異世界空手部・やわらかスマホの裏技   作:コッコリリン

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悪いことしたら謝るのは人として当たり前だよなぁ?(道徳)


51.迫真空手部、土下座をする

 

 

 

「あ~うめぇなぁ(美食)。この甘辛いタレが肉にばっちし合うって、はっきりわかんだね」

 

「ん、はぐ、はぐ、むぐ…ん! ん!」

 

「お、大丈夫か大丈夫か。落ち着いて食ってくれよな~。ホラ、水飲んで、どうぞ」

 

 路地裏から離れ、野獣とレネは広場のベンチに並んで座り、買った串焼きに舌鼓を打っていた。レネの方は余程空腹だったせいか貪りつくような勢いで串焼きを食べ、喉を詰めかけたところを野獣に渡されたコップの水を、喉を鳴らしながら飲み干していく。

 

「んぐ、んぐ……ぷぁ。ありがとう、兄ちゃん!」

 

「ん、気にすんなって! そんだけ食えりゃ大丈夫だな」

 

 右頬に絆創膏のような保護テープを貼ったレネが野獣に人懐こい笑顔を向けた。回復魔法を使えない野獣が、レネに治療を施した証だ。

 

 先ほどと違い、腹が満たされたことで表情が明るくなったレネ。それを見て野獣は一息ついた。

 

「それにしても、ホントに腹減ってたんだなぁ。お前普段どこに住んでんだよ? 親御さんとかどうしたんだ?」

 

 ふと野獣はレネの服装が薄汚れていることが気になり、聞いてみた。

 

「普段は……公園とか、裏路地とかで寝てたりしてる。前は父ちゃんと宿屋に泊ってたりしてたんだけど、冒険者だった父ちゃんは、一年前に魔獣討伐に行ったっきり帰って来なかった……母ちゃんはあたしを生んですぐ死んじゃったって、父ちゃんが……」

 

「ファッ!?」

 

 それに対する返答は、重く、辛いものだった。レネの顔にも影が差し、野獣は聞いたことを後悔する。

 

「あ……そっかぁ……」

 

 かける言葉が見つからない。何を言っても気休めにしかならないということは、野獣とてわかっていた。

 

 しかし、どうりでレネがこのような境遇に陥っているのか理解する。冒険者という職業は、死と隣合わせだ。野獣たち迫真空手部はチームで動いているが、聞くところによるとレネの父親はソロで動いていたようだ。一人で魔獣討伐に赴き、失敗して命を落としてしまえば、その遺体を誰かが発見しない限り行方不明者として扱われることも珍しくない。

 

 だが、突然そんな境遇を背負うには、目の前の幼い少女には重すぎる。

 

「け、けどあれだな! それでよく一年間過ごせたなぁ……その間どうやって生計たててたんだ?」

 

 暗い話だが、それでも努めて明るく話す野獣に、レネは続ける。

 

「父ちゃんがいなくなってから、街で仲良くなった旅人の婆ちゃんが色々教えてくれたんだ。それで、その、えっと……」

 

「ん? どうした?」

 

 言い淀むレネに、野獣は疑問符を浮かべた。やがて、縋るような目で野獣を見つめてくる。

 

「その……怒らない?」

 

「ん? 何で怒る必要があるんだよ?」

 

 意図がわからず、聞き返す野獣。レネは言いにくそうにしながらも、意を決したように口を開いた。

 

「……その婆ちゃんから、スリの方法を教わったんだ。それで今まで何とか生きていけたんだ……悪いことだってわかってたんだけど、そうでもしなきゃお腹がすいて死にそうだったから……」

 

「……は?(困惑)」

 

 予想外の告白に、野獣は目が点になった。スリ、すなわち犯罪行為に手を染めていたということを、レネの口から語られたのだ。野獣にとって、これが驚かずにいられるわけがなかった。

 

「えぇ……もしかして、さっきお前を囲んでいた奴らって……」

 

「あいつら、同業者。あいつらのシマであたしがスリをしてたから警邏が厳しくなったって言って、それで……」

 

「マジかよ……」

 

 あの二人の男が何故レネに暴行を働いていたのか納得した野獣。犯罪行為に手を染めて生きていくということは、裏社会で生きていくこととほぼ同義。その繋がりで、ああいった輩から目を付けられてしまうのはある意味当然のことでもあった。

 

 これがレネの自業自得……と言うのはお門違いだ。レネの言葉を信じるなら、彼女はやりたくてやってきたわけじゃない。そうしなければ、今頃彼女は飢えて死んでいたのは確実だっただろう。生きたいから、やりたくないことに手を出さざるを得なかったのだろう。

 

 そう思った野獣は、

 

「オォン……! アォン……!(号泣)」

 

「え……や、野獣兄ちゃん?」

 

 顔を歪ませ、思わず号泣。ポロポロと大粒の涙を流し始めた野獣に、レネは戸惑った。

 

「そ、そんなことまでしないといけなかっただなんて、お前、大変だったなぁ……辛かったろうなぁ……!」

 

 幼い子供であるにも関わらず辛い苦しいレネの境遇は、感受性の高い野獣の胸が痛くなる程だった。

 

「お、怒らないの? あたし、悪いことしてたのに……」

 

「怒れるわけねぇじゃんアゼルバイジャン! 確かにスリはよくないことだけどさぁ! お前のような子供が何でそんな危ないことしなきゃいけねぇんだよ! 悲しくて涙が出、出ますよ……!(涙腺崩壊)」

 

 スリという犯罪行為に手を染めた自分に説教をするか、或いは警備兵に突き出されるのではないかと思っていたレネ。それだけのことをしたのだから、ある程度の覚悟はしていた……が、返ってきたのはまさかの号泣からの慰め。父親がいなくなってからそんなことを言われたことがないレネは、悪いことをしてしまったということを改めて思い知り、罪悪感を覚え、戸惑い……そして、胸の内が暖かくなるような、そんな気持ちを抱いた。

 

 尚、レネはそうは思わなかったが、通り過ぎる人々はその野獣の泣き顔がクッソ汚いことにぎょっとしていた。泣いている本人が気づかなかったのはある意味幸運でもあった。

 

「……よし!」

 

 パチン、と両膝を叩いて立ち上がる野獣。そして涙を拭い、レネの前に膝を着いた。

 

「レネ、ちょっと俺についてきてくれねぇか?」

 

「兄ちゃんに? い、いいけど……どこに行くの?」

 

 短時間とはいえ、レネは自分のことを心から思いやってくれる目の前の男に心を開いてた。これまで暗く、寒い日々を過ごし、人の悪意に晒されたりしてきた。それがあったこらこそ鍛えられてきたレネの人を見る目は確かなもので、野獣のことは信じていいと、彼女の直感がそう告げている。故に、野獣についていくことに抵抗はなかった。

 

「ああ、もしかしたら何とかしてくれるかもしれねぇ人がいるんだ」

 

 対し、野獣の脳裏に浮かんだのは、野獣たち迫真空手部にとって大きな縁でもあり、大事な友人でもある人物の顔だった。

 

 

 

 

 

~114秒後~

 

 

 

 

 

「ふぅむ、なるほど。そんなことがあったのか……」

 

「そうなんだよなぁ。俺もどうにかしてやりたくってさぁ」

 

 場所は、野獣たちにとって縁の深いオルトリンデ公爵の屋敷。そこの応接間のソファで野獣とレネが並んで座り、対面にはレネの境遇を語る野獣の話を聞いていた公爵が、真剣な面持ちで頷いていた。

 

 先ほどまでミスミドのお土産を持って訪れた野獣たちを歓迎し、快く通した公爵。しかし、野獣が見慣れない少女を連れていること、そしていつもとは違う雰囲気を纏っていたことに気付いた公爵は、話し合うために応接間へと案内し、今に至る。

 

「…………っ」

 

 ふと野獣が横を見ると、レネがそわそわしている様子で部屋を見ていた。顔色もどことなく悪いようにも見える。

 

「お、レネ大丈夫かぁ? 顔色がよくねぇぞ?」

 

「う、ううん大丈夫……ね、ねぇ。野獣兄ちゃんってもしかして偉い人なの?」

 

「ん? 何でそう思ったんだ?」

 

 何でそんなことを聞いてくるのかわからない野獣は首を傾げる。

 

「だって、この人公爵様なんでしょ? な、なんでそんな軽い調子で話せるの?」

 

「そりゃお前、公爵は友達だからさぁ」

 

「ああ。彼、もとい彼らとは私も友人として見ているよ。だから君も楽にしてくれたまえ」

 

「ふぇ……は……はい……!」

 

 貴族の中でも最上位の公爵相手に、平然と友人であると言い放つ野獣に、公爵本人もあっさりと認めていることから、レネはもう何も言えなかった。そして同時に、野獣という人間がどういう存在なのかまたわからなくなった。

 

「それで、野獣殿はどうしたいのだ?」

 

「俺としてはレネに人並な生活を送らせてやりてぇんだけどなぁ……けど、レネがしてきたことは軽いことだけど犯罪なんだよ」

 

 言って、野獣は立ち上がり、ソファの横へ移動する。そして、

 

「それで、公爵……オルトリンデさん、お願いします。レネのこと、どうか王様に大目に見てもらえるように進言できませんか?」

 

「や、野獣殿……!?」

 

「野獣兄ちゃん!?」

 

 膝と両手を床に着き、頭を下げる……所謂、土下座をした。

 

「レネがやったことは許されないことだとは重々承知してるんス。けど、レネはそうでもしないと生きていけなかったんスよ。レネ本人もこれはいけないことだってわかってて、反省もしてるんス。それにこの子の話を聞いちまった以上、俺はこの子をほったらかしになんてできねぇんスよ。無罪にしてくれ、なんて言えません。けど、少しでも罪を軽くすることはできませんか? 俺ができることは何でもします」

 

 常に我が道を突き進み、不遜な態度を崩さない普段の野獣からは想像もできない、懇願するその姿。その姿に面食らっていた公爵だったが、

 

「お、お願いします! もう悪いことは絶対にしません! あたしにできることなら何でもします! お願いします!」

 

 レネのために土下座をする野獣の姿に、一人ただ座っていることなどできないとレネも同様に土下座をした。

 

 しばし、時間が流れる。レネと野獣のその真剣な声、表情を見て、公爵も身を引き締め、口を開いた。

 

「……二人とも、顔を上げてくれ」

 

 言われ、静かに二人は顔を上げる。そして公爵もソファから腰を上げ、二人の前に立った。

 

「……野獣殿の言いたいことは、わかった。私は人を裁く立場ではないが、一つだけ言えることがある。それは、例え友人である君とは言えど、他者の罪を黙認することはできない。それが例え幼い子供とはいえど、罪は罪だ。それで傷つけられた人もいることは、君とてわかっている筈だ」

 

「っス……」

 

 公爵の淡々とした、しかし事実である指摘に、野獣は反論するつもりもなく聞く。

 

「そして、レネ君、だったね? 君は反省しているようだが、それでも君はしたことに対して罪を償わなければいけない……その自覚はあるかね? 罪を償うということは、とても重く、辛いものだということは」

 

「は……はい」

 

 威圧的ではないが、威厳のあるその声に恐縮するレネだったが、それでもはっきりと答えた。

 

「ふむ……いいだろう」

 

 そして、二人の前に膝を着いた。

 

「ならば、ここでメイドとして住み込みで働いてもらおうか」

 

「……え?」

 

「ファッ!?」

 

 先ほどの真剣な顔つきから一転、いつもの穏やかで、温和な顔つきになった公爵の顔があった。

 

「実は最近、メイドが一人家の事情で辞めざるをえなくなり、故郷へ帰ってしまったのだよ。それで空きが一つできてしまってね……言ってはなんだが、屋敷は広い。一人でもメイドが減ってしまうと、色々不都合が生じてしまうのだ。ちょうどメイドを募集しようと考えていたところだったんだが……どうだろう? 給料ももちろん出るぞ?」

 

「え……え?」

 

 突然のことに目を白黒させるレネ。公爵はそんな彼女の肩に手を置いて、続けた。

 

「無論、これはただ君を情けで雇う、ということではない。君が心から反省し、罪を償うというその言葉を信じて、奉仕という形で証明してみせて欲しいということを念頭に置いてくれ。もし、君がまた同じような罪を犯した場合、それは君のことを信じ、私に頭を下げてまで懇願してくれた野獣殿を裏切ることになる……わかるね?」

 

「っ……!」

 

 言われ、レネは目を見開く。自分のために泣いて、そして頭まで下げてくれた野獣を裏切る……その言葉を聞いて、レネは小さく、しかしはっきりと頷いた。

 

「はい……あたし、働きたい。あたしがした罪に、それにあたしを助けてくれた野獣兄ちゃんの恩にも報いたいです……!」

 

 公爵の意を汲んだレネの、力強い言葉。それを聞いた公爵は「うむ」と満足気に頷いた。

 

「ならば、早速メイドとしての教養を受けてもらわなければな。兄上の方には私から伝えておくとしよう……言っておくが、覚えることは多いぞ?」

 

 公爵が立ち上がったその時、応接間の扉からノック音が聞こえてきた。

 

「お父様、スゥです。座学が終わったので報告に来ました」

 

「おお、スゥか。入っておいで」

 

 扉の向こうから聞こえてきたスゥの声に、公爵は応える。そうして「失礼します」と一言の後、扉が開いてスゥが入ってきた。そして野獣の姿を見ると、その顔は笑みに溢れる。

 

「野獣! ミスミドから帰ってきておったんじゃな!」

 

「よ、スゥ。さっきお土産持ってきたからさぁ、後でみんなで食べてくれよな~!」

 

「おぉ、楽しみじゃ~! ……ん?」

 

 ふと、野獣の横にいるレネに気付いたスゥは首を傾げた。

 

「野獣、その子は……?」

 

「ああ、この子はレネ。さっき色々話しててさぁ」

 

「今日からこの子もメイドとして、ここで働いてもらうことになったのだ。レネ君、この子は私の娘のスゥシィだ」

 

「あ、えっと、はい……レネです。よろしくお願いいたします」

 

 野獣と公爵に紹介され、おずおずと挨拶するレネ。初めての近い年齢の同性に、どこか緊張している様子だったが、対するスゥは目を輝かせた。

 

「本当か!? わらわ、同じ年の子とお話するのは初めてなのじゃ!」

 

「あ、わ」

 

 強く手を握ってくるスゥに、レネは戸惑った。

 

「改めてよろしく頼むぞ! わらわはスゥシィじゃ!」

 

「こ……こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 満面の笑みを浮かべるスゥに対し、まだ固さが抜けないレネ。スゥは公爵へと顔を向ける。

 

「お父様、レネを案内してもよろしいですか? わらわが色々教えてあげたいのじゃ!」

 

「ああ、そうだね。レネ、スゥから色々教えてもらうといい。メイドの研修はその後にしようか」

 

「やったぁ! じゃあ早速屋敷を案内するぞ! こっちじゃ!」

 

「わ、わ、スゥシィお嬢様……!?」

 

 突然手を引っ張られ、返事をする間もなくレネは引っ張られて部屋を出て行った。それを野獣と公爵は微笑ましく思っていた。

 

「ははは、あれならすぐに打ち解けるだろうな。スゥも同年代の友人がいないから、とても喜んでいるのがわかるよ」

 

「そうっスねぇ! ……オルトリンデさん、改めてありがとうございます。俺の無茶なお願いを聞いてくれて」

 

 ソファに座り直した二人。野獣は改めて、公爵へ感謝の言葉を伝えた。

 

「言わないでくれ、野獣殿。君たちが私たち公爵家にしてくれた恩を考えれば、まだまだ返しきれてないと考えているんだ。それに、君が連れてきたんだ。十分、信用するに値するよ。後は、彼女次第さ」

 

「はい……まぁ、もしまた悪いことしたら俺に報告してくれよな~。お尻ぺんぺんして反省させてやるからさ!」

 

「フフ、そうだな。そうさせてもらおう」

 

 レネのことが解決し、野獣も普段の態度に戻った。やはり野獣はこうじゃなければと思っている公爵も、だいぶ毒されているのかもしれない。

 

「……しかし、解せんな」

 

「え、何が?」

 

 ふと、公爵が理解できないとばかりに呟き、野獣が疑問符を浮かべた。

 

「レネのような浮浪児が王都で増えているということがだよ。兄上が王都の孤児院を疎かにするような、そんな政策をとるはずがない……どうにもきな臭い気がしてならないな」

 

「んにゃぴ……もしかして金が不正に流れてるってことっスかね?」

 

「うむ、だが調べてみないことには何とも言えん。この件は兄上にレネのことを伝える時に調べておくよう進言するつもりだ」

 

「おっすお願いしまーす!」

 

 野獣としても、レネのような子供がこれ以上増えて欲しくない。公爵の話に、野獣も解決して欲しいと願いを込めるのだった。

 

 余談だが、今回の件で孤児院に回る筈だった支援金を、基金管理をしていた貴族が横領していた事実が発覚。当の貴族を拘束したことにより、王都で苦しむ浮浪児がほとんどいなくなったのは、また別の話だ。

 

 

 

 

 

~36分4秒後~

 

 

 

 

 

「んじゃあ俺は帰るな。レネ、しっかり頑張るんだぜ~?」

 

「うん! 野獣兄ちゃん、あたし頑張る!」

 

 公爵の屋敷の玄関にて、野獣がレネの頭を撫でる。今のレネは薄汚れた服から清潔感のあるメイド服を身に纏い、髪も風呂で綺麗にしてもらったからか艶がある。顔も出会った頃よりも明るく、年相応の笑顔が眩しく見えた。

 

「スゥもレネのことよろしくな? また今度みんなで遊びに来るからさ~」

 

「うむ! 楽しみにしておるぞ!」

 

 レネの横に並ぶスゥの頭も撫でると、野獣は改めて見送りに来てくれた公爵へと向き直った。

 

「じゃあ、公爵! 今日は本当にありがとな! またレネの顔見に来るからさ!」

 

「ああ、是非来てくれ。歓迎するよ……っと、野獣殿、少しいいか?」

 

「ん?」

 

 言って、公爵は野獣に耳打ちをする。その声は、スゥと話しているレネには聞こえない声量だった。

 

「先ほど、彼女の着替えをしてくれたメイドから聞いたのだが……彼女がペンダントをしていることに気付いたか?」

 

「ペンダントぉ? ……そういや首元になんか下げてるよな」

 

 服に隠れていて気付かなかったが、確かにレネの首元にはチェーンが下げられている。特に気にも留めていなかった野獣だったが、公爵の顔を見るに、真剣な話だというのが伝わってきた。

 

「聞いた話だと、母親の形見らしい……中央に大きな風の魔石が埋め込まれてあった」

 

「へぇ、実物は見ていないけど結構いい物じゃないスかぁ? よく今まで取られたなかったなぁ」

 

「……注目すべきはそこじゃない。ペンダントの裏にあった紋章。それが問題なんだ」

 

「紋章?」

 

「ああ。グリフォンの盾に、双剣に月桂樹……ベルファストにそのような紋章はない。だが、グリフォンの紋章は、帝国に多いんだ」

 

「ファッ!? それって……」

 

 帝国の紋章が印されているペンダントを、レネが大事に持っている。それが意味するもの、即ちレネの出自は……予想外の事実に、野獣は驚いた。

 

「いや、確証はない。もしかしたら偶然拾った物を、彼女の親が代々から身に着けていた物かもしれない。だからと言って、私としてもどうこうするつもりはない。ただ、それだけは君に知っておいて欲しいと思ってね」

 

「ふ~ん……かしこまり! まぁ、頭の隅に置いておくよ」

 

 まぁ、レネはレネであることに変わりないため、帝国出身だったからなんだというのが野獣の本音ではあるが。

 

 そうして野獣は、公爵の屋敷を後にした。その時、野獣の姿が見えなくなるまで、レネは手を振り続けていた。その時の顔はどこか寂し気で、それを見た野獣は、今後もレネのことを気にかけていくことを固く誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~。ぬわぁぁぁぁぁん疲れたもぉぉぉぉぉん」

 

「あ、おかえりなさい野獣さん」

 

「思いのほか遅かったでござるな?」

 

 帰宅した野獣は、家に着いた途端に襲ってきた疲労感に思わず奇声を上げる。そんな野獣を出迎えてくれたのは、リビングでお茶と茶菓子で小さな茶会を楽しむユミナと八重だった。そこには野獣の後輩と先輩の姿はない。

 

「ってあれ? 木村と三浦先輩は?」

 

「お二人でしたら、野獣さんが買ってこられたお土産を渡しに冬夜さんたちの下へ行きました」

 

「え、マジ? 木村の奴、疲れてたろ」

 

「少し休んだら元気になられたので、今のうちに渡してくるとのことでござる。三浦殿は付き添いという形で一緒にお土産を持って同行を」

 

「そっかぁ。なんか俺が買ってきたお土産なのに悪ぃなぁ」

 

 本来なら自分が渡しに行くところだったのを代わりに行ってくれた木村と三浦に申し訳なく思いつつ感謝する野獣。そしておもむろに、リビングの一角に置いてあった箱を手に取った。

 

「さて、じゃ二人を待ってる間にこいつを部屋に飾っておくかなーっと」

 

「あら、それは?」

 

「あぁ、確か部屋に飾るために買ったと言っていた物でござるか?」

 

「そうそう! やっぱ置物があると無いとでは部屋の雰囲気が違うって、はっきりわかんだね」

 

 ごそごそと箱を空けた野獣は、その中身を取り出した。

 

「……あれ?」

 

 そこできょとんと、訝し気に取り出した物を見る。それは鮮やかな紫色をした熊のぬいぐるみであった。

 

「ん? それを飾るでござるか?」

 

「村を出る前から思ってましたが、可愛らしい熊さんですね。リーンさんのポーラちゃんと似た雰囲気があります」

 

「いやちげぇよ? 俺が買ったのは別の木彫りの像だから。これはエルゼのお土産」

 

 ユミナと八重にそう答えながら、何でこれがここにあるのか考える野獣。

 

「……まさかあの二人、これだけ持ってくの忘れてたなぁ? ったく、しょうがねぇな~(呆れ)」

 

「え? けど三浦さん、ちゃんとお土産を三つ持って行かれましたよ?」

 

「冬夜殿の分と、リンゼ殿の分、エルゼ殿の分と、ちゃんと確認しておられたでござる」

 

「はぁ? なんで確認してんのにこれだけ持ってくの忘れてんだよ、あの池ぬ、ま…………」

 

 二人に反論しようとした野獣だったが、ふと押し黙る。何故このぬいぐるみがここにあるのか、何故木村たちは箱を三人分持っていったのか……回り出す思考。やがて導き出される結論。

 

 そしてあふれ出す……圧倒的、冷や汗。

 

「や、野獣殿? 顔色が真っ青になってるでござるよ?」

 

「な、なんだかそのぬいぐるみの色よりも青い気がしますが……」

 

 突然押し黙ったかと思えば、顔を真っ青にさせて汗をダラダラ流し始めた野獣に、八重とユミナが何事かと問う。しかし、野獣はそれに応えることなく、逆に二人に聞いた。

 

「な、なぁ……あいつら出てったの、いつ頃?」

 

「先ほどでござるが……木村殿のゲートを使って転移したから、今頃リフレットでござるよ?」

 

「それが何か……?」

 

「……………………やべぇよやべぇよ(死相)」

 

 三浦が持っていった箱。その中身を知っている野獣にとって、八重の答えが死の宣告のように聞こえた。

 

 

 

 

 

 

~それはそれとして、その頃~

 

 

 

 

 

 

「こんにちは」

 

「お邪魔しまーすだゾ~!」

 

「ポッチャ~!」

 

 場所はリフレットにある宿屋、銀月。アレフィスの自宅から転移した木村と三浦。ポッチャマは、両開きの扉を開きながら声を上げた。

 

「あらいらっしゃい。ご無沙汰じゃない?」

 

「ミカさん、どうもお邪魔します」

 

 カウンター越しから声をかけてきたのは、赤毛のポニーテールをした溌剌とした女性、この店の看板娘のミカ。冬夜たちと関わってから銀月にも訪れるようになった木村たちとも顔なじみであり、客というよりも友人に近い気安さをがあった。

 

「今日はどうしたの? 冬夜たちに用事?」

 

「ミスミドへ行ってきたから、お土産持ってきたんだゾ~これ! 冬夜くんたちいるかゾ?」

 

「二階にいるわよ。呼びましょうか?」

 

「いえ、僕たちが行きます。ありがとうございます」

 

 そう断った時、階段の上から声がかかる。

 

「あれ、木村さんに三浦さん?」

 

「どうしたのよアンタたち?」

 

「こ、こんにちは」

 

 そう言って降りてきたのは、木村たちの目当ての人物たち。肩に子猫状態の琥珀を乗せた冬夜は何故二人がここにいるのかわからず、きょとんとした。

 

「おお、冬夜くんにエルゼちゃんにリンゼちゃんに琥珀ちゃん! 元気してたかゾ~?」

 

「こんにちは、ミスミドでは色々ありがとうございました」

 

「ああ、いえいえ。僕らも皆さんには色々助けてもらっちゃって」

 

「大変だったわよね~、まぁ依頼が依頼だし……って、あれ? いつもの騒がしい奴がいないじゃない?」

 

『臭いがしない、ということは、ホントにいませんな……』

 

 いつも三人一緒なイメージが強い空手部の面子が一人欠けていることに疑問を抱くエルゼと琥珀に、三浦が答える。

 

「野獣は用事があっていないんだゾ。だから代わりに俺らが冬夜くんたちに、レレスの村で買ってきたお土産持ってきたんだゾ~! 全部野獣が選んだんだゾ!」

 

「え、野獣さんが、ですか?」

 

 驚くリンゼに、木村が持っていた箱の一つを手渡した。

 

「これ、リンゼさんに。ブドウの形をした銀細工らしいです」

 

「めっちゃ可愛いゾ~それ! 気に入ってくれたらいいんだけどな~俺もな~」

 

「わぁ……ありがとうございます! 野獣さんにもお礼をお伝えしておいてください!」

 

 箱の中身を見て、リンゼはその可愛い造形に目を輝かせた。

 

「で、これは冬夜くんに。ブドウのお菓子です。美味しかったので是非」

 

『ポッチャ!(めちゃ旨!)』

 

「え、僕にも? なんだか悪いなぁ。ありがとうございます」

 

『ほほぉ、これは……なるほど、あいつもなかなかよいセンスをしておりますなぁ』

 

 木村から手渡された箱を受け取ると、申し訳ないような複雑な顔をしつつも、どこか嬉しそうな声で礼を言う冬夜。肩の琥珀も、箱から香る甘くも爽やかな匂いにどこかうっとりしていた。

 

「で、最後はこれ。エルゼちゃんにだゾ~!」

 

「へぇ、気が利くじゃない……あいつ、何を選んだのかしら」

 

 三浦がエルゼに、二人より大きい箱を手渡した。エルゼがそれを受け取ると、三浦は悪意の一切ない、無邪気な笑顔で告げた。

 

「野獣曰く、エルゼちゃんにぴったりな物らしいゾ~! 喜んでくれると嬉しいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

~で~

 

 

 

 

 

 

 

 ――――バキィ!(玄関の扉をブーストキックで叩きのめす音)

 

 

 

「野獣のバカはどこッッッ!!?」

 

「で、伝説の金属ヤメチクリウムを探す旅に行ってくるとおっしゃって先ほど出ていかれました……」

 

 冬夜に転移してもらい、空手部の家の玄関を蹴破った全身に赤いブーストのオーラを立ち昇らせた般若の形相のエルゼに対し、八重と一緒に怯えながらユミナはただそう答えるしかできなかったそうな。

 

 

 




エルゼ、大原部長の才能あると思います(偏見)

今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?

  • スマホ太郎(アニメ主人公)
  • 望月冬夜(原作主人公)
  • 野獣先輩
  • 三浦
  • 木村
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