次回はもうちょい長くするから許して……許して……。
「ファッ!? 妖精!?」
神秘的な光景を前にした野獣の口から出てきたのは、元居た世界でもポピュラーなファンタジー世界の種族の名。背中から蟲に似た透き通った羽根を生やした人間と来れば、まず妖精をイメージするのも無理からぬことだ。
「ええ、いかにも私は妖精よ。それで、ポーラに招かれたとはいえ、突然部屋にお邪魔してきたあなたはどなたかしら?」
驚く野獣に対し、月明かりの下で笑みを浮かべつつ、少女特有の高い、しかしどこか艶やかさを感じさせるしっとりとした声でそう尋ねる。確かに、突然部屋に見知らぬ男が現れれば疑問に思うのも当然かと、野獣は改めて自己紹介をする。
「ああ、俺は田所。みんなからは野獣って呼ばれてるから、是非野獣って呼んで、どうぞ」
「ふーん……名前からしてイーシェンの生まれ?」
「そうですねぇ……ふたいたいは(曖昧な返答)」
「……ふたいたい? 変な言葉を使うのね、あなた」
イーシェンではなく異世界の日本生まれなのだが、話をややこしくするのもどうかと考えた野獣は、曖昧に誤魔化すに留めた。
一方で少女はじっと野獣を見つめており、やがて「あぁ」と思い出したかのように言葉を発した。
「なるほど、あなたね。噂は聞いているわよ」
「噂?」
「ええ。肌がまるで人糞のような男が竜を仕留めたって。あなたが噂の竜殺しかしら?」
「ファッ!?」
唐突な罵倒混じりの質問に、思わず野獣が素っ頓狂な声を上げた。
「ちょ、何だよその噂!? 誰が人糞のような男だよ!! 頭にきますよ!!(風評被害)」
「フフッ、冗談よ冗談」
「あのさぁ……初対面でいきなり冗談かまされる相手の身になってみてもいいんじゃない?(半ギレ)」
何故ゆえに初対面の少女にいきなり笑い混じりにからかわれなければいけないのか。野獣の額に典型的な怒マークが浮かんだ。
「大体、竜殺しとか大袈裟だっての。俺はただトドメさしただけで、仲間のみんなが力を合わせた結果だって、はっきりわかんだね(謙虚)」
「あら、外見に見合わず案外謙虚なのね、あなた」
「一言余計なんですがそれは」
ここまでの流れで、野獣は目の前でクスクス笑う少女が相手をおちょくることを楽しむ性格の持ち主であることに気付く。同時、何だか厄介な奴に目を付けられたかもしれない、とも思った。
「……そんで、そういうアンタは誰なんですかねぇ? こっちが名乗ったんだからそっちも名乗るが礼儀だって、それ一番言われてるから(常識)」
「あぁ、ごめんなさい。確かに失礼ね」
どうにもわざとらしい気がするが。ともあれ、少女は自己紹介を始める。
「私はリーン。妖精族の長、リーンよ。それでこっちはポーラ」
少女改めリーンは、横に立つぬいぐるみに目配せをする。ぬいぐるみことポーラは、片足を軸に一回転、そして恭しくお辞儀をした。まるでミュージカルの劇団員だ。
「長? はぇ~……その若さですっごい立派」
「お褒めいただき光栄ね。ともかく、よろしくね田所」
「……え、いやだから野獣って呼んでって言ったじゃんアゼルバイジャン」
「あら、本名は田所なのでしょう? なら私があなたのことをどう呼ぼうが勝手じゃない?」
「あ、そっスね(反論の余地なし)」
この世界に来て、今まで自分のあだ名で呼んで欲しいと伝えた相手はみんな野獣と呼んでいただけに、まさかのあだ名呼びをスルーされるとは予想していなかった野獣は、リーンの正論を前に何も言えなかった。
「あぁ、後こう見えて私、あなたよりずっと年上よ? 妖精族は長寿の一族だからね」
「へ? じゃあアンタいくつなんだよ」
「そうねぇ……まぁ600歳は確実に超えてるわね」
「年上スギィ!?」
「とりあえず612歳ってことにしといて。面倒だし」
「えぇ……(困惑)」
自分の年齢なのに、と野獣は思ったが、さすがにそこまで生きていたら実際の年齢など数えるのも億劫になってしまうものなのだろうか。彼女のような途方もない年月を重ねる種族と比べれば短命な人間である野獣には、理解できない領域だった。
しかし、なるほど妖精か。だとしたらこの見た目不相応の大人びた口調や雰囲気は納得ができる。
「にしても、見た目完全に子供じゃん。妖精族って成長遅いんスかぁ?」
「……妖精族はある一定の年齢になると成長が止まるのよ。人間でいうところの十代後半から二十代前半辺りで……後はわかるでしょ?」
「あ、ふ~ん(察し)」
拗ねたように唇を尖らせるリーン。精神は成熟しているようだが、こうして見ると普通に子供のようにしか見えないのだから、言わなければ彼女が600歳超えとは誰も思わないだろう。
そしてそんな彼女をよしよしと慰めているぬいぐるみのポーラ。それを見て、野獣は疑問に思ったことを口にした。
「っていうかさぁ、ポーラって一体何もんだよ。召喚獣?」
「いいえ? ポーラは正真正銘のぬいぐるみよ。動いているのは私の無属性魔法『プログラム』が働いているおかげね」
「プログラムぅ? 『イ〇テル入ってる』ってか」
「イ〇テル? 何それ?」
「いやこっちの話」
さすがに異世界でこのフレーズは通用しないかと、野獣は言ってちょっぴり後悔した。
「……まぁ、いいわ。プログラムは無機物にある程度の命令を入力して動かすことができる魔法よ」
「ふ~ん。例えばどんなん?」
「ん~、そうね……例えば」
リーンは椅子から立ち上がり、自分が座っていた物とは違う椅子に向けて手を翳す。そして意識を集中させるように目を閉じると、手の先に魔法陣が展開され、それと連動するように椅子の下にも魔法陣が浮かび上がる。
「プログラム開始/移動:前方へ二メートル/発動条件:人が腰かけた時/プログラム終了」
椅子の下の魔法陣が消えると、リーンはおもむろに椅子に腰かけた。
「お……お~!」
すると、リーンを乗せたまま椅子がひとりでにゆっくり動き出し、リーンの命令通り二メートル程進み、驚く野獣の前でピタリと止まった。
「……と、まぁこんな感じね。こうやって魔法による命令を組み込むことができるのよ」
「FOO! すっげぇ! それってどんな命令でもできんの?」
野獣が興奮した面持ちで目を子供のように光らせながらリーンに聞く。
「さすがに制限はあるわよ。例えば『飛べ』っていう命令とかは無理ね。組み込めるのは簡単な動きくらいだから。まぁ、鳥の模型の羽を動かして飛ばす、とかならできるわ」
「へ~……じゃあポーラにはどんな命令組み込んでんだ?」
「色々よ。伊達に長い時間を生きてないからね。その分、様々な命令をポーラに組み込み続けてるから、ある意味では自我があるようなものね」
「はぇ~……なんか芸術的!」
誇らしげにえへんと胸を張るポーラに、野獣はポンポンと頭を撫でながら考える。
(これ、木村と冬夜に教えてやったら面白そうだなぁ。あいつらならどんな風に使うのか気になりますねぇ!)
全属性だけでなく無属性魔法すら使いこなす二人のことを思い浮かべ、戻ったら早速教えてやろうと野獣は考えていた。ポーラのようなぬいぐるみをプラグラムしたら、恐らく可愛いものが好きな三浦や八重たちは大喜びするだろう。
「……そういや何でポーラは俺をここに呼んだんだ? そのプログラムの魔法が理由だろ?」
ふと気になることをポーラと目線を合わせながら聞いてみる野獣。さすがに言語機能までは組み込めないようで、ポーラは無垢な瞳のようにビーズを煌めかせながら野獣を見上げているのみ。代わりに主であるリーンが答えた。
「ポーラにプログラムで『気に入った人間がいたら連れてきて』っていう命令を組み込んでおいたのよ。それであなたが連れて来られたってわけ」
「俺が? 何でだよ」
ただソファの上で酔い醒ましをしていただけだったというのに、どこを気に入ったのか野獣には皆目見当つかなかった。
「……一つ聞くけど、あなた魔法は使える?」
「いや全然(即答)」
GOによって転生させられた当初、野獣も木村の見様見真似で使ってみようと試みたことがある。が、結果は不発。魔法のまの字も出なかった。人の中には誰しも魔力はあると言われているが、野獣には魔法の才能そのものは無かったということだ。
「ふ~ん……」
リーンは野獣の返答を聞き、じっと野獣を見つめる。まるで見定めるかのような目付きに、野獣は居心地の悪さを感じる。
「……で、それが何スか? ポーラが俺を連れてきた理由に関係あんの?」
「さぁ、ね。けどよかったじゃない、ポーラに気に入られたようで」
「ん……まぁ確かに悪い気はしねぇよなぁ」
ポーラを持ち上げて照れたように言う野獣に、リーンは悪戯っぽく笑う。その顔はどこか小悪魔めいた雰囲気を感じ取れたが、野獣を見るその目は好奇に満ちていた。
「けど、確かにあなたと話していると楽しいのは事実よ? ちょうど暇してたし、もっと色々お話を聞かせてくださらない? 竜殺しさん」
相も変わらず笑みを浮かべるリーン。幼い外見に見合わない扇情的な仕草で野獣を誘うが、野獣は申し訳なさそうに顔を顰めた。
「あ~、悪ぃんだけどまだパーティの途中だからさ、友達待たせてんだよなぁ。そろそろ戻らねぇと。っていうか、アンタはパーティ行かねえの?」
「生憎、ああいう人の多い場所はあまり好きじゃないのよ」
「あ、そっかぁ……じゃ今度また遊びに来るから許してくれよな~頼むよ~」
「……しょうがないわね」
好きではないのなら無理強いはできない。今頃、野獣の友達こと国のトップ二人組はワインからエールへとシフトしているところだろうかと思いながら、野獣はポーラを下ろして、リーンへ背を向けた。
「じゃ、また来ますよ~来る来る」
「ええ、じゃあね」
不服そうな顔を顕わにしているが引き止めることなく、リーンは野獣を見送った。野獣はリーンに手を振ってから、後ろ手で扉を閉める。
「さぁって、じゃあ早く戻るとするかぁ。王様たちと飲み比べ勝負の続きだど~!」
野獣は廊下を鼻歌混じりで歩く。もうすぐパーティ会場へ着くというところで、見知った人物と遭遇した。
「あれ、野獣さん? 今までどこに行ってたの?」
「お、冬夜!」
パーティ会場の熱気に充てられたせいで昂った気持ちを静めるためか、窓を開けて外の空気を吸っている冬夜の姿があった。野獣はちょうどよかったと、冬夜の下へ歩み寄る。
「ちょっとトイレ行ってたんだけどさぁ、ちょうどよかったぜ。さっき偶然すごい魔法使う奴と会ったんだけどよ」
「すごい魔法?」
「そうそう! 後で木村にも教えてやるんだけどさぁ」
そうして野獣は、冬夜を連れ立ってパーティ会場へ戻る道すがら、先ほどリーンが見せてくれたプログラムの魔法について細かく説明していくのだった。
「……なるほど」
野獣が去り、再び夜の静寂が訪れた部屋の中で一人、リーンはポーラをそっと持ち上げて膝に乗せる。ポーラはリーンに背中を預ける形でリラックスな体勢を取った。
「この子が連れて来るくらいだからどんな人間かと思ったけれど……確かに、面白い人だったわ」
リーンは野獣に伝えていない。プログラムしたのは『ポーラが気に入った人間を連れて来る』のではなく『リーンが気に入るような人間を連れて来る』という命令であったことを。ポーラが野獣を連れて来た理由を改めて考えながら、リーンはポーラの頭を撫でる。
「竜殺し……田所……フフ、不思議な男」
変わった言葉遣いに不遜な態度、そして子供らしい感性。しかし言葉の端々から感じられる人のよさから、彼は根っからの善人であることがわかる。もっとも、それだけでリーンが気に入るかと言われればそうでもない。そんな人間は長い時を過ごしてきた彼女にとっては大して珍しくはないからだ。魔法の才能に満ちているかと思えば、そうでもなかった。
リーンは己の魔法に自信を持っている。故にポーラにかけたプログラムの魔法が、何の理由もなしに彼を連れてきたとは到底思えない。恐らく、ポーラが連れ来た本当の理由は、野獣の中にある『何か』だろう。魔法の才能とは違う『何か』……それが何なのかはまだわからないが、逆にそれがリーンの好奇心を大いに刺激した。
600年以上生きてきて、興味を持った人間は何人かいる。そのいずれもが魔法の才能の有無だったが、ここに来て才能とは別の新たな興味が湧いたことに、リーンは笑いを堪えることができない。
「……また会いましょう、田所。次はもう少し、あなたについて知ることができればいいのだけれど、ね」
短時間とは言えど、久々に有意義な時間を過ごせたと実感するリーン。暗い室内の中で、月明かりのように儚い光を放つ羽根が揺れた。
MTDK兄貴が気に入られた理由=無属性魔法使える上に全属性魔法も使えるという魔法の才能のすごさ
野獣先輩が気に入られた理由=ポーラが気に入ったからには自分も知らない何かがあるに違いない&割と話していて面白い
リーンに「無属性以外ではどの属性を使えるの?」と質問されたMTDK兄貴の「全属性使えるけど?」というしれっとした一言を聞いて『流石MTDK兄貴! 俺たちにできないことを平然と言ってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるぅ!」と思ったものです。ひにくじゃないよ?(棒)
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
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スマホ太郎(アニメ主人公)
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望月冬夜(原作主人公)
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野獣先輩
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三浦
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木村