異世界空手部・やわらかスマホの裏技   作:コッコリリン

54 / 58
※注意!※
今回のお話にはショッキングなシーンが流れます。苦手な方はご注意ください


54.迫真空手部、カワゴエ砦へ

 

 

 

 八重の肉親を救うべく、木村がリコールを唱えて八重の記憶の中にある砦を探る。今回で二度目であると同時、緊急事態だということもあって、お互い一回目のような羞恥心もなく、すぐさまゲートを使って転移する。

 

 転移した場所は丘の上。耳に届くは、空気を揺るがす鬨の声。そして一行の視線の先には、小高い山の上に建設された木造の砦。その砦の至る箇所からは火の手が上がっており、砦の壁には兵士が梯子を立てかけてよじ登ろうと群がっている。状況は芳しくないということが、戦に疎い一行にも伝わってきた。

 

「これが、戦場……!」

 

 遠くからでも伝わってくる、戦場の熱。ビリビリと鼓膜を震わせる兵士たちの雄たけびと断末魔が、木村を委縮させた。

 

「おいおい、なんか結構やべぇ状況なんじゃねぇ? 砦って、八重の兄ちゃんと親父さんがいるんだろ?」

 

 野獣が顎に手を添えながら言う。声からは伝わってこないが、その表情は焦燥に満ちていた。

 

「兄上、父上っ!!」

 

 それを聞いていても経ってもいられず、八重は飛び出そうとする。が、リーンが八重の腕を咄嗟に掴んで待ったをかけた。

 

「待ちなさい。あなた、あの中に一人で飛び込んで無事でいられると思ってるの? 無茶よ」

 

 リーンの言うように、砦の周りは敵兵だらけ。おそらく、否、確実に正門も敵に抑えられている筈。中に入ることはおろか、砦に近づくことも困難なのは明らかだった。

 

「うーん……あ、そうだ。八重ちゃん、砦の中はどんな感じかわかるかゾ? 木村にリコールしてもらって、もっかいゲート開いて中に飛び込めば……」

 

 三浦の提案に、しかし八重は無念そうに首を振った。

 

「それが……拙者、砦の中までは入ったことがないでござる。その時はまだ砦は完成してなかったもので……」

 

「あ、そっかぁ……おい木村ぁ。何かいい魔法ないかゾ?」

 

「そうですね……ちょっと待っててください、何かないか探してみます」

 

 困った時こそ、木村の魔法。ペラペラと魔導書のページを捲っていき、何かこの状況を打開するに値する魔法を探る。

 

 1ページ、2ページ、3ページ……戦場の声と音、ページを捲る音だけが聞こえてくる中、ふと木村はあるページに目が留まった。

 

「ん? これは……」

 

 項目は闇魔法。そこには以前には綴られていなかった魔法が、説明と共に載っていた。それを見て、もしかすればこの状況をどうにかすることができるかもしれない……が、かなり博打に近かった。

 

 というより、使うかどうか迷った。

 

「えっと……あるにはあったかもしれません」

 

「本当でござるか!?」

 

 そう言う木村に、八重は希望を見出したように顔を綻ばせる。が、何故か木村は難しい顔をしていた。

 

「いや、でも、うーん……」

 

「木村さん?」

 

「そんな悩む魔法なの?」

 

 そんな木村に、どうしたのかとユミナが首を傾げ、リーンが聞く。やがて意を決し、木村は魔法の名を告げた。

 

「えっと、召喚魔法なんですけど」

 

 

 

 召喚という言葉を聞いた瞬間、野獣は一行から5m程離れた。

 

 

 

「や、野獣様?」

 

「っ……」

 

 セシルが、残像を残す勢いで遠くまで離れた野獣に思わず戸惑いの声を上げる。ラピスもその横で、普段の無表情ではなく目を大きく開いて驚愕を示していた。

 

「お前木村さぁ。それ以外の魔法とかないわけ?」

 

 遠くから、割と大きな声で聞いてくる野獣。何となく野獣のリアクションは予想していた木村は、申し訳なさそうに返す。

 

「いや、一応色々試そうとは思ってはいるんですが、まぁ、野獣先輩が反対なら別の方法を……」

 

「ああ、別にいいよ。一大事だもんな。けどさ、俺こっから動かないから。それでもいいなら召喚魔法やって、どうぞ(確固たる意志)」

 

 過去、召喚魔法もとい召喚獣によって散々な目に合わされてきた男、野獣。そのジト目からははっきりとした警戒心が伝わってきて、まるで人間に虐待されてきた猫のような強いものだった。

 

 それを見て本来ならば呆れるところなのだが、理由を知っている者たちからすれば野獣の態度もやむなしと、どこか気の毒そうな視線を向ける。召喚魔法の使い手で、実質最初に野獣に召喚魔法に対してトラウマを植え付けてしまったユミナが特にそうだった。

 

「……そんなに怯える必要あるかしら」

 

「ポチャ……(しょうがねぇなぁ)」

 

 一方、野獣の反応がわからなかったリーンは不思議そうに呟き、足元でポーラは首を傾げる。セシルとラピスも同様、頭の上に疑問符を浮かべていた。ポッチャマは三浦の頭の上で羽を上に向けて「やれやれだぜ」のポーズ。

 

「と、とりあえず、早速やってみましょう! すいませんユミナさん、魔法陣を描くのを手伝っていただけますか?」

 

「は、はい!」

 

 ともかく、一縷の望みをかけて木村は召喚魔法の準備を始める。初めて故にユミナの手を借りつつ、以前琥珀が呼び出された時に描いたメモを元に魔法陣をせっせと魔石のチョークで地面に描いていき、数分のうちに完成。手の埃を払い、木村は立ち上がった。

 

「よし……じゃあ、始めますね」

 

 魔法陣へ手を向け、瞳を閉じて魔力を集中させる。すると、魔法陣がラインに沿って紫色に発光しだし、魔力が充填されていくのが目に見えてわかった。

 

(欲しいのは……そうだな、うーん……)

 

 脳裏に浮かべるのは、今必要な召喚獣。戦場の状況を把握できるような存在を思い浮かべたが、それをすぐに否定する。必要なのは、根本の解決。召喚される存在はランダムだが、それでも八重の肉親を救うために、砦を囲んでいる兵士たちを退けられるような、そんな力を持った存在を木村は望んだ。

 

「――――こいっ!!」

 

 そして、目を開く。同時、力強く魔力を魔法陣に流し込むと、

 

 

 

――――ボンッ!

 

 

 

 魔法陣から鈍い爆発音が轟いた。暗い煙が、魔法陣を覆っていく。

 

 成功か? 誰もがそう思い、煙を見つめる。何が出てくるのか、固唾を呑んで見守っていると、やがて煙の向こうに影が見えた。

 

「や、やった……!」

 

 魔法陣の中心に、何かがいる。それはすなわち、木村の召喚魔法が成功したということだ。やがて煙が消えていき、木村が召喚した存在が顕わになっていく。

 

「…………ぇ」

 

 それは、言うなれば顔だった。

 

 長い髪に、大きく腫れぼったいピンク色の唇。縦にも横にもでかい鼻に空いた吸い込まれそうな虚無が見える穴、そして艶のないくすんだ黒真珠のような大きな目。まるで厚化粧を施した顔を鏡合わせにしたかのような、ひどく醜い異様な風貌。

 

 そんな顔が……大きさにして3mはありそうな、巨大な顔をした生物が、そこにいた。

 

「あ」

 

「ポッ(死亡)」

 

「な、な、なん、で、ござ…………!?」

 

「ひぃっ!?」

 

「」

 

 パタリ

 

「ぴぇ」

 

「――――――――――――っ」

 

 木村が茫然とし、三浦は顔を青くしたまま硬直、ポッチャマは三浦の頭の上で真っ白になり、八重は全身を震わせ、ユミナは上ずった声を上げ、リーンは立ったまま白目を向き、ポーラはプログラムの魔法が切れたかのように仰向けに倒れて死んだふり、セシルはガタガタ震えながら変な声を出し、ラピスは表情こそ変わらないものの直立したままピクリとも動かない。

 

 それほどまでに目の前のそれは醜く、それでいて悍ましい。この世の物なのか否かと聞かれれば否、しかし確実にそこに存在しているという事実が、一行の思考を凍てつかせる。心臓すらも止まりかねない、恐ろしい化け物がそこにいた。

 

「…………あ、あの……ユミナ、さん、こ、これ、は……」

 

「すいません知りません存じません許してくださいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 錆びたブリキのおもちゃのようにギギギとユミナへ振り向いた木村の質問に、ユミナは早口にそう答えた。目を手で覆って直視しないようにしていたが、それでも顔面蒼白だった。

 

 とんでもない物を呼び出してしまった……そう思った木村だったが、もう後の祭り。召喚したものはしょうがない。視界に入れただけで魂が召されそうになる程の凶悪な顔面を前に、それでもこの状況を打開するためならばと、木村は覚悟を決めて改めて向き直った。

 

 と、ここで化け物に動きがあった。大きな鼻をスンスンと鳴らしたかと思うと、視線が木村から外れる。そして、じっと一点を見つめていた。

 

 やがて、化け物の顔が変わっていく。目を細め、口角が上がっていく。それに伴い、顔に似合わず真っ白な歯が見えた。それは他の人で言う笑顔というものなのだが、目の前の化け物がそんな顔をすると、より一層悍ましさが際立った。そんな身の毛もよだつ程のニチャァ……とした顔を向けているのは、

 

「…………ん?」

 

 一行から一番遠く離れた場所に立つ(やじゅう)

 

 

 

 やがて、化け物は口からダラリと涎を垂らした。

 

 

 

「あ、ふーん(察し)」

 

 

 

 そして野獣は悟る。己に降りかかる不幸を思い、小さく笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、砦の中。そこはまさしく、修羅場という言葉を体現した様相を呈していた。兵士は忙しなく走り回り、一部区画では負傷した兵士が座り込み、または横になって痛みに呻き苦しむ声を上げる。あちらこちらから怒号、悲鳴が飛び交い、そして誰も彼もが疲弊していた。

 

「正面を突破させるな! 武器を振れる者はなんとしても死守するんだ!」

 

 その中で一人、檄を飛ばす男がいた。黒い長髪に、右頬に刀傷の痕。顔立ちは整っており、町を歩けば美男子として映るだろうその男の身に纏った黒い鎧は返り血に塗れ、これまで激闘を繰り広げてきたのがはっきり伺える。

 

「重太郎殿! 東側の守りに入っていた兵たちから助太刀を乞う声が!」

 

「西側もです! もうもたないとのこと!」

 

「くっ……! どちらも兵を回せば、敵が多い正門の守りが手薄になる。何とか持ちこたえさせるんだ!」

 

 男、重太郎に他の兵士から入ってくる救援要請。それを聞いて、彼らの声を聞くことができないことを歯痒く思いつつ、この状況を打破するために思考する。

 

 が、そんな彼を嘲笑うように、再び兵士が重太郎の下に飛び込んでくる。

 

「も、申し上げます! 正門の扉が陥落寸前です! これ以上は……!」

 

「っ……!」

 

 ギリリ、と歯を食いしばる重太郎。脳裏によぎるのは、最悪の光景。攻め入ってきた武田軍に砦は蹂躙され、そしてそのままの勢いでオエドに進軍、今度は町が火の海にされる光景……主君を守り切ることができなかったばかりか、己の生家が、今は武者修行の旅をしている妹の帰る場所が消されてしまう。

 

 それは、重太郎という人間にとって、最も恐ろしい未来だった。

 

 やがて、重太郎はキッと前を見据えた。その目は、覚悟と悲壮に満ちていた。

 

「……殿を、負傷した者を砦から脱出させろ。この砦はもうダメだ」

 

 兵士にそう言いつつ、腰から刀を引き抜く。

 

「私は正門へ向かう。お前たちも殿と共に逃げよ」

 

「な、何を! 我々も共に!」

 

「ならん! 殿を失うことだけは、この砦を失うこと以上にあってはならない! 私は、ここを死守する!」

 

 止める兵士の声も聞かず、しっかりとした足取りで歩く重太郎。その姿は、まさに武士の姿。主君を守るため、死を恐れない一人の戦士そのものだった。

 

(八重……すまない。お前が嫁へ行く姿を見るまで死ねないと決めていたというのに……)

 

 しかし、そんな武士もまた、人であり、兄だった。今この場にいない妹を想い、心の中で詫びる。

 

 確実に、生きることはできない……それならば、守るべきものを守るべく、敵を一人でも道連れにすることを誓い、重太郎は死地へと赴いていく。

 

 が、その足は止まることとなる。

 

「…………な、なんだ、あれは……!?」

 

 切っ掛けは、見張り用の窓から外の状況を見ていた一人の兵士の声。何かに戸惑っているようなその兵士に、重太郎は訝しむ。

 

「どうした?」

 

「あ、あれを……一体、あれは……!?」

 

 今は一刻を争う事態だが、気になった重太郎は外を見ていた兵士の隣に立つ。そして重太郎も、兵士の視線の先を見る。

 

 砦の周囲を囲む武田の軍。その兵士の中には、鬼の顔を模した面が付けられている。あの兵士たちに、重太郎たち徳川の軍は翻弄されていた。

 

 動きこそ緩慢だが、矢を射っても、刀で切っても向かってくる兵士。痛みさえ感じる様子もない、まるで最初から死んでいるような、そんな異質な者たち。

 

 だが、重太郎たちが見ているのはもっと別。戦場から離れた場所から立ち上る砂煙……目を凝らして、その煙の先をじっと見つめた。

 

 

 

『――――――アーーーーーーーーーーーッ!!』

 

 

 

 直後、見たことを後悔することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

「アァッ! ハァッ! アァッ! ハァッ! アァッ! ハァッ!」

 

 そんな喘ぎに似た変な声に反応した武田軍の兵士たち。声は自分たちの後ろから聞こえてきたことに気付き、振り向いた。

 

 振り向いて、しまった。

 

「助けて! 助けて! 助けてッ! お願いします! お願いします! お願いしますッ!!」

 

 筋肉質の肌が黒い(やじゅう)が武田軍目掛けて必死の形相で走り寄ってきているのがまず目に入り、

 

 その次に、そんな男を追いかけるように蜘蛛にも似た多脚を蠢かして走る、ニタニタとした笑顔を張り付けた悍ましい怪物が目に入るや否や、

 

「ひ、ひぃ!?」

 

「ぎゃーーーーーー化け物ぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「かーちゃーーーーーーーーん!!」

 

「ヌッ!」

 

「」パリーン

 

「」ガチャーン

 

「」チュドーン

 

 一気に恐慌状態に陥った武田の兵士たちは我先にと武器を手放して逃げ出し、鬼面を被っていた兵士たちは己の鬼面が割れたり砕けたり爆発したりして次々パタリと倒れて動けなくなる始末。

 

 野獣が戦場に突撃をかます。野獣を追う化け物も、野獣と一緒に戦場を駆け抜ける。一人と一匹が走る先はモーゼを前にした海の如く武田軍が二つに割れ、ある者は逃げ、ある者は気絶し、ある者は発狂、そして鬼面の兵士は鬼面を失って倒れていく。

 

 北へ南へ、西へ東へ、縦横無尽に走り回る一人と一匹によって武田軍は絵に描いたようなパニックに陥ってさぁ大変。先ほどまでは勇ましい鬨の声を上げていたというのに今では誰もがワーギャー騒ぐ声しか聞こえない阿鼻叫喚の地獄絵図。

 

 やがて武田軍が完全に軍としての統率が無くなった頃、野獣と化け物の追いかけっこも終わりを迎える。

 

「オォン!?」

 

 小石に蹴っ躓いた野獣。ズザーっとうつ伏せにスライディングしてようやく止まった野獣の上に覆いかぶさる大きな影。振り返って見上げれば、そこには「待ってました」とばかりにジュルリと舌なめずりをする醜悪な顔面。

 

「よ、よせ……く、来るなッ!」

 

 身体を起こそうにも、足が震えて立てない野獣。這う這うの体で逃げ出そうとするが、化け物も多脚を動かして野獣に迫る。

 

「来るな……!!」

 

 やがて、

 

 

 

 

 

「俺のそばに近寄るなあああああーっ!!」

 

 

 

 

 

 まぁ、そんな必死の懇願も聞き入れられるわけもなく、

 

「ンアーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

 甲高い悲鳴と、何かを舐めたり口に入れたりする時の粘着質な音が、憎たらしい程澄んだ青空広がる戦場の跡に響き渡るのであった。

 

 

 

 

~11分45.14秒後~

 

 

 

 

「兄上! よくご無事で……!」

 

「八重……? 本当に、八重なのか?」

 

「はい!」

 

 武田軍のほとんどは撤退、残りは降伏し、この合戦は徳川軍の勝利に終わった。勝利に沸き立つ砦を見て脅威が無くなったことを確認できた木村たちは、堂々と正門から砦へ訪れることができた。最初は戦闘直後ということもあって警戒はされたが、砦には八重を知る者が大勢いたおかげですんなりと通ることができた。聞けば、彼らは八重の道場の門下生とのことらしい。

 

 ともあれ、兄の五体満足な姿を見て、八重は脇目もふらず兄こと重太郎の胸に飛び込むことができたというわけである。重太郎もまた命を投げ出す覚悟でいたところを、こうして最愛の妹と再会できたのだから、喜びも一入だろう。

 

「―――――――」

 

「……あの、大丈夫ですか先輩?」

 

「大丈夫なわけないでしょ(半ギレ)」

 

「あ、そうですよね、はい」

 

 明らか見てわかる通り疲労とか絶望とかトラウマとか色んな物がない混ぜになっているせいでしおしおな状態になっている野獣のことは目に入れないように努めてはいたが。今回の戦の最大の功労者である筈の人間に対して感謝の意を述べたいところだが、今は何も言わずそっとしておいてあげるのが一番だと、重太郎の中の良心がそう言っていた。周りの兵士のみならず、空手部一行も野獣に目を合わせられなかった。それほどまでにあの光景は思い出したくないし、そして野獣に同情しつつもかける言葉が見つからない。

 

 因みに、今の野獣は木村によって全身水魔法をシャワーのように浴びたおかげで綺麗さっぱりしていて臭いもないが、いまだ身体に嘗め回された感覚は残っている。

 

「……おい木村ぁ。もうさぁ、俺がいない時にだけ召喚魔法使えよ? マジで。オナシャス!(切実)」

 

「は、はい……なんかもう、ホントすいません」

 

 覇気のない低い声で懇願する野獣。木村も、あの悲劇の渦中にいた野獣に対し、もうそう言うしかできなかった。

 

 唯一幸いとして、野獣を襲ったあの化け物は、野獣を一通りねぶり倒した後、満足したように煙となって消えていったことか。ユミナ曰く、召喚魔法を唱えて契約が完了した場合、自分の中で召喚獣と何かしらが繋がる感覚があるとのことらしいが、木村の中であの化け物と繋がったような感覚はなかった。つまり、契約は破棄。一度召喚して契約に失敗した場合、その召喚獣は二度と現れないのが決まり……本来なら嘆くところだが、今回の場合誰もが安堵して喜んだのは言うまでもない。思いがけず希望した通り、八重の家族を救うことができたし、十分な成果だった。

 

 ただ、野獣にとって元から苦手だった召喚魔法が、これでさらに嫌いになったことは間違いない。十中八九、あの化け物が野獣を追いかけ回した理由は野獣の人にはわからない体臭なのだろうが、今までと違って今回は妙に好意的に見られていたように思えた……野獣にとってはそんなことどうでもいいというか嫌われた方がマシだったのだろうが。

 

「ま、まぁまぁ野獣さん。ともかく、こうしてみんな揃う事ができたんですから」

 

「そうだゾ野獣。お前のお陰で八重ちゃんが兄ちゃんと再会できたんだんだから、誇りに思ったらいいゾ~これ!」

 

「その代償がでかすぎるんですがねぇ……? まま、ええわ。そろそろ切り替えてこ……」

 

 ユミナと三浦のフォローを受けてある程度のメンタルは回復した野獣。野獣としても先ほどまでの記憶は今すぐにでも忘れたいため、努めて思い出さないようにした。

 

「ところで兄上、父上は何処に……」

 

「安心しろ、八重。父上は殿と一緒で無事だ」

 

 もう一つ、八重の懸念していた父親の安否を問うたところ、重太郎からそう言われて改めて表情が和らいだ。これで完全に八重の憂いは無くなった。

 

「……此度の戦、本当に助かった。それと、八重が世話になっていると聞いた。礼を言わせてほしい」

 

「い、いや、そんなこと……僕らも八重さんにはとてもお世話になっております」

 

 八重から離れ、木村たちの前で頭を下げる重太郎。それに代表して木村もまた頭を下げる。

 

「ついて、今回の件で直接礼がしたいと殿からお達しが来ている。共に天守閣まで来てくれないか?」

 

「お、いいゾ~これ! 徳川家康さんに直接会えるなんて光栄だゾ~!」

 

 重太郎に促され、一人テンション上がる三浦に続いて一行は砦の中を進んでいく。いまだ戦の後始末に追われて慌ただしく駆け回る兵士や怪我に呻く兵士の声を横に、空手部は砦の上へと続く階段を昇って行く。

 

 やがて砦の最上階に辿り着くと、両側に護衛の兵士が立つ襖の前で重太郎が片膝を着く。

 

「失礼いたします。九重重太郎、此度の戦の功労者である者たちをお連れしました」

 

「うむ、入られよ」

 

 重太郎が恭しく襖を開けると、15畳ほどの広さの板の間の上座に座る恰幅のいいちょび髭を生やした男と、もう一人がっしりとした体つきの壮年の男がその横にいた。横にいる男は、どことなく雰囲気が八重に似ている。

 

「八重!」

 

「父上! 父上もご無事で……!」

 

 八重に似た男が八重の名を呼ぶ。案の定、彼が八重の父親で、八重もまた父親が無事であることを喜んだ。が、重太郎の時のように抱擁するということはなかった。

 

「此度の一件、他の兵士から聞いている。助太刀、心から御礼申し上げる。私が、徳川家泰だ」

 

「九重重兵衛と申す。娘が世話になっていると聞いた」

 

 座ったまま頭を下げる、ちょび髭の男。彼こそが八重の父親の主君。その主君の前で再会を喜び合うのは、八重たちも流石に慎んだという形だろう。そして八重の父親である重兵衛も頭を下げた。

 

「いえ、私たちがこちらに出向いたのはたまたまのことです。お気になさらず」

 

 そんな家泰に対して応えたのは、一歩前へ進み出たユミナだった。

 

「む? 貴殿は……」

 

 ユミナの幼いながらも溢れ出る気品に、ただの少女ではないことを感じ取ったのか、家泰は眉を動かした。

 

「申し遅れました。私はここより西の王国ベルファストの国王、トリストウィン・エルネス・ベルファストの娘、ユミナ・エルネア・ベルファストと申します。以後、お見知りおきを」

 

 名乗り、スカートの裾を摘まんで恭しく頭を下げるユミナ。その名を聞き、家泰たちだけでなく周りにいた兵士も含めてその場にいた者たちがどよめいた。

 

「おお、なんと! そのような方が……失礼仕った。ただ御覧の通り、ここにはもてなすために必要なものはございませぬ。何卒……」

 

「いいえ、構いませんわ。先ほどもお伝えした通り、出向いたのはたまたまですので」

 

 一国の重要人物が現れたことで浮き足立っていたが、家泰に促されて人数分の座布団を兵士が床に敷いていく。ユミナがそれに「ありがとうございます」と礼を言って座り、それに続いて野獣たちも座布団に座った。

 

「改めて、此度の件、本当に助かった。今一度、御礼申し上げる。して、後ろの者たちは?」

 

 もう一度、深く頭を下げる家泰。そして、ユミナの後ろに座る野獣たちへ訝し気な目を向けた。それに対し、ユミナは少し考えてから口を開く。

 

「彼らは私の護衛ですわ。とても心強い方々で、いつも助けられております」

 

「ほぉ、護衛……」

 

 一国の王女の護衛という役目が誉れ高いことを知る兵士たちから、おぉ、という声が上がる。

 

「八重がユミナ姫の護衛か……驚いたぞ。さぞ己を追い込むような厳しい修行をしてきたのだろうな」

 

「と、当然! 修行の賜物でござる!」

 

「ん、そうですね(目逸らし)」

 

 重兵衛から称賛され、若干言い淀みつつも胸を張る八重。その横で野獣は八重が以前食堂の料理をほぼ食いつくした光景を思い出したがあえて言わなかった。

 

「して、そちらの我々の砦を救ってくれた彼は?」

 

 家泰の視線は、野獣へと向けられている。武田軍を退けたのは確かに野獣だが、野獣は首を振って否定した。

 

「ああ、俺は田所っていうんだけど、野獣って呼んで、どうぞ(要求)。実際に武田を退けたのは俺じゃなくて、あの化け物を召喚した木村だから、お礼なら木村に言ってくれよな~頼むよ~(謙虚)」

 

「あ、いや、確かにあれを召喚してしまったのは僕ですけども……」

 

 木村としてはあんな化け物を召喚したという事実が嫌すぎて思い出したくはなかったが、実際に武田軍を追い返したのはあの化け物の功績が大きいというのも事実だったため、複雑な心境だった。

 

「ほぉ、彼が……」

 

「はい。この方は木村ナオキさんと申しまして、私の護衛……もとい、大切な人、です」

 

「なんで今それ言う必要なんかあるんですか(赤面)」

 

 家泰の興味が木村に移り、ユミナが木村の紹介をしてきゃっと頬を染めて身を捩った。思わず木村がツッコむ。

 

 再びどよめくイーシェン側の人々。何故か全員、どこか微笑ましいものを見る目で木村とユミナを見ている。

 

「なるほど、では彼は将来の婿ということになるのですな?」

 

「ええ、いつかそうなれればと私も思っておりますわ」

 

「いやですから何で今それを言う必要があるんですかって言ってはいます、が、あの、えぇっと、まぁ、はい……」

 

 ユミナと家泰の会話にツッコミを入れる途中、木村へ振り返ってユミナが目尻に涙を浮かべて訴えるような、縋るような目で見つめてくるのを見て尻すぼみになっていった。それを見ていた野獣とリーンはニヤニヤしていた。

 

「あーっと……そ、それで武田軍なのですが、今回の敗北で諦めたのでしょうか?」

 

 なんとか流れを変えるべく、木村は気になっていたことを尋ねる。実際、今回の勝利は窮地に立たされていた徳川にとっては大きいというのは木村にとってわかる。だが、家泰はどこか浮かない顔をして唸った。

 

「確かに、我々は勝利した。が、武田の内情が把握できない以上、あれで終わりとは言い切れん。あの鬼面兵をさらに増やし、次は大砲を持ち出してくるやもしれぬ。今回は勝てたが、次はどうなるやもわからんのが現状だ」

 

「……そういやあの鬼の面した奴ら、面が割れた瞬間にぶっ倒れてたな。リーン、お前どう?(疑問)」

 

 鬼面と聞いて思い出した野獣は隣のリーンに尋ねた。

 

「そうね……何かの無属性魔法か、或いは『アーティファクト』かしら」

 

「あーてぃふぁくと?」

 

「古代文明の遺産、強力な魔法道具のことよ……あなたのそれもアーティファクトじゃないの?」

 

「ん、そうですね(曖昧)」

 

 リーンがじっと野獣のスマホを見つめて、野獣は適当に誤魔化した。

 

「奴らは面を壊さない限り、手足が飛ぼうが心の臓を穿たれようが構わず動き続ける。まるで生きる屍そのものだ」

 

 思い出し、歯噛みする重太郎。今回の戦で徳川が苦戦した要因に対し、苦々しい思いを抱いているようだった。

 

「何にせよ、あの鬼面の兵士をどうにかしないと、オエドの脅威は消えないってわけですね」

 

「お、そうだな(理解)」

 

「ポチャ(把握)」

 

 木村のまとめに、今の今までボーッとしていた三浦はようやく反応した。

 

 尚、唯一鬼面兵に対抗できたのが木村が召喚した化け物であるということは誰もがわかっていたが敢えて誰も言わなかった。その理由、推して知るべし。

 

「……しかし、此度の鬼面兵といい、突然の侵略といい、わけがわからぬ……武田の領主、真玄殿がこのような暴挙を犯すとは思えない。やはりあの話は本当なのかもしれぬ」

 

「あの話?」

 

「なんスかぁ?」

 

 家泰の呟きに木村と野獣が反応する。それに対し、答えたのは重兵衛だった。

 

「先日、鬼面兵とは違う普通の武田兵たちを捕らえたことがあってな。尋問にかけた時、連中が言っていたのだ……武田真玄はすでに亡くなっているかもしれない、とな」

 

「ファッ!?」

 

「そしてその真玄殿の死体を操り、武田軍を意のままに操っているのが、武田の軍師、山本完助であると」

 

 予想外の話に、野獣たちは驚愕する。まさか領主が死んでいて、しかもそれを操って軍を私物化しているなど、誰が思えようか。

 

「ただ、下っ端の兵士たちも詳しい内情を知らないようだ。武田の中でも極秘扱いなのだろう……もっとも、人の口に戸は立てられぬ。こうして我々の下に情報が入ってきているからな」

 

「それでも確証がない、飽く迄も噂程度の情報だ。もしそれが事実だとすれば山本完助がこもっているというツツジガサキの館に侵入し、奴を捕まえればそれでいいのだが……」

 

「今の情報が不確かな段階では、動くことはままならない、ということですね……」

 

 重兵衛と家泰の話を聞いて、ユミナが顎に手を添えて考え込んだ。

 

「まぁ、あり得ない話ではないわね。あの鬼面兵、つまり死体を操ることに特化した魔法、もしくはアーティファクト使いかもしれないし」

 

 リーンが考察を話すが、それでもやはり信憑性がない……ふと、野獣がポンと掌を叩いた。

 

「あ、お前さリーンさぁ。さっき、羽隠す時にさぁ、魔法かなんか使ってたよな?」

 

「ええ、そうだけど?」

 

「それさ、身体全体を見えないようにすることとかってできる……できない?」

 

「できるわよ。ただ、光を迂回させて対象物を見えなくするだけだから、触れるとバレちゃうけど」

 

「はぇ~(納得)」

 

 野獣の問いを聞いていたラピスが「まさか」と口を挟んだ。

 

「野獣様、侵入するおつもりですか?」

 

「ポチャ?(マッ?)」

 

「そうですねぇ……もしその山本って奴が今回の首謀者なら、取……っ捕まえた方が早いようにみえます」

 

「お、そうだな(同意)。俺も野獣の意見に賛成だゾ~これ! それに武田信玄に会えるかもしれないしな~」

 

 野獣の意見に三浦が嬉々として賛同する。どうも状況を理解しているような感じに見えない三浦に、兵士は「大丈夫かこいつ」というような怪訝な目を向けていた。その横で木村もしばし思案するが、やがて頷く。

 

「確かに、僕らのような組織に縛られていない人間の方が動きやすいですね。僕も賛成です。仮にその山本完助が首謀者でなくとも、何かしらの情報は持ち帰れそうですし」

 

「よし、決まり! お前さ八重さぁ、ツツジガサキってところ知ってる……知らない?」

 

「いえ、拙者は……父上はご存知で?」

 

「ワシもないな。して、それがどうかしたか?」

 

 重兵衛の疑問に、木村が答える。

 

「どなたがツツジガサキに行ったことがある人がいれば、僕の魔法を使ってそこへ飛ぶことができます。この砦へ来れたのもその魔法のおかげなんですよ」

 

「なんと!」

 

 魔法という力があまり浸透していないイーシェンにとって、木村の魔法は驚愕に値するものなのだろう。重兵衛、家泰含めたイーシェンの人間全員が驚きの声を上げた。

 

「けど、ツツジガサキの場所を誰も知らないともなると問題ですね……どうしましょうか?」

 

「捕らえた武田兵ではダメなのか?」

 

「この魔法は対象が渡したくないと思った情報を読み取ることができないんです。武田兵が武田に忠誠を誓っているのなら、恐らく難しいかと……」

 

 家泰の質問に答える木村は、どうしたものかと腕を組んだ。と、そんな時だった。

 

「それでしたら、私がツツジガサキへの案内を務めましょう」

 

 どこからともなく、この場にいない者の声が天守閣の間に響いた。

 

「っ!? 何者だ!!」

 

 重兵衛が腰の刀の柄に手をかけながら立ち上がる。野獣たちもこの場にいない人間の声に警戒し、膝立ちになる。

 

 その時、天井から一人の影が落ちる……もとい、飛び降りてくる。音もなく、板張りの床に膝を曲げて着地したのは、黒装束を身に纏った一人の人間。体格から見て女性であろうその人物は、警戒を強める一行の前で、顔を覆っていた黒い布を外して素顔を晒す。その顔は整った美人というべき顔立ちで、しかしどこか刀めいた鋭さを感じさせる雰囲気を纏っていた。

 

「おお、忍者だゾ~これ! かっこいいなぁ!」

 

「先輩、ちょっとお口チャックお願いします」

 

 一人、子供の如くはしゃぐ三浦を木村が窘める。

 

「突然の無礼、お許しください。私は武田四天王が一人、高坂政信様配下、椿と申します。徳川家泰様宛の密書をお持ちいたしました」

 

「なんと、高坂殿の!?」

 

 忍者こと椿は、恭しく片膝を着いたまま懐から一つの巻物を取り出すと、それをその場に置いて一歩下がった。敵である武田側の人間ということもあって警戒を弱めることもなく、主君の代わりに重兵衛が椿へと顔を向けたままその巻物を拾い上げ、家泰へと手渡した。

 

 家泰は巻物を広げ、その内容に目を通す。最初は驚き、そして徐々に顔が険しくなっていく。内容からして、いい物ではないことは野獣たちの目から見ても明らかだった。

 

「殿、密書にはなんと?」

 

「……どうやら、情報は確からしい。今の武田軍は傀儡と化しているようだ」

 

 情報、すなわち先ほどまで聞いていた噂程度の話だろう。誰もが息を呑む中、家泰が続ける。

 

「真玄殿はすでに亡くなっており、武田四天王は高坂殿以外、全て地下牢へ投獄されているとのこと。どうか完助を止めて武田を救ってほしいとある」

 

「はい。高坂様は完助に従うフリをして、武田奪還を考えております。そのために、私がここまで来ました」

 

「やべぇよやべぇよ……相手がゾンビみてぇな奴とか洒落にならねぇぞ」

 

「けど、聞く限りだと武田の中にも味方はいるってことですよね? まだ希望はありますよ!」

 

 状況は絶望的であることに焦る野獣だったが、まだ抗う者がいるということに木村は希望を見出す。それに同意し、家泰は頷いた。

 

「正直な話、武田を救う義理はない。が、このままでは完助が操る鬼面兵によって徳川はやられてしまうのは間違いない。一刻も早く完助を打倒しなければならない……だが、先の戦で我が軍も疲弊している上、すぐには動けない。なんとも情けない話だが、我々はベルファストからの客人に全てを委ねるしかないようだ」

 

 言って、家泰は木村を、もとい迫真空手部一行を見る。一筋の希望に縋るようなその目に対し、一行の答えは一つ。

 

「無論、やりますよ。ここまで来たら乗りかかった舟です!」

 

「武田止めないとオエド観光ツアーが台無しになるからね、しょうがないね……あとこれ片付けないと安心して遺跡行けねぇからなぁ」

 

「私の用事がついで扱いなのが甚だ不服だけど、まぁその点については同意するわ」

 

「武田信玄に会いてぇなぁ俺もな~」

 

 木村、野獣、リーン、そして三浦が立ち上がる。元より首を突っ込んだ時点で逃げるという選択は、一行にはなかった。

 

「ポッチャァ!!(やぁってやるぜ!!)」

 

 そんな三浦たちの足元では、ポッチャマとポーラが羽と腕を振り回してやる気十分、という意思を示していた。

 

「あぁ、悪いけどポーラとポッチャマは留守番よ?」

 

「ポチャッ!?(ファッ!? うせやろ?)」

 

 ガーン! という擬音が聞こえてくる程にショックを受けるポッチャマとポーラ。

 

「あ、おい待てぇい(江戸っ子)。なんでポッチャマも留守番かゾ?」

 

「いえ、先輩。今回は潜入作戦なので、少人数で行くのが一番なんです。ポッチャマには悪いけど、極力目立たないように動かないといけないので……」

 

「行くとしたら、俺と木村、三浦先輩、リーンと椿さんってことになるな。これ以上は流石に無理じゃね?」

 

「ポッチャマ……」

 

 相棒を一緒に連れていけないことに悲観して顔を覆う三浦。ポッチャマもポーラと一緒に地団太を踏んで悔しがっていた。

 

「え……拙者も共に行けないでござるか……!?」

 

 と、もう一人異議を唱える者がいた。八重が目を見開き、説明を求めた。

 

「すいません八重さん。八重さんはここでお兄さんとお父さんと一緒にいてください。徳川軍の人たちはこの後僕らが癒しに行きますが、それでも疲労まではどうにもならないので、一人でも戦力になる方がいた方がいいと思って……」

 

「八重も並の兵士よりは強いだろうから、ま多少はね?(信頼感)」

 

「け、けど……!」

 

 それでも不服を申そうと身を乗り出そうとした……が、そんな八重を押し留めたのは三浦だった。

 

「八重ちゃんすまんゾ。俺らの留守中にポッチャマたちを頼むゾ……それに俺としては、八重ちゃんを危ない場所へ連れて行くのは嫌だゾ」

 

「っ…………」

 

 懇願する目で八重を見る三浦。その目に、八重は何か言い募ろうとし……それでも、堪えるように口を噤んだ。

 

「……承知、したでござる……何卒、ご無事で」

 

「大丈夫だゾ~! 俺らの強さは八重ちゃんも知ってるだルルォ?」

 

 八重にそう返した三浦は、いつものような溌剌とした笑顔を向けた。

 

「じゃあ、行くとしたら夜ですね。その間に僕は兵士の人たちに回復魔法をかけるんで、野獣先輩、スマホで魔力の補填お願いしますね?」

 

「しょうがねぇな~。んじゃその後は飯だな、飯! 腹が減ってはアソコがたたないって、それ一番言われてるから(格言)」

 

「お、そうだな」

 

「聞いてこともねぇよそんな諺。ユミナさん、すいません。留守の間、よろしくお願いします」

 

「……正直、私も留守番なのは不満ではありますが……木村さん、皆さん、どうか気を付けていってきてくださいね?」

 

「姫様のことならご心配なく。私たちがお傍におりますゆえ」

 

「はい~。こちらでお世話しておきます~」

 

「……正直、潜入するのにこのメンバーでいいのか不安になってきたわね……」

 

 わいのわいのと騒ぎつつ、今後の動きについて話し合う空手部一行。

 

 そんな彼らを、少し離れた場所に座って眺めている八重。その拳は、固く握られて震えていた。

 




※注意?※
今回のお話のショッキングなシーンで心臓が止まった方がもしおられるのであれば申し訳ありませんでした。私はあらかじめ心臓を止めておいたから致命傷で済みました。

今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?

  • スマホ太郎(アニメ主人公)
  • 望月冬夜(原作主人公)
  • 野獣先輩
  • 三浦
  • 木村
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。