでもいい。生存本能のままに、青年に乞う。

 

 虚無だった青年の顔が崩れる。少年のような、無邪気な笑顔。そして人の心を和らげる、そんな笑みを男に向け、青年は言った。

 

 

 

「じゃあ……死のうか(暗黒微笑)」

 

 

 

 

 

 

 洞穴の中から耳を塞ぎたくなるような断末魔が聞こえてくる。森の中全てにまで響き渡るような壮絶な声だ。その声を耳にしながら、洞穴のすぐ傍に立つ男は、鬱陶しい顔を隠そうともせずに右耳のほじっていた。

 

「助けて助けてって言うんじゃねぇよクソのくせによぉ」

 

 サングラスの奥から軽蔑の眼を洞穴の中へと向ける男。逞しい身体を網でできたボンテージのような服で包んだ奇妙な出で立ちの男は、早く終わって欲しそうに洞穴の横で欠伸をかました。

 

 やがて声が聞こえなくなる。同時、何かを切り裂き、潰す音も止んだ。しばらくすると、青年が汚れ一つないコートを靡かせながら悠々とした足取りで洞穴から出てきた。

 

「終わったよ。お待たせ」

 

「意外と早く終わったなぁ。満足した?」

 

 しれっと言う青年に、男は半笑いで問う。青年はそれに対しても虚無の顔で返した。

 

「するわけないじゃない。寧ろ不快だよ」

 

 男にはその言葉の真意がわかる。己が先ほどした所業に対して、ではなく、洞穴の中で命乞いをしていた男の言動に対して、青年は不愉快に思っているということが。

 

「それよりも、君はどうなの? あの首輪、結構苦労して作ったんじゃないの?」

 

「苦労はしたけどよぉ、あんなあっさり解除されるようじゃ不良品だよ。ったく、仕込み甲斐のない……最初は奴隷にしてやろうと思ったけど、ありゃもう用無しだ」

 

 男は舌打ち交じりに言う。そもそもラングレーの町で捕えたあの兵士。最初見た目は男好みだったというのに、色々確認してみたら男の好みに合わないことがわかり、心底落胆したものだと男は苦虫を噛み潰したような顔となった。

 

「そっか……そう言えば、あの人はどうしたの?」

 

「ああ、あいつなら死んだ連中の冥福を祈るとか言ってどっか行っちまったよ」

 

「ふーん……そうなんだ」

 

 死んだ連中……リザードマンとワイバーン、そして竜のことだろうと青年は踏んだ。青年にとってはどうでもいい存在だが、彼にとってはどうでもよくはなかったのだろう。

 

 まぁいいかと、青年は踵を返した。

 

「そうそう、あの件、あの人たちに伝えておいてね」

 

「あの件? ……あぁ、国王暗殺失敗の話か。いいのか? 伝えたら伝えたでカンカンだぜ?」

 

 何でもないように言う青年に、男が問う。それもまた、無感情に返した。

 

「いいよ別に。どうせ同盟なんて僕には関係ないしね。獣人差別とか時代遅れの連中のことなんてどうでもいいし、元々彼らの依頼はついでだったんだ」

 

 身なりのいい男から国王暗殺の依頼を受けた時は作った笑みを貼り付けていたが、話など半分しか聞いていなかった。そもそも青年の狙いは別にあったのだから。

 

「まぁ俺もどうだっていいけどよぉ……っていうかお前、確か連中の不正の情報流したとか言ってなかったかぁ?」

 

「うん、そうだよ。僕に面倒臭いこと頼んで来たんだし、その腹いせにちょっとね」

 

 フフっと表情を崩す青年。今頃、連中は顔面蒼白になっているだろうなと思いつつ。さらに国王暗殺失敗の報告をしたら、いよいよショックで死んでしまうのではないかと、青年は邪推する。男は件の連中に対して気の毒そうな顔をするも、内心では青年同様、どうでもよかった。いずれ華やかな人生から奈落の底へ転落するだろうという将来には同情はしたが。

 

「悲しいなぁ(同情)……相変わらずおっかないこと考える奴だなぁお前」

 

「アンタも似たようなものでしょ? ……目的はある程度は果たしたんだし、そろそろ帰ろうか」

 

「へいへい、じゃとっとと帰って調教でもしようかね」

 

 青年は歩き出す。男もその横に並んだ。

 

 

 

「じゃあ、行こうか。久保さん」

 

「あいよ、ミノル」

 

 

 

 ミノルと呼ばれた青年が手を翳す。すると円形に空間が歪みだし、その歪みの中へ躊躇うことなく二人は入っていった。二人の姿が消えると歪みも消える。

 

 後に残されたのは、鳥の鳴き声が遠くから聞こえてくる静かな森。そして洞穴の中には夥しい量の血がそこかしこに飛び散り、その中に散らばる肉片や骨の欠片、ズタズタに引き裂かれた内臓が織りなす地獄絵図。やがては血の臭いに惹かれた猛獣、魔物、そして蛆虫が肉片を食い尽くすだろう。

 

 

 

 世界から一人の男の存在が消失した……その事実を知る者はもう、世界のどこにもいない。

 

 

 




これにて四章は終了です。次回はミスミド王都へ。いやーやっとミスミド王都行けるね。スゲ~長かったゾ~(当社比)

私はねぇ! こういったねぇ! 舞台裏で暗躍するような連中が大好きなんだよ! 尚誰と誰かは淫夢民ならご存知ですよね?(決めつけ) 後二人のうち一人の服装はまんま原作MTDK兄貴。

では次回もよろしくオナシャス!

今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?

  • スマホ太郎(アニメ主人公)
  • 望月冬夜(原作主人公)
  • 野獣先輩
  • 三浦
  • 木村
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