異世界空手部・やわらかスマホの裏技   作:コッコリリン

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6.迫真空手部、王都へ

 死んだ兵士たちを埋葬し、黙祷を捧げてから空手部と八重は改めて少女と老人へと向き直った。

 

「あなた方には助けられました。何とお礼を申したらよいのか……」

 

 老人は血のついた服のまま、四人に礼を述べる。

 

「いいってことよ。それよりも爺さん、出血ひどかったんだから無理すんなよな~」

 

「そうだよ。せっかく助かったんだから休まなきゃダメだゾ~」

 

「ポッチャー」

 

「お気遣い、痛み入ります。しかし、助けてくれた方々にはしっかりとお礼を述べるのが礼儀ですので」

 

 頭にでかいタンコブを付けている不遜な野獣とにこやかな三浦+ポッチャマがいつも通り対応する。馬車も立派だが、彼らが纏う服は見ればわかる程の高級品。対応させる相手を間違えたんじゃないかと木村と八重は内心でヒヤヒヤしていた。

 

「本当に感謝するぞ! お主たちは爺の、いや、わらわの命の恩人じゃ!」

 

 そして野獣に負けないくらい尊大な態度の少女が礼を述べる。まだ目元が泣いたせいで腫れていたが、とても泣き喚いていた少女とは思えない気高さを感じた。

 

「FOO! 照れますねぇ!」

 

「お嬢ちゃんも無事でよかったゾ~」

 

「……相手の服装見てると結構偉い立場の人かもしれないのに、何であの二人はいつも通りなんだ……」

 

「相手の性根が悪かったらその場で処刑されていたでござるよ……」

 

 不安を余所に話を弾ませる野獣たち。やがて少女の横に控えていた老人が頭を下げた。

 

「申し遅れました。こちらのお方は公爵家令嬢、スゥシィ・エルネア・オルトリンデ様でございます。そして私は公爵家家令を務めておりますレイムです」

 

「スゥシィ・エルネア・オルトリンデじゃ! よろしく頼む!」

 

 老人ことレイムに紹介されたスゥシィと名乗る少女はえへんと胸を張った。その名前を聞いて、後ろに立っていた八重が顔を真っ青にさせる。

 

「俺は田所。みんなからは野獣って呼ばれてるから、そっちもそう呼んでくれよな~」

 

「三浦だゾ。こっちは相棒のポッチャマだゾ~」

 

「ポッチャ(ペコリ)」

 

「えっと、僕はナオキです。木村ナオキ」

 

 野獣と三浦とポッチャマに倣い木村も名乗る……が、八重が何故か片膝をついて恭しく頭を下げていた。

 

「あれ? どうしたんだよ八重。腹でも痛いのか~?」

 

 野獣が八重の様子が変に思い聞いてみると、いまだ顔を真っ青にしたまま慌てる八重が小声で言う。

 

「な、何をしてるでござるか三人とも! 相手は公爵家の令嬢でござるよ!?」

 

「えぇっと公爵って……あ」

 

 八重に言われ、公爵の意味に遅れて気付いた木村。そして八重と同じように顔を真っ青にさせ、同様に膝を着いて頭を下げた。

 

「おい木村ぁ、お前までどうしたんだゾ?」

 

「お前も腹痛いのか~?」

 

「ポッチャ?」

 

 そして何もわかっちゃいない二人と一匹に対し木村はというと、

 

「な! に! してんだアンタらぁ!」

 

「ファッ!?」

 

「あっ」

 

「ポチャ」

 

 後頭部を掴まれ、二人揃ってガツンと額を地面に打ち付ける。所謂土下座を強制させた。

 

「な、なにすんだよ木村ぁ! 痛ぇじゃねぇか!」

 

「いいから頭下げてください! 相手は公爵ですよ公爵! 意味わかってんですか!?」

 

「公爵? それって旨いのかゾ?」

 

「ダメだこの先輩どもなんもわかってねぇ!!」

 

「公爵は爵位の中でも一番上の地位でござる! 他の爵位と違って公爵の位が与えられるのは王族のみでござる!」

 

 バカ二人に木村と八重が頭を下げた状態のまま慌てて説明をする。その様子を呆気に取られた様子で見ているレイムと口元を抑えて笑いを堪えているスゥシィ。

 

「えぇっと……つまり相手は偉い人ってことかゾ?」

 

「偉いどころじゃないです、滅茶苦茶偉い人です! 下手したらその場で打ち首になりかねませんよ!!」

 

「打ちクビィ!? すいません許してください何でもしますから!」

 

「俺はどうなってもいいからポッチャマは助けてやって欲しいゾ!」

 

「ポッチャ!?」

 

 ようやく意味を理解した二人からそんな謝罪が飛び出してきて、堪えていた様子のスゥシィの我慢が決壊して大笑いしだした。

 

「アハハハハ! 面白い者たちじゃのぅ!」

 

「お嬢様、はしたのぅございます」

 

「まぁよいではないか、爺……コホン」

 

 レイムに窘められ、偉い人間のように咳払いをするスゥシィ。幼い外見の彼女がそれをしても微笑ましいだけでしかないが、この場の誰もがそれを思う余裕はない。

 

「頭を上げよ。確かにわらわの父上、アルフレッド・エルネス・オルトリンデ公爵は国王の弟じゃ。しかし今は公式の場ではないのじゃ、礼儀も敬語もせんでよい! お主らはわらわにとっての命の恩人、それ以外の何者でもないのじゃからな! 打ち首などせん!」

 

「マジか! お前めっちゃいい奴だなぁ!」

 

「スゥシィちゃんはその年でスゲ〜懐がでかいゾ~!」

 

 スゥシィからの許しを得て、野獣と三浦はぴょんと跳ねる勢いで立ち上がった。

 

「スゥでよい! それで、えっと……」

 

「こ……九重八重と申しまする。八重が名で九重が家名にござる」

 

 そう言えば名乗っていなかったと八重が気付き、八重を見ているスゥシィに慌てて名乗った。

 

「うむ! 野獣に三浦にポッチャマに木村、八重じゃな! 改めて、よろしく頼むぞ!」

 

「こちらこそよろしく頼むぜ~スゥ!」

 

「よろしくな~スゥちゃん」

 

「ポッチャァ!(気さくな挨拶)」

 

「……本当にこの人たちのメンタルどうなってんだ」

 

「胃が、胃が痛いでござる……!」

 

 一瞬のうちに王族とタメ口で話す程に打ち解けた野獣と三浦を見て、木村と八重は身体こそ起こしはしたものの、いまだ顔は緊張で強張っており、身体は生まれたての小鹿の如くプルプル震えるのであった。

 

 

 

 

 

 

「でもよぉ、何で公爵家のお嬢様がこんな森ん中にいるわけ?」

 

「そうだよ」

 

 野獣が疑問を口にし、三浦が便乗する。それにスゥが躊躇いなく答える。

 

「お祖母様……母上の母上じゃな。お祖母様のところの帰りじゃ。ちと調べたいことがあっての。一月ほど滞在して、王都へ戻るつもりじゃった」

 

「それで帰りに襲撃されたってことですか……」

 

 木村の言葉に、スゥが頷いた。

 

「相手は王族。恐らく単なる襲撃者ではない……でござるか……」

 

 八重が再び頭を下げる。

 

「申し訳なく。色々情報を吐かさねばならなかったのに、拙者が襲撃者の首を刎ねてしまったばかりに……」

 

「んなこと言ってもよ~。あの状況じゃ仕方ねぇんじゃねぇ? あの時の八重の判断は間違っちゃいねぇよ」

 

「野獣の言う通りじゃ、気に病む必要はない。寧ろお主には感謝しておる。よくぞ倒してくれた」

 

「……ありがたきお言葉……かたじけない」

 

「っていうか何で野獣先輩が先に言うんですか……それで、これから王都へ?」

 

 木村が聞くと、今度はレイムが口を開く。

 

「そのことですが……あなた方にお願いしたいことがあります」

 

「お願い?」

 

「はい。見ての通り、先ほどの襲撃で護衛の兵士がほとんどやられてしまいました」

 

 レイムの言うように、護衛は現在3人。公爵家令嬢の護衛をするには、いくらなんでも少なすぎた。

 

「再び襲撃されないという保証はありません。そうなると我々だけではお嬢様をお守りすることができません……そこでなんですが、野獣さんたちに護衛を依頼したいのです。勿論、王都へ辿り着いたらお礼をお渡しいたしますので、何卒」

 

「FOO! 公爵家のお礼とか楽しみすぎんよ~?」

 

「俺らもちょうど王都へ向かおうとしてたところだし、まさに渡り鳥だゾ~」

 

「三浦先輩、そこは渡りに舟っスよ」

 

「あっ。そうとも言うゾ。ともかく、全然オッケーだゾ」

 

「おお、ありがたい! 道中頼むぞ、お主たち!」

 

「かしこまり! 俺らの護衛っぷり見とけよ見とけよ~?」

 

「だからアンタらちょっとは自重しろよ! 相手は公爵家の令嬢だっつってんだルルォ!?」

 

「や、野獣殿~三浦殿~! お願いでござるからもう少し節度を~! それから木村殿も言動が乱れてるでござる~!」

 

「ポチャ(諦め)」

 

 どう考えても不敬罪と捉えられてもおかしくない野獣たちが繰り広げるすったもんだの大騒ぎを前にし、スゥシィは再び大爆笑、レイムはそんな彼女に対して呆れ、そして護衛の兵士たちは苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 森の中の道を、立派な馬車が通る。前方には兵士たちが警戒を怠ることなく馬に乗って馬車を先導している。また、いつでも襲撃に備えることができるよう、馬車の外には八重と三浦が後方部分に、木村が御者の横に座る形で警戒していた。そして野獣はというと、

 

「こうして、ひで鬼は『あ″あ″あ″あ″あ″も″う″や″だぁぁぁぁぁぁぁ!!』と叫びながら窓の外へ締め出され、虐待太郎は末永く人々に英雄として語り継がれていくのでしたとさ。めでたしめでたし……っと」

 

「おぉ! すごいのぉ虐待太郎は!!」

 

「ポッチャ」

 

 馬車の中の上座のシートに座り、対面にレイムと並んで座るスゥシィに暇つぶしとして彼が幼い頃より聞かされてきた昔話を語ってあげていた。ぬいぐるみのように胸にポッチャマを抱きながら、初めて聞いた英雄譚にスゥシィは目を輝かせ、物語の主人公に憧憬の念を抱く。

 

「他には!? 他には何か無いのか!?」

 

「そうですねぇ……やっぱりここは、王道を征く……『浦島課長 ~お兄さん許して、甲羅壊れる~』ですか」

 

「ほほぉ! 面白そうじゃのぉ!」

 

 そうして野獣が新たな物語を語って聞かせている間、馬車の外で風景を眺めていた八重が不安気な様子で三浦と木村に問う。

 

「……本当に、大丈夫なんでござろうな? 野獣殿に任せて」

 

 気楽に手を頭の後ろに組みながら胡坐をかいて座る三浦と、魔法書を読みながら膝を抱えるように座る木村はそれに答える。

 

「大丈夫だゾ八重ちゃん。野獣はああ見えて子供の扱いが空手部の中で一番上手いんだゾ」

 

「ホント、何故か子供のあやし方とかよく知ってるんですよね……あの見た目で」

 

「そ、それは……何とも意外な話でござるな……」

 

 破天荒な性格の野獣の意外な一面に面食らっていた八重だったが、気持ちを切り替えて三浦へと顔を向けた。

 

「その、三浦殿。先ほどは……っ!?」

 

 と、言いかけて三浦の手を見てふと気付くことがあった。

 

「ん? どうしたんだゾ?」

 

「み、三浦殿! その手の甲!」

 

 慌てる八重に、三浦が指さされた手を見やる。そこは赤い線が一本引かれたように傷が入っており、僅かに血が流れ出ている。

 

「あっ、ケガしてたゾ。今まで気付かなかったなぁ」

 

「もしや、それはあの時の……拙者を庇った時の傷では……」

 

 八重は思い出す。八重が石に躓き転び、あわやリザードマンの手にかかろうとした瞬間、三浦がリザードマンの剣を拳で粉砕した光景を。先ほど、その件で改めて謝罪と礼を言おうとしたのだが、それより先に三浦の怪我に気付き、言うべき言葉が飛んでいってしまう。

 

 そんな八重に対し、三浦はいつも通り笑う。

 

「全然痛くないゾ。こんなもん唾つけときゃそのうち治るゾ」

 

「そんな! 拙者のせいで三浦殿が……!」

 

 怪我自体は大したことなくとも、結果的には三浦が庇って代わりに傷ついた事実は変わらない。しかも己の未熟さゆえの怪我となれば、八重が気にしないというわけにはいかない。

 

 しかし、八重の気持ちを察しているのかどうかはわからずとも、三浦は変わらない。

 

「何言ってるんだゾ。悪いのは相手であって八重ちゃんが気に病むことなんて何もないゾ? 寧ろ八重ちゃんのような綺麗な子が痛い思いするくらいなら、俺が怪我することなんて全然怖くないゾ~」

 

「っ……!」

 

 何ともまぁ、面と向かって気恥ずかしいことを堂々と言うものだと八重は思う。そして同時、その顔が無意識のうちに熱くなって真っ赤に染まっていることにも気付いてしまう。

 

「~~~~っ! 三浦殿、手をお貸しくだされ!」

 

「あっ」

 

 しかしそんな三浦に対し怒りもある。それでは自分はいくらでも傷ついてもいいと言っているようなものではないかと、そういう思いもあって半ば強引に三浦の傷ついた手を取る。そして八重は懐から円形の容器と予備のリボンとして持っていた布紐を取り出し、三浦の怪我をした手に容器に入っている白い粘性の液体、軟膏を薄く塗っていく。

 

「三浦殿はよくとも、拙者がよくないでござる! 拙者を庇って傷ついたというならば、その責を負うことくらい拙者にもさせて欲しいでござるよ!」

 

「あっあっあっ」

 

 さらに軟膏を塗った手に布を巻いていく。傷だけでなく、手首を含めた部分も布で覆っていく。勢いに任せているようだが、その手際は素早く、かつ丁寧であった。

 

「そもそも、拙者とて修行中とはいえど決して弱くなどないと自負してるでござる! さっきはちょっと不覚を取ってしまっただけで毎回ああなるわけじゃないでござるからな!? だから、その……!」

 

 そうして巻き終えた布をギュッと力強く結びつけた。

 

「次は! 拙者が三浦殿を助ける番でござる! どうかお忘れなきよう!」

 

「あっあっ」

 

「それから! ……さ、先ほど助けてくれたことは、本当に感謝しているでござる……」

 

 今までに感じたことのない高鳴る動悸を抑えるように、早口で三浦に告げ、そして礼を言う八重。この気持ちが何なのか理解できずに悶々としつつ、いまだ火照る顔と暴れる胸の内をどうにか落ち着かせようと、八重は胸に手を当てて大きく深呼吸をした。

 

「……あの、八重さん?」

 

「ふぇ!? な、何でござるか木村殿!?」

 

 前方からおずおずと声をかけてきた木村に、八重が変な声を上げる。そして、木村が三浦に指を指す。

 

「三浦先輩……顔真っ青んなってます」

 

「え」

 

「アッ……アッ……(瀕死)」

 

「わわぁぁぁぁっ!? も、申し訳ないでござる三浦殿ぉ!!」

 

 丁寧であってもかなりきつく縛ってしまったせいで血流がうまく行き渡らなくなった三浦から血の気どころか生気抜けていきそうになっているのを見て、八重は慌てふためくのであった。

 

 

 

 

 

~1145141919810364364秒後~

 

 

 

 

 

「おぉ、見えてきたぞ! 王都じゃ!」

 

 しばらく馬車に揺られていると、突然窓から身を乗り出したスゥシィが告げる。野獣とポッチャマは窓越しから、他の三人もスゥシィの視線の先を追う。

 

 大きな滝を背にし、広大な湖の上に建つ白い絢爛な城と高い壁。これぞまさしく西洋の城とも言うべき立派な建築物が、まばらになってきた森の木々の隙間から覗き見えた。

 

「王都アレフィス。この国、ベルファスト王国の国王がおわす場所で『湖の都』とも呼ばれているでござるよ。拙者も話には聞いていたでござるが、素晴らしい景観でござるなぁ」

 

「はぇ~、すっごい……(小並感)」

 

「スゲーでっかいお城だゾ~」

 

「ポッチャァ……(感動)」

 

「想像してたより遥かにすごいや……」

 

 一同、美しい景色を前にして感動している間にも馬車は進む。やがて森を抜けると、遠くに見えていた城壁が近づいてきた。その城壁は高く、そして左右どこまでも長く伸びているように聳え立っている。敵を一人とて侵入させまいとする堅牢さが伺い知れた。

 

 そして王都へ入る門のところで、兵士が検問をしているのが見えた。だが野獣たちが乗っている馬車は公爵家の物。当たり前のように素通りし、街の中へ。城へ続く道のりを馬車が行き、途中に大きな川に架けられた橋の上にあった検問所もまた同様スルーとなった。

 

「この橋を渡った先が、貴族たちの住居となっております」

 

「なるほど道理でねぇ。立派な建物が並んでるわけだな」

 

「ポッチャ」

 

 今まで通って来た町にあった建築物と比べ物にならない程に豪華な建物が建ち並ぶ貴族街をしばらく進む。やがて馬車は、これまでの建物よりもさらに豪華な屋敷へ辿り着く。立派な両開きの門に控えていた門番が恭しく門を引けば、音をたてて左右に門が開いていく。馬車が門を通り、大きな庭が広がる正面玄関まで進んでいった。

 

「スゲーなぁ公爵家って。めっちゃ稼いでるんだろうな~」

 

「ぼ、僕もう眩暈がしてきました……ちゃんとした服買っとけばよかった」

 

 呑気な三浦、緊張するあまりツッコむ気力すら起きない木村が口々に言う。八重に至っては木村以上に緊張している様子で、もう口を開く余裕すらない。

 

 そして、玄関前に横付けする形で馬車が止まる。外に控えていた従者が馬車の扉を開き、そこからスゥシィがポッチャマを腕に抱いたまま元気よく飛び降り、後に続いて野獣が、そしてレイムが降りる。三浦たちも馬車から降り、意気揚々と先導するスゥシィに続いていく。その際、スゥシィの下から離れたポッチャマは三浦の頭の上に飛び乗った。

 

 スゥシィが扉の前に立つと、これまた控えていた従者が扉を開いた。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様!」

 

「うむ!」

 

 扉を開けてまず目に入ったのは、外観に負けていない立派な内装、そして一斉にスゥシィに頭を下げて出迎えた、およそ20人程もいるメイドの数。スゥシィと共に出迎えられた四人は圧倒される。

 

「おぉ、スゥ!」

 

 そんな彼らの耳に飛び込んで来たのは、スゥの名を呼ぶ男性の声。玄関から続く長い赤い絨毯の先にある階段から、ブロンドの髪と同色の立派な口ひげを蓄えた、身なりの整った男性が駆け下りて来る。

 

「父上!」

 

 スゥが叫び、男性の、彼女の父に駆け寄っていき、その胸に飛び込んだ。父上とスゥシィが呼んでいたから、彼が公爵なのだろうと四人は当たりをつける。

 

「よかった! 本当によかった! 早馬で届けられた手紙を読んだ時は生きた心地がしなかったよ……!」

 

「ちゃんと手紙にわらわは大丈夫だって書いてあったではありませんか」

 

「それでも、だよ。娘が襲われたと聞いて心配しない親なんていないさ」

 

 スゥシィの父親、オルトリンデ公爵はがっしりとした体つきだが、その顔は温和と優しさを感じさせる。現にスゥシィを抱きしめるその顔は、慈愛に満ち溢れていた。

 

 やがてスゥシィとの再会を終えた公爵は、野獣たちに気付く。

 

「おぉ、君たちか。スゥを助けてくれた旅人たちというのは……」

 

 スゥシィを離し、一行に歩み寄る。そして野獣たちの前で、深々と頭を下げた。

 

「こ、公爵殿!?」

 

「娘を助けてくれて本当にありがとう。何とお礼を言ったらいいか」

 

 一国の王の弟が、一介の旅人に頭を下げる。その光景を前に、八重が慌てふためいた。

 

 だがそうはならないのが二人いる。

 

「いいっていいって。俺らは当たり前のことしただけなんだしさぁ、頭上げてくれよな~頼むよ~(大らかな態度)」

 

「スゥちゃんに怪我がなくて何よりだゾ~」

 

「アンタら小学校に戻って目上の人間に対する礼義ってものを叩き直してきてくれませんかお願いですから」

 

「何だよ木村ぁ。スゥが別にいいって言ってたんだから大丈夫じゃんよ〜?」

 

「そうだよ」

 

「さっきと今とじゃ状況が違うんだよこのバカ一号と二号! 相手は公爵本人ですよ!? TPOを弁えろよTPOを!!」

 

「あ~……!」

 

 そんな八重とは対照的に、野獣が相も変わらない不遜な態度を見せつけ、三浦が便乗、木村がドスの効いた声でツッコみ、八重は卒倒しそうになる。それを見て、公爵は笑い声を上げた。

 

「ハッハッハッハ! 本当に愉快な者たちだな、スゥ!」

 

「言った通りの者たちでしょう父上? その中でも野獣が話してくれた物語はどれも面白い物ばかりなのじゃ!」

 

「お、気に入ってくれたかぁスゥ? じゃあ今度また新しい話考えてやるよ(作家)」

 

「本当か!? 是非頼む!」

 

「……もう好きにしてくれよ(達観)」

 

 言っても治らないならもう無理だと判断し、もうなるようにな~れ、と木村は放置することに決めた。

 

「あ、そうだ。お礼だったら俺たちだけじゃなくって、護衛にあたってくれた兵士さんたちにも言っておいて欲しいゾ」

 

「そうだよなぁ。俺らが来るまで持ち堪えてくれたんだし、何よりスゥを命がけで守ってくれたんだからさぁ。そうすりゃ死んだ人らも浮かばれるってもんよ」

 

 脳裏によぎる、襲撃によって命を落とした兵士たち。彼らもまた、己の職務を全うした者たちだ。そんな彼らを主である公爵自らが労うことで、心安らかに眠れるだろう。

 

「そうか……そうだな。わかった。護衛にあたってくれた者たちには、私自ら礼を言おう。命を落とした者たちの遺族にも手当と、彼らが立派であったことを伝えなければな……」

 

「しっかり頼むぜぇ?」

 

「そうだよ」

 

 野獣と三浦に言われ、悲し気に目を伏せた公爵だったが、やがて気を取り直して野獣たち一人一人に握手をしていきつつ自己紹介を始めた。

 

「改めて、名乗らせてもらおう。アルフレッド・エルネス・オルトリンデだ。スゥから手紙で君たちのことは聞いている。是非とも、ゆっくりしていってくれ」

 

「ありがとナス!」

 

「いいゾ~これ」

 

「よ……よろしくお願いします」

 

「……か、かたじけなく」

 

 いつも通りの野獣と三浦、そして例えゆっくりしても絶対気が休まらないであろうことを覚悟して、木村と八重はそう答えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、八重殿は武者修行の旅に、そして君たちは放浪の旅をしているのだな」

 

「は、はい……色々ありまして」

 

 庭に面した屋敷の二階テラスにて、公爵と向き合う形に座っている木村がそう答えた。手元には紅茶のカップがソーサーの上に置かれている。後の三人はすぐ近くの別のテーブルにて木村と公爵の話を聞いている。野獣と三浦はその言動でいつ公爵を怒らせるかわかったものではないし、八重に至っては緊張でいまだガチガチなため、公爵の前に座るなど論外だ。

 

「旨スギィ! これなら114杯飲んでも飽きねぇぜ! この紅茶いくつかもらってもいいかなぁ? アイスティーにして飲んでみてぇ!」

 

「茶葉の香りが今まで飲んできた紅茶の中でもトップクラスだゾ~これ。妹にも飲ましてやりてぇな~俺もな~」

 

「…………」

 

「……本当に、お騒がせして申し訳ありません」

 

 現に騒ぎまくっている野獣と三浦、石みたいになっている八重を見やりながら、公爵との会話を買って出た木村が頭を下げた。

 

「いや、構わないさ。寧ろ、彼らのような人間に出会ったことがない私にとって、とても楽しい思いをさせてもらっているよ」

 

「……そう言っていただけるとありがたいです」

 

「ハハハ、君は実に真面目なんだな」

 

「いえ、その、真面目にならざるをえなかったと言いますか……恐縮です」

 

 こんな真面目になったのも全部あの二人が原因なのだが、それは言わないでもいいだろうと木村は判断した。

 

「しかし、君たちが通りがからなかったらスゥは誘拐されていたか……或いは殺されていたかもしれん。本当に、君たちに巡り合わせてくれた神に感謝だな」

 

「あの、襲撃者に心当たりは……」

 

「ない……とも言い切れん。私は公爵だ。その立場上、疎ましく思っている貴族は大勢いるだろう。娘を誘拐して私を脅し、意のままに操ろうと考えている輩だっているかもしれん」

 

 言って、紅茶を飲む公爵。木村は、華やかに見える貴族社会の裏の面を垣間見ているようで、何とも言えない気持ちになった。

 

「お待たせしました、父上」

 

 と、先ほどまで姿を消していたスゥシィが、薄桃色のフリルが付いたドレスを身に纏って現れる。

 

「おぉ、スゥ。エレンとは話せたかい?」

 

「はい……けれど、襲われた件については黙っておきました。心配させてしまうといけないので」

 

 言いつつ、傍に控えていた従者が椅子を引き、そこに座るスゥシィ。その顔は先ほどまでの活発な印象とは違い、どこか悲し気に見える。

 

「そうか……それがいい。これ以上の負担はかけさせたくはないからな」

 

「すいません、エレンって……?」

 

 気になった木村が公爵に尋ねる。公爵もまた、スゥシィと同様に辛そうな面持ちで答えた。

 

「私の妻だ。すまないね、娘の恩人だというのに姿を見せられず……」

 

「いえ、そんなこと……ご病気ですか?」

 

「ああ……と言っても、病気そのものは治っているんだ。けど、その後遺症でね。一命は取り留めたものの、視力を失ってしまったんだ」

 

「ファッ!?」

 

「あ、そっかぁ……」

 

「何と……」

 

 公爵の話を聞いていた野獣たちが、ショックで言葉を失う。木村も同じく、その心中を察する。

 

「その、魔法での治療とかは……?」

 

「試したさ。けれどダメだった。怪我などによる肉体の修復は、治癒魔法ならばできる……だが病気などによる後遺症までは効果が及ばないのだそうだ」

 

 木村の質問に力無く答える公爵。その公爵の手を、スゥシィが重ねた。自身も辛いのだろうが、それでも父親を気遣っているだろう。

 

「お祖父様が生きておられたら、何とかなったかもしれぬのに……」

 

「お祖父様?」

 

「妻の父上で私の義父なのだが、彼は特別な魔法の使い手だったんだ。身体の異常を取り除く魔法で、スゥが旅に出たのも義父の魔法を何とか解明し、習得できないかと考えたからなんだ……」

 

「けど、ダメじゃった。その魔法があれば、母上の目は治るのに……使い手さえ見つかれば……」

 

 悲し気に、そして悔し気に拳を握る。その手をそっと、公爵が握った。

 

「スゥ、それは確率がかなり低いと言っただろう? 同じ無属性魔法を使える者はまずいない……けれど、私が必ず似たような力を持つ者を探して見せるさ。だから安心しなさい」

 

「父上……」

 

「カアイソウニ……カアイソウニ……(マジ泣)」

 

「何とかしてやりたいけどなぁ……俺もなぁ……」

 

「ポッチャ……」

 

「しかし……こればかりは拙者たちにはどうにも……」

 

 公爵とスゥシィの会話を聞いて、先ほどまで騒いでいて野獣たちも静かになる。口ぶりから希望は捨てていないように聞こえても、その顔から見えるのは半ば諦めに近いものを感じる。それを目にした一行は、何とも居た堪れない思いに囚われた。

 

「……ん? 魔法?」

 

 が、そんな中で木村が気付く。そしておもむろに公爵に尋ねた。

 

「あ、あの。その魔法って何という魔法ですか?」

 

「『リカバリー』という無属性魔法だ。この魔法を使えば、身体のいかなる異常を取り除けると伝えられている……先ほど言ったが、この魔法を使えたのは義父だけなんだ」

 

(リカバリー……!)

 

 リカバリー……その魔法名を聞いてすぐさま、木村は魔法書を広げる。そして強く、強くその魔法が欲しいと念じた。

 

 すると、自動的にページが捲れて行く。1ページ、2ページ、3ページ……100ページをも超えた辺りでようやく止まる。やがてその白紙のページが光り出し、光はやがて文字となって形を変えた。

 

「あった! リカバリー!」

 

 木村が魔法名を指さす。そしてその横には説明書きがあり、公爵の説明と概ね違いはない。

 

 これを使えば……木村がそう思っていた時、横から覗き込んでいた三浦が声をかける。

 

「あ、おい待てぇい(江戸っ子)、これスゲー後ろのページだゾ」

 

「おいおい、大丈夫なのかよ。お前今まで使って来た魔法って前半ページだけだったろ? 後半ページって大概強い魔法とかが載ってるイメージあんだけど(ゲーム脳)」

 

 野獣も不安気に言う。野獣の言う通り、木村が今まで使って来た魔法は数ページ分の物だけだ。だが今回、初めて本の後半部分のページに魔法が現れた。これが意味するものは何なのか、木村も察している。

 

「……それでも、やれるだけやってみないと」

 

 しかし、だからと言ってやめるわけにはいかなかった。木村は、突然話し合いを始めた一行に驚いている公爵に向けて口を開く。

 

「あの、公爵様……一度奥様にお目通り願えますか?」

 

「それは、どういう……もしや!?」

 

 その意味を察し、公爵が信じられないという面持ちで木村を見つめ、木村はゆっくりと頷いて見せた。

 

 

 

 

 

 

「あら、お客様ですか?」

 

 案内された場所に置かれてある天蓋付きのベッドの上に、一人の儚げな女性が腰掛けていた。髪が薄茶色なところ以外、スゥシィとよく似ている顔立ちだ。年は20代に見られる。

 

 そんな彼女が、一行が入って来た扉へと顔を向ける。だがその目は光が灯っておらず、焦点が合っていないのがわかる。見たくとも見えない、そんな状態なのだろう。

 

「えっと、初めまして。僕はナオキです。木村ナオキと申します」

 

 そんな彼女であっても、頭を下げるのを忘れない木村。木村の声を聞き、女性ことスゥシィの母親、エレンもまた頭を下げた。

 

「ええ、初めまして……あなた、この方は?」

 

 姿の見えない夫に聞くと、公爵は彼女の手をそっと握った。

 

「木村殿は旅の者だ。スゥがとても世話になった方々の一人で……お前の目を、診てくださるそうだ」

 

「目を……?」

 

 どういうことかとエレンが聞こうとしたが、さらにスゥシィも手を乗せる。

 

「母上、どうかお気を楽に……」

 

「おい木村ぁ、大丈夫なのかゾ?」

 

「あんま無茶すんじゃねぇぞ?」

 

「木村殿……」

 

「ポッチャ」

 

 三浦と野獣、八重とポッチャマも、不安な面持ちを消せないでいる。そんな彼らに安心するようにという意味合いを込めて小さく笑った木村は、魔法書を開く。そして目当ての魔法名が載っているページを広げつつ、片手をエレンの見えない目に当てる。

 

「じゃあ、癒しますね……リカバリー」

 

 そして静かに、厳かに魔法を唱える。するとその手に魔法陣が広がって白く輝き出す。それは森でレイムを治療した時のような優しい光だった。

 

 数秒という短い時間。魔法陣と光が消え、木村が後ろへ下がる。誰もが沈黙し、場に緊張が走る。スゥシィは祈るように母親を見つめていた。

 

 やがて、エレンは閉じていた目を開く。数回瞬きをしていると、光の無かった目が徐々に輝きを取り戻す。濁った青といった印象をしていた瞳は、美しいブルーサファイアへと変わっていくようで……やがて、彼女はその瞳を木村から横に立っている公爵とスゥシィへと向けられた。

 

「は、母上……?」

 

 スゥシィの声が震える。公爵も目を見開き、妻を見つめる。

 

 やがて、エレンの光を取り戻した目は潤っていく。そして、

 

「見える……目が見えます……!」

 

 滲む視界の中に映る最愛の家族の姿を見て、潤いはやがて雫となり、頬を伝って落ちていった。

 

「見えますわ! あなた! スゥシィ!」

 

「エレンッ……!!」

 

「母上ぇ!!」

 

 妻の、母の目が見えている。この時をどれだけ待ちわびたことかと、公爵とスゥシィはその思いで一杯になり、エレンを強く抱きしめた。

 

「いい話だゾ~これ……」

 

「ポッチャァァァ」

 

「オォン! アォン!(感動)」

 

「よかったでござるなぁ……!」

 

 抱き合う家族を前にして、野獣たちも泣き出す。そしてボーっと立っている木村の肩を三浦が叩いた。

 

「おい木村ぁ! やっぱりお前はすごいゾ!」

 

「……」

 

 が、木村から返事がない。

 

「ん? 木村?」

 

 何だか様子がおかしいことに気付いた三浦が、木村を振り向かせようとした。

 

「……うっ」

 

 その瞬間、木村の身体が崩れ落ちるようにして、その場に倒れ込んだ。

 

「っ!? 木村ぁ! どうしたゾ!?」

 

「おい木村!?」

 

「木村殿!? しっかりするでござる!」

 

「ポチャァ!?」

 

 突然の出来事を前に混乱する一行。三浦が木村を抱き起し、野獣と八重とポッチャマが声をかけた。

 

「な……どうしたんだ!?」

 

「木村!?」

 

「……!」

 

 喜び合っていた公爵たちもまた、尋常じゃない事態を前にして困惑する。当の木村は、朦朧とする意識の中で返事をすることもできずに額から大量の汗を流し、荒い息をしている。僅かに開かれた目は虚ろで、顔色も真っ青だった。

 

「ハァ……ハァ……」

 

「すげぇ熱だゾ! 木村しっかりしろぉ!」

 

「いかん! 急いで空いた部屋へ!」

 

「起きるのじゃ木村! 木村ぁ!」

 

「木村ぁ!」

 

「木村殿ぉ!」

 

「ポッチャァ!!」

 

 慌てふためきながら名を呼び続ける彼らを前にし、木村は大丈夫の一言も告げることができぬまま……ゆっくりと、瞼を閉じていった。

 




強力な魔法をただで使おうって? そんなんじゃ甘いよ(非情)

ってか八重ちゃんチョロい……チョロくない? けど原作も結構チョロかった気がするしチョロくなかった気がする。

今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?

  • スマホ太郎(アニメ主人公)
  • 望月冬夜(原作主人公)
  • 野獣先輩
  • 三浦
  • 木村
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