日が沈み、夜の帳が降りる頃。カワゴエの砦で負傷兵の治療や物資の調達などの手伝い、そして短いながらも英気を養った野獣たちは、いよいよ敵の本拠地であるツツジガサキへ向かう手筈を整える。
「じゃあ椿さん、ツツジガサキの館のことを強く思い浮かべてください。あ、あとできればあまり目立たない場所で」
「承知いたしました」
木村が椿にそう頼み、目を閉じながら椿の手を握り、そして額を合わせる。そのまま魔力を集中させていった。
「………………………」
「お前さユミナさぁ……こうでもしないとリコール使えねぇしそろそろ嫉妬するのやめない? まぁ気持ちはわかんだけどさぁ」
「……わかってはいるんです……わかってるんですけどぉ……」
「大丈夫だゾ~ユミナちゃん。またあとでお願いしてユミナちゃんもしてもらえれば木村だったらしてくれるからな~」
「そういう問題かしら……?」
後ろで騒ぐその他大勢は極力無視した。でないと魔力に集中できない。
「じゃあ、いきますね……リコール」
スッと、木村の意識の中に椿の意識が流れ込んでくる。
堀に囲まれた平屋の館と、それを取り巻く城下町。オエドと似たような光景だが、所々に武田の家紋が縫われた旗がところどころで風に吹かれてはためいているのが見える。敵の本拠地である証だ。
「―――よし(確信)」
椿から離れ、木村は先ほど見た光景を脳裏に思い浮かべながら手を掲げた。
「ゲート!」
楕円形の光が生成され、その光の先にツツジガサキの光景が広がる。初めて見た魔法の力に、家泰含めたイーシェンの人間たちは驚きどよめきの声が上がる。
「じゃあ、行ってきます。ユミナさん、こちらのことはお願いします」
「木村さん、お気をつけて……帰ってきたら私にもおでこにコツン、お願いしますね?」
「あ、はい(了承)」
帰ってきたら帰ってきたで大変だなぁと思いつつ、木村はゲートを潜っていった。続いて椿、リーン、野獣と潜っていく。
「じゃ、行ってくるゾ~これ!」
最後、三浦がゲートに片足を突っ込んだ時だった。
「っ……三浦殿!」
「ん?」
突如、八重が三浦を呼び止める。三浦が振り返れば、八重が何かを言おうと口を開き……思いとどまったかのように口を閉じ、もごもごさせる。
「…………ご武運を」
しばしの沈黙の後、ポツリと呟くように三浦に伝えた。
「…………ありがとな~八重ちゃん! 頑張ってくるゾ~!」
三浦はそれに応え、意気揚々とゲートを潜っていった。
何かを堪えているかのような八重の表情を気にしながら。
「あれがツツジガサキの館……」
ゲートを抜けた先は鬱蒼と生い茂った森の中。夜ということもあって周りは暗く、見通しが悪いが、それ故に視線の先にある松明の明かりに包まれている建物からは見つかりにくいという利点があった。
「……こっから見える限りでも厳重だってのが、はっきりわかんだね」
手を翳して館を凝視する野獣。堀に囲まれた館に架けられた橋には屈強な男が槍を手に門番として立ちはだかっており、見張り櫓にも弓を手に兵士が周りを警戒しているのが見える。
「とりあえず、視界に映る範囲で人気が無さそうな場所に転移して侵入しましょう。えーっと」
木村が目を凝らして館を見る。見える限りで手薄な箇所を探していると、見張り櫓からも死角になっている屋根の上があった。
「よし、あそこに……ゲート!」
もう一度ゲートを唱える木村。そして先を見ようと、そっと顔だけゲートに入れた。
「……あ、あれ?」
が、ゲートを通った先は森の中。顔を戻してみると、ゲートの先と同じ光景。変に思いつつ、今度は身体全体で通ってみる……が、通った先はやはり森。振り返れば相変わらずそこにあるゲートと、野獣たちの姿。
「おい木村ぁ、どうしたよ?」
「いや、なんか……ゲートで転移ができないみたいです」
「ファッ!?」
戸惑う木村に続き、野獣も実践しようとゲートに入る。すると、ゲートの光を通った野獣が木村の隣に降り立った。
「うわ、マジだ。どうなってんだよこりゃ? 木村、ミスった?」
「いえ、いつも通りにゲートを使っただけです……こんなこと初めてだ」
「木村がミスするとは思えないゾ。何らかの異常があるんじゃないか?」
ゲートの異常に首を捻る空手部の三人。それを見ていたリーンが口を開いた。
「結界の力ね。館の中にある護符がゲートの転移を阻んでいるんだわ」
「結界?」
「……そういえばオルトリンデさんが、王城に不届き者が入り込まないような措置があるとか、そんなようなことを言ってたと思います。そうか、これがゲートの異常の原因か」
易々と侵入されないためのセキュリティに、木村が歯噛みする。
「恐らく、完助の手による物でしょう。私だけなら怪しまれずに中に入り、護符を破壊してくることが可能です」
「やりますねぇ! じゃ早速……」
椿の提案に野獣が賛同しかけた時、リーンが待ったをかける。
「待ちなさい。今結界を壊せば本人にバレるわ。壊した人間が誰かわからずとも、警戒されるのは得策じゃないわよ」
「ん~……じゃどうするゾ?」
三浦が顎に手を添えながら問う。そこで野獣がポンと掌を叩いた。
「じゃあここであれ使おうぜ。リーンの羽根隠す時の透明化の魔法の奴。それで椿さん以外の俺らが姿を消して、椿さんの後に続いて俺らも侵入するって感じでどう?」
「だから透明化じゃなくて視覚の……まぁいいわ」
不満げに言いつつ、諦めたように口を噤んだリーン。魔法に関して妙なところにこだわりがあるんだと、野獣たちは何となく思った。
「じゃあ三人とも、そこに並んで立って」
言われるがまま、野獣たちはリーンの前に並んで立つ。リーンが三人に向けて手を翳すと、三人とリーンの足元に魔法陣が展開される。
「光よ歪め、屈曲の先導、インビジブル」
魔法が詠唱されると、魔法陣が足元から昇って通過していく。それに伴い、四人の身体は消えていき、魔法陣が頭の天辺まで通り抜けて消える頃には完全に姿は消失していた。
「消えた……」
唖然とした椿の声。だが、消えた当の野獣たちはというと、各々手を翳したり身体を見たりと、いつもと変わらない姿であることに疑問を抱いていた。
「え、消えた? 特に何も変わらない気がすんだけど?」
「リーンちゃん、これ俺らホントに消えたのかゾ?」
「ええ。っていうか自分の身体まで見えなくなってしまったら不便でしょうがないでしょうに」
「あぁ、声は聞こえるんですね……」
ホッとする椿の声。その様子を見るに、本当に自身たちの姿が消えているのだと確信できた木村も安堵した。ここで本当に姿が消えていないとなったらどうにもならない。
ふと、リーンは椿を見てニヤリと笑う。悪戯を思いついた悪ガキめいたその笑顔のまま、椿の背後に回るリーン。当然ながら姿が見えないリーンに椿は気付かない。そして、
「ふひゃあああああ!?」
グワシッ! と椿の胸を両手で掴んだ。その胸は豊満であった(NJSRY)。
「ちょっと田所―、見えないからって何してんのよー?」
「や、野獣さん!?」
赤面して焦る椿、ニヤけたまま罪を野獣に擦り付けるリーン。そして、
「…………」
「…………」
「…………」
ジトーッとした目でリーンを見る三人。
「……あ、あら?」
思った反応と違ったリーンは、冷や汗がタラリ。
「……お前さリーンさぁ……それ敵の本拠地ですることじゃない……することじゃなくない?(マジレス)」
「リーンちゃん、女の子の胸を揉むのは同性だからってよくないゾ?」
「っていうかこんなところではしゃぐとかやめてくださいよホントに(正論)。敵に見つかりますよ?」
「まさかアンタたちにマジなトーンで反論されるとは思わなかったわ」
予想以上に真面目な彼らにリーンは拍子抜けして椿から胸を離した。解放された椿は息を荒くして座り込む。
「っていうかサラっと俺がセクハラしてることにしてっけどさぁ、俺が遠野以外の胸とか揉んだりむしゃぶりついたりするわけねぇだろバカじゃねぇの? 遠野以外の胸なんざ脂肪の塊だって、それ一番言われてるから(断言)」
「揉みはしたけどむしゃぶりついてはないんだけど? その遠野っていう人のならセクハラ以上のことしそうな発言ねそれ」
「そそそそんなことしたい、じゃなくてするわけねぇだろうがよ!」
「野獣は遠野のこと大好きだからな~。遠野以外の人相手に欲情しないと思うゾ~これ!」
「……ホントに先輩、遠野くんに睡眠薬あげるだけで済んだのかな……」
敵の本拠地を前にして緊張感なく騒ぐ四人。それをいまだ顔を赤らめながら座り込む椿は彼らの豪胆さに戦慄すると同時、何故胸を揉まれたのかという疑問と揉まれ損という理不尽な辱めを受けて頭を痛めるのであった。
「高坂様からの使いだ。通していただきたい」
「……確かに。しばしお待ちを」
そんなこんながあって、橋を守護する門番たちの前で椿が鑑札を見せると、門番が重い扉をゆっくりと開いていった。椿は門番たちを一瞥することなく通り過ぎ……門が再び閉じられる寸前、姿が見えない野獣たちもスルリと中に滑り込むように入っていった。当然、門番たちの目に留まることなく、難なく侵入することができた。
「ところでさぁ。この透明化って大丈夫なん? 木村のゲートが機能しなかったんだから、俺らにかかってる魔法も解けねえ?」
野獣が不安に思っていることを隣のリーンに周りに聞こえないよう極力小声で問う。
「それは大丈夫よ。結界は基本的にそこに干渉しようとしている魔力を弾く効果があるんだけど、インビジブルの魔法が干渉してるのは私たち自身だから問題ないわ。干渉しないから結界内からならゲートを使うことも可能よ」
「「…………?????????」」
「すいませんリーンさん。今の説明だとこの二人にはちょっと……」
「……結構わかりやすく言ったつもりなんだけど……?」
「んまぁ、そう……よくわからなかったです(バカ)」
「あ~もう一回言ってくれ(アホ)」
「……結界を例えるなら魔法による鍵のかかった扉。開かない扉に対して素通りできないでしょ? だから転移系の魔法は扉にぶつかって弾かれるの。わかった?」
「ん、そうですね……(曖昧)」
「あ、そっかぁ……(生返事)」
「……………………これがミスミドの脅威になりえた化け物を退治した人たちなのかと思うと、なんだか情けなくなってくるわね」
「ホント、すいませんなんだか……」
「あなたも大変ね、木村」
とりとめのない話をしながら、椿の後ろを続く一行。月明かりはなく、松明の明かりに照らされた敷地内を進んでいく。
「四天王の方々が捕らわれている地下牢はこちらです」
小声で言いつつ歩く椿。野獣たちに対して言ったのだろうが、傍から見れば独り言を呟いているように見えるだろう。
目指すは西側。曲輪の端に立つ家屋の地下に牢屋はあるという。そこへ行くにも当然のことながら見張り番が立っているが、門番と違って椿の持つ鑑札では通ることはできないため、リーンのインビジブルを椿にもかけることで全員透明化して通過することに。
中の番人の部屋を通過し、石で組まれた地下へと向かう階段を降りていく。途中で兵士とすれ違うこともなく、目的地である石と木で作られた座敷牢へと辿り着いた。
そして、一行の目の前にある座敷牢。薄暗いその中で座禅をしている一人の男がいた。白髪まじりの長い髭をたくわえた老人。だがその肉体は老人らしからぬ鍛え抜かれており、座禅をしているにも関わらず身長は野獣たちにも迫る。立ち上がったら野獣たちすら超えるだろう巨漢なのは確かだ。
(こ、この人、でかい……!)
木村が内心でその男の大きさに生唾を飲もうとした。
「誰だ」
「ファッ!?」
が、それより先に男から放たれた力強い声に驚き、戸惑った。野獣は思わず声が出てしまう。
「馬場様、椿でございます。高坂様の命にて助けに参りました」
「この声……椿か? ふ、やはりか。あっさり完助の軍門に下ったかと思えば、やはり食えぬ奴よ」
椿の声に男、武田四天王の一人である馬場が鼻を鳴らし、小さく笑った。
「内藤と山県は奥の牢にいる。それよりもいい加減姿を見せたらどうだ?」
「承知しました……リーン様?」
「はいはいっと」
リーンは片手を振るう。すると野獣たちにかけられた魔法が解かれ、姿が顕わになった。
「む、その者たちは誰だ? 見慣れない姿だが……」
馬場が野獣たちの姿を見て眉を上げた。それに椿が応える。
「この方たちは徳川殿の客人で、こちらから木村殿、野獣殿、三浦殿、リーン殿です」
「オッスお願いしまーす!」
「よろしくだゾ~!」
「ど、どうも」
椿に紹介され、いつものテンションで挨拶する野獣たち。それを見て馬場は、フッと笑う。
「このような場所で随分と能天気な者たちだ……だが、ここまで来たのだ。実力は確かなのだろうよ」
野獣たちのいつもの調子に対して肝が据わっていると見た馬場からそう言われ、木村は相手が礼儀とかそういうのに細かい人でなくてよかったと心底思った……が、思い出してみても野獣と三浦の無礼な態度に怒る者はいまだ見ていないことに気付いて何となく変な気分になった。
まぁ実際、二人とも肝は据わっているし実力者でもあるので馬場の眼は確かなのだろう。
「とりあえず、ここから出しますね……モデリング」
ともかく、ここに長居するつもりはない。木村は手早く馬場を牢屋から出すため、座敷牢の格子になっている角材をイメージ通りに変形させ、人一人が通れる程度の出口を作成した。
「ぬぉ!? ……随分と不思議な事ができるのだな小僧」
「いやぁはは……恐縮です」
ここに来て、魔法を使うたびに驚かれることに慣れた木村は愛想笑いする。馬場はというと、木村が作った出口を身を屈めながら通って牢から出てきた。想像通りの巨漢だった。
こうして馬場を救助した野獣たちは、馬場の案内で地下牢のさらに奥へと進む。そこで、
「おお、馬場殿。お元気そうでなによりです」
どこかくたびれたサラリーマンのような、それでいてどこか隙のないちぐはぐな雰囲気を纏った男と、
「よぉ、馬場殿。なんか面白そうなことになってるみてぇだなぁオイ?」
全身傷だらけの目つきの悪い、いかにも戦闘狂であることが伝わってくる男がそれぞれ捕らわれていた。
「内藤、お前はもうちょっと緊張感を持て。いつもにこにこ緩んだ笑顔しやがって……それから山県、お前は逆にもうちょっと考えろ。顔から暴れたいという欲が漏れ出ているぞ」
くたびれた男が内藤、傷だらけの男が山県ということが馬場の口から明らかになった。いずれも四天王に数えられる者たちだ。その実力は確かなのだろう。
「小僧、悪いがこいつらも」
「勿論です。とっととここから脱出しましょう!」
「こんな暗くてジメジメしたところにいてたらカビちゃうヤバイヤバイ……」
二人も馬場と同じように格子をモデリングで歪めて解放し、リーンのインビジブルを使って全員を透明化させる。それにより、四天王の三人を含めた一行は行き同様、難なく脱出することに成功した。
「ふーっ、外の空気がうめぇぜ……それで? お前らはこれからどうすんだ?」
首を鳴らしながら好戦的な笑みを浮かべる山県。誰が見ても暴れたくてうずうずしているというのが見て取れる。
「僕らはこれから山本完助を捕らえようと思いますが……皆さん、外で待ってたりとかは……」
「おいおい、何言ってやがる! 俺らはあいつに貸しがあんだぜ?」
「ですよね……」
「当たり前だよなぁ?」
「んにゃぴ……予想通りだよなぁ」
山県は勿論、馬場も内藤も同じように、退く気は無さそうだった。やはり座敷牢に押し込められたせいで鬱憤が溜まっているのだろう。
「となると、武器が必要だな……結界を破壊する前に武器庫に行くぞ。こっからそう遠くはねぇ筈だ」
「……冬夜くんがいれば、武器をあっさり作り出せるんだろうなぁ」
「木村は作れないのかゾ?」
「できないことはないですが、まだ修行中です。こんなぶっつけ本番に使えるかどうかわからないものを皆さんに渡すわけにはいきませんよ」
そう言いあいながら、一行は地下牢から少し離れた場所にある家屋へと入る。インビジブルのおかげでバレることなく侵入できた一行は、武器庫のある扉の前へと辿り着いた……が、見張りが槍を手に警戒しているのが見える。
「扉が閉まってますね……流石に透明になっていても、扉を開けばすぐバレてしまいます」
「お任せを」
椿が思案する中、動いたのは内藤。どうするのかと野獣たちが見守る中、内藤が身を屈めた……瞬間、姿が消える。そして次に現れたのは、見張り番の目の前。この間もインビジブルの力が働いているため、兵士は気付くことはない。
もっとも、透明になっていなくとも、内藤の姿を確認し、声を上げる間もなく、
「フッ!」
首筋に一発、手刀をもらう羽目になっていたことは確実だろうが。見張り番は何が起きたかもわからず、崩れるように倒れ込んだところを、内藤が音をたてないようにそっと受け止めた。
「は、速い!」
「はぇ~、すっごい……(称賛)」
「流石四天王だゾ~これ!」
「いえいえ、このくらい……」
一番頼りなさそうな見た目の内藤の実力を間近で見て、称賛する野獣たち。内藤は頭を掻いて謙遜する。
「へっ、流石だな……相変わらずへらへらしながらも隙のねぇ野郎だ」
山県が忌々しそう鼻を鳴らすも、その言葉に刺々しさはない。
ともあれ、武器庫を確保した一行は、中で各々の得物を手にすることができた。馬場は槍、内藤は二振りの短剣、山県は身の丈程のある大剣だった。
「武器さえありゃ、こっちのもんだ! 完助の野郎に目にもの見せてやる!」
得物である大剣を振るい、山県は獰猛に笑う。が、そこを馬場が待ったをかけた。
「待て山県。あいつの力を忘れたか。今やあいつは人間じゃないぞ」
「……そういえば、僕らは山本完助のことについてあまり情報を持っていませんね……人間じゃないって、一体どういう意味ですか?」
「そうだよ」
馬場の言葉に疑問を抱いた木村が聞く。三浦もそれに便乗した。
「……かつて山本完助は、軍師として真玄様に仕えておりました」
そんな木村の疑問に答えるように、馬場の言葉を引き継いだ内藤が語り出す。
「優れた人物で頭もよく、軍師として申し分ない男でした。真玄様も彼のことを頼りにしていた程です……ですがある日、彼は悪魔の力を宿した『宝玉』を手に入れたのです」
「宝玉、ですか?」
「はい。どこで手に入れたのかはわかりません。ですがそれからの彼はおかしくなっていき、まるで人が変わったかのような人間になっていきました。最初は何かを試すように犬や猫を殺し、その対象が人間に変わっていくのに時間はかかりませんでした。そして死んだ身体を操る『鬼面』を生み出し、強力な力を手に入れたのです。私たちは止めることができず……あの宝玉の力の前には、とても敵わない……」
ギリリと歯を食いしばる内藤。見れば、馬場も山県も同様の表情をしていた。あの時の屈辱を思い出したのだろう。
「その『宝玉』とやらが今回の騒動の原因で間違いなさそうね。強すぎるアーティファクトは時として意思を持つこともあるというわ。製作者の怨念か執念か、そういったものが宿ることがあるかもしれない」
「怨念って……それ確実に呪いのアイテムだって、はっきりわかんだね」
「事実そうでしょうよ。死者を操るなんて芸当、並大抵のアイテムじゃ無理でしょうからね」
リーンと野獣の話を聞いて、木村が「なるほど」と相槌を打った。
「その宝玉を破壊すれば、なんとかなるかもしれませんね……どの道、山本完助の下へ急がないと。そいつはどこにいるかわかりますか?」
「おそらく、中曲輪の屋敷にいると思います。あちらの方です」
椿が指さした先に、一際目立つ大きな屋敷があった。
「よし、ともかく結界を壊しましょう。結界さえ破壊してしまえば僕の魔法の制限も無くなりますし、ある程度有利に事が運べる筈です」
「お、そうだな」
「ん、そうですね……でさぁリーン、結界ってどう壊すの? 護符全部壊す感じ?」
「簡単よ。四隅に配置してある護符のうちどれか一つでも壊してしまえばいいのよ。一つが欠けてしまえば結界は維持できないからね」
「それなら俺が場所を知ってるぜ。こっちだ」
山県が先導して歩き出す。野獣たちもそれについていくと、やがて壁の隅にある小さなスペースが取られたところに、件の護符はあった。
「これが、護符……ですか?」
木村が目にしたのは、一つの灯篭。高さは木村程のある、何の変哲もないどこの神社にもありそうな物。だが、唯一の違いとして、灯篭自体から紫色の禍々しい光が放たれており、それがただの灯篭ではないことを物語っている。
「……間違いないわ。この灯篭自体が護符の一種よ。これが結界を作ってるわけね」
「いや護符って……札じゃねぇじゃんアゼルバイジャン。なんかイメージと違うっていうか……」
「事実そうなんだもの、私に言われても困るわ」
野獣が癪善としない表情をするも、リーンは素っ気なくそう答えた。
「まぁ、とにかくこいつを破壊すれば結界は壊れるってわけだ……ただ、そうなると館中が異変に気付くだろうよ」
馬場が槍の石突で地面を突く。すでに闘志が漲っているのが見て取れる。
「ですね……そうなると兵士だけでなく、鬼面兵も出てくる。黒幕の場所へ行くには一苦労しそうです」
「大丈夫だって安心しろよ~! これまで何度も危機を乗り越えた俺らなら平気平気、ヘーキだから!(激励)」
「そうだよ。今回も頑張るゾ~!」
どこか緊張した面持ちの木村に、野獣と三浦が楽観的に言いつつ得物を取り出した。
「あら? あなた、そんな物持ってた?」
ふと、リーンが三浦を見てあることに気付く。いつもはプロテクターを拳に装着しているだけだった三浦が、両手と両足に武士が身に着ける甲冑の一部を身に着けていた。
「さっき武器庫で見つけたんだゾ~これ! 刀とか槍とかの刃物を相手にするならこっちのが防御面でも強そうだからな~」
「ちゃっかりしてんな~先輩」
いつの間に拝借していたのだろうか。笑う野獣の横でそんな疑問をリーンは抱いたが、この際どうだっていい。
「まぁ、いいか……私は戦闘は苦手だから、後方から援護する程度に留めておくわ。ちゃんと守ってよね?」
「しょうがねぇな~……守ってやるか」
相変わらずのリーンだったが、もう野獣にとっては手慣れたもの。不満気な顔は隠そうともせず、それでも了承するのだった。
「よっしゃ、じゃあ行くぜ? お前ら、準備はいいか?」
いよいよ、結界を破壊するのだろう。山県が大剣を灯篭目掛けて振り上げていた。それを目にしても、誰も何も言わない。各々得物を手にし、覚悟を決めた顔をしている。
それを返事と受け取った山県は不敵に笑い……そして、大上段から一気に大剣を振り下ろした。
瞬間、轟く爆音。灯篭は石片をまき散らしながら粉々に砕け散り、結界は消えた。
次回、VS山本完助。大きく脚色を咥え、加える予定です。ご了承ください(今更感)
今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?
-
スマホ太郎(アニメ主人公)
-
望月冬夜(原作主人公)
-
野獣先輩
-
三浦
-
木村