異世界空手部・やわらかスマホの裏技   作:コッコリリン

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※注意※
本作の武田真玄、山本完助は原作に比べてアップデートされております。そんな原作レ〇プ見たくねぇ! という方は、オマケの方を見て、どうぞ(注意)


56.迫真空手部、VS武田真玄

 

 ツツジガサキの館を覆っていた結界が破壊された。それによって結界内にいた武田兵たちに動揺が広がり、やがて異常事態の鐘が鳴るであろう――――その直前に、

 

「うおらああああああああっ!!」

 

 館の中心部である中曲輪の屋敷へ続く門が突如、轟く雄たけびと共に吹き飛んだ。

 

「おらおらおらぁ!! 一番槍はこの俺がもらったぁぁぁぁっ!!」

 

 破壊された門を跨いで大剣を振るいながら叫ぶ男、山県。その場にいた武田兵は、最初こそ唖然としていたが、すぐに正気に戻って叫んだ。

 

「て、敵襲! 敵襲だぁっ!!」

 

 その声に反応して、そこかしこから兵士が刀や槍を手に集まってくる。だが、兵士の多くは鬼面を被っており、動きはどこかぎこちない。

 

「へへ、集まってきやがったな……上等だぁ!!」

 

 獰猛に笑い、犬歯をむき出しにした山県は、大剣を振りかぶって鬼面兵へと躍りかかる。そして、豪快な薙ぎ払いによって、一度に五人の鬼面兵の首が吹っ飛んだ。

 

「おおおおおおおっ!!」

 

 勢いを止めず、重い筈の大剣を振り回しながら突き進む山県。その戦闘スタイルは単純明快にして猪突猛進を絵にしたかのよう。それ故に恐ろしく、それ故に歯向かう意欲を削っていく。振るう度に発する風すらも刃とし、切り捨てられる武田の兵たち。屍の山が築かれていく光景を前にして、鬼面兵ではない普通の兵士は恐れ慄く。

 

「ひぃっ! や、山県様……!?」

 

「随分と隙だらけですね?」

 

「へ」

 

 不意に背後からかかる声に、兵士は振り返ろうとした……その前に意識は消え、姿を確認することなく終わった。

 

「かつては同胞であったといえど、裏切り者の完助に与する者は誰であろうと私の敵です」

 

 兵士を屠り、見た目からは想像もつかない程に冷たく言い放つ内藤。手にした二振りの短剣が月明かりに妖しく光ったかと思うと、その姿は掻き消えた――――瞬間、ある者は首を切られ、ある者は心臓を貫かれ、鬼面兵の顔面は鬼面ごと両断されていく。まさに風が如し、誰の目に留まることなく、瞬時に数人を切り伏せていく。その鋭い眼は、敵の間を駆け抜けて光の軌跡を描く。

 

「フッ!!」

 

 そして山県と内藤が暴れまわるその後ろでは、馬場が身の丈程の槍を呼気と共に突き出す。一瞬のうちに三度突き出された矛先は、見事三人の鬼面兵の鬼面に命中、悉く砕かれてただの屍へと戻していった。

 

「温いっ! 温いっ! 温いわぁっ!!」

 

 叫び、薙ぐ。馬場を全方位から襲い掛かろうとした兵士たちは全員、旋風となった槍で吹き飛ばされた。

 

「これが武田か!? これが天下に名を馳せる武田の兵か!? 御屋形様が束ね、今日に至るまで研磨を重ねてきた筈の者どもかぁ!?」

 

 ドンッ! 槍の石突を突き立てた地面は揺れ、馬場の怒声が空間を震わす。

 

「情けない! 情けないぞ!! 妖の術に惑わされ、守るべきものを履き違えた阿呆どもが!! お前たちは武田を名乗るに値せん!! 武田四天王が一人、馬場信晴!! 御屋形様への恩を忘れ、命を弄ぶ山本共々、お前たちの首!! 即刻叩き落としてくれるわぁぁぁっ!!」

 

 怒りの咆哮。空気だけでなく、魂すらも震わせるその叫びを前に、生者である兵士たちは我先に逃げ出すか、武器を取り落とし尻餅を着くようにへたり込む。唯一動く鬼面兵は、馬場の豪快にして鮮烈な槍捌きによって、文字通り首を叩き切られていくのだった。

 

 たった三人。武田軍の中でも選りすぐりの猛者である四天王である三人によって、すでに大多数の武田兵は鬼面兵含めて討たれ、或いは戦意は削がれた。その時間は10分もかかってはいない。

 

「す、すごい……僕たちが出る幕すらない……」

 

「なんかもう、すごすぎて笑っちゃうんスよね……(現実逃避)」

 

「当然です。御屋形様から直々に四天王という名を授かった方々ですから」

 

「ま、いいんじゃない? おかげで私たちは楽できてるわけだし」

 

「流石、武田四天王だゾ~これ! 馬場さんも山県さんも内藤さんも、世界は違えど史実通りの強さだよな~! 後でサインもらうゾ~」

 

 そんな彼らの快進撃を後方で見ていた空手部の面々。呆気にとられる木村と野獣に対し、どこか誇らし気な椿と、しれっと言うリーン、そして歴史に詳しい三浦は間近で見た武将の力を目の当たりにしていつになくテンションが上げていた。

 

 そうこうしているうちに、彼らが進んだ後の道には死屍累々と物言わぬ兵士たちが地面に伏していき、やがて目的地である屋敷の門の前まで来る頃には、四天王含めた空手部に襲いかかる者はいなくなっていたのであった。

 

「へっ! まだまだ暴れ足りねぇぜ!」

 

「落ち着いてください。まだ本命が残っているのですから」

 

「そういうオメェこそ、目ぇギラついてんぞ内藤? 山本に対して思ってることは一緒ってことだよなぁ?」

 

「全く、お前らは……少しは自重しやがれ」

 

「アンタがそれを言うのか……(ブーメラン)」

 

 いまだ高揚している様子の二人に対して獰猛な笑みを浮かべている馬場が窘めているのを見て、野獣がぼそりと呟いた。

 

「しっかし、お前ら本当に強ぇのかぁ? 俺らの後ろに付いてくるだけで何にもしてねぇじゃねぇか?」

 

「は?(憤怒) アンタらが猪すぎて俺らの出番が全然無かったんですがそれは」

 

「まぁまぁ、山県殿。我々が暴れ過ぎたのですから仕方ありません」

 

「野獣先輩も落ち着いてくださいよ。まだここも安全になったわけじゃないんですから」

 

 実際のところ、野獣たちは何もできなかった……というよりも、する必要がないくらいに馬場、山県、内藤の快進撃が凄まじかったのだ。山県の若干小ばかにしたような物言いに、野獣も少しカチンときて言い返した。若干雰囲気が険悪になりかけたが、内藤と木村が宥めた。

 

「と、ともかくこれで首謀者がいる目的地に辿り着けましたね……ということは、ここからが本番か……」

 

 言って、木村が見上げるのは目の前に聳え立つ大きな門。この先にいるのが、今回の騒動の黒幕。そう思っているからか……否、実際に門の向こうから異様な空気が漂ってくるのを、嫌でも木村たちは感じていた。

 

 背筋が通りそうな冷たさと、得体の知れない不気味な気配……本当に生きている人間が出せるのだろうか? そう錯覚させるような、おどろおどろしいナニかが、門の向こうにいる。

 

「さぁて、じゃあとっとと山本の野郎をぶった切ってやるとすっか!」

 

「ちょ、待てよ(KMRTKY)」

 

 心の準備を整えなければいけない。そんな風なことを考えていた空手部を他所に、山県が大剣を振り上げる。それを見て、野獣が待ったをかけようとした。

 

「ッラァァァァッ!!」

 

 が、時すでに遅し。勢いよく振るわれた大剣が門を破壊。ゴバキャァ! という凄まじい音をたてて吹っ飛んだ門を見て、木村は(この人、自分とこの建物壊しまくってるな)と見当違いなことを考えた。

 

 が、すぐさま意識を切り替える。というのも、門が吹き飛んだと同時に感じた殺気。空手部で培ってきた感覚を養う修行が、木村の脳内に警告音を発する。そしてそれは、木村だけではなかった。

 

「むぅんっ!」

 

 真っ先に反応したのは馬場。足元に落ちていた大きな門の破片を一瞬のうちに持ち上げて掲げると、シュトトトトッという音と共に破片を通して衝撃が走る。見れば、馬場が持っていた破片には無数の矢が突き刺さっていた。

 

 破片を盾にしたおかげで、矢は一行に一本も到達することもなく、突然の奇襲を無傷で掻い潜ることができたのだった。

 

「っぶね~……死ぬかと思いましたよ襲っ撃~……!(九死に一生)」

 

 刀を抜いて迎撃しようとした野獣がそう呟くと、パチパチと乾いた音が空間に響いた。

 

 その音は、手と手を鳴らす音……所謂、拍手の音だった。

 

「いやはや、流石は馬場様。これくらいの不意打ちなど無意味ではあるとはわかっていましたが、お見事ですね」

 

 拍手の音と共に前方から聞こえるのは男の声。大きな屋敷の広い庭の前に、弓を構えた十数人の兵士たちを両脇に固める形で立つのは、左目を黒い眼帯で覆った隻眼の男。色黒の肌に高い身長をした、身なりのいい黒い着物と袴を纏っている。照明の篝火に照らされた顔立ちは理知的だが、門を破った突撃してきた一行を見るその片目には嘲りと悪意が込められていた。

 

 男から感じる負の感情を具現化したかのような禍々しい雰囲気、周りを兵士で囲う厳重な守り。それらから導き出されるのは一つのみ。

 

「テメェ、完助ぇ……!」

 

 飢えた猛獣のように歯をむき出しにして殺意を放つ山県の口から出てきた男の名。間違いなく、目の前に立つ隻眼の男こそが今回の首謀者、山本完助だ。

 

「しかし、四天王の皆さん以外にも異物が紛れ込んでいるようですね……なるほど、あなた方が牢から出れたのは彼らの手引きですか。いやはや、皆さんと対峙する羽目になるとは、これは予想外ですねぇ。一体どのようにして脱出できたんです?」

 

 ジロリと、空手部を見やる完助。言葉の内容こそ焦燥に駆られているようなものだったが、その口調からはそんな焦りは微塵も感じられない。

 

「テメェに教える義理はねぇよ……さっさとくたばりな!!」

 

 そんな完助に対し、いまだ滾る殺意を隠すことなく大剣を構えたのは山県。大きく振り上げ、地を蹴って疾走する。そんな山県を止めるため、周りの兵士たちが弓に矢を番えた。

 

「どけっ!!」

 

 が、矢は放たれることなく山県の豪快な薙ぎ払いによって兵たちは吹き飛ばされた。悲鳴を上げる間もなく、地面へと転がる武田の兵たち。

 

「死ね、完助ぇっ!!」

 

 叫び、完助へと飛びかかる山県。並の兵士ならばその気迫に押され、何もできずに両断されて果てるだろう。

 

 が、完助は口の端を吊り上げて笑う。そして、

 

「死ぬのはあなたです、山県様」

 

 ぼそりと呟き……それを合図にしたかのように、完助の背後から飛び出す一つの赤い影。直後、完助を屠る筈だった山県の刃は、完助の頭に届く寸前で甲高い音と共に弾かれた。

 

「なっ……!?」

 

 腕に走る痺れに戸惑う山県。何が起きたかわからず、刃を弾いた存在を目にする……そして驚愕する。

 

 これまでにない立派な意匠が施された赤い甲冑を鍛え抜かれた肉体に纏った武者。獅噛の兜から伸びる真っ白で立派な髭を振り乱し、武者は振り払った刀の刃を返して再び山県へと切りかかる。山県は驚愕しつつも後ろへ飛び退き、回避。だが大剣を振るって反撃しようとはせず、いまだ驚き戸惑いの顔を見せる。

 

 武者の姿を見て愕然としているのは山県だけではなく、馬場と内藤、椿すらも目を見開いていた。

 

「お……御屋形様……ッ!?」

 

 絞り出すように声を上げたのは馬場。しかしその声に反応することなく、武者……改め、武田真玄は、今までの物よりもより厳めしい造形の鬼面の奥から禍々しく光る赤い目を向け、刀をだらりと下げて完助と空手部一行の間に立っていた。

 

「この人が、武田真玄……」

 

 生気を感じられないその姿。それを見て、三浦が唖然としつつ呟くと、馬場たちは今どういう状況にあるのか瞬時に理解し、激昂する。

 

「完助テメェ! 御屋形様を盾にする気かっ!!」

 

 武田の主君である真玄は、死んでいる。その真玄を、鬼面を使って他の兵士のように操っている。その事実に怒り、吠える山県。が、完助は意に返さずに嘲笑した。

 

「盾だなどと……御屋形様が私をお護りくだされただけのことです」

 

「ほざけ!! その鬼面、テメェが操ってることは明白なんだよ!! この腐れ外道が、叩っ切ってやるッ!!」

 

 再び完助へと切りかかろうとする山県。が、それを阻止せんと、真玄は山県の前に立ち塞がる。

 

 これが普通の鬼面兵なら、山県ならば叩き切れる。だが、相手は死んでいるとはいえど主君だった男。そんな相手を前にした山県は、

 

「だ、ダメだ……大恩ある御屋形様は、切れねぇ……っ!」

 

 先ほどの勢いはどこへやら、悔し気に顔を歪めてたじろぐしかなかった。武田真玄という人間を敬い、忠誠を誓っていたからこそ、それを盾にされたことによる屈辱は計り知れない。それは馬場と内藤も同じで、先ほどの猛攻が嘘のように、ただ武器を構えていることしかできないでいた。

 

「おや、どうされました? 私を切るのではないのですか?」

 

「完助ぇ……!」

 

 小ばかにするように煽る完助。対し、煽られた山県はギリリと歯を軋ませながら食いしばり、完助を睨みつける。

 

「さて、こう見えて私もまだ忙しい身なのでしてね……そろそろ幕引きとしましょうか」

 

 完助はそう言って、右手を上げる。その右手から暗い紫色の光が立ち昇ったかと思うと、光は手から飛び出して先ほど山県が切り伏せて倒れた兵士の顔に吸い込まれていく。すると、光は鬼面へと変化し、緩慢な動きで兵士たちは次々と起き上がっていった。

 

「ファッ!? 死体が動きだしやがった!」

 

「なるほど、ああやって死体を操っていたわけね……」

 

 驚愕する野獣に、リーンは興味深げに呟く。そうこうしているうちに、復活して鬼面兵となった兵士たちが、真玄と共に包囲を狭めていく。

 

 真玄はゆらゆらと揺れるように一行に歩み寄る。それはさながら幽鬼のようで、人間の形をした別のナニかとなっていることを示唆していた。

 

「っ……あんな……」

 

「ん?」

 

 構えていた三浦は、ふと耳元に届いた声に振り向く。俯き顔を手で覆った椿が、涙声となってポツリと言った。

 

「あんな御屋形様……見たくない……っ!」

 

「……」

 

 尊敬する主君だからこそ、死して操られている姿を見るのは耐えられない。椿の心からの声に、三浦は拳を固める。

 

「頼む御屋形様! どいてくれぇ!」

 

 立ち塞がる真玄に、山県が叫ぶ。それでも声は届かず、無常にも真玄はゆっくりと刀を持ち上げていった。

 

「無駄ですよ。御屋形様は私を護ってくださる。大恩あるあなたたちが御屋形様に刃を向けられないことなどわかってるんですよ。つまり、私には……」

 

 勝ちを確信した完助が長々と話す……が、

 

 

 

「オルルァっ!!」

 

 

 

 それを遮るように飛び出す一つの影。咄嗟に刀を持ち上げることで、真玄は自身に襲い来る衝撃を防いだ。衝撃は殺しきれずに後ろへ吹き飛ばされ、それでも尚倒れることなくそこに立つ。

 

「な……!?」

 

 真玄に攻撃をした人間がいることに驚愕する完助。完助だけでなく、四天王の三人と椿もまた、自身たちの前に背中を見せる人間を目にして茫然となる。

 

「むん……っ」

 

 奇襲をかけたのは、両手に小手と両足に足甲を付けた三浦。飛び蹴りを防がれ、焦ることなく息を整えて構えを解く三浦のその顔は凛々しく、戦闘態勢である閣下モードとなっていた。

 

「ぼ、坊主、お前……!?」

 

 馬場が三浦に声をかける。対し、三浦は振り返ることなく口を開いた。

 

「……俺たちはよそ者だ。故に御屋形様とやらに恩義などない……ならばこそ、相手をするのなら俺のような人間が適任だろう」

 

「で、ですがっ! 相手は……!」

 

 三浦の変化に戸惑いながらも、内藤が反論しようとする。しかし、三浦はその言葉に重ねるように返した。

 

「恩義があるというのなら。死して尚無理矢理生かされて操り人形となった主君を眠らせてやるというのが筋ではないのか? ……俺には、そこまで慕われているような人間がそれを望んでないようには思えん」

 

「「っ……!」」

 

 ガツンと、その言葉に衝撃を受ける馬場たち。それは紛れもなく、三浦の言葉が正しく、反論する余地もない言葉だった。

 

 言い放ち、三浦は真玄へと歩を進めていく。対する真玄は刀を下ろし、生気のない目を三浦へと向けて立つ。

 

「武田真玄……俺たちの世界、いや、俺たちの住む国にも、あなたの武勇は伝わっている」

 

 三浦が語るのは、武田信玄でありこの世界の武田真玄ではない。だが、三浦にはわかる。目の前に立つこの男もまた、歴史に名を残すであろう名君であったということが。

 

「欲を言えば、あなたとは生前に出会いたかった……だが今、こうして死して操り人形と化し、名誉を汚されても尚感じられるその威厳。まさに武将と呼ぶに相応しく、こうして相まみえることができたこと、誇りに思う」

 

 ザリ……足元の砂利を擦る音と共に、三浦は足を開いていく。そして、

 

 

 

「だからこそ、あなたを術から解放させて眠らせる……俺は迫真空手部主将、三浦智将(ともまさ)! 一人の武人として、武田真玄公! 一手、お相手願うッ!!」

 

 

 

 構えを取り、声高に名乗る。瞬間、三浦から立ち上る黄金色の覇気。それは一つの武術に真摯に向き合い続けてきた達人のみが出せる領域。どこか神々しくも見えるそれを見た鬼面兵は、意思はない筈なのに後ろへ下がり、たじろいでいく。

 

 対峙する真玄。三浦の言葉は聞こえておらず、ただそこに立つ屍でしかない―――筈なのだが。

 

「お、御屋形様……?」

 

 椿が唖然と呟く。先ほどまで、真玄はただぼんやりと立っているかのような、まさしく歩く死体と呼べるような雰囲気を纏っていた。だが、三浦と対峙し、三浦の口上を聞いた途端、曲がっていた背筋は伸び、刀を下段からゆっくりと頭上へ持っていき……やがて顔の横に垂直に立てた。所謂“八相”の構えをとった。

 

『――――』

 

 相変わらず目に意思はなく、されどその佇まいは、真剣に立ち向かおうとする武人(みうら)に敬意を払っている一人の侍。

 

 身体から放たれる、紫色の覇気。三浦が正ならば、真玄は負。互いに性質の違う覇気を滾らせ、二人の間には緊張感が走る。包囲していた鬼面兵たちも、二人の闘気に充てられたためか一定の間隔から動かず、まるで二人のための決闘場を形作っているようにも見えた。

 

 体感にすると十秒以上、実際は一秒にも満たない間。どちらも動かず、彫像の如し。

 

 やがて、時は動き出す。

 

『ッ――――』

 

「オルルァァァァァ!!」

 

 ガギンッ! 金属同士がぶつかり合う重々しい音をたてて、三浦の手甲と真玄の刃が交差する。空間に走る衝撃。それが、武人と武人の戦いの始まる合図だった。

 

『―――――――』

 

「オラララララララララララララルァァァァァァァァッ!!」

 

 繰り出される拳の連打、振るわれ続ける刃の嵐。鋼を纏った拳と刀の応酬により、互いの得物が火花を散らし、篝火の明かりに負けない程の光が二人の間で明滅する。

 

「ハァッ!!」

 

 勝負に出たのは三浦。袈裟懸けに下ろされた刀を小手で防ぎ、その隙をついて横腹を狙った回し蹴り。鈍い音が真玄の甲冑から響き、真玄の大柄な身体がよろめく。

 

「シャァッ!!」

 

 さらにそのまま踏み込んでの正拳突き。身を守られた胴体から衝撃波が走り、空気が震えた。が、真玄は吹き飛ぶことなくその衝撃に耐え、逆に三浦の突き出された拳を、刀を持った反対の手で掴むと、

 

『ッ―――』

 

 強引に振り回し、三浦を投げ飛ばす。常人には出しえない、凄まじい怪力。死者だからこそ肉体のリミッターが外れているのかもしれないその力に三浦の身体は宙へ舞う。

 

「フッ!」

 

 宙で身体を捻り、地面に片手を着いて着地。無様に地面に転がる事態を防いだ三浦だったが、真玄の追撃による大上段からの振り下ろしはすでに目の前に迫っていた。三浦はそれをバク転宙返りで回避。刃で地面が大きく抉れ、砂利と土が飛び散る。

 

「おおおおおおおっ!!」

 

 反撃するため、土煙が舞う中を三浦は低い姿勢のまま地面を蹴って弾丸が如く飛ぶ。さらにジャンプし、真玄の急所である鬼面目掛けて飛び蹴りを放つ。真玄は刀の根本部分で防ぐも、三浦は着地と同時に懐に飛び込んで顔面目掛けて連続突きを放った。が、それらも全て刀の柄を巧みに動かして防御される。

 

「くっ!」

 

 攻撃が防がれて反撃される前に強く蹴りつけて反動で真玄から距離を離し、そして構えを取った。真玄も深追いすることなく刀を八相に持ち直し、三浦を見据える。

 

「っしゅぅぅぅぅ……」

 

『―――――』

 

 肺の空気を全て吐き出していく三浦。刀の切っ先を三浦へ向ける真玄。互いに様子を伺いつつ、ゆっくりとした足取りで一定の距離を保つつ円を描いて動く二人。静寂。足元から砂利が踏みしめられる音のみが響く。

 

 互いにほぼ無傷。三浦の甲冑越しに伝わる無数の打撃による衝撃によって本来なら真玄の身体にはダメージが蓄積されている筈だが、やはり死体。全く効いている素振りすらなく、五体満足に立っている。対し三浦は、長引けば疲労が溜まっていく一方。長期戦は不利だと三浦は確信していた。

 

「―――――うおおおおおおおっ!!」

 

『――――――ッ』

 

 それでも、引き下がることはなく。足を止めた三浦は拳を振るい、再び雄たけびを上げながら真玄へと突撃していく。その凄まじい気迫に応えるように、真玄も刀を振るって駆けた。

 

「すごい……三浦さん、御屋形様と渡り合っている……!」

 

 三浦と真玄の激闘を間近で見ていた椿は、少人数で敵地に乗り込んでくるような胆力の持ち主だから実力もあるのだろうとはわかっていたつもりだったが、武田の主君相手にここまでとは思ってはいなかったためか愕然と呟いた。

 

「いや、それ以上に……御屋形様のあんな気迫、見たことねぇ……」

 

「ええ……顔は見えず、生気も感じられないはずなのに……」

 

 同じく見ていた山県、内藤もまた、真玄の姿に生唾を飲んだ。四天王である彼らは、真玄の強さをよくわかっている。これまで死んで操られた人間は、生前よりも動きは緩慢で力は落ちる筈……そんな認識だった。だが、目の前で繰り広げられる拳と刃を交える二人の死闘は、生前、いやそれ以上の力を感じ取っていた。

 

 そして、それ以上に、

 

「楽しんでいるのか……御屋形様……っ!」

 

 真正面からぶつかってくる三浦に応じる真玄が、どこか嬉しそうに……操り人形としてではなく、一人の侍として刀を振るっている。馬場の目には、確かにそう映っていた。

 

「ふ、フフフ……まさか御屋形様が術の束縛を離れるとは……しかし、これはまさに好都合。どの道、私の有利は変わりない」

 

 一方、真玄に蹴りを食らわせて戸惑っていた完助も余裕を取り戻し、笑う。

 

「まぁ、御屋形様をお一人で戦わせるのも忍びない……援護いたしますよ、御屋形様」

 

 ただ、三浦と真玄の死闘をのんびり眺めているつもりなど毛頭ない。そうして完助は右手を上げ、周りの鬼面兵に指示を出そうとした。

 

 が、

 

「えいしゃぁっ!!」

 

「シャイニングジャベリン!!」

 

「なに……ッ!?」

 

 突如襲う殺気を前に、咄嗟に後ろに下がる。完助が立っていた場所に突き刺さる黒い刃と光の槍。少し遅れていれば完助の身体はズタズタにされていただろう攻撃をしてきたのは、

 

「アンタの相手は僕たちです。覚悟してください!」

 

「もう許さねぇからな~?(袋の鼠)」

 

 光魔法を放った木村と、愛刀の邪剣『夜』を携えた野獣。三浦が真玄を相手取っている間に気配を消して完助の近くにまで回り込んでいた、二人は完助を前にして各々の得物を構えた。

 

「……なるほど、あなた方もまたよそ者でしたね……四天王の方々ばかりに気を取られておりました」

 

 着物の衿を直し、笑う完助。尚も優勢であることを確信しているその態度に、木村と野獣は警戒を強くする。

 

「先輩、気を付けてください。相手は死者を操る、これまでにない人間です。何をするかわかりませんよ」

 

「わかってるって。お前こそ気を付けろよな~頼むよ~(警戒)」

 

 木村は左手に魔導書を、右手に手製のダガーナイフを構え、野獣は腰を深く落として刀を下段に構える。相対するのは一人、だがまだ隠し玉があると睨む二人は、油断することなく真っすぐ完助を見据えた。

 

 事前に聞いた情報では完助は前衛に立って戦うようなタイプではないことはわかっている。鬼面兵がいるとはいえど、実力者である二人と相対する完助の方が不利……なのに、完助は堂々と、手を後ろで組んで尚も笑う。

 

「クク……どれだけ歯向かおうが、あなた方は私には勝てませんよ? 何故なら……」

 

 言って、ゆっくりと眼帯がされている左目に手をもっていく……すると、

 

「私には、“これ”があるっ!!」

 

 眼帯が、いや、眼帯で覆われた左目が赤く光り出す。その光は妖しく、血のように生々しい輝きをもっていた。

 

「見せて差し上げましょう……この力の真髄をッ!!」

 

 完助が叫ぶ。それに呼応するように、完助の身体もまた左目と同じように禍々しく輝きだしたかと思えば、周囲の鬼面兵が突如として震え出し……鬼面が顔から外れ、紫色の人魂となって完助へと飛んでいく。途端、鬼面を失った身体は死体へ戻り、崩れ落ちていく。

 

 周りの鬼面兵からだけではない。屋敷の至る場所から人魂が飛び出し、それら全てが完助へと集まっていく。完助の身体は人魂に覆われて、徐々に姿が見えなくなっていった。

 

「な、何だ!? どうなってるんだ!?」

 

 あまりに異様な光景を前に木村が叫んだ。下手に動けないでいる木村と野獣の前で、完助の身体を包んでいた鬼面だった人魂が膨れ上がっていく。

 

 やがて、人魂は形を成していく。強靭な身体が、そしてそこから生えるように四肢が作られ……光は消え、その姿が顕わとなる。

 

 身長は目測3m程もある、野獣たちが見上げる程に巨大な身体を覆う夜闇の如し黒い甲冑、隙間から覗き見えるのは鮮血のように赤い帷子。肘と膝部分の装甲は死体に付いていた鬼面の意匠が施され、爪を思わせる長い指を生やした手足と、右手に握られた幅広の段平。頭に生えた巨大な二本の角と後ろに流れた真っ白な毛の装飾が存在感を放つ兜に、これまでの物よりも圧倒的に厳つく、邪悪に顔を歪めた鬼面。

 

 月明かりが照らす、邪悪という言葉を体現した禍々しいその姿―――まさしく“鬼”であった。

 

「ファッ!? なんだこの化け物!?」

 

 完助の姿が変わったことで、野獣が叫ぶ。恐ろしいまでの光景に、馬場たちも言葉にならない驚愕を見せていた。そんな彼らの耳に届く、くぐもったような完助の声。

 

『クハハハハッ! 素晴らしい! これが宝玉の力! 絶大な魔力と不死の力をもたらす、圧倒的な力ッ!!』

 

 ガシャン。重々しい音をたてて、巨大な鬼の武者となった完助が一歩踏み出す。

 

『さぁ目に焼き付けなさい! この素晴らしい力を! そしてあなた方のその躯は、新生武田軍の一戦力となるのです!!』

 

「先輩、来ます!」

 

「ほら行くど~!(迎撃)」

 

 数多の血を吸ってきたと思われる段平を振り上げ、襲い掛かる完助。あまりにも絶望的な光景。それでも木村と野獣は、恐れることなく地を蹴って駆け出し、迎え撃った。

 




~オマケ~

BGM:風林火山


「頼む御屋形様! どいてくれぇ!」

 立ち塞がる真玄に、山県が叫ぶ。それでも声は届かず、真玄はゆっくりと刀を持ち上げていった。

「無駄ですよ。御屋形様は私を護ってくださる。大恩あるあなたたちが御屋形様に刃を向けられないことなどわかってるんですよ。つまり、私には……」

 勝ちを確信した完助が長々と話す……が、



「オルルァっ!!」



バキィ!(三浦の蹴りが真玄の鬼面に叩きつけられる音)




               終

デーデーデデーデーデデーデーデデーデーデ♪(例の曲)

今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?

  • スマホ太郎(アニメ主人公)
  • 望月冬夜(原作主人公)
  • 野獣先輩
  • 三浦
  • 木村
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