あと(原作にこんなレレスの村の設定は)ないです。
レレスの村まであと少しというところ、リオンが不意に空を見上げた。
「……少し、雲が出てきましたね」
「ん、さっきまであれだけ晴れてたのになぁ」
雲一つない、日の光が心地いい気候だったが、曇り空という程ではないにしても大きな雲が空に幾つも浮かび始め、そのうちの一つが太陽光を遮っていた。それによって心なしか野獣の声のトーンが下がる。馬車の窓から空を見上げていたアルマが、鼻をすんすんと鳴らした。
「……雨の臭いは、しませんね。少なくとも急に降られるということはないと思いますよ」
「まぁ風もあるし、大丈夫でしょう。そのうちまた晴れるわよ」
「お、いいゾ~それ。せっかくのお出かけなのに雨に降られると残念な気持ちになっちゃうからな~」
「ここ最近は晴れ続きでござったからなぁ。こういう日もあるでござるが、雨が降らないというのは僥倖でござる」
狐の亜人の特徴である鼻の利くアルマと外を眺めていたリーンの言葉に、三浦と八重は安堵したように言った。一行が通る左右の道には、無数の低い木が立ち並び、それらから伸びる枝が天井のように張り巡らされている光景が見える。そこから吊り下げられるかのように実っているのは、大きな粒が連なった果物。
「FOO! すっげぇブドウのいい香り! はっきりわかんだね!」
ワインの名産らしい光景と、そこかしこから漂ってくるブドウの甘い香りにテンションがうなぎ上りになる野獣に、オリガは振り返りながら言う。
「もうすぐで到着します。夕暮れになる前には到着しそうですね」
「すげ~楽しみだゾ~! なぁポッチャマ!」
「ポッチャ!」
「先輩、羽目外しすぎないでくださいよ?」
「フフ、木村さんも。少し笑ってますよ?」
「いやぁ、そんな……」
そう言って三浦を窘める木村だが、ユミナの言うようにどこか顔が綻んでいる。畑の立派なブドウで作られるワインを自身も楽しみにしているのがバレて、木村は気恥ずかしそうに目を逸らした。
「……ホント、これが竜殺しと国王を守ったパーティなのか疑いたくなる程にのほほんとしてるわね……」
まるで子供の遠足みたくはしゃぐ彼らは、とても偉大な功績を残した冒険者パーティには見えない。呆れたように呟くリーンと、それに同意するかのように腕を組みながら頷くポーラを他所に、馬車の中は和気藹々とした雰囲気のまま進んでいく。
ただ、風に乗って村へと続く道の先へとゆっくりと進んでいく大きな雲。それがどうにも、不穏な空気を放っていることには、誰も気づくことがなかった。
~11分45.14秒後~
リーンの言うように、太陽の光を遮る雲が流されたことで周りの景色が少し茜色に染まりだした頃。空手部一行を乗せた馬車は、村の入り口であることを示す木のアーチの下で止まった。
ここに来る前に、野獣たちはオリガからレレスの村の話は聞いている。ベルファスト国王に献上されるほどの美味なワインの産地ではあるが、人口自体は多くない素朴を絵に描いたようような牧歌的な村だ。しかし森と山に囲まれてブドウを育てるのに適した穏やかな気候は住み心地がとてもよく、余生はここでという国民も多いのだそう。
そういうわけで、村人もおだやかな性格の者ばかりなのだという話なのだが、
「……? なんか騒がしくねぇ?」
馬車から降りて周りを見回していた野獣が言う。牧歌的でのんびりした雰囲気であるという話だったが、どうもそんな雰囲気ではない。どこか村の中は慌ただしく、それも仕事やらに追われているというものではない。
何か、焦燥、不安、恐怖に駆られている……道行く村人たちを見ていると、そんな様子が垣間見えていた。
「何かあったのでしょうか? 只ならぬ雰囲気ですが……」
「……少なくとも、お祭りってわけじゃなさそうね」
「あ、そっかぁ」
ユミナが馬車から身を乗り出しつつ首を傾げながら疑問を口にする。リーンも声こそいつも通りだが、その表情はどこか険しい。三浦は村で祭りがあるわけじゃないとわかると若干意気消沈した。
「……確かに、以前とは違う空気ですね……何かあったかもしれません。少し村長のところへ行って参ります。皆さんはここでお待ちください」
「あ、オリガさん。私もお供いたします」
言って、オリガとリオンは足早に村の中へ。必然的にその場に残された一行は、言われた通り待つことに。
「あ~つまんね(暇人)。すぐにワインにありつこうと思ったのに、なんかそんな空気じゃねぇんだよなぁ」
「ホント、何があったんでしょうね?」
馬車に寄りかかりながらぼやく野獣。木村も村の雰囲気に戸惑い、所在なさげに座っているしかできなかった。
本来なら村人総出で歓迎されていたのかもしれないが、村人はそれどころではないらしく、野獣たちをチラチラ見てはいるものの、声をかけてくる者は誰もいなかった。何となく、野獣は村人の会話に聞き耳を立ててみる。
「どうす——あの———」
「逃げ———?」
「そんなこと———」
「けど、もし———」
「最悪は村が———」
途切れ途切れにしか聞こえないが、どうも単語を拾い集めてみると随分とまずい状況にあるということだけが伝わってくる。
「なんか最悪村がどうのこうので逃げるかどうか話し合ってるって感じだな……そんなやべぇのかぁ?」
野獣が顎を指で摩り、より詳しく状況を知るために村人から直接話を聞きに行くかどうか悩んだ。
―――クイックイッ
「ん?」
と、ふと野獣が自身のTシャツの裾を誰かに引っ張られている気がして、視線を下に向けてみる。
「……」
「……」
「うお。なんだ子供か」
そこにいたのは、二人の子供。一人は耳が犬の少女で、もう一人は耳が熊のように丸い少年。背丈からして同い年のようだった。
じっと野獣を見上げていた二人のうち、少年の方が野獣へ話しかけてきた。
「おじさん、お城の人?」
「ファッ!?」
野獣にまさかの言葉のナイフ(悪意なし)を突っ込まれた。
「ぶっフフフフフフフ……!」
そして馬車から聞こえる噴き出す音。声からしてリーンだった。『おじさんだとぉ? ふざけんじゃねぇよオラァ! お兄さんだろぉ!?(怒髪天)』という台詞を大声で叫ぼうとしたが、相手は子供。そんな怒りとかは飲み込んで、野獣は努めて冷静を装って二人の前で屈んだ。
「そ、そうですねぇ……俺らはただ、ここには旅行で来たんだけど、なんかそんな感じじゃないからびっくりしてんだよなぁ」
野獣のこめかみはひくひくしているが、そんなことは子供たちにはわからない。野獣の疑問に対し、答えたのは少女の方だった。
「そっかぁ……おじさんたち、お城から来た兵士さんたちじゃないんだぁ……」
「お、おじ…………な、なんで俺らが兵士だと思ったんだ?」
怒るよりもショックの方が勝っている野獣は、泣きそうになりつつも二人に聞いた。と、そこで二人が顔を見合わせる。
「ねぇ、これ話してもいいのかな……?」
「う~ん……お城の人じゃないんだよね? けど村長、何も言ってなかったし……」
(……なんだぁ? もしかしてこの村の雰囲気となんか関係あんのか……?)
二人の会話を聞いて、この村の様子がおかしいことと、子供たちの話が関係している……そんな気がした野獣は、詳しく話を聞くために口を開いた。
「お待たせしました皆さん。あの、少々厄介なことになっているようです」
が、リオンと共に戻ってきたオリガの焦りを含んだ声を聞いて、野獣は閉口する。そして、奇しくも野獣たちが知りたかった話がオリガの口から語られたのだった。
~1分14秒後~
「森の中に……変な亀裂、ですか?」
場所はレレスの村の村長の家。村長というにふさわしく、他の家よりかは大きな家の一室に空手部一行は揃っていた。その対面には頭に鹿のような角を生やした、顎髭が立派な老人。その横には先ほどまで野獣と話していた二人の子供。
「左様です。先日、この子らが森の中へ遊びに行った時、妙な亀裂が森の中にあったという知らせを聞いたのです」
「亀裂ってったって、森ん中に亀裂とか別に珍しいもんじゃないんじゃね? 雨とか地震とかで地面とかに亀裂ができるってしょうがないと思うんですけど(自然の摂理)」
「違うよおじさん。なんかねー、それ、浮いてたんだよ」
「クゥ~ン……(嘆き)」
またも子供におじさん呼びされてガチ凹みしてしまった野獣。アンニュイ顔になって黙り込んでしまった野獣を見て、リーンは顔を逸らして噴き出すのを堪えた。
「……確かに、地面や木々に亀裂ができたという話ならば、ここまで我々も慌てふためきませぬ。亀裂ができたのは、森の中にある『空間』なのです」
「空間……ですか?」
「あ~もう一回言ってくれ(意味不明)」
「三浦殿、今はお口を閉じとくでござる」
「ポッチャマ……」
木村が聞き返す横で頭に“?”を浮かべていた三浦を八重が窘めた。三浦はしょんぼりした。
「言葉通りの意味です。何もない筈の空間に、亀裂がまるで宙に浮いているかのように現れたのです。最初こそその亀裂は、子供の顔程の小さな物だったらしいのですが……」
「それが……大きくなったと?」
リオンが聞くと、村長は重々しく頷いた。
「亀裂は日に日に大きくなり、しばらくすると大人の身体程に、そして今では見上げる程に大きな亀裂となっていたとのことです。子供たちはそれを確認すると、我々大人たちに知らせに来ました。最初こそ半信半疑でしたが、実際見に行った者たちもその異様な光景を目の当たりにし、事実だとその時判明しました。嫌な予感がした我々は話し合った結果、王国に使いの物を出したのです……」
「つまり、その使いの者と我々は入れ違いになった、と……」
「そのようです……大きな亀裂を目の当たりにしてしまった村人たちは、今や半ば恐慌状態。いつ何が起こるかわからない現状、すぐに村を出ていくべきだという者と、村を離れるわけにはいかないという者とで分かれております。私も村を守る者としてここに残るつもりですが、どうすればよいのか……」
このままでは村の中で内部分裂が起き、何か起こる前に村人たちの不安が爆発してしまう。そうなると何が起こるかわかったものじゃなかった。
「なるほど……空間に亀裂、ね……それでこの魔力……」
ポツリと、リーンが呟く。誰もが沈黙している中、その小さな声はやけに大きく聞こえた。
「一つ聞きたいのだけど、今亀裂は誰かが見張っているの?」
「え? ええ、村の中でも力自慢の者が亀裂の近くにいますが」
村長がリーンの質問の意図がわからないまま答えると、リーンは「そう」とだけ答えた。そして、
「じゃあ、その亀裂のところまで案内してくれる? 一度見てみたいわ」
「ファッ!? お前、何言ってんだよ」
そんな危ない場所へ赴こうとするリーンに、流石に驚く一行。それを代表するかのように、野獣が声を上げた。
「別に見に行くくらい構わないでしょう? 空間に正体不明の亀裂とか、興味深いわ」
「そりゃお前にとっちゃ興味深い対象だとは思うんだけどさぁ……なんかそんな意味のわからない物とか近づいたら危ない……危なくない?(警鐘)」
「危ないことにも近づかないとわからないものだってわかりはしないわよ」
「あのさぁ…………スゥゥゥゥゥゥ、フゥゥゥゥゥゥ(くそデカため息)」
何言ったところで無駄だと理解した野獣は、これ見よがしに大きなため息をついた。やがて顔を上げると、リーンをジトっとした目で見やる。
「なら俺もついていくか。しょうがねぇなぁ(悟空)」
そう、はっきりとリーンに告げる野獣。それを聞いてリーンは目を丸くした。
「あら。どういう風の吹き回し?」
「どうも何も、お前一人だけ行かせるわけにはいかないって、はっきりわかんだね(紳士)。なんかあってからじゃ遅いって、それ一番言われてるから」
「当たり前だよなぁ? リーンちゃん一人だと危ないゾ。俺も付いていくからな~?」
「ポチャ!(胸ドン)」
「まぁ、確かにそんな正体不明な物、女の子一人で行かせるわけにもいきませんからね……僕も行きますよ」
野獣に続き、三浦とポッチャマ、木村が進み出た。
「あ、でもユミナさんは……」
「ここにいて、なんて言いませんよね、木村さん?」
「いや、そんなこと……(恐怖)」
危険かもしれないからここにいてくれとユミナに言おうとした木村だったが、振り返った瞬間ニッコリと笑ったユミナにそう言われてしまい、すぐに否定した。有無を言わさぬその迫力に思わず冷や汗がたらりと流れた。
「三浦殿たちが行くというのに、拙者だけ行かないというわけにもいきませぬ。リーン殿、拙者もお供するでござる」
「……見に行くだけだっていうのに、随分大所帯なのね。お人よしと言うべきか何というか」
八重にも言われ、リーンは肩を竦める。大袈裟と言えばそれまでだが、みんなリーン自身を案じてのこと。それはわかってはいるリーンだったが、彼らの一蓮托生っぷりは見てて惚れ惚れすると同時、呆れもした。
空手部一行が亀裂の下へ向かう意思を表明している後ろで、もう一人声が上がる。
「では、私も向かいましょう」
「リオンさん?」
ベルファスト王国の兵士であるリオンが進み出たことに、木村が少し驚いた顔を見せた。
「私はベルファストの者だが、無辜の民が危険に晒されている可能性があるのならば、この目で見て確認しておかなければならない。それにベルファストとミスミドが同盟を結んだ以上、これはベルファストの問題にもなる。国を守る者として、放置はできない」
真面目な性格のリオンらしい理由。そうしてリオンはオリガへと向き直った。
「オリガさんたちは、何かあった時のためにここに。村人たちのことをお願いします」
「リオン殿、それは……!」
反論しようと、オリガが声を上げかけ……やがて思い直し、口をつぐんだ。
「いえ……確かに、誰かが残っていた方がいいかもしれませんね。わかりました。私はアルマとここに残ります」
「はい。なに、心配には及びません。見に行くだけですから」
頭ではわかってはいても、やはり不安なのが見て取れるオリガの表情を見て、リオンは快活に笑う。その笑顔は、どこか不安が吹き飛びそうな、そんな明るさを放っていた。
こうして一行は、森の中にあるという亀裂へと赴くこととなった……一株の不安を、それぞれに抱きながら。
「あ、言っておくけどポーラ。あなたも留守番よ?」
一方、腕まくりをしてやる気十分なアクションを取っていたポーラはリーンにあっさり言われ、ガーンという効果音が付きそうな感じでガクリと床に手を着くのだった。
「結構奥だなぁ」
村長の家から出てしばらく。野獣たち迫真空手部一行は、少し坂道となっている森の道を歩いていた。先導しているのは村の若者。時刻はもうじき夕暮れということもあり、鬱蒼と生い茂った森の中は暗くなりつつあるため、手に松明を持っている。
「ところどころ根っこが張り巡らされてるな……ユミナさん、足元に気を付けてくださいね?」
「ありがとうございます、木村さん」
跨がなければならない程の少し太い根っこで、木村はユミナの手を取って補助する。まるで姫をエスコートする騎士のような光景だった。それを見ていた野獣たちはヒソヒソと話す。
「……木村殿、だいぶ手慣れてきているでござるな」
「あれで木村本人は結婚する気ないとか、これもうわかんねぇな」
「お、そうだな」
「ポチャ」
「へ~、あの二人ってそういう関係……ふ~ん?」
木村としてはユミナが怪我しないように振舞っているだけなつもりなのだろうが、その姿はもはや手慣れたものというか、すでに日常的なものになりつつある。まだ交流が浅いリーンから見ても、思わずニヤついてしまう程に二人の関係性がわかってしまう程だった。
まぁ何にせよ、木村とユミナの仲を応援しつつ見守る彼らにとってはいい傾向だった。そんな時、ふと野獣は思い出す。
「そういやリオンさんはどうなんスかぁ?」
「え……わ、私が何か?」
唐突に話を振られたリオンは驚き戸惑う。何のことかと聞き返すリオンに、野獣はどこかニヤリと笑いながら強引に肩を組んだ。
「いやいや、わかるでしょ? オリガさんとの仲っスよ! 馬車の中でもいい感じだったって、誰から見てもはっきりわかんだね」
「い……!? い、いえ、だ、だからと言って……」
野獣に詰められ、顔を真っ赤に染めて目を逸らすリオン。だが野獣は追撃の手を止めない。
「おいおいリオンさん、そんなんでいいのかよ~? っていうか今更誤魔化すことねぇじゃんアゼルバイジャン。周りから見てももうバレバレだって。リオンさんがオリガさんのこと好きなこと!」
「んな……な、何故バレて……」
「何故わからないと思っているのか、これがわからないでござる……」
あれだけオリガに対してガチガチに緊張したり顔を真っ赤にしといてバレていないと思っていたのかと、八重は呆れた。
「ん? リオンさん、オリガさんのこと好きなのかゾ? けどわかるゾ~! すげ~仲良さそうだったからな~!」
「…………はぁ」
そして、今更気づいたのかこの人は、と八重はため息をつきつつ頭を抱えた。鈍感というより、もはやそういった感情に対して無知に近い三浦に呆れを通り越して感心するレベルだった。
「それで、どうするよ?」
「ど、どう、とは?」
「何言ってんのよ~! 告白するかしないかに決まってんだルルォ!? 俺から見てもオリガさん美人だし、放っておかない男はいねぇと思うぜ?」
「う……」
オリガのいいところは、一番よくわかっていると自負しているリオンにとって、野獣の言葉は耳が痛かった。確かにオリガのことを放っておかない者はいるだろうし、いずれオリガに惚れる男が現れないとも限らないのは事実だった。
それでも、リオンは二の足を踏む。国を守るためならば、どのような相手にだって果敢に攻めていく勇敢な青年も、色恋に関してはドラゴンを相手取ること以上に臆病になる。
だが、次の野獣の一言により、
「それにさぁ、オリガさんだってきっとアンタの言葉待ってんぜ? そんなオリガさんの気持ちに応えてやれよホラホラホラホラホラ(応援)」
「…………っ!」
リオンの中の決意が、固まった。
「……わ、わかり、ました……!」
「ん?」
やや俯き気味だったリオンの顔が上がる。野獣の目に映ったリオンの顔は、かつて夜襲を受けた時に見せた護衛隊長の顔だった。
「リオン・ブリッツ! 村へ戻ったらこの思いを、彼女に……オリガさんに、伝えてみせましょう!!」
森に響くのではないかと思える程に、声高に宣言。リオンの熱い気持ちを間近で聞いた野獣は一瞬驚いたが、一転、破顔してリオンの鎧の肩部分をバシンと叩いた。
「よう言うた! それでこそ男や!」
「さぁ、そうとなれば急ぎましょう! 一刻も早く安全性を確かめなければ!」
ズンズンと足を速めるリオン。高揚する気分を隠しきれていないのは、誰から見ても明らかだった。
「……なかなか強引に焚きつけたわね、あなた」
そんなリオンを見て、リーンが愉快さを隠しきれないとばかりに笑いながら野獣の傍に来た。
「ま、多少はね? 人の恋路に首突っ込むのは野暮だって、それ一番言われてるから。けどこうでもしないと、あの人多分いつまで経っても告白しねぇだろうからさぁ……」
「ふ〜ん……そういうお節介なところがおじさんっぽいのかもね?」
「おいゴラァ! そういや考えてみたらおじさん呼ばわりされてる時に一番笑ってたよなこの野郎醤油瓶!(激怒) 引っこ抜くぞその羽!!」
ブチギレる野獣に、リーンは「キャーコワーイ(棒読み)」と言いながら笑った。
「けど、私としても背中を押すにはあれくらいがちょうどよいかと思いますよ?」
野暮とわかっていても手を貸さずにはいられなかった野獣の行為について、成り行きを見ていたユミナは賛同した。この場にいる者全員がそうだった。
「……なら、リオンさんのためにも早く終わらせて戻りましょうか」
「お、そうだな」
「そうでござるね」
「ポチャ!(賛成!)」
案内係の村人を追い越してしまったことに気付かないでいるリオンの後を追うようにして、野獣たちもその足を速めていくのだった。
~3分6.4秒後~
「こ、ここです」
「はぇ~、すっごい……」
「これがその亀裂、ですか……」
案内してくれた村人の青年が立ち止まると、空手部の前に"それ"は現れた。
森の中にある広場のような場所。その中央に、割れたガラスの如し亀裂はまるで浮かんでいるかのように存在していた。野獣たちの近くにはがたいの大きい亜人の男が、見張りのために桑を手に立っていた。
文字通り『空間に亀裂が入っている』という村長の言葉通り。さらにその亀裂は4メートルにも届く程の大きさであり、さらにその亀裂から向こう側はドドメ色の空間が蠢いており、何も見えなかった。
「……」
「リーンさん? どうされました?」
リーンが口元を腕で覆いながら顔をしかめているのをユミナが見て声をかけた。
「……この村に入った時から感じていた、異質な魔力……なるほど、この亀裂から発せられていたのね……」
「僕も感じてます……なんだか、嫌な感じですね……」
木村もリーンと同様の気持ちを抱く。異様にして邪悪、どう見てもよき物とは思えない、そんな存在だった。
「最初は本当に小さな物だったらしいです。それが日に日に、ここまで大きくなっていって……」
「……確かに、これは村人が恐れ慄くのも無理はないな……何という光景だ」
村人の説明を聞いて、リオンもまた亀裂から嫌な雰囲気を感じ取ったことで眉間に皺を寄せる。
「……それでリーン殿、如何されるでござる? 拙者はこの亀裂、どう考えても放置するわけにはいかないと思いまするが……」
「当たり前だよなぁ?」
「ポチャ……(気分悪)」
八重と三浦がリーンに問う。ポッチャマもまた三浦の頭の上で、嘴に羽を持って嫌な顔を隠そうともせずに弱々しく鳴いた。
「そうね……これは確かに、王国から調査員を派遣してもらった方がいいわ。私だけの手には余るもの」
「異常事態だからね。しょうがないね(当然)」
「ええ。けど、それ以上に……」
リーンは亀裂に歩み寄る。そっと手を伸ばして亀裂に触れてみるも、リーンの手は空気に触れるかのようにすり抜けてしまう。
「そこにあるのに、何もない。何もないのに、この魔力……ありとあらゆる意味でただ事じゃないわ」
好奇心と平行して、この光景に畏怖を覚えるリーン。しばし考え込んでいたが、やがて一行に振り返った。
「ひとまず戻りましょう。多分、いえ、確実に村人に避難指示を出した方がいいでしょうね」
「そうですね……わかりました。では急ぎ村へ」
リオンが頷き、踵を返した。
――――ピシ
「ん?」
「先輩?」
ふと、亀裂を見ていた野獣が声を上げた。木村がどうかしたかと声をかける。
「いや、なんか今変な音しなかった?」
「音?」
言われ、木村たちも耳を澄ましてみた。
―――ピシッ
「……しました、ね」
「したでござるな」
今度は野獣以外の面々も、その音を聞いた。
それはまるで、何かが……氷が割れていくかのような、そんな硬質的な音。
―――ピシッピシッ
「……っ! まさか!」
リオンが見上げる。その視線の先には、大きな亀裂。野獣たちだけでなく、リーンにも、村人たちにもその音は聞こえてきた。
「……おい、あれ……」
野獣が、亀裂を凝視する。その亀裂の一端を見ていた野獣は、額から流れる汗―――冷や汗を拭うことなく、気づいたことを言った。
「穴が広がってないか……?」
瞬間、その言葉を証明するかのように、亀裂がバキリと音をたて、
―――キィィィィン
「っ! おっぶぇ!(危機察知)」
野獣が走り出す。走り出した先には、亀裂に一番近くに立っているリーン。音に気を取られ、その場から離れることが遅れているようだった。
野獣の勘が、危険を告げる。そして風と思わせる程の目にも留まらぬ速さでリーンを抱き上げ、その場から飛び上がった。
―――ズゥゥゥン!!
その直後。リーンと野獣が立っていた場所が、大きな振動と共に土煙を上げた。それに驚いた森に住む野鳥たちが騒ぎ、飛び立っていく。
「うわ!?」
「きゃあ!?」
木村たちもまた、突然の揺れと音に驚きたたらを踏む。唯一揺れに驚かず、両足を地面に着けて立っていたのは三浦。
その顔は、すでに戦闘態勢に入った時の顔……閣下モードだった。
「こいつは……!」
三浦は、聞いた。亀裂が大きくなった瞬間、金属音にも似た嫌な音を。
その音は、聞いた覚えがある。忘れる筈もない、かつて王都だった廃墟で遭遇した存在。水晶にも似たドラゴンの鱗をも凌ぐ程の頑強な身体。その巨体に見合わない素早い動きで翻弄された、あの奇妙な魔物。
それが現れる直前に耳にした、甲高い音……今聞いた音は、まさにそれだった。
三浦だけではない。あの時戦った木村、八重、野獣もまた、背筋が粟立つ。そんな彼らを嘲笑うようにして、土煙が晴れていき、現れる。
―――キィィィィィンッ!
鋭い刃を折り曲げ、連ねたかのような長い胴体。その身体を構成するのは、夕焼けの赤い光を受け、血のついた刀の如し輝く水晶の身体。2メートル程もある巨大な身体の先についたアーモンド形の頭部が、小さき者たち……野獣たちを見下ろす。
かつての悪夢が蘇るかのように、姿形を変えて今再び空手部の前に現れた。
突如現れた、かつて空手部を苦しめた水晶の魔物。野獣たちはこの魔物に対しどう戦うのか? 次回『この辺の美味いラーメンの屋台を制覇する空手部』ご期待くださ
バキィ!(カンペを叩きのめす音)
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
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スマホ太郎(アニメ主人公)
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望月冬夜(原作主人公)
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野獣先輩
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三浦
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木村