「勝負はどちらかが真剣ならば致命傷になる打撃を受けるか、或いは自ら負けを認めるまで。魔法使用も可だが、本人への直接的な攻撃魔法は禁止。双方よろしいか?」
野獣と獣王、二人の間に立つ審判役の獣人が確認のために問いかける。
「うむ、それでいい」
「いや俺も別にいいんだけどさぁ……マジでやるんスかぁ?」
「ハッハッハ! 手加減は無用! 実戦と思ってあらゆる手を使い、ワシに勝ってみせい!」
「(そういう意味で言ってんじゃ)ないです」
場所は王宮の裏手に位置する闘技場内。内装的に例えるのならば、ローマのコロッセオに近い内装だった。恐らく東京ドーム一つ分はあると思われる広さがある。
野獣に決闘を申し込んだ獣王に連れられ、国王含めた一行は観客席から闘技場中央で互いに向かい合って立つ野獣と獣王を眺めていた。
「本当に申し訳ありません。獣王陛下は強い者を見ると立ち合わずにはいられない気性でして……」
「はぁ……心中お察しいたします……」
木村に向かって謝罪するのは、この国の宰相であるグラーツと名乗った灰色の翼を持つ有翼人だった。自由奔放なトップの後処理をする役目を担う彼の苦労が垣間見えるようで、ひどく疲れた表情をしていた。
「先ほど野獣殿にもお伝えしましたが、ここは一つガツンと痛い目に合わせてやった方が王様のためです」
「……いや、お気持ちはわかりますけどいいんですか? 相手は王様ですよ?」
苦労はしているだろうが、王様相手にその物言いはどうなんだと木村は思う。しかしグラーツは「何の!」と首を振ってそれを否定。
「いいのです! 大体陛下は国務を一体なんだと思っているのか! ふらりといなくなったかと思えば戦士団の訓練に参加して、挙句の果てに全員ぶちのめしてるし!」
「この間も新しい武器を思いついたとか言って行きつけの鍛冶屋へすっ飛んでいきました! その後予定がズレにズレて、私がどれだけ苦労をしたと……」
「私には国を挙げての武闘会を開こうなど言われましたよ! 予算なんかどこにも無いのにどないせいっちゅーねん!? なぁ!?」
「わ、わかりましたわかりました! っていうか、何で僕に言う必要なんかあるんですか!?」
「木村は聞き上手だからな~。みんな木村に愚痴を言いたくなるんだゾ、きっと」
「うわぁ……木村さんも大変だなぁ」
グラーツのみならず、ミスミドの重臣が一斉に木村に詰め寄る勢いで獣王の愚痴を声高に叫ぶ。圧倒される横で三浦が呑気なことを言って、冬夜はそんな木村を気の毒そうに見ていた。
「おーい、そろそろ始まるでござるよー」
そんな彼らに声をかける八重。言う通り、野獣と獣王の一騎打ちが今にも始まろうとしていた。
片やワクワクを抑えられないような面持ちで楽しそうな獣王。片や面倒臭いという感情を隠すことなくげんなりしている野獣。二人とも右手に殺傷能力の低い直剣型の木剣、左手に丸い木の盾を手にしている。
「では……始め!」
審判が掲げていた右手を勢いよく振り下ろす。それが決闘開始の合図だ。
「遠慮はいらん! そなたの本気を、ワシにぶつけてこい!!」
「しょうがねぇな~……受けて立ってやるか!」
もうなるようになれ。半ばやけくそで野獣は剣を構える。獣王も剣を構え、野獣へと迫った。
「おおおおおおっ!!」
先手は獣王。凄まじい気迫と共に木剣が野獣の盾に打ち込まれる。鍛え抜かれた身体から繰り出される一撃により、野獣は盾を通して衝撃を受ける。
「ヌッ!」
それが何だと、野獣もまた仕返しとばかりに脇目掛けて剣を振るう。獣王は盾を振るってそれを弾き、再び野獣へと剣を振るう。野獣はそれを一歩後ろへ跳んで躱す。
「甘い!」
が、逃さないとばかりに獣王の神速の突きが胸へ目掛けて放たれる。それを野獣は身体を横へズラして回避、したかと思えば、再び突きが野獣の喉元へ。
「ファッ!?」
咄嗟に首を横へ傾け、これも回避。このままでは後手に回ると判断した野獣は、避けることよりも攻めることを中心に立ち回り、盾を剣を駆使して獣王へ攻撃を繰り出していく。
「ホラホラホラホラホラホラホラッ!」
「ほほぉ!」
シンプルな唐竹割、薙ぎ払いに留まらず、低い姿勢からの水面蹴りや身を捻っての回転切り、さらにはアクロバティックな動きからの連続切りと、怒涛の勢いで剣を振るう。それら全てを獣王は剣と盾で受け止めていくも、反撃の隙が見つからない様子。しかし尚も感心した面持ちで、獣王は笑う。
「変わった戦い方だな! 見事だ!」
言って、野獣を賞賛する。
「……だが」
直後、不敵な笑みを浮かべた。
「アクセル!!」
獣王が叫ぶ。野獣が獣王目掛けて突きを放った瞬間、獣王の姿が消えた。
「ファッ!? 消えたぁ!?」
一瞬、呆然とする野獣。と、不意に背後から殺気を感じ取った野獣は、反射的に屈んだ。野獣の頭の上を通り過ぎる木剣。屈んだ勢いで前転して距離を離して顔を上げると、してやったりと言わんばかりの顔をしている獣王の姿。
「今のを避けるか! やるな、野獣とやら!」
驚いていたのは野獣だけではない。遠くからでもそれを見ていた木村たちも、獣王が消えた瞬間を目の当りにして唖然としていた。
「い、今のって……もしかして、無属性魔法ですか?」
「そうみたい、ですね」
木村に答えるように、ユミナがポツリと言う。
「『アクセル』……確か、身体の素早さを上げる魔法、だったと思います。扱いが難しく、魔力の消費も激しかった筈です」
「ブーストとは違うの?」
リンゼの解説に冬夜が質問を投げかける。
「はい、お姉ちゃんや冬夜さんが使うブーストも確かに素早さは上がりますが、飽く迄あれは身体強化魔法なので、アクセルは純粋に脚力のみを上げる魔法、みたいな感じです」
「あ~もう一回言ってくれ(チンプンカンプン)」
「え!? え、えっと、アクセルは」
「すいませんリンゼさん、このバカは放置でいいです」
「ポチャ(情けねえ)」
話の半分程度しか理解していないボケ~っとした三浦に律儀にもう一回説明しようとしたリンゼを止める木村。横でポッチャマもため息一つ。
「なるほど……ミスミド王はそのアクセルを利用し、野獣殿の背後に回ったということでござるか」
「あたしのブーストとは勝手が違うみたい。流石の野獣もこれには苦戦しそうね」
八重とエルゼは野獣が不利であることを悟り、戦いを見守る。今も尚、アクセルを駆使して翻弄する獣王に、野獣は手をこまねいている状態だった。
「フハハハッ! どうだ野獣殿! 何だったら降参してもよいのだぞ!?」
「ダニィッ!?(Z戦士) ちょっと速いからって調子乗って、頭にきますよ!?」
獣王の挑発に乗る野獣だが、現状ではかろうじて獣王の攻撃をギリギリで躱し続けるしかない。今は避けれていても、いずれは野獣の体力が持たずに一撃をもらってしまうことは確実だ。
「おっぶぇ!?」
そして早速、野獣すらも避け切れない一撃が真横から迫る。咄嗟に盾を掲げて防御、しかし速度を伴った一撃による衝撃の強さから盾が野獣の手から離れ、遠くへ転がっていった。
「盾を失ったか! もはや防ぐ手はないぞ!」
獣王が勝ち誇る。この素早さを前にして、盾のない状態で立ち向かうのは愚の骨頂。誰もがそう思っていた。
だが野獣は取り乱さない。盾が無いから何だと言うのだ。顔がそう物語る。
「……まだ剣がありますあります……!」
野獣は剣を持ち直し、体勢を立て直す。いまだアクセルの魔法による効果で、獣王の姿は見えない。それでも時折風を切る音が近くで聞こえ、いつ獣王の一撃が叩き込まれるかわからない。
その中でも、野獣は大きく息を吸って、吐く。思考をクリアにし、瞳を閉じる。視界は闇へ、意識を耳へと集中させた。
(慌てない慌てない……いかに速く動こうとも、何も瞬間移動で消えたわけじゃない)
獣王の気配が四方八方から感じる。どこから攻めるかを考えているのだろう、しばらく野獣の周りを走り回っているようだ。
(昔、合宿訓練で先生が課した修行の一環で真っ暗闇の洞窟の中での練習……あの時の苦しい思い出、生き返れ生き返れ)
獣王の足音と、風の音。双方の音は一定の大きさを保っている。かつての練習の時もそうだ。音のない足運び、そして気配すらも消して暗闇の中から奇襲をかけてくる先生から一本を取ることは困難を極めた。
(目で追うな。耳で聞き、気配を察知しろ……そして)
瞬間。
「そ↑こ↓ッ!!」
野獣の鋭い眼光が気配を射抜く。
「な、なにぃ!?」
野獣が木剣を振るった先に、剣を突き出した獣王の姿。剣と剣が硬い音を響かせ、獣王が驚愕に彩られた顔で目を見開く。
「FOO! 気持ちいい~!(爽快感抜群)」
自分の読みが当たったという事実に、野獣のテンションは鰻登り。一方、獣王は舌打ちし、再び野獣から距離を離し、別方向から打ち込むも、それすらも野獣は振り返ることなく防いだ。
「もうアクセルは通用しないって、はっきりわかんだね!!」
「うお!?」
すかさずカウンターで切り返す野獣。咄嗟に回避したものの、アクセルを破られた衝撃から獣王はたたらを踏んだ。
まさに千載一遇のチャンス。それを野獣は、
「行きますよ~行く行く~!!」
勿論、逃すつもりは一切ない。
「ぐぁっ……!?」
獣王の胴を狙った一撃。野獣の手から獣王の身体を打ち据える感触が伝わる。そして木剣を振り抜き、獣王の背後に立つ。
誰もが押し黙り、闘技場が静寂に包まれる。やがて沈黙を破ったのは、獣王の呻き声。木剣で身体を支えようとするが耐えきれず、獣王は膝を着いてしまう。
「く…………み、見事、だ」
アバラに走る激痛。その苦しみを堪えながら、獣王は笑みを交えつつ、野獣を讃えた。
「勝者! 野獣殿!!」
それすなわち、獣王の敗北宣言に他ならない。瞬間、観客席から拍手と歓声が響いた。
「素晴らしい戦いだった! ミスミド王と野獣殿との激闘、しかとこの目に焼き付けたぞ!」
「お見事です野獣殿!! よくぞやってくれた!!」
「いや、宰相さん、アンタ確かに痛い目に合わせて欲しいって言ってましたけどそこまで堂々と王様の前で言います普通?」
「すごいゾ野獣! めっちゃド迫力な戦いだったゾ~これ!」
「ポチャァ!!(お前やっぱパねぇわ)」
観客席から飛んでくる国王と木村たちの歓声に、野獣はスーパースターのような投げキッスで応えていく。獣王はというと、回復魔法が使える配下の獣人によって痛みが消えたことで、二の足でしっかりと立ち上がった。
「やはり、ワシの目に狂いは無かった。さすがドラゴンを仕留めた猛者だ」
「ありがとナス! けど正直めっちゃギリギリだったんだよな~!」
「謙遜するな。そなたのおかげでワシは自分の魔法に絶対の自信を持ち、思い上がっていることに気付けたのだ。礼を言うぞ」
厳つい顔に浮かぶ笑みは、穏やかな物。だがそれもすぐに好戦的な笑みへと変わった。
「だが、次は負けん。この結果を戒めとし、いずれまた一戦交えようぞ!」
「ファッ!? クゥ~ン……(ウンザリ)」
再戦を強引に約束された野獣はげんなりするも、獣王と互いの健闘を讃えて固い握手を交わす。互いに獣の名を冠する者同士の激闘は、こうして幕を下ろすのだった。
~1145141919分後~
野獣と獣王の突発的に始まった激闘を終えたその日、ベルファスト国王来訪を祝した宴が催された。城の広いホールを使っての立食式のパーティでは、獣人だけでなく護衛として活躍したベルファスト兵たちも集っており、違う国の者同士で笑い合い、語り合っている。そこに国境という物はなく、お互いよき隣人であることを互いに思っていることを示していた。
今回、冬夜たちはミスミド側が用意してくれた衣服に身を包んでいる。白いゆったりとした上下と黒いベストに、幅広の紺の帯と身体に幾重にも巻かれた布。さながらかの有名な千夜一夜物語のアラビアンナイトを彷彿とさせる衣服だった。
冬夜は一人、グラスを手にパーティ会場を眺めていた。野獣たちの姿はおろか、女性陣の姿も見えない。野獣たちはともかく、女性陣も正装に着替えているところなのだろう。琥珀も護衛として側につけさせているため、心配はいらないが。
「さすがに王様の歓迎パーティだけあって、豪華だなぁ」
国王が直接ここに訪れずに冬夜たちだけがここに来ていたら、ここまで立派な宴にはならなかっただろう。冬夜は漠然とそう思い、一人ごちる。
「冬夜殿、楽しまれておられますか」
「あ、リオンさん」
ベルファストの兵隊長のリオンが、鎧を脱いでお洒落な燕尾服という出で立ちで冬夜の下へとやってきた。こういった場ではあるが、将軍の息子というだけあり、その顔に緊張はない。寧ろ慣れている様子だった。
内心で冬夜はリオンのような服でもよかったのではないかと思いもしたが、そこは用意してくれたミスミドの人たちの手前、黙っていることにした。
「……あの、オリガ殿はどこですかね? 他の皆さんも姿が見えませんが……」
「う~ん、オリガさんは知りませんけど、野獣さんたちなら……」
さりげない風に聞いてくるが、明らかにオリガのことを気にしている風なリオンに冬夜が答えようとした。
その時、会場の入り口辺りがざわめき出す。何かあったのだろうかと、冬夜とリオンが視線をそちらへ向けた。
「やっほー冬夜。お待たせ」
「お、お待たせしました、冬夜さん……」
人込みが分かれるようにして散ると、そこからエルゼとリンゼが装いを新たにして冬夜に歩み寄ってきた。その後ろではユミナと八重、オリガの姿もある。傍らには琥珀も付き従っていた。
エルゼたちもまた、民族衣装のような独特な衣装を身に纏い、人々の視線を一身に受けている。エルゼは赤でリンゼは青、八重は紫、ユミナはピンクと、それぞれ色は違えども、注目を浴びる程に美しさを際立たせていた。オリガはというと煌びやかなパーティドレスに身を包み、髪には花の髪飾りが光っている。
「おぉ、冬夜殿もなかなか様になっているでござるな」
「ええ、お似合いですよ。ミスミドの貴族のようです」
「そ、そうかな? ありがとう」
八重とユミナに誉められ、鼻を掻きながら照れる冬夜。ふと横を見れば、美しく着飾ったオリガの姿をポーッと見つめているリオンの姿。心ここにあらずといった風で、何となくリオンの目の中にハートマークが浮かんでいるようにも見える。
「どうでしょうか、リオン殿。似合っていますか?」
「……ひゃ、ひゃい! あ、いや、はい! と、とてもよくお似合いです!!」
やや頬を赤らめ、上目遣いでリオンに聞くオリガ。それがリオンの心臓をさらに跳ね上げたようで、噛みながらもオリガの姿を誉める。語彙こそないが、それだけで十分リオンの気持ちが伝わってきたらしく、オリガは嬉しそうに微笑んだ。
(へぇ……これは脈あり、かな?)
内心ニヤニヤする冬夜。そんな彼に、エルゼとリンゼが声をかけた。
「それで? あたしたちはどうよ?」
「に、似合ってるでしょうか……?」
「え? あ、ああ、うん。すごく似合ってるよ」
冬夜も冬夜でそれだけしか言葉が見つからなかったが、二人はそれだけでも満足した様子で、エルゼは頬を赤らめながらもドヤ顔を決め、リンゼは顔を真っ赤にして俯くのだった。
「……あの、冬夜殿? 一つお尋ねしたいのでござるが」
「あ、私も。木村さんはどこに?」
一方、二人もまたこの姿を見せたい者がいるにも関わらず、当の本人たちの姿が無いことに疑問を覚え、冬夜に聞いた。
冬夜は一瞬、言うのを躊躇った。しかしここで教えてあげるのが二人のためと思い、親指で後ろを指し示す。
「……三人だったら、あそこに」
ため息交じりに冬夜が言う。そしてその示した先では、
「ダハハハハハハハハ!! いい飲みっぷりだな野獣殿!! ますます気に入ったぞ!!」
「ありがとナス!! ジャムさんもガンガン飲みますねぇ!!」
「フフフ、酒には自信があったが、これでは二人に負けてしまうな」
「何をおっしゃるベルファスト王! そなたもまたよき飲みっぷり!! さすがは国を治めるに値する器の持ち主だ!!」
「酒をどれだけ飲めるかどうかで王様が決まるんスかぁ?」
「あながち間違いではないな。だがやはりそなたら二人に負けるようではまだまだよ」
「嬉しいことを言ってくるな! よし、ここにとびきりのワインがある! 三人で乾杯するぞ!!(五回目)」
「あぁいいっスねぇ~! ベルファストで飲んだワインも最高だったし、やっぱミスミドの酒や食い物は美味いって、はっきりわかんだね!!」
「うむ、今宵は飲み明かそうではないか!!」
「「「はっはっはっはっはっは!!」」」
国王二人に挟まれながら顔を真っ赤にし、二人と肩を組んで爆笑している野獣と、
「美味いゾ~これ! ほら、アルマちゃんもこっち来て、アルマちゃんも食べてみろよ」
「はい、とっても美味しいです! あ、これとこれ、合わせるとより美味しいんですよ! 試してみてください!」
「お、いいゾ~これ! サンドイッチみたいだなぁ。ポッチャマもこれ食ってみろよ。ちゃんと二本加え入れろ~?」
「ポチャポチャポチャポチャポチャ!!(うめぇうめぇ! 豪華な料理超うめぇ!!)」
オリガのようにドレスを纏ったアルマと一緒に豪華な料理に舌鼓を打つ三浦&ポッチャマと、
「木村殿! これを是非食べてみてください!」
「あぁ、ありがとうございますレインさん。ところで、あれから身体の方は大丈夫ですか?」
「はい、お陰様で! あのまま王様だけでなく、仲間たちも傷つけていたらと思うと、今でも恐ろしいです……でも木村殿のおかげで、そんな最悪な事態にならずに済みました! この御恩、一生懸けてでもお返しします!!」
「いや、そんなこと……レインさんが無事なら、僕はそれで大丈夫ですから。これからもどうか仲良くしてくださいね?」
「っ! ……は、はい!!」
ウサギ耳の少年兵士レインから憧憬+@の感情が込められた瞳で見つめられている木村がいた。
「…………………いや、わかっていたでござる。わかっていたでござるが…………」
「もう、木村さんったら……」
せっかく異国の衣装を身に纏っているというのに、肝心の相手は食事やら他の者との会話に夢中と来た。致し方ないとは頭でわかっていても、色々思うところはあるようで。八重は眉間の皺を指で抑え、ユミナは頬を膨らまして不満を顕わにした。
「っていうか野獣。あいつ何してんのあれ。ねぇ。何で仲のいい飲み友達感覚で王様と肩組んでんの。しかも二人」
「アワワワワ……」
「うん、もう僕は慣れた」
震えながら指さすエルゼと、顔面蒼白になるリンゼ。あと何回この光景を目にするのだろうかと冬夜はぼんやりと思いながら笑う。
宴は進む。ミスミドの城の中に、二人の国王と一人のバカの笑い声が反響するのだった。
~36分4秒後~
「ぬわぁぁぁぁぁぁん飲みすぎたもぉぉぉぉぉぉん」
ドサリ。野獣は身体を会場の外にあるソファの上に投げ出す。恰好こそ冬夜と同じアラビアンナイトのような服だが、足を広げてソファに座る野獣の姿だと、まるでチンピラにも見える。
国王二人と飲んでいた野獣だったが、お手洗いに一度席を外し、戻る途中で火照った身体を冷まそうと考え、今こうして休息を取っている。会場からやや離れた場所に位置するここからだと、賑やかな声は遠くに聞こえる。窓から差し込む月明かりもあって、静かで落ち着く場所でもあった。
「いや~やっぱ外国っていいっスねぇ。新鮮な気分を味わえるし、その土地特有の美味いもんも食えるし。来てよかったぜ」
料理も美味いし酒も美味い。言うことなしな野獣は、楽し気に呟きながら城の廊下を眺めていた。
「…………ん?」
ふと、視線の先の暗い廊下で妙な物が横切ったことに野獣は気付く。明かりの下に近づいてきたそれの正体を前にして、野獣は思わず目を見開いた。
「ファッ!? 何だこりゃ?」
それは一言で言うならば、熊だった。猛獣の現実的な熊ではなく、円らな瞳に大きな頭と丸っこい身体と短い手足。所謂熊のぬいぐるみ。
そんな物が、まるで意思を持つようにポテポテと可愛らしい音を鳴らしながら野獣の前まで歩み寄ってきていた。高さ50センチ程の抱きかかえられる程度の大きさの熊のぬいぐるみは、首の巻かれたチェック柄の大きなリボンを揺らしつつ、やがて野獣の前で立ち止まった。
「……飲みすぎたかな。ぬいぐるみがめっちゃ俺のこと見てる気がする……」
幻覚かと思った野獣は眉間を抑える。そして再び前を向けば、変わらずそこに佇むぬいぐるみの姿。黒いビーズの瞳がじーーーーーーーっと真っ直ぐ野獣の目を見つめ、動こうとしない。
「……えぇっと、なんスか?」
何か用があるのかと、野獣が問う。返事はなく、しかし熊は動きを見せる。野獣に向かって短い手をクイクイと動かし、再び歩き出す。その仕草はまるで「ついて来い」と伝えているようにも見えた野獣は、ものすごく怪しいと思って従うことを躊躇う。
動こうとしない野獣を待つように、振り返って野獣を見つめるぬいぐるみ。ずっと見つめてくるため、埒が明かないと判断した野獣は、大人しく付いて行くことにしてソファから立ち上がった。ついて行かずにやばい結果になっても困るし、いざとなったら迫真空手で切り抜けようと決め、野獣は前を歩く熊の後ろをついていく。
やがて一つの部屋の前に辿り着く。明らかに手が届かない位置にあるドアノブを、ジャンプして器用にノブを回し、開く。そして中に入ると、またも手招きをして野獣を誘う。
「何なんだぁ?」
警戒しつつ、野獣は部屋に入る。そこそこ広い部屋の中は薄暗く、外から入り込む月明かりのみが照明となっている。ぼんやりとした光の中、目に飛び込んで来るのは家具と、たくさんのぬいぐるみの数々。そして、
「あら、随分と変わったお客さんを連れてきたわね、ポーラ?」
窓際に置かれた椅子に座る、一人の少女。月の光に反射して煌めく銀の髪のツインテール、フリルの付いた黒いドレスとヘッドドレスという、所謂ゴスロリ衣装を身に纏っている。そんな少女は黄金色の瞳を妖しく光らせ、野獣を見据える。
野獣は驚く。熊のぬいぐるみも相当だったが、それ以上に少女の姿の方が衝撃だった。
小柄な少女の背中が、銀の髪以上にキラキラと光る。それは薄く半透明な羽根だった。
好きなキャラランキング3位のリーンさん登場回だゾ~これ。いやーここまで長かったですわぁ。書いてて楽しいったらありゃしねぇぜ!
あ、そうだ(唐突)
ここで宣伝。鬼滅の刃×仮面ライダーゼロワンの中編クロス『鬼滅の蠍』書いたゾ。興味ある人はみんな見てくれよな~頼むよ~。
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
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スマホ太郎(アニメ主人公)
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望月冬夜(原作主人公)
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野獣先輩
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三浦
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木村