最近文体変わっちゃってさぁ。それでもよければ見てくれよな~頼むよ~(土下座)
水晶の魔物。かつて野獣たち迫真空手部を苦しめた、素早さと頑丈さを兼ね備えた厄介な存在。空手部のチームプレイによって、辛くも撃破できたが、もう二度と会うのは御免だと思ってならなかった。
だというのに、だ。
「またこいつかよぉ!?」
今再び、こうして相まみえることとなるなど、誰が予想しようか。
野獣がリーンを抱えながら再び跳躍、木の枝に飛び移りつつ鋭い尾による一撃を回避しながら叫んだ。
「こいつ……前回と形が違う! 皆さん、気を付けてください!」
木村が魔導書を広げ、横でユミナが弓を構える。
「また戦うことになるとは……八重、以前のようにはいかない。注意しろ」
「承知! 何度現れようとも、打ち砕くのみでござる!」
三浦が拳を、八重が刀を下段に持って構える。リオンもまた剣を抜き放ちつつ、後ろに立つ村人二人へ振り返った。
「二人は村へ! 急ぎこのことをみんなに知らせてください!!」
「「は、はいぃ!!」」
非戦闘員である村人二人は顔面蒼白になり、這う這うの体で逃げ出す。それを魔物……今回はコオロギではなく“蛇”は見咎めるかのように、頭部分の中にある赤い石をギラリと光らせ、刃のように鋭い尾を薙ぐように村人たちへ振るった。
「させるか!」
それを防ぐのはリオン。剣を垂直に立て、蛇の一撃を防ぐ。甲高い音が鳴ると同時、リオンの顔が苦悶に歪んだ。
「ぐっ……!」
「オルルァ!!」
蛇が一瞬動きを止めたその隙を、三浦の大槌が如し踵落としが襲い掛かる。蛇の尾は先端以外は蛇腹状になっており、その隙間を狙って振り下ろされた一撃により、破片をまき散らして尾が粉々になる。その間に村人たちは蛇から離れることができた。
「三浦殿、助かりました!」
「いや……無意味だ」
「え? ……な!?」
リオンがどういう意味かと問う前に、尾が再生する。まるで巻き戻しを見ているかのような光景にリオンが驚愕する横、リーンを抱き上げたままの野獣が木の上から飛び降りてきた。
「やっぱこいつすぐ回復しやがるんだよなぁ……ってか、お前いつまでしがみついてんだよ離れろよ。あくしろよ」
「あら、もういいの? こんな美少女にしがみつかれるなんて、一生あるかないかの機会じゃない?」
「(悪いけど興味)ないです。ってか自分で美少女っていうのか……(引き)」
「そ。まぁ、けどありがと。おかげで助かったわ」
こんな時でも不遜な態度なのは変わらないリーンは、軽やかに野獣の腕から降りる。その間、八重と三浦が蛇を翻弄するように駆け回っていた。
「はっ!」
その隙を、ユミナの矢が狙う。矢は蛇の頭目掛けて飛んでいくが、カツンという音をたててむなしく明後日の方へ弾かれてしまった。
「矢が!? ……それなら!」
言って、右手を掲げる。掌の先に魔力を集中させると、黄色い魔法陣が展開された。
「雷よ来たれ、白蓮の雷槍、サンダースピア!!」
「ダメです、ユミナさん!!」
木村が制止する直前、詠唱が完了したことにより発動した雷魔法のサンダースピアが蛇へ向かって飛んでいく……が、蛇に命中するかと思った瞬間、槍は粒子に分解、頭の中にある赤い石へと吸い込まれていった。
「そんな、魔法まで……!?」
「ユミナさん!!」
狼狽するユミナ。そこを突かんと、蛇の尾による一撃が槍のようにユミナへと迫る。木村は本を広げ、走りながら叫ぶ。
「アクセル!」
瞬間、木村の足に力が宿る。瞬発力を底上げした木村の身体は風となり、一瞬でユミナを抱き上げてそこから離れる。蛇の一撃はユミナに当たることなく、代わりにその後ろの木に突き刺さって貫通した。
「う、ぐぅ!」
ズザザと、急なアクセルの使用により慣性の制御ができなかった木村は、ユミナを抱いたまま地面を転がった。
「いてて……大丈夫ですか、ユミナさん?」
「は、はい……っ!? 木村さん、危ない!」
「え」
身体を起こしたユミナが焦燥を孕んだ声で木村を呼ぶ。途端、背後から感じる殺意に、木村が起き上がろうとする……が、それより先に、再び尾を突き出そうと蛇が動く。
「木村っ!!」
三浦が間に入ろうと駆け出すが、それよりも先に尾が木村を貫くだろう。確実に間に合わない……そう思った。
―――カァン!
「な……」
蛇の顔に、何かが飛来する。それは硬い音をたて、先ほどのユミナの矢のようにどこかへ飛んでいった。蛇にダメージは入らずとも、それだけで隙が生まれた。
「っ! 立って、ユミナさん!」
その隙こそ、木村とユミナにとって九死に一生というチャンスだった。すぐさま起き上がった木村は、ユミナの手を引いて立ち上がらせ、返事を聞く前に野獣たちへと駆け寄っていった。その直後、木村とユミナがいた地面を蛇の尾が貫き、抉られた。土片が周りに飛び散る。
「おい木村、ユミナ! 大丈夫かよお前ら!?」
「は、はい……!」
「え、ええ……はぁ、はぁ……よくわかりませんが、何とか助かりました……」
野獣の気遣いに、二人は一瞬間近に迫った死から逃れたことによる緊張で荒くなった息を整えつつ何とか答えた。
「硬いだけじゃなくて魔法まで吸収するの? 相当厄介ね……」
「いや、まだ手はある」
蛇へ拳を叩き込んだ衝撃の反動を利用して飛び退った三浦が野獣たちの下に降り立ち、分析するリーンに言った。
「奴の頭部を見ろ。赤い石があるだろう。あれが奴の急所だ」
「それさえ、壊せば! 拙者たちの勝利でござる! わぁ!?」
「八重!」
「ポチャァァァ!!(ハイドロポンプ!!)」
鞭のようにしなる尾を避け、或いは刀で弾く八重だったが、衝撃を殺しきれずに重心のバランスを崩してフラついてしまう。ポッチャマが嘴から高圧力の水でっぽうを蛇へぶつけ、さらに三浦が八重へ追撃させまいと、蛇へ肉薄していった。
「それと魔法ですが、雷や炎といった現象的な物よりも、氷や岩を直接ぶつけるといった物理的な術ならば通用します! その魔法を中心に戦ってくれれば!」
「わかりました!」
「……何でそんなことを知っているのかは、今はこの際いいわ」
勇ましく返事をするユミナと、疑問を抱きつつも反論せずに従うリーン。そして木村は、野獣とリオンへと向き直った。
「野獣先輩、リオンさん! 僕たちが頭の石を狙いますから、三浦先輩たちと一緒に注意を逸らしてください!」
「了解!」
「行きますよ~! 行きますよ~行く行く!!(猪突猛進)」
木村の指示の下、野獣とリオンも駆け出す。その間、木村は魔導書を片手に呪文の詠唱を始めた。
「氷よ来たれ、大いなる氷塊、アイスロック!!」
蛇の頭上に現れた巨大な氷塊。それは冷気を放ちながら蛇へと落下していく。が、危険を察知して身を翻すと、氷塊を回避した。標的を失った氷塊は地面に落ち、砕け散る。
「クソ、ゆらゆら動いてて狙いが付けづらい!」
頭部が地面に近かったコオロギとは違い、今回の相手は地上から離れた位置に頭がある。それを直接狙うのは、なかなかに難しい。
「それなら! 土よ穿て、愚者の奈落、ピットフォール!!」
ならばと、ユミナが続いて魔法を詠唱する。すると、蛇の足元の土が軟化し、蛇の身体が沈む。いきなり身体が地面に沈んだことで、蛇は驚き戸惑ったかのように蠢く。
「よし、これで……!」
今の状態ならば藻掻くのに夢中の筈だと、続けて木村がもう一度同じ魔法を使おうと手を翳す……が、
「なっ……!?」
直後、蛇は頭をユミナが作った落とし穴へと突っ込んだかと思うと、そのまま土の中へと潜り込んでいった。地響きと共に地面の中を突き進み、その際に軌跡を描くように土が盛り上がっていく。
「そ、そんなのありかよ!?」
予想外すぎて木村が思わず叫ぶ。盛り上がっていく土の先に立つのは、野獣。
「ファッ!? 来た、来た、来たなぁ!?」
地面から迫りくる脅威に、野獣は回避しようとする。が、それより先に蛇が地面から爆音と共に飛び出す。その勢いたるや、さながらロケットの如し。
「ンアーーーーーーーッ!?」
「野獣!?」
「野獣殿ぉ!!」
「ポチャァァ!!」
宙高く打ち上げられた野獣の叫びが森に木霊する。三浦と八重、ポッチャマが野獣を案じて名を呼ぶが、地面から再び姿を現した蛇は容赦なく、空中の野獣を狙って尾を振り上げ、野獣を狙う!
「ヌッ!(回避)」
だが、野獣とてただでやられるつもりもなく。空中で脅威の身体能力を発揮した野獣は身を翻し、紙一重で尾の一撃を回避。そして手に刀―――鍛冶屋の神流から購入した、特殊な効果はないが十分な業物を振るい、蛇の尾を足場にして一気に駆け下りていく。
「爆砕かけますね!!」
蛇の身体を足場にして跳躍、空中で逆さまになりながら、野獣は身体を高速回転、遠心力を乗せた一撃を蛇の頭に叩きつけた。
「やっぱ、こいつの……身体を……頑丈やな!!(予測済み)」
が、やはり効果はない。硬質的な音をたてながら、僅かな破片が切られた箇所から飛び散るのみ。野獣も以前戦ったコオロギでその頑丈さはわかっていたが、衝撃による手の痺れから改めて実感した。ただ、わかっていたからこそ深追いすることはなく、軽業師のように華麗に着地、すぐさま距離を離した。
「く、動きが不規則な分、前回の魔物とは違う意味で厄介でござる!」
「……なんとかしてあの頭の中の核を砕かなければ」
八重は刀を、三浦は拳を構え直し、並び立つ。そんな二人目掛け、蛇は尾を真上に振るい、大太刀の如く振り下ろしてきた。
「「はっ!!」」
無論、二人はそれぞれ左右に飛び込むようにして回避。地面を真っ二つに割った蛇の尾を後目に駆け出す二人。
「ポッチャマ! ハイドロポンプ最大出力で俺を飛ばしてくれ!」
「ポチャ!!(お任せあれ!)」
「八重! リオン! 奴の注意を!」
「承知!」
「お任せください!」
三浦に頼まれるやいなや、ポッチャマは三浦の肩から背中へ移動、八重は蛇へ向かって走り、縦横無尽に飛び回る。蛇は鬱陶しそうに身体をくねらせて尾を振るうも、回避に重きを置いた八重の軽やかな身のこなしの前に捉えることは叶わず。リオンもまた、八重程ではないにしても蛇の周囲を駆け回り、時には剣を振るってその身体を切りつけた。あまりの硬さに剣が震えて顔を顰めるも、尚も剣を振るうのをやめず、蛇の注意を強烈な一撃を見舞おうとしている三浦から逸らし続けた。
「今だ、ポッチャマ!!」
八重とリオンに気を取られている蛇へ向けて三浦が足に力を込めると、頭を下にしたポッチャマは嘴を開き、そして、
「ポォォォォ…………チャァァァァァァァァァァァァ!!」
「はぁっ!!
真下へ向け、超高圧力の水を噴射。同時、三浦は高く跳躍。その身体は水圧の反動によってさらに宙へと飛び上がっていく。さながらジェットパックと化したポッチャマにより蛇の真上へ躍り出た三浦は、縦に高速回転。そしてそのまま、足を振り上げた。蛇はいまだ八重とリオンに夢中で気づかない。
「うおおおおおおおおおお!!」
そこを容赦なく全体重と重力を乗せて振り下ろされた三浦の踵が蛇の頭に炸裂! 重機の鉄球で叩きつけられたかのような重々しい音と共に蛇の頭は地面へと叩きつけられた。あまりの衝撃に、頭が半分ほど地面にめり込んでしまい、土片が散らばる。
「……むちゃくちゃね、ホントに。ドラゴンをたった数名で仕留めたっていう話、疑ってたわけじゃないんだけれど……」
空手部の戦いっぷりを初めて目の当たりにしたリーンは、半ば愕然と見ていた。人間の身体能力を超えた、豪快にして翻弄するかのような戦いっぷり。一個師団並の戦闘力と言うのは過言ではない評価だった。
「まぁ、ともあれ今は……岩よ来たれ、巨岩の粉砕、ロッククラッシュ!!」
手を翳し、リーンは土属性の魔法を唱える。すると、半ば埋もれている状態の蛇の真上に今度は直径3m程ある大岩を召喚。躊躇いなく、リーンはその大岩を蛇目掛けて落とした。腹の底に響くような轟音と共に、大岩に下敷きにされる蛇。岩は地面にめり込み、蛇も地面の下に消えた。
「これで……!」
リオンがぐっと拳を握りしめながら呟く。いかに頑丈でも、あんな大岩に潰されてはひとたまりもないだろう……野獣たちもそう思っていた。
だが……野獣たちの胸騒ぎは、止まらない。
「っ!? まだだ!」
三浦が叫ぶと、それに連動するかのように大岩が大きく揺れ出した。
「おいおい、今度は何だよ!?」
今度は何が起こるのかわからず、野獣は警戒心を強める。木村たちも同様だ。
次の瞬間、大岩は爆散するかのように砕かれ、蛇の頭が岩だった瓦礫をまき散らしながら勢いよく現れた。
「そんな、あの岩でも砕くことができないということですか!?」
リーンの土魔法で生み出した岩は、大きく、そして凄まじい重量だった筈だ。そんな岩を物ともせず、ほとんど無傷で再び現れた蛇を前にして、ユミナが半ば恐慌状態となる。
「……いや、違う!」
が、それを否定するのは木村。その視線の先には、大岩が落ちたことによって大きく窪んだ地面……そこにできた穴から蛇が出てきていた。確実に蛇を仕留める一撃だった筈なのに、こうして蛇が健在だった理由を、木村が察した。
「こいつ、岩が落ちてくる寸前に地面に潜って岩を回避したんだ!」
「ファッ!? 頭良スギィ!!」
知性がないように見える魔物が、そんな機転の利いた方法で回避したというのか。信じられず、思わず野獣が愕然とし、叫んだ。
大岩を砕き、再び一行の前に立ち塞がる蛇。やがて蛇はその巨躯を翻し、尾を大きく振るう。
「まずい! 避けろぉ!!」
三浦の背筋を走る悪寒が、警告として口から叫びとして出る。刹那、野獣と三浦と八重は同時に跳躍。木村とリオン、ユミナ、リーンは咄嗟に身を伏せた。
直後、巨大な尾は突風を生み、そしてその鋭く光る刃は獲物を確実に仕留めんとするように、大きな弧を描きつつ一面を薙ぎ払ってきた。
回避した野獣たちは無傷。だが周りの木々はそうもいかず、数十本もの木々が根本近くから真一文字にばっさりと切り飛ばされた。
「うわっ!?」
「くぅ……!」
真上を通った刃に肝を冷やし、さらに突風にも耐える木村たち。着地した野獣たちもあとコンマ一秒遅れれば、身体を両断されていたのだと実感し、固唾を呑む。
切り飛ばされた木々が、腹の底に響く音をたてながら地に落ちる。するとそこに差し込むオレンジがかった赤い光。光を遮る木々の枝が無くなったことによって、沈みかけている太陽の光が一行と蛇を照らし出された。
さらに、開けた視界の先。蛇が頭を向けたその先を見たリオンの顔が蒼白になる。
「っ! あ、あれは……!」
同じく夕陽に照らされたレレスの村。蛇は何を感じ取ったのか、そちらへと動き出す。このまま行けば、確実に蛇は村を蹂躙し、村人たちを殺害して回るだろう。
その中には、自身の想い人も当然、含まれる。
「奴を村へ行かせるなぁ!」
「ポチャチャァ!」
三浦も蛇の狙いが村に向いていることを悟り、焦燥を孕んだ声で叫び、蛇へ飛びかかる。鋭い拳を蛇の身体へ叩きつけるのを合図に、八重とリオンも同様に得物を振るった。ポッチャマもみずでっぽうを何度も放ち、援護する。
「まずいですよ! 早くあいつを倒さないと!」
「な、ならもう一度落とし穴で……!」
「待ちなさい、さっきみたいに地面に潜り込まれてそのまま村まで進まれたらどうしようもないわ!」
木村たちもこの状況を指を咥えて見ているわけにもいかない。それはわかっているものの、すばしっこく動き回る上に、地面に潜ることができる蛇相手に迂闊に魔法を撃つことができない。
三浦たちも足止めしようとするが、蛇は標的を村へ変えたためか、その頑丈な身体がいくら傷つこうが構わずに村へと進んでいく。
「オイゴルルァ! 相手は俺らだろうが! 止まれっつんでんだYO!」
野獣が蛇の真上へ飛び上がり、切っ先を下に向けて刀を高く振り上げる。そしてその刃を蛇の核がある頭目掛け、重力を乗せて振り下ろす!
が、
「野獣殿、危ない!」
八重の警告と同時、野獣の勘が真横から危機が迫っていると告げる。本能に動かされるまま、野獣は振り下ろした刀の軌道を変え、横へ振るった。
―――パキィン
「オォン!?」
危機の正体は、蛇の尾。野獣を切り裂かんとしていた尾を刀で弾き、野獣は難を逃れる。
その代償として、刀は砕かれ、不安定な体制での防御だったがために、衝撃を殺せずに吹っ飛んでしまった。地面に叩きつけられて呻く野獣。
「先輩! 大丈夫ですか!?」
「野獣さん!」
「いててて……だ、大丈夫だって安心しろよ~! ヘーキヘーキ! ヘーキだから!」
木村とユミナ、遅れてリーンが野獣へ駆け寄る。野獣は顔を顰めつつ起き上がった。
「……けどこっちは、ダメみたいですね(ショック)」
怪我がないことをアピールしつつ、野獣は右手に持ったままの柄だけしかない刀の残骸を見せる。根本まで完全に粉々に砕かれており、もはや修復不可能であることは誰の目から見ても明らかだった。
「ここで武器を失うのは痛いですね、これは痛い……どうしよっかなぁ……」
武器を失ってしまい、対抗手段を失った野獣。このまま歯噛みして見ているだけなどできるわけにはいかないと、刀の残骸を投げ捨てようとした。
その時、刀に残っていた刃の残り部分が太陽の光を反射して煌めく。ふと空を見れば、太陽はもうすぐ完全に消えようとしているところだった。空の向こうが茜色に、空が群青色に染まる、昼と夜の境目の時間帯であることを示していた。
「……ん?」
ふと、野獣は思い出す。この光景、この時間帯。野獣の脳裏に蘇ったのは……。
意を決し、野獣は木村へ顔を向けた。
「木村ぁ! 今から言う場所にゲート使って転移頼む!」
「先輩!?」
「は? あなた何言ってんのよ?」
唐突に何を……リーンは意味がわからず思わず聞き返し、木村もまた野獣の意図を図りかね、問おうとした。
「頼む! 一刻を争うんだよ!」
が、口を閉ざす。野獣のその目と言葉に、木村の中にある疑問は吹き飛んだ……もとい、疑問に思う必要もなかったと気付く。
「……わかりました! 急ぎましょう!」
「ありがとナス! みんな! 悪いけど少しだけ持ち堪えてくれよな~頼むよ~!(懇願)」
頷く木村。野獣は皆に聞こえるように叫ぶと、三浦たちもその声に応える。
「わかった! だが猶予はない! すぐ戻ってこい!」
「ポチャッ!(なるはやでオナシャス!)」
「急ぐでござる野獣殿、木村殿!」
「何とか私たちで食い止めてみせます!」
「ちょ、ちょっとあなたたち!?」
「三浦殿!?」
誰も野獣を止めない。リーンとリオンからすれば誰かが絶望して逃げ出してもおかしくないこの状況、野獣一人転移して逃げようとしているようにしか見えない。そんな二人の疑問を他所に、木村はゲートを生成、野獣と共に空間に開けられた穴の向こうへと消えていった。
「よし、野獣と木村が戻るまで俺たちだけで奴を止めるぞ!」
「いっそのこと、私たちだけで倒してしまっても構わないでしょう?」
「ポチャ?(マ?)」
「それができれば苦労はしないでござるよ……まぁ、その勢いでやるだけでござる!」
村へと進撃を続ける蛇へ猛攻をかけながら、三浦たちは軽口をたたき合う。その口ぶりから、野獣は戻ってくると信じているのが伺えた。
それも、何かしらの対抗手段をもって。
「呆れた……疑う素振りすら見せないなんてね。土よ絡め、大地の呪縛、アースバインド!」
肩を竦めながらも呪文詠唱を止めず、土魔法によって隆起した土で蛇の動きを止める。それもすぐに抜け出されてしまうが、三浦が蛇の頭部目掛けて飛び上がり、拳を叩きつけた。頭を揺らして動きを止められた蛇へ、八重もまた刀で切りつける。さらにユミナが弓を引き、矢を放って蛇の注意を逸らす。全くダメージにならずとも、一瞬だけユミナへ意識が向いたように顔を向けた蛇へ、再び三浦の拳と八重の刀による攻撃が炸裂した。
「当たり前だ。あいつのことは俺たちがよく知っているからな」
「野獣殿はこんな時に逃げ出すような男ではないでござる! 故に、信じて待つでござるよ!」
「それが私たち、迫真空手部です!」
「ポッチャ!(だって俺たち、仲間だもんげ!)」
互いを信頼し合っているからこそ成せる連携攻撃。だからこそ、そこに根拠はなくとも誰もが野獣が逃げたとは思わない。疑問にすら感じない。
ただ信じて、戦う。それが自分たち、迫真空手部なのだとばかりに。
「……へぇ」
そんな彼らに、リーンはただそう呟き、小さく笑う。その胸中に過ったのは、呆れ、驚愕……それ以外にも、言葉にならない感情が渦巻いた。
だが、それでも状況は芳しくはない。どうにか足を止めたりはできるものの、完全には止めきれず、戦いの場は徐々に村へと近づいていく。このままでは蛇が村へ辿り着くのも時間の問題だった。
「く、三浦殿たちだけに任せるわけにはいかない……!」
村には罪のない村の人々が、そしてリオンにとって大切な人がいる。彼らの命を散らしてはなるものかと、リオンも剣を手に蛇へ駆ける。激闘によって倒れた木に足をかけ、力を込めて跳躍した。
「はぁ!」
飛び上がると同時、剣を振り上げる。狙うは頭の核。何度も三浦と八重による攻撃を受け続けて傷だらけになっているそこへ、リオンが渾身の一発を見舞う。その一撃は、流石護衛隊長であると言わんばかりの必殺の一撃。並の魔物どころか、恐らくドラゴン相手にも通用するのではないかという一撃だった……
が、相手が悪すぎた。
「なっ……!?」
剣が、折れた。頑強な甲殻を何度も切りつけたせいで、一級品であるはずの剣は中ほどで真っ二つとなり、切っ先が宙を舞う。その間、リオンは驚愕に彩らせた顔のまま落下を始めていく。
「っ! ダメだ、リオン!」
三浦の声が聞こえる。それに応える間もなく、リオンの腹に衝撃が走った。
「ガハッ!」
脇腹に走る、灼熱を伴う激痛。何事かと視線を下へ向ければ、蛇の鋭い尾がリオンの脇腹を掠めていた。あと少しズレていれば、腹を刺し貫かれていたであろう。三浦の声と共に、条件反射で身を捩ったのが幸いした。
それでも、ダメージはダメージ。痛みのせいで受け身も取れず、リオンは蛇の目の前に落下、仰向けとなって倒れ込んだ。
「ぐ、ぐあ……」
「リオン殿ぉ!」
「リオンさん!」
痛みに呻くリオン。あまりの激痛に吐き気すらも感じる中、リオンの名を呼ぶ八重とユミナの声が遠くに感じる。
(ま、まずい……この位置は……!)
霞む視界の中、水晶の頭がリオンを見下ろす。幻覚か、頭の中の核がまるでリオンを嘲笑っているかのようにも見える。
蛇は、ゆっくりと尾を持ち上げる。もう何度鞭の如ししなやかな動きで振るわれたかわからないその凶器の切っ先は、真っすぐ、リオンへ向けられていた。
「リオン!!」
誰よりも速く、三浦が走る。それと共に、蛇の尾は躊躇なく落ちていくかのようにリオンへと下ろされていく。
咄嗟に動けなかった八重も、ユミナも、リーンも、その光景を見つめるしかできない。三浦は届けとばかりに手を伸ばす。全てがスローモーションのように、緩慢な動きにリオンは見えた。
この一撃は、間違いなくリオンの命を奪う。脇腹の怪我と落下の痛みによってリオンは動けない。三浦も、恐らく間に合わないだろう。
死神の鎌が、リオンの眼前へと迫る。見ているしかできないリオンの脳裏に過るのは、幼い頃の自身と父との思い出や、新兵時代の思い出、そして昇格した時の光景……最後に見たのは、この世の誰よりも大切で、愛おしい人の笑顔。
(オリガ、さん……)
ザンッ
森の中を、切り裂く音が木霊した。
全て恋愛神のせい
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
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スマホ太郎(アニメ主人公)
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望月冬夜(原作主人公)
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野獣先輩
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三浦
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木村